常緑樹13 教わり、鍛錬し…


(平成14年4月号 2002/03/20)

青函連絡船は昭和六十三年三月に八十年の歴史に終止符をうった。
大阪出身の私は札幌や函館にいたので、何度も乗った。
驚いたことに、ほとんど着岸の衝撃が無くいつの間にか到着の案内が流れる。
後に聞いてなる程と思った。

船長は操舵室のいつも同じ位置(しかも肘をつく場所まで同じ)に立ち、操舵手の顔を見て操船の指示を出す。
操舵手は数人いて、各々反応時間などいろいろな癖があり、力量も違う。
船長はそれを熟知していて、波や風の状態を折込み、あの煙突がこの位置に見えたら、取り舵一杯!などと指示を出す。
操舵手はその指示にキチンと反応し、結果世界でも類を見ないみごとな着岸が実現する。

以前勤めた会社の上司は文章に非常に厳しい人だった。
企画書や議事録、出張報告を出すのだが、当時はもちろんワープロなどという便利な道具はなくレポート用紙に鉛筆で書く。
頭をひねった自信作を清書して提出する。
すると大した直しでもないのに、彼は万年筆でグリッ、グリッと丸をつけ、書きなぐる。

一文字の直しは消しゴムで簡単に修正できるのに、一から書き直しである。
半べそ状態で書き直し、提出。
また、別のところにグリッ、グリッ、再度書き直し。
このときは参ったが、これがあって、中身もよくわかり、文章に注意深くなり、読み手側に立つことも教わり、少しは上手にしていただいたと感謝している。

人は仕事の第一歩を実際の業務の中で踏み出し、精度を高め、時間を短縮していく。
上司から部下へ、先輩から後輩へ、技や知識そして最も大切な心が伝えられる。
失敗を恐れては何もできないが、失敗を許さないものもあるので、その仕事の重大性を認識し、最大限の注意を払うことが重要である。
目的意識と、時間をかけた研修・鍛錬があってこそ良い仕事ができる。

ご存知と思うが、本誌「救急医療の現場から」の松原泉医師が起訴された。
市立札幌病院救命救急センターが歯科医師を研修のため受けいれ、指導医のもとで研修していたことが医師法違反にあたるらしい。
高齢化は進んだが、おいしい食事を自分の口で味わって食べたいと思うのは当然であり、そのための歯科治療は大いに望むところである。
しかし麻酔の影響や持病の有無など危険が大きいのも事実だ。
だからこそ、歯科医師による全身状態の把握や緊急時の対応などが狙いの研修である。

これがなぜいけないのか良くわからない。
悪法も法なりと言うから守るべきところは守らねばならないが、今回は解釈の違いではないか。
医師法に「医師でないものが医業をなしてはならない」という条文があり、それに抵触するということだが、研修は業ではない、と争う構えである。
このことは間違いなく、今後の私たち自身の医療、ひいては生活に直結する問題なので、注意深く見守っていきたい。


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