鍋・フライパンあれこれ美味
100万ポイント山分け!1日5回検索で1ポイントもらえる
>>
人気記事ランキング
ブログを作成
楽天市場
293857
HOME
|
DIARY
|
PROFILE
【フォローする】
【ログイン】
ruka126053のブログ
第13章君の心にかかるはブリュム
「悩み事がなくて羨ましいな」
ルドルフは不意に不機嫌そうに隣の田舎の少年に言った。意味はない。完璧主義、結果主義といえど、愚痴を言いたいことはあるわけだ。
「僕はこんなにいろいろ考えているのに」
「それは答えづらいな、僕はまあ、つい最近まで親いないし、家もないし」
おまけにお母様がエリザベート皇妃で仲がよくない。
「僕らのせいだな」
駄目だ、これ詰んでる。
主従関係。契約。あるジト従者。
主に封建社会で活用された関係、王族と宰相、騎士や傭兵など。
「素敵ね」
きらきらした目でアリスが隣で言った。
「そうかな、うっとおしいと思うけど」
ルドルフ。
夢の中でエリザベートがささやきかける。
・・・・お母様。
ルドルフは手を伸ばす。
だが、彼女は遠ざかっていく。
待って、置いていかないで。僕は強くない。
本当は―。
だが、次の瞬間、頬を強く引っ張られて、叩かれた。目を開けると、気味悪そうにヴォルフリートがそばかすが薄くなった顔をゆがめていた。
「・・・お前、人の顔をつねったのか?」
じろりと睨んだが、ヴォルフリートはにらみ返してきた。
「人が寝ているときに勝手にベッドを占拠して、乗っかってきて・・・・文句を言いたいのは僕だよ」
うっとなった。
「それはお前が部屋を開けていたからだ」
「普通の友達はまず礼儀を重んじるものだし、僕は男ですよ、ルドルフ様がどういう嗜好か知らないけどやめてよね、気持ち悪い。そういうのは同じ趣味の人だけにしなよ」
後ずさって、迷惑そうにしている。
「私はノーマルだ」
まだ、ぞぞとしている。
「・・・・なら何で抱きついてたんです?」
不思議そうに眉をひそめ、こちらを見てきた。
「それは」
ルドルフは言葉を詰まらせた。
「その」
そんな目で見るな、馬鹿。
だが寝言で私の名を言ったからとか言ったら、こいつとの友情は。
「・・・・アーディアディトに会いに来たんだ」
ルドルフは頬を赤く染めながらそう言った。
「最近落ち込んでいると聞いてな、それで扉の前で入るか迷っていると、エルネストに声をかけられて、あわてて入って」
「足を滑らせて?」
じっと見てきた。
「・・・ああ」
さすがに苦しいだろうか。
「じゃあ仕方ないか、ルドルフ様ドジですもんね」
あっさり納得した。
「私は忘れないわ」
隣にいる小さな少女は、隣にいるアヴィスにではなく今はいない英雄に話しかけるようにいっているようだった。
冷酷に、冷静に。
「殿下、殿下、ご慈悲を」
泣きじゃくる女性と子供に冷たく、美貌の皇太子が見下ろす。背後ではすでに、敵を駆逐するための準備が整っている。ウィーンを離れて、大佐と呼ばれて。
嫌疑をかけられて。
全ての国民の平和と幸福のために。自分の全てはそのためにある。そのために人の心は捨てなければいけない。青年の域に差し掛かっているようで、どこかまだ幼さを残す端正な横顔に軍人たちは見とれる。そのあふれる才能にカリスマ性に。
けれど心は揺れている、完璧に近づくほど。
人として大事な何かを削っていく中、反対に閉じ込めていた感情があふれだす。
「・・・悪いが、これは国のためだ」
「殿下!」
―変えなければいけない。
だが、それは誰のために?
「お前たち、攻撃を開始しろ」
国境での、大規模な作戦。表向きは自分が指揮していることになっている。名だたる将校たちが頑張ったから今の状態となった。
「やれ」
敵にも家族はいた、恋人も友人も名前もあった。
―ルドルフ様は迷いがなくて、冷静でうらやましい。
ダークブラウンの髪の友人はそう言った。
―それはお前だろう。
本当に大事なもののために、切り捨てられるお前がうらやましい
とある金持ちの家で庭師の手伝いをしながら、ゴットヴァルトは黒髪に日に焼けた肌、帽子にシャツにズボンといういで立ちで、相手に不快感を与えない程度の火傷を覆った地味な顔立ちに変装しながら、首を傾けた。
「―疲れる」
はぁとため息をついた。貴婦人達が自分を見て、美しい顔をゆがめる。
「なぜ、あの老伯爵はあんな子供をこの家の使用人に?」
「ホラ―映画みたいじゃないの」
「何でも世話している会社の関係だとか」
「まあ・・」
「・・・・」
―散々な言われようではあるが、この程度の悪口で澄んでいるんだから、やっぱり、そのままに変装するよりはいいらしい。それに落ち着くな。
草木に触れていると。
外見があれであれすぎると、やっぱり世間はアウトだ。
あとはあれだ、宮廷のときのような礼儀作法も敬語も上流の綺麗な言葉もここでは関係ない。露店で食べられるし、あんな豪華な食事をとらなくていいんだ。
「見つめるなよ、不細工」
「息を吹きかけるな」
「すいやせん、お嬢様」
「近づくな、あほが」
「はい、お嬢様!!」
他人が近づいてこない、誰も僕を変な目で見ない。誰も僕を殺そうとしない。万が一にもあの金髪美人の年増みたいなものに目をつけられない。モテない人生って、何て素晴らしいんだろう。
ドン!
