Quasi sol oriens

Quasi sol oriens

機織り娘シャナ





 シャナは途方に暮れた。三枚一組のベッドカバーの、

最後の一枚が仕上がらないのだ。それは彼女が織元から

受けた、初めての大仕事。今までの小さい仕事とは訳が

違う。シャナは腕の良い機織り娘。今度受けた注文は、

聖母の象徴である、薔薇、百合、菫を、一枚ずつベッド

カバーに織り込むこと。純潔を表わす百合と、謙遜を表

わす菫はもうできた。だが薔薇は駄目だった。彼女は薔

薇を、うろ覚えでしか見たことがないのだ。

「そうか、そりゃ大変だ」

 親友のロバートが言った。

「だったら、前働いていた村の教会に薔薇園があったか

らさ、そこで貰ってきてやるよ」

「だけど、今咲いてるとは限らないでしょ?」

「何事も『まずやってみろ、そのあと考えろ』さ」

 そう言ってロバートは機織り小屋を飛び出した。シャ

ナは不安だった。薔薇が咲いていなかったらどうしよう。

それにロバートは、よく勘違いする。

 それにしても、自分で言うのもなんだが、百合と菫の

ベッドカバーは本当に出来が良かった。でも薔薇がなけ

れば駄目。どうしてこんな難しい仕事を引き受けてしま

ったのか。シャナは自分の軽率さを恥じた。自分が嫌に

なって、織機に突っ伏した。段々仕事が嫌になって、自

分が不当に責任を負わされている気がしてきて、涙がこ

ぼれた。泣いて泣いて、泣きくたびれて、いつしかうた

た寝してしまった。 ────



 物音に気付いて目を覚ますと、脇に紅薔薇の花束が置

いてあった。包み紙には「ロバートより」と下手くそな

字。彼女はびっくりして起き上がった。そして薔薇を花

瓶に活けると、包み紙を抱きしめた。彼女は今そこにい

ないロバートに向かって独りごちた。

「ねえロバート。薔薇は、薔薇はね、聖母の愛を象徴す

るの。そして紅い薔薇はね、愛情、熱烈な恋を表わして

いるの。……本当にありがとう、ロバート」

 その日から、シャナの機織り小屋からトントン言う音

が夜も昼もなく聞こえるようになった。

                       (了)

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