●イグアナのEちゃん
大学2年の頃、姉が引越しをした。
ナニか引っ越し祝いをくれ、というので、ナニがいいかと聞くと、
本当はペットを飼いたいけど、公団だから犬猫は無理。
鳥は飼う気にならないし、熱帯魚は興味無い。
そうだ、爬虫類がいい。と言う。
半分冗談だったのかもしれないが、それを間に受けた私は、
ペットショップでグリーンイグアナを購入した。
手のひらサイズのトカゲ。¥2500なりであった。
姉のところに遊びに行く際にそれを持って行くと、
心底驚いた!という顔をしたが、姉も動物好き、Eちゃんの為に家庭用温室を室内に組みたて、
少ない給料を工面して、紫外線照射ヒーターやらイグアナフードなどを買い揃えた。
姉のもとでEちゃんは非常に幸せに生活していたと思う。
日中はほとんど放し飼いで、部屋中を好き放題に歩き回り、お気に入りはカーテンレールの上だった。
イグアナと言うのは上手に飼うと非常に賢くて、
排泄をする場所を決めてしまう生き物なので、
脱皮の皮以外で部屋を汚す、ということはほとんど無かった。
Eちゃんは1年で約2mくらいになり(アタマの先からしっぽまで)、
姉の家の主となっていた。
姉は当時西宮の公団住宅に住んでいて、Eちゃんはあの阪神大震災を姉と共に被災した。
住んでいた公団住宅が、停電、断水の憂き目に会った時、
姉がもっとも心配したのは、Eちゃんの環境だった。
幸いにも姉は、大阪にある婚約者の家に身を寄せることができたのだが
それまでの数日、変温動物であるEちゃんの体温を保つ為に、
夜は胸の上にEちゃんを抱いて寝ていたらしい。
結婚後も姉は旦那&Eちゃんとの生活を続けていたが、
妊娠にともなって世話が大変になってきたため、
当時、就職して実家に帰っていた私のもとにEちゃんはやってきた。
その頃には体長は2.5mほどにもなっていた。
これだけの体長のイグアナであれば、動物園で飼ってでもないかぎり、
しっぽが折れたり、曲がったりしているものらしいのだが、
Eちゃんは大事に大事にされていたため体に傷一つ無い美しいイグアナでした。
我が家にやってきて1年した頃の冬。Eちゃんは突然体長を崩し、
排泄ができなくなってしまった。診療してもらえる動物病院も無く、
ネットでいろいろな情報をかき集めてみたが、有効な治療法も見つからなかった。
イグアナという生き物は、大変に神経質でちょっとした不調から
便秘になり死に至る。
ある寒い日の朝、Eちゃんは死んでしまった。
あまり私にはなついていなかったのに、
なぜか、私のふとんにもぐって死んでいた。
たぶん、死の間際で体温が異常に下がり、
それをしのぐ為に温室からより暖かい布団の中へと入ってきたのだろう。
まるで、別れの挨拶をしに私の元へ来たようで、
涙が止まらず、(かといって仕事を休む訳にもいかなかったので)
1日中泣きどおしで仕事をした記憶がある。
私が死なせた。私が病気にしてしまった。姉になんて申し開きをしよう。
そう考えて、泣いて泣いて泣き続けていた。
本当に悲しかった。私は最低だと思った。
姉と一緒に生活していたら、死ぬ事はなかっただろうに・・・・。
Eちゃんが教えてくれたこと。
自然な環境で育てられない生き物は飼育してはいけない。
病気になった時に頼れるところのない生き物は飼育してはいけない。
生き物を物として扱ってはいけない(プレゼントにするなんてもっての他)。
私は多くの生き物と暮らし、死に直面してきた。
でも、Eちゃんの死は一番今までの中で重かった。
最初の最初からとりかえしのつかないアヤマチを犯している私。
本当に拭う事のできない罪。
今でも姉とEちゃんの事を懐かしく話すなんてことはできない。
話せばつらく重い気持ちにならざる得ない。
後悔と懺悔。
たぶん私は自分が死ぬまでこの気持ちをひきずって生きていくんだな、
と、そう思う。