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Emy's おやすみ前に読む物語
現在編 その3
社会科資料室を訪ねた。
資料室から教室に帰る時、小林が
「俺、昨日本庄の事でアイツと喧嘩になっちゃってさ。
だって、何で本庄なんだってしつこいんだもん。」
「俺も、帰り渡良瀬と気まずくて空気重かった。」
「俺が余計なこと、口走ったからだ・・。
でもあの席に本庄を連れて来た手代木にすごい感心しちゃってさ。」
「ん、俺はわかるよ・・。」
本庄はスタイルも美しさも頭脳も他の女子とは別格。
僕も己を知る者であり、小林も己を心得た者であった。
しかし誓って言えるのは、僕は何かをあきらめて
夏恋と付合ってるのではない。
またここで本庄と夏恋とどちらを選ぶと問われたら、
やっぱり夏恋を選ぶ。
男心は自分でも分からない。。。
僕に納得してない夏恋と本庄との事を少し心配した。
先生に誘われた本庄と、なぜ先生が本庄を誘ったのか疑問な夏恋。
今日の二人の仲は大丈夫だろうか?と思っていたが
休み時間は雑誌を広げて話していたし、
グループでだけど昼食も一緒に取っていた。
放課後になり夏恋が僕の席の前に立つ。
「私、ルミちゃんと帰る。」
昨日からまだ不機嫌なのか、それとも僕が部活を引退しても
本庄と下校する事を決めていたのかは分からないけれど、
僕が何も言い返せないような口調で言う。
僕は何も答えず教室を出る。
出る時に本庄と目が合った。
本庄も疑問に思うような僕ら二人の重い空気に
正直巻き込まれたくないような目をしていた。
別に夏恋が本庄と帰宅して、僕が一人で帰宅しても
大した問題ではない。
しかし、ギクシャクした空気の中で、
僕は“夏恋と帰宅する相手”でさえ、本庄に勝てないと思った・・・。
---------☆---------☆---------
~ルミちゃんの話~
校門を二人で出てすぐ
「ルミちゃん、夏期講習は出るの。」
と問われる。
A高は3年生に夏休みに入ってすぐの10日間、
大学受験の為の夏期講習をしてくれる。
「出席しないよ。」
高校生の弟と中学生の弟が午前中から部活に参加し
小学4年の弟が1人で留守番になってしまうから。
・・・いや、充分1人で留守番できる年齢。
本当の理由は違う。
今日から夏恋と柏田君は一緒に下校すると思っていた。
別に夏恋から何も言われてないけど、
私が二人に遠慮しなきゃならないような気になっていた。
柏田君のことは、心の整理はつけたはず。
だけど、目の前で夏恋と話し笑う姿は、胸がキュンと痛かった。
もう二人とは違う世界に眼を向けたかった。
だから学校の夏期講習はとらず、進学塾に入ることにした。
「ルミちゃんに夏期講習は必要ない・・・か。」
何が気に入らないのか、今日の夏恋はひとつひとつ嫌味な感じがする。
「進学塾に通う事にしたの。だから、夏休みもそっちで。」
「そうだよね。ルミちゃんみたいに頭が良くて勉強できたら
すごい大学行くんだろうから、進学塾とか家庭教師で勉強するよね。」
”いったい何が言いたいの?”
「夏恋、回りくどいのはやめて。
気に入らないのは夏期講習の事じゃないでしょ。」
夏恋が下唇をかんで私から目をそらし、少し歩みを速めた。
”このつまらないふてくされた歩みに私も合わせて、
話を聞くなんてバカらしい。”
私はあえて歩調を合わせなかった。
夏恋の背中が見える。
160cm弱の身長、小さい背中、少し襟にかかる短い髪。
”可愛い。男の子が好きになる後姿。”
少しすると夏恋が振り返って私を待っている。
私が追いつく。
「・・・ルミちゃん、今日はごめんね。」
こういう、素直に謝れるところ、私が夏恋の好きなところのひとつ。
「ルミちゃん、昨日先生とラーメン食べて帰ったの?」
”・・・はぁ?”
一瞬質問の意味が分からなくなる。
”これが、一日中夏恋が嫌味な原因なの?”
「食べないよ。私死ぬ程お腹いっぱいだったから。」
「お好み焼き食べたの?」
「食べなんてもんじゃないわよ。
滝本君がこれでもかってくらい焼いてたからね。
先生はほとんど食べてないと思うから、どっかでラーメン食べたかもね。」
「でも家まで送ってもらったんでしょ。話したんでしょ。」
「話っつーよりお礼かな。今日はありがとう、的な・・・。
普通、話くらいするよね。」
「・・・先生、ルミちゃんの事好きだと思う?」
”それ、私に聞く質問じゃないよ。”
「・・・ルミちゃんは先生の事、好き?」
“はぁ?”
