天使の絵本

天使の絵本

桃色爆弾


私は信じてます。
小指と小指をこっそりつなぐ、
神様が結んだ運命のリング。
もしかしたら、神様のいたずら?
ねぇ神様。もし私の声が聞こえていたら、どうかかなえて下さいな。
私とあの人の運命の糸を、どうか見せてくださいな。




『桃色爆弾』




目を覚ますと足元に導火線が転がっていた。
導火線?
不思議に思って手にとって見る。
右から見て、左から見て、ぐるっと360度回して見ても、
それは火をつけるあの導火線だった。

神様。何かが違います。
糸は糸でもこれでは太すぎます。
心の中で神様に抗議しても、神様は一向に姿を見せてはくださらない。

しかたないわ。
これも何かの縁だもの。
きっと誰かと結ばれ損なって、置き去りにされた糸なのね。
私はそう解釈することにして、とりあえず足元の導火線を巻き取っていく。

『糸ってより縄だけどな』

とぶたちょき。
その背後では、老紳士の静かな気配。
私はその横を通り過ぎて、部屋の外へ出る。
そのまま階段を下りて玄関先へ、
導火線がその先へ続いているのを確認して、
私は急いで着替えに戻った。

「さて行きましょう。」

遠足気分で。
足元には速足な亀さん。
白いワンピースの私が、導火線を巻き取りつつ進む。
右、左、右、左、
ゆっくりと進む。
何も目的はないけれど、こういう休日もいいものね。
特別大きな赤い糸を、丸ごと落としたうっかりさんに、しっかり届けてあげなくちゃ。
家の前の川のそば、3軒隣りの赤い屋根、しぃちゃんのおうちを左折して、
導火線はまっすぐに進む。
タバコ屋の電話のそばを迂回して、お使い途中の秋ちゃんが私を見て笑う。
やっぱり、他の人には見えないみたい。
私は導火線の話もそこそこに、きれいに巻き取りながら歩き出す。
頭の後ろを飛ぶぶたちょきは、なんだかちょっといやそうな顔。

「なぁやめようぜ?
 家に帰って貯金でもしてた方が有意義だぜ?」

そういって私を止めるけれど、私にその気はなかった。
だって、この糸のつながる先が気になっていたのだ。
ブレもなく、まっすぐに続くこの糸のもう一人の持ち主を。
なんだか、私は知っている気がしたのだ。
何を?
わからない。
だけど知っている気がしたのだ。
ふと、何かが頭の中をよぎったとたん。
手が暖かなものに触れて私は飛び上がった。

「うわぁやっぱり!!」

それを見たぶたちょきがどこかに消えてしまった。
導火線に、火がついていたのだ。

私はなんだかうれしくなって、亀より遅いその導火線を、なんとなく追いかけてみる事にした。
不思議と、怖いとは思わなかった。
右へ左へ角度を変えて、ふらふらと今までのまっすぐさがウソの様に右往左往する。
なんだかどこかの誰かみたい。
行っては戻って、戻っては進む。
歩けば歩くほど沸いてくる。
この気持ちは何でしょう。
心の底からわきあがる様な、
ふわりとしたこの気持ちは何でしょう。
導火線は、同じところをぐるぐると回り続ける。
それでも、不思議と楽しかった。
お風呂の湯気の蒸気の様な、
そんな淡い高揚感。
でも、確かな高揚感。
右に左に、上って降りて、
散々迷って暗くなった家の前で、私はひとつ。


小さな一番星を見つけた気がした。







ぁぁ、
神様。
赤い糸の伝説って信じてますか?
私と彼をこっそりつなぐ、ちょっとふとめの導火線。
私の炎で真っ赤に染まる、ちょっと不思議な導火線。
人よりちょっと太いけど、
これでも立派な運命のリング。
それとも神様のいたずら?

ともあれ、
私の中から飛び出した、
その小さな小さな灯火のような炎は、
右往左往と寄り道をした挙句、
彼の心まで伝っていって、
それはそれは盛大な爆発を巻き起こしたのでした。






周りに居た、いろんな人を巻き込んで。


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