ニッポンとアメリカの「隙間」で、もがく。

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切迫早産入院体験記


これはアメリカでは驚異的に長い入院。
医療費が高くて健康保険が利くものが限られているからだそうだが、
たとえば、普通の分娩なら2日、帝王切開でも4日で退院させられる。
私は火曜日の朝に帝王切開で出産して、同じ週の土曜日の午前中に抜糸して退院した。
手術の次の日から歩きなさいといわれ、点滴のビンをズルズル引っ張りながら病棟を歩いた。
まあ、私の場合、切迫早産といわれてから10週間ずうっと絶対安静で動けなかったので
お腹を切られても動くことができるようになっただけで幸せだったのだが。

これは確認していないから定かではないが、糖尿病になった時の教育入院というのも
存在しないんじゃないだろうか?せいぜい、何度か通院して講義を受けるぐらいだと思う。
その代わり、少ない時間で効率よく知識を与えるための資料は充実している。

Day Surgery(日帰りの手術)も日常茶飯事。
とにかくアメリカは入院させてくれない。

というわけで、6週間も入院した私は実に貴重な体験をしたことになる(笑)。
これはぜひ記憶が風化しないうちに書き留めておかねばならぬ。

アメリカ入院体験記 (1)病棟・病室

病棟は産前病棟と産後病棟に分かれていた。
これはありがたかった。
産前の切迫早産の不安なときに、隣りで赤ちゃんが生まれて大喜びされるのは
よほど寛容な心を持っていないと気に障るものだ。
産科の病棟は個室が原則。(他の病棟も保険の差額ベッド代なしで2人部屋が基本)
家族の寝泊りも可。うちの夫はほとんどずうっと病室に寝泊りしていて、
病室から職場へ行き、帰りに自宅へ寄って病院に戻ってくるという生活をしていた。
本当に心強かった。
産後の病棟も同じく個室で夫の寝泊り可。赤ちゃんも希望すれば生まれたその日から
同じ部屋で家族としての生活が始められる。

病室の設備はさながらビジネスホテルのよう。
room
左側の濃い色のソファーは折りたたみ式のベッドになっている。

シャワー室にはイスがついていて座りながら沐浴できる。
shower
産後の病棟のシャワー室のイスは防水加工のクッション張りになっていた。

タオル、寝間着、使い捨てのショーツ、靴下は使い放題。
shelf
汚れ物は毎日、係の人が回収してくれる。
家族が洗濯物を持ち帰ったりしなくて良いので家族の負担が軽い。

冷蔵庫も備え付けてある。
fridge

テレビもあった。ケーブルテレビのチャンネルも入っていた。
もう一生分といっていいぐらい、毎日テレビを観て過ごしていた。

電話も専用のものがあって、オペレーターを通じて日本にもかけられる。
日本の実家の両親も直接病室の電話にかけることができた。

アメリカ入院体験記 (2)食事

入院中、一番面食らったのが食事。
日本で入院したときは、病院が指示カロリーに基づいて食事を出してくれたのだが
この病院では何と、メニューの中から自分で計算して選ぶという形式。
毎日メニューが配られ(といっても、毎日メニューは同じ)、リストの中から翌日の献立を選ぶ。
各献立の横に脂質量や糖質量などが表示されており、それをもとに自分が指示されている量を
計算して選ぶ。
自分が好きなものを選べるという利点はあったが、何せ、短期間で退院させられるのを
常識としているアメリカだから、メニューは7日分ぐらいしかなくて、しかも、糖尿病だから
ちょっと選べないなあというメニューもあって、1週間もいればすべて食べ尽くしてしまい、
次の週からは同じメニューの繰り返し。これを6回繰り返すハメになった私。ちょっとツラかった。
義母はアメリカ人だから「味噌汁が飲みたい」と言っても、味噌汁の作り方さえ当然知らないわけで普段、和食じゃなくてもわりと大丈夫な私でも、さすがに和食が恋しくなった。

Thanksgiving(感謝祭。毎年11月)の日はさすがに特別メニューだった。
メニューのデザインも可愛い柄で、楽しく工夫されていた。
日本の病院でもお正月の時なんかは特別メニューになったりしますもんね。

私は入院中、ゼンゼン動いていないのに、なぜか体重が減ってしまった。
すると、ある朝、栄養士さん登場。
体重増やしましょう。ということで、その名もズバリ "Boost Pudding" というやたらと甘いプディングを毎日食べさせられた。バタースコッチ味、チョコ味、バニラ味と3種類あったが、どれもひたすら不味く拷問に近かった。あれから解放されただけでも嬉しい。

アメリカ入院体験記 (3)糖尿病の管理

血糖値は自宅でと同じ1日6回測定。自分の血糖値自己測定器を使って自分でやらせてくれた。
注射も自分でやって、血糖値とともに看護婦さんに自己申告するという形。
入院はB&I病院という総合病院だったが、糖尿病の通院先であるJクリニックと提携していて
Jクリニックの医師が交代で毎日1回、私の自己申告を元に看護婦さんが記入した血糖値のチェックに来てくれた。
必要に応じてインスリンの量の指示変更があった。

アメリカ入院体験記 (4)看護婦さん

毎日、担当の看護婦さんが決められる。朝、「ハーイ、私の名前は○○。今日の担当の看護婦よ」と病室に入ってきて、その人が勤務時間帯に応じて基本的にはずうっと面倒を見てくれる。
6週間もいたので、顔なじみの看護婦さんも増えた。
勤務形態はかなり自由が利くらしく、週末だけ働いている人、夜勤だけ働いている人、
16時間勤務を2日やっている人など、年齢やライフスタイルなどに合わせて無理なく働いている。
このように融通が利くからか、子供を持っても長く働いている人が多く、家庭も仕事も両立して
充実した生活を送っている人が多いのが印象的だった。


アメリカ入院体験記 (5)回診

日本の病院に入院していると、週に一度、院長回診といって、院長を先頭に
ぞろぞろと医師達が緊張した面持ちで回診に来る時間というのがあるのだが、そういうのはなかった。
回診はレジデントといって、ほんまもんのお医者さんになる手前の専門医学実習者(ここでは産科の実習者)の先生が毎朝、しかも午前5時半ぐらいのエラく早い時間にやって来た。
レジデントはレジデント(居住者)というぐらいだから、病院に寝泊りしていると言っても過言でないほど忙しいらしい。
一方、ほんまもんのお医者である私の産科の担当医のG先生は、もう本当にすごくエライ人なわけで、もうどうしてもG先生じゃないとダメ!!!という時だけオラオラオラと登場する。水戸黄門みたいだ。
週に3回、午前9時半ごろ様子を見がてらやってきて、今後の方針などを話し合った。
何のトラブルもなかった初期の頃は、レジデント→看護婦さんの診察の後にものの5分ぐらいしか会ってくれなかったので何だか物足りないなあと正直思っていたのだが、この先生に15分以上会うってことは、リスクを抱えているということなのだ、ということがよおく分かった。彼はリスクを抱えている他の患者さんに時間を割かなければいけなかったから、トラブルのなかった
初期の私には5分しか会ってくれなかったのだ。

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