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74.01.15 仁義なき戦い 頂上作戦
一発でコロッといきよりますけえ
昭和38年秋。東京オリンピックを翌年に控え、池田内閣の高度経済成長政策のもとで好況と繁栄に酔いしれる市民社会は、ようやく暴力団に非難の目を向けはじめ、警察も頂上作戦と言われる全国的暴力団潰滅運動に乗り出した。一方広島では神戸神和会のバックアップを得た山守組・早川組と神戸明石組のバックアップを得た打本会・広能組の対立は激化し、山守組幹部の武田のもとに助っ人の組員が集結していた。そして山守は自分の経営するキャバレーに寝泊りし、多くのボディガードを引きつれ朝風呂に通って世間の注目を浴びていた。
また呉では山守組系の槙原組と広能組がゲリラ戦を展開していた。こうした中で、イキイキとしていたのはかつての広能のように野心に燃えていた若者たちであった。早川はキャバレーで部下の仲本たちと談笑していた。そこへ松井とその愛人三重子がやってくる。「兄貴。そんな身体で帰ってこられんでも」「こんな、国で入院しとったんじゃろうが」「喧嘩聞いたら、カッカして身がもたんですけえ。弾よけぐらいなら役に立ちますけえ」
「無理せずに、養生せんかい。三重ちゃんもこっちの水は久し振りじゃろう」「3年ぶりですけん」打本会のボンクラ福田は三重子が広島に戻ってきた事を知る。「三重子?」「昔のあんたのこれじゃろうが。やっちん」広能はアジトである鉄工所に行く。そこでは子分の岩見や河西や竹本が武器を製造していた。広能は竹本に聞く。「何しとんじゃ」「青酸カリです。バラ弾にこいつをまぶしゃ、一発でコロッといきよりますけえ」
河西に自分の銃を預ける広能。「撃針がおかしいんや。ちょっと見てくれんかい」「おやっさん。わしのを持ってつかあさい。道具もそろいましたけん、わしらに槙原とりに、とばしてつかあさいや」「もうちょっと様子を見んかい。なんぼ敵じゃいうても、わしの親筋じゃけえ。こっちから殴りこむわけにいかんじゃろう」広能は14年前の殺人の刑で仮釈放中の身であった。
広能は打本会の事務所に行く。そこには明石組の幹部岩井と川田組の組長川田がいた。打本が川田を広能に紹介する。「わしの側に立ついうてくれちょるんじゃ」「川田といいます。よろしゅう」岩井は広能に告げる。「岡島から電話があっての、向こうで待っとるそうや」「ほうか。じゃあ、すぐ行くかいの」広能たちが訪ねる相手は広島市西部でバクチの縄張りを守る義政会の会長岡島であった。
岡島は今までの抗争において常に中立の立場を守った穏健な人物だったが、広能は広島の立場での優位を保つために岡島を自分の側に引き入れる必要があった。用意された料亭にはまだ岡島は来ておらず、義政会の若頭藤田がいた。藤田が広能にささやく。「わしら若いもんはおじさんについていく腹ですけん、オヤジさんにもそう押してください」「ほうか。それで身体のほうはどうなら」「ええ。おかげさんで」
広能と藤田は刑務所で知り合い、広能は胸を患っていた藤田の面倒をみてやった過去があった。打本は岩井に訴える。「岡島が味方にたってくれるのは嬉しいけど、この川田のシマが荒らされるけえのお。あまりこの話を押さんほうがええですよ」「打本はん。あんたがやで、自分で自分の首守れる人やったら、こんな苦労しまへんがな」むっとする打本。広能は川田に言う。「岡島はそんな筋の通らんことはしやせんよ」「わしのことは気にせんとってください」
