Jun 29, 2004
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カテゴリ: 批評系

一人、街を歩く夏。

天へと抜けるような青空。

建物の間を抜けていく心地よい風。

心待ちにしていた電話。

目に飛び込んでくる全てのモノが、自分を祝福する夏の午後。



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ところで、クリントン元大統領の自伝が、爆発的に売れている。

彼は、本当に強い人間だと思う。

不倫行為の一部始終が(子どもには聞かせられない内容まで)こと細かに公開され、それを
隠そうとしたウソまで完全にばれて、アメリカだけでなく世界中の笑い者、晒し者になった。

事件後のテレビ番組で、なぜあんなことをしたのか、と聞かれ、"Just because I could."
(単に、できたから)という迷言まで残してしまった。

大統領として選ばれながら、人格は最低の男だったと誰もが知ることになった。


続けている。

そして今度は、過去の過ちとその後の私生活や自分の心境を告白する本まで出してしまう
というのだ。

『恥』を乗り越えるその精神的な強さは、一体どこからやってくるのだろう。



クリントンは幼少時代、自分や母親にすぐに暴力を振るうアル中の義理の父親に、激しい


「その時、酔った義父の手には銃があった。彼はそれを撃った。弾は廊下に立っていた私と
母の間を抜け、壁を貫通していった。」と回想する。

そんな子ども時代を過ごしたクリントンは、「太っていて、ださくて、女の子にもてない」
少年だったと言う。

実際、補助車なしで自転車に乗れるようになったのは、オックスフォード大学に入学してから
だったというほどの不器用でもあった。

そんな彼が、アメリカ合衆国の大統領になり、身に覚えのない収賄疑惑に関して検察官に
激しく糾弾される中で、子ども時代の「怒り」と「自分の中に巣食う悪魔」がよみがえって
しまったのだと、クリントンは自分自身を分析する。

彼は言う。

「人々が自分の過ちとか、抱えている問題とか、不安とかをもっとオープンに語れるように
なれば、人々はもっと自由になれると思うんです。私は(この本を書くことによって)人々を
解放しようとしているんです。」


そう、この、マイナスをプラスに転換してしまう発想。

これが、彼の底知れない強さの原点だ。

公的な立場にあり、大なり小なり、クリントンと同じような過ちを犯した人間はたくさんいる。

彼らの多くは、自らの犯した過ちを恥じて、公の場から隠れようとする。

小さな過ちのために、せっかくの能力を社会のために生かすことを簡単に断念してしまう
人間は多い。(最近の年金騒動であっさり辞任していった日本の政治家たちも然り。)

しかし、過ちを過ちとして然るべき罰を受けた後は、社会に対して償いこそすべきであり、
決して社会から逃げたり隠れたりすべきでないのだ。

この「すべきこと」を実際にできてしまえるクリントンの精神的強さが、僕には「すごい」と
思えてしまうのだ。



“自分がやりたいことをやるのではなく、やるべきことをやるのが紳士だ。”

                          ―― 村上春樹「ノルウェイの森」



一度、紳士の仮面をはがされた後で、真に紳士的な振る舞いをするというのは、並み大抵の
覚悟でできるものではない。














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Last updated  Jul 1, 2004 02:10:19 PM


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