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ええっと、私の誕生日は3月25日で、ぽっぽさんが誕生日SSを書いてくださったんですが、いやこれ。楽しいのは私だけじゃね?┐(゚⊇゚)┌っていうか、絶対私だけです。オンリー私です。←日本語が変私だけが嬉しいSSをアップしてもいいのかと思わないでもないんですが、でもここ、私のブログだし、まあ、いっか!☆^(o≧▽゚)o ←ぇーというわけで、内容的には銀妙風(あくまで「風」)に私の誕生日をお祝いしてくれる銀さん達なストーリーになってますので、銀魂以外のキャラの名前が出てくるのが苦手な人はご覧にならないのが吉です。なんかこう、SSに自分の名前が出てくると、あれですよね。むきゃー!o(>ロ<o) (o>ロロ<o) (o>ロロ<o) (o>ロロ<o) (o>ロ
2012年03月31日
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※銀魂二次創作SS【お祝い】<一>の続きです。「何で急にシリアスになってんですか」「…銀ちゃんは本当に、それでいいアルか…?」新八の言葉に誰一人耳を貸すことはなく、まるでソファに座る僕と、僕の足元でやはり花粉の所為で些か苦しそうに眠る定春を残して結界が張られてしまったようだと新八は思った。「馬鹿の結界」、「思い込みの結界」、「思いつきの結界」。何と呼ぶのがふさわしいだろうか。そんな事を考えてふと下を見ると定春の少々暖か過ぎるその皮膚の毛先に幾つもの黄色い小粒を視認しそれが花粉の塊だと分かった新八が手近にあった濡れ布巾でそれを拭きとってやっているところ、「やめてぇ!!!」と、突然実の姉の声が耳をつんざくように響き、新八は数センチ程ソファから飛び上がった。妙は銀時と神楽からほんの少し離れた所に立っておりその両手で己の顔面を覆いつくしその場に崩れるように膝をついた。「もう、いいの…神楽ちゃん、ありがとう。でも…もう、いいの…」「姉御!っだけど……!」「何コレ。何で姉上まで乗っかってんですか」当然のように新八の声が届くことは無く、誰とも視線を合わせようとせず俯いたままの銀時と妙の間で拳を固く握り締め、歯を食いしばる神楽がいた。「今までずっと…隠してきた。だって…恐かったんだもの…」「おい聞けよ人の話」どうやら皆あちら側に行ってしまったようだと思いつつも元来の性分故にか黙って見ていることが出来なかった新八を空気の読めない男として責めるのは余りにも酷である。「姉御…そうじゃない!姉御は…だって、姉御は…!!」「私もおんなじ。銀さんと同じ。ううん、銀さん以上に臆病者よ」「お妙…」「テメーら全員ガン無視かよ僕の事」皆の切なげな表情の中で、新八のテンションだけがまるで今朝の味噌汁に入っていた麩の様に浮いている。「ずっと…気付かない振りしてた。ただ傍にいられればいいって…私っ…」妙は一言一句、喉の奥から押し出した。神楽が下唇を噛みながら、忙しなく妙と銀時の両方を交互に見る。どちらも地べたに直に腰をつけ、俯いている。しかしやがて妙が意を決した様子で、声を張り上げ銀時の名を呼んだ。「銀さん、私…!」立ち上がり顔を覆っていた両手は体の脇で拳を握り締め妙が銀時の方へ一歩足を踏み出そうと体を浮かせた時「やめろ」という銀時の制止の言葉が、驚く程静かに、だが部屋中に響き渡った。その瞬間、出掛かっていた言葉は只の空虚な吐息となり足は床から浮くことなく、逆にその場に張り付いてしまったようだった。それでも妙はまだ其処にいた。済んでの所でかろうじてまだ留まっていた。ただひたすらにその眼差しをもって訴え続けようとしたが、こちらを見ようともしない銀時に伝わるはずもなく、やがて妙は目頭が猛烈に熱くなるのを感じた。神楽もただ見ていることしかできなかった。新八はまた神楽とは違う理由で、見ていることしか出来なかった。「そう…よね、御免なさい…私…」妙は微かに震えながら自嘲気味に笑った。他に笑う者は誰もいなかった。妙はバツが悪そうに暫く自分の前髪を弄ったり着物の袖を握り締めたりしていたが、「そ、そろそろ失礼します。さよならっ!!」と言って銀時と神楽に背を向け新八の脇を通り抜け、逃げるようにその場を飛び出していった。静まり返った万事屋に妙が階段を下りる音がやけにはっきりと聞こえた。「いつまで続くんですかコレ」実の姉が新八の脇を通り過ぎる際、大粒の涙が一粒新八の眼鏡に綺麗に着地し新八はそれを丁寧に拭き取りながら問うた。しかし、銀時にも神楽にも反応は無い。唯一定春だけが人間達への無関心を大っぴらにしながら少し楽になった花粉の症状から、心地良い眠りについていた。犬になりたい。これ程までに切実にそう思ったことがあったろうか。「ッ銀ちゃんの馬鹿!!どうして、どうして…!!」やがて神楽は堰を切ったようにまくし立てた。ただただ静かに見つめる新八の視点から神楽の奥で未だ変わらぬ姿勢のまま、まるで鳳仙に壁に押しつけられた時のような悲壮感を漂わせている銀時がいた。「…れよ」その銀時からようやく、はっきりとしない言葉の語尾のみが聞き取れた。しかし神楽がその言葉に従う事は無かった。顔を真っ赤にして、まるで駄々をこねる赤ん坊のように机の上にあるもの、そこらに散らかっているもの、時計やら湯のみやら、壊れると地味に困る代物も何も関係なく神楽は銀時に上から物を投げつけて、叫び続けていた。「銀ちゃんのバカ!バカ!バカ!バカ!バ…」「黙れっつってんだろーが神楽ァ!!」そのたった一度の大声に、神楽は一瞬身体を恐怖に震わせ動きを止めた。しかしそれ以外相変わらず変化の無い銀時の様子に、投げるものが無くなった神楽は自ら己の髪飾りを引き剥がしそれをも投げつける。そして突然後ろを振り返り、ソファに座っていた新八の身体を丸ごと抱えて銀時に向かって投げた。抵抗する間も叫ぶ暇すら泣く空をまった新八は銀時に受け止めてもらえるかと思いきや華麗に交わされて、壁に激突した新八を他所に、立ち上がった銀時は神楽の両腕を鷲掴みにし、神楽はその中でもがいた。「だって…銀ちゃんが…」やがて抵抗を止めた神楽は、両の目尻から涙を流して銀時を見上げた。その伏し目がちな目に懇願するように言葉を吐いた。「…いい加減にしろよテメーら」先程までとは違う、凄みの利いた新八の言葉は今まるで見るに値しない残骸のように、ガレキの中に空しく飲み込まれた。新八は、今なら名前すら明かされずに映画の中で主人公に倒されるゾンビ達と誰よりも深く語り合えると思った。「悪かった」銀時は神楽の腕の拘束を解くと、自分よりも幾分以上に小さな少女の身体を引き寄せてその後ろ髪を撫でながらそう言った。「銀ちゃんの馬鹿…嘘つき…・」髪飾りの中に納まっていたクセのついた髪がクルクルとはねていた。神楽は銀時の腰に抱きついてその顔を押し付け、泣いていた。銀時は無言で神楽をなだめながら、やがて一つの溜息をついた。「別に泣かせたかった訳じゃねーよ。お前の事も、…お妙の事もな」そんな言葉が神楽の頭上から突然、聞こえた。驚きのあまり瞬時に涙の止まった神楽は天を仰いだ。「銀ちゃん、それじゃ…」両目を見開いてそう言うと、銀時はただ笑みを浮かべて一つ頷いた。「銀ちゃん!!」途端に神楽は笑顔に変わり、その輝かしいばかりの表情に泣き痕が妙に浮いて見えた。はしゃいで飛び跳ねる神楽をやはりなだめながら銀時は、初めて新八の方を向いた。「新八、赤飯炊いておけ」「いや炊かねーよ?何言ってんの!?」新八に人差し指を向けて見た事も無いような爽やかな笑顔でそう言ってのけた銀時は、万事屋の外へと駆けて行った。「お妙!!」銀時は往来で大声を出した。何処をどうやって来たのかはよく覚えていなかった。どうやって妙を探したのかもよく分からなかったが今何よりも重視すべきなのは、そこに彼女を見つけたという事だ。銀時の声に気付いた妙は、咄嗟に身構え踵を翻した。「待てお妙!!」遍く人の間をすり抜けながら、妙の後姿を見失うまいと追った。差は確実に縮んではいたものの、中々追いつく事は出来なかった。妙も必死だった。ようやく追いついてその片腕を自分の手の平の内にに納めた時人通りは何処かへ消え失せ、2人は橋の上にいた。穏やかな清流の流れが2人の下を流れた。妙はもじもじと気まずそうな素振りを見せながら銀時の顔を見るまいとしていた。いや、もしかしたら自分の顔を銀時に見せたくなかったのかもしれない。「銀さん、どうして…」そう言いかけた時、妙は自分の身体が引き寄せられるのを感じた。気がつけば妙は顎を銀時の肩の上に乗せ、銀時の両腕が妙の背中に巻き付いていた。体の力が抜け、かくんと膝が折れる。銀時も同じだった。「銀さ…」「恐かったんだ、俺も」自分の頭の後ろから声がした。胸の前では銀時の鼓動が感じられた。その時になってようやく妙は自分の体が銀時と密着している事に気付いて頬を染めたが、銀時は気付いていないようだった。「自分が傷つくのが…お前を、失うのが…お前を一人にする事が…」そう言う銀時の、自分を抱える両腕の力が強くなったのを妙は感じた。同時に銀時が微かに震えているのが分かった。きっと、今この瞬間にも彼の中の恐怖は増していたのだろう。自分が大切な人を失う事、それ以上に大切な人を置き去りにしなければならなくなるかもしれないその時を。この男は自分が大切な誰かを護れなかった時、壊れてしまうのだろう。私もそうなると考えているのだろうか。妙はそう思った。「銀さん、大丈夫よ。私はそんな柔な女じゃない」妙はそう言って両手を銀時の後頭部に回し、その髪を撫でた。あちこちにだらしなく飛び跳ねた髪に時折指が巻き込まれたが構わず撫でた。「そしてあなたは、私が護る。いつまでも一緒よ」更に妙はそう付け足した。元来女とは男よりも強いものだ。もし神様がいるのなら、きっとそれを証言してくれるだろう。男には耐えられない重荷を、女に課したその理由を。「…いいのか?」今妙の前に銀時の顔があった。普段の見栄は一体どこへやら。女に縋る、何とも情けない男の姿がそこにあった。図体こそ自分の一回り以上に大きな男だったが、まるで小さな子供を慰めているような気持ちだった。女にはたった一つの愛情と信頼を糧に、男の全てを受け入れる忍耐と度量がある。力比べと下半身の事情しか脳の無い男には一生できない相談であろう。そう思った妙は何だか可笑しくなって少しだけ笑った後、銀時を表現する言葉を並べてみた。「貧乏で、ケチで、白髪で、胡散臭くて、乱暴で、馬鹿で、酒癖が悪くて、見栄っ張りで…フフ、キリが無いわね」「そうだな」いつもなら口答えの一つや二つ返ってきそうなものだが、今回ばかりはそれは適応されなかったようだ。銀時はただ、困ったように頭をかいている。「そんなあなただから、私は好きなのよ」妙は微笑んで、真っ直ぐに銀時を見つめた。妙の瞳に、少し驚いた様子の銀時が映っていた。「趣味の悪ィ女」銀時もそう言って笑った。ふと冷静になると、橋の真ん中で正座をする女とその前で同じように座る自分の姿があり、銀時は胡坐をかくように座りなおすと、片手でそっと妙の頬に触れた。「なぁ、お妙…」自分を真っ直ぐに見つめるその目は一体どの位奥まで自分を見ているのだろう。そう思う程に黒く済んだその瞳には他でも無い自分がいた。「俺は…」銀時は其処で言葉を切った。身体は硬直したように動かず、妙が幾ら待てども銀時が喋り出す様子も動き出す様子も無い。だがしかし銀時は顔の筋肉を引きつらせ、何やら人知れぬ努力に励んでいる最中の用だったので妙は黙って待っていた。しかし遂に妙から顔を背け向こう側を向いた銀時のその口から、小さな声のような、息遣いのようなものが聞こえた。「…ッブフ」⇒【お祝い】<三>に続きます。
2012年03月31日
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※銀魂二次創作SS【お祝い】<二>の続きです。その瞬間に妙はすっと立ち上がり、銀時の後頭部を思いっきり足で蹴り飛ばした。銀時の身体は浮かび上がって橋の端まで飛んでいった。其処に並んで立っていた神楽と新八は、足元に転がる銀時を軽蔑の眼差しで見下ろしていた。更にその後ろには、万事屋階下の居酒屋の三人も加わっていた。頭を抱えながら痛そうに地面でうずくまる銀時の姿に指の関節を大音量で鳴らしながらゆっくりと近づいてくる妙の顔には真っ黒な影が落ち、さながら魔王とでも言うべきその貫禄で銀時の胸ぐらを片手で掴み軽々と持ち上げた。「銀さん、ちょっと?私にここまで言わせておいて今更どういうつもり?」「いやほら、何か照れる…でも十分だろ!いいだろもうコレで!」「一体誰が好き好んでこんな恥ずかしい真似してあげたと思ってるの?」一度口答えをする度に平手でなく拳で銀時に制裁を加える妙の姿に新八は何処か安堵感を覚えつつも、元来の性分故に口を出さずにはいられなかった。「いや、姉上ノリノリだったじゃないですか。超楽しそうだったじゃないですか」「黙りなさい新ちゃん」実の弟の言葉を妙はピシャリと一蹴した。新八の隣では神楽が、吊るし上げられた銀時を救助に入るでなく最早憐れみと言ったほうが適切かもしれない侮蔑と諦めの表情で其処にいた。「銀ちゃん…演技でも最後までいけねーとか…マジ見損なったアル」「最低ですね銀時様。山崎様の方がよっぽど男前でいらっしゃいました」「ほんっと、最低だよお前。辰五郎を見習いな」「私ヲ騙シタ詐欺師野郎ノガマダマシデスネ」一人の女から肉体的暴行を受けながら同時に四人の女から精神的ダメ出しをされるという稀有な状況下で反旗を翻す事が出来るのは流石だと褒めてやるべきかもしれない。伊達に遊び人ではなかったという事なのだろうか。「じゃぁお前らがやってみろよ!抱きしめてるのに胸の感触とか、そういうサービス的なアレが何も無いこのゴリラ女相手に俺はよく頑張っ…」「てめ今何つった?」しかしそんな遊び人が培ったノウハウも魔王の前では無力だったようだ。一方的且つ理にかなった暴力の応酬が止まらない。最早人間というより赤袋と言った方が上手く伝わるのでは無いか。そんな銀時の顔面に更に重い拳を一つ加えて、妙は言う。「さーぁ銀さん。私の何処が好き?一つ一つ言っていってくれないかしら…」「あ、えっと…すいませんほんと、つい口がすべっ…」己の失言を謝ろうとした銀時に、妙の拳がまた一つ振りぬかれた。「嫌だわ銀さんてば。私は謝って欲しいんじゃなくてよ」「あ、うん、そうだよね~…分かってるよ☆えっと、すっごく美人だよね!」また新たな拳の感触が生まれた。「ちょ、俺今褒めたよな!?何で殴られてん…」更にもう一発。「それから?」「えっとそれから、す、すっごく優しいよね!もう菩薩だよね菩薩!」ダメ押しに一発。「それから?」「あの…一つ聞いてもいいですかお妙さん…」「なぁに?」笑顔をそのまま顔面に張付けたような。まるで能面のように固まって動かないその面前で銀時は最早何処が痛いのかよく分からなくなった顔の中心から流れ出る血を拭った。「…コレ、褒めてもけなしてもダメなんですか?」「いいえ、まさか♪」「あ、そ、そうだよね~でもそうしたらオカしいなー、何で僕さっきから殴られてるのかな…」眉一つ動かさない妙に、銀時の口調は乱されてばかりだった。銀時は経験上、妙が笑っている時はまだとどめを刺す前の段階だということを重々承知していた。それはつまり、これ以上の暴力が待ち受けているという事を意味する。「私に殴ってもらえるなんて、最高のご褒美でしょ」「ちなみにけなした場合はどうなるアルか、姉御」銀時の真っ赤に腫上がった顔にかろうじて残っている正常な皮膚が青ざめていく何ともグロテスクなその光景に、ふと神楽が口を挟む。他の者たちは皆端の脇の長椅子に腰掛けて、のん気にその光景を眺めていた。「フフッ、銀さんが私をけなすなんてあり得ないけど・・そうね、『北斗の拳』の敵キャラよりも悲惨な状態になるのは確実ね♪」愛らしい笑顔でそう返事をした妙に、銀時はいよいよ命の危険を感じもがくように背後を振り返り、その先に見えた新八の後姿に助けを請う。この場において自分以外の唯一の男、新八。女の園にあって助けてくれる可能性のある唯一の存在であった。「おい新八、助けて…ちょっと…おい、なぁって…」しかし新八はその悲痛な声に無情にも無反応を決め込んでいる。比較的姿勢の良いその後姿は、隣に座るお登勢と何やら話をしていた。「テメーシカトしてんじゃねぇぞォ!新八の分際で!いやゴメン今の嘘!つか…ほんと、助けて…ゴメンて!俺が悪かったって!!」新八は実の姉の怒りを前に介入を拒むというよりは新八自身何やら不満があるように見えた。銀時にはそれが何なのかさっぱりだったが、新八が助けてくれないという事だけは分かった。そして再開する妙の攻撃を後ろ目に、神楽はつついと新八の脇に近づき、その隣に腰を下ろす。「ごめんねアル」神楽に悪びれる様子は余り無いようだったが、少なくとも新八と仲直りしたいという意思が感じられた。そもそも喧嘩していた訳では無いのだが、余り上機嫌で無かったことはこの少々阿呆なお嬢さんにも伝わったようだと、新八は思った。「いいよもう、慣れてるし」我ながらそれは如何なものかと新八は思ったが。度を越えた暴力にも存在意義の扱いの軽さにも、いつの間にか愛しさが芽生えていたのかもしれない。だがしかし断じてマゾヒストでは無い。そこだけは勘違いしてもらっては困る。「怒ってないアルか?」そんな決意を頭の中で新八が固めていると神楽が少しほっとした様な様子でそう言ったので「こんな事でいちいち怒ってたら、君らと一緒にいられないよ」と新八は微笑んだ。「そんな事よりも、かずはさんに何て言おうか」やがて新八は本来の目的を思い出す。銀時と妙の二人が最終的にバイオレンスな展開になった事はもう平謝りするしか無いとして、せめて何か言葉だけでも伝えねばなるまい。「普通に『おめでとう』でいいんじゃないアルか?」「普通過ギジャナイデスカ?」「飾らない言葉が結局1番伝わるんだよ」会話に参加してきたお登勢とキャサリンにタマは己の脳内で閲覧したブログ記事から算出した統計を元に、意見を言う。「私は銀時様に何か言って頂くのが最善かと思われます。言葉の内容は二の次かと。」「…悔シイデスネ。アノ馬鹿ニ負ケルナンテ」「しょうがないねぇ。あんなろくでなしでも一応主人公だ」皆何とも附に落ちない様子ではあったが、妙に説得力のあるタマの案に何やかんやで落ち着いた。早速銀時を連れて来ようかとも考えたがやはり何処か釈然としない銀時に対する不快感は拭えず、皆暗黙のうちにその場から立ち上がろうとすらしなかった。「じゃぁもう少しボコられてるところ眺めてからにするアル」「そうしよっか」神楽がそう言い、新八が意地悪く笑いながら相槌を打った。「…さん、銀さん。起きてくださいよ」銀時はうっすらと目を開けた。新八の顔とその奥にやけに神々しい光が見えた。自分の部屋はこんなに明るかったろうか。そしていつの間に寝てしまっていたのか。寝る前の記憶が全く無い。この感覚は二日酔いとはまた別の感覚である。一体どういう事なのだろうかと考え始めると頭が猛烈に痛み、いや、頭というか頭部全体と言うべきか、寧ろ全身と言うべきか。何か自分は激しい戦いを終えた後だったかなと、銀時はぼやける視界にかろうじて認識した新八と神楽に問うた。「寝ぼけてんなヨ。早くおめでとう言うアル」ゆっくりと身体を起こしながら周りを見渡し、頭痛を抑えて甦る記憶の断片を繋ぎ合わせ銀時はようやく現状を理解すると、途端に酷く疲れた様子になった。「…最初っからそれだけで良かったんじゃね?」「ぐだぐだ言ってねーで早くしろや」「ハイ」妙の表情は能面のような笑みから極道とでも言うべきか。見るもの全てを無言のうちに従わせる風格を携えており銀時は口答えしようとする発想すら浮かばぬうちに立ち上がった。「今度は途中でやめるんじゃないよ」「ドウデスカネ?ミモノデスネ」「証拠採取なら任せてください」「うるせぇよ!やり辛いわ!」皆が好き勝手、多分に私情の入り混じった野次を飛ばしてくるのをあしらいながら、銀時は息を一つ、大きく吸い込んだ。「かずは」「あー…えーと、まぁ、何だ」「いつも応援してくれて、ありがとな」「おめっとさん」ヽ(*・ω・)ノ。・:*:・゚'★Happy Birthday☆,。・:*:・゚'ヽ(・ω・*)ノぽっぽさん・・・・・・まさかの誕生日小説ありがとうございました!☆(≧▽≦)☆!何から何まですごい楽しかったんですが、感想を書くと、同時にお祝いされてる自分がごっさ恥ずかしいっていう羞恥プレイ(笑)になるので、1人でしみじみかみ締めようと思いますwwwワーイ\(゚▽゚=))/…\((=゚▽゚)/ワーイぽっぽさんの素敵ブログはこちらです。→【popponoblog】
2012年03月31日
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久しぶりに、銀魂二次創作SSをいただきました!☆(≧▽≦)☆!ワーイ\(゚▽゚=))/…\((=゚▽゚)/ワーイタイトルにあるとおり、万事屋&山崎……っていうより、銀さん&山崎です♪(※楽天ブログの文字数制限10000字を微妙に超えちゃったので、2分割です)好きだとか可愛いだとか、そんな甘っちい関係なんかじゃねぇ。そう言いたいところだが、実際はそういうところがないわけではないし、他にうまく言おうにも適当な言い回しが浮かんでこない。長く一緒にいるうちに随分と馴染んでしまって、もう戻れそうにもない。かと言って、甘いばかりの関係でもない。多少苦かったり、塩辛かったりするくらいが甘さも引き立つというものだ。それに、この関係を守るためなら、そうすることで守れるのならば、どんなことだってしてやる覚悟もしているし、実際にそうした。その覚悟をくれたのも仲間だ。確かなのは、今がとても手放しがたく居心地が良いこと。そして、この形はそう遠くない将来に変わる、決して悪い方にではなく。これは確信で、願望で、決意だ。己に託された想いの重さを嫌と言うほど知っている。面映ゆく、厳しく、有り難く、恐ろしい。それも時と、人と、ちょっとした(時々ちょっとしたで済まない)事件の数々を通して、腹に落ちた。背負うばかりしようとしてきたあの日から、背負うことも避けてきたあの頃から、比べて今は時に背負われすらしながら、対等なはずだった‘同志たち’よりもひょっとしたら頑強な絆のようなものを築いてしまったのかもしれない。まったく、この町には感謝を惜しむことができない。まあ、幾分厳しく、かなりとえげつなかったりするが。酒とツッコミとボケと太陽ここは、お江戸はかぶき町、の中でも極めつけに下品で太陽よりもよほどネオンが似合う善男善女なら決して近づいたりはしないだろう如何わしい界隈…のそのネオンすら届かないごみ捨て場。そんなもんだから、はっきり言ってよく見つけられたものだと我ながら感心する。何を見つけたかというと何かと縁のある万事屋の旦那だ。まあ、最初はぼろ布団くらいにしか見えなかったんだけど。頭も灰色みたいな白髪だし。「一応知り合いだから声かけるんですけどね。旦那、こんなとこで何してるんで?」音量控えめにかけた言葉に、旦那は一瞬驚いたようにして、次の瞬間にはばつが悪そうに、最後にはふてぶてしいのか仏頂面なのか判りづらい顔でごみに埋もれたまま明後日の方向を見る。「迷子。」簡潔な答えはある意味見たままだが。「かぶき町で迷子になるなんて、万事屋の旦那ともあろうお人がねぇ。」ちょっと嫌みみたいななのを言ってみたりして。「あの子達はどうしたんで?心配してるでしょ。」怪力の女の子と普通の、なんだか親近感の湧く男の子。旦那のお仲間で家族みたいなもんだと理解している。「神楽がお妙んとこに‘ほーむすてい’するとかってんで、新八にも3日休みやってる」「ああ、それで羽目を外してこうなったと。旦那も懲りないっスね。」実は以前もこんな風に道端に転がっている旦那を見かけたことがある。ここよりかは大分マシなところだったから放っておいたのだが。「でも旦那、ここはちとマズい。あの子達のこと思うんならさっさと帰ってくださいね。」「そう言うアンタは張り込みかなんかかよ?」ばつが悪いのか悪い酒のせいなのか、旦那の口調はいつもより柄が悪い。ウチの副長みたいだ。「まあ、そんなところです。あんまり仕事増やさんでくださいね。」旦那がホトケになって見つかったりしたら俺の仕事が増えちまう。という意味を正しく理解してくれたようで、旦那は行儀悪く、ちっと舌打ちして、「それがオシゴトだろーが、税金泥棒さんよ。」と毒づいてくれた。ならばと、もうひと振りしてみることに。「一応、俺も逮捕できるんスけどね。江戸でも一等の監察、山崎退の眼は誤魔化せませんぜ、“松下村塾の鬼っ子”さん。」これには旦那もいい反応をしてくれた。酔っぱらって、ただでさえいつもから閉じがちな目がほとんど線みたいになっていたのに、珍しいことにビー玉みたいにまん丸くなって俺の顔を凝視してくれたのだ。「なるほど、真選組は、少なくとも監察は伊達じゃねぇってワケね。」先日の件でウチの上司たちも旦那が元とはいえ攘夷志士の中でも二つ名を持つほどの大物だったと知ってしまった、というか知らないふりができなくなったわけだけど。俺はさらに調べを進めてあったから、旦那の経歴もある程度までは掴んでいる。そんなわけで少し披露してみたわけだけど、驚愕からすぐに微妙な色を載せた半眼になったのを見て、ちょっと後悔した。そこにはかなり苦く辛そうなものがあると監察たる俺の目が読み取ってしまったから。こうなればこれ以上立ち入るのも無粋だし、まだ仕事の最中だ。「ま、ともかく悪いことは言わないんで、さっさと帰ってくださいよ。」「アンタも帰るところがあるんだろ。あんま危ない綱渡ってると泣きを見るぜ。」そんなツラで結構ヤバイところまで立ち入ってるって話は聞いてるよ、と逆に俺を気遣ってくれるのが、かえって申し訳ない気持ちになる。「ウチの副長は人使いが荒いんで。」大変なんです、と努めて笑ったら旦那はそうかい、と何故か微笑んでくれたようだった。「それじゃあ、ご忠告通り帰るとするかね。」そして、よろよろと立ち上がり、パンパンと服についた埃をはたく旦那に、「良かったら、迎え酒に一杯どうですかね。一杯なら奢りますよ。」気づけば何故かそんなことを言っていた。「一杯だけっつーならとびきりのを頼まないわけにはいかねーよな♪」多少はまともな界隈に戻ってきて、最初に目に留まった店に入ると二人がけの卓にさっさと陣取り、ウキウキとお品書きを眺める旦那はかなり子どもっぽく見える。「一杯ですよ、一本じゃなくて。」「ち、なんだよケチくせぇな。」「さっきまであんなに酔っぱらってたっていうのによくそんなに飲む気になるよなぁ」「タダ酒なら吐いても飲むに決まってんだろーが。」「いや、吐かんでください。」そんな他愛もないことをしゃべりながら、どうして万年金欠らしいこの旦那がしょっちゅう酔い潰れるほど酒をたしなめるのか分かった気がした。こんな風にして酒を奢らせてしまう何かがこの旦那にはあるようだ。「んで?なんか話があんだろ?」「いえ、別に」少しはいつもの調子を取り戻してくれたみたいでホッとしたし。「そうかい?そんならこれ飲んだら帰るぜ。」アンタも仕事があんだろ、と言われるとその通りなのだが。「なんであんなとこに?」「さあ?気づいたら寝てたんだよ。頭痛はしねぇから、それほど飲んじゃいないと思うんだけどよ。ま、よくあることだよ。」適当にモジャモジャ頭を掻きながら面倒そうに旦那はそう言うが。「そうですかい。俺はてっきり自殺志願者かと思っちまった。」「んなわけねぇだろ。扶養家族、どんだけ抱えてると思ってんだよ。」やれやれと、わざとらしいため息なぞ吐く旦那に、俺も大真面目な顔を作る。「旦那が被扶養家族じゃなかったんですかい。」やや間があって。「お前、結構クセあるよな。」「沖田隊長ほどじゃないですよ。」「まあ、ジミーズだし、ぱっつぁんに似たようなもんか。」「姐さんとこの新八くんですか。」得心がいったと言いながら旦那が引き合いに出してきたのは、俺のどうしようもない上司がストーカー行為を繰り返しているキャバクラ嬢の弟くんで、さっき親近感が湧くと言った旦那のお仲間の男の子だ。「ああ。地味だろ、アンタら。」「隠密には誉め言葉ですけどね。」「そういうもんかねぇ」「旦那は不思議なお人ですよね。自由というか、物好きというか。ウチの内輪揉めにまで首突っ込んで。」「別に好きでやってるわけじゃねえよ。関わっちまったもんほったらかしてとんずらこくのが寝覚めが悪いってだけだ。」さして興味もなさそうな様子にはちょっとだけ苦笑する。「やっぱり、旦那は奇特なお人だ。」ウチの上司たちみたいで危なっかしいが、面白い。「ち、なんかあれだな。こんなこと話すもんじゃねぇのに…悪い酒のせいかね。」「かもしれませんね。」残りわずかになったコップ(グラスなんて洒落た言い方には似つかわしくない)の中身を煽り、「つーわけで、旨い酒で迎え酒は済んだから帰るわ。」ガタっと行儀悪く立ち上がった旦那を呼び止めたのはこちらの都合だ。「ねぇ、旦那。」まだ何かあんのかよ、と見下ろす瞳にとびきり胡散臭い笑顔を向ける。「ウチは、局長・副長始め粗忽な連中ばかりですけど。皆感謝してますよ。最近じゃ鉄くんのこと、本当にありがとうございます。」癖なのだろう。頭を掻きまぜぶっきらぼうに、「…なんも出ねーよ。」そう言う旦那の居心地が悪そうな様子に満足する。「知ってます。それにお互い様ですしね。まあ、旦那は今も昔も奇特なお人だったってことで。」「へいへい」「旦那。ウチは直接関わっちゃいませんが、かぶき町で派手にドンパチがあったのも、旦那たちが一時期姿眩ましてたのも承知してます。でも、またぞろでかいのが来そうな雰囲気で。アンタらの強さはよく知ってますから、俺がどうこう言いやしませんがね。あんまり子ども達を泣かせんでくださいね。」成長期とは、言い換えれば多感で情緒も揺らぎやすい時期だ。「余計なお世話だって言いたいとこだけどな。」情けねぇ、と旦那は呟くけれど。「優しい子達ですね。」「何でこんなことまでしゃべらせちまうかね、アンタは。」「大江戸一等の監察ですから。」気持ちふんぞりかえって、その実内心は副長にサボりだとどやされるだろう近すぎる未来を心配し始めていた…。※【酒とツッコミとボケと太陽】<二>に続きます。
2012年03月11日
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※銀魂二次創作SS【酒とツッコミとボケと太陽】<一>の続きです。もうすっかり夜も明けた。かぶき町の朝はいつもけだるい空気を醸している。いつもの階段をだらだらと上がり、ガラガラと戸を開けると、「あ、銀さん。お帰りなさい。」思いがけずお帰りの声。「…。‘ほーむすてい’じゃなかったのかよ?」「銀ちゃんがちゃんと生きてるか様子見に来てやったら、二日酔いかよ、イイご身分ネ。」神楽まで奥の居間から顔だけ出して。「いや、お前に言われたくねー」「なんだとコノヤロー。人がせっかく心配したんだから感謝するヨロシ。」何故か偉そうに腕組みしてふんぞり返る神楽だが、まあ、今日のところは構わずにおく。「へいへい。ありがとさん。」すると新八が不思議そうに首をかしげて、「銀さん、なにか良いことあったんですか?」「んあ?」「なんか機嫌良さそうに見えたんで」そういうふうに見えるもんかな、とこちらが内心首をかしげるが、子供らは勝手に話を進めていく。「どうせ私たちがいない間に羽伸ばして飲んだくれてたアル。」「でも神楽ちゃん、それはいつものことだよ。」「あ、そうアル。新八のクセに鋭い分析ヨ。」「新八のクセには余分だよ…。でも銀さん、やっぱり何だか臭いからお風呂入ってきてください。」とか思っているうちに、話が自分に戻ってきてしまった。「はいはい。」「ずいぶん素直アル。」「ね?機嫌良さそうだよね。」なら普段はどうなんだ?なんて今更すぎることは思わない。「ぱっつぁん。」思わせ振りに名を呼んで、「なんですか?」「いや、なんでもねぇ。」思わせ振りなまま呼びかけたことを否定する。「なんですか?言いかけといて。」案の定、居心地が悪そうに追求してくるので、「いや、やっぱメガネだよなぁ。うん。」と、言いかけたことの一部を口にした。「また僕の本体はメガネとか言い出すんじゃないでしょうね?」竜宮城でのことをどうやらまだ気にしているらしい新八に、「当たり」にまりとそう言うと、あからさまにふくれる。これだから、からかいがいがあるんだ。本人はツッコミ役だと思っている風なのに。「銀さん、あんまりそんなこと言ってるとコンタクトにしますよ?」ジト目で新八が言い終わるか終わらないかのうちに神楽が口をはさんでくる。「なに言ってるアル。メガネじゃなくなったら新八なんてただのオタクのくせに。」的外れな反撃には的外れなツッコミ。そして、「間違ってるぞ、神楽。メガネのあるなしに関わらず新八はただのキモオタだ。」それにさらに的外れなツッコミで乗っかる。「うーわ、キモいまで付いちゃったよ。やってらんねーよ、こんな会社。」いつもの万事屋だ。好きだとか、可愛いだとか。そんな甘っちい関係なんかじゃねぇ。そう言いたい自分もいるが、そういった部分があることを認め、いとおしく思っている自分もいる。いつか遠くない将来、この形が変わったとしても、幸せな記憶は未来への糧になる。らしくもないことだが、そんなふうに思える仲間に出会えた俺は、珍しく感謝の気持ちを持っておてんとさんを仰ぐ。家の中からは隠れて見えやしないけれど。確かに太陽は俺たちを照らしてくれているのを知っているから。【完】山崎がすごい 有能に見える!( ̄□ ̄;)!!って、いやまあ、普通にしっかりきっぱり有能なんでしょうけど、あんまりそう見えないのでつい(笑)←ぇー総悟くんとか山崎が銀さんのことを「旦那」って呼ぶのが大好きなんですが、銀さんと山崎のやりとりががっつり読めて楽しかったです♪水無月かへるさん、ありがとうございました!☆(≧▽≦)☆!あ、ちなみに、2箇所程、銀さんの新ちゃん呼びを修正させていただきました。勝手しちゃってすみません。m(_ _)m
2012年03月11日
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新春初売りにのこのこ出かけ、ついさっきて帰ってきたばかりなんですが、メールチェックしたらなんかすごいメールが来てた!去年ラスト更新の妄想銀さん&仔銀ちゃんをせんべいさんがさらに膨らませてくださったので、私だけが読むんじゃ勿体ないとばかりにまるっとコピペさせていただきました!☆(≧▽≦)☆!ちなみに、タイトルに【駄】と付いてるのは、せんべいさんのストーリーではなく、清書することを放棄した私の残念極まりない一発落書きを指してます。 銀さんの「拭き取ったもん!」の「もん!」がかわいかったのでつい(笑)あ、そういえば、せんべいさんにメール頂いて、自分が「屍」と「魂」を間違えてたことに気づいたので、こっそり大晦日更新を修正してます。えへへwww←ダメダメ以下、青字部分がコピペです♪「屍を食う鬼が出るって聞いて来てみりゃあ ただのクソガキじゃねーか」「……」「……オラよ、団子。食うか」「……(パン)」団子を差し出す銀ちゃんの手を振り払う仔銀ちゃん。ふっとぶ団子。「あっ!てめっ、何しやがる。人がせっかく糖分摂りたくて摂りたくて狂いそうなのを我慢して、大人の余裕を見せたつぅのによぉ………おいおい、なンだその目は。その歳でもう反抗期ですかコノヤロー」「……(シャラ)」屍からはぎ取った刀を抜く仔銀ちゃん。「……ったく物騒なモン振りかざしてんじゃねェよ。ガキはガキらしくテメーの手に収まるだけの感情(モン)抱えてりゃ、それでいいんだ。まわりに怯えてテメーを護るためだけに振るう刀なんざ、お前にはもう必要ねーよ。(ヒョイ)」仔銀ちゃんに洞爺湖くんをなげる銀ちゃん。「!(ガチャ)」よろけながらキャッチする仔銀ちゃん。……洞爺湖くんなのに『ガチャ』?「くれてやる。俺の自慢の愛刀だ。そいつの使い方を知りたきゃ来い。これからはそいつを振るえばいい。敵を斬るためじゃねェ、弱いテメーを斬るために。テメーを護るんじゃねェ、テメーの魂を護るために。」「………」背を向け歩き出した銀ちゃんの背中を見つめる仔銀ちゃん。意を決したように走りだし、タッ、タッ、タッ、タッグサッ!!「いってェ!!てんめっ、何しやがんだこのクソガキ!!」「……コレ、本当に斬れるのかなと思って。」「おまっ、ガキの分際で木刀なめてんじゃねーぞ!何だって斬れるからねソレ、滅多に折れないからねソレ。ていうか後ろから斬りかかるとか木刀以前に俺がキレるから、銀サン斬れちゃうから!」「……なんかカレー臭い。」「失礼なこと言ってんじゃねェ!ちゃんと拭き取ったもん。別にカレーこぼしたからいいやとか思って譲ったわけじゃねーし。…ってなんだ、その白い眼は!ホントに可愛くねーな、没収だ、没収」「!」「…おい、没収だって言ってんだよ。」「……(ギュ)」「……ったく。半べそかいてんじゃねーよ。(グイ)」銀ちゃんに無理やり木刀を奪い取られる仔銀ちゃん。「!!」「ホラ。」「……?」仔銀ちゃんの前に屈んで背中を差し出す銀ちゃん。「乗れよ。オメーに木刀持たせたまま、おぶったんじゃいつ後ろから刺されるかわかったもんじゃねェからな。」「!」「ったく、母ちゃんだって背負ったことねーつうのに。」恐る恐る銀ちゃんに近づいて背負われる仔銀ちゃん。「あーあ、また重てェのが増えちまった。」いいっ!めっさいいっ!☆(≧▽≦)☆!ちなみに、せんべいさんからのメールに「『こんなん銀さんじゃねー!』とか色々あるとは思いますが、とりあえず新年早々生産性のない銀魂妄想を突っ走らせる私の残念さに免じてどうかお許しを。」とあったんですが、全然ありです。銀さんならまさしく言いそうな台詞だらけです。っていうかですね、そもそも、銀さんと仔銀ちゃんが出会うわけがねぇ!( ̄□ ̄;)!!ってことが大前提なので、銀魂残念フィルターに全身覆われてる私の方がジャンピング土下座をかますべきではありますが、妄想って伝染するんですね!妄想絵を描いて良かった!ばんざーい!せんべいさん、ありがとうございました!ワーイ\(゚▽゚=))/…\((=゚▽゚)/ワーイ
2012年01月02日
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rubydredredさん(【popponoblog】)から頂いたノマカプX’masSS小説です。※注意事項(ぽっぽさんのメールから抜粋です)・ノマカプ目指したけど全然ラブラブしてませんすいませんw・神威兄さんのキャラが何か変ですorz・私の脳内捏造設定がいっぱいです。スルーしてやって下さい。私からの注意事項としては・・・・・とりあえず、ありとあらゆるノマカプが詰まってます!☆(≧▽≦)☆!としか言えません。銀妙、沖神、トシミツだけじゃなくて、あれもこれもそれもどれもいぃぃぃぃっぱい!!あ、それと、「総悟くんがんばれ!。・゚・(ノД`)・゚・。」と「高杉さん、罪な人すぎる……ORZ」って感じでwww※楽天の字数制限の関係で16分割(←( ̄□ ̄;)!!)になってしまったので、フリーページにもアップしてます。フリーページも4分割なんですが、16分割よりはいいかなって(汗)【Why don’t you give love on X’mas day?】それは世間が銀色に染まり始めた頃。降誕祭から数えて約一月程前の事。近藤が万事屋の扉を叩いたことから始まった。思い返してみればこの男が正々堂々と正門から入ってきた例があったろうかと驚くも、客ならば中々に高い報酬を期待できる相手であることを思い出し、万事屋の面々と近藤はソファに座り、机を介して向かい合う。「費用は全部こちらで持つ」依頼内容を全て話し終えた所で近藤は言った。そしてその依頼内容とは近藤の想い人、つまり志村妙の事であるが、彼女との仲を取り持ってくれというものであった。期日は降誕祭前日の12月24日。場所は真選組屯所。万事屋の一人に親族を持つ妙と二人きりとは言わないまでも共に楽しい一時を過ごしたいという、余りにもささやかな願いであった。これまでの近藤の行動からすれば考えられないほど健全なその手法に万事屋の面々は驚きと感銘を受けつつ、同時に懲りない男だと、失笑を隠す事も出来なかった。「ケーキ5つ・・・」「ナメてんのかテメェ」依頼執行時における報酬の相談に当たって出された条件に銀時は憤慨した。幾ら銀時が甘い食べ物を好む性質だったとしてそれはあまりにもあんまりな条件に思えた。そもそも食べ物で払おうと言うのかこの男は。ココは何が何でも現生を請求してやろうと意気込んでいたところ、「プラス、○×ホテルケーキバイキング年間パスポートだ」「任せろよ兄弟」どうやら報酬を言い終えていなかったと見える近藤が続けた言葉に銀時は叩くように振り上げていた右の手の平を文字通り返して、近藤と固い漢の握手を交わした。「僕は嫌ですよ。クリスマスにまでこの人がいるなんて」「最近新八くん俺に対してヒドいよね」其処に口を挟んだのは妙の弟である新八だった。人並み以上に姉を慕うこの弟は、最早日常茶飯事となった近藤の犯罪行為に姉と同じかそれ以上に憤慨しており、尚且つ1年の締め括りにも近いこの行事をごく親しい間柄で過ごしたいと思うのは当然の願いであろう。「まぁいいじゃねぇかぱっつぁん。別に二人きりって訳じゃねぇんだし」元より行事や祭りに大した興味や拘りを抱かない銀時はなだめるように新八の肩を叩いた。銀時の笑顔の向こうでは神楽が素直に豪華な菓子類にありつけることを喜んでおりきらきらと瞳を輝かして定春の顔に抱きついていた。それを受けて新八は諦めたように息をついた。「当たり前でしょ」「俺としては途中で出てって二人きりにしてくれると嬉し・・・」近藤が冗談半分本音半分にそう言いかけると人が変わったように目つきが鋭くなった新八が、その目線でもって人を焼き殺すかのように見下ろしており、ごくりと唾を飲みこんだ近藤は、そのまま軽い挨拶を済ませて、そそくさと万事屋を後にした。そして来るは降誕祭前日。降水確率70%。大気は凍て付くように冷え切る中、街中がここぞとばかりに賑わい、朝も早よから店が開く。そして万事屋の階段を下りた所に立ち並ぶ5つの影。万事屋の面々に加えて一つ余分なその影は、沖田総悟のものである。「じゃ神楽、ケーキ食い放題大会が正常に行われるよう、コイツを見張ってろ」「任せるネ銀ちゃん!」そう言って元気に敬礼の形を取った神楽の手にはミトンの手袋がはめられ、頭にはいつもの髪飾りをつけない代わりに、毛糸製の帽子を被っている。上着を羽織り、長めのスカートの下からはブーツが顔をのぞかせて普段よりも若干身長が高くなった印象を受ける。「絶対に変なマネさせるなよ。ニコチン狙いのとばっちりは沢山だ。そして選ぶケーキに必ず苺ショートを忘れるな」「了解アル!!私はチョコがいいネ!!」「僕はモンブランがいいな」万事屋の男共は普段の一張羅に上着と防寒具を携え、定春の首にも見慣れぬ防寒具が巻かれていた。万事屋の一団から数歩離れた場所でその様子を見守っていた沖田は普段の隊服に、これまた隊専用の長いコートを着ていて寒そうに肩をすぼめて襟の中に顎を突っ込んでいた。「という訳だ沖田くん。くれぐれも妙な考えは起こさないように」「・・・へーい」そう気の抜けた返事をした沖田がこの場にいる理由は単純。近藤に命じられたからだ。今夜の祭りに向けて職務と屯所の準備に同時に追われることとなった近藤が菓子類の買出しを沖田に頼んだだけの事。万事屋としては必ず自分らの納得のいく食料が欲しかったし、真選組としては万事屋の連中が金を一定額以上使わぬ様見張る必要があった。「じゃ、俺たちは仕事片付けてくるから、後でな」「うん!」そう笑顔で返事をし、沖田には目もくれず大股で歩き出した神楽の後ろを面倒くさそうに歩き始めた沖田の肩を、銀時が後ろからむんずと掴んでその足を止めた。神楽はそれに気づくことなく、ずんずんと歩いて行く。「・・・何か用ですかィ、旦那」「君に今日神楽を預ける訳だが・・・」沖田よりも幾分高い場所から凄みのある低い声を出した銀時の後ろで、新八は定春の背中を撫でながらその様子を眺めていた。「テメーの変態ドS癖を少しでも神楽にしてみな。半殺しじゃすまねぇから、その辺よく心しておくように」「言われなくてもあんな乳臭いガキに毛程の興味もありゃしませんよ」「そうじゃないでしょ銀さん」脅しとは言え、なまじ本物の殺気が混じっていただけにこれはおっかないと、内心沖田が剣士としての戦闘体勢を無意識に整えていた所、気の抜けた平和な声を挟んできたのは新八だった。「わーってるよぱっつぁん。これでも人様の娘を預かってる立場な訳だし?一応、な」人が変わったように背後の男の気配が変わり、相変わらず底の知れないお人だと考えていた沖田だが神楽の姿はどんどん遠のき、このまま見失いでもしたらと考えるだけで既に面倒くさい事態を引き起こしたくは無く、二人に問う。「何だってんでさァ」「神楽ちゃん、凄く楽しみにしてたんですよ今日の事」「何か張り切っちゃってよォ」「やっぱ女の子ですよね」「ガキだっつーのもあるけどな」「はぁ」沖田は気の抜けた返事をする。確かに少々意外ではあったが、だから何だと言うのだ。「ま、そういう訳だから、お前にプレゼント用意しろとは言わねェけどよ。アイツの気持ちに水を差すような真似はしないでくれって話だ」沖田は少しの間考えた。つまり何だ。コイツらは放っておいたら自分が神楽に対して何かいかがわしい事をしたり更には何かしらの手段で会そのものを台無しにすると、そう思っているという事か。何とも失礼な話である。「言われなくても近藤さん主催の会でそんな事しませんよ。寧ろそっちじゃねェんですかィ、その危険があるのは」普段から余り表情の豊かな沖田では無いが、この時ばかりは少々顔をしかめた。銀時と新八は顔を見合わせて笑うと、そのまま定春を連れて逆方向へと歩いて行ってしまった。沖田は何とも面白くない気持ちのまま、既に遠くに離れた神楽を見失わぬよう、非常に不本意ながら走って追いかけねばならなかった。同時刻、地球発の港では坂本が陸奥に襟ぐりを引っつかまれて引き摺られるように船に乗せられようとしていた。「なんでこんな日に仕事なんかせにゃならんのじゃあ」「向こうが指定してきたんだから仕方ないじゃろうが。クリスマスなんちゅーんは地球だけの行事じゃきに」気の抜けた軽い声を出しているものの図体は人一倍でかく、力もそんじょそこらの猛者では相手にならぬ程強い坂本を引き摺るのは一苦労どころではなく、陸奥は息を切らしながら何が何でも抵抗するのを止めない坂本をどう逃がさずに気絶させるか考えていた。「そこを何とかするのが副官の役目じゃなか?」「副官は秘書じゃないぜよ。自分のスケジュールもよう管理できん奴が偉そうな口を叩くな。それに、この話は年内にキリをつけたいと言っていたのは、おんし・・・じゃ、なか!!」陸奥は何とか襟にしがみついているものの、どうにも坂本に力負けして逆に引き摺られるようになり始め、堪らぬと歯を食いしばりながら船の中に応援を求めた。「だったらもっと前々からやっとかんか」「やっとったわ!!おんしが商売女とよろしくやっとる間にのう!早よせい!」船の中からぞろぞろと出てきた快援隊員の男共は二人の姿を見るなり即座に状況を理解し、よってたかって坂本をの四肢に手をのばす。陸奥はようやく手を離すことができて、痺れた両腕をぐるぐると回しながら理不尽且つ無責任な言葉を吐く上司に怒鳴りつける。「おんしは相手なんかおらんからええけどな。わしにはおりょうちゃんが待っちゅう!どうしてくれるんじゃ!」「元はと言えばおんしが遊び歩いておるからこげな遅れになったんじゃろうが!休みが欲しいなら普段からしゃんとせえ!」「そうじゃ!おんしが一人で行けばよか!」今や己の部下である隊員たちに生贄のような形で掴まれ宙に浮いていた坂本は途端に笑顔に変わり、こりゃ名案と手を叩いていた。一方の陸奥は先ほどまでの熱気もどこかに消え失せ、鋭い視線と、この大気よりも冷たい空気を纏って坂本の頭を鷲掴みにした。「何だとこの病原菌野郎」「ワシはおんしを信頼しちゅう。必ず上手くやってくれるとな」「その都合のいい三枚舌、商談の場にて思う存分発揮してもらおうかの」逆さになった坂本の顔からはサングラスがずれて落下しそうになったがその下に大量に生えていたくせ毛に引っかかったので無事だった。頭に血が上り始めた所為か微妙に赤くなった顔面の中で驚く程澄んだ瞳を見せる坂本に陸奥は眉一つ動かすことなく坂本のくせ毛を一房むしり取ると、隊員達に合図して坂本を中へ運び込ませた。「あああおりょうちゃぁぁぁん!!!本気で怒るぜよこのクソ女・・・ぐほぁ!」「艦長、社長の確保完了致しました」坂本はなす術も無く船内の自室に放り込まれ、外側から錠をかけられてしまった。扉の壁を通して曇った声と、扉を叩く音が聞こえてくる。「おんしらー!!社長も艦長もワシじゃきー!!!」「ご苦労。向こうに着くまで何があっても部屋から出すな」陸奥は毅然とした態度で隊員達にそう告げると、自身は操舵室へと向かい、空っぽの廊下に坂本の叫びだけが空しく響いた。に続きます。
2011年12月23日
