天使の絵本

天使の絵本

Crip Crap=☆


愛とは何かと問われたから、
私はすかさず月とウサギだと答えた。




Crip Crap=☆




秋の夜 たぶん晴れ。
文化祭を間近に控えた今日。
月夜も真ん丸な十五夜の夜に、
なんだか眠れなくてふとんから飛び出した。
ねまきを脱いでワンピースに袖を通す。
小さなポシェットにはパンとミルク。
ポケットの中にはおうちのカギと真っ赤なハンカチ。
最後にとっておきの白い靴をはいて玄関に手をかけた。


老紳士が、問いかける。
愛とは何かと問いかける。
姿の見えない静かな声で、私にそっと問いかける。

そんなのわからないわ。
まずは恋からはじめましょ?

真っ白私はそう言って、ワンピースの裾をひるがえす。

トクトクとはやる胸が、待ちきれなくって扉を開けた。
だって、今日は満月の夜。
草木も踊る満月の夜。
猫もネズミも杓子も豚も、
月夜の野原でワルツを踊る。
心なしかウサギさんも嬉しそうに笑う。



はずだったのに。
今日の夜空はなんだか真っ暗。

「行方不明のお月さまが、夜の空から姿を消した!」

ちょっとだけ、
ほんのちょっとだけ大騒ぎな街並みは、
電気も消えて、寝静まって、心なしか真っ黒に見える。
あわてて降りてきた流れ星さん達に、
どうしてって問いかけると。


「大変です!
どういうわけか、お月様が足を滑らせて落っこちてしまったんです!!」

そう言って、慌てて町中を駆け回る。
私はチラッと流し目で、ウサギさんを見て笑顔になる。
あら、それは大変ね。
怪我でもしていたら大変だわ。
真っ白な私はそう言って、真っ黒な街に飛び出した。
胸元には、心配そうな顔のウサギさん。

『大丈夫かな。』

そんな事を言っているみたい。
ちょこんと可愛いウサギを抱いて、
私は少し遠足気分。
誰もいない商店街。
人気の無い、空き地の土管。
とんぼ公園のベンチの下に、『夕焼けペンギン』の飴玉のビンの中。
誰が住んでいるのかわからない、町のはずれの不思議な洋館。
いろいろ探してみたけれど、やっぱりお月様は見つからない。
どこにいるんだろうね。
なんて話をしながら、月見の丘でランチを食べる。
ほんとはお月様の明かりで明るいはずのこの丘も、今日ばっかりは毛色が違う。
真っ黒な町並みには沢山のお星様が舞い降りて、

「まるで宇宙を上から見てるみたい」

なんていったら。
足元にいた豚ちょきが

「ぁぁ、くせぇ。」

なんて呟いた。
遠足気分の私がくすっと笑う。
グビッとミルクを飲み干すと、ウサギさんが突然走りだした。

「ちょっと待って」

と私が続く。
月見の丘を駆け下りて、大きな小川を飛び越えて、ピカピカ光る草むらの、光の中に飛び込んだ。




老紳士が、問いかける。
愛とは何かと問いかける。
姿の見えない静かな声で、私にそっと問いかける。

夜の街とは対照的に、上から下まで真っ白な私は、
空へと帰ってゆく月と、月を空へ返してあげるウサギさんの顔を見つめながら。
ぁぁ、そうか。なんて妙に納得して。

「月とウサギ」

だと答えた。

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