「―それでどっちを選ぶの」
「どっちだ」
壁際に追い込まれた。
大広間には、真紅の柔らかい素材のぬのに金の飾りで覆われた椅子やソファーが壁一面を覆うほどの絵が飾られている。歴史的な価値などわからないが、膨大なお金が使われているのもわかる。権力の力も。
美術品や絵、飾りものや剣が置かれている。
「このツボ一つでいくらくらい遊んで暮らせるんだろう」
名門バドォール家。伯爵の屋敷。田舎の方が本宅とは聞いていたが。
宮殿の方がもっと広いが。
「ていうか、なんでぼくの知り合い金持ちや貴族ばっかりなんだ」
いや、まあ、僕も貴族の生まれらしいが。最初の紋くぐりぬけて、僕血に入ってまた同じモン、さらに奥に行って、豪華な門構えの屋敷に入って。
洞窟や迷路みたいな庭もあるし。
「もう帰りたいな」
空気あわねえ。
一度、歌や演劇の世界に入ると彼女は戻ってこない。ダリルはよく困らせたものだ。好意的なアルベルトの動きも気になるが、そのと薄いブリは異性へのコイよりも凌駕しているように思えた。どんな早くもなのない役も彼女が歌い、演じれば、彼女の舞台になる。それはまるで呪いのように。
アーディアディトにあこがれる後輩の少女たちの視線、歩く男子は彼女の横顔に見とれるばかりだ。
小さな少女にアリスはお節介を焼いていた。
「もう、大丈夫よ」
「本当?」
他人のために、必要以上にかばってしまう金髪の主の無茶にいくらか付き合わされたことがある。
「チェックメイト」
「・・・・何、これ」
青空の下、宮殿の中でルドルフは友達のヴォルフリートとともにチェスをしていた。
「お前はつめが甘すぎる」
ふふんと笑う。
「え?あっというまにルドルフさまのターンに」
「単純思考」
むうと頬を膨らませた。
白いパラソルが見える。
「相変わらず、仲良しね」
オレンジの鮮やかなドレスに漆黒の髪。宮殿一の美人がそこにたっていた。
「エリザベート様!?」
むか。
「?」
ルドルフはその時、胸に苛立ちのような感情が浮かんだ。
「どうして、こちらに、ええと、紺・・ではなくて本日はお日柄もよく・・・」
頬を目いっぱい赤くして、オッドアイの瞳を震えさせている。すごい美人の前で緊張しているらしい。
くすくすとエリザベートが笑う。
「相変わらずせわしいわね、ヴォルフリート」
「いや・・・その・・・」
かぁぁとなっている。
むかむか。
「あら、どうしたの」
「ルドルフ、すごい怖い顔になってるわよ」
ヴォルフリートにつかせていたルドルフは以前のような関係に戻ったことにいささか、安心して、客席の中で従者を連れて、座っていた。学生に扮したヴォルフリートは制服のような格好をして、ルドルフは報告を受けた。ついさっき駆けつけたらしい。潜入先の寄宿学校がウィーンのすぐ隣にあったことが幸いしたようだ。
「・・・・馬鹿な」
「いや、僕もさすがにファンタジー過ぎて・・・・、とりあえず、姉さんは今、学生のカイザーという生徒で状況もつかめてなくて、僕の同僚に世話を頼んできました」
「・・・・今の話が説明なら、異能者にカイザーという男が襲われたと?赤の女王の手下か?・・・僕の護衛はいいから家に一度行ったほうがいいんのでは?」
「家には、連絡してみたら、やっぱり、家にいる姉さんが様子がおかしいと。その前に報告を、と思って」
姿が姉なら、ヴォルフリートとしてあっても平気だろうか。・・・・両親が異能者と関係しておいて、よかった。初めてそう思う。
アーデルハイトとその世話役、母親の姿も劇場内にアリ、ギルバートとと話していた。舞台の上から、上のフロアにいるルドルフの姿にマリーベルは気付いた。
劇の中盤、ロビーから玄関に向かうと、取り巻きを引かせた、赤薔薇と白薔薇のヒロインの一人、赤薔薇を演じるマリーベルが階段から降りてきた。
・・・・アリス、大丈夫かしら。
汗を拭きながら、マリーベルがそう思っていると。
「きゃっ」
ガタン、とドレスのすそをつかんで、走るヴォルフリートの上に落下する形でマリーベルはなり、結果、ヴォルフリートを下に抱きつく形で転げ落ちた。
「っ!」
すぐ側の花瓶が転げて、中身の薔薇やら他の花が散らばる。
「マリーベルお姉様!!」
きゃあという声が響く。
何だ、とギルバートとアーデルハイトがロビーに出てきた。周囲の観客も顔を向ける。
どたぁぁぁん。
「・・・いてて、何」
目を開けると、赤いドレスを着た、扇情的な衣装のマリーベルが艶やかな明るい髪を翻して、自分の上にいた。マリーベルは驚いたように自分を見ている。
「・・・・」
「・・・・」
赤い花が飛び回っている。・・・・・ええと、・・・・歌手の姉さんのライバルのスターの。名前が出てこない。
「・・・・大丈夫ですか?」
マリーベルは可愛い、と見た瞬間思った。
「・・・・は、はい」
聞いている情報だとプライドが高い、わがままなお姉様だとか。おしとやかで情熱かとか、だけど、何だ、この、少女マンガのような表情は、・・・・姉さん。
「・・・・・あの、何か2人固まってません」
・・・・・視線に気付く。何故、凝視されているんだろうか。美少年や美形が下にいるでもあるまいに。
「・・・え、ああ、動かないね?」
ギルバートとアーデルハイトはお互いの顔を見合った。
「・・・あ、あの、すみません、慌てていて」
マリーベルの体を抱き上げると、横にスライドさせて、立ち上がり、体を起こさせる。
「・・・・怪我がないようですね、よかった、君が無事で」
「・・・え、ええ」
笑顔を儀礼的に向けると、よし、姉さん・・もといカイザーの所だ、行くぞ。走り出した。
「マリーベル、大丈夫」
「平気よ、・・・・何、今のコ」
「うん、最近、雰囲気変わって・・・16歳でなんか艶やかな雰囲気が」
「・・・・今日出るはずだった、アーディアディト・・アリスの弟、ヴォルフリートだよ」
「アリスの?」
視線を玄関に向ける。
2
薄暗い空間の中、自宅の自分の部屋でディートリヒは緊張状態の中にいた。つきに一ヶ月の一回しか、許可証がなければ、帰宅してこない何かと忙しい兄が、ハイネの詩集を持って、自分に肩を借りて寝ていた。隣の部屋で珍しく姉と喧嘩していると思ったら。一度考え込むと、ヴォルフリートは周りが見えなくなる。
この家に来た時からそうだが、兄は基本的に自分に接触してこない。
・・・自分も兄さん・・・兄上が着てから随分とやんちゃをした。
気持ち悪いと感じた、自分はライバルにふさわしくないかと馬鹿にされている気分だった。だから、余計に彼を苛めた。姉上は家族というものに憧れ、両親に甘えて、素直に感情を出して、自分とも当初は尖っていたが、お互い大人になったのか、関係は柔らかくなった。何より妹を大事にしてくれる。家に入った当初からそれは変わらない。それはディートリヒもアリスを評価していた。
・・・・アロイスが姉上とあっているのを見ると、いらいらするのは何故だ。
誰と姉が恋愛しようと、自分には関係ないことだ。自分は、アーデルハイト嬢がすきなのだから。
「六秒・・・3秒・・・・」
「・・・夢の中でも、訓練か?」
ダークブラウンの髪が揺れる。・・・顔立ちは母とも父とも似ていない。それでも、兄は笑っていた。
・・・・反抗心はないんだろうか?
