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双子コイン
絢 「ねぇ?ねぇ?知ってる?」
舞奈「なに?なに?」
絢 「12星座コインっていうの!」
舞奈「知らない。」
百子「もしかして、あれ?」
絢 「知ってるの?」
百子「聞いた事はあるよ。」
絢 「なんだ。良いトリビアかな?って思ったのに。」
舞奈「え?なに?12コインって。」
絢 「えへへ・・・。」
舞奈「え?ほんとに何?」
絢 「12星座コインって言うのは、いつだったか忘れたけど、
何かの企画で世界の12カ国で星座のコインが創られたのね。
でも、その企画は製造始めてから2日後に中止になったの。なんでかはわかんないよ。
で、創られたコインの数は各1000個、計12000個、
だけど11000個は処分されたんだ。で、残ったコインを持った人は、
そのコインの“呪い”にかかるって噂。って、運が良くなるコインもあるんだけどね。」
舞奈「呪いって?」
絢 「それは知らないよ」
百子「12の星座だから、12種類の呪いがあるよ。」
舞奈「そうなんだ・・・。」
百子「あ。結構日本に多くそのコインがあるらしいよ。」
舞奈「でも、持ってないでしょ?」
絢 「持ってたら不幸になっちゃうかもしれないからね。」
百子「おとめ座のコインは良いって聞いた事あるけど?」
舞奈「恋愛運上昇とか?」
百子「さぁ?」
絢 「でもさ。どんなコインなのかな?」
舞奈「え?星座の絵が描いてあるだけじゃないの?」
百子「そうでもないらしいよ。」
絢 「表は星座だけど。裏はその意味となる模様?だよ?」
百子「そうそう。」
舞奈「へぇ~。」
絢 「やっと、へぇ~がでたよ!」
百子「そだね。」
舞奈「面白そう!」
絢 「だから、呪いにかかるんだってば!」
舞奈「そうだった。」
百子「おとめ座のコインは欲しいよね。」
絢 「でも、噂だからな・・・。はずれる事もあるかもよ?」
百子「そうなんだよね・・・。」
そう・・・この話はつい最近。
これを聞いて、私は何も思わなかった。
今考えると、もっと聞いとけば良かったのかもしれない。
今、私の目の前には1枚のコインがある。
そこに描いてある模様は双子の絵。
裏にはなにも描いてないけど、ピカピカに磨かれた裏はまるで鏡のように私を映す。
大きさは100円玉と同じ位で、私はすぐに呪いのコインだと確信した。
理由は特にないが、あの話を聞いてから、
よく私に似た私ではないもう一人の私と話してる夢を見ていた。
正夢と言う言葉は信じたくなかったが、この時ばかりは信じてしまった。
私は震える手を押さえ、コインを元の鏡の下の引き出しに仕舞った。
悪夢が起きないことを祈って。
コインを見つけてどれくらいの日が経つのだろう?
カレンダーを見て4日しか経ってない事に気付く。
私は家に呪いのコインがあることを誰にも言わなかった。
まだ効果が出てないのもあったし、これを見物物にされるのも嫌だったからだ。
しかし、コインの効果はこの日から目覚め出した。
舞奈「いただきます。」
母 「いただきます。」
舞奈「今日は、ハンバーグ?」
母 「これは、豆腐ハンバーグなんだけど?」
舞奈「そっか。」
母 「ちょっと前に流行ったんだけどね。」
舞奈「ああ。あれか。」
母 「どう?おいしい?」
舞奈「うん。おいしいよ。」
―プルルル・・・プルルル・・・
電話が鳴り響く。
母 「私がでるわ。」
舞奈「うん。」
母 「もしもし?
はぁ・・・。
いえ、人違いではないでしょうか?
うちの娘の“まいな”はここにいますけど。
何かの間違えではありません?
