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FANG OF EDEN
第1話・続(2)
/3
明るく賑わう街中を、俺は相棒と歩いていく。隣を歩くカイルは、歳相応の好奇心を宿した目を露天商や屋台へとせわしなく動かしていた。
被弾したアルファスクエアは、飛行不可能な状態のダメージを負っていたようで、着陸しての修理を要した。現在、ディック率いる整備班の連中が修復作業に精を出しているが、それでも数日間は掛かるという。M.M.の構造しか知らないヴァルキリーがこの作業に参加出来るはずもなく、暇を持て余していたところをネレイユに見つかり、こうして街へ買出しに出ているわけだ。
「商業都市って、いろんなものがあるんですね」
ファストフードの屋台に視線を奪われながら、カイルが言う。ふと俺を見た奴の顔には、はっきりと「これが食べたい!」という切実な願望が伺えたが、余分な資金はないので無視をする。
頼まれた買出しを済ませた俺は、両手一杯の紙袋をカイルに手渡し(勿論、強引に)、奴を先に帰らせる。カイルの背中が人込みに消えるのを確認してから、歩き出す。
「商業都市セントハイムと言えば、樹液酒だよな」
この都市の特産品が、脳裏に浮かぶ。氷に反射する透き通った琥珀色、口内に広がるあの甘さ、喉を焼くアルコールの濃度・・・・・・どれをとっても天下一品の酒だろう。まさに、大人の味。酒豪にしか解らぬ美味しさである。
しばらくすると、古風な貫禄のあるバーが現れた。迷わず、店内へ入る。内装も落ち着いており、流れるクラシックミュージックが大人な世界を醸し出す。
(いい雰囲気の店だな)
木製のカウンターに肘をつき、バーテンに樹液酒をオーダーする。にこやかな微笑で銀色のシェイカーを振るバーテン。シャカシャカと心地のいい音を鳴らして、銀の軌跡を描くシェイカー。ぼんやりとそれらを眺めていたら、隣から聞き覚えのある声が聞こえた。
「バーテン、私にも樹液酒を」
低く渋みのある声。先の戦闘地中、何度も聞いたこの声。
まさか、そんなはずは・・・・・・いや、可能性としては十分にあり得る。しかし、声が似ただけの別人かもしれない。
現実から逃避しようとした俺の意識を、神は無慈悲に引き戻させ、突き放した。
「ん? お前は、フリスト少尉か」
畜生、階級までいつ覚えたってんだこの野郎。さては、ネレイユの差し金だな。
「・・・・・・コレハコレハ、中尉デハアリマセンカ」
あたかも今気づいたかのように、棒読みの敬語で応える。
「奇遇だな。私は、作戦指揮補佐官殿に休養しろとの命令でここに来たのだが、少尉はどうしてここに?」
そんなの、アルコール欲しさに決まってんだろ・・・・・・というのは口が裂けても言えないので、慣れない敬語で遠回しに言う。
「適当に歩いていたら、喉が渇いたもので」
「成程、そうだったのか。ところで少尉、敬語は使わんでいいぞ。堅苦しいのは嫌いなんだ」
好きで使ってるわけじゃないんだよ、クソったれ! 何、笑ってやがる。俺の上司のつもりか!?