そして岡島が現れる。「正直言うて、どっちの側につくいうわけにはいかんのよ。わしは広能とも武田とも兄弟盃をしとるしのお。のお。今喧嘩して誰が得するんや。山守とは話がつけられんのかのお」「岡島さん。わしゃ18年も一緒にやって破門くろうとるんで。山守があんたのシマをほっとくと思うの」「岡島はん。この戦争は避けられまへんのや。敵か味方かきっちり色分けしとかんと、被害受けるのはおまはんとこやで。中立おいても頭に血上った若いもんは見境がつきませんやさかい。どないだ。いい返事聞かしてや」
料亭の外では藤田や川田の子分のボンクラ野崎が待っていた。藤田や野崎はプロ野球賭博でシノギをしていた。藤田は野崎に話し掛ける。「これからもハンディを教えてくれや。そっちとはアンコになるんじゃけん」そこへ川田が料亭から出てくる。藤田に毒づく川田。「おまえんとこのオヤジはよいよ煮えきらんのお。後で泣きを見るんど」川田は野崎にびんたをくらわす。「よそのもんとチョロチョロしゆるな」そして岡島は広能たちの味方になることを約束する。
枯れ木も山の賑わいじゃのお
しかし呉で広能の予想外の事件がおきる。広能組の幹部の河西が槙原組のボンクラに射殺されてしまう。調子の悪い広能の銃を持っていたために反撃されずに射殺されたのであった。河西の葬儀が行なわれ、岩井や長老大久保や広能を支持する上田組の組長の上田が参列する。しかし打本は挨拶に来ただけですぐに帰る。「表に警察が張りこんどるんど。葬式に来てよ、喧嘩の巻き添えくろうてたまるかい」
広能は日本酒かっらって荒れ狂う。「河西はわしの身代わりに死んだんじゃけえ、わしが山守とったらんにゃいけんのじゃ」大久保は、やめやめ、と制止する。「わしんとこに入った情報によると警察が全員パクルいいよるぞ」「サツが怖くて喧嘩はできゃせんですよ」「山守や槙原は広島に逃げ込んどるんじゃけえ、こんなが呉をがっちり固めときゃ、向うは音をあげるわい」
岩井も大久保に同意する。「話をつける手口ものうなるで」「広島の喧嘩いうたら、とるかとられるかで。いっぺん後ろに回ったら死ぬまで先頭をとれんのじゃけえ」「わしゃ仁義の立たんことはすな、と言うとるんじゃ」「仁義も糞もあるかい。山守とってわしゃ死んじゃるわい」「ほな勝手にせい」上田は広能の加勢をする。「岩井さん。わしゃ兄貴の応援しますが、そっちのメンツと呉のもんの血をどっちに大事にするか、本家としての意見をはっきり聞かさしてつかあさいや」
啖呵を切る上田であったが、後で大久保にたしなめられる。「おどれ、余計なかばちたれな。誰が広能につくいうた」「じゃけど、オヤジさん」「わしゃ事業があるんじゃけん、どうしてもあれについていくいうなら、わしと縁を切ってからにせい」困惑の表情を浮かべる上田。家に帰る大久保。それを待ち受ける武田。「いつまでわしを追いまわすんじゃ」「広能にはよう言ってくれましたか」「呉を出るな、いうて釘さしといたけえ、それでええやろ。はよ、いんでくれ」「ほうですか。それじゃ今日は帰りますがの、もし広能が広島に出てきたら、たとえ伯父貴さんでも遠慮のう首をもらいますけん」
事務所に戻った武田を待っていたのは山守が回した伝票の山であった。「応援の連中の宿泊代やないか。料理代。芸者。酒。ひとの懐じゃ思うて、よう遊んどるのお。なんや、この18万は」「山守さんが旅の連中を連れているうどん屋のツケですけえ」「枯れ木も山の賑わいじゃのお。このままじゃ枯れ木に山が食いつくされるわい」山守は自分のキャバレーに幹部を集める。「槙原は呉に帰れんけえ、一致団結して広能を叩き潰さんかい」
「待ってつかあさい。広能の後ろには明石組がついていますけえ」江田は咆える。「明石組がついとるのは初めからわかっとることじゃないの」槙原は訴える。「ほうよ。そっちはこっちの安全地帯でヌクヌクしとられるが、こっちの立場になってみいや」激怒する武田。「誰がヌクヌクしとるんじゃ。おお。ほんならこの勘定払うてもらおうかい。そっちは一銭だって出したことありゃせんだろうが」金の話になると無言になる山守。
