山口小夜の不思議遊戯

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2005年10月24日
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 その日、綾一郎は教室掃除の当番だったので、早速とんづらしてしまおうと荷物をまとめていたところ、自分の右足が何かを踏んでいることに気がついた。

 見ると、それは和紙の切れっぱしだった。

 これを捨てたら一応掃除したことになるかも、などといいかげんなことを思いついた綾一郎は、裸足の足でそれを器用に拾いあげた。

 紙にはなにか書いてあるらしかったが、彼は他人の手紙を読む趣味はなかったので、そのままゴミにしてしまおうと、その手に握りこんだ。

 そして、掃除当番の要員たちにさとられないように帰り支度を終えた綾一郎は、いかにしてこの場を抜け出すかという対策に熱中してしまい、手にした紙きれはそれからしばらく彼の脳裏から忘れられた。

 ───

 掃除当番とんづら計画は、まったく綾一郎の首尾ようだった。
 身も心も浮き足立っていた帰り道、彼はだがその手だけ緊張が解けないのに気がついた。

 そこではじめて、手に握りしめたままでいた紙切れを思い出したのだ。



 紙には、何か、書いてあった。

 いや、もうそれは先刻承知のことだ。ところが、それは本当の意味での‘何か’だった。

 ──・・・・・・?

 綾一郎はたいそう驚いて、その紙をつまみあげて自分の目の高さにまで持っていき、しげしげと時間をかけて眺めた。

 何度見ても同じだった。
 紙には字は書かれていなかった。絵も描かれていなかった。
 しかし、確かに何か書いてある。

 記号、と形容すればよいのか──なんともはや不可思議な文様が、律儀な様子で四角に切り揃えられた小さな紙面の上に、整然と並んでいたのである。しかも黒々とした墨書きの筆跡で。

 綾一郎はすぐさまそこらの道ばたに座り込み、初代あばれはっちゃくのごとく‘ひらめき’があるまで、今ここで本腰を入れて頭を回転させることにした。

 綾一郎はその大きな目をさらにまんまるにして、今いちど紙片を見込んだ。

」ПЭБэ ∠Ψι∝ζΘф 」Плзб ¬∂Бэ¬∂η σδιη¬∂Э


 よく見ると同じ記号が何回となく使われていたりもする。

 綾一郎は思った。
 これは何か意味のある羅列だ。
 そしてこうも思いを巡らせた。
 ──誰ぞ、暗号でも考えて作戦でも練ってるのやろか。


 そして、どこかで秘密裏に出来上がった作戦は、田中綾一郎という新大将の様子見をしているがために、いまだに他の集落から戦がしかけられていない相生がこうむるに決まっている。
 いよいよ打って出てきたか。そこまで考えて、綾一郎はこのところ忘れていた自らの大将という立場というものをはたと思い出し、さっと緊張した。

 暗号まで考えているのならば、これは意外と手ごわいことになりそうだ。

 まずは暗号の出所と、極秘計画の内容、進み具合を調べなければ。



 本日の日記---------------------------------------------------------

 【屋号について】

 本文に出てくる登場人物は、みな屋号を持っています。
 屋号とは、端的にいえば家の称号のことです。
 本日は、この屋号について少し説明させていただきます。

 「屋号」とは一般的には‘伊勢屋’や‘成田屋’のたぐいの商家や俳優などの家称を指しますが、相生村においても、その者がどこの家系に属すのかを示す呼び名のことを指しています。

 「屋号」の多くはその家を特徴づける生業や外観から付けられたもので、たとえば、三年生編の大将日野西武人は、「あぶらやのいしきな」と呼ばれています。同じように、不二豊も三年生編の第十一章で他の集落の子供たちから「さわのゆた」と呼ばれています。

 相生村には同姓世帯が多く、田中家、中村家、山根家など、同じ名字の一家がたくさんいます。名字だけでは、どこの家の人なのか区別がつかないため、名字ではなく屋号と組み合わせて呼んでいるのです。

 屋号には、「あぶらや」「すみや(米倉家)」などの生業(なりわい)を示すものと、「さわ」などの住んでいる家の特徴を示したものなどがあります。「さわ」は不二一族のうち、本家に属す者の屋号です。本家が一族の住まいのうち最も奥にあり、それが沢に接していたからこの名が付きました。一族の人々は、ほかに「門」(かど)、「炊」(かしき)などの屋号をそれぞれ持ち、家の所属を明確にしていました。

 このほかに、その者を特徴づける性質などを屋号のようにして呼ぶこともあります。ちょうど綾一郎がこれに当たり、赤銅色の髪を持つ彼は、「月毛(つきげ)のすせりな」と呼ばれていました。