心中でこれでもかというぐらいに罵った後、俺は嘘の笑顔を返答代わりにして、いつの間にか置かれていた樹液酒を口に運んだ。
旨いはずの樹液酒が水のように感じたのは、気のせいだろうか。
樹液酒のボトルを団の予算で購入した俺は、少し上機嫌な気分で帰路につく。両手の袋に入った酒瓶は、軽く三十は超えていると思う。勿論のこと、誰にも飲ましてやるつもりはない。まぁ、ネレイユになら土下座くらいで飲ませてもいいが。
街の郊外にある森林地帯に停泊するアルファスクエアに着いたのは夕方だ。俺は自室に行こうと艦内の居住区へ向かう。角を曲がった先に見えたのは、俺の部屋の前に佇むネレイユの姿。
「全く、お前は酒好きでもないのにどうして樹液酒はそんなに好きなんだ? 私には理解が出来ない」
両手に提げた袋の大きさから、彼女は全てを見抜いたらしい。
「別に理解しなくていい」
呆れ顔のネレイユの横を通り過ぎて部屋に入った俺は、危うく袋を落としそうになった。
「あ、そうだ。部屋は片付けておいた。私に感謝しろよ? 大変だったんだぞ」
どうやら俺の留守中に、彼女は部屋の片付けを一人で行ったようだ。新聞紙などが散乱していた床は清潔に磨かれ、散らかっていた机上は丁寧に整頓されている。衣服は備え付けのクローゼットに収納され、布団は綺麗に畳まれていた。
片付けるのが面倒なので放置していた自室が、生まれ変わったかのように主人を待っている。
「・・・・・・」
勝手に部屋へ入ったことを怒るべきか、それとも感謝すべきか。
「それじゃあ、私は忙しいからもう行くぞ」
踵を返して立ち去ろうとするネレイユの背中を、俺は呼び止める。振り返った彼女に向かって、樹液酒のボトル瓶を放り投げた。
「・・・・・・取っておけ」
柄じゃなく赤面しそうになった俺は、逃げるように部屋へと入室する。
横目に映ったネレイユは、笑っているような気がした。
◇
停泊から数日が経った。
赤い外装のアルファスクエアの装甲が、陽光に照らされて輝く。無骨な飛空戦艦だが、堂々と鎮座するその様はとても凛々しく、頼もしい。まるで、負けを知らない百獣の王のようである。
連日、整備班が修復作業を行っているものの、未だ飛行可能な状態までには至っていない。
カイルは、視線の先で口喧嘩をする男女を見て、ぼんやりと言う。
「なんかさ。先輩、あの作戦指揮補佐官がうちに出向してきてから変わったよな」
「ん? ああ、ラウディスのことか。そういや、そうだな」
薄型液晶画面の情報端末から顔を上げずに相槌を打ったのは、RS班所属のヴァルキリー、ウェルチ・リースブックである。RS班とは、戦場で負傷して動けなくなった機体の回収やアタッカーのバックアップなどを任務とする小隊のことだ(=リア・セキュリティ)。彼はその隊の隊長を務めている。
青い空の下、液晶画面を見つめながら高速でタイピングする彼は今、人気のネットゲーム『CORE-BREAKER』の真っ最中だ。M.M.に似た機械兵器を操って相手を撃破するというベタなコンセプトのこのアクションゲームは、世界大会が開かれるほどの人気を誇り、熱狂的なファンを年々増やし続けているらしい。
カイルが横から覗き込むと、ウェルチは余裕の表情で次々と敵を葬っていた。
「世界ランキング三位のウェルチ様は、天下無敵だぜッ・・・・・・ってか?」
「いや、数発被弾した。しばらくサボっていたからな、腕が錆びついちまったみたいだ」
「・・・・・・あ、そうなの」
縁なしの眼鏡に光を反射させて不適に微笑むウェルチは、色々な意味でアブない人に見える。インテリな顔立ちが台無しだと思うのだが、敢えて口にしない。意外なことに、彼は女性クルーから人気があるからだ。こんな奴に劣っていると思うと、心底腹立たしい。
「なぁ。俺にも、やらせ――――」
「嫌だ」
「即答かよ!」
・・・・・・本当に、腹立たしい。