・・これで解けた。
私が打ち上げに参加したのが気に入らないのか。
―― 違う。
先生が私を誘った事が、気に入らないんだ。
夏恋が先生に憧れているのは知っている。
・・って言うか、女子生徒はほとんどが手代木先生を
恋心に近い憧れの目で見ている。
・・・私も先生は好き。
先生はいつも男っぽいし、変な小細工する様な人じゃないし、
敏感じゃないけど鈍感じゃないし、同情じゃなくて優しいし、
・・・可愛い程度にエッチなところも。
私も、恋心に近い憧れを持っているのかもしれない。
しかし、男として好きと言うよりは教師として好き、が 今の心情かも。
”お好み焼き“も、先生に誘われたって事より、
仲間外れにならなくて良かったって気持ちの方が大きかった気がする。
「―― 先生の事は好き。教師としてね。」
「・・告られたらどうするの?」
「それは、告られたら考える。」
「ルミちゃんに告るよ。
・・だってルミちゃん美人だし、スタイル良いし頭も良いし、
両親お医者さんだし、お金持ちのお嬢様で・・・
私なんかとは全然違うもんね。」
「・・夏恋、それマジで言ってんなら私怒るよ。」
お互いの自宅への分かれ道に着いた。
私も開き直る事にする。
「―― 言う通りかもしれない。私と夏恋は全然違うよ。
だから一人っ子は嫌。欲張って何もかも手に入れたくて、
それを手にすれば、特に大切にする訳でもない。
そのくせ両手で抱えきれないくらい持ってても、
誰にも少しも分けたくない。」
「ルミちゃん。。。」
夏恋は私がここまで言い返すとは思わなかったらしく、
驚いた大きな目で、私をじっと見ている。
“勢いで言い返してしまったけど・・・、私は夏恋を失っちゃうのかな。
たった一人の親友をなくしちゃうのかな・・。
きっとこのまま夏恋を帰宅させてしまったら、私 後悔する。
でも・・・。”
「私、ルミちゃんに嫌われちゃったのかな・・?」
ホッとした。
ここでくだらない意地を張らないところ。
さりげなく私を立ててくれる話し方。
・・・夏恋の方が、ずっと大人だ。
「夏恋、今日家に寄っていって。お店の手伝いの時間まで。」
この際だから、とことん本音で話したい。
夏恋は声を出さずに頷いて、私について来る。
ふと、夕食の買い物の事が頭をよぎる。
“―― ばかじゃないの。こんな友情の危機に・・・。”
今夜は家族全員レトルトカレーに決定!
“・・やばい。
私、心のマグマが吹き出す気がする ――。
---------☆---------☆---------
~夏恋の話~
ルミちゃんの部屋で待つ。
ベッドと机だけ。白とベージュだけ。
整理されてるより、散らかすものが無いだけ。
”私の部屋”と言うより、ホテルの部屋みたい。
クールなルミちゃんらしい部屋だなっていつも思っていたけど、
なんだか今日は少し寂しい。
少し肌寒い位の冷房のせいか、心までが緊張して冷たくなる。
ルミちゃんの足音とグラスと氷の粒がぶつかる涼しい音が聞こえてくる。
私が部屋のドアを開けると、トレイにカルピスのグラスが2つ乗っていた。
ルミちゃんが部屋に入り、トレイ一旦机の上に置く。
そして50センチ四方の小さいテーブルを出す。
白地にオレンジ、ピンク、水色の大きな花の絵のテーブル。
「可愛いテーブル。」
「輸入雑貨のお店で買っちゃった。」
2人で顔を見合わせて微笑み合う。空気が和む。
「夏恋、私言い過ぎた。取り消しできない事に後悔してる。」
「ルミちゃん、私もしつこかった。ごめんねって謝ってからもクドクド・・・。」
「夏恋、《咲花》の時間もあるから、はっきり言うね。
私、夏恋は持ってる物の価値に気が付いてないと思う事多くて。」
「持ってる物の価値・・?」
「私は夏恋の言うとおり、両親医者でお金に困った生活は正直したこと無いよ。
でもいつも夜遅くまでいない。
私、母親のご飯なんて中学2年生位から食べてない。
お弁当も数えるくらいしか作ってもらってない。
休日も急患が入って予定キャンセルなんて当たり前。
今ではどこか旅行なんて話も出ないよ。
私、それでも医者の両親嫌いじゃない。あれだけ忙しいって事は、
腕の良い優秀な小児科医なんだと思うもの。
・・・でも、夏恋。私、知っちゃったの。
夏恋のパパとママが、娘の友達をも大切にしてくれるって事。
おばさまとバレンタインのチョコやクリスマスケーキを作る楽しさ。
ママが近くにいてくれる安心感。
夏恋は一人っ子だけど、両親がたっぷり愛してくれてる。
