幻竜の羅刹

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花と語りし少女7



「恐いって言うより…驚いたな。あんな幽香見たときなかったから」

「そう…。花を切ったりいじめたりするときに花は何って言うか知ってる?」

「え…なんだろ?」と首をかしげる透

「『痛い!助けてくれ!!』『俺はこいつに殺された。敵を討ってくれ』『ふざけるなよ人間!』ってな感じかしら」

「…恐いんだね…。まぁいきなり切られたりいじめられたりしたらそうなるよね」

「そんな声が花畑中で響いてたのよ…」

「…想像したらすごく恐いね」

幽香は向日葵の種を切られた花の場所へ持っていくと、ぶつぶつと呟いた

すると綺麗に花は咲き誇り、何もなかったかのように咲いた

「もう…こんなことがないといいね」と透は向日葵を優しく撫でた

「ふふ、向日葵がありがとうって言ってるわよ」

「花っていうのは楽しいものだね」と透は笑った

「そうよ。喜怒哀楽を持っているんだからね」 「そっか…。僕達と全然変わらないんだね」

「ええ、そうよ。どんな生き物でも喜怒哀楽はあるのよ」と笑うと

「じゃあ、帰ろっか」と笑顔で手を差し出す幽香

「うん、帰ろう」 二人は手を繋ぎ、元いた村へと戻っていった

「なんか…女の人と手を繋いだことないから照れるなぁ」と顔を少し紅く染めて恥ずかしがる透を見て幽香は笑った

「私もはじめてよ?そんなに恥ずかしいことなのかしら」と笑顔の幽香

「幽香みたいに強くなりたいな…」と透はぼそっと呟いた

「あはは、透じゃ一生無理なんじゃない?」

「な、僕だっていつかは強い男になるんだからな」と拗ねた

「あはは、かわい~」 「か、かわいくなんかないもん!」

そうして二人は賑やかに帰っていった…


透は家に帰ると誰もいなかった

「あ、そういえば二人とも遠い親戚のところに行ったんだっけ?」

透も誘われたが幽香と隣町へ行くため断ったのだった

とりあえず適当に夕飯を取ると、暇になった透は

「夜に花を見るっていうのも悪くないかもなぁ…」と言うと月明かりが照らす外へと飛び出していった

夜は静まり返っており、誰も外を歩くものはいなかった

夜に一人で外に出るなんて祭りの日以来久しぶりだった

花畑へと歩いていく透 幽香は夜は何をしてるんだろうという興味もあった

だんだん花畑が近づいてくる

すると遠くから聞き覚えのある声が奏でる歌が聞こえてくる

「…~♪…♪」 いまいちよく聞こえないので近づいて見てみる

すると幽香は地べたに座り、目の前には小さなすずらんの花が咲いている

「あぁ、蕾が花開く~歌に誘われ花開く~…」

その歌に本当に誘われているかのように周りに生えたすずらんの蕾が開いていった

歌声は柔らかく、そして優しく耳に響いた

幽香の表情は子供を育てる顔のように、柔らかな笑顔でどこか楽しそうに見えた

(こんなことを幽香はやっているんだぁ…)と透は思った

「綺麗な歌だね。誰に教えてもらったの?」と木陰から姿を出し、質問する

「あら?まだ日は昇ってないわよ?一体どうしたわけ?」

「親が今日はいないんだ。ところであの歌はどこで教えてもらったの?」

「この歌は私が幼い頃、花が好きな私に母がよく歌ってくれていた歌なの」

「へぇ、素敵な歌だね」

「そうでしょ?でもこれ以外の歌は何も知らないの。だけどこの歌を歌うと花達が喜ぶのよ」と微笑んだ

「歌の名前は?」と興味津々な透がたずねる

「この歌の名前はね、『花を愛する者』よ」

「花を愛する者か…まさに幽香にぴったりだね」と笑った

「そうね…。私の両親が初めて教えてくれた歌。そして、最後に教えてくれた歌にもなるのね」と悲しそうに呟いた

「両親は幽香を置いて行ってしまった。でも僕はずっと幽香の傍にいるよ」と幽香の瞳を見つめ、言った

「ふふ、ありがと。それにしても、今日も月が綺麗よ?」といわれたので透は空を見上げた

「うわぁ…綺麗だね」

空には二人を照らすかのように月が輝いていた…

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