創作新作童話集(1)



作・東板前ニ(猫ジャラしマスター)


むかしむかしある村に、それはそれは有名なお医者さんがいました。
その名もトンカチ先生。

ありとあらゆる病気をまるで魔法の様に、トンカチで直してしまいます。
その凄さといったら、言葉では言い表せないほどです。

例えば、肩がこった、もう肩が上がらないというおじいさんには、
トンカチ先生は、不思議なトンカチを出して肩をとんとん叩きます。

するとどうでしょうアラ不思議。
おじいさんの肩はすーっとコリがとれて動くようになりました。

同じように、お腹が痛いときにはお腹用のトンカチを出してトントンと叩きます。

するとアラ不思議。お腹が痛い患者さんはあっという間に治りました。

おなじように、風邪を引いたり、腰が痛くなったり、足が痺れたり、
それはそれは様々な病気を持った患者さんが
毎日の様にトンカチ先生の病院の前には列を作って並びます。

とんとんかんかん!!
今日もトンカチ先生は大忙しです。


しかし、ある日の事です。
トンカチお医者さんに文句を言いに来る患者さんがいました。

こないだのおじいさんです。
「わしゃあ、こないだ先生のトンカチで、肩が痛いのスーっと取れた。
 だから先生に感謝してる。
 じゃけんども今度は、足が痛くなってしまったんじゃ、
 こんな事はいままでなかったんじゃがのう」

トンカチお医者さんは今度は足用の魔法のトンカチを出して
おじいさんの足を叩きました。

トントンカンカン。

するとアラ不思議。
おじいさんの足は元通り元気になりました。

おじいさんは大喜びです。

しかし問題はそれだけじゃあありませんでした。
お腹が痛いと、こないだ来た患者さんは今度は、風邪を引いてましたし
風邪を引いていた患者さんはこないだ風邪を治すトンカチの力で治ったのに、
今度は頭が痛いと来ましたし、
みんな違う場所が悪くなったと再びトンカチ先生の病院に来たのです。

トンカチ先生は大いそがしです。

とんとんかんかん、トンカンカン♪

ある日、さすがに毎日の様にくる患者さんに
もうトンカチ先生は疲れ果てました。

そして、本日休業の看板を出すと、病院の中で眠る様に倒れてしまいました。

すると、不思議な事がおこりました。

たくさんのトンカチが置いてあるつぼの中から
不思議な煙が立ち昇ったかと思うと
人の形になり…、なんと不思議なおじいさんが立っているではないですか。

それは良くみると、まるでトンカチ先生が歳を取ったような貫禄のある
おじいさんでした。

「貴方は誰ですか?」トンカチ先生はたずねました。

するとそのおじいさんは、もぐもぐと口を動かすと笑いながら答えました。

「わしは、おかゆ先生じゃ」確かに片手にお茶碗を持った変なおじいさんです。

しかし、そのお茶碗からは湯気が出ていて、とても素敵なあったかさと、やさしい香りがありました。

トンカチ先生は、どうしてもそのおかゆが食べたくなってしまい
もう、おかゆせんせいのお茶碗を奪う様にしてたべてしまいました。

それはそれはおいしいおいしいおかゆでした。
はたしておかゆせんせいはおこるでしょうか? 

いえいえ、おかゆ先生は優しそうに笑っています。

トンカチ先生は,ほっとしていつのまにか眠ってしまいました。


トンカチ先生は目が醒めました。

今日も病院の前にはたくさんの行列が出ています。

さあ、元気が出たぞ。
今日も魔法のトンカチでたくさんの人達を治さなくちゃいけない。

トンカチ先生ははりきりました。

ところがどうした事でしょう。
トンカチ先生がトンカチを振るうたびに
「あいたたたたっ」
「ぎゃ~」
「いたいじゃねえかこの~」

どの患者さんにもまるで魔法が効かなくなってしまったみたいです。

患者さんたちは病気が治るどころか余計いたくなっちゃう、

トンカチ先生を大嫌いになってしまいました。

もう患者さんたちは誰も来ません。

さあ大変です。

魔法のトンカチの力が無くなってしまったのです。

トンカチ先生は困り果てて、トンカチを入れていたつぼの中を覗きました。

どうやらあのおかゆ先生が魔法を全部取ってしまったからだと思ったからです。


しかし、つぼをひっくり返しても覗いても、おかゆ先生は出てきません。

困り果てました。

それどころかもっと困った事がおきたのです。

なんと昔からトンカチ先生の所に長い間通っていたあの患者のおじいさんが、
担ぎこまれてきたのです。

おじいさんはもう体中がいたくて、風邪までひいてます。

もう死にそうなのは誰が見ても明らかです。

トンカチ先生は、さすがにもうトンカチは使えませんので困り果てました。
そしてあることを思い出しました。


あのおかゆをもしおじいさんに食べさせてあげられたら、
なんとかなるかもしれない。

トンカチ先生は、材料を集めました。

お米はある。
お塩もある。
お湯もある。
卵もある。
ネギもある。
こんにゃくもある。
あとなんかキノコも入っていたか。

いいやめんどくさいから、あるものすこしずつ適当に入れてやれ~♪ 


しかし、とんでもない事に気づきました。マキが無い…。
これでは火がつきません。


トンカチお医者さんはある決心をしました。
おじいさんを救う為です。

もう今はそうするしかありません。

つぼの中からたくさんのトンカチを出すと、
トンカチの柄をマキの変わりにして燃やしてしまいました。

するとどうでしょうか、部屋中にあったかい素敵な輝きが満ち溢れます。

いつしかおなべの中には美味しそうなおかゆがいっぱいいっぱい出来てました。

トンカチ先生はいつしか髭もじゃにっていました。
そして優しい笑顔で、スプーンでおかゆをすくうと
おじいさんの口に運んで上げました。

するとどうでしょう。
いつしかおじいさんの顔は明るくなり
ほっぺたなんかリンゴみたいになって元気良く立ち上がりました。


おじいさんは元気になったのです。

それを見ていたみんなは、その不思議なおかゆをどうしても食べたくなりました。

トンカチ先生は、いまはおかゆせんせいとなりましたが、
優しそうにみんなにおかゆを分けてあげました。


その日から、トンカチ先生の名前はみんなから忘れられました。

なぜなら村にはもっと素晴らしい名医が生まれたからです。

おかゆ先生のおかゆを食べると、どんな病気も、からだの痛みも取れたからです。

そしてなにより素晴らしい事に
おかゆ先生のおかゆをいくら食べても悪くなる所はどこも無かったからでした。


そして村にはよっぽどの事が無い限り、
病院の前に行列ができる事も無くなりました。

おかゆ先生はやっとこさ。
どっこいしょとソファーにすわって、自分のおかゆをゆっくり食べました。


そして笑いました。

「ちょっと、元気な人が毎日食べると飽きるな、こりゃあ」


 おしまい


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