天使の絵本

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『異次元宅急便』


ある暑い夏の日の事だった。
自分の目を疑って目をこする。
だけど、確かにその箱にはこう書かれていたのだ。






『異次元宅急便』






「はじめまして。
私、田中孝太っていいます。
仲良くしてくださいね。」

そう言って怪しげな荷物の中から現れたのは、謎の美少女だった。
まず情報を整理させていただきたい。
最初に荷物が届いたのが5分ほど前、4方1m弱の箱の中からまるでエ○パー伊藤の様に現れたこの美少女は、満面の笑みを崩さずになぜか俺の名を名乗った。

 ぁぁそうだ。わけがわからない。
玄関の荷物の前で硬直して馬鹿みたいに口を大きく開けていると、その少女はさも予想通りであるかの様に話を続ける。
「そうですよね。
急にそんな事言われても信じがたいですよね。
でも私、本当なんです。
パラレルワールドから来たあなたなんですよ。」
そう言って俺の手を握ってくる美少女の俺は、本物の俺よりも明らかに積極的だった。
煌めく瞳、小さな体、さくらんぼ色の唇に豊満な胸。
更に知的要素を+しているのは銀縁の眼鏡だ。

 確かに、俺の好みのタイプではあるのだが、
それが俺だというには少し、・・・いや、かなり説得力に欠けるものがある。
「押し売りはお断りしてますんで。」
「押し売りじゃありませんw」
「じゃぁ・・・」
「セールスでも勧誘でも電波さんでも宇宙人でもありませんw」

 流れるように俺の言おうとした事を全て言い当てる少女。
本当は超能力者なのかもしれない。
「もういいです…。
それよりですね、今日は学校のレポートを書くために『私』に協力して欲しい事があるんですよ。」
 そう言って俺の手を握る俺、ややこしいな。
正直少女の話を丸呑みするのは難しいものがあるが、美少女と仲良くなっておくのもやぶさかではない。たとえそれが電波な痛い人であっても、だ。
「なんだ?」
少女に向かってそう言ってやると、まるで子猫のように愛らしい笑みを浮かべる。
「本当!?
あのね。『男性的女性心理とその実践』っていうレポートなんだけどね。」
そう言って少女が箱の中から何かを取り出す。
俺はなんとなく嫌な予感がして後ずさる。

「コレ、着て欲しいの!」

 そう言って女物の服を幾つか取り出した少女は、小悪魔のような微笑を浮かべていた。




少女が部屋から去った後、そこに残されたのは一箱のダンボールと何か大切なものを失った自分だけだった。少女は帰り際に、
「ありがとう孝太。このお礼は必ずするからね!」
といって去っていったが、正直あんな事になるなら2度と会えなくていい。
そう心から願いながら、俺の秘密の写真と共にもそもそとダンボールに帰って行く少女を見送って、俺はゆっくりと安堵のため息をついた。
少女の去った後のダンボールは本当に只のダンボールになっていたし、居間の時計も全く進んでいなかった。

 そうだ、あれは夢だったのだ。
そう自分に言い聞かせて冷蔵庫を開ける。
あまりの暑さに電波でも受信していたのだろう。
「ハハハ、そうさ、気のせいさ。」
軽く空笑をしながらウーロン茶を飲んで頭を冷やす。


その次の瞬間、居間の時計が嫌な音をたてて停止した。
玄関から、聞き慣れたチャイムの音が聞こえる。
血の気が潮の様に引いていくのがわかる。心の底から、今まで祈ったこともない神に祈りつつ、受け取りにサインをする。
ダンボールの表面には、まごう事なき『異次元宅急便』の6文字。
不吉だ。
それはもうこの上もなく不吉だ。
妙に生々しい重さのダンボールを床に置きつつ深呼吸をして心の準備をする。

 ゆっくり、と、怖いもの見たさでダンボールの端を開くと、中からはかすかに剛毛な腕が見え隠れしていた。

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