Emy's おやすみ前に読む物語

Emy's おやすみ前に読む物語

  「片想いの体温」 高1編



 いても教えてくれないの・・・?”


私がこう思うのには理由があった。

話は高校1年生にさかのぼる――。




 ☆ ☆ ☆《 高校1年生編 》☆ ☆ ☆



        『夏恋の話』





高校に入学して、ルミちゃんと同じクラスになった。

席も私の後ろ、そして一番後ろがルミちゃんだった。




5月の中間テストが返された時、私は40点以上の教科が無かった。

各教科の先生より、クラスの平均点が発表されたが
1教科を除いて全部70点以上だった。



“どうしよう・・・。”



このA高は割りと設立の新しい高校で、
共学で、先生の年齢が若い。

そのせいか過ぎた厳しい校則も無く、
女子の制服も可愛かった。

ただ、レベルの高いことでも知られている県立高校だった。



私は滑り止めの私立女子高が受かったのと同時に、
第一希望の高校をA高に変更した。

中学の担任の先生からの

「ギリギリだ。受かっても厳しいぞ。
 当初のB高にした方が良い。」

との反対を押し切り、合格した。


合格直後も担任の先生から心配された。



両親は単純で、この名前の知れたA高の合格を
心から喜んでくれた。

私は友達に自慢だった・・。






ところが入学して先生の心配は的中した。

授業のスピードが速くてついていけない・・・。



ノートを取るだけでものんびり屋の私には
大変な事になった。


“物理28点。 

 期末テストで挽回するなんて絶対無理。

 一学期の赤点は確定だぁ・・・。”


他の教科のテストの点数も、鮮明に思い出せるくらいひどい。

今にも泣き出したい気持ちを抑えつつ、
先生からの回答と解説を必死になって答案用紙に書き込む。


終業のベルが鳴った。








放課後、帰宅用意をする私に後ろの席の
ルミちゃんが声を掛けてきた。


「あのさ・・・余計なお世話かもしれないんだけどさ。

 夏恋のテスト見えちゃったんだけど・・・大丈夫?」


“―― 恥ずかしすぎて顔から火が出そう!”


私は立ち上がった席に腰を落とすと、涙があふれ出た。



「ルミちゃん、私・・・どうしよう。」









*********************************************************


       『ルミちゃんの話』





―― 私は、うらやましかった。


だってみんな、放課後は部活やったり
ショッピングやカラオケ行ったり、デートしてる子もいたし、
習い事したり塾行ったり・・・。


私は多忙すぎる両親に代わって、家事をしなければならないし、
弟3人の面倒も見なくちゃならないし。

特に一番下はまだ小学2年生だから、宿題も見てあげなきゃならないし、
長時間一人で留守番もさせられないし。




だから私は放課後寄り道せず、すぐ帰宅する。
私はそれを誰にも話していない。
言い出したら止まらなくなる。


愚痴や言い訳は嫌い。

弱音は吐きたくない。






―― でも、どうしてだろう。


たまたま前の席になった色白の、クリッとした大きな目の
ウサギのような女の子に話した。



この子の周囲だけ、過ぎる時間がゆっくりと流れるような
独特の空気を持つ。


この子に話したくなってしまった。

聞いてもらいたくなってしまった。






ところがこの子も、放課後は自営のレストランを手伝っているので
寄り道せずに帰宅すると聞いた。

この共通点が2人の距離をグッと縮めた。

私等は名前で呼び合う仲になった。






「ルミちゃん、私 どうしよう・・・。」



どうしようって言われても・・・。




物理以外のテストの点数を聞いて、私も倒れそうになった。

「だって、店手伝ってたら、勉強する時間無いもん。
 自分でもあきれて涙が出る・・・。」


私は言い訳は嫌い。

―― でも、泣いている夏恋の事は助けてあげたい。


「言い訳したって始まらないよ。
 ベストの方法を考えよう。」

「ルミちゃん、テスト何点だったの。」

「物理は難しかったね。84点。 
 他は90点以上。 英語は100点。」


「・・・ルミちゃん、勉強教えて! 

 私、このままじゃ期末テストで赤点取って、
 1年生留年になって、自主退学しなきゃならないよー!」



私も夏恋の勉強見てやりたいけど。。。時間的に無理。


“夜、夏恋の店の手伝いが終わって、22時頃から
 勉強を見てあげられる人・・・?”