ヴォルフリートはところどころ、感情が欠落している。憎悪も哀しみも悩みも、縛るものが彼からは見えない。何でも受け入れる。不気味だ、そんな人間がいるわけがない。
「いや・・・」
―悩みはないよ。
ある日のヴォルフリートの言葉が蘇る。
普段の生活の忙しさもあるが、友達も両親とも仲がよく、16歳の少年らしい恋愛をしていると思う、遊ぶのがすきという外見に似合わないだらしなさがあるが。深く考えて行動せず、軽薄で、嘘吐きで同時に落ち着いていて温厚で優しくて。本人は自分を単純だと評価している、一見すればそう見える。
シスコンで、そして。
泣いた所を自分は見たことがない。彼はいくらなじられ、苛められても傷つかないといわれる。だから傷つけても、強いから言いのだと。
―姉さんには誰かが必要だから。
少しも自分が不幸だと思っていない。僕は強いから、平気だよ。
頑固だ。頑なに、当然の事実のように言った。
「・・・ディートリヒ?」
「・・・あ、すみません、兄上、起こしてしまいましたか」
「・・・今、何時?ここは君の部屋か」
「はい」
「ごめん、邪魔した」
すたすたと歩き出す。
3
ローゼンバルツァー家の書斎で、混乱した頭のまま、アリスの服の中で一番地味で無難な緑色のドレスに気ながら、アリスの舞台やディートリヒの唄のコンクールの記録やらをアリスの姿のカイザーは見ていた。
・・・・・本当に自分は今、アーディアディトさんの姿なのか。
おかしい、ありえない。そう思うが、時間がたち、頭の中も平静を取り戻しつつある。辺りを見回す。
「・・・うちの書斎より大きいな」
腐っても、公爵家のはしくれということか。
「お姉様、ご病気なのに、本を読んで大丈夫なんですか?」
カイザーが肩を震える。
「大丈夫、大丈夫だからな、ベッドで寝ているほうが落ち着かないというか」
「そうなのですか?今日は男言葉なんですね。次の舞台では男役を?」
「・・・ああ、そんな感じかな」
「そうですか、それでは邪魔してはいけませんね」
「あ、ああ」
では、と頭を下げて、フィネは書斎を出て行く。可愛いいい子だな、と思いながら、カイザーは視線をアルバムに向ける。
フィネやディートリヒ、レオンハルトやエレオノール、11歳くらいからのアリスの写真が季節ごとに載っている。
「・・・・・いないな」
カイザーは首を傾けた。おかしい、ラインハルト氏の話では、レオンハルト氏の家族には、長男のヴォルフリートという子供がいたはずだが。
「・・・・家の事情か」
だとしたら、詮索はしまい。そう思って、アルバムをしまうと、重なっていた隣の本が床に落ちた。
「しまった」
鍵のようなものも転がった。カイザーは慌てて本たちを拾う。
「・・・お姉様」
扉が開き、他人行儀な態度のディートリヒが現れる。さっきのフィネとは態度が違う。
「・・・な、何、でぃ、ディートリヒ」
「お休み中、悪いんですが、少し僕に付き合ってくれませんか」
「付き合うって、何に」
ディートリヒが首を傾ける。
「いつものフェンシングの稽古ですよ、来週知り合いとフェンシングするといったはずですが」
「・・・・フェンシング?」
剣を渡される。
「今日は手加減しませんよ」
侯爵令嬢がフェンシング?
二回へと続く中央階段で、フォルクマと出会う。
「・・・あ、お久し振りです。お父様かお母様に用事が?従者のベンジャミンも」
「お前には関係ない、入るぞ」
高圧的、ヘンリーがあんなことをしたらしいから悪い印象なのは仕方ないけど。階段の途中で、なぜかフォルクマが動きを止める。
「・・・・ヴォルフリート、ついてきてくれ、アリスに会いに行く」
「・・・・あ、ちょっと、待った」
慌てて、フォルクマの肩を持つ。
「何だ?」
その時、ドレスの裾を掴んでかけてくるカイザー、アリスと遭遇する。
・・・・あの子息は確か、最後にあったフォルクマ・・・だったか。
「アリス?風邪ではないのか?・・・顔が青いようだが」
手が差し出されて、カイザーは反射的に避けた。フォルク間は目を見開かせている。
「・・・え、あ、病気が移るので、近づかないで」
なぜか、フォルク魔は一瞬、幼い子供のような表情になる。突き放された子供のような。
「そうか、・・・昨日、いきなり、あんなものを見てしまってはな」
「は?」
その時、乱暴に玄関が開かれ、御者や庭師、下級の使用人にとらえられた中年太りの男がナイフを持って、鋭い目つきでにらんで乱入してきた。
「レオンハルト・フォン・ヴァるベルグラオを出せ、俺の娘を殺したあの貴族野郎だ」
下劣な、とさげすむようにディートリヒは見降ろしていた。
「誰か、ダリルでも腕に自信のあるものを呼んで来い」
フォルクマ―ルが近くの使用人に命じる。
「坊ちゃまがた、危険です、お下がりください」
「離せ、邪魔だ、お前らに用はない」
まとりつく使用人たちを男は忌々しそうに追い払い、殴り、ける。
「お願いです、今日はご主人様は家にいませんのでお引き取りを」
「黙れ、黙れ!!」
最後の一人をけり上げると、ずかずかと詰め寄る。
「お前、この家の娘か」
憎悪のまなざしがカイザー=アリスに向けられる。
「おれは・・・」
目の前にはナイフが見えた。鋭い輝きの。
「下がっていろ」
フォルクマ―ルがカイザーをかばうように前に出る。
「レディーを守るのは男の務めだ」
傍にいる人間にフェンシング用のフル―レを頼み、フォルクマ―ルは手に取る。
「でも、それなら自分は・・・」
「いいから」
その時だ、若いメイドが男の近くを通りかかる。
「お嬢様?」
キッとにらみ、男がメイドを突き飛ばす。
「貴様!!」
思わず、階段を駆け下りて、メイドの前に立つ。
「か弱い女性になんてことを!!」
「お嬢様・・・」
「うるさい、役立たずな女は黙っていろ、レオンハルトを出せ!!」
自分の要求のためにこんな若い女性を。
「何だ、その目つきは・・・お前もか、お前らみたいな階級に野サボるやつらがいるからこの国はおかしくなるんだ!!」
男が手を振り上げる。カイザーはメイドを守りながらぎゅっと目を閉じる。
やられる・・・!