そう言われましても。
はぁ・・・。
わかりました。」
―ガチャ。
舞奈「なんの電話?」
母 「病院からだって。」
舞奈「何て?」
母 「よくわかんない。」
舞奈「話してよ。」
母 「いやね。御宅のまいなさんが今救急車で運ばれましたので、病院の方に来てください。だって。」
舞奈「え?私はここにいるよ。」
母 「よね?」
舞奈「人違いじゃないの?」
母 「でも、本人がここの電話番号を言ったそうよ。」
舞奈「なんか気味悪いね。」
母 「そうね・・・。」
舞奈「行くの?」
母 「いちようね。あなたもついてくる?」
舞奈「なんで?」
母 「娘は元気ですけど。って言うためよ。」
舞奈「いいわよ。」
母 「変な電話よね。」
舞奈「それ本当に病院からの電話?」
母 「そうみたい。なんだけど。」
ご飯をすぐに食べ終ると病院の方に向かった。
夜。静まりかえった病院には、薄暗い灯りがついていた。
母 「すいません。茅原ですが。」
看護師「まいなさんのお母さんでしょうか?」
母 「はい。」
看護師「あ。先生。」
先生が向かってくると、私たちは病室へ案内された。
そこで目にしたのは、まぎれもなく私だった。
もう一人の私は、ところどころにガーゼをしていた。
運ばれて来た理由は、軽自動車との衝突。交通事故だった。
幸い、意識ははっきりとしていたらしく、事故様子を見ていた男性が、救急車を要請したらしい。
が、そんな事はどうでも良かった。
私に似た人、もう一人の私が何故ここにいるのかが知りたかった。
先生「あのすみません。お母さん。」
母 「はい?」
先生「少し来てもらえますか?」
母 「はい。」
そう言って、私はもう一人の私と一緒の病室に残された。
舞奈「気味悪い。」
「なに?」
舞奈「え?」
私は目を疑った。
もう一人の私が起き始めたのだから。
舞奈「あなただれ?」
苺菜「私は“まいな”。あなたは?」
舞奈「私も“まいな”なんだけど?」
苺菜「そう。」
舞奈「あんたなに?」
苺菜「何に見える?」
舞奈「ドッペルゲンガー。」
苺菜「私から見ればあなたがドッペルゲンガーなんだけど?」
舞奈「なんで私の家の電話番号知ってるのよ。」
苺菜「私の知ってる電話番号だから。」
舞奈「冗談は辞めなさいよ。」
苺菜「冗談じゃないわよ。」
舞奈「そんな事して楽しいの?」
苺菜「自分を見るのがそんなに怖いんだ。」
舞奈「あなたは怖くないの?同じ人がいて。」
苺菜「知ってたから。」
舞奈「そうよね。」
苺菜「聞かされてない。可愛そうね。」
舞奈「交通事故に遭うあなたに言われたくないわ。」
苺菜「強気な子ね。」
舞奈「悪い?」
苺菜「可愛くない。」
舞奈「あなたもね。」
私ともう一人の私が睨み合っていると、
母は戻ってきた。
先生「―と言うことですので。」
母 「わかりました。」
先生「では失礼します。」
母 「はい。」
母 「何をしてたの?二人で。」
舞奈「ちょっと話してただけ。」
母 「じゃあね。苺菜ちゃん。今日は帰るから。」
苺菜「さよなら。」
舞奈「・・・。」
母 「いいの?言わなくて?」
舞奈「いいよ。」
私によく似た私
