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Stipula Da Vinci Foco Fountain Pen
少年と万年筆
エンゾーにとって、万年筆は「大人のアイコン」だった。大切な人への手紙やここ一番の署名で、黙って万年筆を取り出し、サラサラと紙の上を走らせるなんて、これが大人でなくてなんだろう。
大人になりたかった少年の日のエンゾーは、何度か万年筆(のようなもの)を買ってみたことがあった。ところが、ステンレス製のニブ(ペン先)が付いた1000円にも満たない万年筆たちは、その名に反し、どれもひと月と持たずにインクが固着し、筆記不能になっていった。
基本的に、万年筆とは毎日使い続けてこそ本領を発揮する筆記具であり、月に一度、思い出したように引き出しの奥から引っ張り出すようなユーザーには向いていない。そういうわけで、いったんは万年筆に対して物欲も必要性も全く感じなくなってしまった。
ところが、昔から雑貨や文具に目がないエンゾー、最近になって、ステーショナリーだけを取り上げたムック本が何冊も出ていることに驚き、関連書籍を大量に買い込んで読み漁るうちに、焼けぼっくいに火が点いた。急性劇症『万年筆欲しい病』の再発である。病はさらに進み、万年筆の専門誌なんぞを買って隅から隅まで目を通し、ついに理想の一本を見つけてしまった…。
ダ・ヴィンチについて
ようやく本題。
イタリアの筆記具メーカーStipula(スティピュラ)が発売した「ダ・ヴィンチ フォッコ」。これが、エンゾーが持っている唯一の万年筆である。ちなみに、メーカー名のスティピュラとは「small piece of straw(一片の藁)」という意味を持つラテン語とのこと。
「ダ・ヴィンチ」は、スティピュラ社がレオナルド・ダ・ヴィンチに対するオマージュとして開発した万年筆で、評判が良かったため、後にシリーズ化された。
ダ・ヴィンチの特徴となっているのが繰り出し式のペン先で、格納時は半月型の蓋に覆われていて、ペン軸を時計回りに捻ると蓋が開き、同時にペン先が「にょきにょき」と出てくる。この極めてユニークな構造そのものが、ルネサンスの巨人に対する深い畏敬の念の現れであり、パテントまでとっていると言うから気合が入っている。またこのような構造のため、キャップは存在しない。
エンゾーは常々、万年筆はキャップを付けない状態が一番美しいと思っていたクチなので、このフォルムには完全にノックアウトされた。
最初にリリースされたブラックとクラックアイスは細長いが、2006年に発売されたリミテッドエディション(ブラック)は、ペン先を収納した状態で全長が10cmしかない。このこぢんまりしたデザインに一目惚れしたユーザーが殺到し、限定販売された193本は瞬く間に完売となった。
右から、ダ・ヴィンチのクラックアイス、ブラック、リミテッド。
FOCO(フォッコ)登場
これに気を良くしたスティピュラは、リミテッドエディションの第二弾として2007年バージョンを発表する。これが「FOCO(フォッコ)」である。デザインはそのままで、ボディ色に赤をあしらった。
フォッコとは炎を意味し、風・火・地・水のうち人類の発展に最も寄与した「火」を取り上げ、偉大な発明家でもあったダ・ヴィンチにふさわしい色として採用された。(ちなみにフォッコも193本の限定販売だが、この中途半端な数字は、フィレンツェのドゥオーモの高さを、ダヴィンチが活躍したルネッサンス期に使用されたフィレンツェ独自の測量単位”ブラッチャ フィオレンティナ”で表したもの。日本人にはなんだか良く分からない。)
手のひらにすっぽり収まる、非常にコンパクトなサイズだ。
スティピュラがフォッコのために特注したという赤いレジンは、まさしくイタリアンカラーで、イタリア車のフェラーリやアルファロメオでも使われている「深紅(スカーレット)」である。本当に深い赤だ。ある意味、派手な見た目は女性用の小物っぽいデザインと言えなくもないが、手に持つと、意外なほどズシリと重い。これは金属部分に銀が使われているからで、筆を走らせるときに心地良い重さとなっている。
ニブは細・中・大から選択できるが、書き味が柔らかくインクフローも潤沢なので、万能に使いたいのであれば細字がベストだろう。ただし、繰り出し式という特殊な構造ゆえ、ペン先にわずかなガタがある。実際に使っているとそんなことは忘れているのだが、気になる人は気になるかもしれない。
このようなユニークで美しい製品は、やはりイタリアならではの発想と技だなあと感心してしまう。大切な手紙や署名はもちろん、普段使いにも大活躍している。