「アリス!!」
「おっさん、何してるんだ」
その時、背後から頸部めがけて肘を鋭くめり込みさせ、前に駆け寄り、腹部にパンチして、次の瞬間、両足をキックして床に倒れさせて、腕をべきごきばきと逆さづりにする小さな影、ダークブラウンの髪が揺れて、ナイフを男から乱暴に奪い、
「何だ、お前」
「うるさいなあ、押し売りはやめてよね、押し売りは、こっちだって忙しいんだから」
瞳をあけると、元の自分と同じくらいの背丈の少年が男を床に乱暴に押さえつけていた。
ギリギリ・・・
「それで、うちになんの用?」
「離せ、このガキ・・・ッ」
カイザーは驚いたように顔をあげた少年をみる。
「姉さん、大丈夫?」
鏡にでも映したような瓜二つの顔、同じ顔の少年が心配そうに自分を見上げていた。
4
「・・・うん、うん、それで友人の様子は?」
ああ、はい、と学園側とヴォルフリートが対応している。しばらく話した後、カイザーの方に振り返る。
「・・・カイザー、君は今日は普通にゴゴから授業でてるって、様子も通常通りだって」
「・・・・・え、だが、しかし」
自分はここにいるのに。それでは、今までの話が彼には嘘になる。
「俺は・・・・」
「困ったね、カイザー、どうする?」
カイザーははっとなる。
「そうだ、女だ、女性に襲われたんだ!」
銀髪っぽい美少女の。
「女性?」
「・・・ああ、首をこういきなり噛まれて」
襟元のレース部分をいきなりめくられる。
「・・・・痛そうだね、赤々しい」
「何をする、貴様!!」
カイザーはイスから体を起こした。
人の体にいきなり・・・・彼の姉のものだが。
無礼な奴だ、とヴォルフリートを思わず睨む。
「ごめん、痛かったか・・・カイザー、君が痛いのかと気になって」
ヴォルフリートが立ち上がった。
「ごめんね」
「い、いや」
「寄宿舎、夜中、女性、吸血鬼に噛まれた痕・・・」
指先をかみながら、ヴォルフリートが考え込む。
夕暮れの中、見つめあうヴォルフリートとディートリヒ。
「・・・?」
「・・・・」
・・・・なんだろう、このシュールなショットは。
目の前にいるのがアンネローゼだったらいいシチュエーションだけど。
「すみません、変なこと言って」
「いや・・」
だから、何だ、この妙な沈黙は。
何、この空気。
「あーっ、そういえば、アーデルハイト嬢はどうする気?」
変な空気を換えたい。大体、恋愛ドラマのキャラではないだろう。僕が。
「・・・」
「・・・」
頬を赤らめられても。
「姉さんを他の男にまだ取られたくないよね」
ディートリヒのは、思春期の憧れだろうけどな。
「・・・それは別に、もう、いいです」
何だよ。
5
「・・・劇場?」
馬車で連れてこられた場所は、赤薔薇と白薔薇の劇が行われている劇場だった。
「シェノル、カイザーの世話を頼む。カイザー、君は白薔薇焼くとして舞台に立つんだ、台詞はシェノルやアンジェルが教えてくれる」
「・・・・・・・は?」
「大丈夫、衣装も清楚だし、赤薔薇に比べて、白薔薇は台詞も少ない、劇は三時間が二回、夜中までには僕の家に戻れる」
頼むよ、ト肩を叩かれた。
「・・・それで駄目かな?」
優等生で誇りを持ち、周囲の生徒からも尊敬のまなざしを向けられるカイザーにはすぐには容認できないだろう。そのことを考えて、ヴォルフリートが口を開こうとする。
「面白いな」
急に見慣れたしっかりモノの優等生の顔から悪戯が好きな子供の顔になる。
「了解した、やってみよう」
一瞬、虚をつかれた。
「・・・・カイザーは男だろ、それなのに」
「何が目的か知らないけど、お前の嘘は信用できそうだ、お姉さんのためじゃなくて、俺のためでもあるんだろ、何を驚いた顔をしてるんだ?俺がお前の嘘、気付かないと思った?意外と自信家なんだね」
嘘を暴かれたことはルドルフにもエレクにもない。アリスの姿を通して、驚いたようにヴォルフリートはカイザーを見る。
「・・・変な人だね、君は。君が話した君のp経歴や君自身だと、こういう非現実的なことは信じないんじゃない?」
「はは・・、確かにそういう一面も俺だけど、でも、俺は一方で意外と環境に適応力も持っているんだ」
カイザーがシェノルの後に続いて、歩き出す。
「過去に何が起きたか考えるするより、お前とこうしていることを楽しみたいし、君を信じると俺が決めたんだ」
それに、と言葉を途中で決める。
「俺が何に巻き込まれたか、知りたいんだ、昔さ、俺、その時知らなきゃいけなかったことを怖がって、大切なことをそのままにした経験があるから」
ヴォルフリートは何も言わず、自分を見ていた。
「それに巻き込まれたのが、君のお姉さん本人じゃなくて、俺でよかった。友達や周りのオリバーたちじゃなくて」
寄り道している場合じゃない。
「・・・カイザー、それじゃ、目の前に殺人犯がいても、君は君が助かる為に戦わない、傷つけないってこと?」
カイザーが目を伏せる。
「・・・俺には重過ぎるんだ、自分のみを守る為に誰かを傷つけることが」
それくらいなら、俺は自ら、殺人犯の刃だって受け入れる。
受け入れてしまえば、最小限に誰も傷つかない。
「君の家族や友人のために、君が死ななければならないことになったら、その場合、どうするの?」
背筋が冷たくなった。その言葉を言った瞬間、カイザーはゆがんだ笑みを浮かべた。
「それしか方法がないなら、ためらわない。俺が死ぬことで俺の大切な人間が助かるなら―」
真っ直ぐな目で、疑いもなく、堂々と。
それじゃあ、とカイザーは手を伸ばした。別れの前に挨拶を、とヴォルフリートに手を伸ばす。ヴォルフリートが笑顔で握手を返し、カイザーは肩の緊張を落とした。
