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SHEEPS QUIET~羊の章~ 2

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リウスロ達は絶句していた。
………メルダが,羊になった。信じられるはずはなかった。
ラシス村長は額にしわをよせてしばらくその羊を見ていたが,やがてふぅーっと長いため息をついて,視線を石畳の地面に落とした。
「兄ちゃん…メルダお姉ちゃんは,どこいっちゃったの?」
トファスに聞かれても,リウスロは何も答えることはできなかった。
「村長のばあちゃん…?」
「ばあさん…」
リウスロとクリーフが同時にラシス村長に助けを求めて呼びかけると,村長は悲しそうにゆっくりと顔をあげると,話し始めた。
「これで間違いなくなってしまったよ,あのことに関係していることがね…。」
「あれはだいだい六十年ほど前の,ある冬の事だよ…
 人食いルフラス―もう絶滅したがね,ライオンにワニの足と翼がついた怪物だよ―がこの村の近くにあらわれてねえ。ある時,この村が襲われそうになったのさ。
 そりゃもうみんなパニックだよ。逃げ場も,立ち向かえるような武器もなかったんだからね。そんな時に,コリーダに一人だけいた魔法使いのラオコーンってじいさんが,魔法で村人をみーんな羊にかえてしまったのさ。ルフラスが襲うのは人間だけ,動物には目もくれない奴だからね。その頃は,コリーダに本物の羊は一匹もいなかった」
「それで,みんなは助かったの?」
トファスが口をはさんだ。
ラシス村長はトファスに向かって少し微笑んで,話を続けた。
「ああ,だれもルフラスには襲われずにすんだ。ラオコーンじいさんのお陰でね。
 村では変人扱いされてたラオコーンじいさんだったが,このことでみんなじいさんを見直したもんさ。」
「ほお,そんな爺さんがいたなんて,初めて聞いたぜ」
「ああ,あのじいさんを語ると,その事件まで思い出すことになるからね。
 どの人も話したがらなかったんだよ」
「どうして?結局無事に終わったんでしょ?
話したくない理由なんかないんじゃない?」
リウスロが聞くと,ラシス村長は首を振った。
「ああ助かったよ,ルフラスからはね。だけどそのラオコーンじいさんがまた間が抜けていてね,自分に魔法をかけるのをすっかり忘れてたんだよ。おかげでじいさんはルフラスにやられて死んじまったのさ。
 困ったのは羊にされた村人たちだよ。魔法を解くことができる唯一の人が死んでしまったんだ。」
「え…じゃあ,戻れない?」
「いや,一週間くらいたつと多くの人は自然に元に戻ったんだけどね,少し魔法力がある人達は魔力に順応してしまって,戻ることができなくなってしまったんだよ。
 今このコリーダ村には,羊がたくさんいるだろう?その羊たちはみんな,あのとき人間に戻れなかった者たちの末裔なのさ」
「そ…そんな…」
リウスロは,びっくりして心臓がとまるかと思った。何かが胸をちくちくと刺すのを感じた。トファスは目に涙をためて,今にもしゃくり上げて泣き出しそうだ。クリーフもショックを受けたように唇をかんで,草を食む羊たちをちらちらと横目で見ている。
「しかも,それはよほど強い魔法だったらしい。魔力が土地に染みこんでしまってね,それからもたまにあったんだよ,魔力を持つ人が羊になってしまう事件が…。
 このところ十年ほどはなりを潜めていたんだけどねえ…。
 今年になって人が羊になった現場を見たのは今が初めてだけど,きっといままでに起こった同じようなもめ事のほとんどは,これが原因だろうね…」
―その日の夜,リウスロは眠れなかった。
羊になったメルダが見せたとても悲しそうな眼。それが目に焼き付いて離れなかった。
『仕方がないんだ。あんた達も知っているだろう?魔法使いの血はもうとっくに絶えてしまってる。だからといって今更ここから去るわけにもいかないよ。
 どうしようもないのさ』
本当に,本当にどうしようもないのかなあ。
考えている内に,空がだんだん白み始めてきていた。急に眠気がリウスロを襲った。



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