第１章流れ星、堕ちて・・堕ちて、漂流する
１
セリュージョン歴７３４年、滅びの時はあっさり来た。惑星は太陽系でいえば火星ほどの大きさだった。
「馬鹿な、ブラックホール？」
すぐに当時の王が対応し、勇者たちが対応したが、結局ネオ人はいつ終わるかも分らぬ、生き残りのわずかな人々が王家の人々と宇宙船で逃げることになった。
侵略者、セリュージョンの騎士達は叫ぶ。
「殺せ」
「殺せ」
「支配を、自由を」
まるでチェス盤がごとく、生きていることを見せつけるようにデーモンを放ち、アポクリファ二死の舞踏を行進させる。
「いやああああああああ」
まるで、砂屑のように街が、人々が圧倒的な武力、勇者、皇帝は正義であるという意識に傲慢に奪われていく。
「ひゃははは、地球のサルたちが」
「アリのようだ」
桃色の髪のツインテールの少女は獲物を得た猫のようにいたずらじみた笑みを浮かべる。何の邪気もない、無邪気そのもの。
月からの侵略者。沖縄の本土を我が物顔で勇者セレ―ネ―で歩き回る。
「さぁ、皆狩りの時間です」
歩く要塞。優美な名前とは別に砲台をいくつか腕に装備したダークピンクの勇者は金色の金属の目を持つ。
悲鳴が鳴り響く。
最強な敵、勇者ライアーンとの戦闘はスバルの人生を大きく変えた。ミサキとのコンビで初の本格的な戦闘は重要な拠点の争いだった。
「行こう」
「あ、ああ」
ミサキはまっすぐに目の前のセリュージョンを見る。
「ベルダンディー」
「ヴァルディア」
「まだ、君の怒りは治められないか」
ベルダンディーは調和と慈愛の勇者だ。それゆえに悪に対して厳しい。
桐生院マナはスタジアムの外で、友人に身を守られながら、その光景を茫然と目撃する。
「－なんで」
幼さが残る愛らしい顔立ちは、彼女の非日常を呼び覚ますのに十分だった。水色の長い髪は振動と旋風で激しく揺れる。逃げ惑う人々。
「始まるのだな」
別の方角では廃紫の長い髪をポニーテールにしたフェアラート・ダイモスの姿がある。そのむねもとにはゼウスの紋章が刻まれている。あたかも、勇牙の運命を予感しているように。
デーモンの顔にヴァるディアの得意技、スティール・アーマーが強烈な電磁波の衝撃波とともに炸裂する。哀れな敵の悲鳴が城内に響き渡る。勇牙の思いが期待にシンクロし、ともや愛を辛抱するゆうがの思いがヴァルディアに乗り移ったのだ。激しく機体を身体をスタジアムの客席に向けて転倒し、その巨体をクラッシュするデーモン。アヴァルツデュア軍の兵士は戦術も何もない、ただ目の前の敵に感情を向けるという単純な手に表情を歪めずにしない。
「こんな、まさかあほだ！！」
だが、ミサキはそれを利用することを考える。なんといっても、主力の戦闘員はヴァルキュリアたる自分なのだ。行動派の勇牙は敵を引き付け、慎重派の彼に情報戦で頑張ってもらい、情動的な戦闘女神たる自分は―。
目を閉じて、呼吸を整え、ハンドルに手をゆっくりと載せる。神に祈りをささげる乙女のように。
―だが自分は王子様を待つお姫様ではない。
「ミサキ」
スバルの声がスピーカー越しにミサキの耳に涼やかに響く。映像で映し出されるセリュージョンの攻撃で苦しめられる人々。
「ヴァルディア」
「イエス・マギア」
桜色の唇がきつく締まる。
クリスティーネ・アウラ―は、日課がゼウスの基地の地下にある水族館に通うのが日課だ。ここでは、非現実な風景が広がっている。
彼女は、戦争のない、完全平和の世界を生まれた時から知らない。彼女自身、争いごとも喧嘩も苦手だ。
１２星の御堂家の本家とされる双葉家の長女として育ち、多くの使用人と両親、婚約者と弟や妹達と共に過ごしていた。だけど、
ガラガラ―
「１６歳女性、デーモンに襲撃され出血多量で大変危険な状態です」
病院内で医者と看護師の声が聞こえてくる。アイドルのコンサートにいったその日、セリュージョンの爆撃に合い、デーモンに体を侵食され、家族はルキやの家族とともに渋谷にある屋敷で爆死させられた。
そして、自分は一度死んだ。
【力がほしいか、君にはヴァルキュリアの才能がある】