私達姉弟は4人もいるけど、いつも寂しい。
・・・私、夏恋と友達なんだって事も、柏田君が好きだった事も
母さんに話してないの。 ・・聞いてもらう時間も無いの。」
”初めてお母さんって呼んだ。”
今まで"母親"って言って突っ張ってきたルミちゃんの弱さのように感じた。
”失恋も友達にも・・って言うか、私にも話せないし、お母さんにも話せず、
たった1人で乗り越えたんだ・・。
私のパパが死んだ時、ママがいつもそばにいてくれたから
私は冷静だったのかもしれない。
その後、ルミちゃんも柏田君もバレー部の男子もみんなそばにいてくれた・・。”
「柏田君とも、一緒に帰ってくれていいの・・。
今まで私を優先してきてくれて、本当に嬉しかった。」
「ルミちゃん、私は・・・。」
ルミちゃんは私の言葉を意識して遮る。
「その上、今度は先生まで気になるの?それは欲張りすぎ。」
「・・そしたらルミちゃんは、誰とうちに帰るの?」
「一人で帰るよ。一緒に帰らなくたって、私と夏恋はずっと友達。
ま、夏恋の事だから、柏田君と帰宅しても、
私が他の人と帰宅すると面白くない・・ってところでしょうけど。」
「ルミちゃんは何でもお見通しだね・・。」
「この辺で、柏田君優先しないとかわいそう。誰かに取られちゃうから。」
「・・・。」
「夏恋も私に言いたい事ある?」
”―― いたい事いっぱいあるよ。
・・ねえ、ルミちゃん。
私、柏田君と付き合ってても、先生が気になって仕方が無いの。
だから先生とルミちゃんが付き合ってくれたら、諦められる。
だってルミちゃんなら、私勝てないもん。
ルミちゃん、先生もしかしたらママを好きなのかもしれない。
だって先生 ママに・・私には見せない、ルミちゃんも知らない、
甘えるような照れるような笑顔を見せるんだよ。
先生がママを好きになっちゃうなんて、嫌だよ。
ママに嫉妬するなんて、考えられない。
それに、ママが誰かと恋愛するなんて・・。
確かにママはきれいだし・・、でもママはママで、母親なの。
なのに先生はママの事《喜春さん》って呼ぶんだよ。
それから・・・。
ルミちゃん、お願い。先生をママから奪ってよ!
って、何もかもルミちゃんにぶちまけたいよぉ。
・・・苦しいよ・・・。”
涙が出そうになる。でも泣いてしまったら、
その理由をルミちゃんに話さなければならなくなる。
泣いてしまったら、その理由を話さないではいられなくなる。
「ルミちゃん・・これからも友達でいて。」
これだけ言った。
「―― 私が夏期講習を取らなかったのは、
夏恋と柏田君から目を反らす為なの。
正直に言う。まだ好きみたいなの。 ・・困っちゃうでしょ。」
ルミちゃんが言いにくそうに、申し訳なさそうに私を見る。
「だから早く違う事に目を向けたいの。早く・・・。」
ルミちゃんが目を反らし、下を向いた。
「――早く、夏恋を羨ましく思うばかりじゃない私になりたいの。」
ルミちゃんが涙声になる。
もらい泣きしそうになる。
―― 嫌、今は泣きたくない。
泣いてしまったら、取り返しのつかない事まで話してしまう。
ルミちゃんがボックスティシューから2枚勢いよく取り出すと
目を押さえた。
そして赤い目をして笑顔を見せた。
「嫌だな、夏恋マジック。心の隅まで話させられちゃう。
・・ごめん、勝手にしゃべった事まで夏恋のせいにしちゃって。」
ルミちゃんが時計に目を向けた。
「5時になっちゃった。外が明るいから分からなかった。
急いで帰って。私の自転車使う?」
「大丈夫。ルミちゃんこそ夕食は?」
私も話をしながら部屋を出て、玄関で靴を履く。
ルミちゃんが背後から、
「今日はカレー。これから買いに行く。」
「夕食、遅くなっちゃうね。」
「大丈夫。お湯で温めるだけだから。」
私たちは笑った。
ルミちゃんの家を出る。
道を歩いていたら、ルミちゃんの中学生の弟に会った。
挨拶したら「こんにちは。」と返してくれて、通り過ぎていった。
前会った時より背もずっと高くなって、声も変わっていた。
”さすがルミちゃんの弟。かっこ良くなっちゃって。
夕食はレトルトカレーだぞ。
私の夕食はなんだろう。あっ・・。”
先生の夕食の事が頭をよぎった。
”今日は《咲花》に来ないといいな――。”
18:30 《咲花》を手伝い始める。
今日は18:00の開店と同時にお客様が来店したらしい。
「ママ、ごめん。遅くなって――。」
盛り付けの済んだ料理をテーブルに運ぶ。
私はカウンターに立つママを見る。
