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2004年09月06日
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 「人間はただ単に自己と客体を離ればなれに認識するためだけではなく、
 媒介としての客体に自己を投射することによって、
 行為的に、自己をより深く理解することができるようになる。」

 ■「私たちはこうしてお互いに、自己と客体を交換し、投射しあって、自己意識を確立してるんだよ。」
 (『海辺のカフカ』下巻、79ページ)

 村上春樹の新作が出るので、前哨戦的に『海辺のカフカ』を6回目の通読をした。(馬鹿でしょう?)

 『海辺のカフカ』は、奇数章と偶数章で異なる2つの物語が同時進行し、最後に融合してひとつになる。
 この小説の核は、奇数章の「15歳の少年、田村カフカ」の成長物語がであるが、

 トラック運転手の「ホシノくん」が、物語全体の鍵を握っているヒッチハイカーの老人「ナカタさん」と
「投射と交換」を繰り返すことによって、しだいに人格が形成されていく成長物語になっている。

 以下は、ホシノくんがナカタさんと最後に交わす会話である。
 長いが、全文を引用させてもらう。

「俺は思うんだけど、その中でもいちばん不思議なのは、なんといってもおじさん自身だ。
 そう、ナカタさんだよ。なぜおじさんが不思議かってえとだね、おじさんは俺という人間を
 変えちまったからだ。うん。
 このたった10日間のあいだに、俺は自分がすごく変わっちまったみたいな気がするんだ。
 なんていうのかね、いろんな景色の見え方がずいぶん違ってきたみたいだ。
 これまでなんということなくへろっと見てきたものが、違う見え方がするんだよ。
 それまでちっとも面白いと思わなかった音楽が、なんていうのかね、すっと心に沁みるんだ。

 そういうのはさ、これまでの俺にはなかったことだ。
 それでだね、どうしてそんなことになったかというとだね、
 それは俺っちがずっとナカタさんのそばにいたからなんだ。
 そしてナカタさんの目を通してものを見るようになったからなんだな。
 もちろん何から何までをナカタさんの目を通して見ていたわけじゃねぇよ。

 どうしてそんなことをするのかというとだね、
 俺はおじさんが世界を見る姿勢みたいなものをけっこう気に入っていたからだ。
 だからこそ俺っちは、このホシノくんは、ずっとここまでおじさんについてきたんじゃねぇかな。
 おじさんから離れることができなかった。
 そういうのは、俺のこれまでの人生の中で起こった中ではいちばん実のあることのひとつだった。
 それについちゃ、俺のほうがむしろおじさんに感謝しなくちゃならねぇわけだし、
 だからおじさんが俺に感謝するような必要はないんだ。
 もちろん感謝してもらっても悪い気はしねえけどさ。
 ただ、俺が言いてえのはさ、ナカタさんは俺にすごくいいことをしてくれたってことだよ。
 よう、わかるかい?」

 でも、ナカタさんはもう話を聞いていなかった。
 彼はすでに目を閉じて、規則正しい寝息を立てていた。


 私にとってこの1年間は、自分に与えられたある客体に自己を投射することによって、
自己意識を確立し、自己回復した1年間だった。
 この場を借りてお礼申しあげたい。どうもありがとう。





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最終更新日  2004年09月15日 21時01分21秒 コメントを書く


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