ヴァるディアが病院からよみがえり抜け出した自分に手を差し伸べてそう言ったのだ。全ての命に優劣はない。
「戦いの道をとるか、そのまま人間として死ぬか、どうする？」
２
巨人。
その言葉を響が理解するのに数秒かかった。自分に理解できないもの、自分では不可能なことができる存在、古代の人々は己を納得させるためにそんな存在を作ったのだろう。
北海道付近の人工島に響は家族と暮らしていた。
物心、ついた頃から静かの夢物語を聞くたびに、その不思議な世界に生きたいと風波美宇は思っていた。自分がいつも見る、夢とあまりに似ていたから。
スバルは、意識を失いかけたその時、見知らぬ星の記憶が頭の中に流れ込んでくるのを感じた。
・・・・なんだ。
３
「滅びの歌を使ったか」
「わがボスはえげつないな」
勇者のコクピットの中で少年達はくすくすと笑う。
「司令官、セリュージョンの本作戦でのこともありますが、これを」
「・・・・これか」
ある写真を渡される。
「月の子供達か・・・」
４
逃げまどう生徒たち。暴れまわるセリュージョンの猟犬部隊の勇者、ガ二メデス。
「明日馬！！」
「来いよ、大西！！」
「ちょっと圧さないでよ！！」
カメラで、標的のヴァるディアを勇者ペルセウスの中でシェイドは探していた。飛行して、戦闘に集中しているせいで、逃げまどう生徒たちの姿は見えない。ウィぃ・・ン。
「どこだ、ラフィーナ姫の仇は」
「敵は」
生徒たちの中から、勇牙を探す。
「草なぎ勇牙は・・・」
ズームインしていく。逃げる生徒たちや教師、小学生たち。その中で視界の隅に、シェイドはそれを黙認してしまう。
・・・え？
立花立夏がその中にいた。
５
「！？」
破壊された市街地の中で、ビームがンに撃たれそうになった時、あるはずのない光景が広がっていた。宇宙人―敵の勇者が自分をかばったのだ。転がって、痛めつけられたからだ。右腕を痛めたらしく、だらりと下がる。
轟音は鳴り響く。
「・・・・な・・・」
残酷で争うのが好きなセリュージョン。
その勇者の機体が、ひざを折り、自分に頭を下げている。騎士が主にするように。
ズキン・・・。
「！？」
左目が痛む。
【お逃げください・・・・」
ザザ・・・・。
雑音が混じる。
状況はわからないが、逃げるなら今だ。立夏は立ち上がり、大西の腕をつかんで走り出した。
６
７
分断されたミラージュブリッジ。ライトアップされた橋。破壊された勇者の沈んだ残骸。遠くのほうでヘリが飛んでいる。
向けられた銃口。殺意の瞳。
「・・・・この鬼が、魔物が、お前が皇族を上を狂わせたのだ・・・！！」
「ひっ」
「パンドラの子が・・・・！！」
「・・・・・？」
ウィぃぃ・・ン、がごォォ…ん・・・。
金属がぶつかり合うような音が聞こえたので、祖夫立夏は目を向けた。
目をあけると、ペルセウスのハッチが開き、パイロットスーツを着た男が自分に手を差し出している。
「セリュージョン、敵！！」
あわてて、投げ捨てられたからの銃を握り、その兵士に銃を向ける。
「フレンド」
「・・・・え？」
それは地球の言葉だ。聞き間違いか、と思い銃身を握る。パイロットスーツの男は兵士にしては細身だった。ヘルメットをはずすと、灰色の髪、優しげな少年らしい顔立ち。
髪が風で揺れる。閉じられた瞳が開けられる。
ヒュウウウ―・・。
どこかで見たような不思議な色の瞳。夜風が硝煙のにおいとともに立夏の間を通り抜ける。気弱そうな、小動物のような眼。
空には七色の光を放つヴァるディアが飛んでいる。
目が熱い。目を押さえながら、立夏は同い年の少年をもう一度見る。
戦闘中であるはずだ。それなのに、なぜ。
「フレンズ」
少年は立夏に手を差し出す。聞きなれないネオ人の言葉。
・・・殺す気がない・・・のか？
「パンドラぁ！！」
「ひっ」
下から赤く眼が光る鬼が、セリュージョンの勇者。それは恐ろしくて、立夏は動けない。
「え？」
腕をつかまれ、コクピットの中に抑え込まれ、少年は味方に銃を放つ。
「！？」
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