Dragon's nest

Dragon's nest

第10話:trace(跡)(7/9更新)




「なー……、まだ見つかんねーのかよぉ?」

赤毛の少年が、配線だらけの無機質な天井を仰ぎ見ながら、
退屈した様子でぼやいた。
ユートである。

「まだ待ってぇな…」

関西弁の、少女の返答が返ってきた。

「もうちょい…まだ追跡中やねん…。
 人間界の、この町のどっかに逃げたっちゅートコまで
 絞り込めたんやから…」

人間界製のパソコンなどを改造した端末を幾つも操作しながら、
リィファは言い聞かせるようにブツブツと言った。

「…やっぱり無理なのよ。
 この広い町の中から、特定の堕天使と悪魔を捜し出して、
 仕留めるなんて。」

部屋のドアに寄りかかり、呆れたようにメィファが言う。

「リィの才能は認めるけど、相手が悪いわ…。
 S級堕天使ラバイト=インセルグ…
 堕天する直前まで、魔界の潜入調査してた…って資料にあったでしょう?
 こっちの世界で言う、工作員みたいな…。
 空間移動や結界破りなんて、朝飯前だとも。
 きっと、簡単に見つからないように、手を打ってあるに違いないわ。
 …諦めて別件のヤマを狩りましょう?」

元々、メィファだけはラバイトとセシルに接触する事には、
最初から気が乗らないのだ。
しかし、画面を凝視したまま、リィファはムキになって反論した。

「何べん言うたら分かんねん、姐姐(姉さん)!!!!
 天使たちはみんな 1匹1匹
 羽に違う波動(ウェーブ)持ってんねん!
 堕天使かて、例外やないで?」

「… 1匹1匹 って言い方は止めなさい。
 本能的に天使が嫌いな気持ちは分かるけど」

「あー、すんません。
 …んで、天界出身者なら尚更、正規のデータが残っとる。
 そのデータを入力して、トレース(追跡)モードに設定すれば、
 波動のノイズ跡を追って捜せるんや!」

「トレース(追跡)より、サーチ(捜索)の方が早いんじゃねーの?」

「…ユート。
 アンタも人の話を聞いてるの?
 サーチ(捜索)だけじゃ、振り切られるわよ…」

「そうやで、ユートはん。
 サーチ(捜索)はシンプルに、強いノイズから手当たり次第やさかい、
 空間移動や結界破りなんぞされたら、焼き切られるんが関の山や!
 流石にラバイト=インセルグもそれを考えてか、
 姐姐(姉さん)の言うとおり、
 ワザと羽根使うてノイズ残したり、色々手ぇ使うてんねん。
 …でもな、トレース(追跡)なら古いノイズ跡から
 新しいノイズ跡へと徐々に辿っていけんねん!!!!
 ジワリジワリと追い詰める…あぁ、快感やねぇ…ウフフフ…」

恍惚の表情を浮かべるリィファ。

(…お前の妹、怖くね?
 てか、お前も別の意味で怖いけど…;;;)
(…お黙り)

聞こえてないのか、リィファはくるりと振り返り、断言した。

「…それに、アイツらの弱点も、
 天界と魔界からデータ盗んどいて検索済みやし!
 ウチの組み立てた『召喚装置(モデム)』がうまく起動すれば、
 太刀打ち出来んねん!!!!」

「ほぉ~、
 ラバイト=インセルグとセシル=クロウの弱点って、何なに?」

ユートが訊いてみる。
するとリィファはプププッと笑いを漏らし、携帯電話を取り出し…

「イヤ、コレがまた意外っちゅーか、可愛ぇっちゅーか…ホレ」

画面を見せた。

「……マジで?」

ユートの眼が点になる。

「…アホらし。
 …こんなデータ、信憑性あるの?」

メィファがますます呆れたように言うが、
リィファは端末に向き直して、

「んー、多分。」

(多分…って……)

「まぁ侵入してまで手に入れたデータやさかい、間違いないやろ♪
 それに、間違いやったとしても、
 ユートはんとメィ姐姐(姉さん)はめっちゃ強いし!!!!
 ウチらで桜先生の仇、絶対討ったるでー!!!!」

リィファはワザと「強い」と言った。

「…だよな!俺強いもん!!!!
 サポート頼むぜ、リィファ!!!!」

ユートはまんまと「強い」に酔った。

(…莫迦だわ、この子ら…
 一度、ラバイト=インセルグの槍で切り刻まれなきゃ、
 愚かさが分かんないんだわ…)

メィファは説得を諦めて部屋を出た。



…あれから数分後の門前家。

「…くしゅん!」

セシルが美しい容姿に見合った、小さなクシャミをした。

「風邪かい?…熱は無い様だけど」

ラバイトは嘲うことなく、心配の声をかける。
さっきのコスプレよりは幾分地味だが、また別の服に着替えていた。
襟の刺繍が、何処と無くゴスロリ系っぽい。

「…お前さぁ、クシャミ1回くらいで大げさ過ぎ」

「当然。愛してるもんvV」

セシルも着替えた。
…というより、チョコに着替えさせられた。
襟の刺繍だけでなく、黒いレースもついて更にゴスロリ系っぽい。

「お前ら、ちょっと飾りを着けただけでも派手だなぁ…
 俺の姉ちゃんっつーあの女の目利きだろうけど…」

セイも外出用の服に着替えた。
障りの無い、ジーンズとシャツに、薄手のコート。

「セイは平凡に地味だねー。
 …それに比べ、セシルはその格好も似合うねvV
 相変わらず黒ずくめだけど…」

少し残念そうなラバイト。
自分が天使らしさの象徴的な白装束を着なくなった分、
セシルも黒装束を着なくなるかも…という期待があったらしい。
しかし、セシルはツンとした態度で、

