(保管庫) 草食伝・・日本狼の復活かも・・違うかも・・・

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《第1話》 【社長の息子戦】

《第1話》 【社長の息子戦】


 長かった小学校6年間が終わり、中学生のスタート。
いろんな小学校から生徒が集まり、新鮮で、鼻水がでそうなくらい うきうきしていた。


 生徒の中に、山本重機という地元では かなり はぶりがいい土建会社の息子がいた。
そいつだけは気にいらなかった。
中1のころは俺も青や黄色のシャツを学生服の中に着て行ったのだが、そいつも青いシャツを着ていた。
しかも俺より背が高くてデカイ。そこが気に入らない。
金持ちの息子だから、エンピツまで高級品を使っている。俺は一番安いグリーンのエンピツなのに。それが気に入らない。
しかも、親分面したくて、ちょっと弱そうな奴を、取り巻き子分にして威張っている。
俺にまで、子分になれなどと言うので、しょっちゅうけんかをしていた。  


部活の練習がない日曜日は、そいつの家までけんか遠征をしたりした。
同じ小学校の友達と、山本のいえまで10Kmの道のりを乗り越えて押しかけていった。
そいつの家につくと、おかあさんが出てきた。「ヤスヒロに話があるから、出て来いと言ってください」と伝えた。
おかあさんはけげんそうな顔をしながら「話があるから出て来いって言えばいいのね」と奥へ引っ込んだ。
だが、ヤスヒロは出てこない。
かわりに おかあさんがニコニコしながら出てきて、「ヤスヒロは頭が痛いから寝てるみたい。またあとで来てくれる」ときた。
こっちは、母親にそう言われては、引っ込むしかない。
10Kmも自転車をこいできたのが無駄になったか。


 せっかく遠くまで来たので、近くの別の同級生のところへ行った。
しばらく話などして遊んでいると、山本重機の方向から、ヤスヒロが鬼のような顔をして走ってくる。
とうとう出てきたなと迎えうって、取っ組み合いのけんかになった。
ヤスヒロは「話があるから出て来いって言ったんだってな」などと今ごろになって言っている。
おかあさんが気をきかして伝えなかったのか。
このマザコン野郎め。
相手は体がでかいから、長期戦になると不利なのだが、幸い同級生がなかに入って止めてくれた。
その日は、遠くの友達の家に遊びに行きましたという感じで終わった。


 だんだん部活の練習などが忙しくなってきて、ヤスヒロのこともあまり意識しなくなってきた。
 そんな冬休みのある日、ヤスヒロが転校するから、学校へ集まるようにと連絡があった。
山本重機が倒産したのだ。
ヤスヒロはおかあさんの実家へ引っ越すことになった。
驚いた。
複雑な心境だった。
いるときは いやなやつだなと思ってても、いざいなくなると さびしい気がする。


 クラス全員が集まって、サヨナラ会が行われた。
俺は立場上微妙なのでずっと黙っていた。
すると、取り巻き子分連中がブーブー文句を言っている。
「さっさと転校しちゃえばいいのに」
「冬休みなのに呼び出されて、やんなっちゃうよ」


 大人の世界でも、会社が倒産したら、まわりのおとなは手のひらを返したように、態度をかえるということがあるのだろうが、子供の世界でもそれが起こっていた。
 ヤスヒロは下を向いて黙っている。
俺は中立を守り、腕を組んで黙っていた。
まさか、そんな きたない小さいやつらに同調するわけにはいかない。
かといって、俺はヤスヒロとは対立関係だ。


 すると、ヤスヒロは急に泣き顔になって「みんな、今日が最後なんだから、なかよくしてくれよ」と言っている。


子分連中は「いやだよ」と拒絶の構え。
子分になったのは、自分が弱いからなのに、立場が逆になったら、それを喜んでいるかのようだ。


 ヤスヒロがとつぜん俺のそでをつまんで、話し掛けてきた。
「ユウジいいセーター着てるな」 俺はそのとき、姉に編んでもらった派手な柄のカーディガンを学生服の中に着ていた。
「これセーターじゃないよ。カーディガンだよ」とそっけなく答えた。
ヤスヒロは泣き出して「ううん、いいセーターだよ・・・いいセーターだよ・・・ユウジ助けてくれよ」と言っている。


 ナニ?俺に助けてくれって?俺にか?泣きながらそう言われちゃ俺も黙っているわけにはいかない。
立ち上がってその子分連中にどなった。
「いいか、おまえら、今日が最後なんだから、今日だけは笑って送ってやれよ」
すると、子分連中のブーイング。
「なんだよ、自分だってけんかしてたじゃないか」
「うるさい、文句があるやつは、今度は俺が相手だ」
子分連中は、やや おとなしくなった。
ヤスヒロは「ユウジごめんな、ごめんな」と言っている。
「おまえも泣くな。笑って転校しろ」


 外にでて記念写真をとることになった。
5・6人ずつヤスヒロを囲んで写ることになった。
俺と二人でヤスヒロの家にけんかをしに行ったやつにも、「ちゃんと笑って写真に写れよ」と頭をひっぱたいた。
ヤスヒロがまた泣きじゃくって、「ユウジごめんな、ユウジごめんな」と両手で俺の手をにぎっている。
「おまえも泣いてないで笑えよ。最後の思い出なんだから」と頭をひっぱたいた。
ひっぱたかれたヤスヒロは、涙を流しながらも笑顔になった。


 そして、みんな笑顔で写真に写った。
俺は写真に写った自分の顔は好きではないのだが、この写真はいままでで一番いい顔をしている。


 “けんかをするほど仲がいい”とか“やさしくなるためには強くならなければならない”とか、年寄りの言うことをよく聞くのもいいけど、一番いいのは、なにごとも自分で経験してみることだと思うのだが・・・。




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