Fancy&Happiness

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キミ、想う日


一緒にいるって約束、
どうして破ったりしたの―?

キミ、想う日

「洋介、早く支度なさい!奈々ちゃんのお墓行くんでしょ?」
母の声が聞こえる。
でも、どうも体は思うように動かない。
奈々が死んで、どれくらい経っただろうか?
今でもなんだか信じられなくて、心だけが置いてけぼりを食らったみたいだ。

僕達の付き合いは極めて順調で、昨日の僕の誕生日には一緒に過ごす事をずっと前から約束していた。
なのに、奈々はその約束を果たすことなく、勝手にこの世からいなくなってしまったんだ。
いや、奈々が悪いわけじゃない。
奈々は不慮の事故で死んだのだから・・・
それでも、彼女の存在がまだ近くにあるような気がして、僕は彼女の死を受け入れ切れていないのだ・・・

奈々の新盆を迎える今日。
僕は恋人としてきちんと彼女を迎えに行ってやらなければいけない。
重たい足を引きずるように、奈々の家へ向かった
「ああ、洋介さん。いらしてくれたのね、ありがとう」
出迎えた奈々の母親は僕を見て微笑んだ。でも、悲しい笑みだった。
精一杯の感謝に、僕は心が痛む想いだった。
奈々は、母親にこんな顔をさせたかったわけじゃない・・・
ふいにそんな事を思っていた。
一緒にお墓に行くと、そこにはすでに奈々の姉家族が待っていた。
「洋介君、来てくれたんだ。奈々、きっと喜んでる」
奈々の姉の優は右手に綺麗な花を、左手にはまだ幼い少女をつれている。
「洋介君に御挨拶なさい、きらら。」
「こんにちわ。」
いまどきな名前の少女は、まだ幼稚園くらいだろう。僕の事をなぜかじっと見ている。
その目が、やたら気になった。

花を供えて、線香をつけて。
冷たい墓標を見つめる
・・・・どうしていなくなってしまったの?
心の中で問いかける。
答えはかえってくるはずも無いのに・・・・
「ごめんね?」
不意に聞こえた幼い声に、驚いて後ろを見やる。
後ろには、無表情のきららが立っていた。
「え、なに?」
「ごめんね、って」
きららは繰り返す。意味が分からなくて、きららの視線まで腰を屈めて顔を覗き込んだ。
「なんできららちゃんが謝るの?」
「ちがうよ、奈々ちゃんが」
奈々という言葉に思わず眉をひそめた。
「奈々ちゃんが、お兄ちゃんにごめんねって言ってるよ。でも、約束は破ってないって。」
きららちゃんが、ゆっくりと指をさした。
「ほら、」
その場所を見ても、僕には何も見えなかったけれど、彼女には確かに何かが見えているらしかった。
「こらっ、きらら!なんでそうやって嘘をつくの?」
気付いたお姉さんがきららを怒る。しかし、きららは嘘なんかついていないと首を横に振った。
「ごめんね、洋介君。きらら、奈々が死んでからいっつもこう言うのよ。」
お姉さんは僕に謝ったが、僕はもうそんな事に構っていられなかった。
「きららちゃんは嘘なんかついてないんだよね?きららちゃんには、奈々が見えるんでしょう?」
「うん!いつもお兄ちゃんの傍にいたんだよ。いっぱいいっぱい泣いてたんだよ」
ごめんね、奈々
一番突然で、一番悲しかったのは奈々自身だったね。
約束も、ちゃんと覚えててくれたんだね
なのに僕は君を悲しませてばっかりだった・・・・
本当にごめんね
僕は死んだ君にしてあげられることをしなければならない・・・
ここに引き止めてしまうのは、よくないと思うから

奈々が幸せの国へいけるように供養を。
そしていつの日か君を想い出に。

だから、この時期にはきっと帰ってきて。 END


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