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Aちゃん22

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2025.07.30
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カテゴリ: 電子工作
JR 東日本の発表資料 山形新幹線 E8系車両故障の調査結果と対策及び今後の運転計画について を読んでみた。画像に「保護素子」として写っているのはポリスイッチの様に見える。この素子の定数を変更して対策したと書いてあった。



「ポリスイッチ」は商標名で他には "Everfuse", "Resettable Fuse" と言った呼び方がある。ここではこういったデバイスの総称として「ポリスイッチ」を使う。

ポリスイッチは難しい素子だと思っている。「スイッチ」「ヒューズ」という言葉が入るので「切れる」というイメージを持ちやすい。これらは Positive Temperature Coefficient(PTC) device に分類され、正の温度係数を持つ抵抗器と考えた方が良い。「切れない」のだ。



定数は周囲の温度、風の当たり方で大きく変わる。室内でファンなどの送風機構が無いセットの中であれば定数変化範囲は見込みが付きやすい。新幹線の床下設置で外気・強風に曝される環境で使いこなせるのだろうか?というのが率直な感想だ。

とは言っても自分はポンポンとお気軽に使っている。 FG085 MiniDDSkit の波形を見てみる では電源 ON 時の突流防止素子として使った。



身近にあるパソコンの USB VBUS 電流制限素子としても良く見られる。



前置きが長くなってしまった。Everfuse (ポリスイッチ と同様な機能の部品) で少し遊んでみよう。先の画像に見られる 3 個並びの茶色い円盤形部品は Polytronics RLD60P110XF と思われる部品(ジャンク袋から収集した部品)

Ihold から Itrip の間の電流を流したらどうなるのだろう? RLD60P110XF のデータシートから引用したグラフを見てみる。Time to Trip Curve は 40 秒以上の部分を示していない。



グラフを外挿した先、あるいはデータシートの隙間を突いてみる。

次の様に直流電源の出力に直接繋ぐ回路で実験する。室温は 30 ℃、部品に風は当てない(肌で風は感じない程度)。電源出力は CV={5.0V, 4.0V, 3.0V, 2.0V, 1.0V}, CC=約 1.5A とする。



電源出力を直接素子で消費させる荒っぽい回路だ。それでも数10時間程度のトリップ継続時間、100回 程度のトリップ繰り返しでポリスイッチが著しく劣化したり壊れたりすることはない。

下の画像はテスト作業の様子を撮影したところ。見切れてしまっている。



トリップを負荷電圧・電流が定常状態になった時点とすると、トリップするまでの時間は次の様になった。



CV >= 3.0V では概ね 155 秒でトリップする。CV=2.0V で 168 秒、CV=1.0V で 308 秒でトリップする。CV x CC を Pd_typ 1.5W に近くなるように調整するとトリップするまでの時間が延びる。

後で示す動画を見るとこの現象を理解しやすい。トリップ現象の始まりから高い消費電力で短時間のうちにトリップ状態に到達するかどうかがトリップ時間を決めている。

トリップ現象の始まりから完全にトリップする間、回路は止まるか、動き続けたとして不可逆的な変化が起きないように設計する必要がある。

トリップ状態になったときの電圧・電流をプロットすると次の様になる。室温 30 ℃では概ね 電圧 x 電流 が 1.3W ~ 1.5W になる曲線の上に乗る。データシートにある Pd_typ に近い値になった。



電源ラインにポリスイッチを入れた場合、トリップするとポリスイッチの後にある回路はこの様な電圧降下と電流が流れるどこかの状態で動くことになるか、動作を停止することになる。当然不可逆的な変化が起きないように設計する必要がある。



動的な挙動を見ていこう。動画を全て見ると 10 数分程度掛かる。どれか 1 つ選んで見るのが時短になると思う。

CV=5.0V, CC=1.5A にしてトリップさせる。トリップ後に指でポリスイッチに触れて、息を吹きつける。続くの動画も、トリップ後に同様に触れて、息を吹き付けている。