早川は哄笑する。「ゼニのことじゃったら、山守さんは競艇会長なさっとるけえ、ウジャるほどあるじゃないですか」江田も賛同する。「ほうじゃ、ほうじゃ。オヤジさん。出してやってつかあさい」「競輪はこっちの渡世と関係ないんじゃけん。それに会長いうてもよ、ゼニは自由になりゃせんのじゃけえ」武田は自分の言うとおりにしてくれ、とみんなに頼む。「若いもんには絶対はねっかえりせんように言っといてくれ。その間ワシは分断工作するけえ」
「分断工作?」「大久保は動けんようにクンロクいれてありますけえ。打本もありゃ自分では動かんでしょう。となると広能があてになるのは岡島だけや」「岡島さんなら、そこに来とりますが」岡島はホステスのアイ子とチークダンスをしていた。それを見て怒り狂う山守。「あん外道め。わしの店でネコかぶりやがって。アイ子にゃわしゃ200万円前借させとるんで。泥棒猫みたいなマネしくさりやがって。くそお、あいつはわしにオメコの毛を触らせもせんのんど」
山守のことを気にするアイ子。「ええんじゃ。わしゃ広能の側につくことにしたからに。ここで死ねたら本望じゃ」そして打本のボンクラが一般市民を誤殺する。警察は対策本部を設置し、暴力団の取り締まりを強化する。福田たちは早川にイチャモンをつけにいくが、それが新聞沙汰になる。怒り狂う打本。「おどれらはわしを破産させる気か。あいつらはわしの事業免許を取り消しにしようしちょるんで。わしゃ東京の桑原代議士に相談するけえ、これから頭をよう使えよ」
早川は入院している松井を見舞う。仲本に聞く早川。「どうや。容態は」「あかんようです」「迷惑かけに戻ったようなもんじゃの」三重子は買い物に出かけ、ラーメン屋で福田と再会する。「やっちん」「やっぱり三重子か。しばらく見んうちに随分皮がむけたのお。見違えたわい」「3年やからね。うちも大人になったんよ。あんたみたいな馬鹿と手が切れて」「ちいとばかり痩せたかの。おお」「うちはまだあんたにヌードスタジオに売り飛ばされたこと忘れとらんのんよ」
「言うなや。わしもあのころは足軽じゃったけえの。わしがどれほどの男になっちょるか見てみい」腹に隠した拳銃を見せる福田。「ほいじゃがよお。別嬪になったのお。おお」そして福田と三重子は激しいカーセックスを展開する。そして三重子は松井の病室に戻る。「打本会の連中がつけとるんよ。注意したほうがええよ」仲本は三重子に聞く。「姉さん。打本会がつけとるのを誰に聞いたんです」「誰言うて見かけたんよ」
仲本は三重子の様子がおかしいのに気づく。「あんた。やっちんにおうたんか。兄貴が命捨てに帰ってきたいうのになんなら」仲本は激しく三重子をなじる。それを聞いて苦悶の表情を浮かべる松井。そして仲本は福田を襲う。「糞外道が。言うといたるがの。おどれを売ったのは三重子じゃ。ざまあみやがれ」仲本は福田の鼻を削ぎ落とし射殺する。
この女とシロクロやってみい
この事件をきっかけに抗争が激化する。江田は打本のボンクラをリンチにかける。「おう、お前ら。半殺しは可哀想じゃけえの。ひとおもいに殺しちゃれや」警察の封じ込め作戦も強化され、広能も武田も身動きできなくなる。武田は広能に電話する。「ぎょうさん構えとる割りには、ちっとも攻めてきやせんじゃないの。おお」「そっちも山守とるいうて、とりにきやせんじゃないの。打本にソッポをむかれ、明石組には見捨てられるし、しまらん話よの」「電話でかばちたれるしかないんじゃろ。このバカタレが」「わりゃ、いい加減にカタギになれ。口じゃ信用できんけえ、新聞に公表せえ」