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※「銀魂」二次創作です。【Why don’t you give love on X’mas day?】ようやく街の中心街に着こうかという頃、神楽は隣を歩いていた沖田の胸ポケットの中に突然手を突っ込んだ。「いきなり何すんでィ」その問いに神楽は応えること無く、ポケットというポケットに次々と手を突っ込み始め中に入っていた携帯やら何やらを全て手に取り始める。沖田が手を突っ込んでいたコート脇のポケットでは、一旦沖田の腕を掴んで無理矢理外に出させてから中を調べていた。一通り調べ終わると今度は脇下からスネの辺りまでを両手でバンバンと叩いている。何故に突然神楽が身体検査を始めたのかは不明だが、恐らくこいつも万事屋の旦那が抱いていたような失礼な疑惑を自分に向けているのだろうと推測すると沖田は抵抗する事に空しさを覚え、いつの間にか立ち止まり両手を空に挙げ道のど真ん中でまるで入国審査でも受けている状態に甘んじる結果となり、道行く人々が遠慮気味に自分を振り返るのを感じ取っては仕方が無いだろ、と心の中で悪態をついた。「・・・おかしいネ」「何がでィ」「何にも無いアル」洋菓子を見張るなら買う前から。何か細工をするつもりなら絶対に何か持ち歩いている筈だから早々に見つけて取り上げてしまえ。神楽は銀時にそう言われていた。しかし、洋菓子に細工できそうな物体は何も無かった。神楽は訝しげに唯一見つけた手の中の藁人形を見つめた。「何処に隠したアルか!?」「だから何をだっつってんだろィ!」胸ぐらを強く掴んできた神楽に沖田は言い返す。「何か・・・タバスコとかわさびとか・・・えっと、爆竹とか!!」「テメーは一体俺を何だと思ってるんでィ!!」神楽の目は当に犯人を見る目で、コイツは警官にはなれないなと沖田は思った。初めから俺が犯人だと信じて疑っていない目だ。俺が何かをやらかすと確信している目だ。「前科があるネお前は!」そう憎しみともいえる感情を込めて沖田を見上げた神楽に、そう言われてしまうと言い返せない自分がいる事に沖田はこれ以上言い争っても無駄だと悟り、諦めたように言った。「今日は何もしねーって言ってんだろィ、うるせぇガキだな」神楽は普段らしからぬ沖田の様子に戸惑い、益々不信感を募らせざるを得なかった。いつもなら出会った瞬間に殴り合いになるような、そんな関係だった筈なのだが今日の沖田はどうにも大人しい。そう、それがどうにも気味が悪い。そう思っていた矢先にこんな言葉が聞こえてしまったものだから目も当てられない。「そんな事よりも、何か欲しいものとか無ェのか?」この季節街は何処でも可愛らしい商品で溢れかえる。酒屋だろうが髪結床だろうが関係無い。店頭に煌びやかで可愛らしいものをこぞって置いてあるものだから、万事屋の眼鏡が言うように神楽に少しでも女の子の要素があるのなら、少しは何か欲しがったりするのではないかと思っただけなのだ。他意など無かった。なのにどうした事だ神楽のこの顔は。「何アルか急に・・・気持ち悪いネ」まるで道に撒かれた嘔吐物を見るような目だった。この反応には流石の沖田も傷ついた。言葉だけならまだしも顔にまで鳥肌を這わせる事は無いだろうと思った。「いらねーってんなら別にいいけどな」沖田は吐き捨てるようにそう言った。「裏が有るに決まってるアル」「あーそうかい。何でィどいつもこいつも。どんだけ信用無ェんだよ俺ァ」「寧ろ何で信用されてると思ってるアルか」ぶつぶつと一人で悪態をつく沖田にいつもの調子で言い返す神楽ではあったがその体の距離は明らかに先程より裕に3歩は遠くにあって、沖田がふとそちらを見るだけで身構えるようになっていた。沖田が何とも言えない気持ちで、いっそ本当に何か仕掛けてやろうかとそんな事を考えているうちに街で一番高給な洋菓子店へと辿り着いた。予想通りと言えば予想通り、人で賑わう中に躊躇なくとっこんで品定めを始める神楽を店の外から何ともなく沖田は眺めていた。人が多い所為なのか神楽が優柔不断な所為なのか、いつまで経っても出てこない神楽を待ちくたびれて店の前の生垣に腰掛けてみると、向かい側の並びには他にも増して可愛げのある店が立ち並んでいた。客も若い女ばかりで、時折男連れが混じっている。その中の一つに沖田の目を引いたものがあった。それは、開け放された扉の向こうから買い物客の間を縫って、沖田を見つめていた。沖田は暫くそれと見つめあった後、ふと後ろを振り返る。神楽は未だ品定めすら終わっていないようで、まだまだ時間がかかるように思えた。次に懐から近藤から預かった財布の他に、持っていた自分の財布の中身を確認した。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」やがて空が真っ赤な夕焼けを通り凄し暗い影を落とし始め、地上では豪華絢爛な人工の電飾が既に街中を覆っていた。大気が一層冷え込み、歩くだけで耳を切り裂くような冷気の中、既に店じまいをした一つの茶屋の壁の内側からつんざくような金切り声が響いた。「ちょっとコレどういう事なのよ!離しなさいよ全蔵!ちょっと!聞いてるの!?」「やめておけ。主は今日はここから動けぬと相が出ておる」「何ですってこのクソガキ!ていうか誰よアンタ!」「凄いね阿国!!本当に何でも見えるんだね!」壁の内側にいたのは簀巻きにされた猿飛で、そのままカカシでも立てるかのように店の壁に張り付けられていた。その前ではしゃいでいる晴太と年の割に大人びた所作をする阿国が仲睦まじく話していた。「じゃあ俺がサンタさんに何貰えるかも分かるの?」「・・・そ、それは・・・」好奇の目をした晴太にそう尋ねられ、答えあぐね困っている阿国が助けを求めて振り返った先では全蔵が晴太の母親である日輪の隣で茶を啜っており、阿国の助けに全蔵は人差し指を口の前に持ってくる事で答えた。阿国はそれを見て晴太の方に振り返る。「それは勿論見えるが・・・言ってしまってはつまらないであろう」「そっかぁ。そうだよねぇ・・・でも、じゃぁ阿国は毎年サンタさんから何貰えるか分かっちゃうって事?」再び言葉に詰まった阿国は再度全蔵をに目を向ける。全蔵が両手を脇の辺りで広げ分からないという合図をしたのでどうしたものかとうろたえていた所、頭上から再びあの声がして会話が遮られたので、阿国は内心ほっとした。「アタシの事無視してんじゃないわよ!!」猿飛の怒鳴り声に全蔵は片方の耳を指でふさぐと、反対側に車椅子で居た日輪に言う。「すいませんね、騒がしくて。変な依頼が入っちまってよ」「いいのよ。あの子は月詠のお友達だもの」日輪は持ち前の笑顔でもってそう答えると同時に、やや不安げな顔をして言う。「それよりこんな年末の時期に阿国ちゃん連れてきちゃって大丈夫なの?」「そこは大丈夫。俺も一応プロなんでね」「あら頼もしい」日輪は楽しそうにそう言うと、はしゃぐ我が子とその友達の様子に目をやった。全蔵も同様に二人の子供の様子に気を配りながら、中断していた机の上に散らばったままのクナイの手入れを再開した。「ただ折角連れ出してもあのM女の相手だけさせてたんじゃ不憫だし、俺と二人っていうのも何だかなと思ってよ」「ウフフ、賑やかでいいわね」「そう言ってもらえて良かったよ」全蔵がクナイの柄の部分に撒かれた紐を巻きなおしながらそう笑ったその奥で、店の椅子の一つに俯いて座っている女がいた。猿飛はその姿に向かって喝を飛ばす。「ちょっとツッキー!アンタも銀さんとクリスマス会やりたいでしょ!解いてくれたら一緒に行ってあげるから解きなさいよ!」月詠は今日というこの日に特に予定は無く、普段通り日輪と晴太と共に過ごす予定だったのだが、其処に簀巻きにした猿飛を肩に担ぎ、脇に阿国を連れて全蔵がやって来たのを受けて万事屋の会の情報を断片的に耳にする結果となった。どうやら妙を含めた万事屋一家で何やら楽しげな会を開くので、邪魔しに来るであろう猿飛を捕まえておいてくれという、万事屋からの正式な依頼を受けたらしい全蔵の話を聞いて以来、当に火種の燃え尽きた煙管を咥えて、月詠は椅子に座ったまま動かないでいる。「わっちは・・・別に、いい・・・誘われてないし・・・万事屋でもないし・・・」「何落ち込んでんのよ!だからアンタいつまでたっても成長しないのよ!いい!?コレは銀さんのプレイなのよ!?この障害を乗り越えて俺の所まで来てみろっていうドSプレイなのよ分かる!?」壁から部屋の中心まで、よく通る声でそう叫ぶ猿飛の言葉から全蔵は阿国の耳を両手で塞ぎ、晴太は全蔵がそうする理由を日輪に問うていた。「月詠さんにはすまねぇ事しちまったなぁ。うっかりしてたわ」猿飛が静かになると同時に阿国の耳から手を離し、その手で頬を掻いて少々申し訳無さそうにした全蔵に日輪は笑顔で答えた。「大丈夫よ。どうせ後で知って落ち込むのは一緒だもの。賑やかな分、気も紛れるわ」その言葉に全蔵はちらと振り向いて目に入る月詠の哀愁漂う後姿にやはり幾らかの罪悪感を感じずにはいられなかったが、当の日輪がけろっとした顔で笑っているので、余り気にしない事にした。「そういうものですか」「そういうものよ」に続きます。
2011年12月23日
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※「銀魂」二次創作です。【Why don’t you give love on X’mas day?】「かんぱーい!!!」真選組屯所では近藤の音頭に合わせて土方、沖田、銀時、新八、神楽、そして妙が杯を宙に振り上げている横で定春が部屋の隅の方で丸くなって眠たそうに欠伸をした。その一室は鮮やかに飾りつけられているものの、その端々から男所帯を思わせる大雑把さと手作りの味が見て取れた。大きな机の上に所狭しと敷き詰められた豪華な肉類に万事屋の面々は妙を除いて飛びつく。主に銀時と神楽に占拠された机に全て食われては堪らぬと土方と沖田も割って入り銀時と土方、神楽と沖田ががっちりと手を組み合って机を介して押し問答をするその下で新八は飛び散った食物を大雑把に掻き集めていた。新八が畳の上に目を向けている間に、近藤は手早く幾らかの料理をよそうと、輪に入れず一歩後ろに下がっていた妙の隣にさり気なく近寄ってそれを渡した。「お妙さん、どうぞ」「あ、はい」お妙は素直にそれを受け取ったものの食べてもいいものかと机の方に目をやったが、まだまだ決着はつきそうに無く黙々と箸で料理を口に運んだ。「全く困った奴らですね」近藤はいつの間にか妙の隣に腰を下ろしており、そう言って楽しそうに笑った。「あなた程ではないですけどね」新八は目を爛々と輝かして銀時と神楽の向こうから近藤の方へ乗り込んでくる勢いだったが妙がにこりともせずそう切り返したのを見ると、安心したのか自分も料理を取る側に回った。近藤は少々言葉に詰まったものの、いつもの事と笑って流し、頭の中で次の言葉を探していた。「でも、今日はありがとうございます、ね」近藤には幻か夢と思わざるを得なかったが、それでも理性では現実だという事はよく分かった。あの妙が自分に何とも素直な笑顔を向けてくれた事に溢れんばかりの感動を覚えた近藤は思わず泣きそうになり、くしゃみをする振りをして顔をそむけた。この笑顔が見れただけでも今日という日に価値があったと言わざるを得ない。だがここで終わる訳にはいかないと、近藤はちらと机の方に再度目をやり、その争いに新八も加わっている事を確認すると、妙に言う。「お妙さん、今ちょっと大丈夫ですか?アイツらが気付かないうちにちょっと見せたいものがあるんですが・・・」「別に構いませんけど・・・見られると何かまずい事でもあるんですか?」「そういう訳では無いんですが・・・そうですね、できればお妙さんだけがいいな~、なんて・・・ハハ」妙は少しだけ普段の冷たい目に戻ってしまったが、万事屋の面々がいる所為なのか又は料理が予想外に美味だった所為なのか随分と機嫌が良いようで、少し億劫そうに立ち上がると着物を直して、近藤の申し出に応じた。この時点で近藤はまたもや泣きそうになってしまったが、今度は涙が出る前にぐっと堪えた。こっそりと部屋を出て襖を閉めると、突然驚く程静かになって廊下が軋む音がよく聞こえ、時折他の隊士達の声が別の部屋から聞こえてきた。やがて真っ暗な部屋に辿り着き、近藤が明りの元を探してもぞもぞしていたが光が照らされると其処は真選組の食堂だという事が見た瞬間妙にも分かった。一体何なのだろうかと妙は思ったが、元から近藤の考えなど分かる気がしなかったし考えるのをやめて、黙って後をついていった。人がいないので暖房の効いていないその部屋はとても冷えていて、足先に冷気が堪っていくようだったので、早く元の暖かい部屋に戻りたいなと妙が思っていた頃、あろう事か近藤は奥にあった冷凍庫を開け放して妙に見せてきた。「俺からお妙さんに、クリスマスプレゼントです」笑顔でそう言う近藤に妙は肩を窄めながら仕方なく中を覗き込むと、中には妙の好物が山のようにあった。顔を返せば嬉しそうな笑顔を浮かべた近藤が妙を見下ろしていたが、妙はぼそりと一言、「こんな寒い日にアイスですか・・・」と言った。その瞬間近藤の顔が硬直してしまった。こんな気温で無かったなら妙も素直に喜んだのだろうが、とりあえず今は冷たいものを食べたいというよりは熱いお茶が飲みたい気分だ。一方さっきまでの威勢はどこへやら、すっかりしょげて項垂れた近藤を普段の妙なら気にも止めなかっただろうが今は幾分機嫌が良い。「でも、有難うございます。嬉しいです、とっても」何とも分かりやすくて現金な男だと妙は思った。自分の一挙手一投足にここまで左右される人間がこれまでにいただろうか。何ともまぁ、子供のように無邪気な顔をするものだ。「向こうの部屋に冷蔵庫ありましたよね?」妙はくるりと近藤の方を振り返ると、そう尋ねる。「あぁ、はい。ケーキを入れてるやつが」「じゃぁ一つだけ持ってかえりましょう。今はちょっと寒いから、後で頂きます」近藤の返事に妙はにこやかにそう答えると、ラベルを見る事なく一番上にあったものを手に取った。ラベルを見てしまうと味に延々悩みそうな自分がいたからだ。そんな理由で風邪を引いたら、それこそ目も当てられない。「早く戻りましょう」妙は直接手でアイスを触らないように着物の上からそれを持って早足で部屋を出た。妙の頭の中は既に自分が選んだものがどの味だったのかと想像を膨らませることに夢中で隣を歩く近藤の存在を忘れていたが、近藤が何か喋り始めた事によりその存在を思い出した。「喜んで貰えたみたいで良かったです」妙が隣を見上げると、照れくさそうに頬を掻く近藤が其処にいた。「新八くんと二人で食べられるようにと思って買ったんですけど、そうるすと万事屋の連中もついてきて、全部持ってかれちゃうんじゃないかと思ったんで」初め、妙には近藤が何の話をしているのか分からなかったが、そのうちすぐに妙だけを呼び出した理由について話しているのだと思い至った。言い訳のようにも聞こえたが、確かに当を得ている理由だとも思った。「やっぱり最初はお妙さんだけに見せたいなっていうのもあったんですけどね」そう言って相変わらず嬉しそうに笑う近藤の顔をいつもなら拳か肘で叩き壊しているのだが、何ともまぁよく見れば中々どうして憎めない表情だと柄にも無い事を思ったのは、今日という日に少なからず自分も浮かれているという事なのだろうかと、妙は少し可笑しくなって、くすりと笑った。宴もたけなわ、皆が各々の手に料理やら酒やらを好きに持ち飲むなり食べるなり話すなり、陽気にざわめく集団の中で、阿伏兎は突然前方から何かを手に持って走ってきたまた子に飛びつかんばかりの勢いで話しかけられた。少女という程に幼くもなく、かと言ってまだ女とは言い切れない微妙な年頃の彼女は室内とは言えこの寒空に随分な薄着をしていて、腹を冷やさないのだろうかと人事ながら心配になった。人の名前を覚えているのかいないのか、阿伏兎の事を「おっさん」と呼ぶ彼女は手の中に持っていたそれを阿伏兎に渡して「頼みがある」と言った。「コレで『愛してるまた子』って言ってください!!」微妙な年頃の女の子からの予想外の「頼み」に、らしくもない裏返った間抜けな声を出してしまったが、そんな自分を誰か責められるというのなら教えて欲しいと阿伏兎は思った。彼女の言う「コレ」とは、それに向かって喋るとこの船の総督さんの声が出てくるというアレなのだが、幾らなんでもその頼みはご遠慮願いたいと阿伏兎が思っていた時、側でご馳走を何十人分か平らげたばかりの神威が口を挟んだ。「うーわ。君って痛い子だったんだね」いつもの白々しい笑顔を浮かべている神威に、少しも怯む事なくまた子は言い返す。「黙ってろアホ毛野郎!お願いするっスおっさん!!」胸の前で手を組んでそう請うたまた子の頼みを無下に断る気にもなれない自分の性格が嫌になりつつ、もし断ったらどうなるんだろうと阿伏兎は考えた。何せこの年頃の、それも女の子というのは扱いが難しいのだ。もしかしたらその腰に刺した2丁の拳銃で撃ってくるかもしれない。大袈裟かとも思うが、彼女の属している団体の事を思うとあながち冗談とも言えないだろう。たとえ撃ってきたとしても自分がそれによって死んだり負けたりする事はまず無いだろうが、その後一体どうしたらいいんだ。彼女はこう見えてこの団体の幹部の一人であるし、傷つける訳にはいかない。面倒くさい事態になるのは真っ平だ。事を穏便に運ぶ為にも、彼女を刺激するような事はしない方がいいだろう。そう考えた阿伏兎は神威に呼びかける。「俺は嫌だよ」しかし阿伏兎が神威を呼び終えるより先に、やはりあの腹立たしい笑顔を浮かべてそう言い切った己の上司に阿伏兎は軽い殺意を覚えたが、その殺気が漏れるともっと面倒な事になりそうなのでそこは年の功で穏便に済ませた。それにしても何だってこの女の子はわざわざ自分のような「おっさん」に頼みに来たのだろう。もっと若くて親切な仲間がこの船には幾らでもいるだろうに。そんな阿伏兎の考えを見透かしたように、また子は口を開く。「あたしは幹部だし、船の連中にそんな事頼む訳にはいかないんス。ナメられる訳にはいきませんから。でも万斉先輩はやってくれないし、武市先輩なんてもっての他だし、おっさんしかいないんっス!」「左様で・・・」阿伏兎はまるで逃げ道を塞がれてしまったようだった。ナメるとかナメられるとか考えてる辺りがまた子供だなぁなどと考えながら深い深い溜息をついた後首を縦に振ると、また子はそれはもう嬉しそうにはしゃいで阿伏兎に背を向けて立った。顔が見えると別人だという事を意識してしまうからなんだろうなと阿伏兎は思い、早い所終わらせてお帰り願おうと、また子の背後から例のそれを口に当ててボソリと頼まれた言葉を言い終えると、また子は凄い勢いで振り返って言った。「ナメてんスかアンタ!もっと感情込めるっス!喋り方も全然違う!」何という事だ。まさかダメ出しされるパターンが存在したなんて。加えてよく見てみるとまた子は手に携帯電話を持っていた。まさか録音していたのだろうか。総督さんの為にもやめてあげて欲しいと人事ながら阿伏兎は思いつつ、こんな小娘相手にどう感情を込めろと言うのだと、心の中で悪態をついた。「何バカな事してるんですかあなたは」そう言って阿伏兎に助け舟を出したのは武市だった。侍というのとはまた少し違った人種に思えるこの人間を妙な雰囲気の男だとは思いつつ、阿伏兎は嫌ってはいなかった。少なくともこの船に乗っている間一番頼れるのはこの男だと阿伏兎は認識していた。「先輩には関係無いっス!さぁおっさん!もう1回!」「早くしなよー阿伏兎ー」前言撤回である。別に頼りにはならない。武市の言葉は任務ならいざ知らず、このような雑談においては何の効力も持っていないのだという事を阿伏兎は学んだ。それに加えて後ろから面白がって追い討ちをかけてくるスットコドッコイが己の上司だなんて信じたくないと思った。人事だと思ってこの野郎。そんな事をぐるぐると考えながら立ち尽くしていた阿伏兎の眼前には既に言葉を聞く体勢を整えたまた子がいて、阿伏兎は眉間の皺を手でほぐしながら今度こそ最後にしてやろうと、持てる力の全てで持ってろくに話したことも無い小娘に愛の告白をしてのけた。「・・・・・・・・っきゃあああああああ!!!!」「ギャハハハハハハ!!!!!」顔を真っ赤にして歓喜の声をあげたまた子の姿を見て、どうやら上手くいったようだと阿伏兎はほっとして息をついた。その後ろで阿伏兎の言葉を聞いてなのかまた子の狂喜乱舞する様子を見てなのか、机の上で笑い転げている上司に心底嫌になると同時に、現在また子の携帯から例の言葉が繰り返し再生されているであろう今の状況を見て、阿伏兎は心からこの船の総督さんに申し訳無いと思った。に続きます。
2011年12月23日
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※「銀魂」二次創作です。【Why don’t you give love on X’mas day?】ふと辺りを見回すと、近藤とお妙がいなくなっている事に沖田は気がついた。まさか近藤さんは姉さんを連れ出す事に成功したのだろうか。そんな考えが一瞬頭をよぎったものの、そんな訳は無いとすぐに思い直した。大方厠か何かだろうと考えて、沖田は肉の塊を口の中に放り込んだ。机での争いは一旦決着し、今は皆それぞれ勝ち取った食料を食べている。とは言っても先程までの争いの間に食料のほとんどは消え去ったのだが。今は周囲に飛び散った残飯を処理している状況に過ぎない。それでも這い回って食べている万事屋一家を根っからの貧乏性だと思いつつ、誰も手を出さなかった野菜類に黄色い物体をかけて食べている土方が目に入ったので「土方さん」と、そう呼んで頭を上げた土方の手元の黄色い物体の上に拾い集めたゴミの混じった残飯をどさどさ落としてみた。「何してやがるテメェ」「犬のエサを量増ししてあげただけでさァ」予想通りと言えば予想通りの反応をして沖田の襟ぐりを掴んできた土方に、沖田はいい気味だと思いながらも別段楽しい訳でも無く、目の前で怒鳴ったり悪態をついたりしている土方をから目を離してみると、机の反対側に楊枝で歯の間を掃除している銀時と食器をまとめている新八の更に奥で、膨れた腹を抱えて横になっている神楽が見えた。あれを女と言っていいのだろうかとそんな事を考えていると神楽はやがて立ち上がり「銀ちゃん、トイレ行ってくるアル」「勝手に行って来いや」「私がいない間にケーキ食べちゃ駄目アルヨ!」「大丈夫だよ神楽ちゃん。僕が銀さんのこと見張っておくから」という会話をした後、部屋の外へと出て行った。数分後、神楽が手の滴を振り払いながら元いた部屋へと戻る道すがら廊下の途中の壁に沖田がよりかかっていた。神楽が特に気にする事も無く前を通り過ぎようとすると「オイ」と声をかけられたので、そちらを向くと沖田が話し始めた。「お前、俺の事疑ってるんじゃなかったのか?」「・・・勿論疑ってるアル」「それにしちゃぁ随分と余裕じゃねェか」「だって今は銀ちゃんも新八もいる・・・」神楽は其処まで言ったところで青ざめた。屯所に来てからというもの、料理を食べるのに精一杯で沖田から目を離してしまっていた。寧ろ、途中からは銀時と食料を奪い合っていた。その後はごろごろしていた。万事屋の誰もこの男を見張っていなかったのではないかと思った。「お前、まさか・・・ッ!もう既に・・・!!!」沈黙を継続させた沖田に神楽は何かの確信を得た。コイツは確実に何かをした。もうあのケーキは食べられない。その瞬間神楽の胸に湧き上がったのは沖田に対する恨みよりも自責の念であった。目の前の享楽に心奪われ本命の警護を疎かにするなど、本末転倒である。吟味に吟味を重ねて手に入れた、普段なら絶対に食べられない高級洋菓子。店頭で包んで貰う所から屯所の冷蔵庫に入れるまで絶対にコイツの手には触れさせなかったというのに。そうして絶望の相を見せていた神楽に、沖田は一つの問いを投げた。「お前、俺が何もしていないって言ったら、信じるか?」神楽は視線を床から沖田の顔に移した。一体何を言っているのだろうこの男は。からかわれているのだろうか。しかし、沖田の顔は変わらぬ無表情のままで、神楽には本気で何を考えているのか分からず、得体の知れない不気味さを覚えた。「信じるわけ無いアル」「これでもか?」神楽の迷い無き答えに沖田の右手が差し出された。神楽は気がついていなかったのだが、どうやら最初から持っていたようでその右手には何やら大きめの紙袋が握られていた。「・・・何アルか」そう言って神楽は若干袋の前で身構えたが、どうやら中身を見ろという事らしい。一体何を見せようと言うのだろうか。受け取る前に紙袋の中を上から遠巻きに覗いてみると赤と白のチェック柄の包みが見えて、神楽は想像を膨らませた。あの可愛らしい袋で誤魔化しておいて、中から虫の大群が出てきたりするのではないか。しかしここで受け取るのを拒んだら後で不意をつかれるのではないかと考え、細心の注意を払いながらその紙袋を受け取り中から包みをだし、ふんわりと結ばれたリボンを解きにかかる。袋は大きさに反してとても軽く、うごめいているという訳でも無い。そうして開いたその先にあったものは、神楽の想像した何とも違っていた。「・・・何アルかコレ」「見りゃわかんだろィ」神楽は袋の中のそれを手の中に持って硬直していた。真っ白で長い耳があって、ふわふわの手触りだった。顔といい大きさといい、神楽が幼い頃実家で飼っていた定春1号によく似ていた。違う所といえば、定春1号は生き物で、今手にあるものは作り物だという事くらいか。だがやはり要領を得ない。これを自分に渡して一体どうしようというのか。「ッ!!まさかお前、この中に更に何か仕込んで・・・!?」「ちげーっつってんだろーが!いい加減信じやがれィ!!」「じゃぁ何で・・・」「いいから受け取っておけや可愛くねーな」本当に何もしていないなどという事はこの男に限ってあり得ないという事を神楽はよく分かっていた。絶対に何か裏があるに決まっているので、ここで負ける訳にはいかないと思いつつ、神楽は体中に走った寒気と鳥肌を抑えることができずに、元いた部屋に向かって全速力で走った。「銀ちゃーん!ドSが!ドSがァ!!」神楽と入れ違いで部屋に戻ってきていた妙を交えて新八と3人で話していたところ、襖を蹴破るようにして部屋に飛び込んできた神楽に銀時は立ち上がった。「どーした神楽」銀時の腰にしがみついてきた神楽はうろたえた様子で騒いだ。「何かアイツ気持ち悪いネ!何か渡してきたネ!どーいう事アルか!?」「渡された?」「もしかして、コレの事?」新八の問いに、座っていた妙は目の前に現れた銀時の体に巻かている神楽の手の先に握られていたそれを見て言った。「そう、これ・・・!!」と神楽が言いかけて銀時と新八にそれを見せようとした瞬間いつの間にやってきていたのか、沖田が神楽の手に握られていたそれを弾き飛ばし、それはたまたま換気の為に開けていた障子の向こうへと飛び出し、屯所の庭の暗がりの中へと消えた。「おまっ・・・、何考えてんでさァ!!!!」「お前が変な事してくるからいけないネ!何アルかあのぬいぐ・・・」「わーーーーーーーーーーー!!!」沖田は大声でそう叫ぶと同時に神楽の口を鷲掴みにして塞いだ。それと同時に庭へと飛んで行った何かを拾っておいてあげようと純粋な善意から動いた土方に向かって片手で脇差を投げ飛ばし、それは土方の髪を数本切り落として壁に刺さった。「あっぶねーな何すんだテメェ!!!」「うるせェよ土方ァ!余計な真似してんじゃねェ!!」と、沖田が珍しく声を荒げている間に神楽は口を覆われていた手に思い切り噛み付き、沖田は痛さの余り咄嗟に手を離すと、すかさず振り上げられた神楽の拳をかわして身を屈めた。「どうしたんだ総悟のやつ」近藤がそう呟いた横で銀時は二人の戦闘を見ながらふと思い至る。「何?え?もしかして沖田くん何か買ってくれたりしちゃった訳?マジで?」銀時は口を覆いながらそう言ったものの、抑えきれない様に空気が指の間から吹き出しにやにやと心底面白そうに自分を見ていることに気がついた沖田は神楽の攻撃をかわしながら言い返す。「それは、旦那が・・・!!!」「え?何?何の話?」「俺?俺が何よ?何か言ったっけ俺?」何て腹の立つ顔をしているのだろう。今すぐ状況を理解していない近藤の横にあるあの顔面を、砲門に詰めて何処か遠くへ飛ばしてやりたいと沖田は思った。そんな事を考えて気が逸れた所為か、神楽の蹴りをもろに頭に食らって部屋の隅へと吹っ飛んだ沖田の様子を見て、銀時は神楽に近寄った。「で、何貰ったんだ神楽、教えろよ」「マジで気持ち悪いネ。えっと・・・」神楽が身振り手振りを交えながら、今度は近藤や土方も含めて全員で庭先の方を覗き込み始めた所を攻撃からようやく立ち上がった沖田は後ろから突っ込んで神楽だけを脇に抱えて外に飛び出し、例のものを取ってそのまま逃げようとしたところ、後ろから銀時と土方にがっしりと捕まえられてしまった。「オイオイ、うちの神楽ちゃん何処に連れて行こうっての~?」「いけないなァ人様の娘さんに嫌がらせしちゃぁ。しっかり詫びねェと総悟ォ・・・」こんな時ばっかり相性良くなりやがってと沖田は心の中で思った。普段の鬱憤をはらすチャンスとでも言うつもりか。まるで水を得た魚のように活き活きとし始めた土方に、沖田はこの窮地を乗り切る方法が思いつかなくて目をぐるぐると回した。に続きます。
2011年12月23日
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※「銀魂」二次創作です。【Why don’t you give love on X’mas day?】「・・・向こうは賑やかだなぁ」屯所の一角から聞こえてくる騒ぎの音に、山崎は一人自室で呟いた。今夜は土方が近藤の方につきっきりだと思われたので、近藤主催のその会が始まった丁度その頃にこっそり屯所を抜け出して、局中法度に違反となる漫画雑誌を急いで買ってきては自室に籠り、一緒に買ってきた菓子やら何やらとを片手に摘みながら山崎は娯楽に勤しんでいた。普段の男所帯に比べれば大分静かな方であるとそんな騒音も特に気にする事もなく雑音程度に聞き流していたのだが、そんな平和な時間を破ったのが一つのインターホンだった。自分が出なくてもどうせ誰か出るだろうと思って無視していたが、一呼吸置くごとに繰り返されるインターホンの音に山崎は一人相撲を始める。ここで自分が出て行ったら、多分これからずっと自分がインターホン係になるのだ。これ以上地味に面倒くさい役割が増えるのは真っ平だ。何より今夜は寒い。動きたくない。そう考えて出来るだけ粘っていたのだが、インターホンは規則正しい間をおいて鳴り続け、寧ろもう怪談のように思えて恐くなってきたので、山崎は痺れを切らして玄関に向かった。自室から結構な距離がある玄関までの道すがら、一体見張りは何をやっているんだ。インターホンとか鳴らす前に見張りが気がつくだろうに。と、そんな事を思いながら外へ出てみると、サボりなのか何なのか知らないが見張りは一人もおらず、代わりにメイド服の女性が一人立っていた。長い髪を頭の後ろで一つにまとめ、更に三つ編みにしている綺麗な人だった。「あ・・・す、すいません遅くなって・・・」「夜分遅くに申し訳ありません。こちらにお邪魔している万事屋のご一行に届け物を頼まれて参ったのですが」彼女はそう言って手の中の風呂敷を山崎に見せた。彼女はとても抑揚の少ない話し方をした。「あぁ、ハイ。来てると思いますよ。今呼んで・・・」と其処まで言いかけた所で屯所の一室から奇声を交えた破壊音がした。爆発音と同時に煙も上がっているように見えて、山崎はぐっと言葉を飲み込むと「良かったら俺、渡しておきましょうか?」と言った。すると彼女は少しの間考えた後風呂敷を山崎に差し出し、ぺこりと頭を下げた。「では、お言葉に甘えて。よろしくお願い致します」山崎がその風呂敷を受け取る際、彼女の指と山崎のそれが僅かに触れた。その瞬間山崎は比喩では無く、本当に氷を触ったような印象を受けた。そのまま別れの挨拶をして歩き始めてしまった彼女の後ろ姿に山崎は思わず声をかける。「ちょ、ちょっと待ってください」その言葉に振り向いた彼女の全身を改めてよく見てみれば、襟の開いた極端に短い丈の着物を着ていて、靴下との間に見えるのは紛う事なき肌色。首に何か巻くで無く、手に何かはめるでなく、上着の1枚も羽織っていない。およそ冬の寒空にする格好では無い。加えて彼女は山崎に渡した風呂敷の他に何一つ荷物を携帯しておらず山崎はまさかなと思いつつ、その憶測を彼女に確認してみた。「えっと、もしかして・・・歩いて来たんですか?こんな寒い中、一人で?」「はい」彼女は表情を少しも変える事なくそう答えた。まさかの憶測が当たってしまい、山崎は少々驚きつつ更に尋ねる。「家、近いんですか?」「歌舞伎町です」いよいよ山崎は面食らった。歌舞伎町までの距離を歩いてきた事もさることながら、たった一人で来たというのだから。あの界隈は物騒な人種の溜り場と言っても過言では無く、女一人で、それもこんな美人がこんな格好をして歩いていたら目を付けてくれと自ら言っているようなものだ。寧ろよくここまで無事に辿り付けたものだと山崎は感心してしまった。「えっと、アレなら送って行きますよ?パトカーですけど」「ご心配には及びません」「でも、じゃぁバスとか電車とか・・・使わないんですか?」「徒歩の方がオイルがよく温まるので」「オ、オイル?オイルって何?いや、でもやっぱり一人は危ないですよ。あの辺はには刃物持ってるような輩だってゴロゴロいるんですから襲われでもしたら・・・」「大丈夫です。硬さには自信があります」「そういう問題じゃなくて」「では荷物の方、よろしくお願い致します」「え?あ、ちょっ・・・!」何だか話が噛み合わないままもう一度丁寧に頭を下げて歩き始めてしまった彼女を追いかけようと思うも、山崎自身も外の気温に適した格好をしていた訳ではなかったのでこのまま出る訳にもいかず、何より預かった荷物をまず万事屋に渡しに行かねばならなかったので、山崎はとりあえず屯所の中に走って戻った。その頃当の屯所の中のある一室では、銀時が後ろから妙に頭をはたかれた所だった。「いい加減にしなさい全く。小学生ですか」部屋の中は2回目の戦争といったところで、庭から神楽を連れて逃げようとしていた沖田は銀時と土方に無理矢理中に引きずり込まれた後バズーカを乱射し始め、その流れ弾に直撃した近藤は無残にも畳の上に黒こげで横たわり、続いて刀を取り出した沖田は現在神楽と室内で喧嘩中だった。その間にも何が壷に入ってしまったのか沖田をからかい続ける銀時を最早白けた目で見つめる新八と土方は、それに終止符を打った妙を心の中で賞賛した。「いやだってまさかアイツが・・・つか何食べてんのお前」頭を擦りながら妙の方を振り返った銀時の目に映ったのは小さなスプーンで口に何かを運ぶ妙だった。「ハーゲンダッツアイス抹茶味。近藤さんがくれたんです」「マジ?俺も食う!!他に無いの?」一瞬にして沖田の事を忘れ去った銀時の脳内は今糖分の事で占められており子供のような声でそう尋ねた銀時に、妙はつんとそっぽを向く。そして新八の方に振り向くと満面の笑みでもって「新ちゃん、これで1年は困らないわよ♪」と言った。近藤から貰ったというのが若干気に食わなかったものの妙が近藤を相手にする訳が無いし、これは儲け物だと新八も喜ぶと「やりましたね姉上!」と返事をした。土方はその姉弟のやり取りを眼前で見ていたが何だかいたたまれなくなって、せめて近藤が気絶していて良かったと思い、煙草の箱を取り出しながら縁側の方へと姿を消した。そんな土方の様子に気づくことすらなく銀時は妙に詰め寄る。「1個くらいくれてもよくね?」「嫌ですよ。1個で済むわけ無いもの」「いいじゃん1年分もあるんだから10個や20個貰ったって」「そんなに取るつもりだったんですかアンタ」耳垢を掻き毟りながら最早アイスにしか目がいっていない銀時に新八が言うも聞こえているのかいないのか、何の反応も寄越さない銀時にはきっと隣で行われている激しい戦闘の音も届いていないのだろうなと新八は思った。「おーたーえー」「しょうがない人ですね。一口あげるからコレで我慢なさい」「え?」新八は自分の目の前で起きている状況に目を見張った。何とあの姉上が木でできたスプーンに他でもないハーゲンダッツを乗せて銀時の顔の前に差し出しているではないか。あのハーゲンダッツをである。1年分もある所為か、少々気前がよくなっているのだろうか。「ケチくせぇ女」「何ですって?」「え?」新八はその間で眼鏡を掴めそうな程深い皺を眉間に刻んだ。今までハーゲンダッツに気を取られすぎて気づいていなかったのだが妙が差し出しているのはそれまで妙が使っていたスプーンである。そして今銀時が口に含んだのは紛れも無いそのスプーンである。「何してんですかアンタら」呆気に取られて暫く言葉を失っていた新八だが急に冷たく低い声でそう言った。「何が?」二人して揃って不思議そうな顔をこちらに向けたことに新八は腹立たしさを覚えた。何がじゃないだろう。何をハモってるんだお前らは。「いや、それ間接・・・」とそこで新八は思い留まった。二人とも大層考えの浅い人間だから、多分何の意味も無い行為だったのだろう。ここで間接なんたらだとかどうとか言って騒ぎ立ててみろ。経験が無いどころか中学生かと銀時に馬鹿にされるだけだ。だが腑に落ちないのには自身の姉である。幾ら水商売をしているからと言って恋愛経験値的には自分といい勝負では無いか。少しくらい意識したってよさそうなものだが何も無いというのか。僕が変なのか?それが単に妙が銀時の事を男として見ていないという状況なら新八とて別に何とも思わなかったかもしれないが「もう一口」「嫌です」という会話を繰り広げている二人の様子はどちらかというと熟年夫婦のそれである。というかもう簡単に言ってしまえば顔の距離が近い。側で口を開けて待っている銀時を無視して黙々とアイスを食べる妙に遂に強行手段に出た銀時は口に運ばれる寸前のアイスを横から顔を突き出して掻っ攫った。その直後に妙からの鉄拳を銀時は受ける羽目になっていたけれども、それすらも何だか面白くないこの釈然としない気持ちは一体何なのだろうと考えていた時、突然部屋の襖が外から開いて山崎が中に入ってくると「新八くんハイこれ!万事屋に届け物!渡したからね!」と急いだ様子で風呂敷包みを新八の手に押し付けると襖も閉めずに部屋から走り去ってしまい、突然の事に混乱しているうちに新八の目の前では妙が銀時のこめかみをグリグリと拳骨で押していて「痛い痛い痛いごめんて!痛い!」というやり取りを繰り広げており、単に妙が銀時に暴力を振るっている状況に過ぎない筈なのに、新八は自分自身訳も分からぬまま物凄く不機嫌になった。に続きます。
2011年12月23日
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※「銀魂」二次創作です。【Why don’t you give love on X’mas day?】四方八方何処を見回しても暗闇という状況を船の計器を頼りに、目的地に進んでいた快援隊の船は間も無く取引先に到着しようという時で、それを示すように前方には目的地であろう星の光が見えていた。地球の上で時差というものが在るように、星の間でも時間の概念というものは変化する。地球では現在夜のはずだが、快援隊の取引が始まるのはこれからだ。これから待ち受ける長丁場に備え仮眠を取っていた陸奥は重い瞼を持ち上げた。陸奥は起き上がると同時に坂本のことを思い出し、此処まで来れば幾らなんでも大丈夫だろうと、船員の一人に自室に閉じ込めたままの坂本を呼びにいくよう告げた。「寝てたら殴ってでも起こせ」そう告げられた船員の一人は坂本を呼びに管制室から出て行ったがほんの数分もしないうちに息せき切って戻ってきて、一言叫んだ。「坂本さんがいません!」眠気覚ましにと珈琲を淹れていた陸奥はその手を一旦休め、ゆらりと立ち上がった。「・・・何だと?」寝起きの所為か若干髪の毛の乱れた状態の陸奥の迫力は凄まじいものがあり、側にいた船員たちは坂本を呼びに行ったその船員に心底同情すると同時に、あの立場に立たされたのが自分でなくて良かったと安堵していた。「い、いないんです坂本さんが。何処にも」「それはもう聞いた」陸奥は一歩一歩踏みしめるようにしてその船員に近づいていった。船員はいつの間にか直立の姿勢で指先までピンと伸ばし、額には脂汗をかいていた。「じ、錠は一度もあけてません」「それで?」「どうやったかは・・・さっぱりなんですが」「つまり?」「出張用のバイクが一台無くなってたので・・・お、恐らくそれに乗って・・・」陸奥は暫くの間無言で立っていたが、やがて壁に一発渾身の力で蹴りを入れ船内にその音が反響して、船員たちの耳に何度も鳴り響いた。陸奥は椅子に腰掛けると静かに考えを巡らす。出張用のバイクとは、主に取引先の星に到着してからの移動手段として用いる為のものだ。最低限の装備はしてあるものの、宇宙規模の長距離に利用できるような代物では無い。それが無くなっているという事は宇宙に出る前かその直後に、それで逃げたという事なのだろう。迂闊であったと言わざるを得ない。もう一度確認すべきだった。取引先の星はもう目の前だ。今更戻る事は出来ない。予め坂本から計画を聞いていたので何とかなるだろうとは思うが何があってもこの取引をおじゃんにする訳にもいかない。会社の何たらがどうとか言うより、置き去りにされて仕事押し付けられた上に「使えない」だとか罵られたら腹立たしい上に口答えは許されず、更に陸奥自身のプライドも大いに傷つく。しかし、陸奥は腹立たしさと同時にどこか諦めたような雰囲気も漂わせていて、周囲の船員たちは黙りこくったままの陸奥に未だ怯えていたものの当の陸奥自身はと言うと既に怒りはほとんど収まっていた。というのも、坂本が仕事をさぼるのは裏返せば陸奥への信頼の大きさを表している事を知っていたからだ。自分が遊びたかったからと言って任せられる人間がいなかったなら幾ら坂本とて己の信念でもある商談を放り出しはしなかっただろう。陸奥自身何だかんだ言って坂本の事は信じているし、だからこそこの船に乗っているのであり、坂本の考えが分からない程浅い付き合いでもなければ能無しでもない。「商談はワシ一人で何とかする。その間に帰る準備しとき。終わり次第ボコりに行くぜよ」陸奥は立ち上がりいつもの調子でそう言うと、船員たちは統率のとれた覇気のある声で返事をし、舵を切った。宙を渡って空を降り、下へ下へと突き進むとやがて屯所の屋根に辿りつく。そのすぐ脇に見える黒髪に覆われた頭部は土方のものだ。近藤に頼まれて仕方なく参加していた宴会は最早ただの乱闘騒ぎ。まぁ予想はしていたが。「ったく。侍が揃って浮かれやがって」土方はそう呟くと、縁側で一人煙草を吹かした。煙草の先の火が赤く燃えて其処からじりじりと灰が屯所の庭の土の上へと落下する。「クリスマスねぇ・・・」気持ちが分からないという訳では無い。ただやはり、世間の連中のように両手離しで浮かれるかというと何だかそれは違うと感じるだけなのだ。天人が蔓延る今ではくだらない拘りかもしれないが、元々が西洋発祥の祭りであるし武州にいた頃なんていうのはその存在すら忘れていた事もしばしばだ。あの頃はこの時期というと、1年最後の締め括り。大掃除に正月の準備とそちらの方で手一杯で、剣を振る時間が減って苛ついていたものだ。暇を見つけては庭に出て、竹刀を振っていた。田舎だったから周りも静かなもので、人が家の前を通りがかるのが見えるよりも先に足音で分かったものだ。その日の足音は小さかった。それだけなら気にも留めなかったのだが聞こえる足音の数に対して近づいてくるのがやけに遅く、いつまで経っても姿が見えないので妙だと思っていたら、両手に大荷物を抱えたミツバがその荷物の重さの所為なのか、よろける様にフラフラと危なっかしく小股で歩いて来るのが見えて、土方はその姿を見るなり思わず竹刀を放り投げて門の外へと出て行った。「あ、十四郎さん、こんにちは」土方はミツバの言葉に返事をするより先にミツバから荷物を取り上げた。それは男である土方の手にもそれぞれずっしりとした重量感を与えた。こんな大量の買い物に行くなら一言そう言えばいいものを。近藤だって自分だって喜んで荷物持ちに行ったろうに。今だってもし自分がここにいなかったなら、家の前を素通りしてまだまだ歩くには結構な距離がある自宅までの道を、延々この荷物を担いで行くつもりだったのだろう。土方は自分の返事を待つミツバを前に、そう思った。「持ってってやるよ」そう言って荷物を持ちやすいように担ぎ直すと、沖田家へ続く道をさっさと歩き始める。「そんな、悪いですよ十四郎さん」「うちの前をあんなフラフラ歩かれる方が迷惑だわ」土方がきっぱりとそう言い放つと、ミツバは少ししゅんとして謝った。「でも・・・・・・じゃぁ、荷物一つ貸してください」そう言われて土方は溜息をついた。持ってやるって言ってるんだから持たせておけばいいのに。でも多分コイツの性格上それは嫌なのだろう。其処で土方は幾つかあった荷物のうち、一番小さくて軽いものをミツバに渡した。ミツバは少々不満そうではあったが、土方は無視した。ミツバもそれ以上それについて何か言ってこようとはしなかった。「一体何買ったんだよこんなに」ミツバが余り無駄遣いをする類の女では無い事を土方は知っている。加えて早くに両親を亡くして弟と二人暮らしの家では食べ物にしろ何にしろ、そもそもそんなに必要無いのだ。「色々かしら。年越し蕎麦とか、お餅とか、おせち料理の材料とか。あ、あとお掃除の道具も少し。ほら、年末年始ってお店も閉まってしまうでしょう?だから沢山買っておかないと」そう返事をしたミツバに土方は納得した。そういう事があると二人暮らしでも結構な量になるものなんだなと考えていた。そしてふと気付く。そう、ミツバは二人暮らしなのだ。ミツバの事が好きで好きで堪らず、土方の事が嫌いで嫌いで堪らない弟と二人。普段なら何処へ出かけるにもその弟が付き纏っているのに、何故今日に限っていないのだろうと思っているとミツバがその疑問を解いてくれた。「あと、そ-ちゃんが風邪ひいちゃったからお薬と」土方は再び納得した。沖田家についてもアイツには会わない様にしようと考えた。ただでさえ嫌われている上に、ミツバと一緒にいると更に不機嫌になるんだアイツは。「それから・・・これも!」ミツバの話はまだ終わってはいなかった。ミツバがそう言って先程渡した一番小さくて軽い荷物の中から笑顔で取り出したのはモミの木を象った蝋燭だった。「何だそれ」「クリスマスのコーナーに売ってたんです」ミツバはとても楽しそうにそう言って、暫くその蝋燭を眺めた後再び袋の中に戻した。何だかんだ言ってやはりミツバも女なんだなと土方は思った。自分には何が良いのかよく分からない代物だったが、ミツバの目にはどうやら素敵なものに映っているらしい。得てして女の好む物というのは無駄に華やかでよく分からない物が多い。「今日はクリスマスイブだったんですね。私ったらお正月の事で頭がいっぱいですっかり忘れてて」正直に言うと、土方もその日の存在は知っていても覚えてはいなかった。ミツバに言われるまであの蝋燭が一体どういう意味を持つのかも分かってはいなかった。でも何だかそれをミツバに言うのは少し気が引けて「侍にそんなチャラついた行事必要ねぇ」と冷たい口調で言い放った。ミツバはそんな土方の言葉にクスクスと笑うと、「お正月は必要でも?」と言って土方を見上げてきたので、土方は少し不思議がって「そりゃそうだろ」と答えると、やっぱりミツバは楽しそうに笑っているのだった。土方には何故なのかは分からなかったが、ミツバが楽しそうなのでまぁ別にいいかなどと思っていたのだが、今ならあの時ミツバが笑っていた理由がよく分かる。土方は一際深く煙草を吸いこみ、それを空に向けて遠くへ遠くへと吐き出すと雲がかった空の下で思いを馳せる。あれは一体、今から幾年前の事だったろうか。「やっぱし正月だけでいいかな」土方はそう独り言を言うと、煙草の灰をトントン、と屯所の庭に落とした。すると、その庭の塀の隙間から山崎の姿が細切れに見えた。任務がある訳でも無かったので何処へ行こうと山崎の勝手ではあるのだが、全速力で走りぬける山崎を見つけてしまった土方は思わず呟いた。「・・・どうしたんだアイツ?」に続きます。
2011年12月23日