―― 夏恋、とにかく私は無理。





「どうしたの・・・? 
 ちょっと忘れ物取りに来たんだけど。」


声がして振り返った。


柏田君がバレーボール部のTシャツを着て立っていた。






柏田君とは同じ中学で、中三の時は同じ塾に通っていた。

高校受験が終わり、2人とも塾をやめてしまうと
共通点が無くなった。



同じクラスなのに、久しぶりに話し掛けられた。


私は・・・中学の頃から柏田君が好き。






次の日、私と夏恋が昼休み話していると、
柏田君が話し掛けてきた。

「昨日の事は解決したの?」

「・・・ううん。」

夏恋が昨日の、困った涙の理由を話した。

私が夏恋の、毎日の放課後の状況を話した。

「要は、渡良瀬の期末テスト対策をしたいわけだ。
 それが店の手伝いが終わる22時以降から。
 中間の点数、そんなにひどかったの?」

「もう言いたくもないし、思い出したくもないくらい。」
 夏恋が冗談交じりに応える。

「うん・・・話を聞いたからにはほっとけないよ。
 俺が見て・・・。ただし、本庄ほど勉強できないよ。」

「本当に、いいの?!」

「いつから?」






“―― どうして?”








確かに夏恋のテストは、友達として深刻な問題。
誰か助けてくれたらと思ったけど。

・・・それが柏田君なのは嫌!!


夜、2人きりになるなんて・・・。







放課後 夏恋が、今日から柏田君が来てくれると話した。

「私、話したこと無いのに。 いい人だよね。」


“いい人? なにそれ ――。”


「いい人」という単純な表現で片付けられちゃう事に、腹が立った。


「ルミちゃん、私 本当に期末テスト頑張るね。」


“夏恋に、柏田君は見えてないのかもしれない。”


夏恋の一言にホッとした。

“2人きりになったからって・・・、

 夏恋が柏田君を好きになるとは限らない。

 でも柏田君は・・・。 ん、そうとは限らない。“










今朝はいつもより早く通学した。
いつも早く来る柏田君に、迷わず話し掛けた。

「おはよう。昨日はどうだった?」

どうだった?・・・って、自分で言ってて下品な質問・・・。

「おっ。あいつの家、レストランなのな。

 閉店した店のテーブルで勉強してたら
 渡良瀬のカーチャンがパンケーキと野菜ジュース出してくれて、
 なんか得しちゃったよ。

 しかも渡良瀬のカーチャン、若くて美人でびっくり。」


“そっか。夏恋の部屋に行ったんじゃないんだ。”


「ところで勉強なんだけど、テスト見せてくれたよ。
 泣いてた意味がよく分かった。・・・ま、一歩ずつだな。」



「・・・柏田君、夏恋と話したことも無いんでしょ。
 どうして勉強見るって言ってくれたの?」



“夏恋が好き、とかタイプとか言われたらどうしよう。

 朝イチ撃沈かな・・・。”



