爆破
デパートの前で立ち止まり携帯を取り出す女性 安永亜紀（32）以降：亜紀
亜紀 もしもし。
木村 その電話を警備員室でとる
木村 亜紀？今どこ？
亜紀 入り口のトコ。お父さんは？
木村 巡回に行ってる。
亜紀 この時間って巡回あった？
木村 いや、普段はないんだけど、なんかレストラン街であったらしくて、見てくるって出てったんだけどね。
亜紀 そう。
木村 うん、でも大したコトなさそうだからすぐに戻ってくると思うよ。
亜紀 ところで、お父さんには、ばれてないでしょうねぇ？
木村 大丈夫大丈夫。そこは、ぬかりないよ。
亜紀 本当に？いつもそんなこと言って抜けてるじゃない？
木村 今回は大丈夫だって！
亜紀 なら、いいけど。ばれたらサプライズじゃ無くなるんだから気をつけてよ！
木村 分かってるって。しつこいなあ・・・。
亜紀 え？
木村 いえ、なんでもないです・・・。
亜紀 で、これからどうすればいい？
木村 俺たち仕事終わるの4時だからさ、それまでに何かプレゼントでも買っておいたら？
亜紀 え？買ってないの！？
木村 買ってないよ。
亜紀 なんで！？
木村 えーそれも、俺？俺、レストランの予約したよ。
亜紀 だって、私、お父さんの欲しいものなんて分からないよ？
木村 娘が分からなくて、俺が分かるわけ無いじゃないか？
亜紀 私は喧嘩してるから、最近喋ってないんです！あなたの方が会話してるでしょ？同じ職場なんだから。なんかないの？欲しいとか言ってたモノ！
木村 そんなコト考えて喋ってないもん、無理だよ。
亜紀 え～じゃあどうしよう・・・。
木村 なんでもいいって。定年退職のお祝いなんだから、なんだって喜んでくれると思うよ。
亜紀 本当に・
木村 ああ、多分。
亜紀 ・・・ねえ？
木村 何？
亜紀 食事だけでも良くない？プレゼント無し。
木村 おまえが仲直りするんだろ？それなのに何もしないなんて、虫が良すぎるだろ？
亜紀 分かったわよ。買えばいいんでしょ？買えば。
木村 そうそう。
亜紀 じゃあ、ヒント頂戴。
木村 何の？
亜紀 プレゼントの。こういう系のものとか漠然としてて良いから。
木村 だったら・・・これから使えそうなモノが良いんじゃないの？
亜紀 使えそうなモノ？それじゃあ食べ物、飲み物は消えちゃうじゃないの！
木村 まあ、そうかな？
亜紀 まあ、そうかな。じゃないわよ！１からやり直しじゃない！
木村 じゃあ、ゆっくり考えて。一応、俺、勤務中だからさ。
亜紀 ええー！！
木村 4時に正面入り口で。
亜紀 ちょっと待ってよ！
木村 電話を切る
亜紀 もう・・・。
亜紀 携帯をカバンに戻し、デパートへと入っていく
場面変わって、レストランレジ前
由紀と文哉が待っていると店員がやってくる
ウェイトレス お待たせしました。
文哉 伝票を渡す
ウェイトレス 2530円になります。
文哉 財布をみて、由紀に声をかける
文哉 30円ある？
由紀 30円？ちょっと待って・・・。
由紀 配布を取り出し
由紀 50円ならある。
文哉 じゃあ、それで。
文哉 由紀から50円を受け取り、ウェイトレスに渡す
文哉 ああ、そうそう。さっきの、子供だったよ。
ウェイトレス え？
文哉 仕事に関係が無い訳ではなくて、この人がメインの話だけども、俺に関係が無いわけではない。で、結論的には２人の問題へと発展するコト。
ウェイトレス 赤ちゃん？
文哉 そう。
ウェイトレス おめでとうございます！・・・で、いいんですよね？
文哉 もちろん！
ウェイトレス 良かったですね！
ウェイトレス 由紀のほうを向いて声をかける
由紀 ありがとう。なんか、悩んでたことが馬鹿みたいだった。
ウェイトレス 笑いながら、お釣りを渡す
ウェイトレス 520円のお返しです。ありがとうございました！
文哉 笑顔で返し店の外に出て、振り返る
文哉 ちょっとトイレに行って来る。コーヒー飲み過ぎた。
由紀 じゃあ、ここで待ってる。
文哉 ああ、じゃあ、ちょっと待ってて。
家族3人組が続いてレジへとやってくる 娘はちょっと遅れている
