交通事故


 朝はまだ狸とわかる形をとどめている。明るいうちは、皆、轢かないように避けて通り過ぎていく。暗くなるとそうばかりも行かないので、翌朝には殆ど原型を留めていない。
 死骸を見て「あぁ、かわいそうに・・・」と思いながら、私も通り過ぎていく。次の朝、「かわいそうに」と思いながら、また通り過ぎていく。仕舞いにはボロ雑巾のようになった狸の死骸は、ついにはどこへ行ったのかも判らなくなって、終わりになる。

 その死骸を轢いていった人も、その死骸を見て「かわいそうに。」と思いながら避けて通り過ぎた私も、つまりは同じ事で、人間の命も、狸の命も、一つの命に変わりは無いはずなのに、私にはどこか思い上がったところがあるのかもしれない。

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