れいんぼータウン

れいんぼータウン

有川様キリリク ?の説明を読んでから!


さらさらと霧のような雨が降る。


どうせならこの身を打ちつけるような、激しいものであればいいのに。


傘もさせずに、さらさらと流れるような、雨。
すこしずつ、すこしずつ降り注いでは、大きな水滴をつくって肌を滑り落ちてゆく。
その様を感じながら、幾つ目の水滴が流れた後だろう。

ふいに、頭上から注がれるものが遮られた。







視線を上げれば、この空よりも濃い、グレーの天井。
そして、不機嫌な面持ちの、彼。



「…。なんや、どうかしたん?」



















なぁ、跡部。


このとき、おまえの睛には、俺はどんなふうに見えとった…?















「ったく、風邪でもひくつもりだったのか?だとしたら、季節を考えるんだな。」

「やからごめん、て。さっきから言うてるやん…」

「俺に謝っても意味ねぇだろが。」


だとしても、他に何をどう言っていいのかわからない…忍足は黙り込んでしまった。
ここ…跡部の部屋へ来るまでも、彼はどこか不機嫌な感じで、あまり気に障るようなことを言いたくはないのだ。その原因に少しは自分が関わっているのだということを棚に上げて。
(けれど跡部は、理由を無理に問うたりしない。)


そんな忍足の様子に跡部は溜息をつく。
ベランダの窓から見えるのは、先程と変わらぬ霧雨。
学校からの帰り道を少し外れた(忍足が先程まで居た)場所。そこは人気のすくない、小さな土手道。
忍足が最近そこを見つけて、気に入ってるらしい事を知っているのは…おそらく今は跡部だけだろう。
そして時々思い出したように忍足がそこへ通う理由も、わからないのは彼だけ。

最近、忍足の様子がおかしい。けれど最近といえど、そう見えるのはずっとではない。だから何も言えない。

けれどそんな沈んだ表情がわかるのも、跡部だけのようで、他の誰も気にしてなどいない。
きっと感づかれないよう接しているのだろう。本人は気づいていないだろうが、跡部にはわかっている。
こういうとき、忍足は無駄に明るく振舞おうとする癖があり、けれどふとした瞬間に、例えようのない、哀に満ちた表情をするのだ。
思い違いだとは到底思えない忍足のその様子に、跡部の眉間に深く皺が寄った。

さっき彼があの土手に寄ったのも、天候が宜しくない為中断された部活動の後、足早に部室を出て行く忍足にすれ違ったのがキッカケであった。
いつものろのろと更衣にやってくる宍戸や岳人の支度を待ちながら、部室に残っているのが常のため、
直感というより、何か違和感を感じたという方が適当だろう。
それが、あながち外れてはいないのが事実であるから、気にせずにいられないのだ。


いつから俺は、こいつの一挙一動に敏感になったのだろう。


また、小さく溜息を吐いて、跡部は視線を室内に戻す。
傘も持たずにあの場であろうことか仰向けになっていた忍足を無理矢理(といっても忍足は抵抗などしなかったが)自宅に招きいれ、服を着替えさせた後、
水滴を拭う為のタオルと、今お湯を張っているバスタブの準備が出来るまでの気休め程度に、あたたかい紅茶を淹れて渡してやった。

けれど彼は猫舌なのを知っている。
髪を拭いたタオルをそのままに、カップを持ったまま、ふー、ふーと紅茶を冷まそうとしている。
彼曰く、「湯気がなくなったら適温」だそうだ。
それでは美味しいものも、不味くなる。けれど本人がそれでいいのなら、ヤケドさせるより良いのだろうけれど。
忍足がそれを飲み終わる頃には、バスタブにはお湯がたっぷり張るだろう。
跡部は頭の隅でそう考えて、忍足が陣取っていたソファに腰掛けた。






しとしと、しとしと、

やんわり優しく何かに包まれているような空気が流れる。








「雨、やまへんね。」


「…そうだな。」


「…8時なってもやまへんかったら、跡部の傘、借りてええ?」


「明日は休みだろ。泊まっていけばいい。」


「……、…ありがとう。」


「……」


「跡部は紅茶、飲まへんの?」


「……」




「跡部?」
















忍足が、どうしてあの、何も無い土手道に行くのか。























何も無い。


本当にあそこは、現実から切り離されたように、何も無い。

そういうと語弊がある。

土手の外側には小さな工場や、民家が並んでいる。

ただ内側に入り、今日のように寝転がっては、無造作に、身勝手に、伸び放題の雑草の床に壁。天井は、気まぐれな空。


忍足がそこへ行く時はいつも、空が灰色の時ばかりだ。


異様な虚無感。



何も見えない 、というほうが適切?

















「忍足」


「…ん?」



























「…好きだ。」






















ひっそりと、他の誰の耳にも届かぬように、聞いてもいいだろうか。




















忍足。























おまえは今を…



幸せだと、感じるか?





















