旅人の独白

旅人の独白

不可思議な日々


何万回のキスを重ねたろう。何百回の逢瀬を重ねたろう。そして何百日の夜を一緒に過ごしただろう。最初の夜、彼女が行為のあと、「彼とは違う・・」と言いかけて、それきり、僕と比較する言葉は2度と口にすることはなかったが、僕にとっては、とにかく全身の相性がいい。
彼女全体の香りも好きだ。ひんやりする肌に触れているだけで安らぐ、抱き合っているだけで気持ちがいい。
もうほかの誰にも関心を持つことはないくらいだ。そのときの幸福感は、言葉に表すことはできない。
もちろん僕も妻とは、それ以来、SEXはしていない。一方、彼女の方の事情は知らない。聞くつもりもない。それが不倫のマナーだろう。
それなら、お互いに別れて、なぜ一緒にならないかと人は思うだろう。僕らもというより、かつては僕は悩んだ。彼女が僕に離婚を迫れば、離婚になったかもしれない。僕の周囲では、3人に1人ぐらい離婚を経験してる。もちろん再婚しているものも少なくない。しかし、彼らを見ていると、本当に明るい幸福を再び手にしているとは今でも思えない。傍から見るせいか、なぜか皆が過去を背負って負い目を感じている気がする。特に子供がいる場合はなおさらそうだ。僕らの付き合いは、世の中の不倫のカップルと比べても、かなり長いと思う。そして今では、彼女も、ドロドロした関係を起こすことは望んでいない。「あなたは2人の奥さんがいてしあわせよね」と皮肉でなく言われたことがある。妻も、どうも、あきらめているのか、時には疑いの質問をするが、僕が否定し続けることで、納得し、優しい顔に戻る。SEXこそないが、ただ1点彼女のことを除けば、本音で会話し、一緒に散歩したり、たまに旅行したり、近所でも、比較的仲のいい夫婦と思われているだろう。

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