「カイザー、君は優しい人だね、そしてとても残酷だ」
「・・・・え?」
「仕官生の僕以上に君は、積極的な人殺しでマゾで醜悪だ、僕以上に君は死人だ。吐き気がしてたまらない」
「・・・・な・・・っ」
「僕は心から君を嫌悪するよ、誰が君の自己犠牲のために血を流しているのか考えないのか、泣いているのか、考えもしないで、他人の為に自分が死にます?ナルシストもいいかげんにしろ」
カイザーはヴォルフリートに強く手をつかまれた。
「自分の存在を粗末にする奴に、誰かを守れることができるわけがないんだよっ」
大人しく温厚でマイペース、変わり者と怒らない温厚な人だと誰かが彼のことを言った。
「死にたがりが・・・」
「痛い、ヴォルフリート、離せ・・・」
ぎりり、と指を食い込ませてくる。
「・・・それじゃあ、僕は姉さんの所に行き、原因を突き止める。君は姉さんの代役を」
「・・・・・」
ヴォルフリートが下がっていく。闇の中に消えていく。
何なんだ、アイツは。
「―-」
彼の目はあからさまに敵意そのものだった。全然大人しくないじゃないか。
けれど、再会したとき、彼女の記憶の中に、その記憶は真っ白になっていた。
揺れた気持ちのまま、アンジェルに衣装に着替えさせられ、髪をアップにされる。楽屋は個人用であり、アリスの性格が几帳面なのか整えられていた。
「・・・・カイザー様、ヴォルフリート様を誤解しないでくださいね」
「アンジェルさん」
穏やかな柔らかい笑み。包み込みむ空気。
「・・・あの方は、誰よりも人の痛みに敏感に感じる方ですから。さっきはあんな言い方をされましたが、ヴォルフリート様はカイザー様のこと、心配に感じたのだと思います」
「・・・・心配?」
「詳しくはいえませんがお姉様のアーディアディト様が昔、大病を患って以来、ローゼンバルツァー家の中での肉親同士のいさかいもあり、ヴォルフリート様は酷く不安定な状況や立場におかれ、心が揺れたのだと思います。アーディアディト様は気が強く、誰の前でも堂々とされるお方です、ですが、同時に他人が自分の為に傷つくことを酷くおびえることがありまして、お姉様とカイザー様を重ねたのかもしれません」
ヴォルフリートのアリスを見るときの視線や仕種、彼女に対する態度。
「ヴォルフリート様はお姉様思いの方ですから」
ヴァルベルグラオ家にいるようになって、2日目。
食事の席で、喉がざわつくような感覚をアリス―カイザーは感じた。中央の席にレオンハルトが座って、その横を妻のエレオノールが座っている。
空席のヴォルフリート、カイザーの座るアリスの席、続いて、ディートリヒ、フィネと座っている。
「アリスが」
「アーディアディトが」
「姉さんは」
「お姉様は」
順番どおりに用意される食事やワイン、綺麗な花が入れられた花瓶。白い布。ウィーンの聖母、そのあだ名どおりに自分に対する彼女の態度はどこまでも穏やかで優しい。理想の母親といった所だろうか。
「・・・お母様、兄さんの食事を用意しなくていいですか、まだ、学校の予定はあかないんですか?」
「兵士になる為の訓練や勉強で忙しいのよ、きっと」
「・・・・ですが、お母様、お姉様にはあんなに関心があるのに、何故長男である兄さんには」
「・・・ディートリヒ、貴方はいつからヴォルフリートの口癖を真似するようになったの?兄さんではなく、ヴォルフリートお兄様でしょう」
やさしさの中にも厳しさがあるということだろうか。
「お姉様・・・・」
フィネが不安そうにカイザーを見る。
「どんな言い方でもいいではありませんか、それだけ、ディートリヒはヴォルフリートを慕っているのでしょう」
すると、ディートリヒが眉を顰めた。
「私はただ、この家の長男として、・・・あの人に自覚を持って欲しい、それだけです」
素直じゃないんだな、となぜかおかしくなってしまった。フィネも空気が少し和らいだことに気付いたようだ。
「アリス、それで劇の方はどうなんだ」
「え・・・」
「先日、体調を崩したそうだが、劇場の奴らに何か嫌がらせでもされてるんじゃないか」
「貴方はもう、アリスには過保護なんだから」
エレオノールが咎めた。
「辛かったら、無理してでることもないんだぞ」
穏やかな淡い色の金が勝った茶髪、穏やかな緑色の瞳。この人が俺の父親だったらなと一瞬アリスがうらやましくなった。
「お前にはなるべく悪い虫、お前の外見ばかりを見る音子供を近づけたくないからな」
「おとうさ待ったら、もう」
フィネがくすくす笑う。
「ありがとうございます・・・」
「ヴォルフリートも姉離れさせないとね、もう16歳なんだから、一人の男として、がんばってもらわないと」
「お母様こそお兄様から子離れなさったら?お兄様が家に帰ったとき、お姉様からいつもお兄様を取り上げて、独り占めしたがるんですから」
ねえ、お姉様といわれ、そうねと答えた。
「・・・だって、独り占めして、会いたいのを我慢してるのよ、わたくしの息子を母親が独占したいと思って」
「・・・・お母様、前から思ってましたが、関心がないのかあるのかハッキリしてくれません。お母様の兄さんへの態度は軟化、息子のものと違いますよ?」
6
「・・・・ディートリヒ、その格好は」
「・・・お母様?」
「似合うでしょう」
「いや、にあいますけど、何故女装を?」
アリス―カイザーは恐る恐る聞いた。
「ある舞踏会に連れて行こうと思って、仮面が必要なの」
無邪気にエレオノールが笑う。
「でも、女装させなくても」
「似合うでしょう」
「見ないで下さい」