CV=5.0V, CC=1.5A, Ta=30℃, 動画サイズ=11.7Mibyte


(動画再生時刻 1:24, 実験経過時刻 2:43) 手で触れると直ちにポリスイッチは反応し、トリップ電流が 0.3A から 0.5A に上昇する。(動画再生時刻 1:43, 実験経過時刻 3:03) 息を吹き付けると直ちに トリップ電流が 0.3A から 0.5A に上昇する。センサーと同様に反応が良い。

CV=4.0V, CC=1.5A, Ta=30℃, 動画サイズ=8.68Mibyte




CV=3.0V, CC=1.5A, Ta=30℃, 動画サイズ=8.90Mibyte


(動画再生時刻 1:02, 実験経過時刻 2:51) 手で触れると直ちにポリスイッチは反応し、トリップ電流が 0.48A から 1.0A に上昇する。(動画再生時刻 1:21, 実験経過時刻 3:10) 息を吹き付けると直ちに トリップ電流が 0.5A から 0.8A に上昇する。

CV=2.0V, CC=1.5A, Ta=30℃, 動画サイズ=11.7Mibyte


(動画再生時刻 1:20, 実験経過時刻 3:14) 手で触れると直ちにポリスイッチは反応し、トリップ電流が 0.72A から 1.5A に上昇する(CC モードへ戻る)。(動画再生時刻 1:49, 実験経過時刻 3:44) 息を吹き付けると直ちに トリップ電流が 0.72A から 1.13A に上昇する。

CV=1.0V, CC=1.5A, Ta=30℃, 動画サイズ=15.8Mibyte


(動画再生時刻 0:40, 実験経過時刻 4:46) ゆっくりと CC mode から CV mode へ遷移、(動画再生時刻 0:57, 実験経過時刻 5:05) ほぼトリップ状態になり (動画再生時刻 2:05, 実験経過時刻 13:57) までの間、電流が 1.3A 前後で変動を続けることを観測。(動画再生時刻 2:05, 実験経過時刻 13:57) 息を吹き付けると直ちに トリップ電流が 1.3A から 1.5A に上昇する(CC mode へ復帰)。

いずれかの動画を見ればトリップ条件・状態が周囲の状況で大きく変化することが分かる。電車の補助電源装置の状況を考えると、走行中の外気変化、風量変化、負荷変動、周囲部品の発熱変化で中途なトリップ寸前状態を彷徨う可能性がある。

ポリスイッチの使いにくさに対して半導体を使ったローサイド(GND 側)/ハイサイド(正電源側) スイッチに Over Voltage Protection (OVP), Over Current Protection (OCP),Over Temperature Protection (OTP), Reverse Voltage Protection (RVP) を備えたデバイスが多数出ている。バンドギャップリファレンスを使い周囲温度に対する定数変化は小さく作られている。これらのデバイスの中には I2C で設定変更できたり、状態取得したり、異常割り込みを発する機能を持つものもある。パソコン・スマホで標準装備になりつつある USB Type-C Power Delivery に対応しようとした場合、動的な設定変更は必須だ。

新幹線の補助電源装置の保護にポリスイッチを使う理由が有ったのだろうか?「単純な物理現象・原理で保護する必要がある」という昭和な設計基準?昭和だったら次の様なバイメタルを使ったサーキット・ブレーカーを使ったのかも。



これは自動復帰しない。手で赤いレバーを押して復帰する必要がある。それで良かったのかもしれない。

補助電源装置の中でポリスイッチをどのように使っていたか、発表資料で詳しく書かれていない。まさか 日記 「ノートパソコン向け? AC アダプタ SQ2N80W19P-00 が毛布の中で過熱状態になり故障」 に示した次の回路と同様な考えでゲート抵抗として使っていたのだろうか?



さらに難度の高い使い方だと思う。ゲート抵抗が上がると FET の消費電力が上がる。保護したつもりがより激しい現象を伴う故障になる。パンと破裂する、発煙するなどだ。

電車全体の設計目標として、「自動復旧する」あるいは「自動切り替え」というのが妥当な設計なのだろうかと思う。トンネル内・橋梁上など続く避難・救護に困難が生じない場所であれば「止まれる」のが列車だ。問題を確認、処置、運転再開(打ち切り決定)を止めた状態で出来る。





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最終更新日  2025.07.30 21:59:25コメント(0) | コメントを書く


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