「おお。なっちゃるわい。そっちも山守とこんながカタギになるいうならの」「ええか。昌三。このままじゃと警察と新聞に潰されるだけじゃぞ」電話を切る広能。そこに上田が来て、山守が江田を連れて親和会の二代目襲名の披露宴に出席することを知らせる。「襲名式はいつじゃったかのお」広能は竹本と岩見を連れて、こっそり神戸に向う。トラックを運転する竹本は途中で止める。「どうしたんなら」「オヤジさん。やっぱりオヤジさんは神戸に行かんほうがええです」
「かばちたれるヒマあるかい」「のお、おやっさん。蛇はどんなに切られても頭さえ残っとったら生き返ることができるんです。頭食われたら生き返るもんも生き返りゃせんのですけえ」「わしゃ山守には18年の恨みがあるんじゃ。はよいかんかい」岩見はトラックを降りる。「わしゃ糞してきますけえ」竹本もトラックを降りる。「わしもおかしゅうなった」「連れ糞か。臭い仲じゃのお。お前ら」そして岩見と竹本は広能を置き去りにして神戸に向う。
そして親和会の二代目襲名式が行なわれる。山守の姿を見て張り切る竹本たちを明石組のボンクラが取り押さえる。怒り狂う明石組大幹部相原。「やめいうんじゃ。やめとけ。ええか。式の当日に襲ういうんはおもろいわい。けどうちのオヤジも出席するんや。その辺のとこを考えいや」岩井は相原に提言する。「ワイも広能に手ぶらじゃ会えまへん。何とか応援の兵隊出してもらえませんでしょうか」「お前もわからんやっちゃのお。オヤジがいかんちゅうとるのに、どない口実が作れるんや」「口実なら、おま」
岩井の提案したのは河西の本葬を行う事であった。岩井の相談を受けた広能たちは葬儀終了後一気に広島に攻め込む手筈を整え始める。そして本葬の数日前には全国の暴力団が続々と呉に集結していた。打本は愛人の菊枝と喫茶店で密会する。「ええの。こんな店でおうて」「ここは外が見えるけえ安全なんじゃ。コーヒー」「いくら戦争じゃいうてもたまにゃ息抜きせんと身がもたんわい。コーヒーいうとるじゃろうが」しかしウエイターは山守組のボンクラであった。
打本と菊枝は山守組のアジトに連れて行かれる。そこには山守と武田と江田が待っていた。「おお。打本。ええツラじゃのお。オメコばっかほじくっとてよ」「待ってつかあさい。やられとるのはうちの若いもんはかりじゃないですか」「おう。この期に及んでまだ助かりたいんか。ほうか、なら助けたるわい。ここでこの女とシロクロやってみい。はよ、裸にならんかい。写真とって明石組に送っちゃるけえの」
菊枝はやめてくれ、と頼むが江田は逆上する。「おめこ芸者は黙っちょれ」江田は打本を射殺しようとするが武田が押しとどめる。「こんなをとったら、今度は打本の若いもんの的になるだけやで。こんなの首が残っているうちは話の持っていきようがありますがの。まあ、とことん戦争せい言うんならそれでも構いませんがの。わしゃ責任もてんですよ」押し黙る山守と江田。武田は打本に話し掛ける。
「おお。打本。広能は河西の本葬をやるそうじゃがのお。それは表向きでこっちに攻めてくる腹なんじゃろう。おお」「ああ」「よし。その話詳しく聞かさせてもらおうか」そして山守は警察に出頭する。そして広能に逮捕状が出る。「暴行傷害じゃ。去年槙原組のボンクラを山守組で締め上げたじゃろうが」「その事件を知っているのは山守だけのはずじゃがのお。あれのチンコロかい」広能は逮捕され、そのまま抗争の場に戻ることはなかった。そして河西の葬儀は終わり、明石組の応援組員はなすすべもなく呉を去る。そして呉には山守と槙原が戻り、形勢は逆転する。
いっぺんも旅の風下に立ったことはないんで
広島市民球場で野崎がボンクラに囲まれる。そこへ藤田が現れる。「わしゃあのお、今のホームランに1000円はっとったんじゃ。それを500円にしよるんじゃけえ」藤田を凄みをきかせてボンクラを追い払う。「こんな、一人で流しをやっちょるんか」「はあ。ポリがやかましいですけん」「なめられとったら、プー屋はしまいで。これ貸しちゃるけん、アヤつけられたらぶっ放しちゃれや」藤田は野崎に拳銃を渡す。