「―― だって、本庄の友達じゃん。」

「私の・・友達だから?」

「そう。」



―― 心の霧が一気に晴れて、太陽が顔を出す。







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    『柏田 敦(かしわだ あつし)の話』




本庄がなぜこの高校を選んだのか、疑問だった。

彼女くらいのレベルなら、県立・私立共に最高レベルを狙えたはずだ。



そして同じ疑問。

渡良瀬はなぜこの高校を選んだのか。


テストの点数もだけど、勉強を教えていて分かった。

きっと、たまたま受かってしまったのかもしれない。
『偶然、昨日勉強したところが出た』とか言うレベル。

期末テスト対策は正直厳しい。

でも、本庄の手前もあって、引き下がれない。
僕も本気で毎日 《咲花》 に通っている。



そして、もうひとつの疑問。

なぜ本庄と渡良瀬が仲が良いのか。



本庄は中学生の頃から孤高のオーラがあって、
誰をも寄せ付けないようなものがあった。

最初の頃、渡良瀬との付き合い方でも
本庄に渡良瀬が頼り、甘え、子分のように
着いていってるように見えた。


・・・でも、本庄は変わっていった。


よく笑うようになった。 

中学の頃は笑顔なんて見せた事なかった。



クラスの女子に囲まれ、アイドル誌やファッション誌を広げたり、
授業中によく女子が手紙を回しているが、
本庄もグループに入っているなんて。


確かに本庄には孤高のオーラがある。


でも本当は、出来る女過ぎて、
孤立させられてしまったのかもしれない。


僕には何も話さなかったけど、
孤独で寂しかったのかもしれない。






・・・そして、最後の疑問。

本庄は渡良瀬によって変われた。

そんな渡良瀬がどんな人なのか、前から知りたかった。


だから、勉強の話はいいきっかけになった。





土日以外は本当に毎日 《咲花》 に通った。

渡良瀬のお母さんは毎日おやつを出してくれた。

ケーキやビスケットだったり、おにぎりやサンドイッチなども。
正直、それも楽しみだった。



渡良瀬はというと、勉強はたぶん、
クラスの中間くらいのレベルには持っていけたと思う。

後は期末テストまで緩まなければ・・・、
と言う紙一重の話だけど。



気持ちに余裕ができたせいか、表情が明るくなり、
笑顔があったかいと感じた。

何か、こっちの心の中を話したくなるような。

聞いてもらいたくなるような。



“お母さんと顔は似ているけど、持ってる空気は全然違うな。”





―― そして答えが解かった。


それは渡良瀬のお父さんを見た時。


娘と同じ空気を感じた。


お父さんのほうが、年齢のせいもあって
もっと相手を許すような、包み込むような人に感じた。



“渡良瀬は可愛がられて、守られているんだ。”

と感じた。


この空気を受け継ぐ娘に、本庄の心は
ほぐれていったのかもしれない・・・。







―― ある日、おやつを食べながら聞いた。

「渡良瀬のお母さんて、何歳?」

「35歳。私を20歳で生んだの。」

「若いもそうだけど、美人だよな。
 俺のカーチャンと大違い。

 ・・・お父さんは何歳?」

一瞬にして渡良瀬の顔が曇った。


「・・・60歳。
 お母さんとは25歳差なの。

 お父さん、お祖父ちゃんのように見えるでしょ。
 しかも背は低いしデブだし、顔だって全然イケてないし。

 私、よくママ結婚したなって思うの。」

「―― でも、ハートはでっかくて温かそうじゃん。」


“・・・渡良瀬、お前分かってないよ。

 男は外見じゃなく中身!そうじゃなかったら
 あんな美人で、しかも若いカミさんなわけないじゃん。”


「・・・そうかな。
 まっ、ママには優しいけどね。

 でも、柏田君のほうが数百倍カッコイイよ。」


“あっ、そう?”


男は中身と言いながら、
やっぱりカッコイイって言われると、かなり嬉しい。


正直、渡良瀬の言葉にドキッとさせられる時がある。


意識してるのか、天然なのか、
いつもさりげなく褒めてくれる。

それが、僕の事ちょっと好きなのかもって思ったり。

全然男として考えてなくて、友達だから言葉に出来るのかも。




“微妙・・・。”



毎日のように部活の後《 咲花 》に通い
勉強して・おやつを食べて・・・の日々が実を結び、
期末テストは2人とも上々だった。



渡良瀬は、どの教科もほんの少しずつ
平均点を上回り喜んでいた。


これで追試も赤点も、一学期はないだろう。



あまりの喜びに

「柏田君、ありがとう! 大好き!」

と言った。




・・・たぶん、感謝してますって事なんだろうけど、

ドキッとさせられる。







夏休み前に渡良瀬の両親が、
僕と本庄を自宅に招待してくれた。


『夏恋がいつもお世話になってるから。』

って事なんだけど。







キッチンでは渡良瀬のお父さんが料理の腕を振るっていた。

僕らはテーブルに着いて待つ。



「渡良瀬のトーチャン、料理上手いね。」

と僕が言うと、


「本当、やっぱ男は料理だよねぇ。」

と本庄が続ける。




少々言いにくそうに渡良瀬が答える。


「パパ、調理学校の先生だから・・・。」



“ ゲッ、プロをほめてしまった!”