私じゃないもう一人の私
世界には3人似た人がいると言うけれども
あれが一人目なら、もう会わなくても良いと思った。
助手席の窓から周りの風景を見るも
夜は暗い感じだけだった。
舞奈「ねぇ?」
母 「なに?」
舞奈「私、双子?」
母 「・・・。」
舞奈「そんなわけ・・・ないよね。」
母 「・・・。」
舞奈「だって、ずっと女1つで私を育ててくれたもんね。」
母 「そうよ。一人っ子よ。」
舞奈「うん。」
母 「・・・いちようね。」
舞奈「ねぇ?私に内緒事してないよね?」
母 「してないわよ。」
舞奈「そっか。」
母 「今日の事は、忘れましょ。」
舞奈「え?」
母 「人違いかもしれないし。」
舞奈「うん。」
母 「先生も驚いてた。ここまでそっくりな人がいるとは。って。」
舞奈「私も、会って特はしなかったかな?」
母 「出会いに特も損もないわよ。ただ今回が、変な思いなだけ。」
舞奈「そっか。そうだよね。」
不幸と言うものは続くもので、
私のバイオリズムは不幸に入った瞬間かもしれない。
もう一人の私に会ってから1週間後、
彼女が退院すると言う留守電が入っていた。
だけど私は母親に伝える前に、その留守電を削除しておいた。
もう会うことはないだろう。
私はそう思っていた。
と言うよりも、そうなって欲しかった。
月日が経ち、
あのコインを見つけて1週間。
彼女に会ってから3日が経とうとしていた。
彼女の事は忘れたつもりだった。
もう会わないと確信がついたからだ。
でもこの日、彼女は転校生としてやって来た。
先生「はぁ~い。席着いて!ホームルームするよ。」
絢 「ねぇ?先生!転校生がもすぐ来るってほんと?」
先生「もうすぐじゃなくて、今日から。」
崇 「まじ?え?女の子?」
先生「そこ!興奮しないの!」
絢 「女の子って聞いたけど?」
先生「そうよ!」
崇 「かわいいかな?」
太一「少なくとも、その元気じゃ無理だな。」
崇 「なにが?」
先生「・・・あ!さ、入って。」
―ガラガラ
入ってきたのは "茅原 苺菜" 本人だった。
私は目を疑った。
でも、1度見たあの目つきは変わってない。
先生「紹介するわ。」
苺菜「 ちはらまいな です。宜しくお願いします。」
崇 「まいな?」
私は一斉に見られた。
無理もない。名前の漢字がちがうだけで、読み方は一緒。
それに、瓜二つの顔だ。
見られて当然だ。
絢 「ねぇ?舞奈って、双子だったの?」
舞奈「そんなわけないじゃん。」
絢 「え?でも顔とかそっくりだよ。」
舞奈「似てるだけだよ。それに双子に同じ名前つける?」
絢 「そうだよね。普通は1文字違いとか対の名前にするよね。」
舞奈「でしょ?」
絢 「そうだよね。」
舞奈「変な心配しない!」
絢 「そうじゃないけど。」
舞奈「なに?」
絢 「もしかして・・・。」
舞奈「だから、なに?」
絢 「クローン?」
舞奈「・・・はい?」
絢 「そうだよね!クローン技術って、まだ人間の成功例とかないんだよね。
もしあったらニュースものだし。あ!ノーベル賞とか、ギネスにも載れたりして!
ギネスはないか・・・。それでもノーベル賞はすごいよね!