岡島は川田と相談する。「まさか、広能がパクられるとはのお。これでわしらと山守組は全面戦争じゃ。一緒に勝負かけんかい」「わしゃあ野球の資金のことで手一杯で喧嘩まで手が回らんのですよ。今までは打本の兄貴が面倒みてくれたんじゃが、最近あの人も握り金玉になってしもうてのお」岡島は川田に500万円融通する。「このままじゃ、的になるのはわしらじゃけえのお」
岡島の愛人アイ子は武田の口利きで別の店に移っていた。「あの人もここを世話したのを武田さんじゃ知ったら、かまえることもないじゃろうに」「まあ、わしがここを世話したことは言わんといてくれ。あれも頑固たれのきかん男じゃけん。あれの居場所だけは毎日電話をして教えてくれ。のお。わしゃあれの命だけは守ってやりたいんじゃ」岡島は小学校の同級生と会い、可部温泉で同窓会を開くことになる。
アイ子はそのことを武田に知らせようとするが、逆に山守たちに知られてしまう。そして岡島は山守の差し向けたヒットマンに射殺される。岡島の死を知った武田は山守の独断に激怒する。世論を敵に回しては勝ち目のないことを知った武田は主戦派の山守と江田から手を引くことを決める。一方、打本は岩井の再三の決起要請に対し、いたずらに時を延ばすのみであった。
「山守やるんかやらんのか、あんたの腹を聞いとるんじゃ」「そがに言われても広能もおらんし」「打本はん。あんたはそれでも極道か。それとも何か。その辺のタクシー屋のおっちゃんか」「わしゃもう事業一本に絞りたいんじゃ」「さよか。わしらタクシー屋のおっちゃんには用はないさかい、これから一人で歩いたらよろしいがな。でもええでっか。前向いても崖、後向いても崖やで。あんじょう性根を入れて歩くこっちゃな」岩井は打本をどついて立ち去る。弱々しく笑う打本。「ははは。わしの言うことも一理あるじゃろうが。のお」
義政会のボンクラは報復に山守のキャバレーや江田組の事務所を爆破する。山守は県警に電話する。「あがに保護してくれ言うちょるのに、そっちはちいともパトカー寄越してくれんじゃないの。善良な市民を保護するんが警官のつとめじゃないの」早川はあきれる。「わしらより警察の方をあてにしとるんじゃけえ、やっとられんわい。いぬぞ」打本会のボンクラ連が早川のいなくなった隙に山守を狙う。そのことを知った打本は武田に電話する。
「この前の借りがあるけん、教えちゃるがよ。今わしの若いもんが山守とるいうて、出ていったで。早川のエデンに行くようったで」「バカタレ。なんでワレが止めんのじゃい」「止めいうて、何でわしが止めにゃならんの。そっちと喧嘩しとるのに。のお。ほいで山守が助かったら、わしに2000万円ほど融通せえ、と頼んでみてくれや」「喧嘩相手に金貸す馬鹿がどこにおる。このボケ」そして武田は山守の命を救う。
打本会のボンクラ連は打本のチンコロを知って激怒する。「ほいじぇけえ、わしらはなめられとるんじゃ」再びボンクラ連は殴りこみをかけるが、報復にあいボロギレのように殺される。この事件は暴力団追放の世論を盛り上げ、警察は組長クラスの一斉検挙を始める。江田や打本は逮捕される。警察は山守の入院する病院に車を向ける。「山守。逮捕状じゃ」「わしはカリエスで腰がよう立たんのじゃけん」「なにがカリエスじゃ。やりすぎのヤリエスじゃろうが」
山守逮捕を聞いた岩井はすぐさま広島に飛び、義政会の藤田と相談して陣営の立て直しをはかる。一方武田は広島ヤクザの大同団結を呼びかけ、明石組との対抗姿勢を明確にする。岩井と対決する武田。「わしらは親和会の看板断わっとるんじゃ。あんたも明石組に看板下ろしてくれんかい」「ちょっと待たんかい。わしゃ明石組のもんやで。わしのいるところに明石組のノレンをさげてどこが悪いんや」