 そこで、小夜の山口家といえば、横浜からやって来た者という意味をこめて、「みなとまち」という屋号で呼ばれていました。他の集落の人は、「みなとまち」と聞いて「境港」から来た者だと思っていた人もいたようです。

 最近はとんと聞かれなくなった屋号ですが、一見しただけでその人を‘特徴づけられる’、あるいは‘端的にあらわしている’ものを屋号と定義するならば、もしかしたらブログのHNなどが現代のそれに当たるのかもしれません。
 皆さまの素敵な屋号を見て、「ああ、この人はきっとこういう感じの方なんだろうな・・・」などと想像してみるのが、私の楽しみだったりもするのです。

 明日は●綾一郎、小夜をつかまえる●です。
 ナイショのことですが・・・当時からこの大将はけっこう人気がありました(笑)。小夜にしても、なにかで集まっている際に、子供たちのなかに彼の雄弁な瞳がないと、なんだか落ち着かない気持ちになったことをここに白状するべきでしょう。
 タイムスリップして、この相生の少年らしい大将が小夜に何を見い出したのか、教室の扉に寄って眺めにきなんせ。






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最終更新日  2005年10月24日 05時51分23秒
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水晶の球に・・・。  
yuu yuu  さん
屋号の話、よく分かりました。私のところは「筑土」と呼ばれておりました。
小夜、豊、綾一郎のトライアングル・・・。鏡の中に一人一人と現れて・・・。これから何を写そうとするのか・・・。
この物語を捉える鏡は私にあるのか・・・。
私にとっても大いなる冒険です・・・。
心静かに明日を待つ・・・。
ご精進を・・・。 (2005年10月24日 14時42分55秒)

Re:水晶の球に・・・。(10/24)  
小夜子姉貴  さん
yuu yuuさん

「築土」・・・はじめて見る屋号です。
どうお読みするのでしょうか。
「つきやま」でもないし「つくし」でもないのですね・・・。
yuu yuuさんは古いお家柄なのですね──。

私にとっての小説とは、ブログに更新するまでは全身全霊を込め、責任感のすべてをかけて創り上げるものです。けれども、アップしてしまった後はもはや読んでくださる方の感性にまかせるしかありません。

こちらのコメントに多く寄せていただいているように、皆さまがそれぞれに私の想像の及ばない連想をなさっては、感想として書き綴ってくださいます。

この物語を捉える鏡は私にあるのか・・・。
作者には決して考えることのできない、珠玉の言葉であると思います。

(2005年10月24日 18時27分25秒)

大戦前夜ですか  
これから戦乱が起きると思うと楽しみ。
小夜は、どの様に活躍しますか。

屋号ですか。田舎では、同じ苗字でも本家と分家が
すぐ分かる様な呼び方をしますね。

「山口」さんの運命は、
先祖に資産家が多くその影響を受けておっとりした人が多い。
どうですか?

(2005年10月24日 20時10分57秒)

Re:大戦前夜ですか(10/24)  
小夜子姉貴  さん
ゆうじろう15さん

私のHNはHNではなく、本館の方を訪れていただいた方はわかっていらっしゃると思いますが、山口というのも本名です。

HNって、ほかの方のものを眺めるのは好きなのですが、自分がいざHNで呼ばれるとなると、なんとなく違和感があるのです。ほんとうの自分でないような・・・。ブログとは、匿名性もあり、またほんとうの自分でない部分を公開したりして、そういうところを楽しむものなのでしょうが、私の場合、なんとなく実名の方に心惹かれます。本文中の地名やその他の名称などが、ほとんど実名なのもそのせいです。

というわけで、私はこの「山口姓」がなんとなく好きなのです。
でもね、私の友人たちによると、「山口姓」には変人が多いそうです。
「山口という名字で、フツーのやつに会ったことがない!」などと言うのです(怒)。

全国第二十位以内に入るほどの中村さん、高橋さんにつぐ多い姓ですし、珍名さんに憧れたりもするけれど、結局PNも「山口」・・・。

山口姓のルーツはよく知らないのですが、大和朝廷に「山口大口直」(やまぐちのおおくちのあたえ)という人がいたことが日本最古の記録です。けれども、この人は日本人ではなく、朝鮮半島系の人でした。

鳥取では、「やまぐち」の「や」にアクセントをつけて呼ばれていたのを懐かしく思い出します。
トウキョウでは、「ま」にアクセントがつきます。
私としては、「や」にアクセントのつく「やまぐち」の方が、聞きしながよいように思います。 (2005年10月24日 21時11分14秒)

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