少し拗ねながら、視線をラウディスとネレイユに戻す。一体、何が原因で口論しているのかは解らないが、止まる気配がなさそうだ。
「ネレイユ・ティアソル作戦指揮補佐官ねぇ・・・・・・」
個人的に見ても、容姿端麗だと思う。だが、それだけではラウディスが変わったことへの理由には不十分だ。もし、ラウディスが外見だけで態度を変えているのであれば、イリーナに対してもそうなるのが当然である。ところが、実際は普段と全く変わらぬ態度で彼女と接している。
そうすると、他に該当しそうな理由は自然と限られてくる。それは、ふたりが幼馴染だということ。
だが、果たして、幼馴染だからといってあそこまで態度が変わるものなのだろうか。・・・・・・待て、結論づけるにはまだ早い。後もうひとつ考慮していない理由があった。しかし、ラウディスにそんな感情が存在するのかが疑問だ。いや、それはただの固定観念に過ぎない。彼だって健全な男子なのだ、あって不思議ではない。けれども、あったらあったで認めたくない気もする。
「いやぁ、でもなぁ・・・・・・」
駄目だ、どうしても想像が出来ない。たとえ事実がそうであったとしても、確かめる勇気がない。
「恋心ってやつだろ」
画面を睨みながらウェルチが言う。どうやら、同じことを考えていたようだ。
「やっぱり、そう思うか?」
「間違いないな。態度の変化も典型的だし」
全ての敵を撃破したのか、画面を閉じてウェルチが伸びをする。
「ありゃあ、むっつりもむっつり、“超むっつり型”さ」
“超むっつり型”、か。まさにピッタリの比喩表現だ。
軽快な足取りで歩き去るウェルチを少しだけ見直した、カイルであった。
時は、暮れ時。
アルファスクエアの修復作業も一段落ついたようで、艦内食堂には整備班の面々で溢れている。満席となっているため、立ち食いしているクルーもいた。
ガヤガヤと賑わう食堂は、まるで子供の集まりだ。俺は不機嫌に眉を歪め、酔ってやたらと絡んでくるディックに裏拳を一発お見舞いしてから、この場を後にした。男で埋め尽くされた食堂で食べる気にはなれなかったからである(女だらけも嫌だが)。
避難した場所は、アルファスクエアの甲板だ。空が見れるし、天然の空気が吸える。
「・・・・・・」
途中で寄ったフリールームで淹れてきた珈琲を口へと運ぶ。空には、もう星が瞬き始めていた。
独特の苦味を舌で転がしつつ、過去に思いを馳せる。
親父が死んでから、俺は親父の友人らしい男に引き取られた。彼は名前を明かさず、「おじさん」と呼んでほしいと言った。その理由を訊いたりしなかったのは、そのことに何の興味を持たなかったからだ。・・・・・・いや、違う。俺は、親父の死で自暴自棄になっていたのだろう。
“おじさん”と生活を共にして数ヵ月後、俺はこの世界で生き抜く術を習い始めた。彼は、ヴァルキリーだった。
そう、今の俺の操縦術の全てが、その時に習得したものだ。
過酷な訓練は、連日休むことなく続けられた。夕方までは孤児院へと通い、日が暮れる頃から朝まで訓練。そんな生活を数年間過ごした。そのせいだろうか、あまり他人との接触を図らなかった俺の精神はさらに悪化し、仕舞いには表情が死んだ。
だが、後悔はしていない。どころか、感謝さえしている。あの訓練がなければ、俺はこうして戦うことが出来ず、ただ震えているだけの一般市民になっていたのは、安易に想像が出来る。そんなのはごめんだ。
俺が年齢的に大人になりつつあった時、“おじさん”は突然姿を消した。ひとつの置手紙を残して――――。
――――『直に戦いが始まる。汝、忘れ給うな』――――
手紙には、それだけしか書かれていなかった。しかし、実際はその文章通り、戦争が起きている。
(・・・・・・逃げたのか、それとも戦いに出向いたのか)
“おじさん”は、何のためにいなくなったのか。長年考え続けても、答えは見つからなかった。