母親 伝票をウェイトレスに渡す
父親 で、いくら払えばいいんだ？
母親 ちょっと待って。
ウェイトレス 4250円になります。
母親 4250円。
父親 それって・・・全額じゃないのか？
母親 ちっ、惜しかった。
父親 惜しくない。
母親 いいわよ、別に。
父親 本当に？
母親 ええ。
父親 助かった～。今週の昼ごはんどうしようかと頭を抱えてたんだ、実は。
母親 知ってる。
母親 財布からお金を出す
父親 知ってる？ってことは知ってて、からかったのか！？
母親 違うわよ、見栄を張らせてあげただけよ。
ウェイトレス 750円のお返しになります。ありがとうございました！
娘 追い付く
娘 お父さん、ご馳走様でした。
父親 ん？あ、ああ・・・いいんだよ・・・別に。
娘 なんで、しどろもどろなの？
父親 そんなことないよ。
娘 怪しい・・・。
父親 さ、行くぞ！
父親 店を出る
娘 不審気についていく
母親 後を追う
場面変わって階段踊り場
孝明 広敏に押さえ込まれている
広敏 さてと、あと少しだけ、ここでこうやっててもらおうかな。
孝明 今、何分だ？
広敏 気になるか？
広敏 そういいながら時計を見る
広敏 12時20分。あと10分だな。
孝明 どうして、おまえがここにいるんだ？
広敏 何かあったときの為に、外で待機してたんだよ。で、案の定、何かあったからここにいるって訳。
孝明 おまえ、いつも現場にいたのか？
広敏 まあ・・・大体は。
孝明 じゃあ、この前の警視庁の時も、現場にいたのか！？
広敏 ああ、いたよ。
孝明 だったら、まさか！
広敏 いや～時間に正確で助かったよ。１秒のズレも無いんだモンな。さすがだよ。
孝明 事故じゃなかったのか・・・。
広敏 人は信じるもんじゃなくて、疑うもんだよ？常にホントのこと言うとは限らないんだから。
孝明 貴様っ！
広敏 いくら大声上げたって無駄だよ。こうやって、君を押さえつけてる状況こそが現実なんだから。
孝明 ・・・
広敏 大体、俺をだませるとでも本気で思ってたの？それにしちゃ芝居が下手だよ。
孝明 今、何分だ？
広敏 え？22分。大丈夫だって、爆発したら分かるから。
孝明 そうだな、爆発したら分かるわな、俺のしかけた保険が。
広敏 保険？
孝明 ああ。俺はどういう奴だ？分かるだろ？付き合いも長いんだし。
広敏 は？まあ、用心深くて、石橋を叩いて渡らないタイプ・・・ってトコかな？それにしちゃ今回はよくやったよ。一世一代の大ギャンブルって奴か？
孝明 おまえは俺が何かやらかすって思ったから、見届け人なんておいたんだろ？
広敏 ああ、おまえが逃げたって連絡受けたときは、我ながら叫んだね「ビンゴッ！」ってな。
孝明 だろうな・・・。
広敏 おまえ・・・何考えてる？
孝明 さあ？
広敏 まさか・・・本当に爆発しないのか？
孝明 時間になれば分かるだろ？今、何分だ？
広敏 ・・・23分。
孝明 あと7分か・・・設置して・・・逃げて・・・十分な時間だ。
場面変わってレストラン街 階段口
黒川 バックを持ってかけあがりフロアへと足を踏み入れる
黒川 胸ポケットから紙を取り出す
黒川 確か・・・ココとココにカメラがあるから、避けろって言ってたな・・・しょうがない、こっちから周って行くか・・・。
巡回していた安永が通りかかる
安永 おい、君！
黒川 振り返る
黒川 な、何だ！？
安永 先ほど、ご一緒だった方は？
黒川 あーあいつ？あいつは、さっき会ったばかりの知らない奴だよ。だから何処に行ったか、聞かれても・・・。
安永 そうだったんですか・・・。
黒川 ああ、じゃあ。
黒川 立ち去ろうとするが、制止される
安永 ちょっと待ってください。
黒川 まだ何か？
安永 そのカバンは先ほどの方が持ってらっしゃった物ですよね？
黒川 え？違うよ。俺んだよ。
安永 ま、ちょっと一緒に来ていただけますか？
黒川 何でだよ！？
安永 ちょっと話をお伺いするだけですから。
黒川 俺が何したって言うんだよ！
安永 先ほどの方が、そのバックを大事そうに持っているのを、私は見てたんですよ。
