第三章~本当の怖さ~


今で言うと、ちょうど金八先生の息子さんの、幸作くんと同じ様な状態だった。見慣れない状態に不信感を持った。井上くんは、いつもより顔色が悪かった。青白く、前より痩せた感じがする。それに・・・それに、なんだか担当の医師達も、なんだか焦っているようだった。せかせかしている。なんだかは分からないけど、とてつもなく嫌な違和感がある。
         白血病
 自然と頭髪が抜け落ちてしまう。
 時々、気持ちが悪きなり突然嘔吐する。
 身近な症状のところと言うことで、本に載っていた。
井上君は、その日から病室を出ることを禁止された。
一番つらいのは彼自身の筈だ。
でも、自分も辛い。
どうにかしてあげたいけど、自分もこんなのだし・・・。
この世から、病気がなくなる日は来るのだろうか。
苦しみながら死んで逝く人は消え去るのだろうか・・・。
世界が幸福になることは、許されることではない。
でも、何でこんなに身近な人が・・・。


         自分勝手すぎな主張だ 


でも、信じられない。信じたくない。
誰もが幸せを望んでいる筈なのに・・・

彼は、日に日に弱っていく。病室のが時々あいている時に見えるくらいだが、やはり弱々しい。
それに比べて、私は食べ物も食べられるようになったし、退院しても善いんじゃないかと、自分でも思う。
唯、井上君の状態は相変わらずだった。
それ以上かもしれない。
最近は、起きることもなくただ一日中ずっと寝ているだけみたいだ。

1月4日夜10:00頃だったか。辺りの慌ただしさに目が覚めた。
当たり前だ。すぐ隣の病室で、看護婦さんや医師達が騒いでいる。
ある医師の顔つきは恐かった。恐ろしかった。
何故か、部屋のドアが開いていたため、見えてしまった。
井上君が移動用のベッドで、どこかへ運ばれていく。
さすがに、ついてはいけなかったが、心配でずっと眠れなかった。

次の日の朝7:00になって、私はすぐに隣の病室にいってみたが、誰もいなかった。たださみしそうに白いシーツが敷いてあるベッドだけ。
なんとなく不安がよぎる。
              もしも・・・

そのまま自分の病室に戻ったが、落ち着かない。落ち着ける状態じゃない。
あまり会話をしてはいないが、楽しい時間を過ごしてきた。
そんな人が今、どんな状態か解らない。もしかしたら・・・
そんなこと考えない様にしようとは思っても、なかなか頭から離れない。
朝食が運ばれてきた時も、点滴交換の時間がきても、薬を運んでこられても、
決してその日、頭から離れることはなかった。
時間だけはどうにも止まらない。

1月5日今日も、病室は静まり返ったまま。
1月6日今日も、井上君は帰ってこなかった。
1月7日今日も、誰も来る様子は見られなかった。

そして、1月8日の早朝。
井上君は、いつものベッドに寝込んでいた。
いつもと変わらなかった。
何も喋ろうとはせず、黙って窓の奥にある荒れ模様の灰色の空を見詰めていた。

 何も喋ってないな…。

あれからずっと話し交わす暇も無かった。
今日もまた、こんな一日で終わってしまうのかと思っていた時、
またしても看護婦さんが慌ただしくなっていた。
今度は違う。何か、今度は違う。おかしい。変だ。
こないだの夜よりも一層慌ただしい。
何が起きたのだと、私も見にいった。
すると、井上君のベッドの真っ白なシーツに真っ赤な地がついていた。
どうやら、状態が悪化したらしい。
医師達も駆けつけてきた。
そして、病室のドアをバタンと閉めた。
私の不安がここにきて最高超に達したようだ。
頭の中が混乱して、何も考えられなくなった。

  どうしよう どうしよう どうしよう どうしよう どうしよう

血の気がひいた頭の中で、そんな言葉が通いはじめた。

ずっと瞬きもしていなかったような気がする。
恐いくらいに。瞬きをしたその一瞬で、井上君が・・・
こんなこと考えないはずだったのに!





                         死?



             そんな馬鹿な!
思い込みもいいかげんにしたほうが善いと自分に言い聞かせていた。
    そんな時・・・。

私の頭の中はもう物事を考えられる状態ではなかった。
ショック死するかもしれないくらい。
脳障害になるくらいだった。
          信じられますか? 
震えが止まらないくらい。涙が止まらないくらい。心臓が止まるくらい。
そのくらい衝撃的だった。


  ピ----------------------------------------

それが、何の音であり、何を意味しているかすぐに分かった。
冗談じゃない。こんなの嘘だ。出来すぎてるドラマだ。いやだ。何で?なんで?
ドラマだったらよかったのに。ドラマだったらどんなに善いか・・・。


          ドラマだったら・・・            

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