夜明けて見る夢について 封神演義番外編7




注:この小話は時間的に、
  『第18部 太上老君をめぐる冒険』
   第160回牧野の戦い-イントロダクション- の前になります。







  酒が美味い。良いことだ。なにせざっと六ヶ月は呑んでいないのだから余計だろう。
  あちこちで酒盛りの歓声が聞こえる。皆元気だ。

  ―――――が。

  その心地良さの中、目の前に座して動こうとせず、くだを巻き続ける美形天才道士だけは、ちと
 いただけない。
  いやまぁ、自責の念はあるのだが……。

  ………誰か何とかしてくれ。






     夜明けて見る、夢について





 「っからですねぇぇっ、もおぉ大変だったんですよぉー」
  聞いてますかぁっ、と語尾を上げて詰め寄る楊ぜんの目は、完全に坐っている。大遅刻をかました
 自覚のある軍師は「仕方ない」態度を外に出さぬよう努めていたのだが…そろそろ限界が近い。
 「本当におぬしには迷惑かけたな。良くやってくれた。感謝しておるよ」
  何度目になるのかわからない「感謝の言葉」を口にする。まぎれもない本心だったはずなのだが…。
 「だったらもう少しくらい早く帰ってきてくださっても良かったでしょぉうーっ?」
 「いやだからそれはだな」
  ああくそ、これでは堂々巡りではないか。
  この非生産的な会話は、既に小半時を経過する。
  話の方向を何とかねじ曲げてやろうと、酔っぱらいを相手に太公望が考えた瞬間。
  どさぁっ。
 「あん?」
  見れば、組んでいる足の上に落ちた蒼色。手から滑り落ちたらしい杯が、地面を転がって酒の筋を
 描いていた。
  天才君はどうやら一定酒量を超えると捻子が切れるようだ。
 「言い逃げか、おい」
  それはそれは幸せそうな寝顔に頭を抱えたくなる上司だった。

 * * * * *

 「ああ、居た居た」
  軽い足音と共に現れたのは韋護。手にはしっかり酒を持っている。眠りこける楊ぜんに目をやり、
 小首を傾げて口を開いた。
 「二人だけ姿がないと思ったら、こんな外れたとこで酒盛かい」
  しかも持ってきてんのが一等美味いヤツってあたりがアンタらしすぎ。と、そのまま持参の杯に注ぎ、
 呷る。
 「代理を任せたからのう。報告会を兼ねて、な」
  言いながら手袋を外した右手で、蒼い髪を梳いた。
 「てより、ゴキゲン取りだろ」
  二杯目を口元へ運びながら楊ぜんを指す。太公望は軽く笑うことで、その問いに答えた。
 「どーすんのソレ」
 「そこらへ転がしておく」
 「で、あんたは?」
 「部屋帰って寝る」
  いい扱いっぷりだねぇと、酒を飲んではくつくつ笑う。
 「結構、無理してたぜ、そいつ」
  杯を重ねる間に穏やかな時間が流れる。梢が風に揺れ、音を立てた。
  手元の長い髪が微かにそよぐ。
 「全て、肩代わりさせてしまったからな」
  立ち直ってなどいなかったに違いない彼。いや、彼等。後の布石のためとはいえ、、その時を狙った
 かのように、不在を告げた己。
  重責を逃れたのは、楽になったのは、自分だけ、だ。
 「あんたが全部背負い込むこたないだろ」
  そう言う表情は目深に被った帽子に隠され見ることが出来ない。
 「てぇか喜んで肩貸してくれるのと違う?」
  誰とは言わない。おそらくは酔い潰れた彼と、そして。
 「違いない」
  皆。
  嬉しすぎて笑いが止まらなくなりそうだった。
 「とは言え、わしのは己の私欲から出たもの。重責は当然の付属品だからのう。わしが背負うべきもの
 とは思わぬか?」
 「それ正論。ただ、俺等は結局好きで頭突っ込んでるトコあんだから、立場同じだったりするんだよ、
 実は」
  口元がにやりと笑った。顔の上半分は相変わらずわからないままだが、おそらく…。
 「おぬし…」
 「何」
 「甘やかすのが上手いのう」
 「あーあー、どうせ俺はオヤジだよ」
 「言うておらんだろう、そんなことは」

  酒がいい加減なくなってきたところで韋護は立ち上がった。かなりの量を喰らった筈だが、足許は
 しっかりしている。
 「本当にどーするよ、そいつ」
 「ああ」
  飽きもせず蒼い髪で遊んでいた自分の手に気付き、苦笑する。
 「ま、風邪をひくこともあるまい。もうしばらく寝かせてやるよ」
  帽子の影から片目を覗かせ、呆れたような声が降ってきた。
 「甘やかしてんのはあんたの方じゃないの?」
 「さぁな」
  ごちそうさん、という挨拶を残して彼は去っていった。

 * * * * *

  翌朝。

  いつ部屋へ戻ったのか思い出せなかった…とうより覚えていなかった。
  二日酔いの頭を抱えたまま、朝議のため師叔を迎えに行くと、「おぬしには貸しがあるからのう」と
 宣告され、訳が分からないまま執務室まで背負う羽目になった。
 「よぉ、はよう」
 「おお、韋護ではないか」
  道中、韋護くんと合流する……何時の間にか、師叔と示し合わせていたらしい。

  そういえば昨夜、何だかひどく優しい手がずっと側にいてくれたような気がする。今の、背中の温もり
 とよく似た

 「どうだ、扱き使っておるだろう?」
  頭上で師叔の声。
  自覚があったのかと思えば、隣から意外な答えが。
 「いーんや。どっちかってと、やっぱ甘やかしすぎ」
  直後、二人で爆笑。
  僕が二日酔いだと知った上でやってることは間違いない。
  ……………笑い声が頭に響く。痛いんですけど。
  聞いてますか、師叔!?
  ああもう。

  誰か、何とかしてくれないかな……。








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