またお父さんが料理を載せる皿や盛り付けなど、
お母さんに指示している。


その時お母さんは必ず

「はい。」

と答えていた。



「渡良瀬のカーチャンて『ハイ。』って
 返事するんだな。

 俺、おふくろが親父に『ハイ。』なんて
 言ってるところ見た事ないし。

 一年中、親父の悪口言ってるよ。」



「ウチなんか二人揃うのが一年に何回かかな。

 ・・・よく子供4人もと思うもの。」



「・・・だって、専門学校の先生と生徒だもの。
 学校生活のままなんじゃないかな。

 パパは洋食の先生。
 だからってあんなには、太り過ぎだけどね。」





料理が出来て、渡良瀬の両親も一緒に
テーブルに着いた。


料理を食べながら・・・、
そして学校の話や流行の話などしながら、
渡良瀬のお父さんはお母さんや渡良瀬を
大切に思い愛しているかが
言葉に出さなくても伝わってくる。


またお母さんは、僕らには普通だけど、
お父さんに対し敬語で話しかけ、受けていた。

お母さんにとってお父さんは、尊敬できる
好きな人なんだろうと思う。




確かにお父さんは世間で言う
ビジュアルのカッコイイと言うのからは
外れてるかもしれない。


しかし結婚して何年も経っているのに
お父さんの話にお母さんが『はい。』と答え
敬語で話す。



言葉でなんていっていいか分からないけど、
お父さんに男の余裕とか、器の大きさとかを
感じてしまった。


結婚したらこうありたいと、単純に憧れてしまった。


そして渡良瀬のお母さんを女性として 
可愛い人だと思った。










渡良瀬のお父さんとは、これが最初で最後になった。



部活に部活だった夏休みもそろそろ終わり、という頃
僕の耳に入った。



―― お父さんが亡くなったと。






****************************************************************



       『夏恋の話』


パパの死因は、クモ膜下出血だった。



その日、私とママは二人で映画を見た後、
デパートに寄って来た。


帰宅すると、パパはリビングに倒れていた・・・。







私はお通夜もお葬式もずっと泣いていた。

私はパパが大好きだった。

しかし、ある時期からパパが大嫌いになり
今では会話らしい会話も無かった。




パパは私を可愛がってくれた。

年齢がいってから生まれたから、
余計に可愛くて仕方なかったのかもしれない。


「夏恋はママに似て可愛い。」が口癖だった。

パパあぐらをかいて、私が座る――。

そこが私の席だった。





子供の頃、休日には家族の定番だけど、
動物園や海水浴に連れて行ってくれたり、
近くの公園に行って・・・

補助輪無しの自転車の練習も、鉄棒の逆上がりも
みんなパパに出来るようにしてもらった。



「夏恋(かれん)」と名付けたのもパパだった。


ママとの恋を名前にして付けたものと教えてもらった。

私はこの名がロマンティックで好きだった・・・。








ところが、小学4年生位からだろうか。


私はパパが学校に来るのがイヤになり
運動会や父親参観日が憂鬱になった・・・。



きっかけは参観日に友達から

「おじいちゃんが来てくれたの?」

と聞かれた事だった。

その時から私は、クラスメートのパパに
目が行くようになり、私のパパと比べるようになった。




クラスメートのパパの中には、
映画俳優のようなかっこいいパパ。


「多忙な仕事の合い間に駆けつけた。」と言ってた、
ブランドのメガネにイタリア製のスーツを着たダンディなパパ。

スポーツマンで運動会のPTA競技には大活躍するようなパパもいる。




そしてウチのパパは・・・
170cm弱の身長に90Kgあったと思う。

太っているし、顔もお世辞にもハンサムとは言えない。
そしてイタリア製のスーツも着てない。




それに引き換え私のママは・・・、

クラスメイトの誰のママよりも若く色が白く、
二重の大きな目の美人で、自慢のママだった。


クラスメイトも私のママが一番きれいだといってくれた。

ママには参観日はもちろん、学校PTA役員の仕事で
姿が見えると嬉しかった。






パパと口をきくのもイヤになったのは、
確か小学校6年生の頃だったと思う。



いわゆる男と女と赤ちゃんの事を知った・・・。


私はショックを受けた。

そしてパパを気持ち悪いと思った・・。





“気持ち悪いパパと美しいママの夏の恋”と思うだけで、

「夏恋」に嫌悪を感じて、名前まで大嫌いになった。



俳優のようなかっこいいパパの娘でさえも
