自作小説参 桃源記

紅




高速バスで、五時間ほど行き、父に書いてもらった地図を頼りに更に一時間半ほどの細い道を歩くと山の中に明窓の自宅があった。



自宅というより見かけは御寺だった。結構立派な御寺で庭の手入れが行き届いていた。


『奇麗』

と思いながら本堂へと向かった。すると、そこに明窓叔父さんが待っていた。


「よく来ましたね。待っていましたよ。」

と言って迎えてくれた。


「お久しぶりです。」

と言って宇美が頭を下げた。すると、

「おや、後の御嬢さんは瀬織津比痲ですね。」

と笑顔で答えた。


「ええ、色々あって私の式は瀬織津比痲だったんです。」

「そうですか、まぁ詳しい事は後にして、上がって下さい。これから当分、ここが宇美さんの家になるんですから。」



最初に、部屋の場所を教えられた。そして、


「ここが宇美さんの部屋ですよ。」

と言って通された。その部屋は、八畳くらいの一人にしては広い部屋でその部屋から見える景色はとても綺麗だった。


『ここなら、四季が楽しめそう。』



思い耽っていると明窓叔父さんの

「お帰りなさい。遅かったですね。」

という声が聞こえた。


『誰か来たのかな?』




と思い、宇美が部屋から出ると廊下でばったりと男に出会った。







その男は、背が高く、漆黒の瞳を持ち、肌は雪のように白く、顔は秀麗で、髪を長く伸ばして、後で結っている。

そして直衣を着ていた。また、その姿がとても良く似合っている。





「あなたが宇美さんですね。初めまして。私は寿真といいます。分からない事があったら声を御掛け下さい。」

「は、はい。」

宇美は咄嗟の事にぽかんとしていて「はい。」としか言えなかった。




『あの人が寿真?どう見ても私より五歳は年上に見えるんだけど。確か、同い年のはず。それにしても、結構綺麗な人だったな。叔父さんにあんまり似てなかったし。いや、喋り方は似てたけど。』








その日の夜になって夕食の手伝いをしに行こうと台所に行くと、寿真が一人で夕食を作っていた。




「あ、宇美さん、すいませんね。もう少し待っていて下さい。もうすぐ出来ますから。」


「いいえ、私も御手伝いします。あのー、いつも寿真さんが、料理していらっしゃるんですか?」



「手伝わなくても大丈夫ですよ。・・・・父に作らせると、味噌を入れ忘れたり、砂糖と塩を間違えたりするものですから。そこに座っていて下さって結構ですよ。式を使えばすぐすみます。冷艶(れいえん)。」




と言うと、台所にふっ、と女が立った。


『上級式』


と思ったら、その女がその声に答え、寿真が命を下すと皿等を運び始めた。寿真の言ったとおり、手伝う必要は無かった。

すぐ夕食は出来上がり、三人で夕食を食べた後、明日は転校初日ということでこの日はすぐ寝た。








次の朝、朝食を食べに行くと、


「寿真君は用があるそうなので先に学校に行きましたよ。」

「私も行かなきゃ!」

転校初日に遅刻だといけないので宇美は急いで朝食を食べ、瀬織津比痲を家で留守番させ、走って学校まで行った。


校長室に行って教室を教えてもらい、自分の教室へと向かった。残念な事に、寿真とは別のクラスだった。


だが、新しく転校してきた宇美が寿真のいとこという事は瞬く間に知れ渡り、宇美は学年という学年の女子から質問責めにされた。

又、宇美も美人であったため、何かと恨まれることが多かった。やはり、この学校もすぐ宇美をよく思わない輩が出てきた。




それは寿真も同じだった。それから帰りは宇美が危険だろうということで一緒に登下校することにした。




だが、その日の帰り、学生服を着た不良グループが二人の前に立ちはだかった。


「いいご身分だなぁ、おい。この前の仮、返してもらうぜ。」

『何なの!?』

と思っていると、寿真が

「危ないですから、下がっていてください。」

宇美を後に下がらせた。宇美が後に下がった。寿真は口の中で何か唱えている。数人の男達が寿真に殴りかかった。

寿真は顔色一つ変えず涼しい顔をして立っている。立っているだけなのに何故か、男達が放ったパンチは当たらない。


否、普通の人にはそうとしか映らないが宇美には見えていた。



寿真は幻術を使って男達を惑わしていたのだ。

そして幻の寿真が男達を軽く指で押しただけで吹っ飛んだ。



男達は気絶していた。幻術の上級者になると幻だけでなく、実際に危害を加えられる。

「暇潰しにもなりませんね。あなたたちには幻で十分です。」


と言って

「さ、宇美さん早く帰りましょう。」


「さっきの人達は?」

「あの方達は私が初めて会った時から気に入らないらしくて、時々ああやって来るんですよ。私に勝てる訳が無いんですがね。にしても、宇美さんに迷惑をかけてしまってすいません。」




