天使の絵本

天使の絵本

『おなかいっぱいの愛を』



そんな叫び声を聞いて姫付きの教育係であるグリードは、
『またリージュの病気が始まった』とひとりごちて頭を抱えた。






天使の絵本ShortStory’s
『おなかいっぱいの愛を』




フット・ベルの街を北にまっすぐ走るのがカラル・モロの大通りである。
リート王国の初代王の名がついたこの通りは「勇猛な」という意味を併せ持ち、フット・ベルを南北に分断するディレ・マーレの大通りと垂直に交わるのである。
因みに西はリート王国最大の剣士・魔法使いを育成するシュトレィア学園から、東は大聖堂にまで続くこのディレ・マーレの大通りは「最も美しい」という意味を併せ持つ初代王妃の名がつけられているのである。
そんな大通りの交わる街の中心、初恋広場を北に抜けると見えてくるのがここ、シュレネニア城である。
観光地としてもそれなりに有名なリート王国でも最大の観光名所のひとつであり、白い外壁に赤いとんがり屋根というシンプルな外観とは裏腹になかなかに凝ったつくりであるこの城は観光に訪れたいという観光客の声も意外に多い。
そんな由緒と伝統あるシュレネニア城の一室では、
壮絶な戦いが繰り広げられていた。

「バカバカバカバカ!グリードのバーカ!!」

「私はあなたのために言ってるんですよ!
 この暴飲暴食肥満街道まっしぐら娘!!」

「太ってないもん!!」

「嘘ですね!!」

「嘘じゃないもん!!」

「じゃあ聞かせていただきますが…」

「何よ!」

「お気に入りのピンクのドレスはどうしたんですか?」

「う。。。」

右腕を前に体を仰け反らせながら大仰なしぐさで驚きをアピールする。
いや、単に感情がすぐに態度に出てしまうのである。
そんなリート王国の名物双子の姫の『おてんばリージュ』を見て教育係のグリードは思いっきり勝ち誇った顔をした。
8歳のころから生まれたての双子の教育係として一緒に育ってきたグリードならではの暴言であり、それゆえのこの表情なのであった。
リージュがグリードをにらんで唸る。
うまく言い訳をしようとして失敗したのである。
「たしかに着れない。
ああ着れませんとも。
でも(たぶん)成長したんであって太ったわけじゃないもん!!」

さす日差しものどかな昼の庭園に二人の声が響き渡る。
そんな庭園の端では双子の片割れのティリエル姫があきれた顔でこっちを眺めていた。
城の人間にとって日常の一部であるこの二人の口論はもはやBGMの一種であり、見物客を気にすることももはや無い。
そんな姉にも付き合いの良いティリエルなのであった。

「どこがですか?」

本気の顔で言うグリード。
毎日毎日どこ見てんのかしらこいつ。とリージュも理不尽に憤慨する。
12年間もずっと一緒に居れば多少の成長なんて普通気にならないものである。

そんなグリードがリージュに止めを刺した。

「その胸でですか?」





しまった。
と思った。
私は勢いなんかでなんて事を言ってしまったんだ。
平手か!?
木刀か!?
ファイアーボールか!?
いったい何が飛んでくるのかと目を閉じて構える。
まさかクビなんて事は無いとは思うが。
そこまで考えて何も飛んでこない事に気付く。
不思議に思ってそーっと目を開いてみると。
泣き顔のリージュが目に飛び込んできた。
なんだ?
何が起こったんだ?
あまりの予想外の事態に対応できない。

そんなリージュも
言い返したくて、
でも言い返せない。
そのうちにいろんな感情が溢れてきて
いつの何か涙が出て、止まらなくなっていた。

「悔しいっ…」

ただ一言そう言って駆け出す。
空気が凍ってしまった気がした。
事態がいまだに理解できなくて固まる。
そうやって呆然と立ち尽くしていると、背後から衣擦れの音が聞こえた。
ティリエルであった。

「今のはグリードが悪い。」

「…はい。」
落ち込んだような横顔を見つめて少し笑顔になる。
年上の男性が、というかティリエルにとって兄的な存在のグリードのこんな姿を見るのは初めてだった。
素直に可愛いと思って、もう少し意地悪するつもりだったのをやめにした。

「はい。グランフルーツのタルトです。
 この時期に手に入れるのはちょっと大変だったんですよ。」

「ずいぶんと用意のよろしいことで。」

自然、笑顔になる。

「いつものことですから。」

ティリエルは小さな声で笑って甘い匂いの包みを手渡した。












「おいしーーーー」

ほっぺた一杯にタルトを含ませてリージュが言った。
なんかもう、ここまで立ち直りが早いとあっさり折れた自分が馬鹿みたいに思えてくる。
でもまぁ、実に幸せそうな顔をして食べているリージュを見てると
「まぁいいか」
と思えてくる。
幸せなのは良いことだ。
「あとで、洋菓子店のレーノとティリエル姫にお礼を言っておいてくださいね。」

「うん、ありがとー。」

「だから僕にじゃありませんって。」
そんないつもどうりの何気ない会話を交わしながら、
本当においしそうに食べるんだなぁ…とのんきなことを考えていた。

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