ママは長い髪をひとつに結び、大きなクリップでアップに持ち上げている。
ママはパパが生きていた頃、髪を黒に近いブラウンに染めていた。
仕事の時はひとつに編み込みして、下におろしていた。
しかし休日前夜から 巻いたり三つ編みにして、
休日はふんわりとカールの髪をしていた。
子供の頃、私の「髪、短くしないの?」の質問に
「長く下におろす髪はパパが好きなの。」と答えてくれた。
「ママ、お姫様みたい。」って言ったっけ・・。
ママはこれといって特徴のない髪形なのに、よく美容院に行っていた。
―― そうだった。
ママは仕事の時はジーンズだけど、休日はスカートをはいていた。
ネックレスやイヤリングもつけてた。華やかにおしゃれしてたっけ・・。
確かパパを納骨した日の夜、ママに
「ママ、近日美容院に行ったら?そしたら気分も・・・。」
「何の為に?・・もう、パパもいないのに。」
「・・ママ、私の為に。」
そう言ったら、ハッとした様に私を見たっけ・・・。
今は美容院も、半年に一度くらいしか行かないし、
髪も染めてない。
相変わらずの長い髪を、下におろす事もしない。
休日もスカートをはかない。アクセサリーもつけない。
あの頃に比べたら地味で、シンプルに素材だけになった。
なのに、ママは美しい・・・。
”先生、今日は《咲花》に来ないで欲しい。
先生とママ・・・。
先生のママだけに見せる笑顔、今日は見たくない。”
―― 先生は、来なかった。
次の日から、ルミちゃんに言われたとおり柏田君と帰る事にする。
3時間目の休み時間、廊下で女子生徒と話している
柏田君の前に立つ。
「今日は一緒に帰ろう。」
この女子、前から柏田君に少しずつ近づいてるって
誰かから聞いた事がある。
一瞬、3人の空気が緊張する。
「・・本庄は?」
「今日は、柏田君と帰る。」
柏田君が隣の女子を見てから、私に視線を戻す。
「―― うん、いいよ。」
チャイムが鳴り、3人とも自分の席に着く。
授業が始まる。
”・・ルミちゃん、こういう事だったんだ。
心配してくれて、ありがとう・・・。”
---------☆---------☆---------
~初子さんの話~
今夜初めて手代木先生・・・って言ったっけ、うちの店《雪丸》に来た。
年上の女性と、眼鏡をかけた若い男性と。
学校も明日から夏休み。
先生も一区切りと言ったところだろうか。
生ビールの中ジョッキを3杯、テーブルに運ぶ。
”一応確認しておこう。”
「A高校の先生ですか?」
「・・はい。」
”間違いない。ボクちゃんだ。
喜春と並んで歩いていた時は遠くて、雰囲気は分かったけど、顔までは・・・。
近くで見たら、なかなか。 ・・・こりゃ、夏恋も気になるわ。”
お酒を飲んでる様子では3人とも、まあそれなりに
楽しそうではあった。女の先生は特に楽しそうだ。
男の先生2人が気遣い、盛り上げる。
女の先生だけが気持ちいい、ホストクラブのようだ。
”男の先生も大変だ。
―― ところで、喜春にはどうなんだろう。
何しろ、渡良瀬先生とは大違い過ぎる。年齢も、ビジュアルも。
・・・これは楽しくなってきた。”
次に会ったのは《咲花》で、ランチで来店した。
13:00頃、テーブル席に着き新聞を読んでいる。
水を運ぶと、
「日替わりランチを。」
注文しながら、新聞から目を離す。私と目が合う。
「あっ。」
「夏恋の先生なんでしょ。 いつもお世話になってます。
昼間はこっち、夜はあっちで働いてるの。
夏恋は夏期講習行ってるよ。先生は・・お休み?」
「生徒は夏休みだけど、教師は休みじゃないですよ。
交替で撮りますけどね。僕も昼メシ食ったら、学校に戻ります。」
カウンターに戻って喜春に注文を伝え、出来た料理を運び再びテーブルに行く。
日替わりランチと冷やしトマトをテーブルに並べる。
「あっ・・。」
ボクちゃんがトマトを指差し、私を見る。
”サービス品”って意味で、他のお客に知られないよう
ウインクを返す。
ペコッと頭を下げる。
”へぇ。可愛いねぇ。”
そう思いながらカウンターに戻る。
喜春は少しもボクちゃんを気にかける様子は無い。
ボクちゃんがレジに立つ。喜春は忙しく、手が離せない。
私がレジに入る。
”可哀想に。喜春と話したいよね。”
「トマト、ご馳走様でした。甘くて美味しかったです。」
ほんの少し意地悪をする。
「いいトマトでしょ。《咲花》には野菜の達人が付いてるからね。
”板倉のおやじの事だけど・・知ってるよね?”
