=∴PINKs 2dent ∴=

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*アナダラケ*


『アナダラケ』
 玄関に着くや否や、パソコンの電源を入れた。起動するまですら、もどかしい。これだから古い機種は。苛立ちが募る。そうだ、きっと替え時なんだ。「今日はそれを探せばいい。」
 途端に心が軽くなった。今日の獲物を見つけたのだから。ようやく落ち着いたあたしは時計を見た。まだ9時半。競り落とすには少し早い。冷めかかったコンビニ弁当を胃の中に流し込む。

 インターネットオークションにハマったのは4ヶ月前位だと思う。
 二十七はお局か。寿退社を促す嫌味に耐えられず腫瘍が出来た時からだ。休みの暇に任せてパソコンをいじくり回していた時、探していたボトムを偶然落札出来た。すっかり味をしめてしまった。もっとも、今は少し趣旨が変わってきているけど。

 入札件数は欲しがっている人の数。多ければ多い程、あたしはひどく興奮する。みんなが欲しがっているモノを手に入れる。その瞬間の悦びは何にも勝る代え難いもの。今日の山手線のチカンも、隣の部屋のイチャつく声も、上司の小言も、脅迫紛いの流行の変化だって、世の中全ての雑音から確かに開放される。右クリックは魔法のボタンなのだから。
 それがどうだろう。品物が届く頃にはすっかり気持ちも冷め、開封する迄それが何なのか、大半がわからないものばかり。画面の中ではどれもとても素敵に見えたのに。あたしが欲しいものはこんなものじゃない。それでも不用品は毎日届く。


 気が付くとまた、部屋の中は雑音で溢れてる。

                    (インターネット・山の手・雑音/800字)

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