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『成長』 9
ヒューン
ヒューン
パァン
パァン
初めに打ち上げた信号弾の後を追う様に色んな場所から同じ信号弾が放たれた。
信号弾の音が止んだと同時にドドド・・・という地鳴りと共に部隊が動き出すのが見えた。
その動きを見て迎え撃つ為に部族の猛者達も武器を手に取り出した。
ものの数分のうちに和平交渉の為、静かだった地が怒号と悲鳴がこだまし恐怖と狂気がその場を支配する戦場へと変貌を遂げた。
「なんだよ・・・・これ・・・・」
自分の放った信号弾を引き金に目の前の光景が始まった事を思うと自然と信号弾を持つ手が震えてきた。
「はっ!」
ふと我に返りテントの中が気になった。
「大丈夫ですか?!」
慌ててテントの中へと入り込む。
―!!
しかし次の瞬間目に入った光景におもわず言葉を失った。
そこに立っていたのは交渉に赴いた3人だけで近くで小さくうずまりながら小刻みに震えている1人の少女がいるのが確認出来た。
しかし何よりも目をひいたのは赤い液体と共に床に伏せている複数の男達だった。
よく見ると体のあちこちに切り傷などが見られその顔にもはや生気は宿っておらずただの肉の塊となっていた。
「ちぃ、お前誰が入っていいと言ったぁ!?」
小隊長と物凄い剣幕で怒鳴った。
その手に持たれた剣にはべったりと血が付着していた。
「な・・・中から悲鳴が聞こえてきたのでつい・・・しかし、これは?」
「ちぃ、お前に説明する義務も必要もない。」
「・・・・いや、そうだな・・・やはり説明してやろう。」
小隊長が何か思いついたのか不敵な笑みを浮かべた。
「なんとか和平交渉を進めていたのだが相手が急に怒り出してな、そのまま襲ってきたのだよ。そこでやむを得ずこちらも剣を取った。そういうわけだ。」
「ち・・・・違う!」
小隊長の言葉に反応したのは少女だった。
「ここの部族 悪い事してない!自分たちの神様守るために戦った。悪いのは私達の部族ね。」
「私、聞いてた。この人達変な事ばっかり言ってた。いきなり襲い掛かった。この人たち嘘ついてる。この人たち悪い人ね。」
少女は目にいっぱいの涙をため必死で叫んだ。
「ちぃ、クソガキがぁ!!」
小隊長の剣が少女めがけ振り下ろされた。
「な、何を!?」
倒れ行く少女を急いですくいあげるも少女の顔からはだんだんと生気が失せついには生気は無くなった。
「ちぃ、何を睨んでいる。」
自らの手の中で一つのか弱い命がその短い生涯を閉ざされた現実に何とも言えないおもいがこみあげる。
「ちぃ・・・予定とは違ってきたがまぁよい。そのガキの言う通りだ。人質にとられたのはここの部族を襲撃しに来た部族のやつらだ。」
「さらに言えばそこの部族の酋長から金をもらっての行動だよこれは。まぁそんな事を知ってるのはうちの上層部と私だけだがな。」
小隊長の口から出てくる言葉に全身を衝撃がはしった。
「じゃあ・・・・・この子は・・・・・・」
「酋長が交渉のために差し出したそうだが、別に何の関係もない子供だそうだ。あいつも自分の身が一番大事なくちだな。まぁ私にすればいいバイトになったわけだ。はっはっは。」
言葉の一つ一つに怒りとも絶望ともとれない感情がわいてくるのを感じていた。
―クックック・・・人間とは何とも愚かな生き物だとは思わんか?
「!?」
いつもの暗闇からの声が頭の中で響いた。
―しかし、ある意味正直者だ。なぜなら人間の性は“悪”なのだからな。クックック・・・
信じたくない、思いたくない・・・そんな言葉が頭の中をグルグルとまわる。
(違う・・・・人間はそれでも・・・・・・・・)
―クックック・・・手に抱えている子供を見ろ。何故死ななければならない?
