猫嫌いのにゃあにゃあ

 それでは『にゃあにゃあ』の話の続きを…。
 その後も、いつも『にゃあにゃあ』は他の野良猫に追いかけられていた。そして、猫不信とでも言おうか、『にゃあにゃあ』は、すっかり猫嫌いになってしまったようだった。
 ある日の帰り道に、私は、ガレージの屋根でアゴを上にして爆睡中のハンサム猫、アメリカンショートヘアの『うり』(♂)に声をかけた。「にゃあ」。彼はそこの家の飼い猫で、たまに外に出してもらっては、ガレージの屋根で昼寝をするのが習慣になっていた。とても気さくな性格で、たとえよだれを垂らすほど熟睡中であっても、私がひと声かけると、すぐにムクッと起きあがっては、アクビとノビをひとつずつして、塀を駆け下りてきてくれる。そして『うり』は、猫流の挨拶で、その頭と、たくましい身体をぶつけてくるのだ。『にゃあにゃあ』よりも、ずっと強い当たりで、アメリカ猫の力強さを感じる。『うり』は、しばらくそうして私の周りをぐるぐる回った後、することがもうひとつあった。それは、近くの電柱の根元や階段の下、つまり非常に犬のオシッコくさい砂だまりで、決まってゴロンゴロンと砂浴びをするのだ。基本的にきれいな毛並みの猫なのだが、これをした後は砂埃でまっ白になる。猫の砂浴びは、よく蚤退治のためなどと言われるが、本当なのだろうか?「おーい、勘弁してくれよ」。そこを立ち去ろうとする私の後を『うり』はついてきた。
 私が家から200m以内くらいの距離に近づくと、いつも『にゃあにゃあ』は、私の気配を感じて走り寄ってきた。私が歩きの時はその足音を聞き分けて、車の時はエンジン音を聞き分けて、ある時は近所の家の縁側から、ある時は60段ある階段先の家の庭から。近所の人が、まだ姿の見えない私に向かって走っていく『にゃあにゃあ』を何度も目撃している。これは、不思議だけど嬉しいことだった。あるときは、車庫入れをしている車へ寄ってきてしまった。「こらーっ、ダメだって!」。そんなとき私は車から降りて『にゃあにゃあ』を抱え上げると、叱りながら抱きしめた。そんな『にゃあにゃあ』が大好きでしょうがなかった。
 そして、その日も『にゃあにゃあ』は走り寄ってきた。が、ちょっと手前で止まった。「にゃあにゃあ、おともだちだよ」。初めて『にゃあにゃあ』は『うり』と対面した。一瞬、お互いがピタッとフリーズしたが、すぐに『うり』がゆっくりと前に出た。「やあ、よろしく」といった、いつも通りの気さくな雰囲気だった。ところが『にゃあにゃあ』は打ち解けられない。「ハァー!」弱々しい細い声で威嚇してみせた。それでも『うり』は、しばらくの間、なんとか友だちになろうと試みていたが、結局『にゃあにゃあ』が譲らず、『うり』は「じょうがない…」といった感じで帰っていった。『にゃあにゃあ』の猫嫌いもそうとうなものだった。いつものように私は『にゃあにゃあ』を抱え上げて、「こまったやつだな」と言いながら抱きしめた。


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