ruka126053のブログ

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第29話


1
すべて、妹とこの帝国の掲げる理想を真なるものにするために。
すべて、帝国内の理想と人々の幸福と笑顔のために。
カイザーの願いはただ一つ。ディウッドの願いは一つ。
「なぜ、俺の邪魔ばかりする」
二人が抱く願いは同じなのに。
帝国の真なる平和のために、妹を自由にするためにフォボスはカイザーと戦うのだ。
≪サンダー・エクストリーム≫
一節、二節でフォボスは雷の魔法を放つ。
「フォボス、お前はなぜ人を傷つける」
≪ヴァイス・モナーク≫
光魔法の最高峰を放つ。
「ディウッド、お前はなぜ帝国に所属する」
戦場でフォボスとディウッドは呪文を唱え、攻撃魔法をぶつけ合う。
「なぜ争いをやめない」


「-それでも、アーディアディト、貴方のやり方では勝利をつかめない」
本当はわかっていた、アリスが引くわけがないことも、大勢の帝国臣民のためにアズゥ・カルヴァエ―レを引き連れ、戦場に来ることも。
「結果だけがすべてじゃないはずよ」
「いいや、結果がすべてだ」
「話し合えば、わかりあえるはずよ」
ゴットヴァルトとアリスは見つめ合う。
ーすべて、彼女の笑顔のために。
カイザーの脳裏にアリスの輝かんばかりの笑顔が浮かぶ。
≪フォース・ガーディアン≫
ダヴィデが後方からフォボスをサポートする。
「双方、剣を収めて」
アリスが二人の間に入る。
「なっ」
「私がすべて収める、あなたたちが争い合う必要ないでしょ」
「甘いことを」
すべてアリスのために。ブルー・カルヴァエ―レも、アルヴィンもダヴィデもフォボスも同じ思いだ。
「貴方の半分私に背負わせて」
「どうする気だ」
「ゴットヴァルトももう一人で背負わなくていいの」

ーすべて、姉さんのために。
そのために、何でも利用する。赤の女王もブラッディ・ローズもブラウン・ローズも。だからこそ馬鹿らしい。いちいち手段にこだわってどうなるのだ。
帝国南西部。
ワイバァン隊の本陣では、オルフェウスや仲間たちの姿がある。
ーフォボス、大丈夫かな。
心配だ、だが今はイシュタルの第34皇子との戦闘が待っている。
「いちいち一人の死にとらわれても仕方ないじゃないか」
バーバラスは怒りで頬が赤くなりそうになる。すぐそばの騎士が止めに入るが、そうでなければ殴っていたことだろう。
「目的を遂行しなければ彼らの死はなんの意味もない」

フォボスの騎士団が全軍、イシュタルの正規軍に囲まれる。
「全員、包囲しろ」
フォボスが先頭に、エリスたちがダヴェーリャの大軍に迫る。
≪フレイム・バースト≫
ゴォォォォォ・・・。ドォン。作戦の裏手を書かれたのだ。
「大人しく投降しろ」
その中で、フロイデとともにヴォルフリートは、最前線でアリスリーゼと戦う。
「私をばかにしているのか」
「俺だ、カイザーだ」
「お前のことは知らないっ」
彼女の姿を忘れたことはない。
「アリスリーゼ、本当に俺がわからないのか」
「だから、お前は何者なのだ」
アリスリーゼは知らない。天魔おちの少年がなぜこんなことを言い出すのか。
「俺だ、カイザーだ」
交じり合う剣。交わされる視線。
頭の奥が痛む。

「アルヴィン、どうして、帝国はこんなに酷いの」
「俺にもわからない」
本当にわからないのだ、ここまでこうなってしまったことも。パンドラも天魔おちも、貴族からの差別もわからないのだ。
「誰もわからないんだ」

ヴォルフリートともに闘うこと、それがパンドラたちの願いだった。作戦をともにして、戦って勝つ。
「行こう」
「ああ」
今日も生き残る」

「たち言ってどうする気なの」
二人のいさかいをヴォルフリートが止めようとする。だが、アメリアが前に立ちふさがる。
「決まっている、止めるに決まっているだろ」
「意味もないことなのよ」
「人は話し合うことでわかりあえることがあると思うわ」
ダヴィデの手を取りながら、アリスは鎧を身にまといながら、笑顔で言う。
「そうかよ」
ダヴィデは眼を伏せる。
ヴィントは、アリスの考えが今だおとぎ話の段階から抜け出していないように思えた。
「甘いな」
「私の考えが間違っているというの」
「間違っているとは言ってねぇよ」
ブルー・レジ―ナとして、剣を取るだけではなく、対話の姿勢で今の戦争を止めようという考え自体は間違っていない。
「人は話し合うことでわかりあえることもあるわ」
フォボスの騎士団も助けに来たアリスに呆然とする。アズゥ・カルヴァリーレ、アルフレートの部隊、さまざまな騎士団がある。