「でも、凄く可愛いわよ、美少女みたい」
「見ないでくれ!!」
扉の向こうに、ディートリヒが出て行こうとするとヴォルフリートの姿があった。
「・・・・・・何してるの、ディートリヒ」
あからさまに引いていた。
「・・・え、いや、その」
「・・・・そういう趣味か」
「誤解です、これは母上が勝手に!!」
「いや、人の趣味は人それぞれだから」
そういいながら、数歩下がり、足早に去っていく。
「兄上、お待ちを!」
「大丈夫だから」
「貴方には誤解しないで欲しいんです!」
ヴォルフリートは振り返る。
「僕には?」
「・・・か、勘違いしないでくださいよ。別に兄上が、特別だからではなくて、世間体とか、ぎょうじとかそういう」
「ディートリヒ、顔が真っ赤で青いわよ」
「や、だから」
「まあ、可愛いからいいじゃない、うん、可愛い可愛い」
あはっ、と軽く笑う。
「馬鹿にしてませんか」
「にあわない人には言わないよ、僕は。姉さんはもっと可愛いけど」
「まあ・・・」
仲良くするアリスとヴォルフリート。いつもどおりの光景だ。姉と笑い会っていると、ディートリヒが間に入った。
「姉上、兄上は仕事に戻りますから、もういいのでは」
「え?」
「ディートリヒ?」
「忙しいのでしょう、先にお戻りを」
ディートリヒは玄関までヴォルフリートを引っ張った。
「お、おお」
「家のことは僕に任せてください」
乱暴に扉が閉められた。
ドレスのことがそんなに気に触ったのか、大好きな姉を気に入らない兄に独り占めされるのがイヤだったのだろうか?
「・・・仲良くなったフォルクマールさんか、ノア上官に相談するか」
男のことは男に聞けばいいか。思春期の弟の志向はさっぱりだ。
典型的なプライドの高い、自分に似ているような気もするが生まじめで硬い印象の弟だ。カイザーはそう思った。着替えを手伝いながらそう思った。
「今日は随分素直なんですね、別の人みたいです」
部屋の中では、ディートリヒがドレスを脱いで、別の服に着替えていた。
「いつものけんか腰はどうしたんですか」
つん、とした言い方だ。あのヴォルフリートの弟日誌手は随分タイプが違うな。
「ほら、兄弟だし、あはは」
カイザーは扉に背中を預けて、笑う。
「・・・・姉上、・・・姉上は兄の様子がおかしいと思いませんか?」
「?何がだ」
「その・・・、時々、別の人間になりきるというか。本当に心から女性と遊んで、楽しんでいるように見えていますか?」
これはアリスに対する問いかけだ。
ブラコンらしいこの少女が答えるとすると。
「心配にはなるな・・・凄く心配だ。けれど、思春期には別の人間になりきって、女の子にもてたいというのはよくあることなんじゃないか」
「・・・・・」
「ディートリヒ?」
「変なことを言って、すみません、もういいですから、自分の部屋に戻ってください」
「でも」
「お帰りを」
カイザーは心残りになりながらも、ディートリヒに従うことにした。
ツェツィーリア・フォン・ベルギャントは取り巻きに囲まれながら、ヴォルフリートから皇太子殿下の情報を聞き出していた。父親には皇太子に取り入るように言われ、人のよさそうなお付きのヴォルフリートに目をつけたのだ。
「・・・そうですか、それではエルザ女史は特別な女性ではないのですね」
「よかったですわね、ツェツぃーリア様」
「ルドルフ様は誰にでもお優しい、ただそれだけのようですね」
賛同者の少女たちは嬉しそうな声を出す。
「わたくしはアルベルト様の為です。アルベルト様が、殿下をお守るする立場になられるから」
頬がかすかに染まる。その時、扉が乱暴に開き、ツェツぃーリアは突き飛ばされる。
「ヴォルフリート、大変、大変!!」
「・・・・アーディアディト~」
「あら、どうなされたんですの、ベルギャント侯爵の令嬢様」
嫌味な言い方だ。
「人のことを突き飛ばしておいて、この愚か者!!」
「それはごめんなさい」
2人の間で火花が散った。
「2人とも落ち着いて・・・」
2人の間をオロオロとヴォルフリートは歩いていた。
「「貴方は黙ってて!!」」
アリスとツェツぃーリアの声が重なった。
舞踏会に参加する主な注目のメンバーは大体が決まって
いた。皇帝陛下のプライベートな付き合いもあるというヴィヴァリー夫人、二番目が、ローゼンバルツァー家のエレオノール、3番手が皇帝のご意見番の議員の妻でサロンの女主人である慈愛の・オルガ・フォン・ヴァルケシュヴェーン。若輩者の貴婦人はまずこの皇族に近い上位グループのご機嫌や意思をとることが暗黙のルールだった。
舞踏会の花としては、最近はツェツぃーリア嬢やアーディアディトが注目され、ヴィクトリアも有力な家柄の貴公子や上に上がりたいなり上がりの家の嫡男に注目を浴びている。
皇族とつながりのある公爵家や重要ポストの人間の意見は、階級社会の貴族社会において、重要だった。
ギルバートの父であるリヒャルトは公爵家の親戚筋であるヴァスィツァオバラー家の婿養子で軍内でも皇族つきの護衛衆を引きえる精鋭で、上のクラスで、出世クラスの人間だった。
薔薇の優しい匂いが会場にいるギルバートの鼻腔をくすぐる。冷たい貴族の視線がギルバートに注がれ続けた。
「見て、オーストリアの狐の娘よ」
柔らかく愛らしい、それでいて上品で高貴な微笑みが見るものを温かくする。ピンク色の唇には、ローズピンクの口紅が添えられていて、小さな唇には良く似合っていた。
「あの薄汚い手段で何人の人間も貶めて、地位に上り詰めた」