夏恋から、ボクちゃんの板倉のオヤジに対する武勇伝は聞いている。
ボクちゃんの顔が、一瞬男の顔になる。
「はい、300円のお返しでございます。ありがとうございました。」
ボクちゃんがチラッと喜春を見る。
喜春は、カウンターに座ったネクタイの青年と話している。
どこかの企業の渉外担当のようで、年もボクちゃんと同じくらいだろう。
小声でボクちゃんに耳打ちする。
「あの男には冷やしトマト、出してないね。」
ボクちゃんの表情が、ほんの少し嬉しそうにゆるむ。
---------☆---------☆---------
~夏恋の話~
私はあの日から、柏田君と下校してる。
柏田君と2人も楽しい。
ルミちゃんとは寄り道って出来なかったけど、柏田君とはアイスクリームを食べに行ったり、
本屋さんで参考書とか見たり、暑くても少しでも涼しい木陰の公園のベンチで
ペットボトルのジュースを飲んで話するのも、
下敷きであおぎっこするのも、新鮮で楽しい。
私が《咲花》の手伝いに入るまでの2人の貴重な1時間。
“柏田君・・・。”
夏休みの午前中、夏期講習も一緒に参加する。
下校する時、柏田君は校庭から必ず体育館を見る。
バレー部の練習が、開いた扉から遠く少し見える。
一度、帰り道で
「バレーやりたい?」
って聞いたら、
「やりたいよ。体動かしたいね。
机に向かってるだけだと色々考えちゃうし。」
「いろいろって?」
柏田君は私を見ないで、前を向いたまま答える。
「受験に対してもネガティブになっちゃうし、ヤバイ事考えちゃうし。」
私は柏田君をからかうように、前に歩み出て顔を覗き込む。
「ヤバイ事って・・・エッチな事だったりして。」
「バーカ。」って言ってくれるかと思ったけど、私をじっと見て立ち止まる。
そして一言。
「ビンゴって言ったら?」
「あはは。当たっちゃったりして。」
マジな柏田君の表情がゆるむ。私は沈黙を避けるように
話を続ける。
「ルミちゃん、今頃どうしてるかな。」
「クーラーのガンガン効いた部屋で猛勉強中じゃない。
だって、アイツ医学部でしょ。」
“ルミちゃんは医学部 ――。”
そうだ、忘れていた。
ルミちゃんと将来の話ってした事ないけど、両親が医師なら
ルミちゃんも当然その道を選ぶだろう。
“―― 医学部。”
ルミちゃんが急に手の届かない遠い所へ行ってしまうような気がした。
「柏田君は?」
「特に具体的には決まってない。でも、夏期講習の後
塾には行こうかなって考えてる。夏恋は?」
“柏田君も、塾に行く・・・。”
私も何も決まってない。大学に行くのかさえも。
やはり進学するとなればお金もかかる。ママにこれ以上の負担も掛けられない。
第一、ルミちゃんや柏田君と同じようなレベルの大学にいける訳も無い。
なのに2人が塾へ行くと言えば、なんだか焦る。
返答の遅い私に柏田君が続ける。
「《咲花》の仕事するの?そしたら調理学校に行くの?」
「・・私、まだ何も決まっていなくて。」
“パパがいない今、就職することも選択肢に入れなきゃ・・・。”
---------☆---------☆---------
~初子さんの話~
夏休みで学生食堂も休みのせいか、ボクちゃんが時々
昼食に《咲花》に来店する。
テーブル席について、新聞を読んでいる。
注文を受けて再び料理を運ぶ時、喜春から
小皿一品サービスがつく。
先日の冷やしトマトだったり、アイスクリームだったり、
スイカときゅうりを小さく切って盛り付けたものだったり。
料理を運ぶ私に、他の客に分からないようペコリと頭を下げる。
そして必ずカウンターを見るけど、喜春のほうは相変わらず
逆に意識した意地悪と思うくらいボクちゃんを気に掛けない。
私がカウンターに戻ると20代前半だろうか、制服を着た
若いOL2人がボクちゃんをみて気に入ったらしく
喜春に問う。
「ママ、あのテーブルの彼って、最近よく来ますよね。
近所の人?」
「そうですね、学校の先生と聞きました。」
「何歳くらい?結婚してるの?」
「さぁ、どうかしら。」
と、笑顔を向ける。
あまり詳しい事は教えない。ここも喜春らしい。
“私なら、誰でも知ってるような情報は流して
OLと盛り上がっちゃうけどな。“
私は《雪丸》でもだけど、お客さんと楽しく話して親しくなって
常連さん、って言うか仲間を作りたい。
―― でも、喜春は違う。
お客様には当然 笑顔を向けてはいるけど対応はドライだ。
それはそれでいい。
ここは喜春のお店なんだから・・・。
《咲花》は、ランチタイムは11:30~14:00で終了し、一度店を閉める。
その後16:00まで、喜春と私で片付けて昼食をとる。
喜春が食器を洗い、私がそれを拭き食器棚に戻す。
―― 面と向かってよりは、この時がいい。
私は、ボクちゃんについてもう一度 喜春に聞いてみる事にする。
「・・ボクちゃんよく来てるね。週1回は来るよね。・・夜も来るの?」
「ボクちゃんて、手代木先生の事?初子さんには、男の人も敵わないわね。
・・・夏休みは昼と夜で週2回かな。」
「夜はどうしてるの。カウンターに座る?」
「座る事もあるけど、テーブルが多いかな。本を読んで勉強してるようだし。」