「・・・・・・」
もう顔すら思い出せない彼は、今もどこかで生きているのだろうか。この混沌とした血と硝煙に満ちた世界で、ヴァルキリーとしての職務を果たしているのだろうか。もし、そうならば、またいつか再会することが出来るのだろうか。
様々な思いが、俺の脳裏に反芻する。
と、後方の自動ドアがスライドする音が聞こえた。続いて、最近よく耳にする声。
「こんな所にいたのか」
ハスキーな男口調、ネレイユである。
「・・・・・・」
俺は何も言わず、冷めてしまった珈琲を喉に流す。冷たい珈琲は、嫌いじゃない。
「・・・・・・」
隣に立ったネレイユも、無言で温かい珈琲を飲む。
そのまま、会話がない。重く圧し掛かる沈黙。
痺れを切らした俺は、ここに来た意図を訊く。
「・・・・・・何のようだ」
「いや、特に理由はないよ。ここは、私のお気に入りの場所なんだ。・・・・・・お前は?」
真っ直ぐな彼女の視線を避けるように、俺は地平線の遠くを見ながら返答する。
「暇な時に、よく来る」
「そう、か」
再びの沈黙。静かなのは好きだが、こういった類のものは好きじゃない。何というか、居心地が悪くなる。
俺は、冷えた珈琲をちびちびと嚥下する。対してネレイユは、少し音を立てながら啜っている。
静寂を破ったのは、ネレイユだ。
「ラウディス、ひとつ訊いていいか?」
返事をするのが面倒なので、首肯して先を促す。
「・・・・・・どうして、ヴァルキリーに?」
「・・・・・・」
紙コップを動かす手が、止まった。俺を見るネレイユの視線を、頬に感じる。
隠す必要もないだろう。俺は話すことにした。
「俺が孤児院にいたのは、親父が殺されたからなんだ」
驚いた表情のネレイユ。
「親父はヴァルキリーだった。この大戦が始まる前にその名を轟かせた最強のヴァルキリー集団<R-O-N>の一員だったらしい。だから、親父の命を狙う輩は大勢いた。まぁ、攻めてくる度に返り討ちにしていたそうだが」
残っていた珈琲を一気に飲み干し、俺の独白は続く。
「その親父が殺されたんだ。丸腰だった親父の機体の胸部を貫く閃光を、俺は見た。機体はその衝撃で爆散、親父諸共粉々だ。生死を確かめるまでもない、即死だった。
俺は、親父の仇を討つためにヴァルキリーになったのさ。あの黒い機体を、墜とすためにな・・・・・・!」
言って、俺は紙コップを握りつぶす。話したことで、忌まわしい記憶が想起されたからである。
「・・・・・・絶対に、許さねぇ」
噛み締めた奥歯が軋む。
俺の過去を知ったネレイユは、何も言わない。だが、今はその沈黙が嬉しかった。未だ果たされない仇討ちに対する同情など、欲しくはない。ただ求めるのは、黒い機体を撃破する力。それ以外には、何もいらない。
語り終えて、地平線の彼方を睨む幼馴染。私は、迂闊に訊いたことを後悔した。
知らなかったのだ。幼少の頃を共に過ごしたというのに、彼は私に自分のことを明かさなかった。
(そういえば・・・・・・)
思い返せば、独白の通り、彼は年齢を重ねるに連れて感情を表に出さないようになった。表情の代わりに宿っていたのは、ギラギラとした人を寄せ付けないような鬼迫のみ。当時は対して気にも留めなかったが、成程、彼をそのようにしていた理由がやっと解った。
空を睨むラウディスは、何を思っているのだろう。きっと、父親を奪った仇を殺したいに違いない。
彼は、憎き仇を墜とすために日々戦場に出向いていたのだ。極限の緊張も、死への恐怖も彼にはない。あるのは、仇を討ちたいという復讐心。暗く燃える、負の炎である。戦場に出向く度、彼はその炎に身を焼かれる。そして、炎は彼の精神を貪って火力を増していく。
まだかまだかと、邪魔な蝿を撃ち墜とす日々。願っても願っても、現れる気配のない仇。どんなに辛かったことだろう。いっそのこと、死んでしまった方が楽なのかもしれない。だが、諦めたら生きる意味を失ってしまう。・・・・・・そう、彼の中で復讐とは、いつの間にか“生きる意味”に摩り替わってしまったのだ。