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※「銀魂」二次創作です。【Why don’t you give love on X’mas day?】彼女と別れてから山崎は大急ぎで部屋に戻って私用の防寒着を着ると、数える程しか袖を通した事が無い、丈の長い冬用のコートを箪笥の中から引っ張りだし、ついでにマフラーと手袋を引っつかんで全速力で外へ走り出た。ところが例の彼女の姿は近くには見当たらず、唯一遠くに見えた豆粒大に見える程の影に向かってそれが彼女だという確信も得られぬまま山崎はひたすら走った。影との距離が近づくに連れてあの長い三つ編みが揺れているのが見えて山崎はそれが彼女であるという確信を得ると、後ろから呼びかけた。「ちょっ、あの・・・!すいませんちょっと!」山崎の声に気づいた彼女はゆっくりと後ろを振り向いた。その瞳に、何かを片手に抱えて息せききって走ってくる人間が映った。山崎は彼女が立ち止まってくれたことに感謝しながら前まで行くと何度か荒い息を吐いて唾を飲み込んでから、深呼吸した。「・・・どうかなさったのですか?」「い、いや、あの・・・歩くの早いですね」山崎は咳を一度すると、持ってきたコートを手で払いながらそう言った。彼女はというと山崎の顔をじっと見つめてその返事を静かに待っていた。山崎は考える。何も考えずに飛び出してきてしまったけれど一体何と言ったらいいのだろうか。言い方を少しでも間違えれば自分が変質者に早変りだ。そうして少しの間言葉を考えていたのだが礼儀正しく手を前で組んで待っている彼女の姿は相変わらず寒そうで、考えるよりも動けと開き直った山崎は、持ってきたコートを彼女にかけた。「とりあえず、それ着てください」彼女はきょとんとはしていたものの、意を唱えるでなく何か尋ねてくるでなく一つ肯定を意味する返事をして素直にそのコートに袖を通した。前のボタンまできっちり全部留め終えたその姿は幾分見た目にも暖かそうになって手袋とマフラーはいらなかったかなと思いつつ、あの氷のような肌を思い出して言う。「あの、良かったらコレもどうぞ。全部俺のですいませんけど」彼女はまた少し間を置いた後山崎の手からそれらを受け取り、装着した。山崎がこれでとりあえず一安心とほっとしていると彼女の方は今度は手袋をはめたその手を前で礼儀正しく組み、山崎を見上げている。彼女は最初に尋ねた問いの答えをずっと待っているのだと山崎は理解した。「えっと、あー、何だ、その・・・」「タマです」「え?」「私の名前はタマといいます。名乗るのが遅くなってしまい申し訳ありません」タマはそう言うと軽く頭を下げた。口籠っていたのをどうやら勘違いされてしまったようだ。つられて山崎も自己紹介を返した時、タマから何か機械のような音が聞こえた気がしたが、多分気のせいだろうと思って特に気にしなかった。「余計なお世話かもしれないとは思ったんですが、凄く寒そうだったんで・・・」「私は寒さというものを感じません」タマはやはり平淡な口調でそう言った。山崎の目にも確かにタマは寒がっているようには見えなかったが、人間の肌があんな温度をしていていい筈が無いのだ。幾ら彼女が平気と言い張った所で、身体的には絶対に平気で無いという自信があった。「す、凄いんですね・・・でも絶対風邪引きますよ」「私は風邪など引きません。ウイルスに感染する事はありますが」「じゃぁやっぱりダメじゃないですか」山崎はそう言った際、思わず笑ってしまった。今の発言といい、少し噛み合わせずらい会話といい、着ている服といい、どこか少しズレている娘ななんだなと思った。でもこんな日にわざわざ届け物をしてくれた事や、その礼儀正しい言葉遣いや仕草を見る限り、とても優しい娘なのだろうとも思った。「余計なお世話ついでに、送りますよ」「どうしてですか?」爽やかな笑顔でそう申し出た山崎にタマは即座にそう切り返してきた。予想外の答えとその反応の早さに、もしかして顔に出していないだけで気持ち悪がられていたのだろうかと山崎は急に心配になった。でも幾ら気持ち悪がられたとしても、こんな夜道を一人で帰らす訳にはやはりいかない。何とか警察という事で、受け入れてはもらえないだろうかと控えめに言う。「や、やっぱりちょっと一人で帰らせるっていうのは・・・心配なんで」「心配?」「は、はい。タマさんは女性ですし、若いですし・・・そういう人を狙った犯罪は多いんですよ、特にあの辺りは」山崎は出来るだけ警察官っぽく紳士に見えるように話したが、寧ろ意識し過ぎて変な感じになってしまっていた気がして早くもめげそうだった。タマはまた何かを考えているようだったが、山崎にはこの沈黙こそが恐怖だった。やがて口を開いたタマの言葉は、またもや山崎の予想を裏切るものだった。「山崎様と一緒に帰れば私は安全という事になるのですか?」「え!?や、その・・・絶対とは言い切れないけど・・・一人よりはずっとマシだと思いますよ?俺これでも一応侍ですし」山崎はそう答えて腰に下げた刀に手をやったが、無かった。刀は屯所に置いてきてしまっていた。馬鹿か俺は。そして部屋着に上着を着てきただけの格好であったので脇差すら携帯していなかった。もうお終いだ。「侍と一緒にいれば安全なのですね?」「そ、そうとも限らないけ、ど・・・いや、安全ですハイ。俺が護ります命に代えても」山崎は己の胸に手をあててそうきっぱりと言い放つと悲観的な考えを頭の中から追い出そうとした。そう、自分は侍である。刀は武士の魂と言うけれど、刀だけが武器という訳でも無いのだ。腐っても真選組。肉弾戦だって、そこらのゴロツキなどでは到底相手にならない程の実力があるのだ。修羅場だって何度もくぐってる。敵の巣窟に単身乗り込んだ事も一度きりでは無い。こんな女の子一人、護れないでどうする。そう山崎が決意を固めるてと、タマは丁寧に礼を述べた後更に続けた。「私が何かお役に立てることはありますか?」「え?タマさんが・・・ですか?」「はい。何もありませんか?」「えっと・・・」「私も何かお役に立ちたいです。私はその為に作られたので」山崎は少々驚いて何度か瞬きを繰り返した。タマは別に冗談を言っている風では無かった。寧ろこれまでのどの表情よりも真剣に見えて、其処には確かに揺るがぬ信念のようなものが感じられた。山崎はふと、微笑んだ。その理由の一つに、どうやら嫌われていた訳ではなかったようだという事。二つ目に、やはりこの娘はとても良い娘なのだな、と感じた事。一風変わった雰囲気の娘ではあるけれど、人を優しい気持ちにさせてくれる娘だ。「・・・俺、人よりちょっと心配性なんです」山崎はタマに向かって、徐にそう話始めた。「ネガティブな方向に色々考えちゃうんですよね」そろそろ歩き始めないとオイルが冷えてきてしまうと心配になったが、其処は体内の機器を使って補い、山崎の言葉を一言一句漏らさず、タマはやはり礼儀正しく聞いていた。「そんな訳なんで、俺が安心できるようにタマさんの家路をご一緒させて貰ってもてもいいですか?」「・・・それは山崎様のお役に立っているのでしょうか?」「はい。何よりの助けです」タマは腑に堕ちない部分が幾つかあったが、かくも人間とは不条理な生き物である事を知っていたし、目の前の人間が嘘を言っているようにも見えず、自身感情という物を持ち合わせているタマにもその気持ちは何となく理解する事が出来た。「データに書き加えておきます。山崎様は女性を自宅まで送らないと安眠できないと」「何だか凄く誤解されているように思えるのは気のせいですか・・・」山崎はやっぱり嫌われていたのではないかと再び悲観的になったがそのタマが初めて微笑んでいるのを見て、この娘なりの冗談だったのかなと思い直した。あまり身長の変わらない二人は何となく噛み合わない会話を続けながら歩き、真選組屯所を抜けた先の人気の無い道に、二人分の足音が消えていった。その時、突然自分の隣から前触れ無く声がして、阿伏兎は内心飛び上がる程驚いた。「悪ィなァ、遊んで貰っちまって」それというのも、そう言ったのが他でも無い高杉の声だったからだ。もしかしてというかやはりというか、見られていたのだろうかと阿伏兎は背筋が凍り恐る恐る己の右肩下を見下ろしてみると、高杉の目線は自分に向いてはおらず少し離れた所で遊んでいる・・・ように映ったのだろう高杉の目には。また子と神威の方に向いていた。どうやら、自分の事では無かったらしいと、まるで九死に一生を得たような気分で阿伏兎はほっと息をつき、自分も何故か高杉と武市に挟まれている状態でそちらを見てみると、神威が例のあの道具を使ってまた子に話しかけている所だった。「『ブース』」「フン!幾らそのメガホン使ったって、口調が全然なってないんスよォ!晋助様はそんなバカみたいな喋り方しねぇっス!」机の上に胡坐をかいて座っている神威とその白々しい笑顔を小馬鹿にするように、また子は仁王立ちで腕を組み、見下しながら言った。神威はと言えば、また子の言葉に少々苛立ちを覚えたのかは傍からは分からないが一瞬両目が鋭く開いてその道具を構え直すと、今度は落ち着いた口調で言いなおした。「成程ね。じゃぁ、『気色悪ィ』」その瞬間また子の表情が凍りついたようなものに変化して、立ち姿も強気ないつもの彼女からは程遠く、震えながら己の手を耳に持って行こうとしながら最後の抵抗と言わんばかりに言い返す。「そ、その手には乗らな・・・」「『その顔、反吐が出るぜ』」その瞬間また子は耐えられなくなったのか、悲鳴を上げながら己の顔を手で覆い、その場にしゃがみ込んでしまった。それを面白がるように神威は机の上からまた子の頭上を覗き込み、その姿に更なる罵声を浴びせ続ける。「いやあああああああ!!もうやめてえええええ!!!」半泣きになった状態のまた子に絡む己が上司の姿は、遊んでいるというよりはただの苛めっ子のように見えて、阿伏兎はやはり何ともいえない申し訳の無い気持ちになった。「こちらこそうちの礼儀知らずな馬鹿が遊んで貰ってるみたいで・・・何かすいません」「若いねェ・・・」「20代が何言ってるんですか」当の彼女の上司達はと言うと心配してる風でもなく神威に怒るでも無く、高杉に至っては目の前で自分の声が遊び道具になっているにも関わらず本人は一貫してその事には無頓着のように見えて、阿伏兎にはそれが少々意外なように思えた。高杉とよく一緒にいるサングラスの男がアレで一緒に遊んでいたりしたら怒る印象があったのだが。と其処まで考えた所で阿伏兎はふと気づいた事があり、辺りを見回す。そういえば今日はあの男を見ていない。この会場のどこにもいない。これまで高杉の事も見かけなかったので、てっきり一緒にいるものだと勝手に思っていたのだが今此処に高杉がいるのを見ると、どうやらその予想は外れていたらしい。に続きます。
2011年12月23日
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※「銀魂」二次創作です。【Why don’t you give love on X’mas day?】「万斉なら今日はいないぜ」自分がきょろきょろしている様子を見て言ったのだろうが、相変わらず何で人の考えている事がこうもピタリと分かるのだろうと阿伏兎は少々恐ろしくなった。別に自分には関係の無い事なのでどうでもいいと言えばどうでもいいのだがそういう態度を取るのは何だかとても失礼な行為のように思えたし、探りを入れるでなく社交辞令にも聞こえない、相手が不快にならない程度の線上の言葉を探して言う。「仕事ですか?」「仕事つーか・・・趣味だな」高杉は少し考えながらそう言って懐から煙管を取り出すと、火種に火をつけ煙を吐く。その言葉に相槌を打つように反対側にいた武市が答える。「まぁ今日のは趣味というより、付き合いですよね」「面倒くせぇとか何とか愚痴ってきたぜアイツ。嫌ならサボればいいのによ」「そう言ったんですか?」「あァ、言った。そうもいかねぇんだとさ」てっきり鬼兵隊関係の仕事だと阿伏兎は思ったのだが、どうやらそういう訳ではないらしい。どうもこの団体は阿伏兎が他に見たことのある侍の団体とは様子が違いそうだ。皆着ている服も趣味丸出しで、誰もかれもが好き勝手やっている印象である。今のこのちょっとした会のようなものもどうやら企画された事柄ではなく、皆が折角だからと食べ物を持ち寄っているうちに何となく始まったという感じだ。どうやらこの総督さんが余り細かい事に拘らない性質の人のようだ。自分の相棒が攘夷以外に仕事を掛け持っていたら、怒ってもよさそうなものだが。「晋助さまあああああああ!!!!」阿伏兎がそんな事を淡々と考えていると、高杉の存在に今しがた気付いた様子のまた子が全速力でこちら側に走ってきて、そのまま狙い定めたように高杉の胸に飛び込んだ。高杉はその際の衝撃で少々揺れたが特に気にするでなくそのまま煙管を吹かしており、また子はというと高杉の胸板に頭をぐりぐりと押し付けてはしゃいでいる。痛くないのだろうかとその様子を隣で見ていて思った阿伏兎だったが、構う事無く武市と話を続けている高杉を見るとまぁ、大丈夫なのだろう。「ああ、やっぱり本物が一番っス・・・」また子は高杉の背中に手を回して抱きついたまま、肩に頬を乗せてとろけるようにそう言った。後ろからあの道具をそのまま手にぶら下げて、こちらに近寄ってきた神威の気配に気づいたまた子はキッと鋭い目つきで背後を睨んだ後、高杉に向き直って言う。「晋助様!また子は邪魔じゃないですよね!嫌われてないですよね!」「俺がわざわざ邪魔な奴を置いておくと思うか?」高杉が初めてまた子に目をやって言った言葉の無感情な口調とは裏腹に、煙管を持っていない方の手でまた子の頭を2回ポンポンと叩いたのを受けて、また子は心から湧きあがってくるような嬉しさを全面に見せたと同時に顔を真っ赤にして、その様子を隠すように再び高杉の胸に顔を押し付けると「・・・っまた子は一生ついていくっス!」と言いながら興奮を抑えきれないようにその場で足踏みした。そんなまた子の頭を高杉が片手間にそのまま撫でているとつまらなさそうな様子になった神威が例の道具を武市に渡しながら「随分可愛がってるんだね。頭なんか撫でちゃって」と皮肉っぽく言った。神威は顔こそいつものように笑っていたものの開いている目はとても冷たいもので、これは何だか機嫌が悪いというか、後でトバッチリを受ける予感がすると阿伏兎が心の中で面倒くさがっていると、ふと高杉が自分の方を見てきたので阿伏兎は反応に困ったが、高杉は堪え切れないように少し笑ってすぐに神威の方に向き直り「お前も撫でてやろうか?」と言った。その顔はいつもの何かを企むようなそんな表情で、また子の頭を撫でていた手を離して神威の方に伸ばしており、その手を取られてしまう危機に晒されたまた子は殺気丸出しで神威を睨んだ。「晋助でも冗談言うんだね。でもやめておくよ、そこの発情犬に噛まれそうだし」「言葉を選べこのスットコドッコイ!」阿伏兎がすかさず神威の頭を前から引っぱたくとまた子はざまぁ見ろと言った風で馬鹿にしたように神威を見ていたが、今しがた神威が叩かれたばかりの所を高杉がまた子の肩越しに一際優しく撫でてやると、また子は一瞬打ちひしがれたような表情になった後、吼えるように神威につっかかった。高杉がとうにどちらからも手を離して、余興とばかりにその様を見ている事に気づくことも無いまま二人は睨み合いを続けていた。酒を飲みながら楽しそうに笑っている高杉を見てこの人はこの人で何とも意地が悪いというか、少々性格に難のありそうな人だと阿伏兎は思った。反対側にいる武市は何を考えているかよく分からないし、今ここにいない高杉の相棒は相棒で掴み所がなくて、阿伏兎はこれから先の事にほんの少しだけ想像を巡らした後、すぐに憂鬱になって考えるのをやめた。一方、一般人とは桁違いの費用をかけて、入念な準備と共に華やかに行われていたその会場の中を隅々まで練るように歩いていたお通は、とうとう出発地点とは反対側の壁に辿りついてしまい、残念そうな溜息をついた後、もう一度探してみようと決意を固めるも昼間の仕事からずっと立ち通しだった所為もあり、どうにも疲れてしまったので少し休もうと扉を開いて外の大きな廊下に出てみると、会場の壁の外側に寄り掛かって立っている男が一人いて、お通にはそれが自分の探していた男だとすぐに分かり、疲れも忘れて駆け寄った。「つんぽさん!」会場の皆は和も洋も混ぜてそれぞれ格式ばった格好をしておりお通もそれに合わせて特注した服を身に纏っていたのだが、男はというとただのジーパンにYシャツ、私服のジャケットを羽織っているだけでとても今回の催しに気を配った格好はしておらず、挙句の果てにヘッドホンを頭に装着して音楽鑑賞をしていた。お通の声に男は振り向くもヘッドホンを外す事はせず、普通なら無礼だと怒るかもしれないが普段からそういう振る舞いをする男の事をお通はよく知っていたので何も言わなかった。「なんだ、お通殿でござったか」「どうしたんですか、こんな所で?」「いや、特に理由は無いが」当然のように男はそう答えた。元々あまり感情を表にだす類の男では無い上に目には色の濃いサングラスをかけていて、更に表情は読み取りにくい。「中あったかいですよ。それに、もうすぐ主催者からのお話があるみたいだし・・・」「拙者の知ったことでは無いな」男はさらりとそう言い放った。会場の外の廊下はとても広く、ずっと中にいたお通には些か肌寒く感じられた。椅子も無い何も無いこんな場所で一人で突っ立っていてこの人は平気なのだろうか。いや、元より中に入れば知り合いも友達もいるだろうに、何故理由も無くこんな所にいるのだろうかとお通が不思議に思っていると男がお通に向き直り尋ねた。「それより、何か用かな?」「え?」「拙者に用があったのでは?」「あ・・・、いえ、別にそういう訳ではなくて、ただ偶然見つけたから・・・」お通は口籠り、曖昧な返事をした。まさか開会した直後から探し回っていたとは言えない。お通にとっては自分を発掘し鍛えてくれた恩人とは言え、別にお通の専属の人間という訳では無いし何より多忙な男ので、仕事があっても会えない事の方が多い。何処に行っているのかは知らないが、いつも事務所に留まって仕事をしている類の男でも無いのだ。そんな男の事をお通は勝手に、自分を探してくれた時のように、新しい才能の卵を探しに行っているのだと思っていた。そんな空想上の見知らぬ相手に理不尽な嫉妬を少しばかり感じていた日々に差し込まれた一筋の光明が、今日この場で開かれている催しだった。久方ぶりに話す事が出来るのではないか。それも仕事上の関係ではなく友達のように。そう思うと日中の本業以外の仕事にも熱が入ったというものだ。別に用など無かった。ただどうでもいい雑談をしたかっただけのお通に、男は無情にもこんな台詞を吐く。「ならば早く戻ってやるといい。売れっ子がいないと興が冷めるというものだ」そして手元の電子機器に視線を戻してしまった男にお通はぐっと唇を噛んで持ち堪える。中の会場には友達もいれば、前から話してみたいと思っていた人々もたくさんいる。それでも、お通が今日この場で最も話したいと思っていたのはこの男なのだ。また偶然見つけたなどという言い訳は2度通用しないし、何より男は顔が広いので他の人間達に囲まれたら近づけなくなってしまうかもしれない。今この瞬間を除いて、男と話せる機会は他に無いのだ。お通は頭を振り絞ってこの場に少しでも長く留まる方法を考えた。「それならつんぽさんの方が私よりよっぽど売れっ子じゃないですか」よくやった、とお通は自分に言ってやりたくなった。男はお通よりもこの業界での経験は長かったし、その業績たるや右に並ぶものはいないと言っても過言では無いだろう。これなら自然に話を膨らませることが出来る。現在の仕事の話でもいい、昔の話でもいい。普段は何をしているとか、どんな趣味をしているだとか、友人なら誰もが知っていそうなどうでもいい事だが実はこの業界の誰もが知らないこの男の事を、お通は出来るだけ深く知りたかった。しかし、それだけ苦心して得た言葉とその答えに対するお通の期待の大きさを丸ごと反転して返すように「拙者は所詮裏方に過ぎぬ」と、男は答えた。お通が期待を寄せてから男が答え終わるまで、果たして3秒もあったろうか。お通は更に頭を回転させてみたもののそう簡単にいい話題が思いつく筈も無く、更に元々何かを深く考えたり策略を巡らすのはかなり不得手な方だという自覚もあったので、途中でお通は話題探しをやめ無言で男の隣の壁に寄り掛かった。その様子に気づいた男は自分よりも大分背の低い相手を肩越しに見下ろして問う。「・・・どうかしたのでござるか?」「いえ、別に」お通が淡々とそう答えると、男は些か不思議そうな顔をしてまだ自分の方を見ていたので続けて「何となく、まだここにいようかなって」と言ってみると、納得したのか特に返事をする事も無く男は自分の作業に戻ってしまった。しかし、お通を追い返すこともしなかった。お通は男に気付かれないように、時々横目でその姿や、手元の電子機器に映っている画面を見ていた。に続きます。
2011年12月23日
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※「銀魂」二次創作です。【Why don’t you give love on X’mas day?】「・・・お餅にお蕎麦にコタツに蜜柑・・・気をつけないともっと太っちゃいそう」「・・・別にいいんじゃねぇのか」沖田家までの家路を半分程過ぎた辺りでミツバがそう言って自分の腹の辺りを抑えたので、土方はかなり本気でそう答えた。ミツバの体は他の女達と比べても更に細い。今はまだそれでも普通に見える範囲に留まっているが、これ以上痩せてしまったらそれこそ骨と皮だけになってしまって、素敵というよりは病的に見えるような気がした。「全然良くないですよ。こーんなになっちゃう」「・・・なる訳ねぇだろ」自分の体の周りでぐるりと大きな円を手で模って見せたミツバに土方は心底呆れ返りながらそう答えた。そして再び思った。これだから女というやつは。誰もかれも必要以上に見た目ばかりを気にし過ぎて、何だかおかしな事になってしまうのが関の山。過ぎたるは及ばざるが如し。という言葉をきっと知らないのだ。「あります」普段はどちらかというと気弱というか、少なくとも強気な女では無い。控えめで人の後ろに一歩下がってるような、古風な所がある女である。そのミツバが口調を強めてそう言い切った事に土方は益々呆れ返り好きにしてくれと思ったが、ことミツバの場合はそうも言えない気がしてすぐに思い直した。太れとは言わないが、どうか妙な考えは起こさないでほしいと思ったものの女というのはこの手の話題にひどく敏感であるので、地雷を踏みかねない。褒めてみれば嘘をつくなと言い、けなしてみれば怒り出す。何とも面倒くさい。ミツバの場合はあからさまに表に感情を出したりはしないだろうが、心の中で傷ついてしまったなら同じ事だ。そんな事を考えていると、隣でミツバが土方に言った。「十四朗さん、私の事ガリガリだと思ってるでしょう」その言葉に土方はミツバに目線をやった。つま先から頭まで、これがガリガリでなければ何だというのだ。体の厚みは薄い。顔は小さく首は細い。手首も細ければ指まで細い。体中のどこを見ても身長以外自分の半分も無さそうで、今にも血管が浮き出てきそうだ。風が吹いたら飛んで行ってしまいそうでもあり、重い荷物を持たせたら折れてしまいそうでもあり。おまけに色素まで薄いので、理性では馬鹿な考えとはわかっていても何だか目を離したら消えてしまいそうで正直恐ろしくもあった。確かにミツバからしたら自分は気を使い過ぎなのかもしれないが。「ガリガリじゃねぇか」土方がそう答えると、ミツバは何も分かってないんですね、とでも言いたげな憂鬱そうな顔をした後自分の体に目を向けると、少しだけしょぼくれた様子になった。「服の上から見てるからそんな風に思うんですよ。脱いだら大変なんですから」ミツバはそう言って自分のお腹の辺りを軽く擦っていた。もうほとんど成長は終わっているとは言え、成人していないミツバの体は未だ変化の段階にあった。脂肪を蓄えようとする体に対する女の悩みは男には中々理解し難いものだろう。隣を歩いていたのが家族や女友達だったなら、どうやらミツバの一番の悩みは自分の腹部にあるようだと当然思いもしかしたら脂肪の付きにくい食べ物の話でも始めたかもしれない。だが今日隣を歩いていたのは土方だった。土方はそれどころではなかった。「こう、お腹がぽこって・・・」ミツバが溜息をつきながら悲しそうに手で小さな丸を作るような仕草をして土方を見上げてみると隣で土方は物凄く不自然に顔をそむけており、ミツバの方に土方の長い髪が垂れ下がっていた。「十四朗さん?どうしたんですか?」ミツバがそう聞いてみても返事は無く、ミツバが少し回りこんで顔をのぞきこもうとしてみると土方はそのままミツバに背を向けてそれを逃れた。「何なんですか?」そう言って少し楽しそうにミツバがその顔を見ようと土方の周りを一周程したが、頑として土方は顔を見せてはくれなかったのでどうしたものかとその後姿を見てみると、土方の耳たぶが真っ赤に染まっている事に気づいた。この寒さの中をずっと歩いてきたからなのだろうが、この仏頂面な御仁もこんな風になるのだなぁと親近感を覚えると同時にその様子が可愛らしくさえ思えたミツバは、特に何の意図も無く、口をついて出ただけの言葉を放った。「十四郎さんたら耳が真っ赤ですよ」しかしその言葉を言い終わるや否や土方は一番近くに生えていた針葉樹に思いっきり頭を打ち付けていた。「ぬあああ!!!!」そう叫んだ土方の声に驚いたのは勿論だが、何よりその行動にミツバの思考は止まってしまった。反応できなかったのだ。しかしすぐに我に帰り、そのまま何度も木に向かって頭を打ち付けている土方の傍らに駆け寄ると、ミツバは精一杯の声を出して土方の行動を止めさせようとした。しかし土方はミツバが己の隣に来たことが分かると、あっけなくその奇行を中断した。一体どうしてしまったのだろうかとミツバは少々怯えてもいたものの土方を心配する気持ちの方が大きく、不安げな顔で自分より背の高い青年を見上げた。「あ、あの・・・」「どこが赤いって?」平然とそう答えた土方だがその顔中、主に額には木のささくれがつけた傷痕から血が細い噴水のように噴き出していた。「その、お顔が・・・」「赤くなんてねェ」土方は強い口調で即答した。ミツバはやはり少々怯えたがそのまま言葉を続けた。「いえ、あの、赤いっていうか、血塗れ・・・」土方の額から噴出した赤い噴水はその顔を伝い、鼻の両脇を通って顎まで垂れ、そのまま重力に従って地面に落ち道の子砂利に赤いシミをつけた。ミツバはぎこちない手つきで懐から手拭いを取り出すと腕を思い切り伸ばして土方の額に当てた。とりあえず元を断たねばと思って行ったに過ぎない行為で、ミツバはそのまま血が止まるまで、せめて固まるまで抑えていなければならないと思った。少し踵を宙に浮かせめいいっぱい手を伸ばしていたミツバの様子に気づいた土方は、少し頭を下げてミツバが楽になるような体勢を作った。ミツバが土方に手拭いを渡せばいいだけの話だったのだが、なにぶん二人とも気が動転していたので、その解決策は思いつかなかったようだ。額を押さえるミツバの手の平が土方の顔の前にかざされて、ミツバから土方の目が見えなくなっている状態が無言で続いていた時、土方が唐突に言った。「ごめん」ミツバは手でその額の手拭いを抑えたまま遠慮がちに聞き返した。「な・・・にがですか?」それは口が裂けても言えなかった。男なら誰でも一度はした事のある夢を服の下に馳せてしまっただけだったのだが些か窮屈なくらいに侍たるは何たるやを追い求める土方としては、失態であった。だが、それよりも大きな理由があった。土方はそれまでずっと瞑っていた目を開いた。するとミツバの指と指の隙間の奥に、何を言われているのか分からないでいる様子のミツバが見え、その余りに汚れの無い、純真無垢で、優しいその姿が目に眩しくて、再び目を瞑った。土方は下賎な想像をした数分前の自分を戒めた。とてつもない大罪を犯した気分だった。「悪かった。本当に」他の女ならいざ知らず、ことミツバが相手となるとそれは許されないことのように思えたのだ。そんな自分の心に気づくことすら無いミツバの様子は土方を安心させると同時にその良心の呵責を極限まで引き起こした。申し訳なさに恥ずかしさ、そして自己嫌悪に苛まれて穴があったら入りたい気持ちになっていた土方の頭部からミツバの手が離れたことが、その感覚で分かった。額の血は止まっていた。土方が目を開けてみると其処には何の障害物にも遮られないミツバの姿があったが土方が無意識にミツバを凝視していたのとは裏腹に、当の彼女は土方の顔に少し爪を立てて鼻の脇、唇の脇と、乾いてパリパリになった線状の血の痕を取ってくれていた。その眼差しは真剣そのもので、土方はミツバの顔の距離の近さとその指の感覚に我に帰ったものの動くことは出来ず、不自然な姿勢のまま体を硬直させていた。鼻の息遣いがミツバにバレるのではないかと思って息さえも止め何処を見ていたらいいのか分からなくて、偶然近くを通り過ぎた鳥を目で追った。「ふぅ、全部取れた」そう言ってミツバが土方の顔から指を離した時土方は窒息寸前だったが使い所を間違えた根性でもってミツバにバレないように少しずつ息を吸い込んだ。息を止めていた所為なのか、または別の理由か。土方の頭部には重力に反して血が集まっていて、顔が全体的に赤くなっていた。「大丈夫ですか?」ミツバがそう言った。何故そう問われたのか土方には分からなかった。何か挙動不審な所があったのだろうか。それとも、単に先程の奇行を指して言っているだけなのだろうか。そんな考えが自己嫌悪と共に土方の脳内を縦横無尽に駆け巡ったが、答えが出る前に無意識に頷いていた土方を見て、ミツバはホッとしたような笑顔を向けると「じゃぁ、行きましょうか」と言って再び足を一歩前に出した。それに土方も続いたが、ミツバを隣にその心中は決して穏やかでなく、これだから女は嫌いなのだと自分に言い聞かせた。虫も殺せないような顔をして、ここまで自分を追い込むことができるのだから。そんな事を考えながら、少し伏せがちに歩いていた土方の首筋に何か冷たいものがあたった。何かと思って首を触ってみたが何も無い。妙だと思ったその時、「あら?」というミツバの声が聞こえてそちらを見ると、隣でミツバが空を見上げていた。に続きます。
2011年12月23日
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※「銀魂」二次創作です。【Why don’t you give love on X’mas day?】「降ってきちゃいましたね」そう言った山崎の額に、小さな粒が付着した。ずっと歩いていた所為かそれ程寒さは感じなかったが、空は違ったようだ。いつの間にか星が姿を消し不穏な陰が空を覆った反面、白く美しい結晶がぱらぱらと舞うように宙を落下した。「もうすぐ着くから大丈夫かな・・・」独り言のようにそう呟いた山崎の言葉に隣の歩いていたタマはただ頷いた。どれ程歩いたろうか。二人はやけに明るく下品な賑わいを見せる繁華街を出た所だった。その区域から一歩外に出ただけで、まるで別世界のように世界が静まり返っていた。背後の賑やかな音がまるで誘惑のように二人の耳に響いていた。そんな音から少しずつ離れ行く二人の遥か遠く、前方から一つの影が轟音と共に結構な早さで近づいてきて山崎は突然現れたその影に対しての警戒心を強め、タマより何歩分か前に乗り出し身構えた。確実に自分に向かって滑空するように近づいてきたその影に山崎の緊張は高まった。しかしその人影は二人の存在に気づくことすらなく、その頭上を一瞬で通り過ぎていってしまった。「おりょーうちゃーん!!!待っててー!!!アッハッハッハ!!」男はその乗り物から所狭しと溢れる程に積まれた花束とプレゼントに埋もれていた。山崎とタマは一瞬目を疑ったが、「彼」にしては少々近代的過ぎる。髪の毛は茶色く髭も無い。鈴の音の代わりに聞き苦しい騒音があり、彼の乗るそれは動物ですら無かった。一体何処からやって来たのだろうか。彼はさも陽気な様子で高らかに笑っていた。二人が振り向きその後ろ姿を目で追うと、その背に丈の長い真っ赤なコートが棚引いていた。その姿がそのまま見えなくなっても、二人は暫く呆気に取られて空を見つめていた。彼の姿はまるで降誕祭に欠かせない存在であるあの老人のようでもあり、二人は顔を見合わせた。「何と言うか、その・・・随分とおかしな奴がいたものですね」山崎はそう言いながら思わず吹き出してしまった。まさか本当にいる訳は無いのだ。かつてはそんな事を夢見た時期もあったが、今はもうそんな事を信じられない汚れた大人になってしまった。しかし、そういえば子供の頃に読んだ絵本の一つに、「彼」は実は一人きりではなく、沢山の「彼」が分担して世界中の子供達に幸せを届けに行くのだと描いてあった事を山崎は思い出した。今空を通り過ぎた彼はそのうちの一人だったのだろうか。何ともまぁ、ハイカラな奴がいたものだ。年甲斐も無くそんな事を考えていた山崎の隣でタマが「現代のサンタクロースは随分とハイテクなのですね」とまさに自分が考えていたような事を言ったので、何だか可笑しくなって笑ってしまった。「どこの企業からの派遣者なのでしょうか」折角夢のある雰囲気だったというのに、一瞬にしてブチ壊しな発言をかますタマに山崎は少々面食らいつつも、やはり楽しそうに笑いながら答えた。「宇宙からでもやって来たんじゃないですか?」するとタマはその言葉に深く頷いて、突然淡々と機械のように分析を始めた。「その可能性は高いと思われます。彼が乗っていた物は従来の中型自動車に改良を施して短距離の宇宙空間飛行を可能にしたもので・・・」彼女から流れ出る情報は留まる所を知らず、山崎はコレは失敗したと思った。まさかこんな方面の趣味を持ち合わせていた娘だったなんて。人は見た目によらないとはよく言ったものだと思った。正直山崎自身は車だの機械だのには余り興味が無く、仕事で使う程度の事を押さえておくくらいに過ぎなかったのだが、切れ目無く離し続けるタマは少しはしゃいでいるようにさえ見えて「お詳しいんですね」と時々相槌を打ちながら、新鮮な気持ちでタマの話を聞いていた。やがて時々見かける万事屋の本店前に到着した。タマがその階下のスナックの扉を手にかけた事から、山崎は初めて万事屋とタマの関係を理解した。此処で働いてる娘だったのか。そのスナックには明りが灯っていて、中からは主に男たちの騒ぐ声が聞こえてきた。降誕祭というよりは、年末の忘年会といった雰囲気だ。「どうもありがとうございました」タマは建物の中に入る前にそう言うと、山崎に深々とお辞儀をした。「いえ、こちらこそ有難うございました。これで安眠できます」山崎はそう冗談を言って笑うと、タマも少しだけ微笑んで山崎を見つめ返した。「少々お待ち下さい」タマはそう言うと山崎を一人外に残して建物の中に入っていった。中に動く人の影達が次々とタマの名を呼ぶのが聞こえた。どうやらタマは評判の看板娘のようだ。そりゃあそうだ。美人だものなと山崎は思った。タマを呼ぶ声の中にはこの店の女将さんと思われる人の言葉もあって、山崎はこの家でのタマの事に色々と思いを馳せながら待っていた。やがてすぐに、タマの長い三つ編みが歩くのに合わせて揺れているのが影でもよく分かって、山崎はそれを目で追った。影が扉の前に来るとその扉が開き、タマが姿を現した。そして山崎が貸した上着やら防寒具やらをまるで新品のように折りたたんでその手に乗せると、山崎に尋ねた。「お借りしたこちらはどのように致しましょうか。洗濯してお返ししようと思ったのですがもし山崎様が今からお使いになるのでしたら・・・」それを受けて山崎は少し考えた。それ程強くないが空からは雪が降ってきている。この粒の大きさを見る限り相当に気温は低そうだし、確かに屯所に帰る頃には今の格好では辛くなっているかもしれない。それに何より任務の際に無いと困る。寒さに凍えていては監察の仕事など出来はしない。そう結論付けた山崎は、コートだけをタマに預けてそれ以外の防寒具を受け取った。すぐに装着したが、つい数分前まで彼女が身に着けていた筈のそれらは箪笥から出したばかりのように冷たくて、山崎はまた少し心配になった。果たしてこれらをタマに着けた意味はあったのだろうか。そんな事を山崎がもやもやと考えていると、更にタマは手に握った1本の傘を山崎に差し出した。「私の算出したデータによると雪はこれから強まるとあります。どうぞお使いください」傘はとても女の子らしい可愛い柄だった。タマにとても良く似合っていた。「あ、どうも有難うございます。でもこれ・・・」「お登勢様に買っていただいたものです」「あ、いやそういうことじゃなくて、返すのは・・・」「返却はいつでも結構です。銀時様たちがお帰りになる際に預けてくださっても構いません」山崎はそれを聞いて少しの間考えた。確かにそうするのが一番早い方法だろうか。だがしかし、それではもうこの娘に会えないではないか。山崎はそう思った。「・・・そうですね、でもそれは止めておきます。アイツらに渡すと、壊れちゃうかもしれないし」山崎のその言葉にタマは首をかしげた。山崎は上階の看板を見上げるとタマに向き直り少し笑いながら「いつでも騒ぎの真ん中にいるような連中ですから」と言った。「確かに万事屋の事件遭遇率は他に類を見ない高さです」冷静にそう答えたタマに、山崎は思う。市中を見回っているだけでコレだけよく関わり合いになる万事屋だ。こんな傍に住んでいたなら一体どれだけ多く彼らの騒動に巻き込まれてきたのだろう。もしかしたら本当に一人で帰しても平気なくらい、実は強い娘だったのかもしれない。だが、ソレとコレとは関係ない。山崎はタマという娘にもう一度会って話がしたいと素直に思った。「ちゃんと自分で返しに来ます。コートもその時頂きますよ」山崎はそう答えてタマの手から傘を受け取ると、その場でバサリと広げた。傘の骨までタマのように華奢な姿をしていた。部屋着に上着を羽織り、首にマフラー、手には手袋と寒さ対策を済まして刀の代わりに女物の傘を肩に担いだ山崎の姿に「道中お気をつけて」と言って送り出してくれたタマに山崎は軽く会釈しながらお礼を言うと、そのスナックを後にした。曲がり角を曲がるときふと後ろを振り返ると、タマがまだ店の外で自分を見送ってくれていた事に気づき、山崎はタマに見えるように大きめに手を振った。向こうでもそれに応えたのが見え、山崎は曲がり角を曲がった。だんだんと強まる雪が、山崎の肩上でくるくると回された傘に弾かれて、地面に飛ばされた。に続きます。
2011年12月23日
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※「銀魂」二次創作です。【Why don’t you give love on X’mas day?】その頃屯所では、お待ちかねと言わんばかりに冷蔵庫から高級菓子を取り出した銀時が、幸せをかみ締めるように眼前の豪華な洋菓子たちに手を合わせていた。哀れにも近藤が沖田の爆撃の負傷から目を覚ますことは無く、そんな彼の様子を最早誰も気にも止めていなかった。神楽と沖田は視界の端の方で未だ争っていたし、土方は何処かへ行ってしまってその姿は見えなかった。洋菓子を切り分ける為に妙が包丁や皿を持ってきている横では、新八が山崎から預かった風呂敷の中身を確認していた。「銀さん、タマさんに頼んでおいたコレ、何か中身が増えてますよ」新八は荷物の中をのぞきこんでそう言ったが銀時は目の前の洋菓子に夢中で上の空だった。「ババア共が何か入れてくれたんじゃねぇの?ならいいじゃん別に」「そうですけど・・・」中には自分たちが用意したものと些か雰囲気の違うものが入っていたので新八は少し腑に落ちない様子だったがまぁいいか、と思い直すと風呂敷を部屋の隅に置いて、いざ洋菓子を切り分けんと腕まくりをした銀時に目をやった。「はい、どうぞ」そう言って妙が銀時に包丁を手渡すと、銀時は膝立ちになって上から覗き込むようにして、洋菓子に中心から切れ目を入れた。妙がその下で洋菓子の土台を押え、銀時が切りやすいように回転させる。「えーと、四つでいいんだよな」「何言ってるんですか。七つですよ」新八が見ている横で二人はケーキを挟んで押し問答を始めた。「え?何で?」「銀さんこそ。どうしてそんな数字が出てくるんですか」銀時は包丁に付着した生クリームを手で掬い集めて口に運びながら、ふと部屋の端の方に転がっている近藤を見ると再び妙に向き直って、心底驚いた様子で言った。まるで狂人か何かを見るような目つきだった。「お前まさか、アイツらにも分けてやるつもり?」「当然でしょう。お金出してくれたのは向こうなんですから」きっぱりとそう言い切った妙に銀時はいやいやいやと首を横に振り、妙がそれに対して同じ様に首を横に振る。「依頼を受けたのはこっちだぜ。このケーキは俺たちのもんだろ」「別にいいじゃないですか、こんなに沢山あるんだから」「アイス二口しか寄越さなかった奴がよく言うよ」「それとこれとは全く別の話です」「何が違うっつーんだよ」新八は二人の間に挟まって、どちらかが口を開く度にそちらの方へ視線だけを移動していた。その新八の表情がまるで寺門通を応援している時のように強張っていて普段ならそれが自分の仕事と言わんばかりに口を挟んでくるのに、それが今に限って貝のように口を噤んでいる事に二人は気づいていなかった。「本当は俺ホール食いしてーんだぞ?それを涙をのんで四等分してるっつーのにコレ以上分割するなんて暴挙だぜ暴挙!」「屁理屈こねるんじゃありません。卑しい考えは捨てなさい」「卑しくて結構ですぅ!俺は今日この為だけにこんなムサい所に来たんだからなァ」「礼には礼を尽くせと言っているんです」「いいやこれだけは譲れねェ!」「いいから早く七等分なさい!」妙が強い口調でぴしゃりとそう言い放つと、銀時はたじろいで思わず首を縦に振ってしまった。実際に戦う段になったら自分の方が強いという確かな自信はあるのに、何故かこうなった妙に銀時は勝てた例が無い。今までに一体何度この手で可哀想な卵を食べさせられた事だろう。そう、いつもは人に無理矢理食べろと押し付けてくるくせに何故今日に限って食べるなと言ってくるのかこの女は。しかし銀時は既に心の中で自分の敗北を認めていた。尻に敷かれるとはきっとこういう事なのだろうと無意識に思った。「ちゃんと均等に切って下さいね。じゃないと一番小さいのを銀さんに回しますよ」と言って最初と同じ様に銀時が切るのに合わせて台座をくるくると回す妙に監視されながら、銀時は泣く泣く洋菓子を細かく切り分けた。そんなしょぼくれた様子の銀時に妙も少し気を悪くして言う。「そんな顔しないでくださいよ。まるで私が悪者みたいじゃない」銀時はそれに返事をする代わりに恨めしそうな目をして妙を見るとボソっと何かを―恐らくは低俗な悪態だろうが―呟いて包丁についた糖分をまた指でかき集めていた。全部の洋菓子を均等に切り分けると妙がそれらを一人分ずつ、皿に綺麗に取り分けた。取り分けた真選組の分を机の真ん中に置いてから銀時を振り返ると、もう既に自分の取り分の半分以上を口の中に運んでしまっていて食べ終わってしまう事が悲しいのか、まるで捨てられた子犬のような目をして、それは何とも言えない悲壮な面持ちであった。流石に妙も何だか可哀想になって自分の取り分に目をやる。万事屋が真選組の金で購入した洋菓子は全部で五つだった。その五種類が1/7ずつそれぞれの皿に乗っている。銀時、新八、神楽、妙がそれぞれに好む味を神楽が前もって聞いておいたおかげで、中には妙の好物もちゃんとあった。最後の一つは定春の分と言って、やはり神楽が選んだものだろう。当の定春は人間の食べ物になど興味を示すことはなく部屋の隅で眠っていたが。ともあれ、銀時がどうとか関係なく、妙はこれは食べきれないなと思った。そういう事態は予想の範疇だったので、その分は持って帰って食べようと新八に頼んでちゃんとタッパーも持参してきたのだが、少し気が変わった。「銀さん」妙がそう呼びかけた先で銀時は既に全て平らげてしまっており、その様子に妙は少々呆れたような表情を見せたが、銀時はもう慣れっこだったので特に気にしなかった。「口開けてくださいな」「はぁ?」妙は銀時がそう言って開いた口の隙間に、自分の分の洋菓子の一つに乗っていた苺を押し付けた。銀時は少し驚いた様子ではあったが、そのまま舌で苺の全体を口の中に回収するともごもごと口を動かしてそれを食べた。「私は二つも食べれば十分ですから、残りは銀さんにあげます。それまでちょっと待ってなさい」「マジで!?ありがとう!!」途端に子供のように明るくなった銀時に釣られて、妙は思わず笑ってしまった。普段からこのように素直だといいのだが。ふとそう思ったのをきっかけに洋菓子の端を食器で少し取ると、もしかしたら食いつくかもななどと思いながら銀時の顔の前にそれを持っていってみると、予想外の結果が起きた。脇から新八の手が伸びてきて、妙が持っていた食器をそれについた洋菓子ごと吹き飛ばしてしまったのだ。理解が追いつかず妙と銀時が驚いた様子で揃ってそちらに目をやると、其処に拳を握り締めた新八が顔に影を作って、禍々しい気を放ちながら立っていた。「お前らなぁ・・・・・・」飛ばされた食器は―運が悪いとしか言いようが無い―近藤の額に見事に刺さっており、銀時の胃袋に入るはずだった洋菓子は無残にもその顔の上に落ちた。その事に気づいた銀時が妙よりもいち早く我に帰り憤慨して新八を戒めようとしたが、それは新八の激昂によって封じられた。「僕は認めん!!認めんぞおおおお!!」新八は鬼のような形相でそう叫んだ。いつに無く荒々しい弟の魂の叫びの矛先が自分にも向けられている事に妙は心底困惑しながら、何とかそれをなだめようと新八に話しかけてみたが、新八は大粒の涙を浮かべて叫んでいるだけで取り付く島も無かった。一体どうしてしまったのだろうかと銀時と顔を見合わせた時新八の後ろから神楽が勢いよく飛び込んできて、やはり大きな声で言った。「ずるいネ銀ちゃんも姉御も!私も食べるアル!!」「おめーがいつまでも喧嘩してっからいけねーんだろうが」「心配しなくてもちゃんと取ってあるわよ神楽ちゃん」妙が笑いながらそう言って神楽をなだめながら、その分の皿を前に持ってきてやると銀時が何かを思い出したようにポン、と手を叩いて立ち上がり、新八が部屋の隅に置いておいたあの風呂敷を持って戻ってきた。「危ねー危ねー、忘れる所だったぜ。ちょっと待て神楽」洋菓子にかぶりつこうとしていた神楽に銀時はそう言うと、その風呂敷の中から更に大きな袋を取り出した。「じゃーん」風呂敷の中に無理矢理丸めて詰め込まれていたそれは、袋というよりも大きな靴下のように見えた。パンパンに膨れたその靴下を銀時が神楽に渡し、神楽が驚きと喜びの入り混じった表情で中を覗きこむと靴下いっぱいに緑色の箱でお馴染みの酢昆布が詰め込まれており、その中に時々申し訳無さげに色鮮やかな飴などが入っていた。「私達(※新八を含む)から神楽ちゃんに」「ばあさん達とかも何か入れてくれたみてーだけどな」微笑んでそう言った銀時と妙の両方に神楽は抱きついた。「ありがとう銀ちゃん!!姉御!!」はしゃぐ神楽に銀時は更に懐から何かを取り出し、神楽に渡した。それは靴下に比べると余りに素っ気無い代物だったが、神楽はやはり目を輝かせてそれに飛びついた。ほんの数枚の紙きれではあったが、其処に並んでいた手書きの文字列は遠い星から娘に送られた父の言葉に他ならず、神楽は菓子の存在も忘れて一心不乱に読みふけった。「やっぱり最初に私達の方、渡してよかったですね」神楽を間に挟んで妙は銀時にそう言うと、銀時は微笑みながら軽く頷いて神楽の頭を撫でたがその事にすら気づいているのかいないのか神楽の目はひたすらに紙面を追っていた。やがて読み終えたのか顔を上げると神楽は満面の笑みで、その口から少しだけ笑い声が漏れた。「良かったわね神楽ちゃん」そう言って神楽に洋菓子を渡した妙は、姉というよりは寧ろ母親のようにすら見えて、神楽が喧嘩から戻ってきた所為か目を覚ました定春が近寄ってくると、神楽はその毛皮にうもりながら口いっぱいに食べ物を頬張った。その様子はまるで一つの家族のようでもあり、銀時と妙は神楽の様子に満足したのか顔を見合わせて笑った。「僕は!!絶対に!!認めないからなあああああ!!!!」そう叫んだ新八の背後の方角には幾つかの軽い怪我を負った沖田が疲れた様子で座りこんでいて、最早自分の存在そのものすら忘れたようにあっち側でよろしくやっている神楽に沖田は立ち上がった。冷静に部屋を見回せば自分と神楽が暴れたおかげであちこちに穴が空いておりいつの間にかうっすらと地面に積もっていた雪の様子が見えた。そして、いつ撃ってしまったのだろうか、本当なら今夜の主役であった筈の近藤が黒い煤まみれで額に傷を負って転がっている姿も確認した。「あーぁ」沖田はぼそりとそう呟くと喧嘩のトバッチリを受け、屋根裏部屋に何年もの間放置されたような風貌に変わって畳の上に転がっていた「それ」を手で掴んだ。慣れないことはするものではないと今日ほどに思ったことは無かった。自分には必要ないし、こんなに汚れてしまっては返品という訳にもいかない。今奴等が自分を見ていない事は寧ろ好都合だ。このまま自室に戻って捨ててしまおうとそう考えて、沖田はそっと部屋を出た。に続きます。
2011年12月23日
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※「銀魂」二次創作です。【Why don’t you give love on X’mas day?】部屋の外からは中の物音や話し声がよく聞こえた。陽気で、華やかで、誰もが羨むようなそんな場所だった。「・・・苦手ですか?こういうの」ずっと黙って隣に立っていたお通だが、思わずそう聞いてしまった。「何が?」そんな華やかな舞台の更に中心にいる事のできる筈の男は、如何にも興味の無さそうな様子でそうお通に問い直した。「何ていうかこう・・・おっきなパーティーみたいな、集まりっていうか・・・」ヘッドホンから漏れてくる音だけでは男がどんな音に耳を傾けているのかまでは分からなかった。新しい曲なのか古い曲なのか。陽気な音楽なのか、心安らぐ旋律なのか。しかしきっとそれは、少なくともこの部屋の中に入って会場の人々と話をするよりは男にとって価値のある時間という事なのだろう。「居る人間によるな」少し間を置いた後無感情にそう答えた男に、お通は少し身震いした。男が恐ろしかった訳では無い。男の言うその「人間」の中に、自分も含まれているような気がしてしまったからだ。もしかして今この瞬間も鬱陶しいだとか、黙れだとか思われているのだろうかと一度考えてしまうともう歯止めが効かず、お通は自分自身の存在意義を頭の中で問い直した。男は普段から余り雑談というものをしない男だった。低い声で淡々とお通に必要な事柄だけを伝えるとすぐに帰ってしまい、周りの人間達ともほとんど会話をしなかった。仕事の時でさえ男にとって有益で無い話題や冗談を振掛けたなら、無視される事も珍しくなかった。裏方にも関わらず一般人の間にもその名を知らしめる大物でありながらその私生活や交友関係の一切が謎であり、近寄り難い人物としても業界の間では有名だった。少なくともお通の目にはそう映っていた。そんな男が唯一笑顔で受け答えをしてくれるのが、音楽の話だった。「つんぽさん、私また新しい詞ができたんです。今度の曲はスローテンポな感じでどうかなって思ってて。つんぽさんはそれでも大丈夫ですか?」お通は何かの強迫観念にかられて唐突にそう言った。音楽の話だったら笑ってくれる。その顔を見て、男の中でお通が決して価値の無い人間では無い事を早く確かめたかったのだ。しかし、男は笑ってはくれなかった。それどころか溜息をついて、その高い目線から真っ黒なサングラスをお通に向けてゆっくりと話し始めた。「記憶違いだったら申し訳ないのだが・・・拙者、詞が出来次第見せるようになどと主に言った事はあったか?」そう言われた瞬間、鼓動が格段に早くなったのがお通自身にもよく分かった。お通は男のそのサングラスに映る自分自身から目を逸らす事ができず、寒さに凍えた時のように歯をカチカチと震わせながら「いいえ」と答えた。「ならば、毎度律儀に拙者の所に持ってこなくても構わぬ。拙者にしても主だけを相手にしている訳ではないのだからな」男は冷たくそう言い放った。男は最早お通の方を見てはいなかった。数秒前までは男の上から自分を見下ろすその様が恐ろしくて堪らなかったというのに、今となっては男の無気力なその顔が自分の方に向けられない事の方が恐かった。落ちる所まで落ち誰にも見向きもされず、一瞬だけ掴んだ栄光に無様にしがみつく哀れな存在と思われていればまだいい方で、今壁の向こう側にいる、恐らく全員から存在そのものを忘れ去られていた時、ただ一人その存在を忘れずに迎えに来てくれたその男の眼差しから外れてしまうというのは、お通にとってこれ以上無い恐怖だった。その時点で「寺門通」という存在が終わってしまう気さえした。「い、忙しかったらゴメンなさい・・・でも、私は・・・」「作曲家なら幾らでもいる。拙者が紹介してやることも・・・」「私はつんぽさんがいいんです!」お通は男の言葉を遮って怒鳴るように言った。言い終えたその瞬間お通はハッとしたように口元を押えたが、後悔先に立たずとは当にこのこと。男はゆらりと見定めるようにお通に顔を向け、その名前を呼んだ。「は、はい」お通が蛇に睨まれた蛙のように、又は死刑宣告を待つ被告人のように手の平にじわりした冷や汗をかきながらそう返事をすると、男はヘッドホンを外し腕組みして言う。「拙者が直々に叩き込んだ筈の芸能戦術、忘れているようだから特別にもう一度教えてやろう」混乱を極めたお通は自分が何故こんなにも怯えているのか、ふと分からなくなった。男は別段怒っている訳では無い。いつも仕事で話す時と何ら変わらない。だが男の言葉には奇妙な迫力があった。口調は静かなのに、まるで戦地に赴く兵士達を?咤する時のような、そんな緊張感があった。「私情に囚われ真を見極めることを怠り、且つ可能性に目を向ける事を忘れた者はいとも容易く朽ち果てる」お通はいつの間にか下を向いていた。硬い床の上に男と自分の足があり、その大きさの差はまるで大人と子供のようだった。「そうなりたいか?」お通の頭上遥か高くからその声が聞こえたように思えた。お通は反論できず、無言で首を横に振った。男の書く曲なら全てが良いものであるという錯覚があった事は決して否定できない。実際に耳に入れる前から安心しきっていた。男に間違いは無いものだと信じ込んでいた。男に言わせればそれは信頼と呼べるものでは無く、衰退への第一歩であったのだろう。正確な年齢こそ知らないが、まだとても若く見えるその男は既に一体どれ程の戦場を勝ち抜いて此処まできたというのだろうか。「それで?」「え?」最早男と共に仕事を出来る日にも終わりが来てしまったのかと、いや、自分から終わりにせねばならないのかとそう考えて胸が熱くなっていた時、少し男の声の調子が変わった事に気がついて思わず見上げてみると、男は笑っていた。音楽の話をする時にだけ見せる、あの顔だった。「その詩とやらは、今持っているのでござるか?」男は変わらずお通を見下ろしていた。お通は少しの間その状況を認識するのに時間がかかったが直後、途端に笑顔になると大きく息を吸い込んで建物中に響き渡りそうな声を出した。「いいえ!!でも覚えてます!」「それは結構」男はお通の変わりようには目もくれずやはり落ち着いた口調でそう答えると、再び壁に寄りかかってお通の言葉に耳を傾けた。沖田は再び宴会場となっていた部屋の襖を開けた。本当ならもうそのまま寝てしまおうと思っていたのだが、どうやら携帯電話をこの部屋に忘れてしまったようで、仕方なく戻ってきたのだ。乱闘中に壊れたなら壊れたで別に構いはしないのだが、寧ろ恐いのはその逆である。自分じゃあるまいしまずは何も無いだろうが、悪用しようと思えば幾らでも出来るだけに少し心配だった。部屋の中では銀時と妙が何処から見つけてきたのか酒を飲みだしており、二人の傍には新八がいて、相変わらず騒がしかった。神楽はと言うと少し離れた所で定春の尻尾にくるまって目を閉じていた。沖田は何処かに落ちてはいないかと床に目をやりながら携帯を探して部屋をうろついていたが背後に何か生き物の気配を感じて振り向くと、すぐ後ろに神楽が立っていて沖田は内心飛び上がる程に驚いた。「何してるアルか」「そりゃこっちの台詞でィ」神楽の質問に答える事はせず、沖田はまだバクバクと動いている心臓に手をやりながら、捜索を続行した。神楽は黙ってその様子を目で追っていた。沖田はどうにも見つからない携帯に仕方なく部屋に備え付けてあった固定電話で自分の番号を回すと、庭の暗闇の方から微かなバイブ音と小さく点滅する光が見えた。どうりで見つからない筈である。きっと喧嘩の際に吹っ飛んで行ってしまったのだろう。雪は静かに、だがしんしんと降り注いでおり、これは積もるかもななどと考えながら沖田がこれで一安心と携帯を手にそのまま庭から自室の方角へと歩き始めた時、神楽が部屋の中から沖田に呼びかけた。「お前、アレどうしたアルか」「何の事でィ」神楽の表情は真剣だったが沖田は最早神楽を相手にする気は無く、トボけてそのまま歩き始めた。すると神楽は履き物も無視して庭に飛び降りてくると沖田の胸ぐらを掴んで怒鳴った。「お前今アレ探してたんじゃなかったアルか!?」「てめーにゃ関係無ェだろーが。それとも何かィ?今更欲しくなったってか?身勝手なこって」沖田は神楽の態度に心底腹が立ち、ありったけの皮肉を込めてそう言い返し、その胸ぐらを首を絞める勢いで掴んでいた神楽をせせら笑う様に見下した。何ともいい気味である。「残念だったなァ。ありゃもう二度とお前の手には入らねーよ。遠くに旅に出ちまったんでね」詰め寄る神楽に沖田は明後日の方角に顔を向けてそう付け足した。すると神楽の腕の力がみるみる弱まり、一体どうしたのかと思ってそちらを見てみると顔面蒼白になった神楽は絶望と言っても過言では無い表情を沖田に向けていた。に続きます。
2011年12月23日
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※「銀魂」二次創作です。【Why don’t you give love on X’mas day?】「まさか・・・捨てたアルか・・・?」らしくない、か細く震えた声でそう尋ねてきた神楽の目は縋るようでもあって、沖田は従来のドS精神が禍してか更に神楽を煽るように、にやりと笑みを浮かべて言った。「だったらどうだってんでィ」その瞬間神楽の拳が沖田の顔面を殴り飛ばし、沖田はそのまま後ろに吹っ飛んで庭に生える木の1本に激突し、その衝撃で枝や葉に僅かに積もりつつあった雪が全部沖田の上に降ってきた。痛い上に冷たい。そう思って雪を払いつつ背中を擦っていると神楽がすかさず飛び込んできて沖田を地面に押し倒し、そのまま無言で拳を振り続けた。完全にポジションを取られてしまった沖田は抵抗する事すら難しく何とかその腕を押えようと思ったものの、それもかなり難しかった。「ちょっ、待ちなせェ!!落ち着け!」手を顔の前にかざして攻撃の直撃を何とか避けながら説得を試みるが、神楽は聞く耳持たず攻撃の手を緩めるどころか、これまでに幾度となく繰り返した喧嘩のどれとも違う、桁外れの本物の殺気を感じるようになって何かヤバいと本能的に察知した沖田は叫んだ。「俺の!部屋、にある!!」するとピタリと攻撃が止んで沖田が恐る恐る腕をずらしてみると血走った目をした神楽が拳を空に振り上げたまま硬直したように動かなくなっていた。沖田がそのまま待ってみるも一行に動く気配が無いので仕方なく「とりあえず、どいてくれねェか?」と言うと神楽はハッとしたように立ち上がって、沖田が体の泥や雪を払うのをそのまま見ていた。沖田が髪についた雪交じりの湿った泥をガサガサと掻き散らしながら歩き始めると、神楽はそのまま無言で後を着いて来た。何だかいつもと大分違う様子の神楽に少し恐怖の入り混じった困惑を抱えたまま部屋に辿りつき、庭から障子を開けて中に入ると、そのゴミ箱の中に捨てられた汚いそれを摘むように取り出して、神楽に見せた。「ほらよ」そう言って沖田がそれを投げると、神楽は両手でそれをキャッチした後マジマジと眺めた。その課程であの殺気が少しずつ収まって、すっかり普段の神楽に姿を戻すと神楽は白かったはずの外観が汚い茶色に変わったそれを胸に抱きしめて頬擦りした。「良かったアルな・・・!!もう少しで焼却炉行きだったアル・・・」まるで人間に言うようにそれに向かって話しかける神楽に沖田はまたもや調子を狂わされ、どんな反応をしたらいいのか見当もつかず、かと言ってからかう気にもなれずただ黙ってそれを見ていたが、やがてボソリと独り言を言った。「・・・そんなに気に入ってたんなら最初っから素直に受け取れや」それは確かに独り言だったのだが、この狭い部屋ではそれでは済まされない。しっかりと神楽の耳には届いて、神楽は昼間と同じ、敵を見る目つきで沖田を見た。だが一方沖田はと言うと最早それに対抗する体力は残っておらず、その場に疲れた様子で腰を下ろすと、汚れた上着を部屋の隅の方に放り投げた。「お前が持ってきた物なんて、素直に受け取る訳無いネ」「・・・ケーキ」沖田は立てた膝の上に手を置いて部屋の壁に寄りかかると、相変わらず敵意をぶつけたままの神楽に向かって一言、そう言った。「何か入ってたかよ」「・・・・・・・・」「入ってなかったろ」沖田は無言の神楽にそれだけ言うと、大きく深い溜息をついて天井を向いた。壁に沖田の脳天が当たるゴン、という鈍い音がした。そのまま何も喋らなくなってしまった沖田の隣の壁に、人が一人座れるくらいの隙間を空けて、神楽も腰を下ろし壁に寄りかかった。そして沖田の方に遠慮がちに顔を向けて言う。「・・・何か、病気でもしてるアルか?」「まだ言うかテメェ」沖田は覇気の無い声でそう言うと、そのままズルズルと壁を滑り落ちて畳の上に転がった。神楽が座った視点から転がった顔を見下ろしていると、沖田は手探りで近くに落ちていた愛用のアイマスクを拾い、頭に装着しながら言った。「安心しろ。もう二度と頼まれたってしねーよこんな事」そのままふざけた寝顔を晒している沖田から目を離し、神楽は手の中にあるそれを色んな角度から眺めてみた。最初に見た時よりはやはり汚れてしまっていたが、洗えば大丈夫かな、などと考えた。「お前の所にいるんじゃこの子が可哀想ネ。仕方無いから私が貰ってあげるアル」「1回くらい素直になってみやがれクソガキ」「死ねハゲ」「ハゲてねェし」死人のように真っ直ぐ体を伸ばし、胸の前で手を組んで転がっている沖田と不毛な言い争いを繰り広げる神楽は、ようやく普段通りの雰囲気に戻れた事にお互いどこかホッとしていたが、お互いにそれを知る由も無かった。神楽はもう一度手の中のそれに目をやり、やはり定春1号に似ていると改めて思った。昔を思い出しながらその頭や背中をゆっくり撫でた後、作り物とは分かっていてもあの苦い経験から、優しく優しく抱きしめて言った。「お前は気持ち悪いけど、この子を選んだ所だけは褒めてやるネ」「ドウモアリガトウゴザイマス」沖田はそう答えた。雪は穏やかに、だが着実にその量を増して、屋根の上には少しずつそれが積もり始めていたが電飾で彩られた賑やかな街を意気揚々と闊歩する人々は、その事にはまだ気づいていなかった。既に真夜中近いというのに人足は衰えるどころか、その数は増すばかりでそんな外界の様子をまるで異世界を見るような気分で全蔵は眺めていた。「にしてもこの街はいつにも増して賑わってんじゃねぇの、日輪さん」「聖夜だからね」日輪は意味深な目つきをして、笑いながらそう言った。「いいねェ、俺もこんな別嬪さん達じゃなくて醜女に囲まれて騒ぎてェわ」全蔵が嗜む程度に酒を飲んでいるその横で、日輪は今夜とは縁の無いしめ飾りを手に、少しほつれてしまった稲を直していた。だからと言って今夜の為に何もしていなかった訳では無く、家の中は晴太の手作りを思われる物体の周りを囲むように丸い輪状の飾りやヒイラギの葉が配置されていた。外と違って派手過ぎず、とても良い雰囲気にまとめられていた。流石は花魁と言うべきか。きっと四季の移ろいや祭り事には敏感なのだろうなと、家業と気ままな一人暮らしがたたって、それらを見過ごしがちだった全蔵は思った。「あら、職務放棄?」「いえいえ。仕事はきっちりやるタイプだよ俺は」そんな会話をしていると、家の奥から晴太がこちらに向かって走ってきた。阿国はその後ろをたどたどしくついて来ていた。二人は、夕飯の片付けをしてくれていた。それが今終わったという事なのだろう。夕飯を作るのは全蔵がやった。一人暮らしだが育ちが良い所為か舌が肥えていたので、料理の腕はそれなりに高かった。とは言えあまり凝ったものは作ってやれなかったが、それでも皆喜んで食べてくれたのを見て普段自由気侭な生活を謳歌している全蔵も、たまにはこういうのも悪くは無いと少し頬が緩んでしまったのは本人だけの秘密である。「母ちゃん!ケーキ食べようよー」「ハイハイ。それじゃぁ奥から持っておいで」子供二人で後片付けをするのはさぞ大変だったことだろうと考えながら全蔵は子供たちを見ていた。日輪は見ての通り少々家事に支障を来す体をしているので、晴太は普段から手伝いはよくしてくれる子供ではあったようだが、阿国はその名の通り度を越した箱入り娘だったので、恐らく初めての体験で戸惑った事だろう。いや、それすらも初めから見えていたのだろうかと思い直したが、普通の子供のように髪をまとめて腕まくりをしている阿国自身が達成感を感じさせるとても満足げな表情をしていたので、どうでもいい事か、と全蔵は考えるのをやめた。夕飯を食べ終えてから既に相当な時間が経っていて、菓子をこれから更に胃袋に詰めるには奇しくも丁度いい具合だった。子供たちが包丁と皿、そして買ってあった洋菓子を持ってやって来て、日輪がそれを切り分ける役目を負った。「アンタも食べるでしょ?」「頂きましょうかね」全蔵がそう日輪に答えると、日輪はそれを八等分して、まず子供たちに配った。余った分はきっと後日、子供にやるつもりなのだろう。阿国が帰る時には何か菓子でも買って渡してやろうかとそれを見て全蔵思った。「ちょっと全蔵!アンタいい加減にしなさいよ!後でその痔爆発させるわよ!!」全蔵が人数分を皿に取り分けて自分もまず食べようかと思っていると、疲労した様子の猿飛がそう叫んだ。味方と油断させて近づき不意をついて連れて来た猿飛だったが、全蔵の拘束技術に不備は無い。抜けられる筈が無い事を本人が一番分かっているであろうに、猿飛は数時間に渡って抵抗をやめようとはしなかった。そのうち諦めるだろうと高をくくっていたのだが、どうやらこの女の最早執念とも言えるその気持ちは本物だった。初めは我関せずだった全蔵も次第に少し猿飛の事を気の毒に思う様になってきていたが、仕事は仕事と割り切って依頼人を裏切るような真似はしなかった。全蔵は壁に張付けられていた猿飛の方に顔を向けると少し遠くにいる彼女に言った。に続きます。
2011年12月23日
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※「銀魂」二次創作です。【Why don’t you give love on X’mas day?】「悪ィな。恨むなら依頼した万事屋を恨め」猿飛はとにかく憤慨した様子で、動かない体全部を使ってその怒りを表現していた。悔しそうな声をあげ、体を揺することで何とか出来ないかと何度も試した手を再度試みるものの、全蔵の仕事は完璧としか言いようがなかった。「ツッキー!!」猿飛は遠くの椅子に腰掛けている月詠の後ろ姿に助けを求めた。これも既にやり尽くした戦法だったのだが、他に手がなかったから仕様が無い。月詠はと言うと、数時間ありとあらゆる手を尽くして状況の打開を試みていた猿飛とは全く異なってずっと己の膝の上に手を置いて、机の傷を見つめていた。全蔵を初め、この場にいる猿飛以外は皆彼女にかける言葉が一つたりとも見つからず、月詠が元来気を使われたり慰められたりするのが苦手な性質である事も加わって皆極力彼女に関わらぬよう努めていたのだが、流石にいたたまれなくなったのか、晴太が月詠の分の皿を持って隣に駆け寄った。「月詠姉・・・ケーキ食べない?」月詠は普段の三倍はゆっくりとした動きで晴太の方に顔を向けると、静かに首を振った後その申し出を断った。人事ながら心えぐられかねないその光景に、全蔵の脇で不安げな顔をした阿国が月詠と全蔵を交互に見ていた。唯一何ともなさそうな様子でいたのが日輪で、手に持った皿を持て余していた晴太と月詠の間に入るとそのまま無言で月詠の顔を自分に引き寄せ、何度かその肩を撫でてやった。月詠はやはり何も言わなかったが、その後ろ姿から一度だけ鼻を啜る音が全蔵の耳に届いた。しかし同時に全蔵の背後からは猿飛が未だ不屈の精神で蠢いており、全蔵はその様を見て、依頼内容が猿飛でよかったと心から思った。いや、月詠だったらそもそも万事屋の連中から依頼なんて来ないか。月詠が相手だと色々な意味で遠慮してしまいそうだが、猿飛なら躊躇無く縛り上げることが出来る。それはきっと幼馴染な所為でもなく、同僚だからという訳でも無く、コイツの性格によるものだろう。コイツなら何をしたってめげないし、少しくらい挫けた方が良いのではないかと思うくらいに挫けない女だった。「まぁ、また来年頑張れ」全蔵はそう言うと猿飛の肩に軽く手を置いた。そう、コイツなら来年と言わず年明けから甦ってくるだろう。全蔵は振り向いて再び月詠の後ろ姿に目をやった。彼女は決して弱い心の持ち主という訳では無いのだが、どうにも少し図々しさというものに欠けていそうだ。果たして万事屋の心を射止めることが出来るのはどちらなのだろうか。それともどちらにも無理な話なのか。はたまた、三人目、四人目がいたりするのだろうか。・・・有り得ない話では無いなと全蔵は考えた。「・・・中々に修羅場だねェ」野良猫の自分としては巻き込まれるのは真っ平だったが、傍から見ている分には中々に面白い。そう思って思わず声に出してしまったその言葉に、ずっと全蔵の脇でその袖を摘んでいた阿国が尋ねる。「どういう意味じゃ?」全蔵は傍にあった座敷席に腰を下ろすと、阿国の頬についていた食べかすを取ってやりながら答える。「お前さんにはまだちょっと早いかもな」すると、奥から月詠がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。そして全蔵と阿国に軽い挨拶を済ませた後、よく聞こえなかったが猿飛にも何か言って二階へと姿を消してしまった。普段の彼女ならいとも簡単に察した事だろうが、今日だけは自分が皆に心配をかけている事に気づく迄に少々時間がかかってしまい、今しがたそれを自覚した月詠は皆の楽しみを邪魔したくは無いと、眠る事を口実にさっさと二階へ上がってしまった。猿飛は未だ悪態をつきながら月詠に助けを求めていたが、月詠はきっとまた一人で落ち込むのだろう。「ほんと、溜め込んじゃうんだから」日輪が困ったように笑ってそう呟いた傍ら、阿国は全蔵の袖を引っ張って耳打ちした。「あの月詠という人・・・」其処まで阿国が言ったところで全蔵は両手の人差し指で阿国の顔の前に小さなバツ印を作った後、同じ様に阿国に耳打ちする。「結末は言わないでおいてくれ。俺も楽しみなんだ」日輪や当事者である猿飛がいる手前、あまり大きな声では言えないがそれは本当だった。全蔵が自分の背中の方にいた日輪と晴太の方にちらっと目を向けながら言った言葉を聞いて察しの良い阿国は全蔵の心境を理解し、まるで悪戯でもしているような気分で何だか楽しくなってきて、同じ様に日輪や晴太に聞こえないようにぼそりと返した。「ヒントならどうじゃ?」「あ~・・・それはちょっと気になるな。でもな・・・」そう言って顎鬚を軽く撫でながら考え込む全蔵を斜め下から見上げ、阿国は表情こそ余り変わらなかったが犬が尻尾を動かすのように、その両足をパタパタと動かしているのを見て、日輪もまた微笑んだ。万事屋から全蔵への依頼の効力が切れるのは明日の朝までだ。それまでずっと此処で全蔵と話していられるのかと思うと、阿国は眠ってしまうのが勿体無くて仕様が無かったのだが、如何せん子供の体の作りには耐えられず、全蔵と話しているうちにいつの間にか眠ってしまっていた。そんな自分を抱えて全蔵が何処か暖かい場所まで運んでくれた事を阿国はうっすらと覚えていた。傍に日輪の声がして何やら話をしており、同じように眠たそうな晴太の声が聞こえ、遠くの方ではあの女の人の大きな声がする中で心地よい夢の世界へと阿国が足を踏み入れた頃、時刻は丁度真夜中を過ぎた所だった。ずっと縁側で外気に当たっていた所為かすっかり冷え切ってしまった土方は風呂に入ってから宴会場にしている部屋へと戻る途中だった。その道すがら体から湯気を立てている土方とは対照的に、鼻や頬骨の辺りを真っ赤にした山崎に出くわした。その姿を見て土方は、そう言えば何処かへ出かけていく山崎を見た事を思い出した。「何処か行ってたのか?」「え?まぁ、ちょいと野暮用で」山崎は普段通りちょっと買い物にでも行ってきたような様子でそう答えたが、土方はその手に握られていた女物の傘の存在にふと気づいた。そして再び記憶が甦る。そういえばやたら慌てた様子で走っていたなと。まぁ幾ら地味な奴とてそういう事はあるだろうと思って、土方は特に山崎を引き止めたり詮索したりはしなかった。そんな土方の心中を知る由も無い山崎は能天気な声を出して言う。「局長は少しは姉さんと仲良くなれたんですか?」「・・・なれたと思うか?」土方が冷めた口調でそう答えたのに対し山崎は申し訳なさそうな返事で茶を濁した。きっとまだ倒れているのだろう。よしんば起きたとしても、すぐにまた寝かされてしまった事だろう。土方が宴会場となっていた部屋の縁側にいた時は未だ沖田と神楽の喧嘩は続行中だったし、さぞや部屋は悲惨な状態になっている事だろう。それを考えると到底戻る気分にはなれなかったが放っておいて屯所そのものがどうかなってしまっても困るので、仕方無く部屋の方へ向かって足を出した。「はぁ・・・。そろそろ戻るか」「お疲れ様です」山崎は土方の置かれた状況を何となく理解して、心からそう言って頭を下げた。やがて土方が部屋の前まで戻ってくると、中から些か陽気過ぎる笑い声が聞こえて土方は更に憂鬱になった。しかしそうも言っていられないので仕方なく襖を開けると、予想通り気を失ったままの近藤と真選組御用達の美酒の空瓶が雑多に転がっていて、どういう経緯があったのかは知らないがお妙の膝の上に頭を乗せて転がっている銀時と、新八が新たに酒瓶を開けて飲んでいる様子があった。「アッハッハッハ何かしらこの猫ふわふわ!新ちゃんも触ってごらん!ほら!」「猫がなんらっていうんれすか!大体それ猫じゃなくておっさんらから!姉上はいつもいつも・・・!!」「何だこの枕スゲー固ェんだけど誰だこんな所に置いておいたのォ!!ゴリゴリして凄ェ痛ェんだけど!」それは完全に酔っ払いの集団であった。銀時の髪の毛を猫の毛皮だと勘違いして撫で回している志村姉と、それを何とかして防ごうとしながら結局撫で回している志村弟が銀時を挟んで向かい合っていて、4本分の手で頭をぐしゃぐしゃにされている所為で妙の足の上を行ったり来たりしていた銀時は痛そうなうめき声を時々上げながらも、時々下品な笑い声をあげていた。「ほら未成年、こっち来い。ろ列が回ってねーぞ」土方はひとまず新八の腕を掴んで自分の方に引っ張って立ち上がらせた。「なにするんれすか土方さん!僕はまだ姉上に言わなきゃいけない事が・・・!」「分かった分かったから、こっち来い」「分かってない!姉上はいつも色々無頓着過ぎなんれすよ聞いれますかァ!」「酒癖悪ィなテメー」口から強い酒の匂いを撒き散らしながら人に当たり散らしてくる新八を半ば無理矢理引き摺ると、襖で仕切られているだけの隣の部屋まで連れて行った。完全に自分に標的を変えた新八の愚痴を絶えず背後から受けそれに適当な相槌を返しながら、土方は押入れの中から布団を取り出す。二組の布団を適当にしくと、倒れたままの近藤を拾いに行き新八にも手伝わせながら布団の所まで運んだ。こんな状態でも人の事を手伝ってくれるあたり雑用根性が心底身についているのだなと土方は感心しつつ、新八が落ち着くまで少しの間愚痴に付き合ってやった。よく自分の上司から泣きつかれているので愚痴を聞くのはお手のものだった。やがて新八が勝手に喋りつかれて倒れ込むようにして突然眠ると、土方は少し疲労して立ち上がり、残った二人に目をやった。「何処から来たの~猫さん?どうでもいいけどあなた凄く臭いわねウフフフフ」「頭が万力で絞められてるみてェだどうしよう痛ェ・・・二日酔いコースだコレ」其処には顔を赤らめた妙が絶え間なく笑い声を上げながら銀時の頭を両手で掴んでおり、ココナッツでも割ろうとする勢いであった。本人は撫でているつもりのようだが当の銀時からは段々意識が遠のいていっている様がよく見て取れて土方はその二人を放っておくことに決めた。巻き添えを食うのは御免である。それでも一応傍に毛布を2枚置いておいてやった。これだけしておけば、寒くなったてとしも自分で何とか出来るだろう。そう考えていると、部屋の隅の方でクシャミをする音がしたのでそちらを見てみると、定春の声だったという事が分かった。丸くなって縮こまっていたのでそれが定春だと認識してはおらず、何だか大きい毛玉があるくらいにしか思っていなかったのだ。どうやら自分も相当疲れているようだと思った土方は定春にも上から1枚毛布をかけてやると、定春が薄目を開けて小さく鳴いたので、「おやすみ」と一言だけ言って軽く頭を撫でると部屋を出て、自室へ向かった。するとその途中で通りがかった沖田の部屋から、他でも無い沖田自身の呻き声が聞こえてきたのでそっと襖を開けてみると何とも意外や意外、其処には沖田の丁度胃の辺りに頭部を丸ごと乗せ、見た事の無いウサギのぬいぐるみを抱えて眠る神楽がいた。そういえば先ほどの部屋にいなかったな、と土方は部屋の様子を思い出した。に続きます。
2011年12月23日
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※「銀魂」二次創作です。【Why don’t you give love on X’mas day?】「やれやれ。どいつもこいつも」土方は呟いた。沖田は胃が圧迫されて苦しかったのだろう、アイマスクをしていても分かるくらい顔をしかめていて、眠りながらも何とかその状況をどうにかしようと、神楽の頭をどかそうともがいていたが尽くそれは失敗していた。仕方なく土方は起こさない程度に神楽の肩を掴んでどかしてやろうと思ったが神楽の頭はまるで鉛のように重く、無理に持ち上げようとすると沖田の腰をへし折る勢いで掴んで踏ん張っていたので、それ以上引っ張れなかった。沖田の腹を枕と思い込んでいる神楽は其処から絶対に降りようとはせず、諦めた土方は神楽にだけ布団をかけてやった。沖田にかけると神楽の顔が布団に埋まってしまうので、沖田にはかけてやらなかった。沖田は目が覚めたとしても恐らく神楽の頭をどかす事が出来なくて苦しい上に寒い夜を過ごすことになるだろう。どんな夢を見ているかは知らないが、呻いているその様子から恐らく悪夢に違いないであろう沖田を土方は憐れと思ったが、よくよく考えてみれば日頃の恨みもあった事を思い出し、いい気味だとそのまま放っておくことにした。土方はようやく自室まで辿りつくと、そのまま倒れこむようにして眠った。そう、眠った筈だった。だが違った。布団の上に倒れた筈の土方は、布団の脇に座っていた。布団の中にいたのは自分ではなく、幼い頃の沖田だった。「十四郎さん」隣にはミツバが居た。土方はあまりの事に理解が追いついておらず、ただひたすらにミツバを凝視していたが彼女がこちらに手を出していたのでふと自分自身を見てみると、ミツバと反対側の土方の脇に大きな袋が二つ置いてあって、土方自身の手には氷袋が握られていた。考える前に体が勝手に動いて、それをミツバに渡していた。ミツバが少し苦しそうな様子で眠っている沖田の額にそれを乗せてやっている所を見て、土方は思った。これは夢だ。あの日の夢を見ているのだ。久々に少し思い出したからだろうか。何とも単純な脳味噌だ。そう思って土方は少し笑ってしまったが、ミツバは隣で弟を見下ろしては、とても心配そうな表情をしていた。「大丈夫だ。俺が今日帰る頃にはピンピンしてる」土方はそう言った。するとミツバが自分を振り返り、少し不思議そうな顔をした。そんな訳無いだろう。そう言いたげな顔だった。確かに幾らタダの風邪とは言え、半日で直る程甘いものでもないだろう。かつての土方もそう思った。こんな状態なら喧嘩も出来ないだろうと思ったから玄関で帰らずに家にあがったのだ。しかし実際はというと、帰り際に土方が背後から腰にとび蹴りを食らう事になる。忘れもしない、他でも無いミツバの前で盛大に転ばされた苦い記憶だ。思えばこの頃からコイツは俺を嫌っていた。「嘘じゃねェよ」土方がミツバにそう言うと、ミツバは口に手をやってクスクスと笑った。目の前で風邪菌に侵されている幼い沖田を見ると、無理をしてでもチャイナ娘の頭をどけてきてやれば良かったろうかと、土方は少し後悔した。だが今目の前にあるこの笑顔を置いて現実に帰ってやろうと思う程、自分は優しくは無い。此処にいるミツバは最期に見た時よりもずっと幼く、幾分か少女の面影を残し、今よりほんの少しだけお転婆だった。「ミツバ」「はい」名前を呼ぶと、ミツバはさも当然のように返事をしてくれた。土方は思った。明日は出来るだけ寝坊して、少しでも長く此処にいよう。ミツバが其処にいる尊さを噛みしめながら。屯所の敷地内でも群を抜いて騒がしかった部屋の人間達が寝静まると、やがて他の部屋の明りもぱら、ぱらと消えていった。繁華街は未だ文字通り夜を駆ける人々で賑わっていたが、一般民家の区域はしんと静まり返って物音一つしなかった。雪雲の所為で月や星の位置が分からなかったが、今は一体何刻だろうか。雪は更に降り積もっていた。上を歩くと独特の足音がして其処に人間の痕跡を残したが、それも更に降り続く粉雪によってすぐに元通りになった。そんな無音の住宅地の中、一軒の民家の屋根の瓦の上に不思議な影が二つあった。それは何時間も前から其処にあって、上に雪が積もったおかげで元の大きさよりも一回り大きくなっていた。何かの飾りだろうかと見過ごす人が何人かいたが、存在にすら気づかない人の方が多かった。その影は突如其処に現れると数時間に渡り其処で息を殺していたが、突然動きだした。陰のうちの一つは人のように見えた。細身で、暗闇なので色はよく分からなかったが、一瞬だけ街頭に照らし出されたその衣服は赤かった。もう一つの陰はとても大きく、上の方の2本だけ枝を切り落としていない太くて短い丸太のようだった。二つの陰は滑るようにして頂上の屋根から一段下の屋根に降りると氷結した窓ガラスに張り付いた。二つの陰は再び其処で動きを止めた。家の中からは何の物音もしなかった。やがて大きいほうの陰がその体の中から何か道具を取り出し、無音で窓に小さな穴を開け、鍵を開けた。ゆっくり、ゆっくり。音が立たぬようにその窓をずらしていき人一人分くらいが入れる隙間が出来ると、細い方の陰がずるりとその中に吸い込まれた。窓の前にはカーテンがあり、陰はカーテンを通り抜けると中から腕だけを外に出した。それを受けて大きいほうの陰は再び自分の体の中から何かを取り出しその手に渡した後で、外の様子を見張っている。中に入った影はその家の住人の枕元に立って、住人を見下ろした。何も知らない住人は長い髪を軽く結い、真っ暗な部屋の中で静かな寝息を立てていた。忍び込んだ陰は外から受け取った何かを住人の枕元にそっと置いた。そして抜き足差し足、慌てずできるだけ静かに影は窓へと向かう。住人は温かい筈の布団の中にいたが、何故か突然寒くなって瞼をそっと持ち上げた。寝ぼけ眼で認識した景色はいつもの自分の部屋だったが、何故かカーテンがゆらゆらと外からの風に揺られて部屋の内側に棚引いていた。住人には窓など開けた記憶など無く、何か妙だと思って頭を持ち上げようとした時、突然自分の視界の中に見知らぬ影が入ってきた。背筋が凍り、住人は一気に目を覚ますと恐ろしさの余り、動けなくなってしまった。その影は部屋から窓へと向かっており、住人はその影から目を逸らせぬまま、息だけを殺していた。その影は揺れるカーテンの間に手をいれ、窓を掴んで動かした事がサッシの擦れる音で分かった。そのまま帰ってくれれば良かったのに、その影は最後の最後になって住人を振り返った。その目に映ったのは、暗闇で光る住人の二つの眼球だった。住人が起きている事にその影は気づいた。「あ」影が思わずそう声を出した時、住人の中で何かの糸が切れ、堰を切ったように大きな叫び声が夜に木霊した。それは女の声だった。影は慌てて窓から出ようとしたが思わず転びそうになった所を、外の影に引っ張り出された。住人の叫び声に近所の家の明りが続々と灯り、窓が開いて中から人々が叫び声のした家を探していた。屋根の上にいた二つの影はすぐに逃げようとしたが、大きいほうの影が瓦に積もっていた雪に足を取られ小さい方の影を巻き添えにそのまま地面へと転げ落ち、その際に今度は近隣の住人たちの耳に男の叫び声が響いた。住人の女は胸に手を当て未だ鎮まらぬ鼓動を感じながらその場にへたり込んでいた。ただの盗人だったのだろうか。命を取られなかっただけで幸運だったかもしれないと思い始め女はとりあえず自分を落ち着ける為に部屋に電気を灯し、周囲を明るくした。すると女の枕元に見慣れぬ物体が置いてあり住人に再び緊張が走る。恐る恐るそれに近づき手に取るのは避けて、それを注意深く眺めてみた。場合によっては警察を呼ばねばならないかとも思ったが、それは女の恐怖を一瞬にして消し去った。に続きます。
2011年12月23日
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※「銀魂」二次創作です。【Why don’t you give love on X’mas day?】「Dear Lady. Ikumatsu From Santa Clausじゃない桂だ」と書かれた紙が、それに添えられていた。女は脱力して再びその場にへたり込んだ後少しして、プッと吹き出してしまった。「あの馬鹿」女は笑いながらそう呟いたが、ふと外では一人の怒声を皮切りにご近所さん達の怒鳴り声やら何やらが響き始めた。「盗人だ!」「まだ転がってるぞ!早く捕まえろ!」その騒ぎを聞いて、女は慌てて立ち上がった。「大変だ」そして寝間着のまま上着の1枚も羽織らぬまま家の階段を駆け下りて、靴も履かずに裸足で外に飛び出すと家の周りをぐるりと周ってあの影が落ちた方の通りへと走った。寒さなど気にしている暇は無かった。すると通りのど真ん中に赤い服を着た男と、頭に角の飾りを二本つけた化物が気を失って倒れていた。複数の近所の家の中から幾つもの慌ただしい音や声が聞こえ、女はその男と化物の顔を同時に渾身の力で引っ叩いた。すると化物の方が先に目を覚まし、女を見上げた。化物は灯りと武器を持った人々が出てくる様子を見て女が何か言うよりも早く状況を察知し、起き上がるなり女と気を失ったままの男を一人ずつ腕に抱え大股で走り出し、角を曲がって女の家へと逃げ込んだ。女はすぐに玄関傍にあった箒を引っつかみ、雪についた足跡を消しながら元いた方角へと再び走った。すると家の角を曲がった辺りで複数の逞しいガタイをしたご近所さん達に出くわした。「おう幾松ちゃん!さっきの叫び声幾松ちゃんか!?大丈夫だったか!?」「こっちに誰か逃げてこなかったか!?」女は首を横に振った。ご近所さん達はあらん限りの悪態をついていたが、女と同じ様に薄着で外に出てきていた所為か寒くなったのだろう、盗人の追跡を早々に諦め、女をその玄関先まで送りに来てくれた。「災難だったなぁ幾松ちゃん」「戸締りしっかりな」「次何か出ても、箒で追いかけようなんて思っちゃいけねェよ」女はご近所さん達に礼を言うと、家の中に入り戸に鍵をした。振り返り女が経営する食事処を通り過ぎて奥の部屋へと行くと、気を失っていた男が目を覚まし、後ろから化物に腕を押さえつけられもがいていた。「離さんかエリザベス!幾松殿が戻る前に此処を出なくては・・・!」「もう手遅れですよ桂さん」化物はそう書かれたプラカードを掲げるとようやく男から手を離し、部屋の中に入ってきた女に男の顔を無理矢理向けさせた。「い、幾松殿・・・コレは・・・」男がたじろいだ様子でそう言い淀むのを女は制し、代わりに男の片腕を掴んだ。その腕は冷え切っていて、それこそ氷のようだった。「・・・とりあえずお風呂に入っておいで。まだお湯あったかいと思うから。どっちが先に入る?」女のその問いに化物の方がすかさず挙手し、女の承諾を受けるや否やそのままさっさと別の部屋へと行ってしまった。女は残された男が何か言おうとするのを無視して男に上着を着せ厨房にまで連れて行くと、ヤカンをかけ火の傍に立たせた。「ちょっと見てて」それだけ言うと女は二階へ上がりきちんと自分も防寒して再び下に降りてきた。火の傍に来客用の椅子を二つ運び、流しに鍋を置いて今しがた沸いたばかりの熱湯と水を混ぜて湯を作ると、男の腕をそれに突っ込ませた。男は口答えする隙も無く、女の動作に従うばかりであった。「一体何時間外にいたんだい?」女は余った熱湯で茶を淹れながらそう尋ねた。男は口をつぐんで答えなかった。男は全身真っ赤な服に身を包んでいて、頭にはやはり赤い帽子を被っていた。何処かで見た事がある格好だ。「何故・・・分かったんだ、俺だと」ようやく口を開いた男は少し申し訳無さそうにしながら女にそう尋ねた。女は男に手拭いを渡し、男がそれで手の水気を拭いた後茶を渡してやりながら、男が枕元に置いていった何かの事を思い出した。「分かるに決まってるだろ、馬鹿」女はまた少し笑ってしまったが男は心底不思議そうな顔をしていて、きっと無意識に書いてしまったものだったのだろうと女は思った。男はやはり申し訳無さそうと言うか、ばつが悪いと言うか、何とも落ち込んだ顔をしていた。白い毛皮で縁取られた赤い服に半纏を羽織っている様がひどく不釣合いで滑稽だった。「迷惑をかけてすまない。こんな筈では無かったのだが・・・」女は静かに茶を啜りながら、目を伏せてそう言った男の湯のみに2杯目の茶を注いでやった。女は今日と言う日も普段通り働いていた。一日中働いた後余った時間で毎日少しずつ進めている大掃除と年末年始の準備をしていた。一人暮らしというのは意外にとても寂しいもので、普段沢山の常連客達を相手にしているだけにそれがぱったりと止むこの時期は、女にとって余り嬉しいものとは言えなかった。よって女が経営する食事処は特に休業の予定は無かったが、当然の事ながら客足は落ちる。約束こそしていなかったが、その寂しさを埋めるようにきっと男と化物が年越し蕎麦を食べにくると思って女はその準備もしていた。だが男は店の客足が落ちる時期が来るより一足先に、女の店へやって来てしまったようだ。「本当、あんたといると、退屈しなくていいわ」女は微笑んで厨房から覗く小さな窓に目をやった。今は一体何刻頃だろうか。外はまだ真っ暗だった。街頭に照らし出された部分を通り過ぎるにだけ、雪は浮かび上がるようにその姿を現し、そして消えていった。こんな時期に雪とは少し珍しい。雪国ならともかく此処は江戸だ。空も中々粋な事をしてくれる。女はそう思った。「きっと私だけだよ。贈り物と一緒に朝までサンタさんが一緒にいてくれるなんて」雪が降る程に気温が低くなかったなら、女が寒さで目を覚ます事はなかっただろう。雪が積もっていなかったなら、男と化物が足を滑らせて気絶する事もなかっただろう。何かの巡り会わせか、ただの偶然か。ともかく今、男は此処にいる。「ちょっと慌てんぼさんだったみたいだけど」女はそう言うと男の頭から帽子を取り、その後頭部にそっと触れた。屋根から落下した時にできたのだろう。大きなタンコブが其処にあった。よく命を落とさなかったものだ。男はとても楽しそうに笑う女の様子に、思惑は失敗したものの心は軽くなった。帽子も無ければ口髭も無い、白髪でもなければ太っている訳でも無い。折角着てきた赤い服も防寒着で見えなくなっている。男をあの有名な老人と示す記号は最早一つも残っていなかったが、それでも今言うべき言葉はこれしかなかった。「メリークリスマス」「ありがとうサンタさん」女は男の頭から手を離すと、手に持っていた赤い帽子を再び被せてやった。男が枕元に置いていった贈り物は夜が明けたら男と一緒に開こう。中身はきっと変てこな代物で、女はこれっぽっちも期待などしていなかったが何故かとても楽しみだった。二人はそのまま何とも無く茶を飲みながら話を続けていた。途中湯が無くなったのでもう一度沸かして茶を淹れたり、ずっと水分を取り続けていた所為だろう、厠にも何度か行った。そのうち腹が空いてきたので、男も少し手伝いながら女が簡単な夜食を作ってそれを食べたりもした。時間が経つのも忘れて、とりとめも無い話を穏やかに楽しんでいた。「トナカイさんは随分遅いねぇ」「エリ・・・アイツはいつも長風呂だからな」―Wishing you the best and the brightest of holidays―【完】ぽっぽさん、ありがとうございました!☆(≧▽≦)☆!堪能させていただきました♪熟年夫婦なあの2人にもそりゃもうメロメロしましたが、うん、やっぱ、総悟くんファイト!。・゚・(ノД`)・゚・。 って感じで(笑)
2011年12月23日
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11月15日は坂本さんの誕生日!2日フライングですが、ぽっぽさんから坂本さん誕生日に攘夷小説を頂きました。坂本さんが戦争から抜ける時……確かにそうだよね!いろんな葛藤があったに違いないよね!と激しく納得。「ぐだぐだ言うつもりは無ェ」痩せた木々が生い茂る隙間だらけの森。細い月明かりだけが暗闇に佇む二人の青年の姿を映し出した。「邪魔なんだよ、テメェ」一人の青年は冷たい目をそしてそう言い放った。「中途半端な奴ァいらねェ。そんだけだ」「・・・何の事じゃ」もう一人の青年が、そう答えた。「自分の胸に聞いてみろ」「高杉、ワシは・・・」そう言い掛けて震える青年の声を、驚く程静かに澄み渡った声が律した。「死ぬ奴ァ死ぬ」「お前がいようといまいとな」【苦渋】「決めた。わしゃ宙に行くぜよ」眠る者。傷を労わる者。武器の手入れをする者。鍛錬に励む者。酒を交わす者。故郷の話をする者。嘆く者。祈る者。それぞれが思い思いに過ごすその空間に共通して見えるのは疲労である。傷を負っていない者などただ一人としていなかった。皆、心の奥で泣き叫んでいた。坂本はそんな叫びの脇をすり抜けるようにして、陣と陣、隊と隊を横切った。陣の末端。最も小さな戦闘部隊。味方とはいえ他の部隊からは少々浮世離れしたような未だ歴史の浅い彼らの宿営地で最初に出迎えたのは、およそ侍らしからぬ外見をした男で、石に腰掛け見た事の無い機械を手に来客者を見上げた。「夜分にすまんのー三郎くん。高杉おるか?」坂本のその問いに、その男は遠方に見える大きな岩の塊を指差した。「多分あっちの方じゃないかね」「ありがとうな」坂本が歩くに連れて徐々に木々が減り、雑草だけがうっすらと覆う荒地になっていった。恐らく幾年か前に山崩れでもあったのだろう。巨大な石がゴロゴロと転がるその場所に近づくにつれ、三味線の音色が聞こえてきた。音の方角へと近づいて行くと、岩と岩の隙間に具合良く腰掛けて、高杉が撥を手に弦を弾いていた。「高杉」坂本がそう呼びかけると高杉は目線だけを坂本に寄越した。「ワシはこの戦から離脱するぜよ」その言葉に高杉の弦を弾く手がぴたりと停止した。坂本は真っ直ぐに高杉に視線を落とした。「それを言いに来たきに」そう言った口元は僅かに微笑んでいて、爽やかとも言える笑顔をしていた。「そうか」高杉は一言そう答えると、再び目線を己の指に戻し、弦を弾いた。「・・・高杉、おんしは何で戦う?」空は満天の星空だった。盆の上に金の粉を撒いたような光景だった。「おんしも分かっちょる筈じゃ。このまま戦った所でこの戦、勝てん。幕府が寝返るのだって時間の問題じゃ。そうなりゃ全員死ぬぜよ」三味線の音色がやがてゆっくりと調子を落とし、最後の一音を弾くと高杉はそれを丁寧に脇に立てかけて、坂本を見上げた。「・・・最初っから勝てるなんざ思っちゃいねェよ」人を小馬鹿にしたように少し笑ってそう言うと、少し間を置いて、言葉を続けた。「が、『寄越せ』と言われたからといって、『ハイそうですか』って簡単に明け渡すわけにもいくまい。この城はそう簡単には落とせねェって事、奴らに示さにゃならねェからな」まるで本か何かで読んだとでも言うようにあっさりと。まるで坂本が最も望まない言葉を予め見てきたかのように意地悪く。不可解な笑みを口元に浮かべて高杉は唇を動かした。「まぁ、だが・・・大方は死ぬだろうよ」そんな高杉に憤るでもなく呆れるでもなく、ただただ静かに坂本は問うた。「それが分かっていて、まだ戦うんか?」「辰馬よ、俺ァ別に仲間の為に剣を振っている訳じゃねェ」相変わらず何処かふざけたような態度を取る高杉だったがその言葉が虚言でもからかいでもない、紛う事無き本心である事を坂本は理解していた。「先生が護ろうとしたこの国を、護ろうとしてるだけだ」そう高杉が答えたのを皮切りに坂本は少々言葉に熱がこもり、普段の飄々とした彼らしからぬ必死さを垣間見せた。「それじゃったら尚更の事、こんな戦争さっさと切り上げるべきじゃなか?もう十分知らしめた筈じゃ。いかに侍っちゅー連中が面倒臭くてしつこい連中かっちゅーのは。このまま無駄に戦力消費するより、戦略を切り替えるべきじゃ」「そうだな。本当に国と仲間を思うなら、お前の決断が正しいと俺も思うぜ」そんな坂本の熱に少しも感化される事なく、高杉は冷たく、優しく言い放つ。哀れむでもない、嘆くでもない。ただ高杉の真意が理解できないのだと、理解したいのだとそう切望するその瞳は真っ直ぐで、困惑と悲しみに満ちていた。高杉はその瞳から視線を外し、深い深い溜息をついた。「俺ァ先生の意志を継ぐと同時に、先生を殺した世界をぶっ壊してやりてェんだ」表情こそ変わらぬものの、その瞳の色は高杉にとって面白い程に変化した。困惑と悲しみから絶望へ、それは色を変えたように思えた。「お前みたいに平和的な手段を取るのは、はなから無理な話でね。俺にとって運が良かったのは、国を護る為に払うべき敵と先生の仇が一緒だったって事さ」「今戦っちょるんは天人じゃ。幕府じゃなか」そう言った坂本の口調は厳しかった。普段の彼の姿を知る者なら尚更驚いたことだろう。坂本のこんな表情を見た事があるという者が、一体どれだけいただろうか。少なくともこの時点においては、高杉ただ一人であった事に違いない。「同じことさ。お前もさっき自分で言ってたじゃねェか。今の幕府を潰した所で天人に乗っ取られるのは同じ。だったら最初から乗っ取ろうとしてる奴ら相手にした方がいいだろ?」そんな坂本らしからぬ表情を鎮める気など高杉には元より無い。「早い話、俺ァ幕府を潰してやりてェだけだ。中身が天人だろうと人間だろうと関係無ェよ」そこまで言ったところで高杉は坂本の言葉を待った。体の脇に垂れ下がった両腕の先の拳が強く握られるのが見えた。まるで今にもミシミシと骨の擦れる音が聞こえてきそうなその体から、絞り出すように坂本は言う。「・・・そんな私情の為に仲間の命を犠牲にするっちゅーんか?」坂本の体の中は熱が駆け巡っているように思えた。沸々と湧き上がる静かな怒りが抑えきれずに体外へ放出され殺気と見紛う程に鋭い感情の塊が高杉を威嚇しているようだった。周り中に刀を突きつけられたような状況の中で、高杉はその太刀先を更に己の体へと誘うように笑った。「ガキじゃねェんだ。自分の命に責任が持てねェなら抜けるなり何なりすりゃあいい。生きるも死ぬも、俺ァあいつらの意志を尊重するよ」ふ、と高杉の周りに張り巡らされていた刀が姿を消した代わりに坂本の瞳は切ないくらいの悲しみで満たされていた。「・・・わしゃおんしはもっと仲間思いの男じゃと思っとったんじゃがのう」「そう見えるか?」坂本は答えなかった。高杉も黙っていた。遠くから感じられた人の気配が徐々に消えていった。面妖な機械を弄っていた男がいたあの部隊からも物音がしなくなった。夜警の為に残された僅かな灯火だけを残して、夜に夜が訪れた。星はより一層輝きを増して瞬き、宙を回っていた。「こんな俺の勝手な私情に付き合ってくれる馬鹿共さ。好きになるなっつー方が無理な話だ」やがて高杉がそう言った。坂本の瞳孔がほんの少しだけ広がったと思うとその瞬間しゃがみ込み、高杉の両肩を強く掴んでその顔面に乱暴に言葉を投げつけた。「ならこれ以上失う前にすべき事があるじゃろ!?」坂本が肩を揺さぶるのに特に抵抗もせず身を任せ、高杉は言う。「俺ァ既に幾つもの犠牲の上を進んできた。松陽先生を筆頭にな。今更失いたくないからって歩みを止めるのは、筋違いだと思わねェか?」坂本は引き下がろうとは微塵もしなかった。困ったように笑いながら、祈るように高杉に言う。「歩みを止める必要なんぞ無い。やり方を変えたらどうかっちゅーとるだけじゃ」「アイツらも俺と同じ穴のムジナでな。平和的な方法は向かねェ連中なのさ」「考えなんて幾らでも変えられるきに!!特に鬼兵隊はのう。おんしが言えば連中は来るじゃろ!?」「そうかもな。でも同じ事だ」坂本の淡い希望を打ち砕くように、高杉そう答えた。「言ったろ?そもそも俺自身、平和的な話は無理だって」僅かに首を横に振り「何故」と訴えるその目に映る高杉の寂しげな微笑に坂本はかける言葉を失い呆然としただその手を肩から外す事だけは拒まれて、地に膝をつけたまま、高杉を見上げていた。⇒【苦渋】<二>に続きます。
2011年11月13日
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※銀魂二次創作小説【苦渋】<一>の続きです。「幸か不幸か、人の命は同等じゃ無ェ」やがて、高杉が沈黙を破った。「命を一人分と百万人分天秤にかけた時、数字だけ見れば誰だって百万人の方が重いって分かる。俺だって分かるさ」高杉が次に何を言わんとしているのか、坂本には分かった気がした。―何故戦うのか―幾度も幾度も己に対し同じ問いを重ねても決して見えることの無かったその答えに坂本の出した結論は問いそのものを否定するものだった。高杉の言う通り、蓋を開けてしまえばそれは、ひどく単純な答え。それでもその結論に至れなかったのには、理由がある。「でもな、その天秤に乗っているのが百万人の他人と坂本辰馬だった時」高杉がそこまで言った時、その肩を掴む坂本の指に力が入った。頼むからその先は言わないでくれと、その手は無言で語っているようだった。だが残念ながら、高杉はその願いには応えてくれなかった。「俺にはお前の乗った皿の方が、重く垂れ下がっているように見える」そう言った高杉の表情はこれまで見たどの表情よりも、穏やかで優しかった。坂本は無言で首を横に振った。高杉の両の肩からは手が崩れるように剥がれ落ち、それは力無く坂本の膝の上に乗った。頭を垂れた坂本の頭部はくせの強い黒髪が跳ねるように生えていて高杉はそれを見下ろして、言葉を続けた。「今も昔も、俺にゃ大義なんて大層なもん見えねェのさ。お前みたいにはなれねェ」坂本は答えなかった。「お前は凄ェと思うぜ。嫌味とかじゃなくて、本当にな」「・・・数だけ見るなんてそげな事、出来る訳無か・・・」やがて、喉の奥から無理矢理引きずり出したような声で、坂本が呟いた。「何度も何度も考えて、悩んで、堂々巡りして、ようやく決断できたと思ったきに。今のでまたぶり返してしもうたぜよ。どうしてくれるんじゃ・・・」坂本は頭を垂れたまま、苦しみ紛れに笑っていた。右手を頭部に持ってきて、髪をかくような仕草を見せたがその指には力が入り痙攣していて、手の甲には腱がくっきりと浮き出ていた。「そいつァすまなかったな。だがぶり返した所で・・・行き着く答えは、同じなんだろ?」高杉がそう言うと坂本は益々頭を掻き毟った。「アッハッハッハ、そうじゃな、そう・・・だがどうしてかの。正しい事しちょるという確信はある・・・なのに、心臓が痛くてかなわん」坂本の左手が胸部の辺りを鷲づかみにしていた。高杉は黙ってその様子を見ていた。「辛かぁ・・・まっこと、辛か」坂本は笑い声をあげながら、独り言のように何度も、何度も呟いた。「ツラじゃない桂だァァァァァァ!!!」「ううううるせェェェェェ!!!!!!」夜中に突然響いた桂の雄叫びを銀時の足が制した。桂は部屋の隅まで蹴り飛ばされ壁に激突し、隣の部屋の人間もまた、驚いて目を覚ました様子が聞こえた。「寝てる時くらい静かにできねェのかテメェは」「いや、今誰かに『ツラ』って言われた気がしてな・・・」額をさすりながら寝ぼけたようにそう言う桂に銀時は呆れたように目を泳がせて、元いた布団の中に再び潜り込んだ。「ったく。折角眠れた所だったのによォ」ただでさえ夜は色々と考えてしまうというのに。そしてその原因は隣の布団で眠る桂の寝顔の所為もかなりあるというのに。こんな事で起こされては敵わぬと不機嫌に桂と反対側の壁に向かって寝返りを打った。「時に銀時」「何だよ」銀時は苛ついた口調を隠そうともせず乱暴に言った。「お前、坂本とは話したか?」―わしゃ宙に行くぜよ―銀時の頭の中で今夜、まだ皆が起きていた刻限。屋根の瓦の上、満点の星空の元、清々しい顔でそう語った友人を思い出した。「あ?話したけどそれが何だよ」「いや、知っているならいいんだ」桂は少しだけほっとしたような口調でそう言った。暫くの間二人とも無言で空を見つめていたが、やがて小さな溜息が聞こえたと思うと桂が口を開いた。「・・・寂しくなるな」「とっとと寝ろ」早くあの特徴的ないびきが聞こえてくればいいと銀時が思ったのは十年来の付き合いで、この時が初めてだった。「ところで、おんし何であんな所ばおったんじゃ?」手ぶらの坂本の隣を、三味線を小脇に抱えた高杉が宿営地へと戻る為歩く。遠くに見える夜警の灯火を頼りに歩く二人分の足音はやけに大きく聞こえ草の擦れる音、小枝を踏み砕く音、蹴り飛ばされた小石の音が夜の闇に消えた。「お前が来るだろうと思って待ってたんだよ。人がいない方が話し易いだろ?」高杉はそう答えると、手に持った三味線を坂本の方に少し向けた。どうやら、坂本を待つ間の退屈凌ぎに持っていただけのようだ。坂本は納得したように頷くと、少々申し訳なさそうに口元をかいた。「ヅラや銀時にはもう言ったのか?」そんな坂本の様子を横目に高杉は言う。「あ?、ああ。此処に来る前にのう。銀時は話しちょる間に寝ちょったがあんのクソ野郎」坂本は己の一世一代の決心を前に眠りこけた友人を思い出し、少々彼らしからぬ毒を吐く。何か思う所があったのか高杉は少しの間無言だったが、やがて悪人面から戻らぬ坂本を引き戻すように問う。「・・・で?」「ワシが抜けること良く思わん連中もいるじゃろうし、皆の士気にも関わるからこっそり出てけヅラに言われたきに。他の連中には自分がうまく言うといてくれるゆーてな」坂本は普段皆に見せるような、陽気で、どこか人を明るくさせてくれるような軽い口調に戻りそれとは対照的な低音で話す高杉との会話を誰かが聞いていたなら、よくこの二人の間で会話が成立するものだと驚いたかもしれない。「自分は行けんからって、銀時に村はずれまで送らせる言うちょった」「ふぅん」やがて高杉率いる部隊の宿営地へと帰り着き、二人は声の音量を少しだけ落とし、皆を起こさぬよう忍び足で歩いた。それでも二人の気配に気づいた隊士達も当然いたが、くせ毛で長身の男と、三味線を抱えた影の正体に大方の見当がつき欠伸を一つこさえると、再び深い眠りについた。「ちょっと待ってろ」高杉は己の部屋の前まで坂本を連れて来ると自分だけ靴を脱ぎ捨て中に入り、何やら戸棚を開ける音と閉める音がしたと思うと、小さな布包みを手に戻ってきて、それを坂本に差し出した。「何じゃ、これ?」「お前が抜けるって決めたら、渡そうと思ってたモンだ」その包みは見た目の割にずしりと重く、何やら触った事の無い輪郭をしているようだった。くるくると布をほどいていくと、やがて拳銃が一丁、その手に乗った。それは紛う事無き新品の艶を放ち、ようやく日の目を見れた事を喜ぶかのようにその金属部分に坂本の顔を映した。「お前に刀なんて古臭ェ武器似合わねェよ。これからはそっちにしな」高杉はそう言って微笑んだ。てっきり初めて手に持った銃を物珍しそうに眺めてはしゃぐかと思っていたら坂本は手の中の銃を見つめたきり動かなくなって、はしゃぐ代わりに喉の詰まったような震えた声を出した。「・・・何でこういう事するんじゃ・・・」坂本は丁寧に銃を布に包みなおすと、それを高杉の部屋の外の廊下に置きそのまま立ち上がると振り向いて、高杉に抱きついた。「さっきからずーっと耐えとったきに、アハ、アハハハ、もう限界じゃ」高杉よりもずっと背の高い坂本は猫背になって高杉の肩に顎を乗せ、笑いながら涙を流していた。顔こそ見えなかったが恐らくいつもの如く汚らしいのだろうと高杉は思った。耳の後ろから鼻をすする音も聞こえて、高杉はなだめるように坂本の背中を両手で何度か叩くと、からかうよう言った。「デケェ図体して情けねェなァ」「うるさいわチビ」「喧嘩売ってんのかテメェ」言い返してきた暴言に少しムッとしたものの普段ならいざ知らずお互い今夜は到底怒る気にはなれなくて顔こそ笑っていたが、坂本は両の目から大粒の涙を後から後から流して言った。「別れっちゅーんは辛いもんじゃのう。涙が止まらんぜよ」「・・・馬鹿だなテメェ」「そうじゃな。おんしもな」坂本の目に高杉の顔は見えていなかったが、高杉の目尻にも少し滴が溜まっていた。「仕方無ェよ、俺もお前がいなくなるのは寂しいからな」そう言った時耐えられなくなったのか一つの滴が高杉の頬も伝い落ち情けないと自分で自分を笑いながら、高杉は満天の星空に目をやった。それはそれは美しく、果てしなく大きな世界でそれと同時に、どうしようもなく遠かった。「物凄く」高杉は瞼を下ろすとそう付け加えた。「生きちょくれ、何があっても。後生じゃ」「約束はできねェなァ」背中の腕の力が強くなって、あの軽いいつもの声が再び消え去って地上に残した最後の未練を断ち切れない、捨てきれないその言葉に高杉は冷酷な返事をした。「そこは嘘でも何か言うべき所ぜよ」「偽善者は嫌いなんだよ。ま、こんな所で終わるつもりも無ェが」坂本は高杉の背中で笑った。「銀時、まだ起きてるか?」隣の布団から、桂の声がした。銀時もまた布団の中で、桂と外からの星明りの双方に背を向けぱちりと開いた眼球を暗い壁に向けていた。銀時は身動き一つせず、返事もしなかったが、どうやら桂を欺く事はできなかったようだ。「やつの目には、何が見えているのだろうな」桂はそう言って障子に映る夜風に揺れる葉の影に目をやった。桂は半身を布団から起こし、枕元に置いておいた刀を手に、その柄から鞘の先までをじっくりと眺める。そして再び障子の影へと目をやって、刀を元あった場所に戻した。「俺にはここでやるべき事がある。今は一緒には行けないが、いつか見てみたいとは思う」ひとしきり物思いにふけった後、桂は微笑んでそう言った。そして隣に転がる銀時の背中に顔を向けて、問う。「お前はどうするんだ?」銀時は瞼を伏せ浅い溜息をつくと、抑揚の無い声で答えた。「行かねェよ」「・・・そうか。もしかしたら、と思ったんだがな」桂に向けられた背中はそれ以上何も語ってはくれなかった。「寝ろ」やはり無感情で端的なその言葉に桂は再び布団をかぶり直し、今度こそ本当の眠りについた。⇒【苦渋】<三>に続きます。
2011年11月13日
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※銀魂二次創作小説【苦渋】<二>の続きです。「いつから気づいちょった?」高杉の部屋の前での廊下に、二人はこっそり酒を持ち出して星と夜風を肴に喉を潤していた。坂本は胸の前に胡坐をかき、高杉は肩膝を立てて座っている。「ワシが宙に行こうかどうか、悩んじょった事」坂本は手元の猪口に新たに並々と酒を注ぎ、豪快に口に運ぶ。高杉は軽く口に含む程度ではあったが、それでも合わせれば結構な量を飲んでいるようだった。「さぁな。でも多分、お前が最初にその事を考えた時なんじゃねェかな」高杉がそう答えた隣で坂本は地面に向かって顔を突き出し、口からたった今飲んだばかりの液体を全て吐き出しているようだった。高杉は少々嫌そうな顔をして鼻を手で覆ったが、それに気づく様子も無く坂本は少しだけ息を切らしながら言葉を続ける。「てっきり反対されると思っちょったぜよ。それ考えてたら恐くてのう」「お前がそんなタマかよ」高杉は鼻で笑ってそう言うと、隣で本格的に具合の悪くなっていそうな様子の坂本の背中を軽く叩いて言う。「さ、もう行けよ」坂本は何度か頷きながら、若干フラついた様子で立ち上がる。高杉も立ち上がっては、程坂本が置いた布の包みを取り上げその手に握らせた。坂本はその包みに目をやった後、高杉を見下ろすと眉を潜め、少々意地の悪い顔を浮かべて言う。「やっぱりまだ少し、納得がいかんの。ワシにこげなもん渡すくせに、自分は棒切れ振り回すっちゅーんか?」「俺ァ流行りの音楽より、三味線の方が好きでねェ」高杉は諦めたような、仕方無いとでも言うような表情でそう答えた。「鉄砲玉よりコイツが性に合ってるだけだ」今腰に刀は無かったが、まるでさも其処にあるように左手を動かしてそう言った。その言葉に坂本は高らかに笑い、高杉から貰った銃を懐にしまった。「おんしらしいの」「そうだろ?」杯を片手にそう言葉を交わした二人の姿はさながら強かな悪戯小僧のようで時に企み、時に騙し、時にからかい、時に励まし、時に怒り、時に悲しみそれでもきっと最後には二人とも、笑うのだろう。「いつでも会いに来いな」「ああ。達者でな」手を大きく振って去っていく坂本は何度も何度も飽きる程に振り返り、終いには後ろ向きに歩く始末であった。その姿がようやく見えなくなった時、高杉は再び廊下に腰掛け酒を注ぎ、一人杯を宙にかざし微笑んで、猪口の中身を飲み干した。「じゃぁ銀時、戻ってくるときはこのメモに書いてあるものを調達しながら帰ってきてくれ」「あいよ」まだ日の出からそう時は経っておらず、遠くに朝焼けが見える刻限。編み笠を被り風呂敷包みを背に、手には刀、足には下駄を履いて旅支度の整った坂本の前で、銀時と桂がいつもの押し問答をしていた。「ちゃんとお金持った?忘れ物してない?」「してねーよ何でお母さん口調なんだよ」「アッハッハッハ」昨晩の酔いの痕も顔に残さず、爽快な顔をした坂本は何とも能天気なその光景につい笑ってしまった。桂は銀時への用が済んだのか、坂本の方へ向き直ると優しく微笑んだ。「行くんだな」「ああ。暫しお別れじゃの」坂本がそう言うと桂は頷いて、真っ直ぐに右手を出した。坂本は勢いをつけて右から振りぬくように手を差し出し、二人の手の平はしかと掴み合い、堅い堅い握手を交わした。「武運を祈る、友よ」長い髪と凛々しい表情でそう言った桂はまさに武士そのものといった貫禄で少し照れくさい様子でポリポリと後ろ頭をかいた坂本の後ろでは銀時がどうでもいいから早くしろと言わんばかりに、小指を鼻の穴に捻じ込んでいた。やはりその姿が見えなくなるまで何度も何度も振り返り、最後には銀時に引っ張られるように歩いていた坂本が見えなくなった時、桂は方向を変えて、宿営地へと戻っていった。「美しいのう」戦争地帯から外へ、外へと歩くに連れて確実に緑は増え、木々は実をつけ花をつけ、爽やかな風に揺れながら地面にまばらな影を落とした。「こげなもんば見ちょると、向こうで戦争ばやっちょるなんて信じられんきに」「・・・そうだな」カラン、カラン、と下駄の大きな音をたてて歩く坂本とそこらの木々になっていた実を見つける度に口に放り込みながら歩く銀時は何を喋るでもなく何を喋らないでもなく、のん気に歩を進めた。ゆっくりと、だが着実に離れていく仲間たちを後に子供の頃の事、戦争に参加したばかりの頃の事仲間と出会った頃の事、それから交わした言葉の数々が頭の中に全てが繋がって思い起こされ目の前の景色と相絡まって、坂本の目にまるで映画のように映った。誰もが皆それぞれに生きた証と生きる理由を持ちその手に剣と命を抱えて、精一杯戦っていた。死んだ仲間も、生きる仲間も、アイツも、アイツも、誰もかも皆が掛け替えの無い人々だった。誰一人として失われてよかった筈が無いし、この先も失われていい筈が無かった。隣を歩く銀時の姿を最後に、目の前は真っ白になって、また景色だけの姿に戻った。これから先の事はまだ、何も知らない。これから出会う誰の事も、何も分からない。いつの間にどこで集めたのやら、手の平に幾つも野苺を乗せて口に放り込んでいる銀時に、ふと坂本は問う。「なぁ銀時。一人と百万人だったら、どっちを助けるがか?」銀時はあからさまに眉をひそめて頭は大丈夫かとでも言いそうな雰囲気で坂本に答える。「はあ?急に何だそれ」「ものの例えじゃ」「自分の1番近い所にいるやつから順番に助けていくよ多分。つかそれ以外どーするってんだ」少しも考える事すらしないで、銀時はそう答えた。坂本は毒気を抜かれたような、放心したような表情に変わって銀時をマジマジと見つめていたが当に銀時はもう興味を無くして、手元の野苺の残りを全部口の中に放り込んだ。「アッハッハッハッハ そういう事聞いたじゃなかったんきにのう」坂本は吹き出して、手を叩いて笑った。「じゃが確かに、天秤の荷を移し変えちゃいかんなんぞとは言わなかったの」坂本が独り言のようにそう呟いたのを横目に、銀時は怪訝な顔をしつつも、まぁいつもの事だと特に気にする事も無く桂から預かった金をどう誤魔化して甘味を買えばいいか、作戦を考えていた。「ありがとうな、銀時。随分と、楽になったぜよ」「・・・どういたしまして」適当に相槌を打った銀時ではあったが何処かつき物が落ちたように見える坂本の表情の変化に気づかなかった訳では無く何はともあれ旅先には幸先の良い出来事なのではないかと脇の刀を時折ぶらつかせながら、のんびりと歩いた。「じゃ、俺はここまでだ」村はずれの寺まで辿りつき、その先に見える長い下り階段を前に銀時は歩みを止めた。「やっぱり行かんのか?」坂本のその問いに銀時はただ首を横にふって答えると、坂本が少し残念そうな声で言った。「・・・・・・・・・そーか お前がおりゃあ面白か漁になると思っちょったんじゃがの~」「ワリーな こう見えて地球が好きでね」悲しむでも寂しがるでもなく、喜ぶわけでもなく。かと言って無関心というわけでもなく。銀時はやんわりと言葉を紡いだ。季節は移ろい徐々に寒さが訪れ始めたこの国の中で、首に巻いた黒い襟巻きだけが、銀時が夏に来ていた服との違いだ。「宇宙でもどこでも行って暴れ回ってこいよ おめーにゃちまい漁なんじゃ似合わねーデケー網宇宙にブン投げて星でも何でも釣りあげりゃいい」坂本にそう伝えた銀時の言葉を受けて、宙に行くことを最初に打ち明けた相手が銀時だったのは彼ならこう言ってくれると心のどこかで分かっていたのかもしれないと、そんな考えが少しだけ坂本の脳裏をよぎった。「・・・おんしゃこれからどうするがか?」「俺か?そーさな・・・俺ァのんびり地球で釣り糸たらすさ地べたに落っこちまった流れ星でも釣りあげて もっぺん宙にリリースよ」銀時のその言葉を最後に、坂本は一人になった。最後の一人との別れも終えて、やけに大きく響く自身の足音に耳を澄ましていた。―皆の事頼む―(流石にそれは、言えんかったのう)坂本は編み笠を被り直しながら、そんな事を考えた。誰よりも坂本自身が分かっている自信があった。この戦争に未来は無い。恐らく、確実に、大方の仲間たちが死ぬのだろう。よしんば運よく死ななかった所で、その先に待つ過酷な運命からは政権を彼ら自身の手で奪わない限り逃れられはしない。そんな無茶な事を本気で頼むに至らない程度には、坂本の頭は冷静だった。(だが、それでも言ってみたくなるんは、何でかのう)心のどこかで根拠の無い温かい安心感を抱いて、坂本は戦地を後にした。【完】ぽっぽさんの世界観。がっつり楽しませていただきました。私がごちゃごちゃ書いてもあれなので、ぽっぽさんからのメールを抜粋させていただくと坂本さんと高杉さんは親友だと良いなっていう私の願望の元、坂本さんが戦争から抜ける時の二人の別れを書こうとしたら(坂本さんと高杉さんのターンがやたら長いのはその所為です)銀さんと桂さんがいないっておかしくね?ってなって結果的に全員出てきて、4巻の例の回想シーンの前後を妄想1000%みたいな事になりましたw補足すると、色んな人と共同で志士全体を率いていたのが桂さんで、鬼兵隊は其処から浮いた存在だったのではという私の勝手な推測の結果、全員は無理でも高杉さん率いる其処の部隊だけでも何とか離脱させられないかなって頑張ったみたいな。銀さんは離脱させるっていうより一緒に宇宙に行ってみたい一人だったんじゃないかなと思いました。松陽先生の思い出を共有してなかった分、高杉さんにとっては坂本さんの存在に救われてたこともあったんじゃないかな…っていうのは私の妄想っていうより願望ですが、私も、坂本さんと高杉さんは仲良しだったらいいなって思います。っていうか、攘夷組が勢揃いすると、やっぱり桂さんって癒し系…と思ってメロメロしてたことは内緒にするとして、ぽっぽさん、ありがとうございました!☆(≧▽≦)☆!ぽっぽさんの素敵ブログはこちらです。→【popponoblog】SSはこちらにまとめてます。⇒【頂き物(ss)】
2011年11月13日
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11月3日は神楽ちゃんの誕生日!ぽっぽさんから神楽ちゃんハピバSSを頂きました。あれ?なんかちょっと涙腺が……【家族】 平日の昼下がり。万事屋の引き戸を横に開き傘を手に神楽が外に出てみると、階下の飲み屋に開店時間に並ぶには些か早すぎる客が2人見えた。2人共編み笠を頭に被っていて、扉が開くと中に吸い込まれるようにその2人は見えなくなった。何なのだろうと気になって階段を駆け下り中を覗いてみると、抑揚の少ないたま特有の話し声がした。「お登勢様は今、キャサリン様と買出しに行っておられます」「どうぞこちらでお待ちください」「ああ、悪ィな」そう答えた貫禄のある低音は神楽の知るものであり、編み笠を外した後ろ頭には白髪の短髪が見え、神楽の気配に気がついたのか振り返った男ともう1人の編み笠を被った人間は次郎長と平子であった。神楽が驚いて目を丸くしていると平子がすぐさま編み笠を脱ぎ捨て神楽に駆け寄り、生き生きとした目と輝くような笑顔で「お久しぶりです」と言った。神楽は驚きつつも笑顔を返すと何だかそわそわと落ち着かない平子に言う。「銀ちゃんなら2階でごろごろしてるアルヨ」それを聞くなり平子が湧き上がる感情を抑えきれない様に後ろを振り向く。次郎長が軽く頷いたのを確認すると、神楽の横を擦り抜けて外に飛び出し、鉄製の階段を早足で駆け上がる音が遠ざかったかと思うと、間も無く天井の裏側から騒がしい物音が聞こえた。神楽が天井から目を薄暗い店内に戻すと、以前よりも随分と角が取れたように見える逞しい老人に話かけた。「上手くいってるみたいアルな」「お陰様でな」たまに出された茶を啜りながらそう答えた次郎長ははっきりとした物言いと鋭い目つき、そして武士らしい体格をしているとはいえやはり中年というよりは老人と言った方がふさわしい外見をしており、平子と並んでいる様子も親子というより祖父と孫で、実際の年齢もお登勢と同世代であるという。「お前一体どんだけ奥手だったアルか?お前の娘にしちゃ若過ぎネ」気を使って『どんだけバアさんの事引き摺ってたアルか』と聞かなかったのは自分でも上出来だと神楽は心の中で自画自賛していたが、そんな事を知る由もない次郎長は「言うねェ嬢ちゃん」と、困ったように笑っていた。上階の物音がしなくなり、大方居間に座って話でもしているのだろうと考えるたまの眼前にも会話を育む老人と少女がおり、恐らくは老人がお登勢に買ってきたであろう茶菓子を貪るように口に詰め込む少女を前に、次郎長は手の中の煙管を深く吸った。「嬢ちゃんの親父はどうしたんでェ」「パピーは宇宙にいるアルヨ」「アイツんとこには預けられてるって訳かい」「んな訳無いネ。私が自分で来たアル」「一人でか?たいしたもんだ」「当然ネ」人間とは言え特徴的な少女の外見や脇に携えた傘に次郎長はもしやと思っていたものの今の会話からその疑惑がかなり確信に変わりつつあった。仮にその疑惑が真実であったとして少女と銀時が行動を共にしているのだとしたら、銀時との喧嘩に負けたのも当然かと改めて思わされてしまった事に次郎長は少々の敗北感を覚えつつ今は亡き友人の事もまた思い返されて、まるでお登勢と辰五郎の子供でも見ているような錯覚をした。「親父さんは娘が家出しても何も言わなかったのかい?世の親父ってのは俺と違って、娘にはやたら厳しいらしいじゃねェか」「気づきもしなかったネ。でも気づいてからは連れ戻しに来たアル」「・・・帰らなかったのか?」「糞食らえアル」菓子を口に放り込みながら平然とそう答える神楽に、次郎長は人事ながら複雑な心境で問う。「親父さんの事、嫌ェか?」「馬鹿言うな。大好きヨ」「腑に落ちねェな。なら帰るもんじゃねェのかい?」「あそこに一人で戻るのなんて真っ平ヨ。それに万事屋は私がいないと回らないネ」どうにも話が見えてこなかったものの、恐らくこの上階に居候している事も含めて何か事情があるのだろうとそれ以上は聞かなかったが、どうやら家族仲が悪いという訳では無さそうな様子に妙に安心している自分がいた。「親父さん以外の家族はどうしてるんでェ」単なる話の流れか、それともほんのちょっとした好奇心からかそんな事を尋ねてみると先程までのふてぶてしさが少し治まった代わりに淋しげな表情を見せた神楽が呟くように答えた。「いないネそんなん」「・・・悪ィこと聞いちまったかな?」「別に。マミーはとっくの昔にお星様になっただけアル」「尚更理解に苦しむぜ。よく忘れ形見の一人娘の家出を許したもんだ」その言葉に大した意味など無かった。ただ素直に浮かんだ感想を述べただけだったのだが、益々沈んだ表情と何処か怒りも混じったようなそんな気配を醸し出し、やがて絞りだしたような小さな神楽の声が次郎長の耳に届いた。「・・・1人じゃないネ」「もう1人、出来損ないがいるアル。残酷で性悪で、キチガイの大馬鹿野郎ネ。あんなんが兄弟ってだけで私の人生の汚点アル」「・・・穏やかじゃねェなァ」そう言いながら次郎長は頭の中である結論を出していた。目の前のこの少女は誰かに似ていた。つい最近似たような話を聞いた気がした。それは他でも無い、自分自身とその娘との出来事であった。⇒【家族】<二>に続きます。
2011年11月03日
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※銀魂二次創作SS【家族】<一>の続きです。「どんな事情があるかは知らねェが」次郎長は煙管の火種を灰皿の上に出すと、新しい火種を詰め替えて一服する。いつの間にか神楽は菓子を食う手を止め、不機嫌そうに鼻に指を突っ込んでいた。「きっと平子の目に俺ァ、残酷で性悪で、キチガイの大馬鹿野郎に映ってたろうよ」神楽は手の動きを止めると攻撃的な目を次郎長に向けたが次郎長は宙に漂う煙が昇って天井に溜まって消える様を見つめていた。「そんなどうしようもねェ俺をずっと待っててくれたんだなァ、アイツは。見た事すら無ェ、話にだけ聞いた昔の次郎長親分の事を」そう言うと次郎長は瞼を伏せて微笑んだ。「俺にゃぁすぎた娘だ」不意に次郎長が神楽に目線を寄越したので咄嗟に神楽は下を向いて真っ先に目に入った机上の菓子の残りを全部食べつくしてやろうと再び手を伸ばした。「男って奴ァ、一度意地を張ると周りが見えなくなっちまうもんでな」次郎長は構わずに話を続ける。「嫁泣かせて、娘泣かせて、挙句ダチの嫁まで泣かしても止まれねェんだから、いよいよもって救えねェ」「でもな嬢ちゃん、俺ァ心底嬉しかったよ。平子が待っていてくれたことが」その時扉が開いて光が差し込んだかと思うと其処にはお登勢とキャサリンが両手いっぱいに買い物袋を抱えて立っていた。「おや、珍しい客じゃないかい」キャサリンとは裏腹にさして驚いた様子も無くお登勢はそう言った。次郎長が一言だけの挨拶を口にどっかりと椅子に腰を下ろしていると「荷物くらい持ってくれないのかい?相変わらず気が利かないねぇこのジジイは」と言って両手の荷物を次郎長の前の机に置くと、次郎長は笑いながらやれやれとでも言うように立ち上がり、その荷を軽々と片手で持った。そうして次郎長が店の奥へと行こうとすると、その背後から神楽の声がした。「・・・お前とは事情が違うネ」神楽は食べつくした菓子の残骸を前に下を向いていた。何の事やらとキャサリンが口を挟もうとしたのを、お登勢はその頭に拳骨を落として遮った。「そうかもしれねぇな」次郎長が振り向いてそう言ったのを皮切りに神楽は立ち上がり、手に傘を持って店から出て行ってしまった。2階への階段を半分くらいまで上がった所で上から銀時と新八に挟まれて平子が幸せそうな笑顔を浮かべながら降りてきた。「僕らも今から下に行く所だったんだよ」神楽に気づいてそう話しかけた新八を無視して脇をすり抜け、一直線に万事屋の玄関を突っ切って傘を放り投げて居間まで行き、ソファの上にうつ伏せに突っ伏した。TVの前の辺りで丸まって眠っていた定春は物音に薄目を開けたが突っ伏している神楽にいつもの風景だと大きな欠伸をしてまた眠った。だが、後を追いかけてきたのかほんの1分も経たぬうちに万事屋の玄関で音がして、足音が真っ直ぐ近づいてきたかと思うと神楽の横で止まった。「どうかしたの、神楽ちゃん」そう言ったのは新八で、聞こえる声の大きさに神楽の横にしゃがんでいる事が分かった。「・・・何でもない」神楽がそう答えても新八は少しの間そこに留まっていたようだったが再び足音がして、それは何度か部屋の中を往復したかと思うと再び神楽の近くで止まった。神楽がソファの縫い目から顔を横にずらしてみると、向かいのソファに座っている新八が見えた。「何でもないって言ってるアル」うつ伏せの姿勢から少しだけ起き上がって強い口調でそう言ったが、新八は「分かってるよ」と普段と何ら変わらない表情でそう答え、煎餅を口に運んでいた。神楽がそのまま睨んでいるのにもお構い無しに雑誌の特集を読み始め何とも腑に落ちないものの言い返す言葉が見つからずまた突っ伏した。それから数分もしないうちにまた玄関から音がして、そのドタドタとした足音から銀時だと分かった。それでも少々意地になってしまったのか、神楽はソファの端から端までを両手と両足を伸ばしきってその姿勢を保持する。そんな神楽の足の裏を銀時はペシペシと軽く叩いて言う。「おーうちょっと詰めろ神楽」「何でこっち来るネ!新八の方に行けこの天パ!!」「ああ?どっちでも同じだろーが」神楽の抗議も虚しく膝の辺りを掴まれてぐるりと回されると、神楽は床の上に腰を下ろしてソファに顔を乗っけているような体勢になってしまい、出来た隙間はあっという間に銀時に占拠されてしまった。やがて銀時も菓子に手を伸ばし、週刊誌を手に新八に言う。「新八ー茶淹れて」「自分で淹れてくださいよ。何当然のように使いぱしってんですか」「ケチケチすんなや」「はいはい、分かりましたよ淹れればいいんでしょ」そう仕方無さそうに新八が立ち上がった時、「うおっ」という銀時の声がしてそちらを振り向くと床に膝をついたまま神楽が銀時の腰に腕を巻きつけ顔を押し付けている様が見えた。「・・・何だよ急に」「何でもないアル」銀時の問いに篭った声でそう答えたものの離れようとはせず無意識か微妙に強くなった腕の力に応えるように、銀時は頭を軽く撫でた。新八はそのまま茶を淹れそれを机の上に置くと、銀時と神楽の横に黙って腰を下ろす。何を思ったか定春も立ち上がりソファの方にやって来ると、新八の足の下に無理矢理潜り込んだ。変わらず神楽の頭を撫でる手の頭上、新八の方を向いて銀時は言う。「今晩は下に焼き肉でも奢らせるか」「あ、じゃぁ姉上も呼んでいいですか」「おお、いいぜ、呼べ呼べ」そうして日が沈み、歌舞伎町の夜に人工の光が溢れ出す直前の薄闇の刻限。神楽を背中に背負った銀時と、その隣に立つ新八と定春は泥水親子とお登勢達に束の間の別れを告げ、妙を迎えに歩を進める。普段と打って変わって銀時の肩に顔を押し付けたまま何も喋らない神楽を他所に「今日はゆっくり歩いて行きましょうか」と新八は言った。【完】すみません。ちょっと叫んできていいですか?万事屋が大好きすぎるんですけどぉぉぉぉぉ!( ̄□ ̄;)!!ああもうっ!神楽ちゃんの誕生日になんつーSSを送りつけてくださりやがるんでしょう、ぽっぽさんったら!←興奮しすぎて日本語が変。「万事屋のスキンシップがもっと見たいが故の自給自足みたいになりましたw」とのことですが、いやいやいやいや。「自給自足」っていうより「ぽっぽさん給かずは足」みたいなね!( ̄‥ ̄)フンッ(ぇー万事屋、いいですよね!っていうか、神楽ちゃんにベタ甘な二人と一匹がいいよね!☆(≧▽≦)☆!まさかの次郎長さん、ピラ子ちゃん親子にもきゅんきゅんしましたが、後半、銀さんと新ちゃんと定春とぽっぽさんのせいで、涙腺が盛大に緩んじゃいました。てやんでい。ぽっぽさん、ありがとうございました!☆(≧▽≦)☆!ぽっぽさんの素敵ブログはこちらです。→【popponoblog】SSはこちらにまとめてます。⇒【頂き物(ss)】
2011年11月03日
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10月10日は銀さんの誕生日!ぽっぽさんから六股篇の後日談、最終話翌日のエピソードを頂きました。銀さんとお妙さんですが、銀妙派じゃない方も大丈夫っていうか、すごい普通にありえそうっていうか、銀さんの誕生日なのに、ぽっぽさん、おもしろ……………………ゲフンゲフン。かわいそうな銀さんを書くなぁっていうか。思えば、銀さんってすごいことやっちゃってたんだなぁって(笑)※ちなみに、私が余計なことを書きすぎて無駄に2分割ですm(_ _)m「銀さん」最近よく聞いた気がする女の声が耳に響いて、銀時は重たい瞼を持ち上げた。日の光が眩しくて訝しげに瞬きを繰り返していたなら眼前に影の落ちた人の輪郭が見え、自分を見下ろしている。「しっかりしてくださいな、いい年して」冷たい手の平が銀時の右頬を軽く叩いて、ペチペチと間抜けな音がした。ようやく外界の光に目が慣れて、銀時はおぼろげながら女の顔を認識した。「・・・お妙?」「はい」妙は少し前に屈むようにして銀時を覗き込んでいた。左右に目を向けると薄暗いコンクリートの壁に囲まれていて自分がもたれかかっていたのは居酒屋裏の空瓶置き場だった。もたれるというより埋もれていたという方が正しいかもしれない。大通りから差し込む光を背に妙が立っていて銀時の体をその影が覆っていた。「何で俺こんな所に・・・」其処まで言った所で銀時は頭部の内部に激しい痛みを感じて口をつぐんだ。この痛みはよく知っている。何度も何度も苦しんだ事のある痛みだ。そんな事を考えて銀時が両手で頭を抱えていると、妙が銀時の脇に屈んでその肩を貸してくれた。とにもかくにも倒れたい。気持ちよく倒れられる場所が欲しい。そんな気持ちでいっぱいだった上に頭痛の所為もあってか、妙に支えられている事も忘れてよろよろと歩を進めていたなら自分の右腕の下から妙の声がして、その存在をようやく思い出した。「呆れた人」そんな妙の言葉に、銀時が二日酔いで倒れていることなどそう珍しい事ではないしお妙も銀時ほどではないにしろ酒の上での粗相くらいした経験はあるし何故今日に限ってこんな小言を言われるのだろうかと思っていると、「昨日の今日でコレなんて。逆効果だったかしら」の言葉で自分に昨日の記憶が無い事に銀時は気がつく。一体何があったのだろうかと思うも辿れば辿るほど記憶は重く扉を閉ざして代わりに頼んでも無い痛みを送り返してくる。「覚えてないんですか」恐る恐る己の右腕の方を見下ろしてみたなら答えは聞いてないとでも言うように妙の冷たい視線がもろに刺さり銀時はばつが悪く咳払いをした。妙が無言で溜息をつくと銀時は脳内に反響する己の声を我慢して何とか弁解しようとありあわせの言葉を並べるも効果があるどころか力んだ腕は妙の肩に指を食い込ませよろけた体は妙に更なる負担を掛け「痛いです!!」と、怒鳴られる始末。「それじゃ、早速ビデオ見に行きましょうか」「・・・・・・ビデオ?」腕を妙の肩に預け、何やら脈絡の無い言葉を耳に銀時は少しの間考え込むも、途端に全ての記憶から靄が取り去られ、己が醜態が呼び覚まされた。よろめきながらも進んでいた歩が突然止まり、妙はどうしたのかと横斜め上を見上げれば手の平で顔を覆っている銀時の姿があり、妙からその表情は見えないが、陰々滅々としているであろう事を理解するのはひどく容易であった。「あら、思い出したんですか」妙がそう声を掛けるも返事は無く、銀時はただ其処に同じ姿勢で立ち尽くし往来を行く人々はすれ違い様にその様を振り向いては去り、幾人かは具合でも悪いのかと妙に声をかけ、妙はそれらを持ち前の笑顔でやんわりと受け流した。「落ち込むのは勝手ですけど、家に着いてからにしてくださる?」「お前・・・どういう神経してんの」ようやく口を開いたかと思えば、妙に向けられた銀時の口調は半ば侮蔑の意すら込められたような静かなもので、仕事柄性質の悪い人間を相手する事も多い妙にはその理不尽な扱いも慣れたものではあったが、だからといって決して気分のいいものでも無く、且つ知り合いともなれば話は別である。「何でそんな普通でいられる訳?」銀時の顔から外されたその手はだらりと体の脇に垂れ下がり、妙を見下ろすその瞳には、今涙が浮かんできたとしても驚くにはあたらない程に悲しげであった。対する妙は至っていつも通りと言った所か。銀時の言葉に少し眉を動かして見せただけで、再び足を前に進めることを銀時に無言で強いた。後ろ脹脛を妙に草履で突かれ、半ば引きずられるように歩く銀時に妙は言う。「じゃぁ一体どういう態度がお望みだったのか、参考までに教えて頂けますか六股男さん?」「・・・ほんっ・・・とに可愛くねーよなお前」銀時は酒臭い溜息と共にそう言った。ゴリラだの凶暴だのまな板だの貧相だのと罵られた事は数知れず、今までこの男から女として褒められた事があったろうかと妙は考える。これでも店ではそれなりに評判の美人として通っているのだと其処まで考えた所でふと妙の脳裏に同棲中の記憶が思い起こされて、早速反撃に使った。「あら、『イイ女』だって言ってたのは何処の誰かしら」「そりゃぁ、お前・・・」銀時が口をもごつかせているのを妙は内心いい気味だと嘲りながら、其処は嘘でもさっさと肯定しておけと。だからお前はモテないのだとじれったさに頬を引っ叩いてやりたくなったが我慢した。「口から出まかせだったって事ね。ま、分かってましたけど」「あのなぁ、俺はあの時本気で・・・!!」「六股かけてたんでしょ?」「そう仕向けたのはテメーラだろーが!!」「でも六股かけてたんでしょ?」完全に言い負かすとはこういう事だと、その時の2人を見ていた人がいたなら言っただろう。銀時の方は何とも腑に落ちないといった表情で妙の顔を睨むように見下ろすものの妙はすまし顔で今にも鼻歌を歌いだしそうな気配さえする。「良かったじゃないですか。一時の恥で済んだんだから」やがて、妙は意気阻喪とした銀時に言った。「恥ってレベルじゃねーよ」やはり陰鬱な面持ちで銀時が答える。「どうだか。意外に楽しんでたんじゃないんですか?」「・・・よくもそんな口が利けるよなァ」「あら、私は結構楽しかったですよ?」「そりゃそうだろうよ、何せ騙してる側なんだからなァ!」「銀さんと一緒に暮らせた事がよ」妙が最後の言葉を吐いた時、先程と同じように銀時の歩みが突然止まり、眉間に皺を寄せ目を丸くした銀時が、まるで宇宙人でも見るような目つきで妙を観察していた。「・・・・・は?」ようやく出た言葉とも言えぬその一言が銀時の内情をよく表していた。「何言ってんの、お前?」「ですから、銀さんとの共同生活はそう悪いものじゃなかったって言っただけですけど?」妙の予想に反して大袈裟に反応する銀時に少々蟠りのような感情を覚えつつ妙は己が記憶に刻まれた非日常の数日間を思い起こし、量増しするわけでなく、縮小させる訳でなく、ただありのままの言葉を紡ぐ。「お芝居ではあったけど、もし本当に結婚したらこんな感じなのかなって。洗濯したり、夜ご飯のおかず考えたり、旦那さんが帰ってくるのを待ってたり。お喋りだって楽しかったんですよ?銀さんも普段より優しかったし、どうでもいい事で笑いあったりして」普段死んだ魚のような目をした男はいつに無くその眼球を大きく見開いてただ何も言えぬままに妙を凝視していた。目の逸らし方すら忘れてしまったように。「仮にもこんな美人と一緒に暮らせて、銀さんは少しも楽しくなかったっていうの?」「そりゃ・・・その・・・」最後の言葉はほんのちょっとした苛めくらいの気持ちで言った言葉だったのだが予想外に効果覿面・・・というより効き過ぎであると妙は思った。うろたえさせるというより本気で困らせてしまっているようで、その様は全蔵が録画してきた画面の中で酒を地に捨てた時の表情にも似ていた。⇒【六股篇後日談 その2】に続きます。
2011年10月10日
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※銀魂二次創作SS【六股篇後日談 その1】の続きです。恐らくこの人は本気で恋をした事が無いのだろう。あったとしても、きっとひどく浅く短い経験だけなのだろう。男の最も馬鹿で愚かな部分だけをひた曝け出して遊んできただけなのだろう。だから、こんなちょっとした冗談にも耐えられないのだと、自分の事を棚にあげて妙は思った。しかし、銀時のその様に少々悪い事をしてしまったと思い直した妙は「今日のことは皆には黙っておいてあげます。次はありませんからね」と、前の話を丸々無かったことにするかのような口調でわざと言った。別にあなたに気がある訳でも何でも無い、と。あなたが私の事を女として見ていない事も分かっている、と。そんな事は自明の理で、少しからかってやりたかっただけなのだ、と。だからそんなに真面目に受け止めないでくれ、あなたらしくも無い、と。そんな思いを込めて。当の銀時は普段よりも反応が遅かったものの、「へーへー」と、いつもの憎たらしいダメ人間の様を取り戻し、後ろ頭をボリボリと掻いた。良かったどうやら通じた様だとホッとして、いつものように銀時を叱る。「返事は1回」「はい・・・ってしつけーよ誰が飲むかよこんな目に合ってまで!」記憶を忘れるという特技でも持っているのではないかと思ってしまう程に先程とは打って変わって乱暴な言葉遣いを女に浴びせかける銀時にある種感動を覚えながら妙も反撃する。「早速約束破った人が何言ってるんですか」「バッ、違うお前、それはだな・・・・・・」『一体何が違うって言うんですか』と次は言ってやるつもりだったのだが銀時の表情は言葉の途中で一変し、硬直したと思ったらその直後に血の気が引いて青冷め、それを通り越すと死人のような土気色にまで変わった。と、そこまでなら良かったのだ。それだけなら目まぐるしく変わる銀時の表情を妙は面白いと眺めていた事だろう。しかしあろう事か銀時は、道路の真ん中に嘔吐した。恐らく昨夜飲んだであろう酒、酒、酒、を。妙に浴びせかけなかったのがこの場における銀時の精一杯の力だったのだろうか。地面にへたり込んで若干心配になる程に嘔吐を続け、ようやく少しおさまったと思ったら覚束無い足取りでこれまでの道を逆送する。「ちょっと!!何してるんですか!!」「だ、駄目だ・・・ちょ、戻って、もっかい記憶消してくる・・・!!」耐え切れず叫んだ妙の言葉に、銀時は生気の無い顔でそう答えた。「何バカな事言ってるんですか!早く帰りますよ!」「お前にゃぁ一生分からねー気持ちだよ!今の俺を救えるのは酒しかねーんだよ!!もうそれしか道はねーんだよ!」フラフラなくせにこの執念は一体何処から来るのだろうかと思う程に酒を求める銀時の姿に、愛すべき弟の将来に真剣な不安を覚える暇も無く、妙は力ずくで銀時を立ち上がらせると悲壮感漂うその顔に蚊を仕留める時のように同時に外側から張り手をくらわせる。叩かれた瞬間にキレの良い大きな音がして、銀時は目を瞑った。「しゃんとなさいっ!!!!」銀時の眼下にはとても齢十八とは思えぬ貫禄を携えた娘がまっすぐに自分を見上げていて、頬のジンジンとする痛みと共にその厳しい目線も突き刺さるようで銀時はしゃんとするどころか益々情けない頼りない表情へと変わり、今にも泣きそうな声で話始める。「・・・んな事言ったってさぁ、お前さぁ・・・」「何があったか知りませんがちゃんと受け止めて前に進みなさい!それが銀さんでしょう!!」妙は銀時の頬に手を置いたまま、そう諭す。「そうだけど・・・そうだけどさぁ!!銀さんだって・・・」「ぐだぐだ言わない!」流石は武士の娘というべきなのか、その物言いに圧倒され銀時はただ、「・・・はい」と幼い童子のように返事をする事しか出来なかった。しかし、銀時が返事をするや否や眼前にいた男前な娘は不意に女性らしい柔らかな笑顔に変わり銀時の顔から手を離す。その変化は卑怯だと銀時は心のどこかで思いながらも、俯いて足元を目で追いながら馴染み深い我が家へと背筋の良い妙の後ろで大人しく歩を進める。一方、己の後方をブツブツと何か言いながら俯いて歩く銀時の姿に妙はほんの数日前の銀時の様子を思い起こす。あの時の銀時は確かに優しかったけれど、柄では無いなと。情けなくて意地汚くて意外にも繊細なおばかさん。やはりこっちの方があなたらしくて、良いと思う自分に世も末だと感じながら。いつかまたお芝居でも一緒に暮らすような事があるのなら、今度はこっちの銀時と暮らしてみたいものだと、面白がっている顔を銀時に悟られぬよう、無意識に口を手で覆った。【完】私は銀妙スキーなので、もっとこう、原作の雰囲気ガン無視でイチャイチャして欲しい気持ちもあるんですが、ぽっぽさんの書かれる二人は距離感がリアルで、きっと、原作の二人ってこんな感じなんじゃないかなって。素直にそう思えるところが大好きです♪いやでも、相変わらずぽっぽさんの書かれる姉上は銀さんのことをよく理解してるわかっこいいわで近藤さん並にムラムラしちゃうんですが、銀さん!かわいそう!☆(≧▽≦)☆!ですよねー。結局、長谷川さんとどうなっちゃったんでしょうねー。っていうか、銀魂ってちょくちょくこの手の描写を挟んできますよね。全蔵さんのケツのろう蝋燭を抜こうとして神楽ちゃんに見つかったりとか、将ちゃんと近藤さんのパンイチ二人がありえない体制で雪山滑降してたりとか、空気嫁銀さんが隣に座ってるおっさんにあんなことやこんなことしたりとか………って、ここまで書いて、どんだけ〇〇漫画だよ!ノ ̄□ ̄)ノ ~┻━┻ドガシャーン!!と思わないでもないんですが、いやホント、あの手の描写(どの手の描写?)に全然耽美さもなけりゃ夢も無いあたり、無駄に大人な漫画だなぁって(笑)って、あれ?何の話でしたっけ?あ。そうそう、誕生日なのにろくでもないこと思い出してかわいそうな銀さんだけど、姉上とこれだけ接触できたんだから良かったね!☆^(o≧▽゚)o って話でしたwぽっぽさん、ありがとうございました!☆(≧▽≦)☆!ぽっぽさんの素敵ブログはこちらです。→【popponoblog】SSはこちらにまとめてます。⇒【頂き物(ss)】
2011年10月10日
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9月4日は近藤さんの誕生日!ぽっぽさんから近藤さんハピバSS(近→妙)を頂きました。【指輪】 仕事明けの朝帰り。普段ならそのまま真っ直ぐ家に帰って再び夜が来るまで休むのだが、今日は違った。同僚の女友達と飲み明かし、そのまま泊まらせて貰った後は、およそ朝帰りとは言えない昼下がり。華やかな街の中心街を通って妙は家路へつく。「お妙さぁぁぁん!!!」不本意ながら聞きなれてしまった背後からしたその声に妙は振り返る事すら無く拳を振り上げる。手に残った確かな感触と共に背後で大きな物体が崩れ落ちる音がした。妙がそのまま歩を進めようとすると、自身の足元でコツンと小さな音がしてふとそちらへ目をやると、光る小石が妙の横を転がっていくところだった。妙が屈んでその小石を手に取ると、小石では無く宝石だという事が分かった。もっと言えば宝石のついた指輪だった。その指輪が辿った軌跡を逆に進んで行き当たるのは当然、地面に転がる図体だけでかい男から伸びた、ゴツゴツした手。妙は呆れたように溜息をつくと、転がる男に話しかける。「あなたのでしょう。落としましたよ」男は地面に這い蹲ったまま、その面だけを妙に向けると、笑顔でこう言った。「いえ、それはお妙さんの物です。あなたに受け取って欲しくて、奮発して買いました」妙は得意気な顔をする男に心の底から何とも言えない喪失感と絶望を覚え、その手の平の上に指輪を乗せると、静かな声で言った。「返品してらっしゃい」2人を囲む周囲の目も気になってきた頃だった。妙は立ち上がり踵を返してその場を立ち去ろうとした。男は妙の履く草履の裏からその後ろ髪を束ねる髪結いが見える位置まで体勢を戻すと、手の平の指輪を握り締め、声を発した。「返品はしませんよ、お妙さん」その言葉に妙の歩が再び止められた。その後ろ髪から横顔を通って、凛々しい表情が男の瞳に映った。「いつかあなたに受け取って貰える日が来るまで、大切に保管しておきます」男の目に妙の表情は怒っているようにも見えた。妙の目に男の表情が笑っているのは明らかだった。「迷惑です」「知ってます」妙の言葉に少しも怯む事無く、男はそう言い切った。よりいっそう鋭くなった妙の目つきと表情に、男は指輪を懐にしまうと、前以上に柔らかな笑顔と物腰で言った。「迷惑がられるのを恐れてたら、ストーカーなんてやってられませんからね」妙が表情が更に険しくなったのが分かった。男は内心これから起こるであろう事(罵倒されるだけならまだマシだが、最初のように無言で殴られるかもしれない)に内心少し怖気づきながらも、「そんな彼女の全て受け止められる男に俺はなろう」と、妙が聞いていたなら訳が分からないと言われる事請け合いな心の声を発しながら、妙の反応を待った。当の妙の反応と言えば、意外や意外。罵倒するでも無く、殴りかかってくるでもなく。呆れたというよりは諦めたという感じの溜息をついて、男の傍まで戻ってきた。妙の意外な行動に男はもしかしてトドメを刺すつもりなのではないかと口の中で唾を飲んだが、妙は首を絞めるでも無く凶器を持ち出すでもなく女性らしい綺麗な声で男を見上げてこう言った。「今から、お時間あります?」妙は少しの間、男に答える時間を与えてみたものの当の男は遂に己の耳がおかしくなってしまったかと思い、その場に根が生えたように固まり、妙を凝視するばかりだった。「無い訳無いですよね。こんな所で油を売っているんだもの」妙が沈黙を破ってそう続けると、男は我に返り狂ったように頭を上下に振った。今己の身に起きている事は夢か現か。願わくは現であって欲しいと思いつつ、男は考えるのをやめ、妙の言葉を聞く事だけに集中した。「今、欲しい物があるんです」妙はそう言葉を続けた。「指輪じゃなくて、そっちをくださる?」もう夢でもいい。男はそう思った。夢だろうと妄想だろうと異次元だろうと、彼女の望みを叶える男であろうと思った。普段の図々しさは何処へやら。妙にしおらしく大人しく、そして無口になった男を脇に、店と店の間を渡り歩く妙の姿があった。男が自分の置かれている状況にふと気づき、これはまるで恋人同士のようだとそんな考えを浮かべた瞬間、斜め下からの声が男を現実に引き戻した。「身の程知らずな考えはやめてくださいね。吐きそうだから」何かが男の胸に刺さったようだったが、それでも未だ男は妙と並んで歩いている。この状況こそが、今日まで既に身の程知らずな考えであった筈なのに。妙はまず化粧品売り場へと向かった。煌びやかな売り場の中で男の視線は妙の手元を追いかけた。妙の目にこの場所はどう映っているのか男にはさっぱりだったが、大から小から無限に立ち並ぶ瓶の列から、妙は何やら高級そうな特定の品々を選び出していた。店員から客から見事に女ばかりで、その中で男の存在はひどく浮いており、男は周りから怪訝な表情を向けられてばかりいたが、妙は構う事無く店内を突き進んだ。選び出した品々ががちょっとした小山のようになった所で妙は会計へと向かい、袋に詰められたその荷物を近藤に持たせると、無言で次の店へ移った。妙は淡々と買い物を済ませ、その荷物は全て男の手に握られていた。妙は最後に食品売り場へと向かい、男の押すカートの籠がいっぱいなる程に肉を次々と放り込んでいく。「こんなにたくさん、食べきれるんですか?」「冷凍しておけばもちますし、新ちゃんは育ち盛りですから」「そうですね!!新八くんはまだまだ可能性を秘めていますからね!いずれ俺のように背も高い、男らしい立派な侍になってくれることでしょ・・・」言い終わるや否や、妙は目から火でも出るのではないかと思う程に怒りと蔑みの入り混じった魔王のような表情で、男を黙らせた。「今ここで永遠に眠らせてあげてもいいのよ?」男は何度も首を横に振った。妙から発せられる得体の知れない禍々しい念は何も知らない周囲の人々さえ遠ざける程に強力だった。両手と背中に大量の荷物を抱えて妙と男は志村家へと向かった。門の前まで着いた所で、妙が近藤に向き直り言った。「ここでいいです」男は荷物を抱えたままもそもそと言葉を繋ごうとするが、何を言えばいいのか分からない。「お妙さん、あの・・・」「指輪は」男の言葉を遮って妙が言う。「返品してくださいね。じゃなかったら捨てて」「お妙さ・・・」男が呼び止める前に妙は男の手から荷物の1つを引ったくり、女性らしからぬ力強さで軽々とそれを持ち上げ玄関の方へと行ってしまった。すると戻ってきて、もう片方の手にある荷物をまた無言でひったくり、そしてまた戻ってくると、最後に男の背中にある荷物を要求した。「玄関まで持って行きますよ」「必要ありません。貸してください」男は妙の冷たい切換しに少々怖気づくも、普段の自分の状況を思い出す。いつもはもっと冷たい。いつもは話なんてしてくれない。今の自分の状況は、寧ろ恵まれすぎているくらいである。このまま今日という日を終えてはならないと男は思い、食い下がる。「いいですよ、重いですし」「家に入って欲しく無いんです。いいから早く貸してください」男はぐっと口を噤むと何と言ったものかと何時に無く頭を回転させる。一向にその場から動こうとしない男を前に、妙はうんざりしたように空を仰ぐと腕組をし、徐に話し始めた。「近藤さん。あなたは話しかけないでって言っても話しかけてくるし、迷惑だって言ってるのに付き纏ってくるし。私の言うことを聞いてくれた事なんて、今まで一度も無いわ。そうでしょう?」男はやはり口を開けない。何か言おうと思っても、男の前に女の言葉はあまりにも正論過ぎる。「その上、こんな簡単なお願いも聞いてくれないって言うんですか?」そんな妙の言葉に、もう無理だ、と男は思った。今日の自分はどうしてしまったのだろうか。普段ならどんな罵倒も暴力も、笑って受け流せていた筈なのに、妙にしては驚く程穏やかな説得に応じて、荷物を差し出している男がそこにいた。「近藤さん、私はあなたが嫌いです。大嫌い」追い討ちをかけるように妙が言ったその言葉に、男は無償に切ない気持ちでいっぱいになった。男はただ俯くように、頷きながらそれを聞いていた。多分これが自分と彼女の間の結論なのだろう。妙の言う通り、指輪は返品した方がいいかもしれないと思った。受け取って貰える日なんて今の自分からは到底、想像する事すらできない。そう考え会話が終わるかと思われた時、会話の継続を意味する接続詞が男の耳に入ってきた。「だけど・・・」男が項垂れた顔をどうにか僅かに持ち上げて妙に視線を向ける。ほんの少しだけ柔らかくなったように思えた妙の表情が其処にあった。「今日はどうもありがとう」その言葉は他の誰でもない、妙の口から紡がれた言葉だった。妙はそのまま1度も振り向くことも無く玄関の中へと消えて、もう二度と戻ってくる事は無かった。男は暫くの間その場に立ち尽くしていたが、やがて不意に声を出して笑うと、志村家を上目に一望する。男は確信した。妙という女は、いつも簡単に自分の想像を超えてくれる。意識的にか無意識的にかは己の与り知らぬ世界だけれども、彼女こそが自分を受け入れてくれる人だと思える。だからこそ、そんな人だからこそ、自分は惚れたのだと。指輪を捨てるのは、もう少し後にしよう。男はそう考え直して、志村家の門を後にした。【完】「お妙さんは無意識なところで近藤さんに対して菩薩なんじゃないかと思った結果のよく分からないものになってしまいましたがw」 とのことですが、いえいえいえいえ。よく分からないどころか、姉上が怖かっこよかったです!ぶっちゃけ、(姉上が許してるかどうかは別として)近藤さんだから全ての行動が許されてるのであって、普通は迷惑極まりないのに、姉上、とても10代とは思えない貫禄っぷりです。お妙さんって、年上相手に全然ひるまないし、でも、ちゃんと敬語だし、かっこいいなぁ……って、お妙さん感想になっちゃいましたが、めげない近藤さんにがんばれってエールを贈りたくなりましたwwwぽっぽさん、ありがとうございました!☆(≧▽≦)☆!ぽっぽさんの素敵ブログはこちらです。→【popponoblog】SSはこちらにまとめてます。⇒【頂き物(ss)】
2011年09月04日
