(保管庫) 草食伝・・日本狼の復活かも・・違うかも・・・

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《第8話》 【ベン戦】



 講師は、20代半ばのベン。

いきなりだった。
「アメリカ人だって、任侠や判官びいきはわかるよ」

ずいぶん、強い口調で言うじゃない。
まっ、それはともかく、マイケルがアメリカ人みんなに話したな。

「うそをつくな。任侠と判官びいきは、日本だけのものだ。アメリカ人に理解できるはず がない」
「うそじゃない。アメリカ人にもわかるんだ」
「日本で、あんまり強いうそをつくなよ・・・。単純バカのアメリカ人に、任侠や判官び いきが、わかるはずがない」

単純バカのことを、英語でシンプルフールと言ってみた。
ベンは、半べそかいている。
口を、ひんまげながら、必死で話しはじめた。

「たしかに、アメリカ人は単純バカだけど、任侠と判官びいきは、わかるんだ!」

いまにも、泣き出しそうである。
シンプルフールが通じたのは、どうでもいいことなんだけど、任侠と判官びいきは、もともと、アメリカ人が持っていた感覚なのか。
それとも、俺から聞いて、はじめて覚えたことか。
民主主義の国の大人が、人から話しを聞いて、“はい、今後はそういたします”となるか。
もし、あるとするなら、それは、人の話に強い同感を覚えた場合だけのはずだ。
まっ、どちらにしても、いいことか悪いことかといえば、いいことだ。

「わかればいいよ。実は、俺も、単純バカなんだ」

ベンの目は、泣きはらしたように、赤くなっていた。
こどもがキョトンとするような表情で聞いてきた。
「おまえも、単純バカなのか?」
「うん」 
日本語で答えた。

以前、友達と酒を飲んでいるとき、「おまえは、純粋だな」と言われたことがある。
いやみかと思って、聞き返したが、そのままの意味だそうだ。
ベンにも“単純バカ”ではなくて“ピュア”という言葉をつかえばよかったと思った。

ベンは、ぐったりしたように、下を向いている。
俺は、静かに、ベンの頭をなでた。
ベンはされるがままになっていた。

子供の頃、飼っていた猫が、子供を5匹産んだ。
「おまえが、全部産んだのか?えらいな」と言って、猫の頭をなでてやったことがある。
猫は、「うーん、気持ちいい」とでもいうように、頭をだしていた。
ベンは、そんなふうに見えた。
俺も、気持ち良かった。

異文化コミュニケーションなんて、くそくらえだ。
言葉なんて、口から出るクソみたいなものじゃないか。
しばらくの間、ベンの頭をなでていた。
これが、本物の英会話だ!と思った。 



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