クローン技術は人間の成功例って言うのはないけど、できないこともないって言うし。
と言うことは、影で作られたのかな?」
舞奈「絢ちゃん?」
絢 「あ、ごめん。」
舞奈「とにかく、私は一人っ子よ。お母さんが言うんだから。」
絢 「ごめんね。変なこと言って。」
舞奈「いいよ。」
絢 「舞奈は舞奈だよね!」
舞奈「そうだよ。」
絢 「でも、クローンだったら話的には面白いんだけどな。」
舞奈「絢?」
絢 「冗談だよ。ごめん。」
彼女が座る席は廊下側で、
窓側に座る私からだいぶ離れててよかった。
でも、私と間違える他の学級の友達も多く、
私は説得するのに苦労をした。
「双子だったんだぁ!」とか「隠さなくても良いのに。」とかみんな好き勝手に言うし、
証拠のない私は「だから私は一人っ子だって!」これしか言う言葉がなかったからだ。
とにかく、今日の彼女は目立った事をしてくれなかったからよかったけど、
授業中当てられた数はいつもの倍に聞こえた。
名前が同じって不便。その時思った。
彼女に感心を抱かない。
私が今一番努力する事である。
この日彼女とは話さなかった。
彼女が同じクラスに来た日、
私は母親に彼女が来たことを話した。
母は、口では「そうなの。」とか言っていたけど
前から知ってような素振りもしていた。
私がなんとなく仕組まれてるのかなと思うようになったのは、
この時が最初だった。
彼女が学校に来た次の日。
何故か早起きした私は、久々に一番に登校できると、
いつもよりかなり早めに家を出た。
けど、1番に来たのは私じゃなくて、もう一人の私だった。
舞奈「おはよう!」
苺菜「おはよう。」
舞奈「なんだ。あんたか。」
苺菜「私がまだ信じられないんだ。」
舞奈「そうよ!なんでこの学校に来るのよ!」
苺菜「ここの学校が普通科で1番近いからよ。」
舞奈「そう。私もここが近くて残念よ。」
苺菜「どうしてそこまで私を敵視するの?」
舞奈「あたりまえじゃない。私は1人っ子なの。」
苺菜「本当にあなた聞かされてないんだ。」
舞奈「何をよ。」
苺菜「あなた。父親いないでしょ?」
舞奈「知らないわよ。私はお母さんから、死んだって聞かされたわ。」
苺菜「そうなんだ。」
舞奈「第一、父親の顏見たところで、私の知らない赤の他人よ。」
苺菜「御墓には行ったの?お父さんの。」
舞奈「行くわけないじゃない。知らない人なんだから。」
苺菜「あら?あなたの母親はお父さんの事嫌いなのかしら?」
舞奈「お母さんの話はどうでも良いでしょ?」
苺菜「知らないんじゃなくて、知りたくないんだ。本当の事。」
舞奈「なによ?」
苺菜「今話しても面白くないわね。」
舞奈「何が?」
苺菜「なんでもないわよ。」
舞奈「むかつく。」
苺菜「・・・。」
舞奈「とにかく。ここ、出て行ってもらえないかな?」
苺菜「残念だけど、呼び出したのはあなただと思ってた。」
舞奈「私があんたなんか呼び出すわけないじゃない。」
苺菜「もういい。今度話すわ。」
舞奈「今はダメなの?」
苺菜「・・・いいわよ。」
舞奈「話して。」
苺菜「これ持ってない?もしくは見覚えがある?」
私は目を疑った。
彼女のポケットから出てきたのは、ふたご座のコイン。
私ものと同じ12星座コインの1つだった。
苺菜「持ってるでしょ?」
舞奈「持ってると言ったら?」
苺菜「あなたが願ったのね。」
舞奈「持ってないと言ったら?」
苺菜「うそね。」
舞奈「・・・。」
苺菜「ふたご座のコイン。聞いたことあるでしょ?呪いの12星座コイン。」
舞奈「最近ね。」
苺菜「これの呪いは知ってる?」
舞奈「知らないわよ。」
苺菜「まず12コインを持った人間は、仕組まれた未来を歩む。」
舞奈「それで?」
苺菜「ふたご座のコインの呪いは」
舞奈「・・・。」
苺菜「もう1人の自分。」
舞奈「もういいわ。」
苺菜「話してほしいって言ったのはあなたなのに、私あなたなんかに呼ばれてショックだわ。」
舞奈「だから、私はあんたなんか呼んでない。」
苺菜「忘れたいなら、この話は忘れる事ね。」
舞奈「あんたに会った時点、忘れる事ができないわよ。」
苺菜「嫌な女。」
舞奈「何度でも言えば?」
結局、彼女が何故ここに突然現れたのか?
どこに泊まっているのか?