「そんなことがあるなんて」
「アルヴィン、事実なのです」
アリスリーゼもショックを受けているが、まぎれもない事実です」
ヴォルフリートもさすがにショックを受けている。
「パンドラだからって、そんな」
「戦場にすぐ送りだされるなんて」
場所はガウェインとの決戦場。オスカーから知らされた事実にショックを受ける。
ガウェインはその事実を臣下のものから聞いて、改めて厳しい現実を知る。この世界では女性が子供を生むことはそれなりに覚悟がいるのだ。
「自分の家族を戦場に送りだすとは」
拳をぎゅっと握る。
「この国の人間にとって子供を生むことは掛けに近い、イシュタルもだが」
「というと」
「産んだ子供が天魔おちか、パンドラならその家族は悲劇に走ることになる」
帝国の女性は家族を守るため、パンドラを帝国政府に渡す。あるいは引き離されまいと必死になるが結果は同じだ。
「自分の子供なのに」
「両者の時点でもう家族ではないということだ」

「アルヴィン、それは無茶な相談だ、家族としてカウントされないんだ、パンドラとして生まれた時点で兵士として剣としての事実か、冒険者に狩られる未来しか彼らにはない」
「そんなひどいことあるかよ、血のつながった家族なのに」
「モンスターだろう、彼らは実際」
悪魔属から鬼属、エルフ属として保障されたものもいるが、それ以外は魔獣園やさいとに送り込まれ、兵士として送り込まれ、死を迎える。帝国や赤の女王に忠誠をささげ、悪事を働けば光の騎士団や銀の十字架に狩られ、天魔おちも同様。兵士としてウォーロックを狩るためだけに存在する。
「僕らは救いたい、彼らを」
フィリップやオスカー、ダヴィデやシエラもアルフレートと行動を共にして、残酷な現実を変えたいと思う。貴族以外は人間じゃない扱いもそうだ。
「俺だってそうだ」


アデル・フォン・ブッシュノウムはやはり性格が悪い。天才ゆえに絶対無比、唯我独尊。価値観の共有、少なくともフォルとマーも自分も彼女に勝ったことがない。出会ったのは9歳の時。
名門故の古い、古い家。親は、あの人たちは負けを認められない人だった。兄弟が多く、ほかの家のように他家にいかせず。愛情は他と同じくないが、才能はあったし、ひどく退屈で、だから魔術師の学校に行った。
「女の子・・・」

ゴットヴァルトさえいれば、イツェンはそれでよかった。本当にそれだけでよかった。
「待てよ、おい」
「まだ付いてクンのか」
「当然だろ、俺たち親友だ」
そばにいることがうれしくて、ずっと守りたくて。ほかのみんなも同じ。ずっとゴットヴァルトとともにありたい、そう願っていた。


「はぁ?」
やばい、折れる。頑張れ、僕。
「ええと、僕殺人鬼のきちがいで」
どんな犯罪者だよ、と思いつつも説明はした。別に兄弟でいることがそばにいることではない。だが閣下は僕を見た後、深くため息をつかれた。それはもう深く深く。
「それでだ、私も貴様の今後について、一応考えたのだが、何をしている、座らないのか」
座らないところされる目だった。座ると、なんか向き合って座りなおした。
「貴様ではワイバァン隊も気が重いであろう、貴様の腑抜け癖は私では無理だ」
「ええ、まあ」
「それでだ、貴様がいつまでもライバルのおこぼれもらう今の立場では貴様は変わらないだろう、ゴットヴァルト、ワイバァン隊をやめて私のもとにこい」
「すみません、何言っているのか、わからないんですが」
「いきなりでは無理か、なんだ、今の隊にお前でも執着を抱くのか?これは驚いた、お前に人間並みの感情があるとは」
マリアベルの父ちゃんだな、マジで。
「ええと、できれば軍隊自体、やめたいんですが」
「安心しろ、私が都合よく、取り計らってやる、それで不満はないだろう」
「あのぉ、お父様、そこまで国の命令だからと無理しなくても、たかがキメラですし」
何だ、この面倒な男は。
「無理はやめなさい、お前には向いていない、たぶらかすのはお前の特技だろう」
「笑いを狙っていませんし、そんな昨日ありませんから」
「私には貴様の考えがわからないのだが、まあいきなりで心の準備はないだろう、時間はやる、ああ、そうだ、怪物、アルバートとは目を合わせるな、会話しないように」
「それ毎度言うのもどうかと思う」
「貴様が悪影響以外、与えるか」

「・・・ヴォルフリート」
アリスは涙をこぼす、すべての記憶が戻っていく。
「貴方がどうして戦場にいるの」
ゴットヴァルトの目が見開く。

「もういいの、ヴォルフリート」
ゴットヴァルトの手をアリスは握る。
「貴方がすべて背負う必要ない」
「私ってバカなのね、すぐ横にこんなに思ってくれる人がいたのに」
「貴方は頑張った」