好奇心と知的な輝き、純粋な魂を漂わせた紫がかったラファエロ・ブルーの大きく緩やかな瞳は光に満ちており、膝まで伸びたストロベリー・アイスを思わせる柔らかでふわふわの髪をアップさせた、スレンダー体型でありながら美乳の大きい胸を持つ少女は、まさに本物のお姫様だった。雪のような白い肌は恐らく異性を知らないであろう。
「賄賂にも手を出し、主な人物も手の中に取り込んでいる」
彼女は18歳を迎えたばかりだが、幼さを感じさせる顔立ちのせいか、15歳か16歳くらいに見える。花を思わせるドレスに身を包み、視線を奪っていた。
「何でも、他に後継者になる嫡子がいないからジプシーの、愛人との子を跡継ぎにしたとか」
「あの少女を息子として生めばいいものを、妻の間に女ばかり・・・」
扇を片手に口々に噂をする貴婦人の中にローザリンデの姿もあった。
「アーデルハイト・フォン・ヴァスィツァオバラー嬢は相変わらず、美しいな」
「今日は君の付き添いだろう、ギルバート」
ベルクヴァインはやんちゃな笑みで、ギルバートを優しく包んでいた。裏表のない、本当に真っ直ぐな友達だ。
―確かに眩しい。
しかし、今日はアーディアディト・・・憧れのヴォルフリートの唄姫の姉君の姿がないことがギルバートの姿を曇らせていた。
カイザー=アリスは貴族の令息が集まる寄宿学校で規則正しい、時間が決められた生活を監督せいの衣装に身を包みながら、屋上で見ていた。隣には、ハンス・アーデ、ヴォルフリートの姿がある。
非常識な現実。鏡の前に現れた金髪の男の子。カイザーと自分を呼ぶ、この姿の友人達や使用人。
「・・・・ねえ、異能者は、皆こんな吸血鬼みたいな力があるの?」
「姉さん、怒ってる」
「・・・・怒ってないわ」
怒ってるじゃないか、ヴォルフリートの心が揺れる。
「最初は凄く困ったし、泣き叫んだわ。でも、この男の子に噛んだのは、貴方と同じ、ルドルフ様の異能者狩りの騎士の人なのよね・・・異能者にもいろんな派閥があると聞いたことがある」
「うん・・」
「貴方が家を抜けているのは学校で寮に通ってるからと思ってた・・・でも、つかわれていたのよね、貴方と殿下、ローゼンバルツァーは軍人の家柄で皇族を守ることを生業とした家、・・・でも、貴方の能力を使っているのは殿下じゃない」
「!」
アリスは瞳を揺らす。服のすそをつかむ。
「・・・・お父様なのね」
哀しみに似た感情がアリスを覆う。どうして、どうしてこんなことになってしまったのだろう。
「騎士王、・・・それが貴方の」
「コードネーム・・・」
「姉さん、それは・・・」
今回、ヴォルフリートがいるのも、異能者として人を守るための。けれど、それは誰かを弟に傷つけさせるのだろう。ヴァルベルグラオの名前のために。
重いものが後ろの弟の細い肩にのせられている。
「違うよ、僕は」
アリスは振り返る。
3
学園の中を歩く、アリスとジーくべると。
「・・・怪談話が出たのは、西塔からなんだな」
他の生徒もいるということで男言葉を使っている。
「本当に吸血鬼を探すつもり?貴方の弟は、貴方が調査に参加することを望んでいない」
感情のない言葉、冷たい表情。廊下は薄暗い。
カイザー=アリスは階段を下りていく。
「旧校舎に目撃者が多いということは、そこがカーミらの住処の可能性が高い。彼女の被害者は生徒ではなく、教師やシスターに定められている。それなのに、俺に、カイザーに定めた」
「いつも同じジャンクフードを食べるとは限らないよ、アーディアディト。気まぐれでつまみ食いした可能性もある」
アリスは考える。
「・・・俺には異能者に恨まれる、狙われる理由はない。ジーくべると、何度も聞くけど、俺と吸血鬼の関連性は?」
人を傷つけるものは何者も許さない、そんな考えがアリスの志向の根底にあるのだろう。家族や友情を愛し、正義のために剣を抜く。諦めない精神。納得するまで、アリスは吸血鬼関連の場所や人間に対して、何度も廻った。
7
馬術大会。アリスは、わざわざ、敵にアリスだとわかる為に派手な衣装を身にまとって、勝利者に王冠を与える名誉生徒会長として、オリバーやディディを控えさせていた。
「性格が変わってないか、さすがにカイザーのキャラでこういうことは」
後ろに控えるハンス=ヴォルフリートが小さな声でアリスに言った。
「私はこそこそして、付回す趣味はないの。やるなら、堂々とね」
悪戯めいた表情が浮かぶ。
「こういう時は頑固なんだから」
ヴォルフリートはため息をついた。
「試合形式は、リーダーの赤としろの帯を取り、二体にで合戦方式、決められた領域内で馬を走らせ、与えられた目標を拾い上げていくもの、この二つね」
「チームはヘルムート、相手はフランシス、この2チームで行うようだね、・・・あ、カイザーが来た」
「前の人が貴方の友達?ヴォルフリート、貴方、本当にどこにも友達がいるのね」
アリスは少々呆れている。
「いやぁ」
ほめてはいないんだけど。
「なぜ?そんなことを?この俺様が、汚らしいビッチの息子不在にいうと思っているのか、クソが」
ワイリーは汚らしいものを見るように、フォルクマールを見下ろした。足蹴に力をこめる。
「理想?忠誠?てめえら、豚共の私服を凝らせる為に、何人死んでると思っている?てめえに忠誠を捧げている奴らは全員、お前の家の名に擦り寄ってきた犬だ。てめえが強いからでも、人格者だからでもない」
ぐりぐりと胸に足を押し付ける。
「・・・・にを」
「わからないか?貴族のボンボンのお飾りが。誰も世界はお前を認めてない、お前にあるのはローゼンバルツァーというブランドと外見のよさ、中身なんてクソとしか思われてねえんだよ」