何て、何て救われない人なのか。
私はこの瞬間、ラウディス・フリストという人物が持つ深い傷を垣間見た気がした。
「・・・・・・」
今更、何が言えよう。彼が欲しいのは、同情ではない。求めているのは、仇を殺す圧倒的な力なのだ。
そこでふと、私は思った。
ラウディスは、この復讐を終えた後、どうするのだろうか。今、彼の“生きる意味”となっている仇討ちがなくなったとしたら、彼は“生きる意味”を失うことになる。
きっと、
(きっと、抜け殻のようになってしまうのだろう)
生への執着を失った彼は、魂が抜かれたような状態になり、生ける屍になる。そして、そんな彼を本気で心配する人はいない。誰もが、戦場で負傷したことにより起きた後遺症と思うに違いない。そう思われていたとしても、「ありがとう」などとは誰も言わない。何故なら、守られて当然、ヴァルキリーは戦って当然だと認識されているのだから。始末の悪いことに、ヴァルキリーの境遇を知っている軍人や政治家、仕事仲間でさえそう思っている。
故に、ラウディスには魂の拠り所がない。
そこまで考えて、私は閃いた。
(・・・・・・なんだ。私がなればいいんじゃないか)
それは、簡単に見えて難しい。あまり他人に心を開かないラウディスだ、自分に全てを曝けてくれるとは限らない。だが、最初から諦めるつもりはない。私が諦めたら、一体誰が彼の“帰る場所”になると言うのか。
私が決心をした刹那、
ドガァァンッッ・・・・・・・・・・・・。
という凄まじい音と衝撃が体を打った。
「――――ッ!?」
振動から立ち直り、戦艦の脇を見れば、そこには巨大なクレーターが開いているではないか。
「これは・・・・・・?」
「敵襲だ・・・・・・!」
横でラウディスが短く叫ぶ。彼が睨む上空に、数機のM.M.が滞空している。どうやら、アトラティアの機甲軍のようだ。
「・・・・・・クソったれッ」
握力で丸まった紙コップを投げ捨て、ラウディスがスライドドアへと走る。
私は、その背中に何か嫌な予感を感じた。
先の決心が、再び私の心に浮かぶ。
――――たとえどんなに時間が掛かろうと、私は達成してみせる。
――――たとえどんなに待たされようとも、私は彼を待ち続ける。
神に誓おう。
(私は、ずっとお前を待つ。だから、だから――――)
「――――絶対に、死ぬな!」
私の叫びは、彼に届いたようだ。スライドしたドアの前、ラウディスが立ち止まる。彼は首だけを捻って私を見ると、
「ったりめぇだ、バカ」
とだけ言って走り去った。
しかし、私の中に渦巻く不安は、それでも消えてはくれなかった。
■
カタパルトにより射出され、夕闇に覆われつつある上空。数十機のM.M.が、熾烈な戦闘を始めていた。
ねっとりとした闇をものともせず、レギンレイヴは疾駆する。操縦するラウディスは、この状況に既視感を感じていた。
(ったく、二度も夜に攻めて来やがって・・・・・・ッ)
大量に溢れ出てくる《RAGNAROK》を撃墜しながら、内心で毒づく。
敵戦艦は一隻だが、それを死守しようと攻撃してくる数機のM.M.が手強い。遠距離機が狙撃し、近距離機が突撃する。シンプルな戦法だが、それ故に打開策が見当たらない。
「・・・・・・クソったれッ!」
《RAGNAROK》の波に隠れて特攻してきた近距離機のエッジを半身逸らして回避し、双施条銃の銃口を敵胸部へと突きつけ、容赦なく引き金を絞った。コックピットを粉砕されたM.M.が、爆散する。
<狙われています>
【HILDR】の警告、モニターが赤く染まる。見れば、レギンレイヴから遠い上空でライフルを構える敵M.M.があった。
ラウディスがそれに気づいた時には、既に銃弾は放たれている。
(躱せるか!?)
機体を動かしては間に合わない。そう判断すると、左手のヴァーニアブレードを起動させる。掲げられた左手が、唸りを上げる。
回避出来ないのなら、斬り落とすまでだ。
「オラァッ!」
真一文字に振り抜かれた灼熱の刀身が、ジュッ、という音と共に銃弾を瞬間的に蒸発させた。しかし、隙の大きいこの行動を敵が見逃すわけがない。まだ慣性で回避の余韻を残す機体、狙うなら絶好のチャンスだ。新たに発射された弾丸は、一直線にレギンレイヴの胸部を狙う。
敵の銃弾は貫通弾だ。重装甲でないこの機体は、簡単に穿たれるだろう。
盾として右の施条銃を軌道上に翳した、その時だ。
横から割り込んだ緑の閃光。それは、敵の貫通弾を見事に撃ち抜いた。
『すいません先輩、遅れました』
映像回線に映るのは、相棒の顔・・・・・・カイルだ。
レギンレイヴの隣に滞空するのは、カイロニコルヴ・アルギエリが愛機、フェンリスヴォルフである。巨大で無骨な狙撃銃<エインヘリャル>が右手に握られ、その重さを支えるようにして左手が添えられている。どうやら、先のヴァーニア弾はこれによるものらしい。
『援護します。背中は任せてください』
言うが否や、フェンリスヴォルフは敵M.M.に向けてエインヘリャルを撃ち始める。敵が回避しようとするが、遅い。緑色の瞬きは、無慈悲に機体を貫く。
相棒の援護を受け、レギンレイヴは本来の機動力を活かした高速戦闘で敵を圧倒していく。
敵M.M.軍が劣勢になるのは、時間の問題だった。
<敵M.M.軍、撤退していきます>
【HILDR】の言う通り、敵は次々に戦艦へと撤退していく。
これで終わったと、誰もが思った。
だが――――、
<新しいRV反応を確認 軍のデータベースに存在しません 未確認機です>
「・・・・・・何?」
カメラアイで捉えた先、モニターに映ったのは――――・・・・・・
「――――ッ!?」
――――全身を黒く装飾し、どこか猛鳥を思わせるようなフォルムの頭部、禍々しいデザインの装甲・・・・・・それは、黒い機体。
ラウディスが長年捜し求めた、憎き仇であった。
†
「莫迦な・・・・・・」
アルファスクエアのブリッジ、団長席から立ち上がったイリーナは思わず放心した。
「そ、そんな!? 機体のデータが解らないってどういうこと!?」
オペレーター達にもその驚きは広まる。彼女らの長い戦歴でも、このような「UNKNOWN」一色の機体は存在しなかったからだ。だが、イリーナの驚きはそれとは違う。これは、彼女にしか解らない驚愕だった。
「ちょ、ちょっと!」
ラウディスの専属オペレーターのミシェルの声が、イリーナを現実に引き戻す。
「ラウディスッ!? 何してるの!?」
見れば、レギンレイヴが黒い機体に特攻を仕掛けているではないか。
(仇を目の前にして、我を失ったか)
長年待ち続けた仇なのだ、制止しても聞かないだろう。イリーナの判断は早い。
「ミシェル、アルギエリに繋げ」
「えっ? ・・・・・・はい、繋ぎます」
メインモニターに映るカイルの顔にも、焦りが浮かんでいる。
「アルギエリ、ラウディスはどうしている?」
『どうって、いきなりあの機体に向かって特攻してますよッ! いくら呼び止めても聞かないんです!』
(やはりな・・・・・・)
こうなると、ラウディスを止める手段がない。メルセゲルの主力である彼が暴走したとなれば、本艦と部隊が危ない。
と、すると、残る手段はひとつ。
「アルギエリ、これからお前に特別任務を与える。いいな?」
『・・・・・・内容によりますけど』
イリーナの声音から察したのか、渋るカイル。だが、イリーナはその曖昧な返事を了承と認識した。
「もしも、レギンレイヴが被弾し行動不能に陥っても尚攻めようとした場合、撃ち墜おとせ」
『なッ!? 先輩をですかッ!?』
カイルだけでなく、オペレーター達も驚きを表情を作る。・・・・・・当たり前だ、ラウディスを殺せと言っているのだから。
「今のあいつは暴走状態にある。相棒であるお前や部隊のことも頭にはない。復讐に憑りつかれたただの亡霊だ」
