酔眼教師の乱雑日記

「流通大競争時代における小規模小売業の役

「流通大競争時代における小規模小売業の役割」
――毛細血管機能の再認識――


激変する流通環境 
 ――第二次流通革命真只中――

 昭和三十年代後半にも、「流通革命」が言われました。そのときの状況は。生産システムが急速に近代化し、大量生産が行われるようになったにもかかわらず、出来上がった商品を消費者に届ける役割を担う流通システムの近代化が遅れており、経済システム全体に不効率が生じているので、流通を近代化しなければならないということでした、流通経路の短縮化を目指した「問屋無用論」が唱えられたりしました。
 それから、30数年が経過し、再び、「流通革命」が言われていますが、その背景や内容は大きく異なっています、なぜ今「流通革命」なのでしょうか。
バブル経済崩壊後の社会経済的状況の変化として、①デフレ経済の進行(価格破壊、価格革命)、②家計所得の伸び率の鈍化、③労働市場における需給のアンバランス、④消費の個性化・多様化・節約化、⑤高齢化と少子化、⑥技術革新の進展とそれを背景とする情報化の進展、⑦競争の多次元化、⑧経済活動のグローバル化、⑨政策における規制緩和の推進、等々があげられます。
これらの社会経済的環境変化によって、わが国の流通システムにも地核変動がおきています、主要な地殻変動の要因としては、
 第一に、経済がグローバル化し、日本国内だけで通用する規制・制度・慣習が認められなくなり、流通システムにも世界共通のルールが求められました、結果、規制緩和政策が促進され、従来の中小商業保護・育成政策から自由競争政策へと政策転換がなされ、保護政策的な色彩の強かった「大店法」が撤廃され、生活環境保全的色彩の強い社会政策としての「大店立地法」が施行され、併せて、「販売免許制」も緩和されてきたこと、
 第二に、厳しいメガ・コンペティションを勝ちぬいた欧米の流通企業が世界中で通用するビジネス・モデルを確立し、高い流通生産性とグローバルな商品調達力を武器に、国境を越え、規制緩和が進められるとともにバブル経済の崩壊によって地価が下落している日本市場へ進出してきており、流通の分野においてもグローバルな競争の時代を迎えていること、
 第三に、バブル経済崩壊後の、消費者の価値観・意識・購買行動が大きく変化していること、などをあげることができると思います。
 このような急激な環境変化に対応しきれず、百貨店や大規模量販店が倒産し、また、多くの大規模小売業者も販売不振に苦しんでいます、直近の平成15年度6月において、全国百貨店売上高(99社、290店)は15ヵ月、全国スーパー売上高(102社8839店)は12ヵ月連続で前年実績を割り込んでいます。
規模の大小を問わず、各種法規制と国内特有の商習慣に守られながら、横並びの競争をしてきた日本の小売業者が従来の企業パラダイムに依拠して行動していると、グローバルな競争のなかで生き残ることは困難ですし、淘汰への途を歩むことになります。


減少する小規模小売店
      ――淘汰される運命か――

 平成14年度の商業統計表で小売業の全体像を俯瞰してみますと、就業者規模別事業所数では、2人以下が45.2%、3―4人が23.0%であり、小規模店が小売業全体の7割近くを占めており、5~9人の17.3%を加えると9割近くになります。10人を超える事業所は、わずか1割強です。
 前回の商業統計調査(平成11年)と比較しますと、1~2人の事業所が11,2%、3人~9人の事業所で6.1%減少し、50人以上(前回比、5,2%増)の大規模事業所は引き続き増加しています。
 一方、就業者規模別の年間商品販売額をみますと、事業所数では45%を占める2人以下の事業所の販売額は年間小売販売総額のわずか6%であり、3~4人を含めても小規模事業所の占める販売額の割合は15,7%であります。前回比では、50~99人(前回比、1.9%増)を除く全ての規模で減少となっていますが、とくに、2人以下の事業所では販売額を17.9%、3~4人の事業所では12.9%減少させており、小規模店の販売額の大幅減少が顕著です。規模格差が開きつつあるといえます。
 厳しい環境変化の中で、小規模事業所数と販売額の減少が止まりません。表1は平成に入ってからの小売業従業員規模別の事業所数の推移を商業統計表にもとづいて算出したものです。平成3年と14年を比較してみると、小売業全体では30.5万店減少しています、この数字は、現在の中・四国と九州・沖縄で営業している全小売業者が廃業したと仮定した数字を上回るものです。
 就業者規模別では、2人以下の事業所で26.5万店、3~4人の事業所で12.2万が減少していますが、逆に、中規模以上の事業所数においては増加しています、小売店数の減少は小規模店の減少ですし、減少率は加速しているようで、小売店舗数が100万店を切るのも遠い将来ではないかもしれません。
小規模店の経営者が経営不振の原因を環境変化に求め、商売の発想や方法を変えない限り、減少化傾向に歯止めをかけることは難しいと思われます。

小規模店は毛細血管である
――自らの使命・役割・機能を再確認する――

 どのような企業でも、存続・成長しえるのは、社会経済システムのなかにおいてその存在が必要とされるからです。規模の大小に関わらず、小売業は消費者の購買代理人として、消費者が必要としている商品・サービスを探索し、提供することを社会的使命としています。その点では、小規模店も大規模店もかわりはありません。
 しかし、社会から求められている機能は違っているのです。流通システムを人体に喩えるなら、商品・サービスが血液で、大規模店は動脈であり、小規模店は毛細血管なのです。両方が存在しなければ、血液は循環しません。毛細血管は、決して動脈の役割は出来ませんが、身体の隅々の組織に栄養を与えるという一番重要な役割を果たしており、動脈とは違った機能を担当しているのです。血液を運ぶという役割は同じでも、毛細血管と動脈の機能は違うのです。
 動脈である大規模店は大量流通させる使命を果たすためのマーケティング活動を展開しますが、小規模店は大規模店との競争場裏に乗って、同様の営業活動を試みても、その勝敗の帰趨は戦う前から決まっています。
 地域に密着した小規模店は、地域の隅々にまで商品・サービスを行き渡らせる毛細血管の機能を担っています。その機能を果たすことによって、地域の人々に購買の楽しさと喜びを提供することによって、地域社会から認容され存続できるのです。
 しかし、多くの小規模店は大規模店と同様の商品・販売促進方法・店舗運営で、その機能を果たそうとしていますが、消費者が小規模店に期待する機能との間に「ずれ」を生まれており、結果、地域の消費者に受け入れられず、社会的存在としての役割を終えようとしています。
 消費者が近隣の小売店に求める機能を果たしているのが「コンビニエンス・ストア」です、コンビニは場所的、時間的、品揃えの利便性を提供することで、毛細血管機能を果たそうとしています。
 このままでは、小規模店は「坐して死を待つ」状態です。小規模店の経営者は、地域の消費者が求めている毛細血管としての機能を見つめ直し、対応していくことが必要です。小規模店が大規模店に勝る点は、対面販売にあります。対面販売を見直すことが、これからの小規模店の生きる道です。

小規模小売店の生き残り策  
――秘訣は対面販売ではなく対面コミュニケーション――

 幸いなことに、消費市場の変化が小規模店を必要としはじめています。少子高齢社会の到来によって、消費市場の構造は変化しています。
 昨年、50歳代が最大の人口層になり、人口構成は、ピラミッド型からひょうたん型へ、将来は逆ピラミッド型へと移行していき、2025年には、50歳以上の人口がほぼ過半数になると予想されています。これからは、消費市場の構成の重心が、若年層から中・高齢層(以下:シニア)へと移行していきます。
 核家族化やニューファミリーという生活形態を生み出し、さまざまな流行やライフ・スタイルを創りだしてきた団塊の世代が50歳代になり、シニアの市場行動は、従前の戦前生まれの高齢者の同質的な消費行動とは大きく異なったものとなることが想定されますし、価値観・生活意識・パーソナリティ特性・経済環境・家庭環境・健康状態などによって、一人一人の購買意識や消費行動にも大きな違いがあると考えられます。シニア市場も若年市場と同様に、多様で異質なニーズが混在する市場に変貌しつつあります。
 しかし、市場規模が大きくなかったこともあり、大規模店もシニア市場は同質的な市場であるという前提のもとに、均質なマーケティング戦略を展開してきました。しかも、大規模店は大量流通を使命とする動脈ですから、消費者のゼネラル・ニーズ(共通的なニーズ)に対応するために、標準化された商品を、標準化した販売方法・店舗運営を採用することで生産性を高め、効率化を進めなければなりません。一人一人の消費者のスペシャル・ニーズを充足するには不向き体質なのです。 
対面販売を行なってきた小規模店の優位性が生かされるビジネス・チャンスが到来しています。
 小規模店がシニア市場においてビジネス・チャンスを生かす出発点は、2つの発想の転換です。
 第一の発想の転換は、消費者についての見方・考え方です。従来、「消費者は王様である」と口では言いながらも、小売業側の論理のなかで、消費者は生産された商品の受け手として見なしてきました。このように消費者を見るのは、プロダクト・アウト的思考で、高度成長期の物不足時代の考え方です。
現在の消費者は満ち溢れた「もの」の中で生活しています。商品を購入する行動は、日常生活上の課題(たとえば、食事の準備する)を解決するか、もしくは、現在所有している「もの」に新しい商品を加えることによって、より豊かで快適な生活を実現しようとするものです。そのような消費者に対応するためには、マーケット・イン的発想が必要です。
 小売店側は商品を購入する購買行動の側面だけに注目するのではなく、生活する人として消費者をとらえ、その人が生活上で抱える課題や期待する生活空間を想定し、対応する必要があります。すなわち、小売店は販売対象を消費者としてではなく、生活者として認識する、発想の変換をしなければなりません。
 第二の発想の転換は、シニア消費者の来店を対面販売の機会として捉えるのではなく、対面コミュニケーションの機会を得たと考えることです。大規模店と比較して、小規模店の一番の優位性である対面販売の機会を活用することによって、シニア消費者とコミュニケーションし、生活上の課題や期待を情報として把握し、誠心誠意に対応することです。
 量販店やコンビニでの買物の過程にコミュニケーションはありませんし、百貨店は対面販売ですが、コミュニケーションは販売に関することだけです。IT時代に入り、大規模店はIT技術を活用していますが、消費者の購買暦を把握しているに過ぎません。小規模店はIT情報に勝る情報を得る機会に恵まれているのです。
真の意味で、消費者とコミュニケーションの機会を持っているのは、地域の小規模店だけです、この有利な立場を生かして、シニア消費者の生活課題の解決や期待する生活空間作りに協力・努力することによって、シニア層の「信頼」を得て、自店を愛顧してもらうことによって、小規模店は存続できるといっても過言ではありません。

気概こそチャンスを生み出す源泉である  
――阪神タイガースに学ぶ――

 長年の低迷から脱して、7月末の段階で、阪神タイガースに優勝マジックが灯り、関西経済にも大きな効果をもたらしています。タイガースファンに躍進の要因を尋ねれば、多くの要因を挙げられるでしょうが、筆者は、闘将と呼ばれる監督の気概が、選手の負け犬根性を払拭し、自信を持たせたことが、勝利の第一の要因であると考えます。
 小規模小売店は長期にわたり低迷し、取り巻く環境には厳しいものがありますが、店主は監督であり、リーダーです。店主自らが小売業界の「闘将」であるという気概をもつことが、小規模店再生の原点ではないでしょうか。消費市場の構造変化を契機として、シニア市場のなかにターゲットを定め、対面コミュニケーションを武器として、地域の消費生活に貢献することこそ、毛細血管としての小規模小売店の使命であり、存続への道です。

2003年7月末作成。



(小論とは関係なく)
阪神は優勝して、今夜から日本シリーズ。いい試合が展開されることを期待しています。闘将は勇退とか。闘将同い年、コーチの田淵さんには私的に会ったことがありますが、楽しい人です。そのうち、闘将にも会える機会があると嬉しいと思っています。




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