外資系経理マンのページ

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小説(3)


「赤城さん、社長は今日でしたよね。帰ってくるの。たしか昨日の成田着で今日は会社でしたよね」
少々厚めの眼鏡をかけた赤城は、
「どうしたんですか?たしか、そうきいてましたが」
「さっき本社から電話あって、深田を出せってうるさいんだ」
「また、いつものことじゃないですか?」
 松田は会話の展開についていけない。いつものことって何なんだ?
「いつものことってなんですか?」
 そう松田がきくと 安藤と赤城は顔をあわせた。
「ま、いまにわかりますよ。」赤城が意味深に答えた。今にといわれても、と松田は思ったが。
「また、行ってんのか?」
営業の安川が、安藤のところへやってきた。先週はいなかった。そうなのだ。名前を聞いていない人 まだ8人はいるはずなのだ。安川は、たばこのにおいを漂わせて
「しょうがねえよなあ、会社のかねつかってさ、おんなとさあ」

 それまで、外資系というとどちらかというと、スマートなイメージがあった。また、英語がとびかうオフィス。パーテションに仕切られた個室空間。とうぜん、ガイジンの社員。しかし、パーテションとか、オフィス環境はともかく、社員は、日本の会社そのものなのだ。安藤にしろ、赤城にしても、聞けば、日本の大手おもちゃ会社バンミー出身で、深田の引きではいったらしい。
 ちなみにアンテラジャパンは親会社は、ニューヨークにある、アンテラエンターテイメント。深田は、そのアンテラの創業3人衆の一人で、実力者。ふつう、親会社100%出資がよくあるが、このアンテラは、50%、深田の経営する株式会社フカダが50%出資している。

 そう、スマートさはまったくないのだ。そして、社長の愛人問題。

「きょう、やるんだよな」
「やるさ」

 安川と安藤の会話は、よくわからなかったが、この夜のある事件が、松田が、長くこの会社にいることになる原因のひとつになるとは、この時点では思いもよらなかった。


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