”何の本だよ。積極的にカウンターに行けって。”
「カウンターに座ったら、何の話するの?」
「普通の話よ。夏恋と話してる事も多いし。」
”そっか、夜は喜春より夏恋が先生に・・ね。”
「先生、喜春からオマケ付けてもらってお礼言いたそうにしてるけど、
喜春 目も合わせないし、レジにも立ってあげないから。」
「だって、ずっと見てたら食べにくいでしょ。
レジはタイミングが合わないだけよ。」
「・・・喜春は今までだって、毎日のように来店してくれる人にだって
オマケの一品なんて出した事無いじゃない。」
「夏恋の先生だからよ。先生に良くしておけば夏恋が可愛がってもらえるもの。」
喜春は話しながら、私たちの昼食を作り始める。
私は手伝いもせず、向かいのカウンター席につく。
「・・・ボクちゃん、喜春の事好きだね。」
喜春は私に何も返答しない。
聞こえない振りできる距離じゃない。
「昼は女性でほぼ満席のところに、若い男が一人で店内に入るのには
勇気出して来てると思うよ。・・しかも、学校からわざわざこの離れた店に。
あの若さじゃ山ほど肉が食べたいだろうに、わずかな喜春の心欲しさに、
週に2回も野菜ばっかりのウサギのご飯食べに来てさ。
私はボクちゃんが健気で痛々しいよ・・。」
「―― ほらっ、初子さん受け取って。」
喜春がカウンターの私に、ハムと卵とキュウリのサンドイッチを渡す。
「―― ウサギのご飯だけど。
初子さん、今日もお疲れ様でした。」
喜春が私の隣のカウンター席に着く。
「喜春・・、何歳になった?」
「37歳よ。」
「37歳か。・・・私、喜春には恋愛して欲しいな。
ボクちゃんがマジだったら、どう?」
「手代木先生はずっと年下よ。そんな事、あるわけないでしょ。」
「―― あったら? 私は今の喜春が他の男性に目を向ける事は
悪い事だとは思わない。渡良瀬先生はもう亡くなったの。」
一瞬にして、喜春の顔色が変わる。
「―― 秋彦さんは亡くなったの 。 たった一人で。」
「でも、それは喜春のせいじゃない。
・・私は、ボクちゃんを想う喜春を責めてるんじゃないの。」
「・・・私が手代木先生を想う?」
「夏恋の先生だからって言ってるけど・・。」
喜春の目が私を敵視するように鋭くなる。
「・・・面白いもの。手代木先生って。」
鋭い視線とは逆に、わざとらしいくらい静かに話す。
こうなった時の喜春を、一度だけ見たことがある。
心が不安定になるとこうなると、渡良瀬先生が教えてくれた。
この態度が私に向けられたのは初めてだ。
・・少し、怖くなる。
喜春は続ける。
「少し優しくしたり、励ましたり心配したりすると、
すぐ反応するの。 可愛い顔して笑うの。
―― おもちゃみたい。
若いから、すぐ本気にするの。すごく面白いの。」
「喜春、もうボクちゃんの話はやめよう。・・・渡良瀬先生の話も。」
お互いに話をやめて、食事をとる。
長い、沈黙 ――。
―― 解かっている。
喜春が渡良瀬先生を愛している事。
愛する人を一人で逝かせてしまった深い後悔。
思いがけないボクちゃんの出現。
最初は夏恋の先生だったから、励ましたりしてたんだと思う。
そして、少しずつボクちゃんに惹かれてしまっていた・・。
そこを私につっつかれ、ボクちゃんを否定し、
今までの自分の態度を否定する。心が不安定になる。
”嘘はつかないって喜春は言うけど、・・・嘘つけないんだなぁ。”
心が落ち着いてきたのか、喜春の表情が穏やかになる。
喜春が口を開く。
「初子さん、分かってるの。心配してくれてる事。
・・・秋彦さんが亡くなって、まだ2年弱よ。
他の事は考えられない。」
「そっか。2年か・・・。
ただ、寂しがり屋なのに気丈に振舞う喜春を
見てるのが辛くて。・・・もっと長く感じた。」
”ボクちゃんの出現は、ちょっと早過ぎたのかな。”
「ボクちゃんは喜春の店のお客様。喜春の好きにすればいい・・・。」
―― 喜春が心を開いて本音を話せる人は限られている。
一人は渡良瀬先生。一人は夏恋。
私が《咲花》を手伝う事になったのは、喜春が店をオープンさせる少し前、
渡良瀬先生が友達と《雪丸》に来店し、偶然再会した。
この町に引っ越してき来て、友達に連れて来てもらったと話した。
私はB調理学校の渡良瀬先生の生徒だった。
高校3年で進路決めなきゃならなくて進学も就職もしたくない私は、
しょうがないから専門学校に行った。
なもんだからやる気も無いし、覚える気も無い。
そんな劣等生の私に、先生は熱心に洋食の指導をし
「仕事に活かさなくてもお母さんになったら役に立つから。」
と、ほとんど忍耐で卒業させてくれた・・。
先生のお陰で、ファミレスに毛が生えたような店に就職も出来た。
先生には感謝している。
その先生が私に頭を下げた。
「カミさんがちょっと難しくて・・、人を入れたがらないんだ。
でも一人ではお客さんをこなせない。
昼間だけでいいから、店を手伝ってもらえないかな。」と。
”カミさんが難しいって何?
・・って言うか、カミさん?先生のカミさん?!
うわぁ、見てみたい! 会ってみたいじゃなくて、見たい!
熱心で優しくて包容力もあって・・なんだけど
正直、デブっちょでブ男のカミさんて?!”