アルヴィンが制服の上着をゴットヴァルトに掛ける。
「お前に軍服は似合わねえよ」
「イシュタルに負けそうなんだぞ」
「協力し合えばいい」
アルヴィンが手を差し出す。
「友達だろ」
フォボスにアリスが手を差し出す。
「貴方ももう無理しなくていい」
セアドアとオスカーがお互いの顔を見合う。


「フレッド、元気そうで」
アニスが久々にみるフレッドに涙ぐみながら近づく。
「フレッド?」
「はじめまして、アニスさん、イシュタルの天魔おちの戦士がこんなに若い方とは」
厳しい表情だ、数ミリの距離を保っている。
「はじめまして、エストカラス卿」
そう、もう兄弟ではいられないのだ。

今日この日が最後だとしても、思い出に変わるとしてもそばにいたかった。イツェンはヴォルフリートのそばにいたかった。最後だとしても、息が途絶えるまでそばにいたかった。
「行けないよ」
「僕は行けない」

ー本当に今さらだ。
「剣をお前のために捧げよう」
「僕のために?君ら馬鹿にしているのか」
「ずっと前から皆で決めてきたことだ」
困った、とゴットヴァルトは思った。そんなつもりはなかった。彼らのために命をささげたつもりも増して帝国のためではない。
「君らのために、戦った覚えはない」
「助けられたのは事実だ」
悪魔属の戦士は、己の剣をゴットヴァルトの前に差し出す。
「お前が死ぬ時、その時が俺たちが死ぬ時だ」
すべてゴットヴァルトのために。パンドラはみんな同じ思いでいる。命を捧げたいと思っている。
「本当に帝国に逆らうの」
「君のためだ」
どういうことかわかっているのか、遊びじゃない。抵抗運動に参加するということだぞ。

イツェンや鬼属の少年の中で、ヴォルフリートが英雄となっていくのにそうは時間掛からなかった。皆を救う作戦を考え、最強とうたわれる腕を磨き、傲慢さも見せない。
「僕は君たちのために戦っているんじゃない、ただ一人のために君たちを利用しているにすぎない」

ゴットヴァルトに対して、そう思うのだ。
イシュタルの軍もそう、全てが愛おしい。セアドアに対して、フィリップに対して、サファイヤエルにしてもそう。すべての記憶を取り戻した。
かって、アロイスと戦い合い、「何で、来たんだ」
アロイスは、宿敵がーランドの戦いでピンチになっていた。
「心配だからに決まってるじゃない」
アリスはセイバーソードを取り出す。
「俺一人でなんとかできるから引っ込んでいてくれ」
「いやよ、絶対にいや」

「これ以上、こちらに被害を出すわけにいかない」
「-セアドア、それではこっちの方が不利だ」
姉さん、僕はどうしたらいい。
お前たちは何も知らないだろう、俺たちがどういう目にあったかも。どんな気持ちでいたかも。本当に知らないのにわかったふりするな。人扱いせず、兵器扱いして戦場に送りだし、わかるのはゴットヴァルトだけ。もとより居場所などない。
「臣民は人間様だけだろう」
「俺たちはサイトの人間だ」
ヴォルフリート、お前が悲しむ必要はないのだよ。

ー全ては妹の笑顔のために。
いつも、二ケの肖像の中でとらわれの身の妹のことを案じてきた。そればかりではない。今も天魔おちもパンドラも不遇の立場に置かれている。不幸だと思った。理不尽だと思った。世界を変えなければ未来はないと思った。次々と作戦を立て、騎士団が命令の元、戦闘行動や後方支援を繰り出し、予想し、次の一手をかける。
フォボスとともに、帝国の未来を変える。骸骨卿もミカエラもオスカーも同じ願いで共に戦う。
「行動を開始する」
そこには、ゴットヴァルトやセアドアの姿がある。

「だが、ゴットヴァルト、今の冒険者制度、本当は疑問持っているんじゃないか」
「まさか、国の治安のために必要な制度だろ、持つわけがないよ」
フレッドはゴットヴァルトを見るといつもの笑顔だ。
「君の仲間の多くがサイトから出て、野党や人殺しに走っているのも疑問抱かないのか、彼らには道がない、そうだろう」


ブレアは、近接戦において、負けを味わったことがない。ブラッディローズの一軍がハートオブクイーンの前に立ちふさがる。ルイが得意技のために呪文を唱え、ブレアが剣を抜き、呪文を唱え始める。
≪へレティックアロー≫
≪タイラントディストラクション≫
ブレアの得意技は、相手の懐に飛び込み、雷の魔法を一気に放つ技だ。ルイの得意技は、自分のオリジナル魔法の陣内に敵を踏む込ませ、巨大な竜巻の中に招き入れる技だ。

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