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暑い!( ̄□ ̄;)!!ある事情があって、部屋を片付けてたんですが、クーラー全開にしてもちっとも効かねぇ!熱中症で死ぬまでに、これだけはアップせねば!!………………………というわけで、7月8日は総悟くんの誕生日!☆(≧▽≦)☆!rubydredredさんから、総悟くんのイラストとお話を頂きました。メインは総悟くんと神楽ちゃんです。※ イラストは縮小してます。クリックで元サイズです♪※楽天ブログの文字数制限10000字を微妙に超えちゃったので、2分割です。Happy unbirthday公園を通りかかると、子供のはしゃぐ声が聞こえた。夜勤あけには辛い甲高い声が、頭にキンキンと響いて眉間に皺がよる。さっきからずっと眺めていた携帯の画面には、自分をご主人様呼ばわりする女たちからの、誕生日を祝う件名がずらりと並んでいた。似たような字面を見てるのが面倒になっていたこともあって、いつものように返信すらせずに携帯を閉じた。簡単に言うことを聞く女なんて、つまらねェ。それに、誕生日は1日過ぎているのだ。女たちはちゃんと7月8日の誕生日にメールを送信しているのだが、七夕テロを攘夷志士が画策してくれたおかげで、七夕も誕生日も全部吹っ飛んだ。「まあ、誕生日を祝ってもらって喜ぶ年じゃねェんですがねィ」そう答えた総悟に、局長である近藤は「すまん、総悟」を連発していたが、自分としては誕生日に仕事だろうがどうでもいい話だった。「また、私の勝ちネ」聞いたことのある声がひときわ大きく響いてきて、公園に思わず目をやると子供たちの集団の中に見慣れたピンク色の頭が見えた。「ずっりーよ、神楽」「神楽ちゃんに敵うわけがないよ」囲んだ男の子たちが口々に文句を言うのを聞いて、うれしそうに微笑んでいる横顔が見えた。「私が強いからしょうがないアル」腰に手を当ててふんぞり返ってる様は『女の子』というより『ガキ』だ。「誰も私には敵わないネ」得意げな様子に腹が立って思わず声をかけた。「誰が敵わないって?」「何の用アルか、ドS」冷たい返答に思わずにやりと笑ってしまう。「誰も敵わないって、どいつのことでィ」「私に決まってるアル」「おい、お前らなんの勝負をしてたんだ」神楽には聞かず、事の成り行きを見守っているガキどもに聞く。「鬼ごっこアル」顔を見合わせて黙ったままのガキの代わりに、神楽が答えた。あまりにも子供っぽい勝負の話で噴きだしてしまうと、神楽の顔は怒りで赤くなった。「何笑ってるアルか、かぶき町の女王とはこの私。私は誰にも負けないアル」神楽は総悟を指差すと真面目な顔で宣言した。「へぇ、ずいぶん自信があるんだな」神楽が返事代わりに鼻をふんと鳴らすのを聞いて、総悟はその場にいた子供の方を向いた。「おい、俺が鬼を代わってやる」総悟の言葉に子供たちは困ったような表情で、お互いの顔を見やっていた。神楽は答えようとしない子供たちの代わりに、はっきりと総悟に断言した。「絶対にイヤアル」想定内の答えを返す神楽を、今度は鼻でわざと笑ってやる。「かぶき町の女王ともあろうお方が、俺ごときに捕まるのが怖いって仰るんですか」女王陛下はすぐに言葉に釣られてのってきた。「そんなわけないアル。お前が私を捕まえられるわけがない、100年早いネ」「じゃあ、女王陛下。俺と勝負してみますかィ」総悟の言葉に、自信満々で神楽は大きく頷いた。5分もしない間に、神楽以外の子供は全員総悟に捕まった。神楽を追い回すついでに子供たちを捉え、最後の一人が捕まると子供たちは総悟と神楽の追いかけっこを見ているしかなくなった。神楽は総悟の手が届くと思った瞬間反転し、時にはひらりととんぼ返りでその手をかわす。総悟は神楽がちょっと油断した隙を狙い、緩慢な動きから一転してすばやく動くのだが、手に布が触れるか触れないかで捕まえることができない。目で追って捕まえようとしたなら、その動きに遅れてしまって絶対に捕まえられやしない早さだ。触れることすらできない総悟にへらへらと笑いながら、神楽はスピードを緩めようとはしなかった。「なかなかやるじゃねぇか」しばらく走り回ると汗が滴り落ちてきて、総悟は足を止めた。荒い息を自分と同じように神楽も吐くのを見ると、なぜだか安心する。「負け惜しみはもういいアル」「負け惜しみ?俺はまだ負けちゃいねェ」そう言いながら、このまま体力が尽きるのを待つのでは本当に捕まえたことにはならねェってことは、もちろん分かってる。総悟の言葉ですぐに走り出せるように身構える神楽を見ていると、正直捕まえる自信がなかった。⇒【Happy unbirthday】<二>に続きます。
2011年07月09日
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※銀魂二次創作SS【Happy unbirthday】<一>の続きです。指の先を神楽の髪飾りがするりと抜け、踏み出した足の分だけ遠くなった。どれだけ時間がたってるのか分からなかったが、子供たちの姿はすでになかった。太陽が西に傾きだして足元の影が長くなり、それでも縮まらない距離を総悟は走っていた。公園の広場の隅にまで追い詰めたが、さっきから何度かその状態になっても、その度に逃げられている総悟には安心はできなかった。神楽自身もいつでも逃げられると思っている様子で、目の端で逃げ道をすでにいくつか確認したようだ。木をわざと背後に控え、総悟を惑わせる作戦に出たようだ。神楽の目の先と足の先、息遣いに注意を払いながら足を踏み出そうと腰を落とす。ふいにサラサラと音が聞こえ、総悟は顔を上げた。大きな笹が公園のそばの道路を移動していた。街路樹の陰から笹を担いだ新八が現れた。笹には七夕の短冊が何枚もぶら下がり、新八は重そうにそれを担ぎながらきょろきょろとあたりを見回していた。総悟の目がそちらへ移るのを見て、神楽は動きを止めた。「何見てるアル」そう問いただしながらも油断せず、神楽は自分では確認しようとはしない。「メガネが笹持って歩いてる」色とりどりの短冊はずいぶんと多く、重みで枝がしなっていた。「昨日は七夕だったアル」「昨日?おとといの間違いじゃねえのか、昨日は7月8日だぜ」「?知ってるネ」神楽は総悟の指摘の意味が分からないようで、警戒を解かずに首をかしげた。「神楽ちゃーん」新八はどうやら神楽を探していたようで、落ち着かずにあちこち見回している。公園の木の陰に隠れて、ここに神楽がいることに気がつかないようだった。「おい、メガネが呼んでるぞ」総悟は新八のために警戒を解いてやるが、神楽には鬼ごっこをやめる気がないようだ。「メガネは関係ないネ」そこいらのおっさんのように神楽は唾を吐きすてると、総悟を挑発するように指でかかってこいと合図を送った。自分が捕まるなどとはちっとも思っていないその姿が、総悟の闘争心を駆り立てる。「行っちゃうよ、神楽ちゃーん」遠ざかりながらも新八が呼ぶ声を背にしながら、神楽は総悟から目を離さなかった。総悟がほんのわずかに体重を右足に移した瞬間、神楽の体は半歩反対側へと退いた。総悟は右足をフェイクにして、左へと体を動かす。総悟の誘いに乗って動いた神楽は悔しそうな顔を少し見せたが、そのまま後ろに飛んで逃げた。神楽の反射神経のよさにはいつ見ても驚く以外の言葉が総悟にはなかったが、それだけ捕まえがいがあるってもんだと、難易度の高い敵を捕まえた後の満足度を思う。神楽ほど捕らえがたい相手は、総悟にはあまりいなかった。逃げ回る場所を木立の中に場所を移す形となって、根に気をつけながら飛び跳ねている神楽は、まさしく兎のようだった。「おーい、神楽―」のんびりした声で、兎の動きが止まった。「銀ちゃん」銀時の声に顔を輝かせて、神楽は声のするほうを向いた。「おっかしーな、いねえのか」どうやら先ほど新八がいた辺りに、銀時がいるようだ。さっきと同じようにサラサラと音がするから、笹を持って歩いているのだろう。神楽の注意はあきらかに銀時のほうに向いているようだった。さっきまで総悟から逃げ回るために走り回っていたのに、今は銀時のほうに向かおうと総悟の横を警戒もせずに通り抜けようとした。ふわりと風の動く気配がして、総悟はつられるように動いた。「な、何するアル」空っぽだった腕の中に、今までなかった手応えがあった。驚いているのか抵抗もせず、神楽は総悟の腕の中に大人しく収まっていた。総悟はそれを意外に思いながらも、神楽を後ろから抱きかかえるようにして、その動きを封じた。さっきまで捕らえることの出来なかった存在が、今は確かに総悟の腕の中にあった。「騒ぐんじゃねェ、メガネには返事もしねェくせに」メガネのことなどどうでもいいのに、口をついて出た。「お前には関係ないネ、早く離すネ」神楽は総悟の言葉を聞くと、逃れようとぐっと腕に力を入れる。総悟は尻餅をつくようにして、神楽ごと地面に腰を下ろした。「俺に捕まったんだ、大人しくしろィ」「ぎ、銀ちゃんが行ってしまうネ。ぎ、銀」銀時を呼ぶために大声を上げようとする神楽を手元に引き寄せ、そのピンク色の柔らかな髪の上に顎を乗せた。「笹を流すか、焼きにでも行くっていうのか」「だったらどうするアル、早く離すネ。早くしないと銀ちゃんが」「お前ェ、何も知らないんだな」逃れようと自分の腕を掴んだ指先が、言葉を聞いて戸惑うように少し力をなくす。だが、すぐに込められた力で、腕が痛む。「おい、七夕っていうのは7月7日のことだぜ。昨日飾ったんじゃ願い事なんて叶いやしねェ」総悟の言葉に返事もしないで、じたばたと神楽は腕の中でもがいた。もがけばもがくほど、いらいらして押さえつける力が増した。「6日の菖蒲、10日の菊って言葉を知らねえのか。いくら七夕は数日飾るって言ったって、昨日が飾り初めじゃ遅すぎるんだよ。物事にはな、その日に祝わなきゃ意味がねえってこともあんだよ」こんなガキ相手に言う言葉じゃねェ。分かっちゃいるが弾んだ声を思い出すと、無性に腹が立った。「祝えたければ、祝えばいいだけアル」総悟の苛立ちに、神楽は当たり前のように答えた。傷つくかと思ったのに、思わぬ返事に捕らえている力が緩んだ。「お前、バカだろ。1日くらいどうってことないネ。1日遅れたら、1日遅れた分だけ盛大に祝えばいいアル。5月5日が過ぎてたら、5月6日に菖蒲を飾ってお祝いすれば、それでいいアル。7月7日は過ぎたけど、その分大きい字でたくさん短冊を書いたから、私の願いはきっと届くネ。」「本気で言ってんのか」「正月だってしばらくの間は『おめでとう』言うネ。特別の日じゃなくたって、祝っておめでとう言えば、それだけ楽しい日が増えるアル」楽しい日、か。総悟の力が抜けると、神楽はすばやく立ち上がって警戒したまなざしを向けた。「お前には言わないけどな。お前にだけは「おめでとう」なんて言うのは、ごめんこうむるネ」自分をまっすぐに指差すと、神楽ははっきりと告げた。「俺が今、獲物を逃したとこだって言っても、祝わねぇってか」さっきまで確かにこの手で捕らえていたのに。腕に残る抗った指先の記憶以外は、自分の言葉でうれしそうな色をした目の前の青い瞳に、証を見出せなかった。「それは、めでたいアル」腕組みをして何度も頷きながら、神楽は答えた。「私だけじゃないネ。世界中がお前に『おめでとう』を言うアル」神楽はにやりと口をゆがめて、総悟に向かって馬鹿にしたように笑った。「おめでとうございますヨ」女王陛下の祝福に、どう答えようかと総悟が考えていると、陛下を呼ぶ声がした。「神楽―、何やってんだ。置いてくぞ」「銀ちゃん」神楽は、総悟のほうを振り返りもせずに声の主の下へ走っていった。夕暮れの中を白い頭と歩いているピンク色の頭は、笹につるされた短冊に手を伸ばして怒られたりしながらも、時々見える横顔は楽しそうだった。さっきまで一度も見せなかった打ち解けた子供のような顔が見えなくなると、総悟はゆっくりと立ち上がった。「一日遅れの誕生日プレゼント、ねィ」服の中のタバスコを手にして、自分の楽しみのためにケーキ屋へ向かうことに決めた。【完】読んでいただいたら分かると思うんですけど、7月8日生まれの総悟くんの誕生日小説、7月9日の今日、ご紹介することができて良かったです♪ところで、ウキウキしながら読んでて、総悟くんはともかく(ぇー神楽ちゃん、新ちゃんに冷たい!( ̄□ ̄;)!!と思わないでもないんですが(ぇぇー)、なんかこう、自覚してそうで自覚してない関係ってのもキュンキュンしますよね!ちなみに自分、自覚ありでも自覚なしでもどっちもいけます。<o( ̄^ ̄)o> エッヘン!!rubydredredさん、ありがとうございました!☆(≧▽≦)☆!色塗りもお話もどっちもいける両刀使い(←日本語が変)ってすごいです!さて、総悟くんと神楽ちゃんにムラムラしたせいで、よけい熱中症(笑)になりそうなんですが、部屋の片付け、もうちょっとがんばります。SSはこちらにまとめてます。⇒【頂き物(ss)】
2011年07月09日
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6月26日は桂さんの誕生日!☆(≧▽≦)☆!というわけで、誕生日ときたらぽっぽさん。ぽっぽさんときたら銀魂SS!☆(≧▽≦)☆!1日フライングですが、桂さんの誕生日にちなんだ、桂さん&幾松さんSSです♪(※楽天ブログの文字数制限10000字を微妙に超えちゃったので、2分割です)【桂と松】最近すっかりお馴染みの顔になったこの男は、いつも1番人気の少ない時間に来る。男がわざわざその時間帯を選ぶのは、攘夷志士で常に命を狙われているからという以外に他意は無く、好物の蕎麦を作ってやった後には、それを頬張る姿を見ながら話をするのがちょっとした楽しみになっている自分に気づいたのは、いつの事だったか。少々風変わりなこの男は、二度目に店に来た時には妙な白い生き物を連れてきた。初めて見た時は一体何の化け物かと思ったが今となっては馴れたもので、男が「エリザベス」と呼ぶその得体の知れない生き物とも、いつの間にか仲良くなっていた。男の格好はあまり一定とは言えず、普通の着物を着ているかと思えば洋服を着ている事もある。その日の男は編笠に数珠と錫杖を携え、長い髪を先の方で一つに束ねた修行僧のようであった。やはり、隣に白い生き物を連れて。そして、この時間帯のお客は、やっぱりこの2人だけ。男は胸の前で縛った風呂敷の端を解くとそれを隣の席において、カウンターに座った。いつもと同じように他愛の無い話をしているうちに二人分の器が空になり、幾松はそれらを流しに持っていく。それから再びカウンターの前まで戻ってくると、男が徐に口を開いて自分の名を読んだ。何だか普段と雰囲気が違ったのでどうしたのだろうと思いつつ尋ね返すと「ご主人に線香をあげさせてもらってもいいだろうか」と言った。今は亡き夫の仏壇の前で、男は荷物の中から持参した太い線香を取り出し、長い間手を合わせていた。今日の為に持って来たのか、それとも単に坊主の格好をしていたからなのかは分からないが大粒の数珠を手に瞳を閉じて祈るその背中を、幾松はただ眺めていた。前に一度だけ、主人の命日を聞かれた事があったような、無いような。幾松の中ではそんなあやふやな記憶だったのだが、男にとっては違ったようだ。負い目からなのか、己を戒める為なのかは知らない。けれど男はこと夫の事となるとひどく気を使い、折角の楽しい会話が台無しになってしまう。幾松はかつて自分にとっての何より大切であった人が原因で、今の自分にとっての大切な時間が阻害されてしまうという事実が嫌いだった。だから、誰よりも幾松自身が夫の話題を極力避けるよう尽力していたのだが今日ばかりは無理だったようだ。そして幾松もまた、今日というこの日付から亡き夫を思い出さずにいる事は出来なかった。男が祈りを終えエリザベスに順番を代わった所で、狭いからと2人は先に食事処へ戻った。普段ならカウンターを挟んで向かい合う2人だが、その時は奥の部屋から1番近くにあった四足の机に腰を下ろす。「何があっても、あの人なら大丈夫だって思ってた」陰鬱な面持ちで、結んだ髪の先を弄りながら幾松は呟いた。エリザベスはまだ奥の部屋の仏壇の前で祈っている。指の無い手を器用に操り、鈍く長く響くおりんの音に耳を傾けながら。「安心しきってたんだ。ずっと一緒にいてくれるんだって」直接的では無いとは言え幾松の夫は事実攘夷志士に殺されたようなものだし、彼女自身そうだと思っていたが、実際の所そんなものは関係無かった。事故だろうが殺人だろうが自然災害だろうが、それらが夫に降りかかるとは、到底考えていなかったのだ。根拠など何処にも無かったけれど、この人なら大丈夫だと、この人と一緒にいれば大丈夫なのだと無条件にそう思わせてくれるのが大吾という男であり、今は亡き幾松の夫だった。男はただそれを黙して聞いていたが、隣で女が音も無く一滴の涙を流すのを見て机の上で重ねられた手の上に自分のそれも重ねるように握り、軽く肩を抱いた。夫の死から幾年か過ぎ、その死に縛られる事無く惑わされる事無く逞しく生きている女ではあるが、心に負った傷というのは一生癒える事は無いのかもしれない。男の手がひどく優しかったからなのかは分からない。普段は気丈で強い性格の女だったがこの時ばかりはどうしようもなく、後から後から涙が零れてきて目は真っ赤に、頬を伝う滴はその皮膚の上に跡を残した。⇒【桂と松】<二>に続きます。
2011年06月25日
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※銀魂二次創作SS【桂と松】<一>の続きです。そんな時、滅多に誰も来ないこの時間帯に客が来てしまった。「ごめんくださ~い。今大丈夫かしら?お腹減っちゃって・・・」そう言いながら中に入ってきたのは、大柄でがっしりとした、質量にして裕に幾松の5倍はありそうな大男だった。何処からどう見ても男である事に違いは無かったが、その男は顔に濃い化粧をして女の着物を着て、日本髪を結っていた。幾松が慌てて手を離し戸の方へ顔を向けると、大男の目に薄暗い部屋の隅で大粒の涙を流して縮こまっている女とその女の肩を抱え込むように掴んでいる男が目に入った。「ヅラ子・・・・・・・・・」大男は中に入るなり目にしたその状況に、途端に鬼のような形相に変わり男の襟ぐりを掴んで幾松から引き離した。「なにしてんやがだテメェェェ!!!」大男はそう怒鳴りながら男の体を軽々しく頭の上まで持ち上げ、男は為す術も無く店の壁に投げ飛ばされ、激突したその壁は大破した。「おねーちゃん!!!!」店先の方からそう子供の声がして見ると、見た事の無い少年が立っており大男の方は更に倒れている男を殴りつけんとする所だった。「覚悟は出来てんだろうなァァ!!!」「おねーちゃん!!!!」少年はやはりそう叫びながら、この場で「おねーちゃん」という言葉に唯一当てはまる幾松の存在には目もくれず、倒れる男とその上の大男の方へと向かった。奥の部屋から飛び出てきたエリザベスが大男に立ち向かうも、驚くべき速さで振り切られたその巨大な拳をもろにくらい、ヨロヨロと後ろに倒れ込んだ。「やめてよ母ちゃん!!」少年がそう言って大男の背中に駆け寄ると、大男は少年にまで手をあげて「今は父ちゃんと呼べコノヤロー!!」と叫んだ。あまりの急展開に頭が混乱し、いつの間にか止まっていた涙の事など思い出す事も無く、何よりその大男の恐ろしさに足がすくんでしまい、へたり込んでいた幾松の目に叫び声を上げる間も無く暴行を受ける男の血が壁に飛び散るのが映った。このままでは男が死んでしまうと思った途端、幾松の頭の中にその人生で最もおぞましい記憶が蘇る。何も出来ぬままに、何も知らぬうちに、あっけなく逝ってしまった大切な人に何度祈れども、泣けども叫べども、決して戻ってきてはくれなかったその人に血まみれになった男の姿が重なって、幾松は言い知れぬ不安とざわめきを胸に気力を振り絞って立ち上がる。包丁を持つ勇気は無かったけれど、店で一番大きな中華鍋を両手にしっかりと持って大男の頭に後ろから根力の力でもって振り下ろした。手にビリビリと衝撃が走り思わず鍋を手から取りこぼす。鍋は大きな音を立てて床に落ち、余韻を残してカラカラと回っていた。轟音が突然消えて、壁は壊れ材木が飛び散り、机や椅子も幾つか壊れている。大男はゆっくりと振り返り立ち上がると、遥か上から幾松をを見下ろす。その余りの迫力と恐ろしさに幾松は叫ぶ事もできず力尽きたようにその場にへたり込んだがふと視界に入った血塗れの男の姿に駆け寄り、意識の無い男の頭部を抱きかかえる。「殺さないで・・・お願い」幾松は震える声でそう言った。幾松を見下ろす大男は依然として仁王のように立ちはだかっていたが、ふとしゃがみこんでその大きな顔面を幾松の前にずいと出す。ただひたすらに凝視され、大男に対する幾松の恐怖は最高潮に達していたがそれよりも今現在己の腕の中にいる男の死後にやってくる日々の方が、ずっと恐ろしかった。「アンタ・・・そいつに何かされたんじゃないの?」ドスのきいた低いその声は、思い描いていたのよりずっと優しい口調でそう言った。幾松は面食らったように早い瞬きを繰り返しながら、フルフルと首を横に振る。混乱した様子の幾松の姿に大男は立ち上がると、2、3歩下がって幾松と男の様子を上から眺める。男を庇う彼女の姿を見ると、大男は両手をその頬に当て、「アタシったら!!」と大きな声で言った。日がすっかり沈んで、街頭の光が夜の人々の姿を照らすようになった頃。いつもなら暖簾が提げられている店の戸は締め切られていて、中からは数人の話し声が聞こえた。「本当にごめんね~幾松ちゃんヅラ子も。アタシったら早とちりしちゃって」しなをつくってそう話す大男の隣には行儀よく座る少年が顔に何枚か絆創膏を貼って、幾松が作ってやったラーメンを美味しそうに頬張っていた。エリザベスは幾松から借りた裁縫道具を使い、隅の方で破れた己の皮膚を縫い合わせている。一番の重傷だった男は頭に包帯を巻いて、今は腕の傷を幾松に消毒してもらっていた。「本当にごめんね幾松ちゃん。ちゃんとお店も直すから安心してちょーだい」幾松は未だ若干その大男に怯えながらも、頷いた。大男の方は既に食事を平らげた後で、子供が食べ終わるのを隣で待っていた。息子と思われるこの少年の存在が、何とか大男の恐怖を和らげてくれているようだった。「じゃヅラ子、次はお店でね」男は頷いた。困惑している幾松の様子に気づいたのか、男は大男が経営する店で時々バイトをしているのだと、簡潔に教えてくれた。大男は最後にもう1度幾松に謝罪すると、子供を連れ夜の街へと消えて行った。「・・・何だってわざわざそんなバイトを選んだんだい?」大男がいなくなった事でようやく心から安心する事が出来た幾松は全身に降りかかってきた疲れと共に、最初に頭に思い浮かんだ疑問を述べた。「成り行きでな」色々と納得のいかない部分はあったが、そこを掘り下げるのは止すことにした。「アンタが女装ねぇ・・・妙ちきりんなんだろ?」幾松はその姿を想像してみようと試みたが、よく分からなかった。あの大男みたいに日本髪を結ったりするんだろうか?私だって結婚式以来してない気がするのに。「そんな事は無い。俺は中々のものだと思っている」「そんな訳あるかい」男は細身で顔立ちも良いので心の中ではそうは言い切れなかったのだが、褒めると調子にのりそうなので幾松は全力で否定してやった。店にまで女装してくるようになったら嫌だし、この男ならやりかねない。そう思っていた矢先に「何なら今度見に来るか?」と、あまりにも的確な提案をしてきたので「御免だわ。わざわざ着飾った男なんて見たくないわよ」と突っ返してやった。どうしてわざわざ私にそんな姿見せたいと思うのさ。「・・・何?」そんな事を考えながら腕の包帯を巻き終えて顔を上げてみると、男がこちらを見て何となく微笑んでいるように見えたので、そう尋ねた。男は軽く首を横に振ると、人がわざわざ巻いてやった包帯には目もくれず、腕を組みなおして机の上に載せ、少し前かがみになるようにしてその腕の上に体重をかけた。「何。気になるじゃないか」手当てしてる間ずっと男の隣に座っていたエリザベスが立ち上がって、流しの方へ向かうのが視界の端に入って目で追った。大男と少年の使った食器をそのまま流しに置いておいたのだけれど、どうやらそれを洗ってくれるつもりのようだ。「いや、ただ・・・」そう言いかけて間を置いた男の方に、幾松が流しの方角から視線を元に戻すと「いつもの幾松殿だな、と」と男は続けた。「良かった」そう言ってホッとしたように息をついた男に、それはこっちの台詞だ、と言えればどれだけ良かった事だろう。本当に死んでしまうかと思ったのだから。けれどその時の気持ちを思い出すと再び疲れと安堵がどっと襲ってきて、幾松はただ深い息を吐き、男の耳を掴んで横に引っ張った。「イタタタ」と言いながらも幾松のその行動に抵抗せず斜めっていく男に、幾松はパッと手を離すと「馬鹿」と言う代わりに微笑んだ。【完】西郷さんを怖がってる幾松さんが新鮮でした。っっていうか、普通そうですよね。一見普通そうに見えて実は最凶キャラなお妙さんをはじめ、銀魂に出てくる女性キャラはみんな神経がずぶとい(笑)ので、幾松さんみたいな反応に麻痺しちゃう罠。←ぇーぽっぽさん、ありがとうございました!☆(≧▽≦)☆!ところで、これからぽっぽさんはちょっと忙しくなるようで。めっさごっさ寂しいですが、また、時間がとれたときに遊びに来てください!・・・・・・ええっと、おみやげは何おねだりしようかな。←待てぽっぽさんの素敵ブログはこちらです。→【popponoblog】SSはこちらにまとめてます。⇒【頂き物(ss)】
2011年06月25日
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6月13日は長谷川さんの誕生日!☆(≧▽≦)☆!・・・・・・・・毎週ぽっぽさんのSSが読めるってどんだけ豪華?( ̄□ ̄;)!!と慄いてたら、まさかの 初期設定SS です。どんだけ~!☆(≧▽≦)☆! ←浮かれてる、浮かれてる。(※楽天ブログの文字数制限10000字を微妙に超えちゃったので、2分割です)【もしもの話】「・・・またダメだったのかよ近藤さん」そう言ったのは年齢に似合わぬ真っ白な白髪を携えた長身の男だ。顔立ちが良く、どことなく軽妙な雰囲気を纏ったその男の言葉の先には畳の上で小さく足を組んで下を向いている色眼鏡の男がいた。脇には灰皿が置いてあり、そこには吸い終わったばかりと見える煙草が何本も、未だ煙を立ち昇らせている。「もう・・・どうしたらいいのかなオジさん」気落ちした声で呟くように言った色眼鏡の男は短髪に顎鬚を蓄え、現在の体勢と裏腹に人相は悪く、声も低く、年齢は40弱と言ったところか。服の装飾や脇に置かれた刀を見る限り、長身の男よりも階級が上である事は誰が見ても明らかであったが、その外見の威厳からは到底想像できない哀愁を漂わせていた。折り曲げた足の前で腕を組み、広い部屋の真ん中でポツンと座るその男に、長身の男は自らも腰を下ろしその肩に手を置いて、優しい口調で言った。「もういいじゃねぇか結婚なんかしなくったって。アンタには俺達がいるだろ?」「顔が笑ってるように見えるのは気のせいか土方・・・」見てみれば長身の顔面は引き攣ったように震えており、今にも弾けそうな頬袋に溜まった空気を何とかして飲み込もうと一所懸命になっている様に見えた。今や面と向かって色眼鏡の男と向き合っているが、その症状は悪化するばかりで、長身の男は口を開いた瞬間、外に漏れ出る空気を止める事は出来なかった。「気のせい気のせい。ブフッ」「今完全に笑ったよな。笑ったよな今。聞いてくれよ沖田ァ!土方が・・・」「話しかけんなハゲ」色眼鏡の男の呼び掛けに厳しい口調でそう答えたのは縁側に腰掛けて傘の手入れをしていた女で、長い髪を頭部の側面で束ねている。部屋の中に座っている男2人に背を向け振り返る事もせず、黙々と何やら作業をしている後姿に、色眼鏡の男は憤りを露に喚く。「沖田まで反抗期だよ!何だ!?俺は世界中の女に嫌われる運命なのか!?こんな子供にまで!」「ガキ扱いすんじゃねェハゲ」女は手に持っていた金具を背後に向けて放り投げた。それは見事に色眼鏡の男の眼鏡のレンズの片方を割り、破片が飛び散って男は悲鳴を上げながら畳に転がった。呻きながら起き上るも空洞となった片方のレンズから赤く腫れた目が丸見えで、それがたった今起きた傷害事件による物なのか、それとも別の理由なのかは長身の男にもよく分からなかった。「さっきからハゲハゲっておっさんハゲてないからね別に」「うっさいハゲオヤジ」女はようやく振り返ると感情表情の乏しそうな無表情を男達に向けた。顔にはまだ幼さが残り、とても若い女である事が分かる。その態度も無礼と言えば無礼、とても目上の物に対するものでは無く。だがそんな所もこの若さゆえと思えば可愛いが、男達にはそれが女の元来の性格のように思えて仕方が無かった。「・・・沖田ねェ、俺が言うのも何だけどそんなんじゃ彼氏できねーぞ?恋人はいた方がいいと思うよおじさん。世の中パーッと明るくなるよ?輝くよ?」色眼鏡の男は急に優しく諭すような口調になり、しみじみとそう言った。外見だけで言うのなら中々女は美人で、これからの未来の事を思うと年寄りの邪推とは思いつつ、言わずにはいられなかったのだ。その言葉に対してあからさまに嫌悪感を示して唾を吐いた女に向けて気だるく能天気な声をあげたのは長身の男だった。「胸もデカくなるぜー」それに対して女は言葉でも動作でも無く、ひたすらに蔑みの意を込めて睨んだ。が男は全くと言っていいほど気にしていない様子で、侮蔑の視線にも何の反応も見せない長身の男に少々腹を立てた女は、やはり傍に置いてあった金具を引っ掴んで男に向かって投げた。男はそれを何とかかわすも、不機嫌になった様子で言い返す。「危ねーだろうがボケ」「キモいセクハラ死ね土方」「何だァ?生理中かァ?貧乳」「ぶっ殺すぞテメェ」あっという間にテンションの低いの言い争いを2人が始めた所で部屋の襖を開けて、青年・・・とはまだ言い難い雰囲気の少年が入ってきた。人の良さそうなその少年はこれからのびる予定なのか、まだまだ背は女よりも低い位で喧嘩中の2人からは年の離れた弟のようであると同時に、色眼鏡の男からは息子と言っても通じそうだった。「あ、近藤さんお帰りなさい。どうでした・・・っていうかどうしたんですかそのグラサン」「聞いてやるな新八。見れば分かるだろ」少年の言葉に己の失敗を思い出したのか、色眼鏡の男は再び小さく縮こまり、割れたグラスの向こう側に見える瞳は今にも泣き出しそうに潤み堪え切れなかったのか、男はめそめそと崩れるように膝に顔を埋めた。「なぁ新八、おっさん何処が駄目なんだと思う?もうハッキリ言っちゃっていいからさ!俺って何が駄目?」「何ですかいきなり?」もはや完全に涙を流すいい年格好の男にそうせがまれ、少年はたじろぎ驚いた様子である。少年にとって色眼鏡の男は上司であると同時に師のような存在でもあり。そんな相手をけなすような事を言う気にはなれなかったのだが、それでも目の前で情けなく泣き崩れるこの男を放っておく事も出来ない気がした。「近藤さん、聞いてやるなよそんな事。見ろ、困ってんだろ?」いつの間にやら掴み合いにまで発展していた長身の男と女の喧嘩を制したのは男の方だったようで、背後から両腕の中に女を拘束している男は、腕の中でもがく女を強い力で抑えつけながら、面白半分に色眼鏡の男にそう言った。「いやいや俺怒らないし!正直に言って!直して次は頑張ってみるから!」色眼鏡の男はそう言い返すと、少年に向かって再びそう請う、少年は必死に男のダメな所を頭の中で探すと、意外な事に幾らでも思いついてしまって自分が男についていっている意義を若干失いかけながらも、頭で考えるより先に思いついた言葉をそのまま述べた。「え、えーと、あー・・・その、と、年?」「直せないじゃん!!おっさんコレから益々おっさんに向かうだけじゃん!」色眼鏡の男は絶望した様子でそう叫んだ。脇ではやはり長身の男が最早取り繕う気も無い笑い声をあげていたが面食らった少年は意図せずして更に残酷な一言を発する。「ごっ、ごめんなさい!じゃ、えーと・・・えーと・・・か、顔?」「直せないじゃん!!」「わ、す・・・すんまっせん、え、あ、あのーその・・・」少年がどうフォローしたものかと、助けを求めるような気持ちで長身の男と女の方に目を向けると、先ほどまで笑い転げていた様は何処へと旅立ってしまったのか。「うーわ。最悪だな新八」「終わってんな新八」と、冷めた目線に呆れた口調で、二人仲良く並んで息の合った罵倒を少年に浴びせる。「だ、だって・・・!!すいません近藤さんすいません!!」「もういいよォ!!どーせおっさんなんて1人で生きていく運命なんだよォ!!」最早謝る意外に為す術も無く。しかし謝れば謝るほどそれは色眼鏡の男の傷口をえぐるようにも見えてどうすればいいのかも分からぬまま少年は謝り続け、長身の男と女は両脇から色眼鏡の男の肩を抱き、苛めと紙一重のような様子で慰めていた。⇒【もしもの話】<二>に続きます。
2011年06月11日
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※銀魂二次創作SS【もしもの話】<一>の続きです。時は変わり場所は変わり、ここは江戸の町の橋下の屋台。もう夕方になろうかという頃、そこに長谷川と銀時が並んで腰かけ、酒に杯を傾けていた。橋の上から子供たちが連れだって家に帰らんとする声が煩く聞こえてきて、頭に響いた。「そういや俺今日すげぇ変な夢見たんだ」長谷川が徐にそう切り出すと、銀時は軽くそちらに顔を向けて、顎肘をついた。屋台のオヤジも作業をしながら、何はともなく耳を傾けた。「何かさァ、俺が真選組の局長なの」「へぇ~・・・」「でさァ、銀さんが副長なんだよ」「オイふざけんな。何で俺がアンタの下なんだよ」「いや顔は銀さんなんだけどさぁ、微妙にキャラ違くてさぁ」思い出すようにそう語り始める長谷川に言葉に適当な相槌を打ちながら、銀時は何杯目かの酒をグラスに注ぐ。「何かメガネかけてない新八くんもいてさぁ」「それもう新八じゃねェよ」「でさぁ、俺は見合いに失敗してんの」「夢でまでそうなんだな」興味の無さそうな銀時の様子に反して、長谷川は上着から煙草を取り出し火を付け屋台の天井に向けて軽く吹かすと、何処か他人とは思えない、しかし微妙に自分の知る人々とは違う仲間たちに囲まれた己の姿を懐かしむように思い起こす。「妙に現実味のある夢だったなぁ・・・」「どこがだよ。アンタの願望を詰めてみただけじゃねぇの?」「前世だったりしてなぁ」「前世に真選組いねェだろ」現在の真選組の物とは違う仕様の隊服はどちらかと言えば、かつて自分が貿易管理局局長だった時の制服に似ている。今と同じで情けない様子ではあったものの、周りには自分を慰めてくれる仲間がいて、まるで家族のようなそんな空間にいた事を思い出す。傍からはとてもそうは見えなかったかもしれないが、とても幸せだった。あの夢の自分は今の自分よりも確かに幸せだったと、長谷川は思う。「だけど俺、こっちの世界の方が好きだな」そんな現実とは裏腹に、長谷川はそう言って笑った。「何で?金がある分そっちの方がいいんじゃねェの?」「金は確かにあったけどさ」銀時がどうでもよさげに、だが少し不思議そうに尋ねると長谷川は杯に残っていた僅かな酒を飲み干し、息をつく。「ハツがいなかった」銀時は納得したようにうなずくと、屋台のオヤジに酒のつまみに甘味を注文した。オヤジが屋台にそんなもん無いと言うと、銀時は少々憤慨した様子ではあったがオヤジが売り物とは別の自分用のおやつの饅頭を渡してやると、まるで子供のように喜んだ。「なんも無くてもさ。たった一人、人生を懸けられる女に出会える方がいいって思ったよ。最近の俺は金を儲けることばっか考えてたからな・・・目が覚めた気分だ」そんな銀時をよそに、長谷川は真剣な表情で語っている。銀時は饅頭を口いっぱいに頬張り一気に飲み込んだ後酒でそれを更に胃の奥へと流し込み、冷めた口調で答える。「・・・別居中だけどな」「俺は今でもハツのこと愛してるし、むこうだってそうさ。でも今の俺じゃ戻っても幸せにしてやれねェからな」「まだ戻る気あったんだな」「そりゃそうさ」2人の会話を聞いていた屋台のオヤジはいい話だねぇ、と言って笑っていた。そうして自分の家族の話も交えて、会話に参加する。銀時よりも一回りか二回り年を重ね、銀時がまだ見ぬ幸せの形を経験したこのおっさん達の話は、正直今の銀時には実感の無い話だ。そんな経験の浅さに反抗でもするかのように、銀時は辛らつな言葉を並べる。「向こうはもう男作ってるかもしんねーぞ」「そんな訳あるか。ハツは何だかんだ俺に惚れてんだ」「本当にそうだったら逃げてねェだろ」「何でさっきからネガティブな方に持ってくんだよ!」「事実を言ってるだけじゃねーか」長谷川は言い返す事もできず、それこそ夢の中と同じように泣きそうな情けない顔をするが銀時は最早そんな事には動じないし、悪びれることもしない。どんな崖っぷちに立たされようと、何度突き落とされようと、どれだけの醜態を晒そうとそんな中で逞しく生きていく人間である事を知っている。「銀さんもいい嫁見つけるといいよ」「ハイハイ」長谷川の諭すような先輩面が何となく気に食わなかったものの今日くらいはと銀時は見逃して、明るい未来を願って杯を交わした。【完】・・・・・・ふと思ったんですが、アニ魂のオマケで、初期設定やってくれないかな。ってことはさておき、ぽっぽさんが初期設定に抱いてるイメージは近藤さん:モテない・よく泣く・皆から愛されてる・いざという時の男前ぶりが異常土方さん:美形・口が悪い・セクハラ・人を苛めるのが好き沖田さん:美形・口が悪い・デレない・女扱いされるの嫌い新八くん:腰が低い・ピュア・皆からからかわれるなんだそうです。・・・・・・どうしよう、長谷川さんのSSのはずなのに、「土方さん:セクハラ」 の方が気になる・・・・・・・←ぇーっていうか、初期設定にメロメロしてたはずが、ラストの長谷川さんの台詞に(ノд-。)ホロリときちゃいました。ぽっぽさんめ、いい話書きやがるぜ・・・・・・ちなみに、ぽっぽさんのメールに「長谷川さんは何だかんだハツさん一筋だと思ってたんですが不祥事篇で「あれー?長谷川さん?あれー( ̄□ ̄;)!!」ってなりました笑」とあったんですが、あれは悪いのは銀さんで、長谷川さんは被害者だと思います!(笑)ぽっぽさん、ありがとうございました!☆(≧▽≦)☆!【おまけ】ハコさんに色塗り&加工していただいた初期設定イラストです。SSの中の「背後から両腕の中に女を拘束している男は、腕の中でもがく女を強い力で抑えつけながら」ってとこについついムラムラきちゃったっていうか、腐ったノマカプスキー脳がざわざわしました(笑)←気持ち悪っぽっぽさんの素敵ブログはこちらです。→【popponoblog】SSはこちらにまとめてます。⇒【頂き物(ss)】
2011年06月11日
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6月1日は神威の誕生日!☆(≧▽≦)☆!6月2日はさっちゃんの誕生日!☆(≧▽≦)☆!・・・・・・・・だからと言って、この2人を組み合わせようなんて発想ができるのは、ぽっぽさんくらいじゃないかな!☆^(o≧▽゚)o【ニンジャ】明るく長い髪を後ろで一つのおさげに結い、軽やかに歩く背中に前触れ無く無数のクナイを飛ばしたのは猿飛あやめだった。攻撃を受けた神威はそれらのクナイを全て避け、猿飛が潜んでいた壁をそれごと破壊した。意外と言えば意外、木っ端微塵に割れた瓦礫とその粉塵の中からその全てをかわし華麗に宙を舞って現れたのは、一人の女だった。「あなたね。第3回キャラクター人気投票でTop3に食い込んできたっていうのは」神威の目に猿飛の格好は馴染みのあるものでなかったが、その容姿から地球人の女であろう事は何となく想像できた。「・・・何の話?」「トボけてんじゃないわよ。内心勝ち誇ってんでしょ!!素直に喜んだらいいじゃない!!『僕3位取っちゃったぞー』ってガキ丸出しで喜んだら良いじゃないこのガキが!!」猿飛は仁王立ちで声を荒げ、神威を指差した。長い髪に顔には眼鏡をかけ、姿は中々どうして美しく。何より初めに投げたクナイの素早さ狙いの正確さ、その身のこなしは明らかに無数の場数を踏んできた戦士のものであり、話の内容はさっぱりだったが、その存在は神威の興味を引いた。「一体どんな手を使ったっていうの!?答え次第によっては助けてあげてもいいわよ」猿飛はクナイを両手に構え、神威を威圧した。その立ち姿にもやはり隙は無く、神威を見る目はまさしく殺し屋のもので猿飛の納得の行く答え以外を口にした時、この女は自分を殺すつもりなのだと、神威は察した。その直後神威は地を蹴って飛び上がり、猿飛が立っていた筈の地面を拳で砕いていた。「・・・あり?」自分が拳を叩き付ける寸前、其処には女の顔が確かに在ったのだがどうした事か、蜃気楼のようにその姿は消え去り、代わりに最初と同じクナイが背後から神威を襲った。「どうやら、答える気は無さそうね」やはり初めと同様、神威にとってそれらかわす事は何ら問題では無かったがいつの間に、そして一体どんな早さで女が自分の背後に移動したのかは、全く分からなかった。女が殺気を持って攻撃してこなければ、恐らくその姿を見つけるのも困難だった事だろう。猿飛は神威から一定の距離を保ち、悠々とクナイを構えている。「君、誰?」目を開き、楽しそうな笑顔を顔に浮かべた神威がそう尋ねると、猿飛は髪を後ろにはらって言った。「私が誰か・・・ですって?銀さんの女、とでも言っておきましょうか」その答えに神威が眉を潜めると、猿飛は続ける。「又の名を、始末屋さっちゃん」それらの言葉を神威はよく理解できなかったものの、分かった事が二つかあった。一つ、いつぞやのお侍さんとこの女が関係があるという事。二つ、地球には侍以外にも戦士種族がいるという事だ。どちらも神威にとっては朗報であった。姿を消されるのは厄介であったが、神威の目にこの女と己の実力差は明らかで己の中の血が騒ぐというよりは、猿飛から更にその戦士種族の情報を得たいという思いの方が強かった。「で、さっちゃん。君は・・・何?」「テメェに『さっちゃん』とか呼ばれたくねェんだよケツの青いクソガキが」お前がそう名乗ったんだろーが。と神威は心の中で思ったが、特に興味も無かったので口には出さなかった。どちらかと言えば、さっきからガキと連呼される方が面白くない。まぁ、面白くないと言っても怒る程では無いが。寧ろ明らかに実力が上回る相手を前に、此処まで無粋な態度を取るその度胸の方に感心してしまう。地球人というのは、皆こうなんだろうか。「じゃぁ何て呼んだらいいのさ」「呼ぶ必要なんて無いわよ。アンタは今此処で私に殺されるんだから」よっぽど自信があるのか、又はそんな強さも見極められないだけの馬鹿なのか。どちらでも神威にとってはどうでもいい事だった。「穏やかじゃないね。でも、君に俺を殺せるとは思えないけど?」「どうかしらね」馬鹿の一つ覚えに再び宙に放られたクナイを今度は避けずに、神威は手で掴んで止めてみせた。それは猿飛にとってもかなりショックだったようで、それが表情に如実に表れていた。狙いの正確さは大したものだが、強さも速さも自分を殺すには大分足りない。例え命中した所で、この程度の数のクナイなら特に問題は無いだろう。痛いけど。「飽きたな・・・」神威はボソリとそう呟くと、猿飛に今度は本気で襲い掛かった。神威にとって猿飛の動きの速さはやはり厄介で、捉える事は出来なかったが前回とは違い、今度は手に確かな感触が残り、指に僅かに血がついていた。神威の背後では若干余裕を無くした猿飛が、頬に切り傷を付けて立っていた。「速さだけは認めてあげるよ」神威がそう言うと、猿飛は笑いながら答えた。「忍者に速さで勝てると思ってるの?」「へぇ~、ニンジャっていうんだ」神威はそう言うと、地面に刺さっていたクナイを抜き取り顔は地面に向けたまま、背後の声に向けて手だけでそれを投げた。クナイは真っ直ぐに猿飛を狙ってくるものでは無かったが不意をつかれた猿飛は反射的にクナイから遠ざかる。しかし、その次の瞬間神威に首を掴まれ、地面に押しつけられた。「やっと捕まえた」そう言って笑った神威の指は地面に食い込んでおり、今にも猿飛の首を押しつぶす所だった。喉を圧迫されて苦しげな声を出す猿飛に、神威は言う。「一応聞いておこうか。何で俺を殺ろうとしたの?」「ア・・・ンタが、銀、・・・さんを、狙・・・・から、よ」搾り出すようにそう言った猿飛に神威な声を出して笑う。「そう、それは残念だったね。もう死んでいいよ」そう言って神威が穏やかな笑顔と共に猿飛の首を握力でもって引き千切ろうとした時、猿飛から何か機械音のようなものが聞こえて、神威は一瞬手を止めた。しかし今の状態の猿飛に何かする余裕がある筈は無く自分の聞き間違いだろうかと、神威は猿飛の首を抑えたまま、背後を振り返る。すると、震える喉の感触が手に伝わり、猿飛が声無く笑っているが分かった。まさかと思い神威がもう一度猿飛の方を見ると、苦しみながらもその顔は笑っており、眼鏡を通した目線が真っ直ぐに神威を見据えていた。「死ぬのは・・・アンタよ」その言葉に神威が答える間も無くその目に緑の光線が二本映り、生命の危険を感じ取った神威は猿飛から手を離し、間一髪でその光線を避ける。猿飛から数メートル離れた所で、姿勢を低く、猫のように様子を窺う神威の目に、世にも奇妙な光景が映る。女の耳の後ろから関節のある棒のような物が伸び、地を押して、女の体がゆらりと持ち上がる。もしかして地球人では無かったのだろうかと神威が考えている間に、猿飛の体は完全に起き上がる。いや、起き上がるどころかメタリックな鎧に身を包み、翼の生えた姿で宙に浮いていた。「見せてあげるわ・・・メガネ流忍術の真の恐ろしさを!!」その言葉と共に猿飛の目から再び緑色の光線が唖然とする神威目掛けて発射され、神威は再び避けたものの、止め処なく連射されるその光線の嵐に地面は崩れ、足場を無くした神威は深く落下し、そのまま見えなくなった。「チッ 仕損じたか」猿飛びはそう言うと、瓦礫の残骸を後に何処へとも無く姿を消した。その夜、阿伏兎が一日の汚れを風呂で洗い流し自室でくつろいでいた時乱暴に扉が開かれ誇りまみれで汚れた神威が部屋に入ってくるなり「阿伏兎、『ニンジ』ャって何!?」と、興奮した様子で叫んだ。出来るだけ自分に近づいて欲しくないなと思いながら阿伏兎は何かを取りに行く振りをしてさり気なく神威から距離を取った。「地球人の何か・・・じゃなかったか?それよりどうしたそのナリは」「ニンジャに会ったんだよ!凄かったんだよニンジャ!!」少々血走ったような目の凄い形相で、嬉しそうにそう語る神威に事の粗筋を尋ねると空を飛んだだの、目からビームを出しただの、およそ地球人の生態からは有り得ない事ばかりを並べるので、夢でも見ていたのではないかと思ったが敢えてそれは言わないでおいてやった。「で・・・それを殺してきたって訳かい?」「そうしたかったのは山々なんだけどさ。戻ったらもう居なかったんだ。ヒドいよね」ヒドいというか何と言うか。阿伏兎にとってはどうでもいい事だったが、また地球に行く用事が増えてしまったな、と溜息をついた。「俺は忍者がそんな事するなんて初めて聞いたがね。不思議な技を使うって話らしいから、もしかしたらそれなのかもな」そう言うと神威は益々目を輝かせ、当然次なる忍者の情報を与えてくれるとでも思っているかのような目で自分を見てくるので、阿伏兎は言う。「ま、地球人の事は地球人に聞くのが一番だと俺は思いますがね」それを聞いた神威はポン、と手を叩くと「そうだね!じゃぁちょっと晋助のトコ遊びに行ってくるよ!」と言って部屋を出て行った。これで少なくとも数日は振り回される事無く静かに過ごせるだろうと阿伏兎はホッと息をついて、茶を啜った。同じ頃万事屋では突然押しかけてきた上に抱きついてきた猿飛を引っぺがすのに銀時が躍起になっており、階下のスナックを訪れていた客達にもその物音が煩く響いた。「ごめんなさい銀さん!私・・・私・・・銀さんを護ろうと・・・次回の人気投票では銀さんとワンツーフィニッシュ出来るようにって・・・でも失敗しちゃったの!私って本当ダメな女なの!叱って銀さん!お願い!こんな駄目な私を叱って!」「ウッゼーんだけどコイツ!!離れやがれこのメス豚がァ!!」その隣では神楽がいつもの事と、特に気にする事も無く定春に寄りかかってTVを見ていた。【完】うわー、ありえそう、ありえそう!(笑)おまけに、ぽっぽさんのメールに「2人の誕生日が続いてたんで、この2人ってもし会ったらどんな会話するんだろうって考えたら、さっちゃんが人気投票の事根に持たない訳が無いと思いました。それとも女の子相手だけなのかな・・・何だかやっつけなクオリティのSSになった気がします御免なさいm(_ _)mぶっちゃけさっちゃんの眼鏡とお妙さんのリングディンディンドドン波があれば屁怒絽さんだってきっと目じゃないw」とあったんですが、うわー、ありえそう、ありえそう!(笑)っていうか、なるほど!高杉さんと神威は、銀さん狙う暇があるなら、さっちゃんと姉上を狙ったほうがいいってことか!((φ(..。)メモメモ(ぇーさっちゃんがごっさかわいかったんですが、私的には、さらり出てきた阿伏兎さんがごっさツボでした。関係あってもなくてもいいので、阿伏兎さんをじゃんじゃんチョイ出ししてくれるといいんじゃないかな!☆^(o≧▽゚)o (ぇぇーぽっぽさん、ありがとうございました!☆(≧▽≦)☆!ぽっぽさんの素敵ブログはこちらです。→【popponoblog】SSはこちらにまとめてます。⇒【頂き物(ss)】
2011年06月05日