「いいえ、気にしないで下さい。」








家に帰ってから、寿真や瀬織津比痲に荷物を出すのを手伝ってもらって無事、部屋は綺麗になった。


そして、最初寿真に言えなかった一言を言った。



「手伝ってもらってありがとうございました。これからよろしくお願いします。」












次の日の朝、三時頃に瀬織津比痲に起こされた。

「うーん、こんな時間にどうしたの?」

「寿真様がお呼びです。」



『どうしたんだろう?』





「今行くから少し待ってて。」

と言って瀬織津比痲の後について行った。すると、玄関の所に寿真と叔父さんが待っていた。






「どうなさったんですか?」

と聞くと、

「今から禊(みそぎ)に行きますよ。」

と叔父さんが言った。宇美は急いで部屋に戻り、禊装束をとってきた。

そして瀬織津比痲を連れて四人で山の奥の滝まで庭を横切ってどうにか人一人が通れそうな細い道を通って行った。

叔父さんが、

「禊は初めてですか?」

と聞いてきた。


「はい。私はあまり神事をしたことが無いので。」




そのような会話をしていると、大きな滝が現れた。三人とも滝に当たりながら、叔父さんが、

「禊祓詞(みそぎはらえのことば)は暗唱していますか?」


「はい、大丈夫です。それだけは最低限憶えておけ、と父からよく言われたので。」


「では、いいですね。」

と禊祓詞を三人で唱え始めた。



「高天原(たかまのはら)に神留(かむづま)り坐(ま)す。神漏妓神漏之命を似(も)ちて・・・・」






唱えていると、瀬織津比痲がびくんと体を動かした。宇美は気にせず、続けた。


『そういえば・・・瀬織津比痲を封印したのは、神漏妓神漏之命だったっけ・・・』






禊を三時間ほどして、朝の七時に家に帰ってきた。

「大丈夫ですか?」

寿真に声を掛けられた。初めて来た時、寿真がいなかったのは、禊をしていたからだったらしい。叔父さんと寿真は毎日禊を日課としていた。

又、ずっと叔父さんと二人暮しだった為、寿真がいつも食事の支度をしていた。宇美より寿真の方が家事全般において得意だ。宇美は家事が苦手だった。






とにかく、学校に行く準備をして寿真と共に学校へ行った。教室に入ると、すぐに数人の女の子達が集まってきた。


「ねえねえ、扶桑さんって明窓君のいとこなんだよねぇ?」

「うん。」


「明窓君って一組だから成績も良いし、カッコいいし、優しいし、運動神経いいし。」

「うーん、そうなの?」

「あ、あと扶桑さんのこと宇美ちゃんって呼んでいい?」

「いいよ。」

「じゃあ、授業始まるからまた後でね。宇美ちゃん。」

「また後で。」

『次は確か一組と二組の合同体育だっけ?』




体育の授業では跳び箱だった。宇美は楽々十段を跳び越えた。

「すごーい宇美ちゃん。」

と、その時





「キャー、寿真君かっこいー。」

という女の子達の騒ぐ声が聞こえてきた。

反射的に振り返って見ると、寿真が軽々と十三段を跳び越えていた。



「すごいなぁ。」

「本当にすごいよね。」

「うん。」

宇美はやっと寿真が女の子から好かれる理由が分かった

家に帰り、学校の宿題や、寿真に借りた相学、算命学の本を見ながら勉強していると、叔父さんが部屋の戸を開けた。







「宇美さん、貴女に宵月からの依頼がきましたよ。」

「宵月ってあの異能者総会ですか?」

「そうです。」

「何で私に?」




宵月とは、陰暦の毎年十日まで活動する異能者だけの集まりのことである。

「異能者の間で派閥争いがあって異能者が不足し、徐々に増えてくる妖物に対抗しきれないんです。大丈夫、寿真さんや他の異能者の方々と協力すれば、成功しますよ。ただ、心惑わす物もいるので充分気をつけて下さい。間違えれば、命を落としかねません。」




「分かりました。それで、その依頼というのは?」




「それが、瀬織津比痲に関係のあることで、瀬織津比痲を蘇らせたことによって、神漏妓神漏之命に封印されていた物の怪までもが、瀬織津比痲の力によって甦ってきているのです。宇美さんはその主になった訳ですが、宇美さんはまだ実力の五十%も出しきれてはいません。もし百%実力を発揮できるようになったら瀬織津比痲の力も制御出来るでしょう。制御出来るようになるまで、妖物退治を続けてもらいます。主として。」








第四章に続く

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