「…ッ、跡部?」



な、なんやの…ティーカップを持ったまま、見るからに焦った忍足の表情。
冷静だった(忍足から見ての感覚ではあるが。)跡部のほうも、はたと我に返ったようで、まんざらでもなく。



ガラじゃねぇ…

なぜ、急にそんなことを言ったのか。…いや、そのことにはなんら問題はない。
なぜ、今考えていたようなことを、聞こうとしたのか。

自身を情けなく思う。
幸せ、なんて確かめるモノではない。
ふわふわ、ゆらゆら…空気に色がついたようなものなのだ。
それを感じる瞬間は、短くも長くもあるけれど、いつか過ぎてゆく。気象現象のようでもある。
感情のほとんどがそれであろう。








だとしたら今、おまえは、何をどう感じている…?


















カチャン、




隣で忍足がティーカップをテーブルに置く。(手が、若干震えているようだった。)その音がやけに室内に響いた。
同時に、跡部の思考回路も一旦絶たれる。


「ご、ごちそうさま。」


ティータイムの終わり。

それに跡部は無意識のうちに、安堵していたりして。
そんな自分に驚き、半ば呆れてしまい、小さく息を吐くと忍足のほうを見やった。

飲み終わったなら、風呂に行って来い。




そう言おうとしたのだけれど、言おうと、したのだけれど………











ドサッ


「…跡部!、?」

「5分だけ我慢しろ」


ソファに寝転がって、忍足に頭を預ける。
いわゆる、膝枕、である。
振動で、忍足の乾ききっていない髪から水滴がひとつ、俺の唇に落ちてきた。
突然の行為に一瞬驚いた様子の忍足も、今日のおまえわけわからんで…、そう言って、俺の唇を指の腹で拭う。そして、控えめに微笑んだ。













きれいだ…、  と思った。





























チッ チッ … カタ。



チッ チッ チッ…





彼にとっての5分とは一体いつまでを指すのだろう?


長針と秒針の戯れは、あれから20分は経っている。
本人はというと、耳を傾けてやっと聞こえるくらいの、可愛い寝息をたてていたりする。

「跡部…」


見ていて飽きることのない、整った綺麗な顔。
健康的な肌に、指先で掬うとサラサラと流れる、薄褐色の髪。そして、今は閉ざされていて見ることのできない、蒼の瞳。
すべて、いとおしい存在。



出会った頃は、少なくとも自分は、

こんな関係になるなんて思っていなかった。





もう、真夜中に眠れずに、当ての無い誰かに救いを求めることもない。







けれど、不安は拭い去れないのだ。

繋がってしまったら、手に入れてしまえば、いつか。


いつか離れなければならない現実がやってくるのではないだろうか。

それが、出会う前よりどんなに辛く堪えられない事なのかは、容易に想像がついた。
























「なぁ、跡部」








どうか、何も応えないで。聞いていて。



































「俺は今………幸せ、…なんかな?」















わからない。

口に出してしまった為に、自分の内の感情が渦巻いて、どんどん涙に形を変える。
濡れた体を拭う際、眼鏡を外したままだった忍足は視界が歪むだけならまだしも、遮られることのない頬を伝うそれに焦りを感じ、咄嗟にそれを拭う。
今、膝元では、恋人が眠っているのだ。
溢れてやまない涙を煩わしいと思いながら、忍足は必死に眼を覆った。



ただ好きだというだけで、永遠に側にいられるだなんて思わない。

いつか は、必ず来てしまう…?





ならばそれはいつなのだろう。












「…跡部、好きやで…?」


甘い関係が、生温くゆっくりと冷めてゆくのなど、苦しくて堪えられない。
それならば、いっそひと思いに。



















「好き。」












無理 だ。


すき。(嘘じゃない)  すき。(本当、だろうか)  すき。(どちらでもない、ただ) すき。(すき)



























しあわせといえるものが、なんなのか、わからないけれど、でも、















おまえがいないと………、もう、




































「しあわせなんか、あらへんよ…」




































窓の外を覗くと、いくらか雲間から光が差していた。
そういえば。耳を傾けると時計の針に、愛しい寝息。さっきまでの静かな雨はいつのまにやら音も姿も消している。

ゆるく、残酷な、滲むような雨に、いつか何も感じぬ日が来るだろうか。
ほんとうは もう 行きたくない場所。





















「忍足」







「! ぉ…起きたん?」









不意に呼びかけられて、頭の中が一瞬真っ白になった。そして再び色が戻ってきた瞬間に咄嗟に自分の目を気にしたことに、情けなさを感じる。
けれど、名前を呼んだ筈の声の主は、その目を閉じたままだった。
…彼の気遣いだろうか?まさか。喉の奥から、ぎぅとせりあがるものを必死に押し殺す。











「…、もう、ひとりであそこへ行くな。」



「?」


「行きたいときは俺んトコに来い。」






「……」




いきなり何を言うのだろう。…この男は。
それが、その言葉が、自分に何を意味するのか、わかって言っているのだろうか。

喉の奥が、熱い。















でも、



























冷えないように、彼が渡してくれたバスタオル。あたたかい紅茶。
















いま は、
















































今は、この居場所を、信じても いい…………?












「うん。」






























あぁ、きっと こんなささやかな時が。

これを日常と言えることが。

















きっと。











忍足が女々しいですか…。
すいません・・・。
無駄に長く、駄作で・・・。
初跡忍がこんなんでいいのかなぁ?


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