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HRKメンバーでもあるrubydredredさん(720°)からミツバさんの小説を送っていただきました。rubydredredさんのブログでご覧になった方もいらっしゃるとは思うんですが、出来上がったのには経緯があります。rubydredredさんからのメールを抜粋させていただくと「この話は、香林さんがハコさんのリクで沖田さんとミツバさんの絵をリクエスト→ 出来た絵にハコさんが妄想 → 香林さんが妄想 という流れを見ていた私が手を上げました。二人の妄想がツボでした。」 とのことです。もうね!香林さんのリクエストがグッジョブすぎるっていうか、ハコさんのイラストがかわいいのなんのって!☆(≧▽≦)☆!というわけで、まずは、ハコさんのイラスト(線画も色塗りもぜ~んぶハコさん)をごらんください。ハコさんのブログ(サクラバコ)にアップされてます。⇒http://asanohabox.blog35.fc2.com/blog-entry-364.htmlご覧いただけました?OK?では、香林さんの素敵リクエストに応えたハコさんの素敵イラストを基にしたrubydredredさんの素敵小説をご覧下さい。【5月26日】近藤さん編 ミツバさん編 沖田さん編※楽天ブログの字数制限にひっかかったせいで、8分割(汗)になってます。一気に読まれたい方は、フリーページの方からご覧下さい。⇒【5月26日】【5月26日 1 近藤さん編】誕生日は、あなたへ、出会えてよかったと伝える日あなたが、ここにいることを喜ぶ日あなたに、生まれてきてくれてありがとうを言う日近藤「近藤さん」朝稽古の後で、総悟に呼び止められた。いつになく真剣な顔をして、総悟らしくもない様子に俺は驚いた。次の言葉を少し考えているようで、珍しくもじもじしている。辺りをきょろきょろと見回して、自分と俺しかその場にいないのを確認すると、そっと手招きした。「どうした、総悟」中腰になって総悟の顔へと近づくと、幼い子特有の柔らかい髪の毛が頬を撫でる。総吾は俺の耳元に近寄って内緒話をするように、手を俺の耳によせた。総悟にしちゃずいぶんと子供っぽいなと思いながら、次の言葉を待った。「近藤さん、お願いしたいことがあるんです」あの総悟がちゃんとした言葉使いで頼みごとをするなんて初めてのことで、俺はちょっと感動する。「あの、近藤さん。5月26日はお暇ですか?」「多分、暇だと思うが。どうした?」「家に来てくれませんか?おねーちゃんの、姉上の誕生日なんです」意を決したような総悟の言葉で俺ははっとして、思わず顔を見そうになった。俺の頬に寄せられた総悟の指がちょっと震えていて、俺はそのままの姿勢で総悟に答えた。「もちろんだ、喜んで寄せてもらう」頷きながら言った俺の言葉に、総悟は小さな声で心配そうに訊ねた。「本当ですかィ」「ああ」力強く俺が答えるとすぐに総悟は俺から離れて、いつものいたずらな笑顔に戻った。「近藤さん、本当に来てくれやすかィ」「ああ、男に二言はない。それに、ミツバ殿にはいつも何かと気を遣っていただいているんだ。本来ならこちらから何かするのが筋ってもんだ」総悟は俺の言葉を聞いて、うれしそうに笑った。「なあ総悟、誕生日というなら大勢がいいんじゃないのか」「近藤さん。近藤さんだけ、でさァ」また真面目な顔になってそう言うと、もう一度総悟は道場の中を見回して誰もいないのを確認した。その日は総悟は一日中上機嫌で、いつもなら誤魔化す稽古も率先して張り切っていた。普段とは違いすぎる総悟の様子に、トシは不思議そうだった。総悟に何かあったのかと真顔で俺にトシが尋ねているのを知らぬ顔で素通りして、総悟はトシの草履をつまむとひょいと遠くへ放り投げた。「て、てめェ、なにしてやがる」慌ててトシが総悟を追いかると、道場には二人が走り回る音が響いた。「こら、やめんか二人とも」大声で俺が二人の間に割って入ろうとするが、あまりにすばしこくて中々捕まらなかった。総悟はトシの周りをちょこまかと走り回ると、隙を突いて膝の後ろを蹴り上げた。トシが体勢を崩して床に膝をつくと、それを鼻で笑って道場の入り口へと駆け出した。急いで外へ逃げ出そうとしていた総悟の動きが戸口で止まると、光が射したような輝きが顔に満ちた。「おねーちゃん」とっさに家での呼び方が出てしまったことにも気がつかず、総悟は迎えに来た姉のミツバに笑顔を向けた。「そーちゃん、駄目でしょ。草履を放り投げたりしちゃ」彼女は総悟の投げた草履を拾い上げ、大事そうに手に抱えて立っていた。「だって、姉上」総悟は甘えた声で姉に答えると、いじいじと拗ねたように横を向いた。年相応のそんな仕草に俺は思わず笑ってしまう。姉であるミツバ殿の前でだけで見られる姿だった。「近藤さん、すみません。そーちゃんったらいたずらばかりして」近寄ってきてミツバ殿は俺に頭を下げると、総悟には「めっ」と母親のように叱った。「いやあ、子供のすることだ」俺が笑いながら彼女に答えると、ミツバ殿はまた頭を下げた。「これ、近藤さんの草履ですか?」「いや、トシのだ。おおい、トシ」俺がトシを呼ぶと、あいつはいつの間にか道場の隅で素振りなんぞをしていて、聞こえないふりをしていた。「トシ」もう一度大声をだしたが、こちらを見もせずに黙々と終わったはずの稽古を繰り返している。「気にすることはない、どうせ俺のもトシのもボロ草履だ」「でも」奥にいるトシへ、ミツバ殿は何か声をかけようか迷っているようだった。「トシ」もう一度俺が声を張り上げたが、それを邪魔するように総悟がやってきた。「姉上、帰りましょう」総悟は気がつくとすでに身支度を整えていて、俺に頭を下げるとまだ迷っている姉の手を掴んで、ぐいぐいと歩き始めた。ミツバ殿は振り返りつつ総悟と歩いていたが直に笑顔になり、傍らの総悟へ何か話しかけているようだった。はしゃぎながらそれへ総悟は答えているようだったが、急にくるりとこちらを向き一人で駆け出してきた。「近藤さん、ホントに来てくれるんですねィ」総悟は息を切らしながら、まっすぐに俺の目を見て訊ねた。「もちろんだ、約束しただろう?」力いっぱい笑顔で答えて、どんと胸を俺はひとつ叩いた。「へへっ、約束ですぜ」総悟はにっと笑うと手を振って、姉の下へとまた走っていった。「総悟もああしていると、子供に見えるな」二人が仲良く帰っている姿を見て、俺はぽつりと呟いた。「子供っていうより、ガキだな」素振りをやめて俺のほうへやってきたトシは、きちんとそろえられた草履をちらりと見て顔をそむけた。「ああ、ガキだな」素直でないトシへ向けてそう言うと、総悟に言っていると勘違いしているらしくトシは素直に「ああ」と返事をした。その後、総悟はずいぶんと張り切っているようで、俺に「ケーキの作り方」や「飾り付けの仕方」を教えてくれと頼んできた。俺がこういうことには不向きなのは総悟も十分に分かっているんだろうが、他に訊ねることができる相手が総悟にはいないようだった。あいつが同じ年頃の男の子と話をまともにしている姿を、俺は想像できなかった。道場や周囲の大人たちの間でならただのいたずらっ子で済む総悟だったが、子供の中ではうまくなじめない様子で、総悟自身も相手を馬鹿にして話をしたくはないようだった。ミツバ殿は、総悟の張り切っている様子がうれしくて仕方ない様子に見えた。弟のために気がつかないふりをしているが、総悟が俺に出席を頼んだことも承知していた。「近藤さん、本当に無理しないでくださいね」ちょっと心配そうな顔をして、迎えに来た総悟がトシと追いかけっこをしているのを、遠くに見ながらそう言った。「ミツバ殿には俺が無理なんてしているように見えるか。随分と楽しみにしているんだが」俺が本心からそう答えると、安心した顔になった。「ふふっ、ありがとうございます」ミツバ殿の誕生日はずいぶんといい天気になった。朝から雲ひとつない青空で、総悟が随分と喜んでいるだろうなと空を見上げながら俺は思った。昼から始まる宴のためにのんびり歩く道すがらも、汗が出るような陽気だった。「ごめんください」沖田家の玄関で案内を乞うと、出てきた総悟がほっとしたような顔になった。挨拶もそこそこに、総悟に奥へと通された。客間の掛け軸のあるべきところに「姉上、お誕生日おめでとう」と総悟が大書した文字が躍っている。紙からはみ出そうな勢いの文字に、総悟の気持ちがこめられているようで思わず笑ってしまう。花瓶には庭のサツキを総悟が折り取って生けたのだろう、随分と盛大に飾られて枝が窮屈そうだった。長押には色々な紙で作られた輪飾りがぐるりと飾られ、机の上の箸袋には総悟の下手な字で三人の名前が各々書かれていた。机の上には精一杯の料理が並んでいて、総悟のミツバ殿への思いと、ミツバ殿の総悟への思いが俺にははっきりと見えて、目頭が熱くなった。「総悟、随分と頑張って作ったのだなあ。俺にはとても真似できんぞ」総悟はちょっと驚いて、俺の言葉に答えるように得意気な顔になった。「近藤さん、わざわざ本日はありがとうございます」料理を持ってきたミツバ殿が、俺に気がついて慌てたように頭を下げた。「いやあ、こんなに立派な会に招待してもらって、俺のほうこそ礼を言うべきだ」姿勢を正して改めて俺が頭を下げると、それを見ていた総悟は姉の持ってきた料理をつまんで口に放り込んで、ミツバ殿にたしなめられた。「近藤さん、姉上の作る料理はどれも絶品でさァ」にっこりそう言うと、誕生日会が始まった。青菜と飾り麩の吸い物、春菊のおひたし、揚げた大根にとろみのついたたれがかかっているもの、厚揚げと野菜を炊いたもの、尾頭付きの焼き魚、鳥のから揚げ、川海老の揚げたもの、鯉の旨煮。苦労して手に入れたのだろう、走りの小さな枇杷がひとつずつ小皿に乗っていた。小さな壷の中にはミツバ殿の好きな唐辛子の粉が入っていた。どれから食べようかと迷うほどで、俺と総悟は黙々と食べることに集中してしまう。ミツバ殿は俺たちを見てニコニコとしているだけで、唐辛子をかけているがあまり箸が進まないようだった。「姉上、すごくおいしいです」鳥のから揚げを三つも頬張りながら言う総悟に、ミツバ殿は「まあ、そーちゃん」と行儀の悪さをたしなめながらも、目尻が下りっぱなしだった。「いやぁ、どれもこれも本当にうまい」「もう、二人とも」ミツバ殿ははにかみながら言うと、「ちょっと待っていてくださいね」と席を立った。〈続きます⇒-近藤さん編ー (後)〉 通販ページはこちらです♪⇒http://hrkgin.cart.fc2.com/
2011年05月29日
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※銀魂 二次創作。【5月26日】 1 -近藤さん編ー (前)の続きです。【5月26日 1 近藤さん編】(後)「近藤さん、俺も手伝ったんですぜィ」「ほう、総悟がか、えらいなあ。一体どれを手伝ったんだ」感心して俺が言うと、総悟の鼻の穴が得意気に膨らんだ。「鯉と、川海老は俺が捕ってきたんでさァ。鯉はきゅうきゅう鳴いて、おねーちゃんがしめられないって言うから俺がばさーっとやったんでィ」「たいしたもんだなあ、総悟。ミツバ殿はさぞ喜んでいるだろうな」去年の総悟の誕生日会に俺は初めて呼ばれたのだが、総悟のはしゃぎようは驚くほどだった。ミツバ殿はそんな総悟の様子がずいぶんとうれしかったようで、その後で何度も俺に礼を言うほどだった。総悟は去年の自分のように、ミツバ殿にも楽しい思いをさせたかったんだろうと思った。「よいしょっ」ミツバ殿は大きな絵皿を大事そうに抱えながら部屋に入ってきて、机の上に置いた。「うわぁ」「おおっ」総悟と俺は思わず歓声をあげてしまう。「ふふっ、ちらし寿司でケーキを作ってみたの。近藤さん、ケーキってこんな感じであってるのかしら?」二人の様子を見て、笑いながらミツバ殿は言った。箱型の酢飯の上に錦糸卵が全体を覆って、その上には花の形に切られた人参や大根が載せられ、グリンピースが一粒ずつぐるりと周囲を飾っていた。「あ、あってるとも。ケーキってこういうもんだ、写真で見たのはまさしくこんな感じだった」俺も実物を見たことはないんだが、写真で見たケーキは確かにこんな風だった。「あ、姉上。俺ァ…俺ァ」総悟は涙目で口ごもりながら言うと、そのまま黙ってしまった。「そーちゃん、ケーキに見えないかな」首をかしげながら弟の目を見て、ミツバ殿は優しく微笑んだ。姉の言葉に勢いよく総悟は首を左右に振り、涙をこらえてちらし寿司を見た。「ねえ、そーちゃん。上手に分けてよそってくれないかしら」総悟は頷くと、慣れない手つきで皿の上に三人分をよりわけた。ちらし寿司は三人分を分けてもまだ十分なほどの量だった。ちらし寿司の中には油揚げや椎茸の煮たのや、蓮根やゴマが中に入っていた。「随分と豪華だなあ。俺はこんなに立派で旨いちらし寿司は食べたことがないよ」もぐもぐと頬張りながら俺が言うと、総悟は得意そうな顔になった。「だから言ったじゃないですかィ。近藤さん、姉上の作る料理はどれも絶品なんでさァ」そして、ミツバ殿へとプレゼントを渡す段になった。「はい、姉上」総悟は近くにあるせんべい屋の激カラせんべいを差し出した。最近売り出した品で、とにかく辛いと評判だった。蕎麦に真っ赤になるほど唐辛子を入れるぐらいがちょうどいいミツバ殿にぴったりの品だ。「そーちゃん、ありがとう。これが激カラせんべいなのね。すごくうれしい、わたし大事に食べるわ」ミツバ殿は一枚だけ取り出すと、真っ赤な色をしたせんべいをおいしそうに口に運んだ。俺はなりに選んだのだが、こんなもので喜んでもらえるだろうかと心配だった。女性にあげるなら本当はもっとしゃれたものの方がいいのかもしれないが、何も思いつかなかった。年頃の女性への贈り物なんて初めてで、総悟に探りをいれたのだが話をしているうちに自分の欲しいものを言い出す有様で、俺は一人で考える羽目になった。散々迷いに迷って、傘を贈る事にしたのだった。ある日、ミツバ殿が迎えに来たあとで雨が降ってきて、家にある傘を持たせた。次の日、雨の中総悟を迎えに来たミツバ殿は礼を言いながら傘を返し、「ずいぶんと立派な傘」と褒めた。貸したのはどこにでもあるような男物の傘だった。彼女の傘をふと見ると、何度も張り替えた後があり地紙も随分と変色していた。そういえば、彼女が新しい傘を差しているのを俺は見たことがなかった。総悟は傘を持つと遊んだり暴れたりで、しょっちゅう骨を折ったり地紙を破いたりしていて新しい拵えになっているのだが、ミツバ殿はいつも同じ傘だった。俺は店で一番立派な女物の傘を買うと、丁寧に包んでもらった。「これ、ミツバ殿に似合うといいのだが」ミツバ殿がよく着ている着物と同じ桃色で、地に花が浮かんでいる。他の女性用よりも大きめで濡れないようになっていると、店のばーさんが勘違いしてニヤニヤしてからかいながら教えてくれた。総悟と二人で入ることもできそうな大きさだった。「まあ、近藤さん」そう言ってミツバ殿は傘を開きもせずに、じっと眺めていた。「姉上、開いて見せてくだせェ」総悟が促すと、そうっとこわごわと開いた。そのまま黙ったままミツバ殿は傘の中で佇んでいて、気に入らなかったのかと俺はちょっと心配になった。「きれい」ミツバ殿は開いた傘の中でうっとりとそう言って、くるくると傘を回した。「花が、咲いているみたいだわ」傘を止めるると小さな声で呟いて、今度は地紙の花にひとつずつゆっくりと触れた。「姉上よく似合ってます」総悟は姉を見ながら、小さく何度も頷いて言った。「近藤さん、こんなに素敵なものありがとうございます。もったいなくて、当分は差せないわ」傘を閉じたミツバ殿は俺に改めて頭を下げると、大事そうに傘を撫でた。「近藤さん、見ていてくだせェ。来年は俺が姉上にすごいもんを贈りまさァ」総悟はどこからか紙を持ってくると、そこにケーキの絵を描きはじめた。自分と姉の並んでいる姿や姉の似顔絵を描いて、得意気だった。マヨネーズを描いてにやりと笑うので、「なんだ総悟、トシがいなくて寂しいのか。だったら」俺が声をかけると大慌てで大きなバッテンをマヨネーズに描いて、そのまま俺の鼻に墨をつけた。「マヨなんて、端からこうするつもりだったんですぜィ、近藤さん」「まあ、そーちゃん。駄目でしょ!近藤さん、すみません」「いやあ、洗えば落ちるから」俺は慌てるミツバ殿に連れられて洗面台に行き、顔を洗った。「本当に、すみません」何度も何度もミツバ殿は繰り返すので、俺が恐縮してしまうほどだった。部屋に戻ると総悟は寝転がって、なんだか眠そうだった。俺とミツバ殿が黙って見ていると、じきに小さな寝息が聞こえた。ミツバ殿がそうっと総悟に薄手の布団を持ってきてかけてやると、薄目を開けた総悟は彼女の袂を掴んで、また目を閉じた。そのまま総悟を二人で見ていると、総悟が初めて道場にやってきたときの様子が思い出された。「総悟も随分大きくなったな。ここのところ、しっかりしてきた」「近藤さんのおかげです。そーちゃん、いつも道場でのこと楽しそうに話してくれるんです。道場に通えて随分変わったわ。」むにゃむにゃと呟く総悟を見つめるミツバ殿の目は、いつもと同じように柔らかく姉というよりも母親のようだった。「近藤さんと出会えて、そーちゃん…本当に、よかった」「ミツバ殿はよくやってる」腕組みをして頷く俺の顔を、息をのんでミツバ殿は驚くように見た。「なんて、俺が言えた義理じゃないがな」気恥ずかしくなって、俺はがはがはと笑いながら言った。「何か大変なことや困ったことがあれば、俺に言ってくれ。ミツバ殿も知っての通りの貧乏道場だが、できる限りのことはさせてもらうぞ。人手だけはあるしな」「近藤さん、ありがとうございます」伏し目がちに黙って聞いていたミツバ殿は、目の端に涙を湛えて俺に礼を口にした。「先日の他流試合でな、総悟は随分と活躍して相手も感心しててなあ」「近藤さんったら。そのあと、そーちゃんが相手の方に対していたずらをしたって」「総悟のヤツ、知恵が回るからなあ」俺がわざと感心しているように振舞うと、何度も聞いた話なのにミツバ殿は笑ってくれた。「いやあ、総悟にはな、俺も」ミツバ殿が俺の背後にある何か一点を見ていた。そして、ぼうっとして見つめた後、はっと気がついて顔を赤くして、総悟の方を見るように下を向いた。俺は、トシが来たのだとすぐに分かった。振り返ると、むっとしているように口をへの字に曲げたトシは怒っているようにすら見えるが、俺の目には緊張しすぎて精一杯かっこをつけている姿にしか見えなかった。「遅かったな、トシ」「近藤さん、遅く来いって言ったろ」ミツバ殿を見ないようにぼそりと硬い表情で言うトシを見て、これは俺にはからかえないなあと思った。「なんだ、やけに静かだと思ったら寝てんのか」「はしゃぎすぎたんだろうなあ。さっきまでは起きてたんだがな」三人であどけなく眠る総悟を見ていると、普段のにぎやかな情景が嘘のようだった。「こうしてみると、こいつも普通のガキにしかみえねえな」「剣をもたせると誰もが驚くほどの使い手になるのになあ」「使い手っていうよりも、ただの悪ガキだろ」トシが突っ立ったままでにこりともしないで言うところを見ると、昨日総悟に面白半分に前髪を切られそうになったことに、まだ腹を立てているのかもしれない。「お二人といると、そーちゃんとっても楽しそうだから、わたしうれしいんです」ミツバ殿は総悟の額にかかった髪を愛おしむ用に撫でながら、じいっと弟の顔を見つめ続けていた。三人の話のタネになっているとも知らず、総悟は姉の袂をまだ離さずに眠りの中にいた。そうやってぽつりぽつりと話をしていたが、ミツバ殿とトシが一向に顔を見合わせない様子を見て、俺は気をきかせることにした。「さあ、俺はそろそろ道場に戻るか」「じゃあ、俺も」「トシ、まだお前はゆっくりしていけ。ミツバ殿の手料理をちゃんとご馳走になったほうがいいと思うぞ、総悟も言っていたが絶品だぞ」俺はトシの手を掴んで、縁側に無理に腰をかけさせた。トシは多分座敷に上がれといえば、上がらずに帰ってしまうだろう。そういうヤツだ。「じゃあ、ミツバ殿。呼んでくれてありがとう。今日は本当に楽しかった」居住まいを正して頭を下げると、ミツバ殿は総悟に袂をつかまれたままの姿勢で頭を下げた。「私こそ、本当にありがとうございました。近藤さん、傘大切にしますね」「うむ、次は総悟の誕生日だな。もしよければうちの道場でやっても構わないだろうか」俺がそう言うとミツバ殿はぱっと顔を明るくして喜んだ。総吾とよく似た笑顔だった。「ありがとうございます、近藤さん」頭を俺に下げて「よかったわね、そーちゃん」ミツバ殿は弟を見てそう呟いた。俺はぎこちない二人をそのままにして沖田家を辞した。もう夏が来たかのような午後の道だが木陰を選んで歩くとまだ五月の涼しさが残っていて、俺は雲ひとつない青空を見ながら早く雨が降ればいいのにと思った。【5月26日】 2 -ミツバさん編ー 通販ページはこちらです♪⇒http://hrkgin.cart.fc2.com/
2011年05月29日
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※銀魂 二次創作です。【5月26日】 1 -近藤さん編ー 3 -沖田さん編ー【5月26日 2 ミツバさん編】ミツバ「ねえ、おねーちゃん」近藤さんの道場から一緒に帰ってきたそーちゃんは、いつものようにわたしに足を洗われていた。草履を脱いだそーちゃんの足の裏は、近藤さんのところへ剣術の稽古に通うようになってから、どんどん硬くなってしっかりしてきた。くすぐったがるそーちゃんはいつもじっとしてなくて、わたしに水をかけたりするんだけど今日はちょっと違うみたい。「なあに、そーちゃん」そーちゃんの顔を見るとちょっと恥ずかしそうだから、わたしは笑うことにした。「あのね、おねーちゃんは何が欲しいのかなあって」小さな小さなそーちゃんに戻ったように、もじもじしている。「どうしたの、そーちゃん」「おねーちゃんの一番欲しいものって、聞いたことがないなあって」きれいになったそーちゃんの両足を手ぬぐいで拭いてあげると、そーちゃんは座ったままでわたしの顔をじいっと見ていた。ああ、もうすぐなのね。10日もしないでやってくるわたしの誕生日に何をあげようかって、多分そーちゃんは考えてる。そーちゃんはいつもわたしのことを考えてくれてる。そーちゃんが喜ぶようなごちそうをつくらなきゃ、とわたしはそーちゃんの顔を見ながら思った。「そうねえ。ねえ、そーちゃん。そーちゃんの夢ってなあに?そーちゃんは大きくなったらどんな風になりたいのかしら?」わたしの言葉にそーちゃんは戸惑ってちょっとの間だけ静かになって、ぶらぶら動いていた足がぴたりと止まった。「俺ァ、強くなりてェ。野郎も、近藤さんもいつも負かせるくらいに強くなって、誰よりも強くなって立派な侍になりてェ。そしたらおねーちゃんのこと、姉上を俺が誰からも護って」急に大人びた口調になって真剣な目をしてそーちゃんが言うから、わたしはちょっとびっくりした。いつものそーちゃんならふざけておしまいになるのに、今日のそーちゃんはそうっと大事にしまっていた宝物を見せてくれる気になったみたいだった。「ねえ、そーちゃん。そーちゃんの夢が叶って、そーちゃんが笑うところが見たいな」思わずわたしの本音がでちゃった。わたしの言葉を聞いて大きな目が丸くなってる。「おねーちゃん、僕は欲しいものを聞いたんでィ。僕だってちっとくらいは金を貯めたんでさァ」そう言って、そーちゃんは真っ赤になってぷうっとふくれて、ずいぶんとかわいい顔になった。「まあ、そーちゃんいつの間に貯めたの?」あんまりかわいいから、そーちゃんの金魚みたいに膨れた頬を指で何度も押すと、もっと膨れた。「もうっ、ガキじゃねェんだから買い食いばかりじゃなくて、貯金くらいできんでィ。おねーちゃんが驚くようなもの用意するから、楽しみにしててくんなせェ」わたしがからかっているのが分かったのか、そーちゃんはどたどたと足音を立てながら居間へと走っていってしまった。本当に大きくなってるんだなあ。去年のそーちゃんと違って、今年のそーちゃんはお金を貯めてまでわたしに贈り物を用意しようとしてくれて。あまりお小遣いをあげられないから、駄菓子屋でちょっと買ったらすぐになくなっちゃうのに。そーちゃんは本気だった。わたしには内緒にいろいろと考えてるんだけど、隠すのが下手な子だからすぐに分かっちゃう。チラシのきれいな部分で作った輪飾りが文机の上にころんとひとつだけ落ちてるし、筆で近藤さんとそーちゃんとわたしの名前や「おたんじょうびおめでとう」の文字を、何度も練習した紙がくずかごに捨ててあった。わたしの欲しそうなものを一生懸命考えて、書き上げては消し書き上げては消ししてある新聞紙。ケーキの本のその横に、材料と作り方を書き写した紙を見た。たどたどしいその字に涙が出そうになった。去年のそーちゃんの誕生日が終わった後、ケーキの写真を見て「食べてみたいな」って二人で話してたこと、田舎だから近くにはケーキ屋さんなんてないし高くて買えないから、「そのうちね」って笑ったこと覚えてたんだ。わたしはそーちゃんに喜んで欲しくて、おいしいものをお腹いっぱい食べてもらうことに決めた。わたしの誕生日にあと数日のある日、そーちゃんは川で大きな鯉と川海老を山ほど捕ってきた。道場がない日なのに気がついたら朝早くにはもう布団にいなくて、ご飯も食べずにどうしたんだろうと思ってたら、お昼前にそーちゃんは帰ってきた。「おねーちゃん」洗濯物を干していると大声でそーちゃんに呼ばれた。「どこにいってたの、そーちゃん」慌てて声のする井戸端へ行くと、そーちゃんが得意気に笑っていた。腕まくりをして着物にも顔にもあちこちに泥が跳ねて、乾いてまだらの模様みたいになっている。濡れた髪の毛が額にくっついてた。そーちゃんの足元にあるたらいの中には大きな鯉。そして、たくさんの海老。近所のおじさんが一緒に担いでくれたようで、そーちゃんは魚篭に入っていた魚と海老をおじさんにお礼を言いながらあげていた。「いやあ、ミツバちゃん。大きな鯉だろ?これを一人で釣り上げたんだから、大したもんだよなあ」おじさんは手ぬぐいで汗を拭きながらそーちゃんに笑いかけた。二尺を超える鯉と川海老は大きなたらいに冷たい井戸水を入れ替えて張って、それぞれ別々に入れて日陰で泥を吐かせることにした。「これ、誕生日には食べられますかねィ」そーちゃんは鯉のたらいの前でじいっと見つめながら呟いた。「ええ」そーちゃんの気持ちがうれしくて、わたしはそう言うのが精一杯だった。そーちゃんは誕生日の前の日からわたしの手伝いをしてくれた。鯉が暴れて鳴くのでしめられないでいると、見かねたそーちゃんが上手にしめてくれた。家の中の掃除も遊ばないで手伝ってくれて、お客さん用の座布団を干したり、しまいこんでいた絵皿を洗ってくれたりした。なんだか急に大人びちゃって、わたしはちょっと寂しい気分になった。誕生日の日はそーちゃんは外が明るくなる前から起きて動いているようだった。しばらく寝たふりをしてたんだけど、ずうっとそうしているわけにもいかなくて、わたしが台所に行くと粉まみれになったそーちゃんがいた。「まあ、そーちゃん顔が真っ白よ」「上手にふくらまないんでィ」そーちゃんが見せてくれたのは大きなおせんべいみたいに丸い形の黄色の何か。なんだかぶにぶにして柔らかそうで、あまい匂いがする。「どうしよう、もう粉もこれっぱかししか残っていやしねぇし。おねーちゃん、ごめんなさい。ケーキが上手く作れねェ」そーちゃんは半べそをかいてわたしを見た。真っ白の顔の目の周りだけが涙で濡れて、歌舞伎の隈取みたい。「まあ、そーちゃんったら。そんな顔しないで、ケーキなんてなくても大丈夫だから。だから、顔と手を洗っていらっしゃい」わたしが笑いながらそう言うとそーちゃんは大人しく従った。申し訳なさそうな顔で戻ってきたそーちゃんに「一緒に準備してくれるとうれしいな」と告げると、途端に笑顔になった。そーちゃんに魚や鳥を捌いてもらい、焼き魚を焼いてもらう。その間にケーキの残りの小麦粉を使って揚げ物をしたり、煮物の様子を見ながら、皿の準備をした。盛り付けが終わった皿を机に運んでもらい、居間の準備をお願いした。わたしはそーちゃんが大量に残した卵で、いいものを作ることにした。〈続きます⇒-ミツバさん編ー (中)〉 通販ページはこちらです♪⇒http://hrkgin.cart.fc2.com/
2011年05月29日
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※銀魂 二次創作。【5月26日】 2 -ミツバさん編ー (前)の続きです。【5月26日 2 ミツバさん編】お昼前に近藤さんがやってくると、そーちゃんのうれしそうな声が聞こえ、わたしは残りの料理を盆に載せ、居間へと向かった。「近藤さん、わざわざ本日はありがとうございます」「いやあ、こんなに立派な会に招待してもらって、俺のほうこそ礼を言うべきだ」暑い中をわざわざ紋付の羽織袴で歩いてきてくれた近藤さんは、赤い顔をしてニコニコと座っていた。わたしの言葉を聞くと恐縮して頭を下げた。そーちゃんはそんな二人を見て笑いながら、皿の上の料理を口にひとつ放り投げた。「姉上、すごくおいしいです」「いやぁ、どれもこれも本当にうまい」誕生会が始まって、二人ともお世辞を交えながら夢中で食べてくれる姿を見るのはうれしかった。お腹があっという間にいっぱいになってしまいそうなので、二人に断ってわたしは席を立った。うちで一番大きな角皿に用意したものをこわごわと運ぶ。どうしてもそろりそろり歩く足が慎重になってしまって、もったいぶってるみたいだ。「よいしょっ」おばさんみたいな声を出して、わたしは机の上にちらし寿司を置いた。「うわぁ」「おおっ」二人の歓声で喜んでいるのがわかって、うれしくなった。「ふふっ、ちらし寿司でケーキを作ってみたの。近藤さん、ケーキってこんな感じであってるのかしら?」油揚げと椎茸を甘辛く煮て、蓮根と酢飯と切りゴマをまぜ、ちらし寿司を作った。上には卵にお砂糖を入れて、そーちゃんのすきな甘い錦糸卵をどっさり載せ、人参と大根花の形に切って茹でたのをちらして、四角く作ったちらし寿司の上を囲むようにグリンピースをひとつずつ乗せた。近藤さんが苦手みたいだからかけてないけど、唐辛子をどっさりかけたらもっとおいしそうに見えるかな。「あ、あってるとも。ケーキってこういうもんだ、写真で見たのはまさしくこんな感じだった」そーちゃんがこっそり持っていたケーキの写真は、やっぱり近藤さんが用意してくれていたようだった。「あ、姉上。俺ァ…俺ァ」そーちゃんは、目に涙を浮かべてる。自分が失敗したことを気に病んでいるなんて、そーちゃんらしくない。わたしは、そーちゃんが笑った顔が見たかった。「ケーキに見えないかな」私が言うと、そーちゃんは首をぶんぶんと横に振る。「ねえそーちゃん、上手に分けてよそってくれないかしら」そーちゃんは頷くと、慣れない手つきで皿の上に三人分をよりわけた。ちらし寿司は三人分を分けてもまだ十分なほどの量だ。お皿からは上に飾った錦糸卵がはみ出してる。「随分と豪華だなあ。俺はこんなに立派で旨いちらし寿司は食べたことがないよ」もぐもぐと頬張りながら近藤さんが言うと、そーちゃんは得意そうな顔になった。「だから言ったじゃないですかィ。近藤さん、姉上の作る料理はどれも絶品なんでさァ」ご飯粒を頬にいくつもつけて、そーちゃんは大声で言った。「はい、姉上」そーちゃんは近くにあるせんべい屋の激カラせんべいを誕生日のプレゼントにくれた。最近売り出した品で、とにかく辛いと評判だった。籠の中にたくさん入ったおせんべいは唐辛子が真っ赤になるほどかかっている。新商品ののぼりを二人で見たけれど、まだ食べたことがなかった。「そーちゃん、ありがとう。これが激カラせんべいなのね。すごくうれしい、わたし大事に食べるわ」わたしは一枚だけ取り出して、おいしそうな色をしたせんべいを口に入れた。ぴりぴりとした唐辛子の辛さがちょうどよくて、とってもおいしいおせんべいだった。「これ、ミツバ殿に似合うといいのだが」近藤さんのくれた包みは随分と長くて、かわいらしいきれいな包装紙で包んであった。そうっと開けてみると、傘だった。「まあ、近藤さん」桃色の傘はしっかりとしていて、ずいぶんと大きかった。近藤さんは、わたしがいつも同じ傘を差していることに、気がついて選んでくれたんだわ。気がつかないようなところまで見ていてくれていた、近藤さんの優しさが現れているようでそのままじっと眺めていた。女物のこの傘を、近藤さんは一生懸命選んでくれたのね。普段の近藤さんは無骨で、女性に向けた贈り物を器用に選べるような人ではなかった。「姉上、開いて見せてくだせェ」じれたそーちゃんに促されて、わたしは傘を開いた。勢いよく開けるのがなんだかもったいないようで、そうっと傘を開いた。傘の中にはたくさんの花が浮いていた。ひとつひとつの花は薄い赤や桜色で地紙の桃色に近い色で描かれている。その花を全部見たくて、わたしは傘をちょっとずつ回した。「きれい」傘を回すと浮かんだ花もくるくると回る。「花が、咲いているみたいだわ」こんなにきれいな傘、差してもいいのかしら。きれいな花にひとつずつ思わず触ってしまう。「姉上よく似合ってます」傘の向こうでそーちゃんが喜んでくれているのが分かった。「近藤さん、こんなに素敵なものありがとうございます。もったいなくて、当分は差せないわ」傘を閉じて、近藤さんへ頭を下げると近藤さんは照れくさそうに笑っていた。「近藤さん、見ていてくだせェ。来年は俺が姉上にすごいもんを贈りまさァ」そーちゃんは紙を持ってきて、腹ばいになりながら絵を描き始めた。マヨネーズの絵を描いて近藤さんにからかわれると、腹を立てて絵にばってんを描くと近藤さんの鼻にまで墨をつけた。「まあ、そーちゃん。駄目でしょ!近藤さん、すみません」「いやあ、洗えば落ちるから」近藤さんは気にしていないようだったが、わたしは申し訳なくて何度も何度も謝った。洗面所から戻るとそーちゃんは寝転がったままで、お腹いっぱいになったのか眠そうな様子だった。薄手の布団を用意しているうちに眠ってしまって、わたしが布団をかけると目を開けたが袂をぎゅっと掴んで放さなかった。そして、そのまま眠ってしまった。「総悟も随分大きくなったな。ここのところ、しっかりしてきた」そーちゃんを見つめながら言う近藤さんの言葉は力強かった。「近藤さんのおかげです。そーちゃん、いつも道場でのこと楽しそうに話してくれるんです。道場に通えて随分変わったわ」道場に通う前のそーちゃんは、同じ年頃の子供達の誰とも遊ばず、近所中でいたずらばかりをする毎日だった。一緒に頭を下げに行った私が嫌味や当てこすりを言われると火が付いたように怒って、仕返しを後日必ずするのだった。両親をなくし寂しい思いをさせまいとしてきたけど、そーちゃんは二人きりじゃやっぱり寂しかったのかもしれない。近藤さんがそーちゃんとちゃんと向き合って相手をしてくれるから、そーちゃんとってもうれしかったんだとわたしは思っていた。「近藤さんと出会えて、そーちゃん…本当に、よかった」そーちゃんの頬をなでていると、昔のことが嘘のように思えた。「ミツバ殿はよくやってる。なんて、俺が言えた義理じゃないがな」顔をうっすらと赤くしながら近藤さんは恥ずかしそうに笑った。「何か大変なことや困ったことがあれば、俺に言ってくれ。ミツバ殿も知っての通りの貧乏道場だが、できる限りのことはさせてもらうぞ。人手だけはあるしな」力強い近藤さんの言葉がうれしかった。「近藤さん、ありがとうございます」もっとちゃんとしたお礼を言わなきゃいけないのに、わたしはそれ以上口にしたら涙が落ちてしまいそうだった。近藤さんの言葉で胸がいっぱいだった。「先日の他流試合でな、総悟は随分と活躍して相手も感心しててなあ」近藤さんは泣きそうなわたしに、わざと笑いたくなるような話を始めた。「近藤さんったら。そのあと、そーちゃんが相手の方に対していたずらをしたって」そーちゃんが相手方にしかけたいたずらは、された方も腹を抱えて大笑いするようなことだった。「総悟のヤツ、知恵が回るからなあ」近藤さんはわざと感心したように頷いて、わたしの気持ちを柔らかくしてくれた。〈続きます⇒-ミツバさん編ー (後)〉 通販ページはこちらです♪⇒http://hrkgin.cart.fc2.com/"
2011年05月29日
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※銀魂 二次創作。【5月26日】 2 -ミツバさん編ー (中)の続きです。【5月26日 2 ミツバさん編】近藤さんの言葉で笑いながら顔を上げて、ふと庭を見た。庭木の陰の中を、陰よりもっと黒い影がゆらりと立っているのが見えた。影は段々と揺れるようにゆっくりこちらへと近づいて、こちらを見ていなかった。いつもの黒い着流し、結い上げた長い髪が尻尾のように風に揺れていた。ちらりとこちらに向いた目と、目があったことに気がついて、わたしは下を向いてそーちゃんを見た。頬が内側から熱くなって、ぎゅうっと握った拳が汗をかいている。近藤さん、気がついたかしら。「遅かったな、トシ」「近藤さん、遅く来いって言ったろ」面倒くさそうに答えて、そーちゃんに近づいた。口が面白くないようにぐっとへの字に曲げて、眉間に皺がよっていた。近藤さんが、呼んでくれたから来てくれたのだろう。本当は来たくなかったのにという風に見えて、申し訳ない気分でいっぱいになる。「なんだ、やけに静かだと思ったら寝てんのか」ひょいとそーちゃんの顔を覗きこんだ。急に顔が近くにあって、心臓がドキドキする。「はしゃぎすぎたんだろうなあ。さっきまでは起きてたんだがな」近藤さんはのんびりと言った。「こうしてみると、こいつも普通のガキにしかみえねえな」「剣をもたせると誰もが驚くほどの使い手になるのになあ」「使い手っていうよりも、ただの悪ガキだろ」「お二人といると、そーちゃんとっても楽しそうだから、わたしうれしいんです」道場で二人といるときのそーちゃんは年相応の無邪気な子供にみえて、それを見ていられるのが幸せだった。幸せそうにまだ眠ってるそーちゃんの汗ばんだ額にかかった前髪をなでた。「そーかよ」ぼそりと呟いた言葉は、優しかった。「さあ、俺はそろそろ道場に戻るか」近藤さんはまだ日も傾いていないのに席を立った。「じゃあ、俺も」「トシ、まだお前はゆっくりしていけ。ミツバ殿の手料理をちゃんとご馳走になったほうがいいと思うぞ、総悟も言っていたが絶品だぞ」近藤さんに無理に腰をかけされられると、眉間に皺がまたよった。「じゃあ、ミツバ殿。呼んでくれてありがとう。本日は本当に楽しかった」そーちゃんの手を放そうとしたのだけれど、袂を固く握ったまま放してくれなかった。「私こそ、本当にありがとうございました。近藤さん、傘大切にしますね」わたしはそのままの姿勢で頭を下げた。「うむ。次は総悟の誕生日だな、もしよければうちの道場でやっても構わないだろうか」「ありがとうございます、近藤さん」急いで近藤さんに頭をさげた。「よかったわね、そーちゃん」そーちゃんが聞いたらどんなに喜ぶだろう。近藤さんは立ち上がれないわたしにそのままでいるように言うと、笑顔でその場を辞した。近藤さんがいなくなると、静かになった。縁側に腰をかけているけれど、それ以上は上がってこようともせずそっぽを向いている。横顔を見つめているのも恥ずかしくて、わたしはそーちゃんの顔を見ていた。「あの、来て頂いて」「近藤さんが、来いって言ったからな」わたしの言葉をさえぎるようにぽつりと呟いて、わたしはお礼も言えなかった。何も言葉にできずに黙っていると、こちらをちらりと見る気配がした。「何か召し上がりますか?」精一杯の勇気を出してみたけど、またそっぽを向いてしまう。「いや、いらねえ」「あの、そーちゃんがいつもいたずらばかりしていて、ごめんなさい」わたしが頭を下げるとちょっと驚いたみたいだ。「あ、あんたが気にすることじゃねえ。ガキのすることだって、分かってる」そーちゃんの描いた落書きを見てほんの少し笑っていた。「昨日も、なにかそーちゃんがいたずらしましたか?」「まあな」「なんだか、帰ったら得意気だったから」「いつものことだろ」むすっとした顔で呟いているところをみると、そーちゃんは大きないたずらをしたみたいだ。「いつも言って聞かせてるんですけど」「人の言うことを素直に聞くようなタマじゃねーだろ、あんたの弟は」「ふふっ。そうね」思わずわたしは笑ってしまった。くすくすと笑い続けるわたしの顔をちょっとびっくりしたように見ている目と、目があった。途端に顔を背けてしまって、黒い髪しか見えなくなった。「そーちゃん、いつも帰ると道場で何があったか教えてくれて」「そーかよ」面倒くさそうだがわたしの話を聞いてくれているようだ。「お二人と道場で稽古するのが楽しいみたいなんです」「ふーん、稽古っていうよりもいたずらが楽しいんだろ」本音が漏れた声が聞けて、わたしの顔はほころんだ。「ふふっ、本当ですね。でも、わたしうれしいんです」ちらっとこちらを見るのが分かったけど、わたしはそっちを見なかった。「あら、同じ話ばかりしてますね、わたし」「…ああ、うん。…気には、ならねえがな」頭をかくようにして、また向こうを向いてしまった。「う、ううん」そーちゃんがなにかむにゃむにゃと呟きながら、わたしの方へごろりと寝返りをうった。さあっと、さっき姿を現した木陰のほうから涼しい風が吹いてきて、黒い髪が揺れて後ろへなびいた。そーちゃんにかけていた布団の端が、ぱたぱたとはためいて旗のようだった。「ああ、これ」懐からごそごそと何かを取り出して、横を向いたままわたしに渡した。「まあ」それはそーちゃんがくれたのと同じ激カラせんべいだった。「来る途中に見かけた」そっけなく言うが、おせんべい屋さんは道場からの道筋にはないのを私は知っていた。わざわざ買ってきてくれたんだと思うと、余計にうれしかった。「ありがとうございます」こちらを一向に見ないままの黒い髪の毛へ頭を下げた。「礼を、言うほどのもんじゃねえ。旨そうだから買っただけだ」おせんべいをひとつ取り出して、ふと考えた。「あの、辛いものは好きですか?」「え?」驚いて勢いよく振り向いた目と目が合った。わたしがせんべいを渡すと、びっくりしたまま受け取って困った顔をしている。「辛いものお嫌いですか?」唐辛子をわたしみたいにはふりかけないのは知っていた。「え、い、いや、まあ」いつもと違う困った顔を見るのは楽しかった。わたしがぽりぽりとせんべいを口に入れると、考え込むように固まってしまった。そして、溜息をひとつついて、ためらいながら食べ始めた。なんだか涙目になりながらも一生懸命食べているから、わたしはそんな姿をもっと見ていたくなって、止めるのを止めてしまった。「な、なあ」何か言いたそうにしているので、涙を浮かべている顔を見た。「てめー、なんでここにいるんだよ」ぱちりと目を開けたそーちゃんはそう言うと、飛び掛った。「な、なんだっていいだろ」そーちゃんの攻撃をひらりと交わし、驚いた顔でそーちゃんを見ていた。「よくねえ!あ、それに何で俺が姉上にあげたものをお前が食べてんだよ」そーちゃんは手にしていた激カラせんべいを自分があげたものだと勘違いして、指差した。「そ、そーちゃん」わたしは急いで誤解を解こうとした。「な、何言ってんだ!これは、俺が」そう言うと固まって、真っ赤になった。「なんだよ」そーちゃんは急に静かになった様子に納得がいかないようだった。「そーちゃん、違うの、あのね」わたしはそーちゃんに説明しようと、そーちゃんの袂を引いた。「いや、なんでもねえよ」めんどくさそうな表情に戻って、髪をくしゃくしゃとかきあげて眉間に皺を寄せたいつもの顔に戻ってしまって、横を向いた。そーちゃんはそんな様子を見ると、飛び掛って蹴飛ばそうと目論んだ。「もう、そーちゃんってば」そーちゃんは簡単に頭を抑えられてしまって、足が届かなかった。殴りかかろうとするのだが、手も届かないのでもっと腹が立ったようだった。頭を押さえた手に爪を立て、手を放した隙を狙って飛び掛る。結い上げた髪を引っ張って、襟首を掴まえられわき腹をくすぐられて手を放した。二人が縁側で本気になってじゃれている姿が兄弟のように見えた。道場でいつも見ている光景が家でも見えることがうれしくて仕方なくて、わたしは笑ってしまった。二人が、そーちゃんのそばにいてくれて本当によかった。三人でいる姿を見ていると、どんなときでも幸せな気分になれる。誕生日に、三人の姿が、楽しそうなそーちゃんの姿が見れて本当によかった。大好きな人たちとすごせて、よかった。「姉上?」くすくすと笑う私を見て、二人ともじゃれるのをやめたままの姿でわたしを見ている。不思議そうな二人の顔を見て、そーちゃんの誕生日にはケーキを焼いてみようとわたしは思った。【5月26日】 3 -沖田さん編ー 通販ページはこちらです♪⇒http://hrkgin.cart.fc2.com/
2011年05月29日
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※銀魂 二次創作。【5月26日】 3 -沖田さん編ー (前)の続きです。【5月26日 3 沖田さん編】ケーキの作り方には「卵を割って、砂糖を入れてもったりするまでしっかり泡立てる」と書いてある。もったりってなんだろう。俺は菜ばしで卵をかき混ぜたけど、泡なんてあんまり出てこない。しょうがないから菜ばしを増やして力いっぱい混ぜたけど、あんまり泡立たない。もしものためにとおねーちゃんには内緒で、こっそり出してきた茶筅で泡立てた。写真では茶筅みたいなので泡立ててたのを覚えてた。卵の泡はちょっと増えてなんだかいいような気がする。力を入れてできる限りの速さでがしゃがしゃ泡立てると、卵は前よりももっと泡立ったような気がする。もったりというのがよく分からないがずいぶん泡立った卵へ、今度は小麦粉を入れることにした。「ふるってさっくりとよく混ぜる」と書いてあるが「混ぜすぎるな」とも書いてある。よく混ぜるけど、混ぜすぎないってどうすりゃいいんだ、てんで分からねェ。粉を茶漉しの中に入れて叩きながら鉢に落とし半分だけ混ぜて、半分は混ぜないでおくことにした。これを深鉢に入れて蒸し焼きにするというので、ご飯釜の中に入れて焼くことにした。飾り付け用に、牛乳の上の一番濃い部分に砂糖を入れて茶せんで泡立てる。どろどろしたものを口に入れると確かに甘い。頑張って泡立ててるうちに、いい匂いがしてきた。釜の中から甘いにおいがする。かいでるうちにお腹が空いて、ぐーぐー音をたてた。書いてあった時間通りに30分たって、釜を開けた。甘い湯気の中から苦労して深鉢を出して、まな板の上で逆さにする。出てきたのはなんだか妙なものだった。触ってもふわふわしていないで、なんだかぶよぶよしてる。「ふっくらと膨らむ」と書いてあるのに、入れる前とあまり変わっていない気がする。端をつまんでみるが、卵焼きともちょっと違う。端っこをつまんで口に入れてみる。確かに甘いけど、ぐにゅっとしていておいしいというのとはちょっと違う。ところどころに混ぜなかった白い粉が顔を覗かせていた。くりーむをつけたけど、卵焼きに白いタレでもかけたみたいで本にあったケーキとは全然似てなかった。どうしよう。もう外が明るくなってきた。卵はまだ残ってるけど、小麦粉がもうあまりない。砂糖もちょっとしかないし、牛乳はほとんどない。ケーキになるはずだったものをもう一度口の中に入れてみるけど、やっぱりぐにゅぐにゅしてて甘いだけだった。一体どこで間違えたんだろうと考えたけど分からない。早くしないとおねーちゃんが起きちゃう。小麦粉を量ってみるとあと一回分にはちょっと足りなさそうだった。仕方がないから全部をちょっとずつ減らして作ろうと思って、卵を手に取ろうとしたら戸が開いておねーちゃんが立っていた。「まあ、そーちゃん顔が真っ白よ」おねーちゃんは俺に近づいてくるとかがんで俺の顔をじっと見た。「上手にふくらまないんでィ」俺はどうしたらいいか分からなくて、失敗作をおねーちゃんに見せた。「どうしよう、もう粉もこれっぱかししか残っていやしねぇし」話してるうちに悲しくなってきた。内緒にして驚かそうと思ったのに、食べて欲しかったのに、喜んで欲しかったのに、俺にできたのはこのぐにゅぐにゅした変なもん作るくれぇだ。一年に一度しかない誕生日なのに、おねーちゃんの大事な誕生日なのに。「おねーちゃん、ごめんなさい。ケーキが上手く作れねェ」涙が零れそうになるのをぎゅうっと拳を固く握ってこらえたけど、おねーちゃんに申し訳なくてやっぱり涙がにじんでくる。「まあ、そーちゃんったら。そんな顔しないで、ケーキなんてなくても大丈夫だから。だから、顔と手を洗っていらっしゃい」おねーちゃんはいつもみたいに笑いながら、俺の頬に手をやって目に浮かんだ涙を拭いてくれた。俺が顔と手を洗って戻ってくるとおねーちゃんはもう何か作り始めてた。俺が汚した台所はもうきれいになっていて、俺はさすがおねーちゃんだと思った。いくつかの料理が出来上がったのを居間に運んで、飾り付けを終えた頃「ごめんください」と大きな声がした。近藤さんだ。急いで玄関に走っていくと、近藤さんは紋付の羽織袴で来てくれた。近藤さんのこれしかもってない一張羅で黒いやつだ。手にはおねーちゃんへの誕生日の品を持ってる。それを見て、なんだかうれしくなってきた。近藤さんがちゃんと挨拶しようとしてるのを、無理に手をひいて家に上がってもらう。居間に入ってきた近藤さんは飾り付けをすぐに褒めてくれて、俺はそこら中を走り回りたくなった。おねーちゃんはたくさんご馳走を用意してくれていた。俺が考えたものよりもずうっと立派で、近藤さんもおいしいと何度も何度も言ってくれた。いつもは見た事がないようなものもたくさんあって、俺は口の中一杯に食べ物を突っ込むのに一生懸命になった。おねーちゃんは俺と近藤さんが絶賛するのを恥ずかしそうに聞いてたけど、すごくうれしそうに笑いながら俺を見ていた。そして、ちょっと待っているように言うと席を立った。「近藤さん、俺も手伝ったんですぜィ」いくつも入れたから揚げで俺が口ごもりながら近藤さんに自慢すると、近藤さんは俺を見てちょっと驚いた顔をした。「ほう、総悟がか、えらいなあ。一体どれを手伝ったんだ」「鯉と、川海老は俺が捕ってきたんでさァ。鯉はきゅうきゅう鳴いて、おねーちゃんがしめられないって言うから俺がばさーっとやったんでィ」大きく手を伸ばして近藤さんに鯉の大きさを説明した。うちにあるたらいに一杯になるくらいの大物で、まな板の上でもあんまり鳴くのでおねーちゃんがすごく怖がった。まな板の上の鯉なんて嘘だと思うくらい、じっとしちゃいなかった。「たいしたもんだなあ、総悟。ミツバ殿はさぞ喜んでいるだろうな」近藤さんは俺の頭に手を載せて頭をなでてくれた。いつもだったらガキ扱いされて腹が立つけど、今日の俺は大人しく近藤さんに撫でられることにした。近藤さんが、あまりにもうれしそうだったからだ。近藤さんはそんな俺を見て、力を入れてきて髪がぐしゃぐしゃになった。「よいしょっ」後ろを振り向くとおねーちゃんが大きなお皿を抱えて入ってきた。机の上に置かれたお皿を見て、俺は驚いた。ケーキだった。「うわぁ」びっくりして思わず大きな声が出てしまう。「ふふっ、ちらし寿司でケーキを作ってみたの。近藤さん、ケーキってこんな感じであってるのかしら?」錦糸卵が一杯載ってて大根と人参が花の形になってて、グリンピースがぐるっと飾ってあって。俺がおねーちゃんのために作りたかったケーキだった。どうしておねーちゃんにはこういうケーキが作りたかったって分かったんだろう。「あ、姉上。俺ァ…俺ァ」おねーちゃん、作ってあげられなくてごめんなさいって言おうとしたけど、作ってくれてありがとうって言おうとしたけど、言おうとすると涙が落ちそうになった。それでも言わなくちゃと思っておねーちゃんの顔を見ると、おねーちゃんは俺を見て微笑んだ。「そーちゃん、ケーキに見えないかな」おねーちゃんの言葉に俺は急いで首を振る。「ねえそーちゃん、上手に分けてよそってくれないかしら」そう言って、おねーちゃんは俺に包丁を手渡した。おねーちゃんの作ってくれたものを絶対に壊したくなくて、俺はそうっと取り分けた。お皿の上に載せようとするとぐらぐら揺れて、俺の動きがゆっくりになるけどおねーちゃんも近藤さんも黙ってみていてくれた。「随分と豪華だなあ。俺はこんなに立派で旨いちらし寿司は食べたことがないよ」近藤さんは寿司を頬張って何度も頷きながら感心してる。「だから言ったじゃないですかィ。近藤さん、姉上の作る料理はどれも絶品なんでさァ」うれしくなって俺がそう言うと、おねーちゃんははにかんだ。〈続きます⇒-沖田さん編ー (後)〉 通販ページはこちらです♪⇒http://hrkgin.cart.fc2.com/"
2011年05月29日