『しかしッ・・・・・・』
認めようとしないカイルの言葉を遮り、冷徹に続ける。
「既にこちらの声は届いていない。つまり、あいつはメルセゲルを捨ててでもあの機体を墜とそうとするだろう。そうなれば、巻き添えを食うのはこっちだ。メルセゲルには、あいつの復讐に振り回されるほどの余裕はない。いいから、やるんだ」
しばしの沈黙の後、
『・・・・・・解りました』
カイルが小さく頷き、映像回線が切れた。
呆然としていたネレイユだったが、イリーナが席についたことにより意識が覚醒する。
「ど、どういうことだッ!? 自分の部下を殺すつもりかッ!」
隣で激昂するネレイユを一瞥、イリーナは表情を変えずに答える。
「やりとりを見ていなかったのか、作戦指揮補佐官殿? いいか、今のラウディスは精神的に危険な状態にある。奴の眼中にメルセゲルはない。映るのは、仇のみだ。先も言ったが、うちには私情の復讐劇に付き合ってられるほど暇じゃないんだ。それに――――」
一旦言葉を切り、ネレイユの顔を横目で睨みながら問う。
「このアルファスクエアには、大勢のクルーが乗艦している。たったひとりのために、その数多の命を犠牲にしろと?」
「くッ・・・・・・」
イリーナの決定打に、ネレイユは唇を噛み締めた。彼女は大人数を指揮する身なのだ、この決断が最良なのだろう。纏め上げる長としての判断だということは解る。だが、だからといって撃ち墜とせはないと思う。ラウディスは、やっとの思いで仇を見つけたのに――――ッ!
「――――夢を果たす前に殺すのか」
「聞き分けが悪いな、作戦指揮補佐官殿。ならば、他に良い策でもあるのか? 暴走状態のラウディスを制止させる秘策でも?
幼馴染だというのに、解ってないな。アレは、奴の“生きる目的”だ。果たさなければならない夢だ。だからこそ、何がなんでも叶えようとする。仲間の命さえも平気で投げ出す。アレを撃破するためだけに、ラウディスは戦場に出向いてきたんだ。奴自身が自分にブレーキを掛けない限り、止まらない」
「・・・・・・でも」
「本当に無能なのか? 奴の死を俺が望んでいるとでも? 邪魔だから消す、そう見えるのか?」
イリーナが、声を荒げる。その静かな剣幕に、ネレイユは反論が出来なかった。彼女の握り締めた拳が、砕けんばかりに震えていたからだ。
「誰も、ラウディスの死は望んでなんかない。出来れば、殺さずに済む方法を選択したいさ。だが、そんなものはどこにある? 仲間の制止すら届かないんだ、幼馴染のお前の声も届かないだろう」
毅然とメインモニターに向き直るイリーナ。
「たとえ生還出来たとしても、仇を目の前にしてしまった以上は奴自身が気づかない限り、復讐という名の亡霊は奴に憑依したままになる。その状態のまま、次の戦闘に出撃させてみろ。二度と戻っては来ないだろうな」
メインモニターには、黒い機体と交戦するレギンレイヴの姿が映し出されている。
「そして運良く再会した時、奴は果たして味方なのか? メルセゲルが仇討ちの障害となると判断された場合、こちらに勝ち目はない。
・・・・・・だからこそ、先手を打つ必要があるんだ」
(正論、だな)
ネレイユはイリーナの横顔を見、視線をメインモニターへと移す。特攻を仕掛けるレギンレイヴは、未だ黒い機体にダメージを負わせていない。それはつまり、ラウディスの腕を以ってしても、あの機体を駆るヴァルキリーには適わないということだ。
(復讐に溺れるな)
レギンレイヴがブレードで攻めるが、黒い機体は軽々とそれを躱す。
(頼む、気付いてくれ)
黒い機体は一向に攻める気配を見せない。ただ回避行動をするだけだ。
(殺すために戦うのでなく、守るために戦うのだということに)
格闘を交えて光刃を振るうが、当たらない。
ネレイユは心中で叫ぶが、彼には届いていないのだろう。
もどかしい。
ひどく、もどかしい。
結局、自分達は見守ることしか出来ないのだから・・・・・・。
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