盲目の色 封神演義番外編14



 盲目の色










 世界は白一色に染められていた。


 しんとした寒さが体を包み、熱を奪っていく。そのくせ、それは何故だか温かく感じられもするのだ。吐息が白く凝る。
 視線の彼方に山形。やはり白くけぶる彼方の景色からは、何の音も聞こえない。強いて言うなればこの音が、無音と表されるものなのだろう。

 耳が、痛い。

「風邪ひきますよ」
 新たに白が加わった。ふうわりとした布が柔らかく頬を掠める。
「見よ、雪だ」
「ええ、初雪ですね」
 その割に随分と景気良く降ってくれますが。そう言って彼が笑うと、視界の隅に見える蒼色が合わせて揺れる。背中に体温が伝わる。



 掌に一つ。
 雪の破片が落ちた。白い、結晶。

 誰が作ったのか精巧な六角形を描く白の塊は、同じく白く吐かれた呼吸一つで直ぐさま消えてしまった。もう、跡形もない。
 だがこの眼前の世界はどうだろう。 折り重なり、積み重ねられて築き上げられた汚れのない世界。この中に立つ資格が自分にはあるのか。
 瞼の裏に朱がちらつく。

 一人の女の蔭。そして、炎。

 体に廻された腕の力が増した。
「痛いぞ」
「ろくでもないことを考えて居られるご 様子でしたので」
 まったく。余計なところばかりよく見ていることだ、この片腕は。
 後ろに重心を移動させて、思う存分体重をかけてやる。予想していたのか、大して慌てる素振りも見せず難なく支えた相手に少しばかりむかついたが。まぁ良しとしておこう。折角温かいのだから。
「その馬鹿丁寧な口調、嫌味にしか聞こえぬぞ。やめておけ」
「お望みとあらば」
 頭の上でくつくつと笑われるのが癪に障る。こちらはこの姿から変わることが出来なかったというのに。
「おいこら」
 これ見よがしに上から流れていた髪を引っ張って。
「何ですか」
「いい加減離せ」
「背もたれにされてるのは僕なんですけど」
 その辺りは都合良く無視。
「借りるぞ」
 相手の肩から大きな布だけを抜き取る。くるまれてしまう子供の体。
 これなら、同化できるかもしれない。白く白く。真っ白に。

「失礼」
 そう言い様相手に取られたのは、いつも頭に巻いている頭巾。
「寒い」
「それを言うなら僕の方が寒いですよ」
 それもそうだと肩をすくめたが。
「とっとと返せ」
「嫌です」
 間を置かず返された返事。やたらと力が隠っていたように聞こえたのは。
「どうした」
「見えなくなりそうだったので」





    白の天幕を織りなせ、氷の糸よ。全てを覆い尽くすほどに大きな布を。





「目が悪いな、おぬし」
「どうせ老眼だとか言いたいんでしょ」
「当たり」

 ああそれでも。
 一切を許さないお前よりは、この彩の方が愛しいのだ。




 蒼が降る。
 この色が積もる頃には、朱は消えて無くなるだろう。
 それが例え、唯一時の幻影であったとしても。




 まだ、雪は降っている。
 世界は白さを増し続けている。




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