「スカートと白だけは、断固拒否させてもらった!」

と、さらにダメ押し。

(あああ…、
 ウェディングドレスも拒否しちゃうの…かなぁ?
 この調子だと、拒否しそうだなぁ…)

そんなラバイトの心の嘆きが、セイには聞こえた様な気がした。
理解出来なくも無いが、セイは別の事が気になった。

「…ザクラは?」

「あの子も着替えてるよ。
 …貴様の小汚い古着なんかで外出させるワケにはいかないし」

「…悪かったな、小汚くてっ」

 ガラッ

「着替えたぞー♪」

満面の笑みで、チョコが出てきた。

「喰う割に相当細いけん、ウチの服でも余裕で入ったわ…。
 …って、可愛いけん見せちゃらんねって!ほら!!」

そう言われて部屋から引っ張り出されたザクラは、
ブカブカの帽子とロングスカートで、
『幼翼』と『幼尾』を隠していた。

「…え、ええっと…あの…、どう…かな?」

着慣れぬ格好に、戸惑っているザクラ。

「フン…まあまあだな」とセシル。
「流石、セシルの妹君だね。可愛いよvV」とラバイト。

「……んで?
 俺たちを何処に連れてく気なんスか?
 “お姉ちゃん”?」

セイは今更正直に「可愛い」とは言えず、話を逸らした。
ラバイトとセシルから視線が刺さるわ、
チョコは「“お姉ちゃん”って呼んだぁああっvV!!!!」
と歓喜してしまう始末。
直後にネコがチョコに「いちいち歓喜すんな」と鉄拳制裁を喰らわす。

「…今から行くのはな、【美術館】だ」

のた打ち回る妹を尻目に、ネコが説明する。

「雨降りそうな、こんな空模様なのに?」
「あの【美術館】は、雨が降らないと入れないんだよ。
 母さんから、
 『セシルとザクラにあの絵を見せたいから、連れて行け』
 って連絡が着てね」

「母さんから連絡?!」とセイ。
「「僕らに見せたい絵??」」とセシルとザクラ。
「雨が降らないと入れない美術館…ですか?」とラバイト。

「連絡が入ったのは、オレのじゃなくチョコの携帯なんだけどね。
 【美術館】へ直接入れる【鍵】、持ってんのはチョコだし。
 オレは付き添いみたいなモン…」

ネコが言い終わる前に、セイはチョコの襟を掴んだ。

「…あの不良中年、今何処にいるんスか?
“お姉ちゃん”~???」

「イヤ、教えたらツマランわ。
 可愛い弟に睨まれても、お姉ちゃん、ホンマに教えられんから。
 【美術館】から帰った後で教えちゃるけん、
 手ぇ放しいっちゃ、セイちゃん…」

「セイ…なんだか殺気立ってるよぅ…」とザクラ。
「余程、母親に鬱憤が溜まってるんだな」とセシル。

ザァ…ッ

「雨が降ってきた。そろそろ行こう。
 …ほれチョコ、【鍵】出せ」

「分かっちょーっちゃ!
 …たく、殴っといて…」

チョコがブツブツ言いながら【鍵】を探す間、
ネコが思い出したように言った。

「…あぁ、そうそう。
 オレも双子に渡す物があるんだが…
 【美術館】から帰ってからでも遅くは無いだろう。
 『様子を見てからにしたい』と言われたし。
 後のお楽しみという事で…」

ネコがツカツカと、玄関とは逆の方向へ歩いていく。

「…って、そっちは玄関じゃなくて、
 地下室なんですけど…?」

地下室…ザクラが封じられていた、
『鳥喰ヒ花ノ樹』があった異空間の部屋だ。

「…お前、ザクラをあそこから出しといて、
 何も気付かなかったのか?」

「は…?」

「あの地下室こそ、【美術館】への通路なんだよ」



ポーン♪

端末の1つがアラームを鳴らし、画面に表示を出した。




 ラバイト=インセルグ の波動ノイズの
 トレース(追跡)を完了しました。





「キタキタキタぁ――――――ッ♪
 やっっっっっっっっっっっっとキタぁああ!!!!
 何処や?!いっちゃん新しいノイズ跡あったんは!!!!」

リィファは歓喜しながら、地図と照らし合わせた。

「ふんふん…この店の周辺でブッツリとノイズが消えとる…
 空間移動の形跡は無い…
 …ちゅーコトは、この店に…」

「入って結界張ったか、張ってあった結界破って中に入ったか…
 そうと考えるのが自然でしょう?
 …少なくとも、 誰かが手を貸してるわね…
 ますます面倒臭い…」

メィファも画面を見て、とある【店】を指して言う。
リィファの声が聞こえたので、ひとまず部屋に戻ってきたのだ。

「…でも、この店に間違いないやろ?」

リィファがニヤリと笑うが、ふと足元を見て、
待ちくたびれて寝てるユートに気付いた。

「…って、何寝てんねんユートはん!
 起きてぇな!!!!
 ラバイト=インセルグの居所掴んだで~!!!!
 きっとセシル=クロウも一緒やで~~~!!!!」


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