=∴PINKs 2dent ∴=

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*タイクツナリユウ*


『タイクナリユウ』

 この国は戦争をしているらしい。始まって1ヶ月。戦地はどこか遠い国で、同盟国の後方支援をしているだけだから、国内は安全だって誰かが言っていた。ましてここはド田舎。生活は多少不自由になった部分もあるけど、あたしには全然リアルじゃなかった。新聞もTVも退屈なニュースばかり。戦争に関わるニュースは時々しか流れない位だから、きっと大したことないんだろう。溜息と同時に、それでもやたらと再放送の増えたチャンネルをまわす。
―――続いてのニュースです。

 隣の市で民家が全焼したらしい。アナウンサーが淡々と被害の全容を伝えている間、焼けた家を見下ろす位置から鴉が5匹、並んで此方をじっと睨んでいるのに気が付いた。ぴくりとも動かない。気味が悪いな、そう思ってあたしは電源ごと消した。
 数日後にも似たような火事の速報。相変わらず鴉は睨んでる。こないだのニュースかな?、そう思ったけど場所は県外。バカなあたしは鴉に野次馬根性があるのかとか考えてみたりしたけど、胸の奥がひどくざわついた。悪い予感は当たった。あたしは鴉のサインに気付いてしまったのだ。
 幾つかのニュースを、暫くのインターバルをあけて映像以外の情報を総入れ替えして、切り貼り編集の後に、新しいものとして流れることがわかった。造られたニュースは繰り返される。いつまでもいつまでも、やまびこのように。気付かなければあたしの日常もまた、やまびこのように繰り返されていただろうに。あたしが信じていた真実とは何ともろいものか。
 1ヶ月後、あたしの住む国の名前は変わってしまった。新しい国もやまびこの中であたしたちを飼いならすんだろう。

                         (戦争・鴉・やまびこ/800字)


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