「くだらないな、その偽善者じみた正義というのは、ちっぽけだ」
「・・・あ、フォルクマールさん・・・すみません」
ヴォルフリートは慌てて道を開けた。
「・・・・・ああ」
「?」
「・・・・・この前のことは本気なのか」
「・・この前?貴方と離すのは家に来て依頼、伯母様の家で迷子になった時くらいだと、いつの話です?」
試合の最中、ジーくべるとの合図にアリスは待ち合わせ場所に向う為、学園内の中庭に向った。
「カイザー!」
振り向くと、息を切らしたヘルムートの姿があった。
「何だ」
周囲からの情報だと、この男前の友人に対して、この体の少年はけんか腰で邪険にしているらしい。ずかずかと人の内面に入り込みすぎる。ここ数日で、アリスは嫌いではないがヘルムートのカイザーに対する友情に困っていた。
「その・・・」
辺りを見回して、誰もいないか確認をして、真剣な表情になる。近くに来ると、かなり背が高いことがわかる。少し、どきりとする。
「俺に何かできることはないか、今、校長たちの不正の問題にお前が関わっているとオリバーから効いて」
「これは俺が自分で関わった問題だ、気持ちは嬉しいが、今はお前は試合に集中しろ」
「俺では役不足ということか」
「今の段階で君に手伝ってもらうことはない、それだけだ」
その場面を、クラウスが見つける。
「それじゃ、試合、がんばってくれ。俺は用事があるから」
くるり、と振り返り、アリスは去ろうとした。
6
旧校舎前。
ヴォルフリートは吸血鬼の目的が、学園や建物や学園内の人間関係より、カイザーにあると同僚達から聞かされ、一人立っていた。
・・・のどの調子が今日は悪いな、・・・このところ、異能者の仕事で別の自分達が体を使いまわしたからな。正直、立っていられるのが奇跡だ。
「ハンス・アーデ」
振り返ると、フランシスの姿があった。
「少し話があるんだけど、いいかな」
校舎の角から、アリス=カイザーが現れた。
・・・・ハンス。
何日かぶりの友人は変わらない。
悪事を思いついたような、残酷じみたフランシスの顔。
自分の悪事に、気の弱いハンスを利用する気か・・・!
カイザーはぐっとなった。
旧校舎の指導室。中の家具や教具、すべてのものに埃がかぶっていた。
「少し前まで、僕はね、家の中ではいないものも同然だった」
「いきなり、何を」
「君もだろう、商家の家で相当酷い扱いを受けてきたはずだ」
「何故、そう思うんだ」
「合同の体育の時間、見たんだ・・・君、体にあるだろ」
フランシスが振り返り、壁に追い込む。
「何を!?」
「僕らは誇り高き血の誉れを受ける資格があると思う、ハンス、君はどう思う?苛めた奴らを新しい力で見返したくはないか?」
「フランシス、君・・・・」
「僕はね、帰られそうなんだ」
「手が痛い、話してくれ」
「僕をなじり、馬鹿にした奴を、馬鹿みたいな父親も狂気じみた母親の暴力からも、君を苛めた全ての奴からも、僕らなら変えられる、変わるんだ」
7
彼との待ち合わせ場所を外出許可証を貰いながら、馬車を広い、中央広場に向う。住宅街と隣接して、歓楽街は小規模にあった。
無神経だ、彼はキッと悩みがないんだと組織の同期が悔しそうな声で言った。本心を語らない馬鹿だと、父から皇太子殿下のプライベート事情を聞いた。
作戦概要を学園においてきたアーディアディトが知ったら、怒るだろう。戸惑い、ユルセナイと叫ぶだろう。
「写真を送りつけてくるとは、カイザーの周りを突っついた効果はあったか」
昨晩、尊大な校長や教育関係者が脅した途端、カイザー・クラウドへの嫌がらせを生徒にさせていたと。自らの口で語った。
目撃者、たった一度。自分たちの私服をカイザーに見られた。密輸の犯人は、べたではあるが教育関係者の上層部だった。既にそのことは上にも報告している。ばれないようにあんなに慎重にして、ばれないようにしていた奴らが急に何故、あっさりと白状したのだろうか。
ジャンル別一覧
出産・子育て
ファッション
美容・コスメ
健康・ダイエット
生活・インテリア
料理・食べ物
ドリンク・お酒
ペット
趣味・ゲーム
映画・TV
音楽
読書・コミック
旅行・海外情報
園芸
スポーツ
アウトドア・釣り
車・バイク
パソコン・家電
そのほか
すべてのジャンル
人気のクチコミテーマ
ハンドメイドが好き
年末年始営業日のお知らせ
(2025-11-10 12:53:16)
REDSTONE
グランドフィナーレ〜♪
(2025-05-18 20:25:57)
機動戦士ガンダム
ザク
(2025-11-08 19:05:06)
© Rakuten Group, Inc.
X
共有
Facebook
Twitter
Google +
LinkedIn
Email
Design
a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧
|
PC版を閲覧
人気ブログランキングへ
無料自動相互リンク
にほんブログ村 女磨き
LOHAS風なアイテム・グッズ
みんなが注目のトレンド情報とは・・・?
So-netトレンドブログ
Livedoor Blog a
Livedoor Blog b
Livedoor Blog c
楽天ブログ
JUGEMブログ
Excitブログ
Seesaaブログ
Seesaaブログ
Googleブログ
なにこれオシャレ?トレンドアイテム情報
みんなの通販市場
無料のオファーでコツコツ稼ぐ方法
無料オファーのアフィリエイトで稼げるASP
ホーム
Hsc
人気ブログランキングへ
その他
Share by: