Quasi sol oriens

Quasi sol oriens

しろつめ草の冠





 トビーとジェーンは、マーシャル先生の庭が大好きだ。

先生の庭はクローバー畑。二人はいつもそこで、しろつ

め草の冠やロザリオ、ネックレス、ブレスレットを一生

懸命編んでいる。

 本物が買えたら良いのにね。トビーが言うと、ジェー

ンは真面目な顔で答えた。

「それはしかたないわ。だってあたしたち、お金がない

もの」

 ジェーンは本当に頭が良くてしっかり者だ。もし将来

結婚するなら、ジェーンみたいな子をお嫁さんにしたい。

そう先生に話したら、先生も言った。

「ジェーンは良い子だね。きっと美人になるよ」

「ジェーンじゃなくて、ジェーンみたいな子! 先生、

勘違いしないでよね」 ――――



 マーシャル先生は椅子から立ち上がり、緑色の絨毯を

見下ろした。しろつめ草の冠を編む子供達、首をかがめ

て草を食べる羊達。空は青く晴れ上がり、草の緑が一層

明るく萌えている。彼は顔を曇らせた。

「先生のは、机上の空論だ」

「先祖伝来のやり方を、変えろってことですか」

「失敗したら、責任取ってくれますか」

「こんな雑草を植えろって? どうかしてるよ」

 あの頃は、なんて愚かな連中だと思っていた。先進国

オランダのやり方だ、成功するに決まっている。実際、

うちの農場の収穫は、隣近所よりグンと良い。あの頃は、

論より証拠だと思っていた。

 なのに、駄目だった。

 クローバー畑は、子供の遊び場にするしかなかった。

 最初はそれが辛かった。破れ去った夢の跡を前に、捨

て鉢な気持ちにも襲われた。だがある日、子供達の方か

ら寄ってきた。

「しろつめ草の冠の編み方を教えて、先生」

 そう言えば、オランダの子供達もこうして遊んでいた

な。マーシャル先生は懐かしい気持ちで、手づから冠の

作り方を教えてやった。やがて先生のクローバー畑は、

おもちゃも買えない子供達の、格好の遊び場となってい

た。

 それにしても、改めて見渡すと、何と美しい様子だろ

う。しろつめ草の冠を編む子供達、首をかがめて草を食

べる羊達。空は青く晴れ上がり、草の緑が一層明るく萌

えている。何とのどかで、何と素晴らしい。

「なあトビー、ジェーン。もしも二人が大人になって結

婚したら……。二人が自分の農場を持つようになったら、

どうかクローバー畑を造ってくれないか。種なら好きな

だけあげるよ」

「もしも、だよね?」

 マーシャル先生は苦笑する。多分それは、ずっと、ず

っと先のことなのだ。するとトビーが言った。

「先生。今すぐ種を分けてくれませんか。うちの庭に植

えてみたいんです」

「……あたしも。あたしも植えてみたいな、先生」

「だけどお父さんやお母さんは反対するだろ?」

「平気だよ、どうせ庭の隅っこだもん」

 マーシャル先生は再び笑った。子供達は知っている。

夢は、意外な形でかなうこともあるのだ、と。

                       (了)

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