全くわからなかった。
舞奈「ただいま。」
母 「あら、早かったのね。」
舞奈「いつも通りだけど?」
母 「そう?」
舞奈「そうだよ。」
母 「ねぇ?舞奈に言わなきゃいけない事あるんだけど。」
舞奈「なに?今それどころじゃないかも?お風呂先入って良い?」
母 「あ。いいわよ。」
舞奈「ごめんね。」
話は、なんとなく苺菜のことかな?って思った。
だから、聞きたくないって言うよりも聞くのが怖かった。
お風呂からあがれば、夕食の準備が整っていた。
舞奈「いただきます!」
母 「いただきます。」
舞奈「それで?話って何?」
母 「この前の苺菜さん、実はね。」
舞奈「何?」
母 「知り合いなんだ。」
舞奈「そうなんだ!だから似てるんだね!」
母 「そうじゃないの。」
舞奈「何?」
母 「今は、叔母さんの家に泊めて頂いてるんだけど。」
舞奈「え?そうなの?だから、私の学校に来たんだ。」
母 「そうなの。」
舞奈「話ってそれ?」
母 「苺菜さんから話聞いてないの?」
舞奈「何にも、話さないもん。」
母 「苺菜さんは、ただの親戚じゃなくて。」
舞奈「なんでそんなにもったいぶるの?」
母 「双子なの。」
舞奈「やっぱりそうなんだ。皆から言われてさ・・・」
母 「お父さんに会いたくない?」
舞奈「え?」
母 「生きてるわよ。舞奈のお父さん。」
舞奈「そうなんだ。」
母 「じゃぁ。」
舞奈「いいよ。いまさら。」
母 「なんで?」
舞奈「顔も見た事ないんだし。他人だよ。」
母 「そう。そうよね。今更会った所で、喜ぶ事なんてないよね。」
舞奈「うん。」
母 「・・・。」
舞奈「ねぇ?何で今更そんな事話すの?」
母 「・・・。」
舞奈「お父さん。死んだんじゃなかったの?」
母 「・・・。」
舞奈「なんで?嘘ついてたの?」
母 「・・・。」
舞奈「ねぇ?」
その時母は、涙ぐんでた。
そのまま顔伏せ、私の方を見る事はない。
母 「・・・ごめんね。」
舞奈「いいよ。」
母 「・・・ごめんね。」
舞奈「いいってば。」
母 「・・・ごめんね。」
舞奈「泣けるなら私も泣きたいよ。」
母 「・・・ごめんね。」
舞奈「・・・。」
泣き崩れる母を見て、私は何もしてあげられなかった。
自分の部屋に戻り、ベットでうつ伏せになる。
お父さん。
見るのが怖いわけじゃない。
実際に会った事ないから、会って見たい方が強い。
でも、会って何になるんだろうと思う。
舞奈「明日は土曜日だ。ゆっくり寝よう。」
次の日。
寝れるわけがなかった。
部活も、先生に電話して休みをもらう事にした。
母は依然として、部屋に閉じこもっている。
舞奈「お母さん?」
ドアの外から声をかける私。
迷惑はわかっていた。
舞奈「朝ご飯。ちゃんと食べてよ。」
舞奈「いつか、ちゃんと話してよ。」
お父さん。どんな人かな?