・・・それに、先生は恩人と言っても過言じゃない。
夜は《雪丸》がある。
カミさんが難しい人。
三日間考えて、「昼間だけなら。」と、引き受ける事にする。
《咲花》のオープンが迫ったある日、私は喜春に会った。
正直、すごくびっくりした。
―― 可愛い!色が白くて目が大きくて。
それに、何歳? どう見ても20代後半から30代。
50代の先生から想像もしなかった。若い。私より年下だ。
美人なだけに冷たそうで、ほんの少し儚げで、緊張感が伝わる・・・。
お互い挨拶を交わしていると、娘がひょっこり顔を出した。
顔は幸いにも母親似だけど、持ってる雰囲気はのんびりと温厚で、
父親そっくりだ。この娘の空気に私もホッとする。
―― 仕事に関しては、優秀な店主と思う。
いつも笑顔で細やかな接客。
反面ドライなまでにお客様に入り込まず、自分の心に誰も侵入させない。
なおも来店客が多いのは、やはり料理の美味しさだろう。
喜春が私を受け入れてくれるのは、私を知ってきたからではない。
先生の紹介の私だから、信用してくれたのが大きい。
それでも喜春が私に、ほんの少しでも本音を話せるようになったのは、
ごく最近の事・・・。
先生が亡くなってからかもしれない・・・。
---------☆---------☆---------
~ルミちゃんの話~
―― 夕方、塾の帰り デパートに寄った。なんとなく気分転換したくて。
冷房が気持ちいい・・・。
大学に入学したら、おしゃれしよう。
洋服の売り場を進む。
サークルに入って、アルバイトもして、イタリア語も勉強したい。
彼氏も出来て、デートもしてみたい。
エスカレーターで上がる。
生活品売り場。
一人暮らしもしてみたい。
・・そうだ、都内の大学だったら。
遊びに行くには何とか行けるけど、通学するとなれば難しい距離。
頑張って勉強して、都内の大学へ行こう。
一人暮らししよう。
エスカレーターで再び上がる。
”・・あっ、浴衣。”
着たのは小学校以来だ。なんとなく近づいて、手に取ってみる。
ひとつ、とても気に入った浴衣があった。
濃紺に桃色、黄色、橙色の大きな朝顔の柄。
セットでからし色の帯がついている。
今年も一番下の弟を商店街のお祭りに連れて行く。
”商店街のお祭りくらいじゃ、浴衣なんて要らないか・・。”
・・・浴衣を戻した。
デパートを出る。
電車に乗る。
2駅で降り、ホームを歩き出す・・。
”―― あっ、手代木先生。”
20mぐらい前に先生の後姿を見つける。
少し嬉しくなって、小走りに駆け寄ろうとする。
『―― 手代木先生、ルミちゃんの事好きだよ。』
夏恋がそう言ったのを聞いてから、そんな事ある訳ないって思いながら、
先生を意識している。
”話しかけよう。”
以前、本屋さんで先生に話しかけた事を思い出した。
あの時もドキドキした。そして今、全く違うドキドキを感じる。
”―― あっ。”
先生に女の子が話しかけている。
先生も並んで歩き始める。
二人の背中を見ながら歩く。私はいつも一歩遅い・・・。
改札口を抜けると、彼女は先生と逆方向に歩き始める。
”もう少し、もう少し・・・、先生が階段を降り始めたら・・・。”
階段を降りる先生に小走りに追いつく。
「 ・・先生。こんばんは。」
「―― おぉ。」
「見ちゃった。・・デートですか?」
「違うよ。今、駅で会ったの。2年生だよ。」
「知ってますよ。後ろで見てたもの。
・・じゃ、本当のデートの帰り?」
「残念。研修会だぜ。本庄こそデートか。」
「残念。塾の帰りです。」
”彼氏いないの知ってるくせに。 ・・・先生、意地悪!”
先生よりわざと半歩遅れて歩く。
時計を見ると18:20だった。
「・・本庄、メシ食ってこうか。」
先生は私の顔を見ず前を向いたまま、さりげなく誘う。
「・・・私、今日 電車賃しか持ってなくて。」
「んなっ、心配すんな。」
先生は私のおでこを手の甲で軽く2回弾いた。
―― ドキッとする。
170cmの大きい女の私に、こんな可愛い事してくれた人今までいない。
長身の先生には、私の背丈も気にならないのかもしれない。
女の子扱いが嬉しい。
「家に電話します。弟達、大丈夫かな。」
私はかばんから携帯を取り出す。
家にコールしようとする私に
「本庄、頑張って電話しろ。俺を断るなよ。」
深いこげ茶色の目がいたずらに笑いながら、私を覗き込む。
今日の先生もちょっと強引。・・・でも、嫌いじゃない。
電話がつながる。高校生の弟が出た。
"よかった。帰ってきたんだ。”
彼が帰っていれば、夕飯は何とでもなる。
状況を話し、電話を切る。
「行けるか?」
「はい。一番下の弟が電話口の向こうでグズッてましたけど。」
「大丈夫!弟にも試練を与えないとな。」
《咲花》に行く事にする。
今度は先生の隣を歩いた。
並ぶ私に先生は、話しながらさりげなく車道側に移動する。
『先生、ルミちゃんの事 好きだよ。』
夏恋の言葉が浮かぶ。そして心に言い聞かせる。
”誰にでも・・・。私だけじゃないって。”
---------☆---------☆---------
