=∴PINKs 2dent ∴=

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*メヲトジレバ*


『メヲトジレバ』
 差出人は女が可愛がっている、最愛の弟。それは女の頭をふらつかせるには十分すぎる内容であった。

 この春、恩師の薦めで知り合った女性と結婚するということ。先方はそれなりの名家であり、自分は婿養子に入る為、師とも話し合った結果、廓勤めしている姉がいる事が知れては宜しくない。姉は既に死んでいて自分は天涯孤独の身であると言ってあること。そして、「仕送りはもういらない、手紙も書かないで欲しい。お元気で。」とだけ書いてあった。突然の絶縁状に女は言葉を失った。

 女は太である。借金のカタに売り飛ばされてきた訳ではなかったが、出来の良い、可愛い弟の勉学の為、自ら吉原入りを決めたのはもう2年も前の事になる。
 女の春には毎夜、高い値がついた。廓沙汰を聞きつけてやってくる、金持ちの男の色台詞に揺れる事なく勤め上げてきたのも、偏に弟の存在があったからであろう。名も知らぬ男の背に爪を立てながら、いつしか弟の腕の中を想像しては果ての無い快楽に体をこわばらせた。数え切れない春。春の嵐。
女が数え切れない嘘をついてきたのと同じ様に、弟の手紙のそれもまた嘘であれば良いのにと心の底から思った。いっそ、記憶喪失にでもなれたらどんなにか楽だろう。

 もう、此処にいる理由など何も無い。柵のなくなった女の気持ちは途端に軽くなった。ただぼんやりと、浄閑寺が呼んでいるような気がした。


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