・・・。
私は、そっと引き出しの中に入っているコインを取り出した。
私は、最初見た時に何か願い事をしたのか、気になっていた。
あの時は、呪いのコインがあるって事で、かなり私の中じゃ他の事を考えていたはず。
もう一人の自分に会いたい。お父さんに会いたい。なんて考えていないはず。
だって、お父さんを見ていたはず。
日曜日は絢のところに遊びに行っていた。
私は、今までの事をだいたい話してはみた。
絢 「・・・そっか。」
舞奈「・・・。」
絢 「お母さんの気持ちもわからなくないな。」
舞奈「うん。」
絢 「たぶん、1度はちゃんと見せておいてあげたいとか。」
舞奈「ちょっと言い過ぎたのかな?」
絢 「それはないよ。舞奈の気持ちの方がわかるもん。」
舞奈「そう?」
絢 「だって、いきなりでしょ?私も悩むって。悩んだあげくにそういう事言いそう。」
舞奈「そうだよね。」
絢 「いきなり理解しろって言うのがまず間違ってるよ。」
舞奈「そこまでは言われてないけど」
絢 「それで?父親には会うの?」
舞奈「まだ決めてない。」
絢 「そっか。」
舞奈「別に会ってどうこうって問題じゃないし。」
絢 「うちは、両親いるから、細かい所まで言えないけど。」
舞奈「ん?」
絢 「会った方がいいと思う。」
舞奈「なんで?」
絢 「だって。なんか悲しいじゃん!父親の顔。親の顔知らないなんてさ!」
舞奈「そっか。」
絢 「両親の顔描ける?」
舞奈「描いたことないな。描けないと思う。」
絢 「うちはものすごく悲しい事だと思うけど。」
舞奈「そっか。」
絢 「なんとなく。お父さんも会いたがってると思うし。」
舞奈「だからって、なんで今更。」
絢 「それはわかんないけど。」
舞奈「・・・。」
絢 「まずはさ。お母さんの話し聞いてみるのも1つだよ。」
舞奈「うん。」
絢 「もう1回、帰って話し掛けてみなよ。お母さんに。」
舞奈「話してくれるかな?」
絢 「きっと。いや、絶対。」
舞奈「そか。ありがと。」
家に帰ると、ついていないテレビの前のソファ―に座り、
下ばかり向いているお母さんがいた。
まだ泣いてる様にも思えたけど、後姿だけではわからなかった。
舞奈「ただいま。」
母 「・・・おかえり。」
舞奈「ねぇ?話してくれる?」
母 「・・・いいわよ。」
舞奈「じゃあ。あとでね。」
母 「ご飯できたら呼ぶわね。」
舞奈「うん。」
いつも聞こえる台所の音。
手際の良い母も、どことなく今日は遅い気がした。
誰からも来ない電話。
お願いだから、誰でも良いから、この静寂に着信音が欲しかった。
母 「舞奈。ご飯できたよ。」
舞奈「はぁ~い!」
いつもの母の声だった。
私は駆け足で下に降りる。
いつものご飯。
私はそれだけで嬉しかった。
けど、やっぱり幸せな時間というものはすぐに去るものだった。
だいたい食べ終わると、母は箸を置いた。
母 「黙っててごめんね。」
舞奈「もう良いよ。」
母 「本当にごめんね。」
舞奈「誤るのはよそう。もうわかったからさ。」
母 「何もわかってない。」
舞奈「・・・。」
母 「私はね。あなたのお父さんと呼べる人とは結婚していないの。」
舞奈「え?」
母 「いえ。一時的には結婚してた。」
舞奈「どう言う事?」