「最悪!」とショックを受けていた・・・。


私は子供心に、

“かっこいいパパならまだいい。でもママは・・・。“


私の中でパパは悪者で、
ママはパパに囚われたお姫様のようで――。

・・・と記憶している。


記憶といえば・・・

パパとママは仲が良くて
ケンカしているのを見た事がなかった。


パパがママを怒ったり、大きな声を上げたりした事は無かった。

例えばママの失敗も、むしろ笑って楽しんでいるようだった。



ママがパパを悪く言ってるのを聞いた事が無かった。

ママはパパの決定した事には素直に従った。




全ては25歳の年の差からだろうか・・・。

とにかく、パパはママを大事にしていたし、
ママもパパに頼っていた。













・・・そのパパが60歳で亡くなった。






あまりの突然の死でショック過ぎるのか、
ママは一度も涙を見せなかった。



私は子供の頃の事を思い出しては泣けてきたけど、
最近では口をきく事さえ少なくなっていたパパを
なぜか遠くに感じていた・・・。











不謹慎かもしれないけど、
喪服のママは一段と美しかった・・・。






涙は見せないけど、遠くを見るような、
それでいて、どこを見ているのか分からない表情が・・・

ママの悲しみの深さを、表していたのかもしれない ――。





*********************************************************


     『ルミちゃんの話』


パパの事で心が沈む夏恋を励ます為に
柏田君と相談し、近くの大きな公園で
ピクニックを計画した。


柏田君はバレー部の男子を何人か誘って来てくれて
グループで出かけた。



男子の背丈が180 cmクラスなので、かなり目立つ。

これが思ったより楽しく、バレー部の練習や
試合の無い休日(なかなか無い貴重な休日)は
再び大きな公園でピクニックしたり、
遊園地に遊びに行ったりして過ごすようになった。



また、バレー部の試合の日には、他の学校の体育館にまで
夏恋と足を運び、応援しに行った。




私は相変わらず弟たちの事で忙しかったけど、
このグループでのレジャーとバレー部の試合だけは
中学生の弟に留守番を頼んで出かけた。







柏田君は1年生なのでレギュラーメンバーには入っていない。


だから毎回コートに入る訳ではなかったけど、
姿が見られるだけでよかった。


また、2年生を抜いて後半からコ-トに入ることもあった。



“あっ、” ・・・っと思った時

「 柏田く~ん!」

と大きく声援を上げられるのは夏恋だった。




私も声援を送ればいい。


―― でも、できない。


名前を呼んで、応援するだけなのに・・・。







もちろんコートに入る時は、振り返りもしないけど、
試合後はこっちを見て手を振ってくれる。


特に勝った時は、切れ長の目が無くなる笑顔で
嬉しそうに手を振る。




この笑顔 ――、

私が独り占めしたくなる・・・。









クリスマスの頃には、バレー部の男子との
グループもだんだんメンバーが決まってきて、
柏田君、小林君、高坂君、そして夏恋と私の
5人グループになった。










バレンタインデーに、男子3人に
チョコレートを渡す事にした。

《 咲花 》の休日の調理場を借りて、
夏恋のママに教えてもらいながら
少し難しいチョコレートに挑戦する。



「ルミちゃんは普段から料理してるから、
 手際がよくて教えやすいわ。」


夏恋のママに褒めてもらう。

 ・・・嬉しい。

私の両親は、私を褒めるどころか
見てもいない。






「―― さっ、ここからは常温で冷ますのよ。

 ・・・時間がかかるから、一休みしましょう。」





客席のテーブルに、お茶の準備をする。


「ルミちゃんが来てくれるならって、
 昨日 苺ジャム作ったの。」

少し厚く切った食パンを軽く焼いて
バターを塗り、ジャムはガラスの器に
たっぷり入れて、テーブルに運ぶ。





夏恋のママが口を開く。


「ルミちゃんは、3人の仲で 誰が好きなの?」 


「―― えっ?!」




私は夏恋の顔を見る。

夏恋が笑顔で聞く。


「柏田君でしょ。」


“―― もしかして、分かっちゃってる?”


慌てて切り返す。
「そういう夏恋は誰なの。」

「う~ん・・・柏田君は優しく勉強教えてくれるし、
 高坂君はのんびりしてて話しも合うな。
 でも、小林君は俺について来いタイプで、
 男っぽくていいかも・・・。」



この話に微笑みながら、夏恋のママが席をはずす。


夏恋が問う。

「3人に、同じように渡していいの?

