風塵 封神演義番外編15




  蒼天仰ぎ見れば彼方より来る
  時越えし旅人の唄を聞け


       -風塵-






どこまでも空。
視覚の限界に感じる青。
青に浸みる白い雲。

そして風が吹く。

髪が翻る。風に煽られて耳元で叫ぶ。
お前は誰だ。
虚空に独りであり続けることを望みながら尚人に固執する。
期待と裏切りと酩酊と悔恨。

そしてほんの少しの、けれど絶対の幸福。

それでも空はそこにある。


これがこの星の形。













 草原を凪が過ぎる。眼下に広がるのはまさに草の海。波がうねり、模様を描き出す。太陽光を弾き返す、呑み込まれるほどに深いその、翠。服の裾がはためく。
 仰ぎ見渡す空間には果てがない。その上には宙。永遠を包み込む深淵。全てを拒絶する冷たさと、全てを内包する広さを持つ矛盾に満ちた存在。だからこそ彼らも許された。
 彼は深淵からこの地に降り立った。
 故郷は既にない。

「―――」
 彼は何事かを呟いた。聞くものは誰もいない。ただ孤独に消えていく。
 ここから数限りない火の消えゆく様を見つめてきた。人の動物の植物の生あるものたちが鼓動を止める時。音がまた一つ途切れ、そして新たな音が刻まれる。生と死。
 滅びて尚、彼らは生き続けた。大いなる掌の上とはいえ、いっそ健気なほどに。一つの個として見ればかなりのしぶとさと言えよう。
 唇が笑みを作る。ほんの微かな。

 彼は待っていた
 時を。人を。そして。

 彼女が本当に目覚めるのを。







 時が流れ、彼は一つの決断をする。駒は総て揃った。ならば行動あるのみ。一つの存在は二つの存在へと、そして複数の人格へと分裂していく。
 神として仙として人として妖として…大いなる意志として。
 彼であった自我はとうに消え去り、残るのはその希い。
 その、祈りとも言うべき波紋。







 ふと脳裏を掠める影がある。この星にいる限りどこまでも付きまとう影。
 嘗ての罪を知る者たち。新たな罪を背負った者。
 ………愛すべき共犯者たち。
 何もない空間を抱き締めて目を瞑る。そして、何も考えない空白の心を作る。これは祈りでなく、願いでもない。ただ共に在ったというそれだけの証。
 過去の感情は、今は記憶でしかない。
 けれど想いは消えずに残るのであれば、抱き締めて生きるのも悪くはない。そう考えるまでに随分の時を費やしたものだが。
 そう、悪くない。多分、誰も。



 その地に降り立ってどれほどの時が経つのだろう。どれほどの血が流れたのだろう。わかることは少ない。
 これからまた悠久の時を。導無き世界を見つめて。
 お前と共に、友を見つめて。

 そうして生きていくとするかのう?

 自分の手で消したはずの存在が記憶の片隅で笑った。相も変わらず、と。





 何処へも行かず、けれど何処までも行こう。
 此処から。





 空は青く、雲は白く。
 何もなかったかのように太古からそのまま存在し続ける。

 誰もいない草原を見下ろすその岩場を、ただ、風だけが過ぎていく。








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