黒川 勘違いだって！
安永 まあ、ちょっと話を聞くだけですから。
黒川 うるせえ！！
黒川 安永を振り切って走り出す
安永 あ、おい、待て！！
安永 追いかける
場面変わってレストラン前
黒川 走りこんできて、トイレから戻ってくる途中の文哉を追い越し、母親と娘にぶつかり転がりカバンを手放してしまう
父親 倒れこんだ母親と娘を見て駆け寄る
父親 大丈夫か！？
母親 ええ。
娘 うん、大丈夫。
文哉 由紀に駆け寄る
由紀 目の前に落ちたカバンを拾う
文哉 大丈夫？
由紀 うん。
安永 ようやく追いつき、黒川を捕まえる
安永 皆さんお怪我は？
黒川、安永以外が大丈夫だと言うようにうなずく
安永 あ、じゃあお預かりします。
由紀 はい・・・。
安永 全く・・・何が入ってるんだ？
安永 由紀からカバンを受け取る
安永 カバンを開ける
黒川 時計を見る
黒川 くそ！あと5分しかねえじゃねえか！
黒川 強引に安永を引き離し逃げようとするのを安永に押さえ込まれうつ伏せにさせられる
安永 あきらめて、静かにしろ！
安永 視線がカバンの中に向く
文哉 視線を落とすとカバンの中が目に入り、反射的に由紀を庇う
安永 爆弾？
場面変わって階段踊り場
広敏 どういう意味だ！
孝明 まず・・・あの爆弾は爆発しても爆風は爆弾の上方向にしか向かない。
広敏 は？
孝明 銃みたいなもんだな。ちょっと大き目の。
広敏 なんでそんなものを・・・。
孝明 ってことはちゃんと設置すれば、相当運が悪くない限りは誰も死にはしないだろうな。真上に被さってでもいない限りは・・・。
広敏 ・・・おまえは本当に間抜けだな。
孝明 ・・・
広敏 それを今、言ってどうする？俺が黒川に電話すれば済む話だろ？
広敏 携帯を取り出しかけようとする
孝明 今回の爆弾は、5分前行動だ。調べたら12時半前と後では、あの辺りの人の量が倍以上違うからな。
爆音が鳴り響く
孝明 時間通りか・・・。
広敏 貴様っ！
孝明 どうせ、おまえも俺は今回で終わりだって考えてたんだろ？だからわざわざ、あんなカメラに丸写りの場所で電話して来いなんて言って・・・。動かぬ証拠って訳だな・・・。
爆破現場では泣き叫ぶ声が交じり合う
警備員室には亜紀が駆け込んでくる
第9場 裁判
ざわついた裁判所内
判事が所内に入ってくると、所内は静寂に包まれる
判事が次席官となにやら小声で会話をする
主席判事が主文を読み上げる
判事 主文。被告人、香西孝明を死刑に処する。理由・・・・
場面は変わって裁判所正面玄関
広敏と弁護士が遭遇する
広敏 ああ、どうも・・・。今回は、ありがとうございました。
弁護士 ああ・・・。
広敏 そんなに罪の意識を持つ必要ないですよ、あんな奴に。爆弾を作って人を殺そうなんて奴はろくな奴じゃないんですから。
弁護士 ああ・・・。
広敏 安心してください。あなたの家と事務所の前に止まっていた車はいなくなると思いますから。
弁護士 そう、願いたいね。
広敏 ああ、あと約束のお金でしたね。・・・小切手でも良いですか？
弁護士 ・・・ああ。
広敏 それじゃ・・・。
広敏 カバンから小切手帳を取り出す
弁護士 キャップをあけたボールペンを渡す
広敏 ああ、すいませんね。
広敏 小切手帳に金額を書き込み、弁護士に渡す
広敏 じゃあこれで。
弁護士 小切手を受け取る
広敏 また、何かの時には・・・。
弁護士 もう、会うことはないと思いますよ。
広敏 そんなコト言わずに・・・あ、これお返しします。
広敏 ボールペンを差し出す
弁護士 いや、あなたの触ったものは持ちたくない。
広敏 そうですか？いやはや、嫌われたものだ。それじゃ・・・。
広敏 立ち去る
弁護士 小切手を破り捨てる
爆音が鳴り響く
ニュースの声がどこからともなくしてくる
ニュースの声 ・・・続いてのニュースです・・・本日国会にてPrison Colony法案が可決されました・・・・・。
Fin
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