ローマからナポリへ

 私は朝食をとり、荷物をまとめ、フロントに行った。すると彼は鍵を受け取りながら話しかけてきた。「今日はどこへ行くの?」「ローマ市内…」「ホテルは決まっているの?」「いいえ、安いホテルを探す…」「じゃあ、ここに泊まりなさい、ここは安いホテルだ」と言って、10万リラ(HISで予約した時の6割強くらいの価格)と、紙切れにまるっこい文字を書いてみせた。3つ星のホテルではまあまあ安いと言える数字だった。「じゃあ、もう1泊」。荷物を持って歩き回るのが面倒だったこともあって、その場で快諾することにした。結局は次の日も1泊追加して、私は真夏のローマを歩き回った。
 ローマは起伏が激しい地形で、さらに空気も乾燥しているので、すぐに喉が渇いた。その頃、東京でもミネラルウォーターを革製のホルダーに入れて肩から提げるのが流行っていたが、ファッションばかりでなく、必然性からきているものだったことを、その時初めて知った。ガッサータ(炭酸ガス入りミネラルウォーター)が旨い。そして、2000年の時を越えてなおその姿を留める「コロッセオ」「フォロ・ロマーノ」、また、世界のカトリック教会の頂点に立つ「ヴァティカーノ」は、やはり圧倒される。しかし、一方で「ここには歴史しかない」とイタリア人は陰口をたたく。確かに、ヴェネツィア広場に面したトラットリアに入れば、カップ麺のようなボソボソの四角いパスタが出てくるし(もちろん、高級店はきっと違うのだろう…)、コロッセオの前では、中世の鎧を身につけたお兄さんが一緒に写真を撮りたがる。3日目には、そんな匂いが少しだけ鼻につきだして、私は少しローマを離れてみることにした。
 「そうだ、本場ナポリのピッツァを食べよう!」午後1時半、ナポリ経由でシチリアの方まで行く列車は出発した。今度は乗客もたくさんいてにぎやかだった。しかし、乗ったのが各駅停車だったのか、ナポリに着いたのは、なんと夕方の5時。なのに夕食時にはまだ早いのか、どこのピッツェリアも閉まっている。「ここまで来てぇ?」という思いが募る。それでも根気よく開いているお店を探して歩き回っていると、今度はいつの間にやら、身長が2mくらいはあろうかといったインド人風の男性にずっと後をつきまとわれた。撒いてやろうと思って、ちらちら後ろを見たり、複雑に路地を曲がって歩いても一向にやめてくれない。ピッツァには未練たらたらだったが、仕方がなく私は駅に戻ることにした。滞在時間1時間半、何だったんだろう?
 しかし、腹が減った。早くローマに戻って夕食にありつこう。帰りの列車から見えた海にはきれいな虹が架かっていた。


Rainbow


『Virtual Rome』 (ヴァーチャル・ローマ)
イタリアでは、残念ながら完成度の低いウェブサイトが多い中、ローマに関する情報が満載。


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