The door for the blue sky 

The door for the blue sky 

A PLACE IN THE SUN (6月)



彼女を失った日、雨の中で立ちつくす僕は…「彼女が死んだ…。」

現実として受け入れられない僕の心が軋んだ音をたてて壊れてゆく。

雨の中で見た彼女の遺影は、僕の知っている彼女だった。

涙すら出ない。声すら出ない。音さえ消えて、これが現実なのかさえ、その時の僕には解らなかった。

ただ呆然とするだけの僕は、今にも消え入りそうだった。多分、いっそ消えてしまいたかったんだと思う。

信じられなかったから、僕と出会わなければ…こんなことにならなかったのに…目覚めると泣いている。

あの時は涙さえ流れなかったのに、今は夢だと解っているのに涙を流している。


6月


 僕らはいつもそこにいた。

古いアンティークの時計に囲まれた店の一番奥の席、そこが僕らの指定席だった。

彼女はミルクティを僕はコーヒーを・・・いつものことだった。

 マスターとママがいつも笑顔で迎えてくれて、ふたりにとってはどんな部屋にいるよりも自然で落ち着ける場所だった。

他愛もない話に笑いあったり、たまにはつまんないことでケンカしたりしていた。

 その店も今はマスターだけになって、歳を重ねた僕に大人の相談をする・・・

それは、子供のままで時間を止めた僕には不思議な感じだった。

 僕は大人になったんだろうか?

 今の僕を見て彼女は何て言うのだろうか・・・

ただ、いつもその場所で彼女が言っていた、「私のことを忘れないでね。」
の言葉が今は哀しく想い出されてしまう。

そして今の僕は、コーヒーを飲まなくなった。







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