母 「ええ。もちろんまいなは、お母さんとお父さんの子供。二人ともね。双子だから。」
舞奈「それで?」
母 「双子がお腹にいる時ね、お父さんすごく喜んでくれたの。子供ができたから、
婚姻届も出して2人で育てようって。でもね、気付いてたんだ。他に女の人がいるなって。
あきれるよね。届出してまだ1ヶ月もないのに、離婚届だされちゃった。
まいなの誕生日の日にね。」
舞奈「え?出産した日?」
母 「そうよ。私、あのまま双子任せて、自殺しようかと思っちゃった。
だけど、悔しいけど、自分ではそんな事できなかった。」
舞奈「そっか。」
母 「それで、名前まだつけてない時にもう1人の子供渡して、『私はこの子を育てますから、
あなたはその子をお願いします。』って言っちゃった。
だって、1人で2人を育てるのはその時無理だと思ったもん。1人でも難しいだろうなって。」
舞奈「そうなんだ。」
母 「あとね、その時に言っちゃったの。『この子には、父親は死んだと知らせて良いですか?』って。
笑っちゃうよね、彼は首を縦に振ったわ。」
舞奈「ねぇ?なんで、あの子も“まいな”なの?」
母 「それは知らないわよ。似てたのね。私の心と。」
舞奈「そっか。」
母 「・・・。」
舞奈「お母さんはさ。最近会いに行ったの?お父さんの所。」
母 「行ってないわよ。」
舞奈「行かないの?」
母 「舞奈が行くなら行こうと思ってるんだけど。」
舞奈「そっか。」
母 「会っても特はしないのかもよ。」
舞奈「そんなことないよ。1度ちゃんとこの目で見ておきたい。お父さんの事。」
母 「そっか。今どき珍しい。」
舞奈「そうかな?」
母 「だって、お父さんの事嫌いな人多いじゃない。」
舞奈「そうだけど。私は別だよ。理由が理由だし。」
母 「そっか。」
舞奈「それにさ、友達に言われちゃった。親の顔を描けないのは悲しい事だよ。ってさ。」
母 「そうなの。」
舞奈「うん。」
だけどそれは、叶わぬ願いとなってしまった。
次の日。
私は、昨日の事を苺菜に話すことにした。
苺菜「なに?」
舞奈「私さ、お父さんに会うことにしたんだけど。」
苺菜「は?」
舞奈「だから、お父さんに会いに。」
苺菜「お父さんは今私の近くにいないよ。」
舞奈「あ。そっか。親戚の家なんだっけ?」
苺菜「そうだよ。」
舞奈「え?でも、ここに来る前は一緒じゃなかったの?」
苺菜「一緒・・・だった。」
舞奈「なら・・・」
苺菜「だから無理なんだって!」
舞奈「なんで?」
苺菜「・・・忙しいんだよ。」
舞奈「それだけ?」
苺菜「他にもあるんだよ。」
舞奈「そうなんだ。」
苺菜「ごめん。だけど、その願いはたぶん叶えられない。」
舞奈「え?」
苺菜「お父さんは亡くなったってことにしとけばよかったんだよ!」
舞奈「そんなこと言うことないじゃない!」
苺菜「とにかく、お父さんには会えない。」
舞奈「なんでよ。」
苺菜「会えるなら、私も会いたい。」
舞奈「え?」
苺菜「・・・もう。お父さんの話はしないで。」
舞奈「なんで?」
苺菜「いいから。」
舞奈「ねぇ?なにがあったの?」
苺菜「だからほっといてよ!」
舞奈「・・・。」
苺菜「ここにいても何も教えられないよ。」
舞奈「そうじゃないけど。」
苺菜「とにかく、土日挟めば急にお父さんに会いたくなるわけ?