「じゃったら、今すぐ義政会と手を切るいうて宣言してくれんかい」「ほお。なら死んだ岡島の落とし前はどうつけるんや」「今のそっちの言葉、本家の答えとして受け取ってええんか」「わしは明石組の岩井や」「ほおか。ほいじゃ言うといたるがの。広島極道はイモかもしれんが、いっぺんも旅の風下に立ったことはないんで。神戸のもんは猫一匹通せんけえ、おどれらよう覚えとれや」「よおし。おんどれらも吐いたツバ飲まんとけよ」
もう舞台は回ってこんど
早速武田は神戸にヒットマンを送る。「どこでもええ。ぶちこわしちゃれい」そしてヒットマンは明石組組長宅にダイナマイトを放り込む。同時に武田組の事務所も襲撃される。藤田は川田の所に行く。「のお。岩井さんが立ってくれちょるんじゃ。旅の連中にまかせて地元のわしらがすくんじょったら先々頭があがらんじゃないの。あんたの方も兵隊出してくれや」しかしゴルフのアプローチの練習に余談のない川田は相手にしない。
「わしに言うても筋違いやで。わしは打本さんの舎弟じゃけん、兄貴が腰あげんのに勝手に喧嘩もできゃせんよ」「あんたをアテにしてオヤジもゼニ貸したじゃないの」「ゼニの話はやめてくれんかい。うちは毎月カスリをそっちに渡しとるんじゃけえの」「川田さん。あんたが立ったら、打本さんもきっと立ってくれるけん。オヤジが浮かばれるかどうかも、あんたの考えひとつで。頼みます」
そして藤田は喘息を起こし、血を吐く。その血がゴルフクラブにかからないように慌ててよける川田。そして広島市民球場に行った川田は野崎を呼び出す。「わりゃ、義政会の藤田、手伝うとるそうなの。ええ加減、手を引けや」「藤田さんには義理がありますけん」「あれはワシらのシマを荒らしまわっちょるんで。スタンド見てみい。義政会のバッチばかりじゃ」「でも喧嘩になったら義政会につかにゃならんのですけえ」
「誰がよ。わしゃどっちにもつかんど。わしらの大事なのはこのシマを守ることよ。こんながやってくれると助かるんじゃがのお」「はあ」「義政会二代目継ぐのはあの藤田じゃ。あれがおらんようになったら義政会は馬の糞と一緒よ。のお。付き合いがあるからやれん言うんじゃたら仕方ないが、こんなもここらで男にならんと、もう舞台は回ってこんど」原爆スラムの自宅に戻る野崎。そこでは狭い家に野崎の兄弟が待っていた。「テレビ買っちゃるけえの」そして野崎は藤田を射殺し、20年の刑をくらう。
刑務所に服役した広能を岩井が訪れる。「昌ちゃん。義政会の藤田がやられようった。やったのは川田組のチンピラよ。同士討ちや。何もかもバラバラやで。もうわしの手に負えんわい。神戸の本家は神和会と手打ちをしての。わしに引き揚げてこい言うんじゃ。昌ちゃん、すまんが手を引かせてくれ」「すまんのは、こっちよ。ようやってくれたのお」「今、打本とおうてきての。豚箱はいってホッとした言いよったわい」「それぐらいのことよ。ほいじゃあのお」「世の中、広島や呉だけやないで。神戸に来いや。待っとるで」
そして広能は網走に送られる。続いて武田も送られる。「何年くろうたんや」「前のとあわせて7年と4ヶ月じゃ」「江田は5年、槙原は3年じゃそうじゃ。打本は執行猶予じゃそうじゃ」「山守は」「あれは1年半じゃ」「1年半と七年か。尺にあわん仕事をしたのお」「わしも全財産はたいて一文無しじゃ。政治結社でもせにゃやれんわい」「それはそれでええけどのお、もうわしらの時代はしまいで。こう寒さが身に染みるようになったはのお」
こうして抗争事件は死者17名、負傷者26人、逮捕者1500人を出して、何の実りもない結末を迎えたのであった。
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