 私とルミちゃんからって言って、・・・いいの?」



私には分かっている。柏田君にとって、私は友達・・・。




私は柏田君と中学3年の時、同じ進学塾に通っていて
帰宅時に2人きりになる事は、何度もあった。

でも柏田君から出る言葉は、勉強と受験の事ばかり。


“受験の前に恋の事まで考えられないよね。
 今は、柏田君と2人で帰れるだけでいい・・・。”



しかし合格してからも、恋の話題は出なかった。

その後2人とも塾を辞めてしまい、
2人きりになる事も無くなった。




今、再び親しく話せるようになる。

ヘタに告って、グループで出掛けられなくなったり
変に意識するようになって、話すらできなくなるなんてイヤ。


私は充分、分からされている。

柏田君にとって、私は友達 ――。




だから、このままでいい・・・。

せめて柏田君に彼女が出来るまで、このままでいたい。





「―― もちろん、2人からって言って渡そう。」





*********************************************************




        『夏恋の話』



・・・ルミちゃんには言えないけど、
私も3人の中では柏田君が好き。


でもルミちゃんが柏田君を好きなのは、
周りから見ていても微妙に分かる・・・。



口にはしないけど、たぶん小林君も高坂君も、
気がついていると思う。



―― もしかしたら、柏田君も。







高校2年になってクラス替えがあり、

私と柏田君は同じクラスになり、
ルミちゃんとは離れてしまった。



相変わらずルミちゃんと、
教室の壁を越えて昼食を一緒にとり
帰宅も一緒にする友達だけど。



そしてバレー部の、
少ない休日のグループ遊びでも・・・

柏田君とルミちゃんは、
少しずつ違ってきてるように見えた――。







夏休みも終わりになる頃、小林君に彼女が出来た。


それをきっかけに、グループ出掛ける事もなくなってしまった・・・。










冬も始まる頃 ――、


私は柏田君から

「一緒に帰ろう。」

と、5時間目が終わった時、誘われた。


「ルミちゃんも一緒だけど。」

と、私は答える。




ところが、私がルミちゃんのクラスに誘いに行くと

・・・もういなかった。

私は柏田君と2人で帰宅する事にした。




「今日、部活はどうしたの? 休んだの?」

「・・・うん。」

と答えるだけで、自分から誘ってきたのに

口数が少なくて困る・・・。



「―― ルミちゃん、どうしたのかな・・・。」

「―― あのさ、渡良瀬。 

 アイスクリーム、食べてかない?」


“えっ、この寒さに?”


「お腹空いたのなら、たこ焼きにしようよ。」






初めて制服で、しかも男子と2人でたこ焼き屋さんに入る。


注文し待ってる間も、柏田君はニコリともしない。

プラス話をしても、何か違う事を考えてるような変な返答。

―― そして、沈黙。





たこ焼きが来て、「美味しそう。」って言っても

「うん。」と答えただけ。


とにかく食べ始めた。







私が6分の4個食べた頃・・・、


「―― 渡良瀬って、

 ・・・好きな人、いるの。」


「・・・・・。」


「俺と付き合って欲しいと思ったんだけど。

 どう・・・思う。」


「どうって・・・。。 

 この話とルミちゃんが先に帰った事と、関係あるの?」


「・・・昨日の夜、本庄に電話して、

 渡良瀬に告りたいって言った。」


「昨日の夜? ・・・ルミちゃんは、何て。」




―― 今日の昼休み、一緒に昼食をとった。

その時ルミちゃんは、どんな気持ちで
私と食べていたのだろう・・・。




「『そう。』 ・・・って言ってた。」


私は涙があふれ出て、立ち上がった。


「―― 柏田君の、バカッ!」


私はそのまま店を走り出て、ルミちゃんの家に向かった。










ルミちゃんの家のドアチャイムを押す。

大泣きしながら、インターフォンに名前を言った。

ルミちゃんが出てくる。



「・・・ルミちゃん!」



私は、ルミちゃんに抱きついて泣いた ――。」






************************************************************


         『柏田君の話』



―― 迷って、迷って・・・、

小林や高坂にも相談して、やっと言った。


・・・本庄の気持ちは、

“もしかしたら、僕の事 ――。”