そんなのおかしいとか思わないの?死んだんじゃなかったの?」
舞奈「そこまで言う事ないじゃない。」
苺菜「昨日のニュース見てないの?」
舞奈「ニュース?」
苺菜「見てないのに、よくそこまでお父さんに会いたいなんて言えるわね。」
舞奈「え?なにかあったの?」
苺菜「普通何かあったのじゃないでしょ?何かあるからニュースになるんだし。」
舞奈「そうだけど。」
苺菜「自分でちゃんとニュース見るんだね。」
舞奈「え?」
苺菜「とにかく、もうお父さんの話はしないで。」
舞奈「・・・わかった。」
苺菜「・・・。」
学校が終り今日は部活が休みだったので、
私は急いで家に帰る。
だけど、荒れ果てたように家は散らかっていた。
舞奈「なに?」
こんな時間にお母さんは帰って来るはずなかった。
私と一緒の時間に今日は家を出たし、
昼間に家に帰ってくるような素振りはしていなかった。
それに、きれい好きの母がここまで散らかすは思わなかった。
舞奈「なんで?」
すると、私の携帯の着信がなる。
舞奈「あ、お母さん。」
母 「舞奈?」
舞奈「うん。」
母 「帰ってたの?」
舞奈「うん。」
母 「今すぐ、親戚の家に来て。」
舞奈「なんで?」
母 「良いから。」
舞奈「う、うん。」
母 「気をつけて出るのよ。」
舞奈「なんで?」
母 「・・・。」
返事が来る前に電話は途絶えた。
舞奈「なんだろう?」
私は不思議に思いながらも、親戚の家に急いだ。
そこには、お母さん、そして苺菜もいた。
舞奈「なに?」
母 「このニュースは舞奈はまだ見てないんだよね?」
苺菜「今日言ったニュースよ。」
舞奈「え?」
TVには、大きく“C社倒産”と言う文字があった。
舞奈「え?」
母 「借金できちゃった。」
舞奈「え?」
苺菜「これ、お父さんがやってた会社なの。」
舞奈「え?」
私は反応する言葉が出てこなかった。
母 「とにかく、この街から去らなくちゃ行けないの。」
舞奈「え?でも、お父さんとは離婚したんじゃないの?」
母 「したけど、保証人とかあるでしょ?」
舞奈「え?」
母 「ごめんね。」
苺菜「だから、私も逃げて来たの。」
舞奈「じゃあ?ずっと前から、このことお母さん知ってたの?」
母 「ええ。だけど、一昨日までは逃げなくてもよかったの。
昨日ね、このニュースが飛び交ったのよ。だから、たぶんもうすぐ来ると思うから。」
舞奈「そんな・・・。」
苺菜「私もいやだった。けど、しかたないのかもしれない。」
舞奈「いや・・・。そんなの嫌。」
母 「だからね。お願い。」
舞奈「いや・・・。」
母 「1回だけ、家に戻りましょ?」
舞奈「・・・うん。」
母 「それで、最小限の荷物とって、あの家を後にしましょ。」
舞奈「・・・。」
苺菜「辛いかもしれないけど。それが現実なの。」
舞奈「何であんたは平気な顔してられるのよ。」
苺菜「平気な顔はしてないわよ。でも、私は早く知らせたわ。逃げた方が良いって。」
舞奈「あんたはそのためにここに来たの?」
母 「舞奈!」
苺菜「いいんです。もう1人の私ですから。」
母 「ごめんね。行きましょ。家に。」
舞奈「・・・うん。」
そして、私は家に戻る。
自分の部屋に入るなり、家のインターホンが鳴る。
舞奈「え?」
私は、あのコインを取り出した。
鏡の引き出しに仕舞ったふたご座のコイン。
舞奈「なんでこんな事になるのよ・・・。全部この呪いのコインのせいだわ。」
握り締める私。
・・・気付けば、鏡の前に私はいた。
手には、ふたご座の絵が描いてあるコインを握り締めていた。
父 「何寝てる?」
苺菜「え?寝てた?」
父 「ああ。」
苺菜「ごめん。」
父 「先出るぞ。」
苺菜「え?待ってよ。」
父 「いいか。ここの電話には一切するな。」
苺菜「うん。」
父 「もし、電話する事があればここに電話しろ。」
苺菜「誰が出るの?」
父 「母親だ。それから、姉妹だ。」
苺菜「え?お母さん亡くなったんじゃないの?」
父 「急ぐぞ。」
苺菜「ねぇ?どこに行くの?」
父 「誰もいない場所。」
苺菜「そっか。」
父 「・・・。」
苺菜「お母さんたちは逃げなくても良いんだよね?」
父 「逃げなきゃならないだろうな。」
苺菜「知らせなくて良いの?」
父 「好きにしろ。」
苺菜「あ。待ってよ!」
我先に行く父親に、私は道の途中で逸れた。
そしてその夜。
私は軽自動車と衝突し、交通事故にあった。
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