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※銀魂 二次創作。【5月26日】 3 -沖田さん編ー (中)の続きです。【5月26日 3 沖田さん編】「はい、姉上」俺は誕生日のプレゼントにせんべいを選んだ。激カラせんべいだ。表面が見えなくなるほど赤い唐辛子がふってあって、見るからに辛そうだ。「そーちゃん、ありがとう。これが激カラせんべいなのね。すごくうれしい、わたし大事に食べるわ」おねーちゃんは一枚だけ取り出して、ぽりぽりとおいしそうに口にした。「これ、ミツバ殿に似合うといいのだが」近藤さんはそう言いながらおずおずと何か長い包みを取り出した。おねーちゃんがそうっと包み紙を開けると、中からは桃色の傘が出てきた。「まあ、近藤さん」びっくりしたようにそう言うと中々開こうとしないので、「姉上、開いて見せてくだせェ」とおねーちゃんに言うと、ゆっくりと傘を開いた。傘を開くとおねーちゃんの姿がすっぽり隠れて見えなくなった。そして黙ったままそうしてるから、どうしたんだろうとちょっと心配になった。「きれい」おねーちゃんはそう言いながらゆっくりと傘を回し、花が咲いてるみたいだと一つずつ傘に咲く花に触れた。近藤さんのくれた傘はおねーちゃんによく似合っていて、花の中にいるみたいだった。おねーちゃんが礼を言うと、近藤さんは頭をかきながら困ったように笑った。「近藤さん、見ていてくだせェ。来年は俺が姉上にすごいもんを贈りまさァ」俺は飾りつけに使った紙と筆を取ってきて、来年作るケーキの絵を描いた。中々上手に描けて二人が褒めてくれるから、俺は近藤さんの絵やおねーちゃんの絵も描いた。ふと思いついてバカの顔を描いてみた。意地が悪そうなバカマヨネーズの出来栄えに満足していると、近藤さんが横から覗き込んだ。「なんだ総悟、トシがいなくて寂しいのか。だったら」俺は急いで絵にバッテンを描くと、近藤さんの鼻にも墨をつけた。「マヨなんて、端からこうするつもりだったんですぜィ、近藤さん」ぽかんとしてる近藤さんにそう言うと、おねーちゃんが俺をたしなめて謝りながらあわてて近藤さんを洗面所に連れて行った。バカがいなくて寂しそうだなんて言う近藤さんが悪いのに、俺が悪いみたいになっていて納得いかない。あいつがからんでくると、いつも俺だけ悪いみたいに言われる。頭にきて縁側にごろんと横になった。二人がいなくなったら静かになって、部屋の中は急にがらんとそっけなくなった。遠くで鳥のさえずる声が聞こえる。天井を見上げるといつもよりもずっと高く思えて、家の中が広くなったような気がした。目を閉じてじいっとしてると、二人の声がかすかに聞こえた。寝たふりをして戻ってきたらおどかしてやろうと、そのまま黙って二人の足音が近づいてくるのを待った。薄目を開けて戻ってきた二人を見ると、俺の顔を覗きこんでうれしいことでもあったみたいに笑うから、なんだかそのままでいたくて目を瞑っては開いて、何度も二人の顔を眺めた。目をあけないで話し声がしているのを、うとうとしたままぼんやりと聞いていた。なんだかいつもと違うみたいだ。近藤さんといると姉上はよく笑っているのにどうしてだろう。二人の話が静かだから不思議になって、俺は目を開けた。目の前にいたのは、あいつだった。ずうずうしく、おねーちゃんのそばの縁側に腰をかけてやがる。「てめー、なんでここにいるんだよ」どうしてあいつがここにいるんだろう。周りを見ても近藤さんはいない。近藤さんをこいつが追い返したのか。おねーちゃんは飛びかかった俺を見て、びっくりしている。「な、なんだっていいだろ」あいつは憎たらしいことにひらりと俺の蹴りを交わした。「よくねえ!」あいつの手には俺がおねーちゃんにあげたあのせんべいが握られてた。「あ、それに何で俺が姉上にあげたものをお前が食べてんだよ」俺が寝てる間に勝手にやってきて、勝手にあいつがおねーちゃんにあげたものを食べたんだと思うとむかむかしてきた。「そ、そーちゃん」おねーちゃんは慌てて俺を止めようとしたけど、俺にはどうしてもあいつが許せねえ。「な、何言ってんだ!これは、俺が」あいつはそう言いながら俺から距離をとり、手にしていたせんべいを俺に向けて見せると、そのままなぜか黙ってしまった。そして手にしたせんべいよりも赤くなると、ごくりとつばをのんだ。「なんだよ」いつもならごちゃごちゃ言うのにおかしい。なんか隠してる。「そーちゃん、違うの、あのね」おねーちゃんが俺を止めようと必死になってるのが余計に怪しかった。「いや、なんでもねえよ」あいつはそのままそっぽをむいた。隙あり!俺は飛び掛って蹴りを入れようとしたが頭を抑えられてしまう。手を伸ばしても届かねえ。ちくしょう。姉上が止めようとすればするほど腹が立って、俺の頭を押さえたあいつの手にぎゅっと爪を立てた。慌てて手を離したその隙にあいつの結んだ髪に手を伸ばした。力をこめて引っ張るとあいつは「痛ェッ、こんの野郎」と襟首を掴んで俺のわき腹をくすぐり、俺は思わず手を離した。あいつの脛を蹴り上げて膝まづかせようとしたんだけど、あいつはそれをよけてにやりと笑った。「ふふふふっ」気がつくとおねーちゃんが笑っていた。どうしたんだろう。「姉上?」俺の問いかけにも笑っているおねーちゃんを見て、俺だけじゃなくてあいつも不思議そうにしている。「おねーちゃん?」もう一度問いかけると俺の頭に手をやって、そうっとなでた。なんだか気勢がそがれて俺もあいつもそれ以上は喧嘩にならなくなった。この借りは必ず返すけど、今日のところはおねーちゃんの誕生日だから許してやることにした。あいつも大人しく帰ったから、やっとおねーちゃんと二人きりの時間が戻ってきた。「そーちゃん、ありがとう。今日はとっても楽しかったわ」台所でおねーちゃんがお皿を洗うのを手伝っていると、そう呟いた。「ほんと?ほんとに楽しかった?」「ええ、とっても」「去年よりも?」おねーちゃんはお皿を洗う手を止めて、俺のほうを見た。「ええ、去年よりも」「おととしよりも?」手をふきんで拭いて、俺の顔を覗きこんだ。「ええ、おととしよりも」「おととしの前よりも?」「ええ、おととしの前よりも、そのまた前よりも」そう言って、俺の耳たぶを触った。「父上や母上がいた時みたいに?」おねーちゃんは、胸が苦しいみたいな顔をして屈み込んで俺の顔をじっと見た。「父上や母上が、いた時、みたい、に」ゆっくりと区切るように言いながら、俺の手を握った。「おねーちゃん?」「今までで一番楽しい誕生日だった」そう言うと、繋いだ俺の手の平をそっと開いた。「そーちゃん、ありがとう」俺の手のひらに重ねるように手を載せて、おねーちゃんは笑顔になった。目のふちに涙を浮かべてるのにうれしそうで、俺はぎゅうっと力いっぱい手を握った。「おねーちゃん、お誕生日おめでとう」大きい声で、俺は一番言いたかったことを口にした。了.以上です!☆(≧▽≦)☆!いかがだったでしょうか?香林さん、ハコさん、rubydredredさんのスペシャルコラボ!rubydredredさんすごい!と思われた方は、HRKの方で、2冊小説を出してますので(「暮れ六つ」「青嵐前夜」)、是非、そちらもお手にとってみてください♪・・・・・・と、さり気に宣伝してみる(笑)←全然さり気なくない。 通販ページはこちらです♪⇒http://hrkgin.cart.fc2.com/"
2011年05月29日
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5月26日はミツバさんの誕生日!ぽっぽさんからミツバさんハピバSSを頂きました。ぽっぽさん、凄い!☆(≧▽≦)☆!【仲介人】 「ねぇ勳さん」女が隣にいた男に話しかける。男は女の弟が通う剣術道場で同じく門下に入っている者だ。背が高く体格もいい男で、並んで立つと女の細さを更に際立たせる。現在はその道場の稽古が終了したばかりで、男は井戸水を桶に汲み上げると豪快に後頭部にかけ、顔を洗い、気持ち良さそうに汗を流す。首に掛けていた手拭いで顔を拭きながら、低くて野太い声が男の口から出る。「何だい、ミツバ殿」女の弟ともう一人の門下生は今、道場を清める為の掃除道具を片付けに奥の部屋へと行っている。女の弟はまだ幼いが何処で覚えてくるのか口は大層達者で、もう一人の門下生は時折少年らしさを漂わせる顔立ちの良い青年だった。「十四郎さんは私の事嫌いなのかしら?」色白で華奢な女は、少しばかり寂しそうな顔をしてそう言った。年格好だけで言えば、最も近いと言えるのは青年だろうか。青年と同じ様に未だ何処かに少女らしさを帯びている女は現在隣に立っている男とも大した年齢差は無いのだが男の方が幾分大人に、敢えて悪く言うなら老けて見える。「そんな事無いだろう」男は大きな声で豪快に笑い、そう言った。男は井戸の縁に腰掛ける女がそのまま後ろの穴に落ちてはしまわないかと心の中で若干心配しながら、もしそうなっても大丈夫な様に半分無意識で己の体から伸びた掌を木の柱につき、女の頭の後ろで己の腕を柵代わりにした。女は男の答えが腑に落ちない様子で、井戸の縁についた両手をパタパタと動かす。「どうしてそんな風に思ったんだ?」道場の向こう側から怒鳴り声と大きな物音がし始めた。恐らくここ最近ですっかり日常茶飯事となった、女の弟と青年の喧嘩によるものだろう。端から見れば青年が女の弟を苛めているように見えるかもしれない。だが実際はそんな事は無く、なかなかどうして実力派であり狡猾さも携えた弟は年の離れた青年に対し勝利を治める事も決して少なくない。「私と口を利いてくれないの。挨拶しても知らんぷりして行ってしまったり」地面では蟻が行列を為して、ひたすらに彼らの巣穴へと向かっている。気づかぬうちに彼らの道順に置いてしまった女の足を蟻達は避けるようにして女の足袋に触れるか触れないかの距離を進む。ふと女がその様子に気づいて少しばかり足を井戸の方に寄せると、蟻達は一瞬迷う様にバラバラになった後、元の道順に戻った。「何か怒らせるような事してしまったのかしら」足下の蟻の行列を目で追いながら、女は独り言のように呟く。蟻達が一歩一歩巣に向かって餌を運ぶなら、恐らく彼女は通った道を一歩一歩戻るようにして記憶を探っているのだろう。そんな女の横顔を斜め上から男は見下ろしているが、どうやら女は答えを見つけられなかったと見え、小さく溜息をついた。「気にする事無いさ」そんな女を元気づけるように男は爽やかに笑った。女は目線を斜め上の男の顔へと向けると、やはり腑に落ちないという表情をする。怒っている訳でも傷ついている訳でも無さそうだが、あまり嬉しそうとは言えない。「勳さんとは、楽しそうにお話しているわ」『楽しそう』という表現に男は若干の違和感を覚えた。知り合ってから確かに青年とはよく話しているが、彼は特別にこやかな訳でも無いし、どちらかと言えば常に眉間に皺を寄せているような。ただの言葉のあやか、それとも彼女からは本当にそう見えたのだろうか。「姉上!」そう呼んだのは女の弟だった。無邪気に顔をほころばせて駆け寄ってくる様は実に微笑ましく、女もそんな弟を笑顔で抱き迎えた。その後ろを砂の上独特の足音と共に歩いてくる青年の眉間にはやはり皺がよっていて、不機嫌そうな目つきで女の弟の背中を見下ろしていた。ふと女が幾分か自分より背の高い青年を見上げると、青年は不機嫌そうな顔つきのまま、女の目線からあからさまに顔を逸らした。女はそんな青年の行動に少し気を悪くした様子で「ほらね?」とでも言う様に男の方に視線を寄越した。男は片手で頭の後ろを掻きむしり、青年の方を見る。青年は視線こそ逸らしたままだったが、その眉間から皺は消えていた。男の視線に気づいていないのか、青年は瞳だけを動かして男の方を見ている女を見やった後その下で女の腰の辺りに抱きつく弟を見下ろすと、また皺がその眉間に戻って来た。「俺たちも行こう」肩に竹刀を担ぎ、無言で帰り道を歩き始めてしまった青年の背中を何とも言えない悲しげな表情で見送っている女に男は言った。万が一にも女が後ろにひっくり返ったりしないようにと、軽くその肩を支えて女を立ち上がらせた。男は女の弟を肩に乗せると、はしゃぐ弟を笑顔で見上げる女と並んで青年の後を追う様に、女の歩調に合わせてゆっくりと進む。前を歩いている青年は時折後ろを振り返り、3人が後をついて来ている事を確認する。「ミツバ殿は、いつも通り接してやってくれよ」男は上から鼻の穴に指を突っ込もうとする女の弟の攻撃を回避しながら言う。女はまだ気づいていないようだったが、前を歩く青年はさり気なく歩調を緩めており後方の3人との距離は少しずつ、だが確実に縮まって来ている。「そのうち向こうからも、話しかけてくるだろうよ」青年からは会話をはっきりとは聞き取れないであろう、そんな距離であった。何の話かと女の弟は首をかしげていたが、男はそれに敢えて気づかない振りをした。男にそう言われて女が前方に目をやると、青年の束ねた長い髪がその歩に合わせて揺れるのが見えた。「ほんとう?」女は半信半疑な様子で隣を歩く男を見上げた。そして男に悪戯しようとする弟を柔らかく注意した際、足下の小石に蹴躓いて転びそうになった。男が素早くその太い腕と大きな手でもって支えてやったので女は何ともなかったが、ふと顔をあげるといつの間にやって来たのか、ずっと前を歩いていた筈の青年が女から一間も離れていないような場所で不自然な体勢で固まっているのが見えた。女が少々驚いたような顔で青年を見つめると、青年は直ぐさまその体勢を戻し滑らかに女の反対側、男の隣へと行って、女の視界から外れてしまった。別段理由は無かったが、女が少し顔を前に出して青年を横から見ると、青年は不自然なくらいに前方を見据えたままで、決して女の方を向こうとはしなかった。「ちょっと照れてるだけなんだよ」そんな2人の間にはさまって、男は女に向かって楽しそうな笑顔を見せて言った。「何の話だ」と直後に喧嘩を売るようにして聞き返して来た青年に向かって「さっきの話の続きさ。ミツバ殿のご友人について少し、な」と、楽しそうに言いながら男は女に視線を送った。その視線を受け取った女は笑顔になり、口元に手を当ててクスクスと笑った。その様子が気になったのか、青年はそれ以上何も言わなかったが一瞬だけ女に顔を向けた。それに気づいたのか只の偶然か、女の弟は青年の頭部を上から踏みつけようとした。五月晴れの暖かな陽気の中で生い茂る緑の隙間を縫って落ちる、やわらかな木漏れ日を浴びのどかな田舎道を風と共に進む背中が四つ。今はまだ仲介人を間に、その両脇を歩く二人はこれから先どんな会話を育むのだろうか。【完】あのねあのね!皆さんもそうだと思うんですけど、自分、ぽっぽさんの書かれる トシミツ大好きなんです!☆(≧▽≦)☆!絶対こんなシーンあったって!っていうエピソードをこれでもかって再現してくださるぽっぽさんの頭をいっぺんかちわって中をじっくり観察したい・・・・・・・←待てそれくらい大好きなんですが、今回のトシミツSS、土方さんとミツバさんにほのぼのするだけじゃなく、近藤さんがごっさかっこいいっていう贅沢仕様です。桂さんが銀魂で1、2を争う美形だってことをしょっちゅう忘れるみたいに、近藤さんが1、2位を争う男前だってことを忘れまくっちゃうんですが、武州時代のはずなのに近藤さんが大人の男オーラダダ漏れだっていう・・・・・・Σ(//Д//)ぽっぽさん、ありがとうございました!☆(≧▽≦)☆!毎回毎回、私のツボを的確に抑えてくださるぽっぽさんに痺れる!憧れる!ちなみに、ぽっぽさんから頂いたメールを抜粋させていただくと「ラストの方の土方さんは転びそうになったミツバさんを支えようとした姿勢のまま固まってしまっていたんだと思います。私の書くトシミツはいつも土方さんが小学生か!って感じになってしまうw」グッジョブです!☆^(o≧▽゚)oぽっぽさんの素敵ブログはこちらです。→【popponoblog】SSはこちらにまとめてます。⇒【頂き物(ss)】
2011年05月28日
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おはようございます!結樹翠さんが、今トップ絵にしてるハコさんに色塗りしていただいたかぶき町四天王篇銀さんのイメージでSSを書いてくださいました!【鬼灯】ぼんやりと、闇を見つめる。炎の揺らめきだけで、遠くを見つめる。何処までも遠いようで。けれど実は、とても近い。(…だな)やってしまった、と思ったのは最初の頃だけだ。何もかもを引き受けて。何もかも、救えるつもりだった。自分の目の、手の届く範囲を。何処までも続いていると勘違いしていた。喜びを見た。悲しみを見た。笑顔を見た。涙を見た。そのどれもが、忘れられない。忘れることができない。どんな出来事も、心に。(…行くか)ここから先は、目の、手の届かない範囲なのか。それとも、まだ間に合うのか。腰に下げた重さに、耐え切れるのか。(たったひとりで)揺らぐ、心。炎と共に。隙間に過ぎる、大切な、守りたいモノ。「…待ってろよ」足を踏み出し。一歩を、刻む。背に炎の揺らぎを置いて。【Fin.】朝から何をがんばって更新してんだって話ですが、翠さん、お久しぶりです!お元気そうで何よりです!そんなこんなで、折角頂いたSS。アニ魂かぶき町四天王篇スタートの前祝として、アップしとかねば!( ̄‥ ̄)フンッ っていう無駄な使命感に駆られてご紹介させていいただきました♪・・・・・・・こうして、翠さんのSSを拝読すると、なんだか銀さんって、シリアス漫画の主人公みたいですよね!(笑)結樹翠さん、ありがとうございました!☆(≧▽≦)☆!結樹翠さんの素敵サイトはこちらです♪§時雨恋泪§(二次創作メイン)⇒http://shigukoi.web.fc2.com/§時雨恋泪§の別室(オリジナルメイン)⇒http://nanos.jp/shigukoi/SSはこちらにまとめてます。⇒【頂き物(ss)】
2011年05月27日
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5月20日は万斉さんの誕生日!ぽっぽさんから万斉さんのSSを頂きました。登場人物が、高杉さん、伊藤先生、万斉さんっていう豪華っぷり。ぽっぽさんのSSは、甘いときはふわふわしてるのに、そうじゃないときはめっさクールです。(※楽天ブログの文字数制限10000字を微妙に超えちゃったので、2分割してます)「お前が欲しいものは・・・」その先に発せられた言葉を、万斉は襖を隔てた先で聞いた。【労い】屋形船は赤い提灯をぶら下げて、夜の湾をゆっくりと漂う。高杉は食事の席から立ち上がり屋形船の窓辺に腰掛けて、くつろいだ様子で手の煙管を吹かす。与えられた座敷に姿勢よく正座している伊東は、そんな男の口元に浮かぶ不気味な笑みを訝しがるように見ている。「テ ロリストの口からそんな言葉がでるとは」「ククッ だが真実だ」高杉はふと、窓の外を眺める。そこから見える陸地は様々な光に彩られており、中でも街の中心に立つ巨大な塔が一際目を引いた。「ひでぇ眺めだ」高杉はただ一言、ポツリとそう呟いた。伊東に耳にその声が届いていたのかは定かでない。何故なら伊東はそんな高杉の言葉に何の配慮を見せる事無く、次の話を始めたからだ。「君もどうやら、僕を理解するには至らないようだ」「ほぅ?」高杉は残った方の右目で、伊東を見据える。伊東はその視線を逸らすことなく、真正面から侮蔑の籠った眼差しで、それに応える。「鬼兵隊総督といっても所詮は野蛮なテロリストの脳。期待する方が間違いだな。失礼」高杉はその言葉に笑みを浮かべながら片眉を少し上げる。伊東は立ち上がり、高杉を一瞥し出口へと向かうと其処で立ち止まった。「君の間違いを一つ正してあげよう」振り向き様に伊東は耳にかかった眼鏡に手を当て、己の目の位置に正確に合わせる。そうして窓辺に腰掛け空に浮かぶ月を眺め、如何にも興味の無さそうな高杉を斜め上から見下ろしその中身までも見下すような目線を高杉の耳の辺りに目一杯ぶつけて言う。「僕についてくる人間は大勢いる。僕を理解するに至る者がいないだけだ。君も含めてね」「クク、そうかい。そいつはすまなかったな」伊東の目に高杉の相変わらずの笑みが、顔の半分を覆う髪の隙間から一瞬だけ入った。伊東は踵を返し部屋を後にする。一人残った高杉は、去っていく足音に耳を傾けつつ煙管から煙を吸った。「あれだけ言われて、よく大人しく帰したものだ」伊東が出て行ったのとは別の襖から、万斉が部屋に入って来てそう言った。万斉は高杉の座る窓辺の障子に軽く寄りかかるようにして腕を組み、伊東の出て行った跡を軽く目で追った。「相手は苛められっ子だぜ。怒ったら可哀想だろ?」高杉は冗談めいた口調で、万斉を見上げる。「心にも無い事を」「確かにな」高杉は、伊東を相手にしていた時のような妖しげなものでは無く、どことなく柔らかい雰囲気で自然に笑うと、「ま何にせよ、折角鴨が葱背負って来てくれたんだ。美味しく頂こうじゃねーか」と言って、手に持っていた煙管を軽く手すりに打ち付けて、中の火種を海に落とした。「万斉、事が済むまで適当に相手してやれよ」「お守しろというのか。拙者が」高杉の言葉に万斉は寄りかかっていた障子から体を離し、顔にかけていたサングラスを外して抗議の目を露にする。だが高杉はそんな様子に微塵も怯む事無く窓辺から立ちあがり、元々座っていた座席の徳利と猪口、そして手つかずの伊東の猪口も掴むと「俺にやれってか?」と言いながら、万斉の前に戻ってきた。高杉が酒を注いで猪口を差し出すと万斉はそれを受け取り、窓の外の穏やかな水面に目をやった。万斉の隣では同じように高杉が酒を口に運んでおり、空になった徳利を指先で玩んでいた。万斉は溜息をついて諦めたように酒を喉に通す。「・・・分かった。事が済んだら精々労ってくれ」「あァ、いいぜ。ちゃんとやってくれたらな」高杉はそう答えると万斉の背後に片手を回し、首の付け根を少し手で揉んでやった。時は移ろい、真選組の屯所敷地内に与えられた 己の居場所で何やら隊士達に向かって雄弁を奮う伊東の姿が万斉のサングラスに映った。その部屋の前の庭を通り過ぎて、伊東から申し渡された仮の自室へと向かう万斉をそれに気づいた伊東が呼び止め、隊士達に席を外させると、縁側 へとやって来た。「山崎くんの始末は終わったのかな?」「・・・滞り無く」万斉は無感情にそう答えた。目を覆うサングラスは色が濃く、夕焼けに染まった空の雲がその端々に映っていた。「ご苦労様。礼を言わせてもらうよ。これで邪魔者がまた一人消えた。君が僕の天下を目にする日も、もう間近に迫っている」そう得意気に話す伊東の体の半分以上を覆う様に、万斉の体の影が濃い黒を落としている。「用が済んだのなら行っていいか」「・・・君には会話をするという思考が無いのか な?」目は口ほどに物を言うというが、その目を直接伊東は見ることも出来ず、相も変わらぬ無表情を貫き通す万斉に対し、この男には感情が無いのだろうかと非現実的な説が頭の中に浮かんだのを、伊東はすぐさま揉み消した。「拙者、ぬしがどうなろうと興味が無くてな」端的に発せられたその言葉に、伊東の瞳孔が一瞬だけ開いた事に万斉が気づく事は無かった。はなから伊東の顔など見ていなかったからだ。「失礼する」「待ちたまえ万斉殿」万斉の態度に伊東は内心、腸が煮え繰り返る思いでその背中を呼び止めた。万斉は体を反転させると、あの得意気な笑みが消え去ったその表情で縁側の上から万斉を見下ろす伊東の姿を認識した。「兼ねてより言おうと思っていたのだが、君にしろ君の上司にしろ、人に対する礼儀というモノが欠けていると思った事は無いかな?」口調こそ穏やかだったが、その奥の瞳孔は開いたままであった。⇒【労い】<二>に続きます。
2011年05月21日
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※銀魂二次創作SS【労い】<一>の続きです。「お前はただ 一人だっただけだろう」恐らくその時二人の脳裏には同じ男の言葉が浮かんでいた事だろう。振り払ったつもりでも、ふと気がつくと心の中に浮かんで来るその言葉を伊東は無意識の中で深い深い暗闇に押し込める。そんな本人ですら自覚の無い心を読むように、万斉はその音をただ聞いていた。(・・・ 晋助、ぬしは実に的確な表現をするな)伊東という男を前に、万斉は人知れず心の中で思う。「僕らは相互の利益になる関係を結ぶのが目的だ。顔を突き合わせる度に不快な気分をもよおすのは、あまり目的に沿う行いとは思えないね。それとも粗野で野蛮な攘夷志士には、そんな簡単な事も出来ないのかな」そんな万斉の心中を知る由も無く、伊東は雄弁を奮う。縁側から地面を見下すように、その言葉でもって理屈でもって他人を推し量らんとするその様に万斉は尊敬でもなく憐れみでもなく、ポツリと己の心境だけを言ってのけた。「・・・面倒くさい男でござるな」「何か言ったかい?」万斉が言葉を言い終わるか終わらぬかのうちに、伊東の言葉がその上に被さった。表面上は冷静さを装ってはいるものの、こと河上万斉という男を相手にしたなら、どんな演技派でも、その本音を彼の耳から逃がす事は出来ないだろう。他の誰と比べても異質な方法ではあったが、万斉もまた人の心中を察する事に長けていた。「話し相手が欲しいなら、鴨派・・・だか何だか知らぬがその中の誰かに頼めば良かろうと言ったのだ。拙者はご免こうむる」「・・・そうやって僕を挑発して楽しんでいるつもりかい?生憎だが僕はそんな戯れに付き合える程子供じゃなくてね」米神の辺りを僅かに痙攣させながら、伊東はゆっくりと眼鏡の位置を合わせる。沸騰寸前の伊東の心とは裏腹に、万斉の心は冷え切っていた。「水鳥を痛ぶるような暇人だと思われていたとは、心外でござる」仲間と共に野生で暮らすよりも一人で人間に飼われた方が賢い生き方だと過信して、よく調べもせずに向かった先が鳥肉販売専門の人間だった事にも気づかずに、食肉処理場へと向かう車の助手席の窓から得意げに元いた池を見下ろす哀れな鳥類の姿が万斉の脳裏に浮かんでいた。「・・・万斉くん、君が今どこにいるか考えた方が利口だと思うがね。ここに君の仲間は一人たりともいない。僕が『殺れ』と一言発するだけで、君を殺せるんだよ」「口の割に怒りっぽいと見える。伊東・・・ 『殿』?」万斉は皮肉っぽくその敬称を言ってのけた。能力に対して余りにも不釣り合いなその精神。どれだけ伊東が才能ある剣士だったとしても、この男が百人集まった所で負ける気はしないと 思ってしまう程に万斉の前に伊東の魂は丸裸で、余りにも無防備だった。「・・・どうやら、これ以上話しても無駄なようだね」「ぬしの意見に同意する気になったのは初めてでござる」初めて伊東と顔を合わせてから口調も表情も立ち姿も何も変わらなかった万斉がそこで初めて、ほんの少しだけ笑った。「君には失望したよ万斉殿。もう少し頭の良い人 間かと思っていた」「そうか。拙者、最初からぬしは食用の鴨肉だと思っていたがな」伊東が次の言葉を探している間に万斉は「ではまた、後ほど」とだけ言い残し、その長い脚に広い歩幅で、あっという間に行ってしまった。「僕らは相互の利益になる関係を結ぶのが目的だ」普段なら決して入る事の無い真選組屯所内を、限られた範囲とはいえ徘徊しているという奇妙な状況で頭に浮かんだ伊東の言葉に、万斉は心の中で答える。(そう思っているのは、ぬしだけだがな)部屋に辿り着き背中から三味線を外し手に持って、畳に腰をおろす。そうして疲れたような溜息をつくと、「・・・面倒臭い」と小さな独り言を言って、束の間の潤いとばかりに三味線を弾いた。一方の伊東は部屋の中を不幸にも這っていた虫を、渾身の力で踏み潰していた。更に時が立ち、もうすぐ朝日が昇ろうかという刻限。万斉は瓦礫にまみれ、仰向けに倒れていた。顔には幾つもの切り傷が有り、傷口の大きさとは見合わない頭部からの多量な出血で朦朧とする意識の中、聞き慣れた音の主が近づいて来て、万斉の前で立ち止まった事が分かった。「生きてるか?」万斉がゆっくりと重い瞼を持ち上げると、これまた見慣れたいつもの着流しに濃い色の羽織を肩に掛け、万斉を見下ろす高杉の姿が色眼鏡越しに見えた。「・・・なん、とかな」声を出すと胸が圧迫されるようで、万斉は口から絞り出すようにその言葉を吐いた。「春雨の方は上手くいったぜ」そう言った高杉に、万斉は息を漏らすようにして少しだけ笑うと、ミシミシという体を動かし上半身を何とか起こす。どうやら、さして重傷では無さそうである。万斉は体に乗っていた細かい瓦礫を払うと、一度大きな深呼吸をして「それは・・・何より」と言った。「立てるか?」そう尋ねながら差し出された高杉の手に捕まり一 気に立ち上がったものの傷の所為かそれとも血が足りない所為か、よろけた万斉を高杉はがっしりと掴んだ。高杉は自分の右手を万斉の腰に回し、万斉の左腕を自分の肩に乗せて自分よりも大きな体を支える。「・・・わ、ざわざ迎えに来てくれたのか」未だ流れ出続ける血液に己の体力を吸い取られるような気分の中で一 歩一歩踏みしめるように歩を出す万斉に、高杉は答える。「あっちに船が来てる。早いとこずらかった方がいい」音楽再生器は壊れてしまったのか、何の音もしな いヘッドホンに万斉は妙な違和感を感じながら、頬を垂れる血を服の袖で拭った。その代わりにさほど遠くない場所で、伊東の音が聞こえなくなったのが分かった。そうして思い出したように「真選組の事でござるが・・・」と言い掛けた万斉の言葉を、高杉の左手が万斉の腕を支えながら制した。「そういう話は、傷の手当てが終わってからだ」万斉が信じられないとでも言うように言葉を詰まらせていると高杉の顔が自分の方を向き、その口から発せられた言葉が耳に届いた。「言っただろ?労ってやるって」いつの間にか昇っていた朝日が気づかぬうちに作っていた2人の影のうち、より長い方の影の主が声を出して笑った。「言っておくものでござるな」真選組から何とか逃げおおせた他の鬼兵隊員たち はそれぞれ身を隠し、しばらくして周辺が落ち着いた時初めて、船に戻るのだろう。そんな中で一人、高杉に支えられて安全な場所へ向かう自分を本来なら少しは申し訳なく思うべきなのかもしれないが、人一 倍仕事した自分の特権だと割り切る万斉の背中を高杉は二度叩くと、一言。「お疲れさん」とだけ言った。【完】なんだか初めて、高杉さん、人を使うのうまいな~と思っちゃいました。っていうか、万斉さんもやっかいな人に逢っちゃったな~って(笑)それにしても、伊東先生……(ノд-。)ホロリぽっぽさんのメールに「凄い伊東先生が可哀想な感じになってしまいましたが鬼兵隊からはこんな感じだったんじゃないかなーって思ったの・・・」とありましたが、すごい納得です。そんな伊東先生を利用しようとした高杉さんと、それでも信じようとした近藤さん。トップが違うと、その下につく集団の性格も全然違ってきちゃいますよね。と思いつつ、「万斉さんの言う「魂の音」って何なんでしょうね。只の比喩に過ぎない・・・とは思えないんですが何処まで近づくと聞こえるのか謎過ぎます。その距離が延びる程超能力めいてると思うw」万斉さんも、結構、底がしれないなぁっていう。ともかくあれです。ぽっぽさんの書く高杉さんは、いつも無駄に かっこいい!☆(≧▽≦)☆!これからもじゃんじゃんかっこいい高杉さんを出してください!それでもって、SS。全然頻繁すぎるなんて思いません。むしろ、もっと書け!もっと量産しろ!←( ´゚д゚`)エーな勢いです♪ぽっぽさん、ありがとうございました!☆(≧▽≦)☆!ぽっぽさんの素敵ブログはこちらです。→【popponoblog】SSはこちらにまとめてます。⇒【頂き物(ss)】
2011年05月21日
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5月5日は土方さんの誕生日!ぽっぽさんから土方さんを……別にお祝いはしてないような気がする(笑)SSを頂きました。明日アップできなかったらいけないので、1日フライングです♪【厄日】土方は和装で街中を歩いていた。久方ぶりの非番だというのにあれやこれやと仕事の事を考えてしまい、その度に一人頭を左右に振る。普段から血生臭い現場に入り浸り、問題児達の後始末に追われている。こんな時くらい、自分の事を考える余裕が欲しい。そんな事を思いつつ懐から煙草の箱を取り出し、火をつける為に俯きながら道なりに何となく角を曲がると、その先で人にぶつかってしまった。そこまで強く当たった訳ではないが、咄嗟に土方は謝罪の言葉を述べようとする。「すんませ・・・」そこで土方は言葉を詰まらせた。前に居たのは万事屋の天パ男だった。銀時もすぐにぶつかって来た相手が土方であった事に気付いた。銀時はどうやら曲がった先でたまたま立ち止まっていただけのようなので、明らかに悪いのは土方なのだが、どうにも相手が相手なだけに、素直に謝る気になれない。そのまま気付かなかったフリをして立ち去ろうとすると、銀時に後ろから肩を掴まれて無理やり振り向かせられる。「何気付かなった的な感じで行こうとしてんの?銀さんスッゲ腹立つんだけどそーいうの」コイツと顔を合わすといつもこうなる。わざわざ喧嘩をしたい訳では無いのだが、お互い遭遇すると憎まれ口を叩く傾向がある為すぐに言い争いになる。だが土方にとって貴重な休日をこんな相手と潰すなどもっての外であったので、出来る限り穏やかに「あぁ、悪かったよ。じゃぁな」とだけ言って立ち去ろうとしたが、銀時は土方から手を離さず、「待て財布」と真顔で呼んだ。コイツのこーいう所が嫌いなんだと土方は思いながら、イラつきを最大限に抑えて言う。「テメェなんかに関わってる暇はこっちゃ無ぇんだよ。お前と違って忙しくてな」「嘘つけ、テメー私服じゃねーか。非番なんだろ?いいから何か奢れ」自分の服装の事をうっかり忘れていた土方は適当に言葉を並べる。「それはその・・・これから幾つも約束があるんだよ!分かったら離せ」すると、ふっ、と銀時の表情が変化し、土方から手を離した。コイツがこんなもので引き下がるなんて珍しいなと土方が考えている間に銀時は日頃土方と顔を突き合わせている時のような人相の悪い表情で無く、普段万事屋の子供達に向けるような、死んだ目をしながらも何処か優しいような。そんな顔をした。「悪かったな引き留めて。じゃーな」そう言いながら銀時は土方がさっき通って来た道に向かって歩いて行った。何はともあれ良かったと土方は思い、これから向かう先へ目を向けると、其処はいかがわしい店が両脇に一様に建ち並ぶ歓楽街であった。一般の住宅地の曲がり角にいきなりこういった通りが現れるのもかぶき町ならではと言った所なのかと、土方は思わず感心してしまったのだがその直後には青冷めて180度方向転換して走り出すと、やがて辿り着いた銀時の肩を後ろから乱暴に掴む。息を切らした土方は半分笑ったような何とも言えない表情で、振り向いた銀時に言う。「ち、違うから!そーいうんじゃ・・・ないから!」「・・・何が?悪いけど銀さんはこれで」相変わらずの死んだ魚の様な目を土方に向けさっさと行こうとする銀時の肩を、土方は爪が減り込まんばかりの力で引き戻す。下系統の話に人一倍敏感なこの男に限って、トボけていないなどという事は有り得ないからだ。「ちょ、誤解したまま行くな!本当にちげーんだって!そーいうんじゃねーんだって!」「いやいや確かにこんな真昼間から複数相手にフィーバーするつもりだってのはちょっとビックリしたけどね?安心しろよ誰にも言わねーって」銀時の肩から手を離したはいいが、妙に優しい顔をした銀時の顔にどうにも腹が立ってならない。「何でちょっと優しくなってんだよ!気持ちわりーんだよ!だから違うんだって!!」「いやいやいや大丈夫だよー。皆1度は夢見るって。全然普通だよ気にする事ねーって」そう言って銀時は土方の肩を2、3度軽く叩くと、手を振って爽やかにその場を去ろうとした。そして土方はそれを良しとせず、しつこく銀時を引き留める。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」少しの沈黙の後、銀時の冷たい表情と声が土方の方を向く。「・・・あのさ、いい加減にしてくんねーかな」土方はその変わり様に一瞬恐ろしくなって内心たじろいだが、自身のプライドがその恐れを享受する事を許さず、心の中で僅かな恐怖をもみ消した。「何なんだよ何がしてーんだよオメーは」不機嫌な銀時を前に、土方は心の中で葛藤する。このまま、あらぬ誤解されたまま、行かせてしまって良いものか。言わないとは言っているものの、賤しいコイツの事だから何時このネタで持って強請りに戻って来るか分からない。故意にでは無かったとしてもうっかり口が滑ったとかも凄くありそうだコイツなら。総悟とかにバレたらどうなるんだろう。(ん・・・?バレるって何だ?)何もやましい事は無いのに自分の思考まで流され始めてる事に土方は気づく。誤解なんだから別に言いふらされた所で平気なんじゃないか?いや、だが平の隊士ならともかく自分は真選組を代表する立場なのだし、「悪事千里を行く」とも言うし、ただでさえ近藤の事があるんだから自分まで変な評判が広まったら目も当てられない。いよいよ市民に息の根を止められるかもしれない。「ひーじーかーたーくーん」黙り込んだ土方の耳に苛立ちを含んだ嫌な声が聞こえた。土方はその心中でひたすらに己を責める。ああ、何故自分はあの時角を確認しなかったのか。人を撥ねてしまった車の運転手の気持ちが、今なら誰よりも分かる気がした。そもそも禁煙が成功していれば俯いている事も無かったろうに。そして何故その先にいたのがよりによってコイツだったのか。(・・・待てよ?)土方は再び考える。銀時もあの通りから出てきたのだから自分と条件的には同じなのではないだろうか。だがすぐに思い直す。万事屋の評判が落ちるのと、真選組とじゃ事の大きさがまるで違う。そもそも銀時は元々スキャンダルずくしのような男なのだから、今更そんな事が公になった所で痛くも痒くも無いだろう。「おい、いい加減に・・・」「パフェ!!」銀時が遂に痺れを切らして怒鳴ろうとしたのを、土方がそれを上回る大きな声でもって揉み消した。キョトンとする銀時を前に、土方は精いっぱいの作り笑いで言う。「奢ってやるよ!!な!!」土方は、一先ず銀時をこのまま行かせる事を阻止する事に決めた。甘味を食べている間に何とか誤解が解ければそれでいい。そう思った。「俺は金さえくれればいいんだけど・・・」「さあどれが食いたい坂田君!!!」引き攣った頬の筋肉と血走った目に今度は銀時が気圧されて、そのまま半ば土方に引き摺られるように、近くのファミレスに入った。翌日、土方は酷い頭痛と共に目が覚めた。目の前に広がるのはいつもの屯所の天井で、土方は悪夢から覚めたような気分だった。顔を洗いながら昨日の記憶を辿るが、あまりハッキリと思い出せなかった。すると近藤が同じように洗顔にやって来て、「おはよう」と土方に声をかけた。ズキズキと痛む頭を軽く手で押さえながら、土方は近藤に尋ねる。「なぁ近藤さん、俺昨日どうしたっけ?いつ寝たのかよく思い出せねーんだ」「そりゃそうだろう。此処に戻って来た時はもう寝てたしなぁ」「・・・もう、寝てた?」「万事屋の連中が連れて来てくれたんだ。後でお礼言っとけよ、トシ」近藤の笑顔と裏腹に、土方の顔が硬直する。頭痛の所為で思考が上手くまとまらないが、そんな記憶が全く無いという事だけは分かった。万事屋の連中・・・連中?寝てた?「な、なんで・・・?」何か恐ろしい事実を聞いてしまう気がして、土方は記憶の無いままにしておこうかと脳では考えていたのだが、それよりも先に声が出てしまっていた。その問に対する近藤の説明によると、土方は足を銀時の肩に乗せ、胴体の辺りを新八に頭を神楽に支えられて、生贄のように仰向けで運ばれる形で真選組に届けられたのだそうだ。・・・そう、まさに「お届けものでーす」という万事屋の合唱と共に。隊士が屯所の門を開けた時に目にしたのは、銀時の顔の横から土方の両足が前に突き出ている状態だったという。詳しい経緯は近藤も知らなかったが、どうやらヤケクソになった土方が酒を飲み始め、そのまま潰れてしまったようだ。「副長さんが絡んできたんだどさぁ、流石の銀さんも飲む気になれなかったわー。何かキャラ違ったもの。目が血走ってたもの。」「何だってそんなに荒れてたんだトシは?」「尻軽女共の上に乗ろうして失敗したアル」「さすがは真選組の汚れですぜィ。薄汚ねェ恥晒しが」「ちょ、沖田隊長!どうもすいません旦那、新八くんにチャイナさんも。・・・どうかこの事はくれぐれも内密にお願いします」「それは全然構わないですけど・・・でも街の中通ってきちゃいましたね銀さん」「だって重かったしなー・・・近道しようと思って」「もう手遅れアル。それよりも1番重くて辛い思いしたのは私ネ!!」「御苦労さまだったなぁ、チャイナ娘」「いい気味だぜィ」「あんだとゴルァ!!」などというやり取りを昨夜繰り広げていたらしい事を、土方は時折漏れ聞こえてくる隊士達の会話の断片を繋ぎ合わせる事で知った。結局休日を潰してしまった事など最早どうでも良かった。屯所に辿り着くまでに何があったのかなど、知りたくもなかった。どういう経緯でか悪い方に拡大した誤解という名の虚実も、もうどうでも良かった。ただ一つ確かなのは、今更土方が何をどう弁解した所で、どうにもならないという事だ。総悟は一体何をしてくるだろう。隊士達や市民にはどんな目で見られているんだろう。振り払いたくても振り払えない、そんな思いに心を巡らす土方に近藤の優しい瞳と微笑みが、逆にこたえた。土方は自室に戻ると、誰が見ている訳でも無いのに、目が痒いフリをして、少し泣いた。【完】ぽっぽさんのメールに「きっと銀さんの原チャリは源外さんトコに出張中だったんだと思います。 つーか私の書く銀さんは何故いつもタダのチンピラになってしまうのか。」とあったんですが、銀さんのチンピラキャラ……グッジョブです!☆^(o≧▽゚)oっていうか、ファミレスで銀さんにパフェおごって、万事屋3人とお酒飲んで……どんだけ仲いいんだよって話ですが、土方さんに絡む銀さん、タチ悪っ!( ̄□ ̄;)!!ってとこがめっさ楽しかった♪土方さんは普通にかっこいいのに、なんでこうも「いじられキャラ」属性があるのか謎すぎですwwwぽっぽさん、ありがとうございました!☆(≧▽≦)☆!ぽっぽさんの素敵ブログはこちらです。→【popponoblog】SSはこちらにまとめてます。⇒【頂き物(ss)】
2011年05月04日
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4月20日は九ちゃんの誕生日!ぽっぽさんから九ちゃんはぴばSSを頂きました。っていうかこれって……【素敵な女の子】 上に長く伸びた笹林に囲まれた武家屋敷を出て、階段を一段ずつ飛ばしながら、九兵衛は早足で駆け下りる。しばらく歩くと民家が見えてきて、更にその中を練り歩いて行くと白い土壁が続いて、その先の志村家、兼恒道館道場の門に辿り着く。一人も門下生のいない、実質潰れている状態の道場。九兵衛は門の脇に掛けられている看板の隣に寄りかかって、妙を待つ。暫くして中から妙が出てくると、九兵衛を見て溜息を着く。「また早く来過ぎたの、九ちゃん?」「遅れないように・・・って思ったら」「嘘をつけェ!!貴様が壁を乗り越えてお妙さんを覗こうとしていたのは知っているぞ!全くとんでも無い輩ですねぇ、お妙さん」突如後ろから現れて厚かましくも妙の肩を抱き寄せた近藤に妙は無言で肘鉄を食らわし、手を2、3度はたく。近藤は白目をむき顔からは血を流し、大きな音を立てて九兵衛の足元に倒れた。「じゃ、行こっか」妙が微笑んでそう言ったので、2人は並んで歩き始める。妙はつい先程大男を殴り倒したとは思えない綺麗な手に洒落た財布を引っ提げ、女らしい柄物の着物に身を包み、後ろで髪を結い、顔には軽く化粧をしている。九兵衛は髪こそ妙より長いものの、男物の服に下駄を履き、袂には脇差を備えてある。「次から九ちゃんには、わざと遅い時間教えようかな」「どうしてそんな事を?」九兵衛は笑いながら尋ねる。「そうすれば、九ちゃんの事待たせないで済むでしょ?」妙が困った顔をしてそう言ったので、九兵衛はいつも通り答える。「次は、もう少し遅めに家を出るよ」「いっつもそう言って、いっつも待ってるじゃない」(そうだよ)九兵衛は心の中でそう言った。(だってワザとだもの)妙は気づいているのかいないのか。妙の事だから気づいているのかもしれないが、しっかりしている様に見せかけて案外抜けている所もあるので、やはり気づいていないのかもしれない。少し歩くと街の中心街に出る。男も女も子供も大人も、善人も悪人も、地球人も天人も。あらゆる人種が縦横無尽に歩き回って、まるで人の海の中を泳ぐようだ。「見て、九ちゃん!あれ可愛いと思わない?」呉服屋の人形が着ている服をガラス越しに指差して妙が言う。家庭環境も手伝ってか、普段は驚くほど大人びている妙だが、こういう時だけは年相応の女の子らしいはしゃぎ方をする。そうだね、と九兵衛が答えると妙は九兵衛の手を引いて、店の中へと進む。色々な服を見ては試着して、九兵衛に意見を聞いてくる。「可愛いよ」九兵衛は必ずそう答える。「似合ってなかったら正直に言ってね九ちゃん」「分かってるよ」九兵衛は答える。(でも、本当に似合ってるんだもの)九兵衛はまた、心の中で思う。九兵衛と違って、妙は女らしい服が何でも似合う。女の服を着る機会も増えてきたし、妙に勧められて半ば無理やり女の子の服を着せられる事も多いけれど、九兵衛は自分のそういう姿を見るのは苦手だった。外見がどうというよりも、内面と外見の差が大きすぎる気がして、どうにも落ち着かないのだ。妙は内面でも外見でも、女の服が、女らしさが、よく似合う。何軒か呉服屋だの簪屋だの、若い女で溢れる店を回った後は、甘味屋に入る事が多い。その際に妙が買い物の戦利品を持っている事は、滅多に無い。九兵衛の目から見て、妙が欲しがっているように思えた物はたくさんあったのに。甘味を口に運んで綻ぶ表情を見せる妙に、九兵衛は問う。「さっきの、買えば良かったのに」「さっきのって、どれ?」九兵衛は何を着ても褒めるからどれの事だか分からない、と妙は冗談めかして言う。「それに、無駄遣いは出来ないしね」ひがみでも無く嫌味でも無く、妙はそう言った。妙はいわゆる水商売をしている。もちろん違法では無いが余り親が進んで子供にさせたいような、子供が夢見るような。そんな職業では無い。もし志村家に十分な遺産があったなら、彼女はこんな事をして働いてはいなかっただろう。好きな時に好きな物を買って、もしかしたら恋に没頭していたのかもしれない。食うに困る程では無いけれど、決して裕福で無い彼女の財布の紐はとても固い。「買ってあげようか」と、妙と買い物に来る度に何度言おうと九兵衛は思った事か。だが、どうすれば嫌味にならずに済むのか。どうすれば妙の自尊心を傷つけずに済むのかが分からなくて、いつも何も言えない。例え言ったとしても、恐らく妙は微笑んで、礼を言いながら丁寧に断るのだろう。九兵衛が妙に何か与える事には誕生日だとかクリスマスだとか、そういう記念日に与るしか無い。そんな時ですら余り値の張る物を渡してしまうと、妙がお返しする事が出来なくて困るのだ。九兵衛は気にする必要は無いと言うけれど、妙は妙で申し訳なさを隠し切れない。九兵衛が志村家に邪魔する事があるのと同じように、時折妙も柳生家に顔を出す。数々の事情を知る上澄みの人間は妙を歓迎するが、何も知らない門下生たちの中には、妙の職業を挙げ彼女を蔑視する者もいる。妙は恐らくそのような視線にも気づいているのだろうが、その素振りを見せる事は決して無い。それは妙の精神の強さ故か、それともただ慣れてしまったのか。もし後者なのだとしたら、こんなに悲しい事は無いと九兵衛は思う。慣れる必要なんて何処にも有りはしないのに。そう思うといつも、九兵衛の中には悲しみと遣る瀬無さが込み上げてきて、泣きたくなる。そんな九兵衛の心を解す様に、妙はいつも笑って言うのだ。「楽しいわね」その言葉には一片の偽りも虚勢も無く、九兵衛を安心させる。周りに蔓延るどんな男共よりも芯の通った強さがありどんな蔑視にも軽蔑にも屈する事無く、妙の中では常に誇りが前にある。どんな境遇にあろうと、その中から楽しさを見つけて生きる術を彼女は知っている。武家の娘として、姉として、常に彼女は前を向いて歩いている。そして時折振り返っては、九兵衛が来るのを待っているのだ。待っている素振りなど、微塵も見せる事無く。(ねぇ、妙ちゃん)九兵衛は心の中で呼び掛ける。(僕が女の子に成り切れないのは、君の所為もあると思うんだ)口が裂けても、九兵衛は妙にそんな事を言いはしないだろうが。ふと、九兵衛の向かいに座る妙の顔が変化した。どうしたのだろうと思って九兵衛が背後を振り向くと、銀時がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。「こんな所で何してんだ、お前ら?」「見れば分かるでしょう。銀さんこそお仕事は?」「何でそういう事聞くのお前。嫌味?」銀時はそう言いながら、妙の食べかけの甘味の皿を横から掻っ攫って食べようとする。座ったままの妙が真横に握った拳を伸ばすと、それは銀時の腹に直撃した。痛かったのか、銀時は腹を抱えてその場にうずくまる。「ぐぉぉ・・・何しやがんだテメェ・・・」「意地汚い真似はよして下さい。それでも侍ですか」妙がぴしゃりと言い放つ。それに反発する様に銀時がぼそりと罵倒の言葉を呟くと、妙も負けじと言い返す。喧嘩と言う程のものでは無いけれど、新八や神楽の話題まで入り混じった言い合いの連鎖が止む事は無く、いつの間にか妙の隣の席に腰を下ろしていた銀時は会話のどさくさに紛れて店員に甘味を注文する。「九ちゃんと買い物してたんですよ」「何?まな板をごまかす為のアイテムでも探してたのか?」「・・・それどういう意味?」「まぁ~確かに何かした方がいいよな。平らっつーか最早お前それ凹んでんじゃね?」銀時が妙の胸の辺りに視線をやりながらそう言った直後、妙の手は銀時の後頭部を掴み、そのままテーブルにめり込ませた。家を出た直後近藤を殴り倒した時と同じように、妙は不機嫌そうに手を2、3度はたくと「行きましょ、九ちゃん」と言って、九兵衛に微笑みかけた。店を出ると硝子窓の向こうで、銀時自身が注文した溶けゆく甘味を隣に意識を失ったまま机に減り込んでいるであろう、銀時の銀髪が見えた。余りにも君が素晴らしい人だから。僕の知るどの男よりも女よりも、素敵な人だから。もし今、君に特別な人が出来てしまったら、きっと僕は泣くだろうけれど。そうなったら、僕が変わらねばならない事は承知しているけれど。今はまだ、このままでいいんだ。このままがいいんだ。「なぁに?九ちゃん」帰途で、九兵衛の視線を感じた妙が言う。「うぅん、何でも無いよ」「そう?」「うん」キョトンとした可愛らしい顔でそう問う妙に、九兵衛は軽く頷いてそれに答え心の中で誰に向かってなのか、祈りを捧げる。願わくば、世界中の誰よりも素晴らしい君が世界中の誰よりも幸せになれますよう。【完】・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私は、まあ、姉上スキーの銀妙至上主義者なので、九ちゃんが登場した時は微妙な気持ちだったんですが、そこは空知んたまキャラ。回を重ねるごとに、もう、お妙さんは九ちゃんと幸せになっちゃえばいいよ!☆(≧▽≦)☆!って口走っちゃうくらい、お妙さんを大好きな九ちゃんがかわいくって仕方無いんですが、そんな私に「ド」が100個ついちゃうくらいドストライクなSSがきちゃいました。何気に、近藤さんと銀さんが出てるあたり、ぽっぽさんの公平っぷり(笑)に感動しつつ、空知んたまの描く女の子同士の友情ってなんかいいよねってことにしみじみしつつ……ぽっぽさん、ありがとうございました!☆(≧▽≦)☆!いつもいつも、原作の雰囲気ダダ漏れなぽっぽさんのSSが大好きです!ぽっぽさんの素敵ブログはこちらです。→【popponoblog】SSはこちらにまとめてます。⇒【頂き物(ss)】
2011年04月23日
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