とは思っていた。


でも、これだけは どうにも。





高2になって、クラスで2人になって、

渡良瀬を好きだ、と認識した。


やっ、1年生の期末テスト対策から

本当は好きだったのかもしれない・・・。





クリッとした目と、何でも話したくなる
あったかい空気感。

勉強では相変わらず頼りにしてくれるし、

背の高い僕を見上げて、話す笑顔がたまらなく可愛い。



渡良瀬と本庄の事を、何度もよく考え

告るのをやめようともした。

でも、彼女のいる小林は楽しそうだし、

うらやましくて・・・、

自分を抑えられなくなった ――。



***********************************************************



      『ルミちゃんの話』



玄関で、人目もはばからず泣いている夏恋。

「・・・とにかく、部屋に上がってよ。」



あまりにも泣いている夏恋を見て、小学2年生の弟が
不思議そうに、心配そうに見ている。


夏恋は部屋に入ると、私に抱きついて泣いた。

「ルミちゃん、ごめんね。 ルミちゃん、ごめんね。」

と、繰り返している。






―― 落ち着いてきたのか、

真っ赤に熱を持った腫れた顔して言った。



「私、柏田君とは付き合わないからね。」


「・・・どうして。  
 夏恋だって、柏田君 好きなんでしょ?」


夏恋が、瞬きもせず私を見つめる。


「・・・気がついてないと思った? 
 私、夏恋を親友だと思ってるよ。」


夏恋は、再び泣き始めた。


―― 私は続ける。


「・・・夏恋が一番鈍感だよ。 

 夏恋の気持ちには、グループみんな気がついてたし、
 柏田君の夏恋への気持ちも、夏恋意外は気がついてたよ。

 昨日、柏田君がTELくれて、告ること私に言ったの。
 本当なら、私に言う必要なんかないのに、先に私に言ってくれたの。

 正直、ショックで悲しかった・・・。 

 でも、時間の問題なのは分かってたし、柏田君、私を無視しなかった。
 そして、夏恋がこうして来てくれた。

 これで・・・、充分だよ。」



本来の私なら、ここで終わる・・・。


でも、こんな時でも、夏恋マジック。必要以上に私に話させる。


「・・・夏恋! でも私も・・・今日は、泣いてもいいかな!」



私は、夏恋の前で号泣した。

初めて、と思うくらい遠い記憶。

この私が、人前で泣いた・・・。







・・・長かった。柏田君を好きになって。

お互い高校生になれば、何か変わるかもしれないと

同じ高校を受験した。



そして、柏田君の体温を少しも感じられない片想いが、

今、終わる ――。






・・・苦しかった。






これで、今日で・・・、


純粋な友達に戻れる――。










************************************************************



         『夏恋の話』





翌日、私は柏田君に昨日の事を 心から丁寧に謝った。
そして、柏田君が払ったであろう 私のたこ焼きのお金を渡した。

「これからもよろしくお願いします。」の言葉を添えて。  



柏田君は席を立つと、廊下に出た。
そして、手招きする。

私は柏田君の後について行った。



ほとんど人の来ない、階段の踊り場に連れてこられる。

「・・・あのさ。 答えになってないんだけど。」

私は柏田君を見上げる。


「・・・好き。」


柏田君の切れ長の目が、笑顔でなくなった ――。











クリスマス・イブには、早朝から開店前の
《咲花》のキッチンで、ルミちゃんと
クリスマスケーキをママから教えてもらった。



15センチ型の二人用のケーキ。
 私は柏田君との為に。

ルミちゃんは18センチ型のケーキ。
兄弟の為に作った。







バレンタインデーも去年と同じように、
ルミちゃんとチョコレートを作った。


私とルミちゃん、私と柏田君は順調だった。











4月。高校3年生に進級した。

柏田君、そしてルミちゃんとも同じクラスになれた。


担任の先生は40代の女性、谷川先生になった。
この高校では数少ない、年配の超ベテランの先生だ。



社会科の村上先生が家庭の事情で退職した。


―― 5月。

手代木先生が着任した。







  ― 高1(過去)編☆END☆  再びの高3(現在)編に続きます♪―






↓ストーリーを最初からお読みになりたい方はこちらへ。。。
☆片想いの体温(高3編)☆


『片想いの体温』登場人物の紹介をアップしました。確認したい時にどうぞ♪
☆あらすじページ☆


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