~夏恋の話~
先生が《咲花》に来店する。
18:40 ―― いつもよりずっと早い。
「いらっしゃいませ。」
先生の抑えた扉から、ルミちゃんが顔を出す。
”・・そういう事か。2人、一緒だったんだ。”
「先生、カウンター席でもいいですか。」
ルミちゃんが先生にそう言うと、2人でカウンターに着く。
私は2人にお水を渡しながら、わざとはしゃぐ。
「ルミちゃん、久しぶり!元気だった?」
元気かどうかなんて見れば分かる。
本当に聞きたいのは・・・。
「元気だよ。先生とは駅で会って。」
ルミちゃんはすぐ察してか、私に先生との偶然を瞬時に伝える。
「先生、どうぞ。」
私は先生にメニューを渡す。
余裕の笑顔を作り、頑張って平常心を装う。
「ルミちゃん、今日はルミちゃんメニューにする?」
「今日はこっちのメニューから選ぶ。
先生にご馳走してもらうから。」
ひとつのメニュー表を二人で見る。
”バレー部の打ち上げから、着実に2人の距離は縮まってる。”
「・・・私、これにしよう。」
とルミちゃんがメニューの字を指でなぞる。
「あ、俺も。それにしようと思った。」
2人がちょっとの偶然に微笑み合う。
”私、確かにルミちゃんにママから先生を奪ってって思った。
こうなるのは私が望んだ事。けど・・・。”
私は先生からメニューを受け取る。
先生はルミちゃんと話し始めて、
渡す時、私を見てもくれない・・・。
「ママ、夏野菜の冷たいパスタ。」
「はい。」
ママが返事する。
広いカウンターじゃない。
なのに先生達に挨拶に来るわけでもなく作り始める。
その後、《咲花》は少しずつお客様に埋まっていく ――。
接客しながら、私は2人が・・・
いや、ママも含めて3人が気になって仕方がない。
ルミちゃんが携帯を見せ、先生が覗き込みながら話していた。
2人は本当の恋人のように見える。
美男美女のカップル・・・。
”芸能人のカップルみたい。
ママ、見て! 先生とルミちゃん、お似合いでしょう。
だからママは2人に挨拶もしないんだ。
―― ヤキモチ!”
私は意地悪になる。
ママが二人にカウンターから出てパスタを運ぶ。
「先生こんばんは。ルミちゃん元気でしたか。」
2人に笑顔を向ける。
パスタを置くママに、ルミちゃんが何か話しかけていた。
ママは前方のルミちゃんに話しかけながら後方の先生の首に指先で触った。
不意に触られたので先生がビクッとする。
「髪、ついてた。」
髪一本をつまんだまま、カウンターに戻りゴミ箱に捨てる。
私は見逃さなかった。
一瞬の先生のアセッた顔。
”ルミちゃん、今の先生の顔見た?先生、やっぱりママの事・・・。”
先生に相手にもされない私が勝手に思う
『ルミちゃん VS ママ』を複雑な心中で見つめる・・・。
先生とルミちゃんがカウンター席で私とママがカウンターに入り
4人が向かい合った時、ルミちゃんが
「夏恋、私 おばさまに頼みたい事あるんだけど・・・」
私を見た後、ママを見る。
「おばさま、浴衣って着せられる?お祭りの夜に着てみたいんだけど・・・。」
”おっとルミちゃん、先生の前でわざとらしい和美人攻撃しかけるのか?”
「私は着せられないんだけど、初子さんができるから
頼んであげる。その代わり髪は私が結ってあげるわ。」
「本当?! 嬉しい!」
「こことここと編みこんで、それからアップにして・・・。」
話の途中でママが他のお客様のレジに立つ。
私は食器を下げに行く。
再び4人が揃う。
ルミちゃんが話を続ける。
「・・・今日、塾の帰りにデパートに行ったの。
そしたらとっても気に入った浴衣があって・・・。
初子さんが着せてくれるなら買おう。
買ってって、お母さんに頼んでみよう・・・。」
ルミちゃんが『お母さん』と口にするのは珍しい。
「寄り道したから先生にも駅で会えたし。」
いつになく饒舌だ。
大人っぽくクールに見えても、ルミちゃんだって18歳。
”私いつからこんなに意地悪な気持ちになってしまったんだろう。
和美人攻撃なんてない。浴衣の事、純粋に嬉しいんだ・・・。
先生とだって、偶然会ったって言った・・・。”
「ルミちゃん、先生、桃食べる?」
小声でママが2人に問う。
そのまま冷蔵庫から大きくて瑞々しい桃を
1つ持って来て見せる。
「すご~い、おいしそう!」
私もルミちゃんも、桃の美しさに小声で感激する。
「本当に美味しそうですね。」
先生も感心する。
「ところがこの桃の値段聞いたら安くて驚くよねぇ、ママ。
言わないけどさ。ここは板倉のおやじはやっぱ流石なのよ。」
「板倉のおやじって、あの・・・。」
「そっ、エロおやじ。ママ大好きって。」
私とルミちゃんは小声で大笑いする。
ママが桃を切って、先生と私とルミちゃんにも切り分け、
他のお客様の接客をしにカウンターを出た。
桃は予想通りの美味しさで、私とルミちゃんは再び
歓喜の小声をあげる。
・・・先生は桃を食べながら、笑っていなかった。
―『現在編その4』へつづく―
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