華陰之夜 封神演義番外編1




嗚呼、散りゆく火よ。
宙に咲く大輪の華よ。



 華陰之夜








  光速と音速の差を実感するのはこんな時か。
  夜空の灯りを打ち消す光を見つめ、ぼんやりと考える。
  夏至祭が過ぎれば暦は秋。
  (やれやれ、忙しくなるのう)
  実りの秋にはもれなく仕事が付いてくる。


 「まぁだ食べるんかいスース」
 「当っ然!甘味処制さずして何が祭か!」
 「あーた絶対祭に関しての認識が欠けてるさ・・・」
 「おおっ、あれに見るは綿菓子!行くぞ天祥!」
 「うんっ」
 「こらこらこら、人ん家の息子巻き込むんじゃねぇって」
 「笑ってる場合じゃないさ親父!」


  (確か桃饅を買い忘れたのではなかったか・・・)
  手摺に顎を預けた不安定極まりない姿勢。そろそろ腰が痛い。
  だらけ具合が外に見えているのは楽で良い。非常に。いろいろと。
  横には酒も置いてあることだし。


 「まぁた太乙のヤツ、おかしなもの作ったって?」
 「あはは、でも今回のはいいんじゃないかな。緑も綺麗に出るようになったし」
 「ほう、派手な仕掛けものだう」
 「たまにはこうして成功作も見せてもらわなくてはな」
 「科学者の肩書きが廃るってもんだよねぇ」
 「普賢ー、そこまで言ってやるなよー」
 「ちょっとそこ!聞こえてるんだよこっちにもね!」


  花が散る。
  咲くのは一瞬。唯、その時の為に。


 「わしは何を為すべきなのか」
  呟いて、そして打ち消す。散らすわけにはいかないのだ。この自分の身以外は。
  否、自分でさえも。終末までは生き延びねばならない。
  何としてでも。


  炎が散る。瞼の裏に残像を焼き付け。
  消えてゆく。
  まるで記憶に残る彼らのように。
  失われることなく共にあった時間と同じに。


  揺らぐな。自分に言い聞かせる。
  迷うな。せめて表に向けている部分だけでも。
  立ち向かえ。お前の目的は何だ?
  視線の先にあるものを見据えろ。
  そこに在るべきは?


  光が見える。音が聞こえる。
  空中にある刹那。


 「ああ、綺麗だ」


  そう、何もかもが。


 「お師匠さまーっ、桃冷えましたよー」
 「師叔、こちらの方が見晴らしいいですよ」
 「せっかくの祭なんだ、飲もうぜ太公望!」
 「小兄様!」

 「ああ、今行く!」


  夜空には国中が見上げる華が咲く。
  かしましく、夏の終わりを告げるその音。
  明日はまた新たな季節。
  新たな、時。








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