(・・・・・この子は・・・)
手の中で息絶えた少女の顔からの無念さが心を締め付ける。
「そうだ!いい事を思いついたぞ。交渉中、襲ってきた相手を切り伏せるもその時に負った傷が致命傷となり死んでしまった。悲劇の英雄。どうだ?お前みたいなガキでも栄光を掴む事が出来るぞ?自らの死と引き換えにだがな。」
剣を持つ小隊長の手に力が入る。
―クックック・・・何をこの状況で考える?認めるのだ。そうすれば楽になれる。
(・・・・・・・・・・)
「そのままおとなしくしていろよ。なに、痛みなど一瞬だよ。」
剣を持つ手をゆっくりと振り上げられた。
「そうだ、前回の任務で殺したコボルトな。あれはたまたまそこにいただけで何の危険性もなかったぞ。ストレス発散には役立ったが。」
(・・・・・・・人間の性は・・・・悪・・・・・・)
頭の中を少女の顔や息絶えたコボルト、そして様々な思いがかけめぐった。
(・・・・もう・・いい・・・・・・もう・・・・・・・・・)
考えても出ない答え・・・・いや考えれば考えるほど苦しくなる・・・・・
彼は考える事を・・・・・・・止めた。
―クックック・・・・よく認めた。いや・・・認めたくなかったか・・・
―後は安心して任せるがいい。クックック・・・・・・
(・・・・・・・・・・・・・・・)
―それではおやすみ。そしてようこそ光の国へ・・・・・・・・・・
(・・・・。 )
考える事を止めた彼に待っていたのは・・・・・永久の闇だった。
「ちぃ、死ねぇぇ!!」
小隊長が勢いよく剣を振り下ろす。
はずだったが気付くと激しい痛みと共に床に崩れ落ちていた。
「ちぃ・・・・なぜ・・・・・だ・・・なぜ・・・私が・・・・・・・」
そして、すぐに意識は無くなった。
「ふん。さぁ、新しい世界の始まりだ。」
『真説RS:
赤石
物語』
第3章 『成長』-9
「うおっ、雪止んでないやん。」
「ですねぇ。」
小屋の窓から見た景色は昨日からの雪で一面を白銀の世界へと変えていた。
「寒いの苦手なんやけどなぁ・・・・。そうも言ってられんか、準備して今日も特訓するか。」
「はい!」
「個に囚われすぎてる。もっとまわりの事に耳を傾けろ、そして全身で感じろ!そうする事で個をさらに感じる事が出来る!」
「感情は抑えて。感情に任せてたら見える物も感じる事も出来なくなる。」
ガラテアの激が飛ぶ。
それに応えようとミコトも必死になって頑張っていた。
そんな中
「ん・・・・・」
「どうしたんですか?ガラさん」
「いや・・・何か嫌な感じがしたんやけど・・」
「え?実は僕も・・・・。」
2人が同時に悪寒がしたのを感じた。
2人があたりを見回すも特別変わった様子もない。
「何かわからんけど、あまり好ましくない事が起きたのか・・・どっちにしても今は何とも動けないな。」
「そうですね・・。」
「とりあえず今は特訓に集中しようか。」
「はい。」
何とも言えない胸騒ぎを覚えつつも特訓を再開した2人だったが
20分程が経過したあたりで
「ん?ストから耳きたな。ミコト“チャット”の周波数をギルドチャットに変更してくれ。」
あわててミコトもギルドチャットに周波数を変えた。
“あーあー・・・・ガラとミコト聞こえているか?たった今ギルド連合から連絡があった。落ち着いて聞いてくれ。”
チャットのイヤホンからはStojikovicの声がした。
そしてその声は2人に思いもよらない言葉をなげかけた。
“直轄ギルド『Saint Crusaders』がガディウス大砂漠にて任務遂行中に全滅。”
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