古典経済学は、18世紀後半から19世紀にかけて形成された経済学の一つの主要な学派であり、アダム・スミスを中心に「自由市場」「労働価値」「資本蓄積」などの概念を基礎に、経済活動の法則や社会的影響を説明しようとする学問体系です。この学派の成立と展開は、産業革命や市場経済の発展と密接に関わり、近代経済学の基盤を築くこととなりました。以下、古典経済学の成立とその後の展開について論じます。
1. 古典経済学の成立背景
18世紀から19世紀初頭のヨーロッパでは、農業経済から工業経済への移行が急速に進み、産業革命が進行する中で、生産の効率化と市場拡大が求められました。従来の封建制度から解放された労働者や資本が市場で自由に取引されることで、自由な競争と市場の自律性が新たな経済原理として認識されるようになりました。こうした背景において、経済活動の法則を理論的に解明しようとする試みが現れ、古典経済学が誕生しました。
2. アダム・スミスと『国富論』
古典経済学の基礎を築いたのは、スコットランドの哲学者アダム・スミスです。彼の著作『国富論』(1776年)は、経済活動における「見えざる手」という市場メカニズムを提唱し、個々の利益追求が市場全体の調和をもたらすことを示しました。スミスは労働分業が生産性を高め、国全体の富を増やすと考えました。また、彼は国家の役割を限定し、経済活動に対する政府の介入を最小限にとどめるべきだと主張しました。この自由主義的な市場経済の考え方が、後の経済理論に大きな影響を与えました。
3. リカードの比較優位と分配論
デヴィッド・リカードは、スミスの理論を発展させ、1817年に『経済学および課税の原理』を著しました。彼の主要な貢献の一つは「比較優位」の法則であり、各国が自国の得意な分野で特化することで、相互に利益を得られることを示しました。また、リカードは地代、利潤、賃金の分配に注目し、土地所有者と資本家、労働者の間で経済的な利得がどのように分配されるかについても論じました。
4. マルサスの人口論と経済循環
トーマス・マルサスは、リカードと同時代の経済学者であり、1798年に『人口論』を発表しました。彼は人口が幾何級数的に増加する一方で、食糧生産は算術級数的にしか増えないため、貧困や飢餓が避けられないと主張しました。マルサスの理論は、経済循環や危機に関する議論を展開させ、後のケインズ経済学にも影響を与えました。
5. ジョン・スチュアート・ミルと古典経済学の完成
ジョン・スチュアート・ミルは、19世紀中頃の古典経済学の完成者として位置づけられます。彼の『経済学原理』(1848年)は、スミス、リカード、マルサスらの理論を集大成し、経済学を一つの体系としてまとめました。ミルは、自由市場の重要性を認めつつも、労働者の福祉や所得分配の不平等に関しても考慮すべきだと提案し、経済と社会の調和を目指す視点を持っていました。
6. 古典経済学の限界とその後の展開
19世紀後半になると、古典経済学には限界があるとされるようになりました。特に、労働価値説や市場均衡の実現可能性に対する批判が増加し、マルクス経済学や限界効用学派などの新しい経済理論が登場しました。カール・マルクスは、リカードの労働価値説を基に資本主義の搾取構造を批判し、社会主義経済の理論を構築しました。一方、限界効用学派は、価値を主観的に評価する考え方を導入し、需要と供給に基づく価格決定の理論を発展させました。
古典経済学は、自由市場のメカニズム、労働価値説、資本の役割などを理論的に探求し、現代経済学の土台を築きました。産業革命期における社会変動を背景に発展したこの学派は、経済活動を自由競争の枠組みで理解しようとした点で画期的でした。その後の批判と修正を経て、古典経済学の理論は現代の経済学にも大きな影響を与え続けています。
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